勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年08月

    ポールオブビューティー
       

    韓国人は、何かに付けて自らの根拠なき優位性を誇るが、またその適例が見つかった。日本を極右政治と罵っているのだ。これが、堂々と韓国メディアに登場する。同じ認識であろう。

     

    『中央日報』(8月9日付)は、「韓国言論人『日本の極右政治が20年先を行く日本を20年遅滞させた』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の言論人、キム・オジュン氏が「2020東京五輪」と関連し、「日本の極右政治が20年先を行っていた日本を20年遅滞させた」と評価した。

     

    (1)「キム氏は9日、韓国交通放送(TBS)のラジオ番組で、東京五輪に対し「歯車のように回っていた日本式の緻密さと日本式洗練美、現代的感受性は跡形もなかった。私が記憶している1980~1990年代の日本は、経済だけでなく、社会や文化で20年は先を行く国だった。今回の五輪を通じて見た日本はもはやそんな国ではなかった」と話した」

     


    キム・オジュン氏と言っても、日本では知られていない。韓国では「問題人物」のようである。「
    進歩左派を自任し、嘘と低質発言に明け暮れては、進歩陣営の品格をも傷つける」(『東亞日報』2012年2月13日付)と批判された過去をもつ。

     

    今回の東京五輪開会式を批判しているが、誰にも批判の自由はある。日本の有名芸能人までが、「開会式で眠ってしまった。恥ずかしくて海外へ行けない」とまで言っている。一方、あの開会式は良かったという評価もある。何よりも大事なことは、アスリートが全力を発揮できたか。パンデミック下の安全はどうであったか。そういう総合的な評価が欲しいと思う。

     


    (2)「続けて東京五輪開会式について、「2000年代初めならそれなりに通じたであろう感受性や洗練美。1990年代にあのような形の感受性を洗練されたと考えたことがある。その時のままだ。20年ほど前の日本でやっていたものだが、まだやっているというのが感じられる」と評価した。最後に「日本で極右が前面に出た1990年代後半~2000年代初期から日本の社会的、経済的、政治的遅滞が進んだとみる」と話した」

     

    下線部分は、あまりにも皮相的な見方である。世界で最高の人口高齢化が進む日本の成熟度を見るべきだった。極右政治とは何か。言論の自由が保障されている中で、日本の選挙民が民主的方法で選んだ政権である。この現実を見落として、極右と表現するのは自らの無知を告白しているようなものである。

     

    日本から見た韓国政治は、掛け値なしに極左に見える。その証拠をお見せしよう。韓国与党が、強引に言論統制をする法案を国会に提出しているのだ。民主主義の原点は、言論の自由を守ること。進歩派を名乗る韓国与党は、来年の大統領選を有利に運ぶために、不利な情報を遮断しようとしている。こういう政治は、中国のような「極左政治」でしか見られないのだ。

     

    『朝鮮日報』(8月26日付)は、「国境なき記者団『メディアに圧力かける道具になるだろう』、朝日『民主化継承したという文政権、普遍的価値傷つける』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国与党・共に民主党の言論仲裁法改正案強行に対して、国際言論団体や海外メディアも懸念を表明した。

     

    (3)「フランスのパリに本部を置く国際言論団体・国境なき記者団(RSF)は25日未明(韓国時間)、国会法制司法委員会の改正案強行処理に先立って発表した声明で、「韓国国会の過半数を占めている共に民主党が報道機関の虚偽・操作報道に対する処罰を強化する言論仲裁法の改正案を表決に付する予定だが、(この法案では)虚偽・操作報道の定義がはっきりしていない」と述べ、「改正案には犯罪行為に対する詳細な定義が含まれておらず、虚偽・操作かどうかや故意・悪意を判断するシステムに関する言及がない」と指摘した」

     

    この法案自体が言論弾圧目的である。下線を引いたように具体的な基準が示されていない点で、いかようにも悪用される危険性を秘めている。韓国与党が、弾圧しようと思えば、全て弾圧できる悪法である。

     


    (4)「国境なき記者団のセドリック・アルビアニ東アジア事務局長は、「改正案は(虚偽かどうかなどが)恣意(しい)的に解釈される余地があり、報道機関に圧力をかける道具として使われる可能性がある」「敏感な事案に対する裁判所の決定は主観的になるかもしれないため、立法者たちは十分な制度的装置を保障せずに決して新しい法律を作ってはならない」と強調した」

     

    下線部の指摘は、その通りである。法律が、拡大解釈される余地を残すことは自殺行為である。立法府の責任は極めて重い。それを忘れて、党利党略の言論弾圧法をつくる。この刃が、韓国進歩派に向けられる危険性を考えていないのだ。

     


    (5)「朝日新聞は、文在寅政権と共に民主党に対しても、「軍事独裁にあらがった民主化運動の流れを継承していると自負する。だがその実、巨大与党の数の力を背景に、普遍的な価値を傷つけるような手前勝手な政治手法が目立つようになってきた」と批判した。その上で、「韓国の民主化は、先人が勝ち取った大切な遺産である」「その原則を後退させてはならない」と強調した。朝日新聞の今回の社説は、1970年代から韓国の民主化運動を支持してきた日本のリベラル(進歩系)勢力も文在寅政権の言動に失望していることを示しているものと評されている」

     

    下線部のように、与党が国会で絶対多数を握って以来、やりたい放題の法律を作っている。検察改革と称して政権の犯罪捜査を妨害するガードをつくったほど。文大統領が引退後、検察の捜査を受けないように予防線を張ったものと理解されている。何人も、法の前で平等である。この近代法の精神を踏みにじる悪法をつくっている。それが進歩派与党だ。

     

    こういう韓国の実態をみて、日本政治を極右と罵れるはずがない。韓国こそ、言論弾圧という形で、極右か極左かに走っている危険な状態だ。深刻な反省が求められるのである。

     

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    習近平思想が必須科目へ

    恐怖感で国民を支配する

    追放の身ジャック・マー

    「ヒトラー」の轍踏むな

     

    中国は現在、パンデミック後に露呈した中国社会の脆弱性に慌てふためいている。最大の要因は、出生率の低下である。国力の源泉は人口動態にあるのだ。

     

    長い間、この現実に見向きもせず、GDP押上げだけに気を配ってきた。今ようやく、厖大な債務が家計・企業・地方政府を圧迫している現実に気付かざるを得なくなった。同時にそれが、出生率を引下げる悪循環過程をもたらしたことも認識したはずである。

     


    中国が直面する問題は、出生率の低下と過剰債務の圧迫が、中国経済の成長循環過程を狂わせてしまった現実にある。ここまで、内部矛楯を溜め込んでしまった以上、短期的に解決する方法はない。

     

    かつての日本は、1990年のバブル崩壊後に苦難の道を辿った。そこからの回復にどれだけの時間と停滞を余儀なくされたことか。振り返っただけでもゾッとさせられる。これと同じ過程が、今後の中国に始まると見て間違いないであろう。中国だけは別、という簡便法は存在しないのだ。

     

    日本は、この間に政権が「日替わりメニュー」のごとく変わった。海外に対して恥ずかしいほど、政治が安定しなかった。中国では、習近平氏の独裁体制強化で乗り切ろうとしている。当時の日本と現在の中国において、抱える難問に質的な変わりはない。

     


    習近平思想が必須科目へ

    習近平氏は、「習近平思想」なるものを、小学校から大学までの教育課程に取り入れる方針である。

     

    中国教育省が8月25日、国内の若者の間に「マルクス主義の信念」を確立するため、「習近平思想」を国家の教育課程に取り入れる方針を発表した。それによると、習近平国家主席の「新時代の中国の特色ある社会主義思想」について、教えていくという。同省は「共産党に耳を傾け、従うという決意」を強固にすることが目的で、新たな教材は「愛国心を培う」ものでなければならないとしている。

     

    習近平思想は、次のような内容である。

    1)2035年までに「経済力や科学技術力」を大幅に向上させる。

     

    2)建国100年となる2049年に「社会主義現代化強国」を作り上げる。

     

    3)21世紀半ばまでに「世界一流の軍隊を建設」し、人民解放軍の実力を米軍と並ぶ水準まで引き上げる。

     


    上記3点は、経済計画の拡大版イメージである。「思想」と呼べる内容はゼロだ。習氏が、これを敢えて「思想」と呼ぶ根拠は、「中華帝国」再興という民族思想が背後に存在している。清国は、英国が19世紀前半(1830年代)に産業革命を完成させるまで、世界の富を独占していた。習氏にとっては、その当時の中国の国力を取り戻したいというのが念願である。

     

    失礼ながら、習近平思想は国家あって国民なしの「空念仏」である。国民の存在は、眼中にないのだ。現代の富は、「技術開発力」である。基礎技術開発力で完全に劣る中国の取るべき道は、他国を脅かさず「象」のような存在になって、他国から安心して技術移転を受けられる国家を目指すべきであろう。それが、中国国民14億が安心して生活できる基盤のはずである。

     

    習氏と中国共産党はそれに満足できず、21世紀半ばには世界一の軍隊を持つという。それは、他国を脅かす目的である。すでに、南シナ海の他国所有の島嶼を占領して軍事基地化を進めている。尖閣諸島の領有権も主張して、日本の領海侵犯を行っている。さらに、台湾を軍事力で解放すると宣言している。こうなると、中国は自ら世界から孤立の道を選ぶほかない。中国が、抱える危機の原点はここだ。他国との共存でなく、他国を支配するという国是をつくった。それが、習近平思想の「正体」である。

     

    恐怖感で国民を支配する

    他国を支配する思想は、国民を支配する思想でもある。それは、恐怖感を与え畏服させることだ。「習近平思想」が、小学校から大学までの教育課程に取り入れられる目的は、習近平氏への一切の批判を封じることである。習氏の「終身皇帝」を意味するものだ。習氏を「神格化」させて、絶対的な存在にすることで、国内矛楯を強権によって解決する意思を示している。

     


    冒頭で指摘したように、中国経済の成長循環過程が狂ってしまった以上、解決には日本のように超長期を要する。それは、中国共産党の存在意義を疑わせる事態(社会不安増大)を生むであろう。中国で共産党の正統性を保障したのは、高い経済成長率だけである。今後はそれが見込めぬ以上、不平不満が噴出する。それを収めるには、国民へ恐怖感を強めることでしかない。

     

    習氏は、どこに向けて恐怖感を与えるのか。非共産党員である民営企業とその経営者である。具体的には、そこから利益を収奪することである。現在、テック企業が一斉に取締り対象になっている。高利潤を上げているのは、独占禁止法に違反しており民衆から利益を奪っているという論理である。そこで、多額の罰金を科しているほかに、地方政府に寄付金を強要している。(つづく)

     

    次の記事もご参考に。

    2021-08-23

    メルマガ286号 中国は深刻な「経済危機」、20年代にGDP2%へ低下「もがく習近平」

    2021-08-16

    メルマガ284号 習近平を追込む「日米欧連合体」、中国軍は実戦経験ない「史上初の軍

     

     

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    中国は豪州へ経済制裁を科しているが、当の豪州は意気軒昂である。中国が経済制裁しても、豪州産鉄鉱石は品質で抜群。豪州産を輸入しなければならない羽目に陥っている。

     

    2020年の豪州から中国へのモノの輸出額は、1478億豪ドル(約11兆7000億円)で19年から1%減っただけで済んだ。ただ、豪全体の輸出額も減少したことから、中国が占める比率は20年40.%と19年(38.%)から上昇している。形の上では、中国依存度が4割である。それでも。「脱中国」と意気軒昂である。韓国に、学ばせたいほどである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月25日付)は、「豪、中国への圧力強化 強気支える鉄鉱石供給」と題する記事を掲載した。

     

    オーストラリアが人権問題などを巡り中国への圧力を強めている。豪政府は今月、人権侵害に関与した外国高官らに制裁を科せるよう法改正すると発表した。日米印の共同訓練には昨年に続き今年も参加する。豪州産の鉄鉱石に中国は依存しており、圧力を加えても中国は強力な経済制裁に踏み切れないとの読みがある。

     

    (1)「豪州のペイン外相は8月5日、「2011年自主制裁法」を改正する方針を発表した。人権侵害やサイバー攻撃など特定の行為に関与した個人や団体に資産凍結や入国禁止などの制裁を行えるようにする。中国・新疆ウイグル自治区の人権問題が念頭にある。英米や欧州連合(EU)は人権侵害を理由として外国当局者に制裁を科す法律を整備している。米国の法整備の契機となった、獄死したロシア人弁護士の名前をとって「マグニツキー法」と呼ばれる。豪州が今回の法改正で目指すのもマグニツキー法と同様の枠組みだ」

     

    豪州は、人権侵害国への制裁を強める。対象国は、言わずと知れた中国。新疆ウイグル族への人権弾圧批判である。

     


    (2)「豪国防省は8月23日、豪海軍が昨年に続き日米印による共同訓練「マラバール」に参加すると発表した。豪州は07年にマラバールに参加したが、中国が不快感を表明したため、その後20年までは参加を見合わせていた。2年連続での参加は、日米豪印4カ国が中国を念頭に安全保障などで連携する「Quad(クアッド)」重視の動きにほかならない。

     

    豪海軍が、昨年に続き日米印による共同訓練「マラバール」に参加する。クアッド(日米豪印)の合同訓練である。過去、中国が不快な姿勢を見せたので、「マラバール」参加を取り止めたが、今や堂々と参加する。

     

    (3)「モリソン首相が、中国に強い姿勢をみせるのは、中国が輸入鉄鉱石の6割超を豪州に依存していることも背景にある。中国税関総署によると、豪州が新型コロナウイルスを巡る独立調査を要求し両国関係が悪化した20年の輸入量も前年を7%上回った。中国政府は21年春から気候変動問題への対応で鉄鋼生産の抑制にカジを切った。67月の輸入鉄鉱石も数量ベースで前年同月比12割減ったが、豪産の割合は全体の6割超の水準を保っている」

     

    豪州に次ぐ輸出国のブラジルは、19年に起きた鉱山事故などにより生産が完全には回復していないという。中国にとって、良質な豪産鉄鉱石の代替ルートを見つけるのは難しいのだ。中国が、豪産大麦やワインにかけた高関税のように、鉄鉱石も輸入制限の対象に加えた場合逆に、供給制約という形で中国が受ける打撃も大きくなる。こういう計算が働いて、豪州は、中国の制裁をものともしていない。

     

    (4)「とはいえ、豪州が圧力を強め続ければ、中国が自らへの経済的な被害を度外視した経済制裁に踏み切る可能性も否定できない。モリソン政権は対中政策で米国と歩調を合わせつつ、中国への一定の配慮もみせている。3月にはEU、米国、英国、カナダがそれぞれ中国の少数民族ウイグル族への扱いが人権侵害にあたるとして中国政府当局者らに制裁を科すと発表した。ただ、モリソン政権は「各国の深い懸念を共有する」との声明を出すにとどめている」

     

    豪州も、さらに中国を刺激することを控えている。まあ、「匍匐(ほふく)前進」というところだろう。中国が2017年、豪州へスパイを送り込み内政干渉をしていたことが判明、以来、豪州が対中で強硬姿勢に転じている。日本との関係を強化しており準同盟国的になっている。 

     

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    米国バイデン大統領は、新型コロナウイルスの感染源をめぐり、情報当局へ特別調査を命じた。その調査期限が来ていることから、中国外交部は執拗なまでに「米国起源説」を取り上げている。

     

    中国外務省の高官は8月25日、米国がウイルスの起源調査を政治問題化していると非難した。中国外務省の軍関連当局の責任者、傅聡氏は会見で「米国は中国に責任を負わせてもごまかしはきかない」と述べた。

     

    新型コロナウイルスは、武漢の研究所から流出したという説が強い。中国はこれを否定し、逆に、米メリーランド州のフォート・デトリックの研究施設から流出した可能性を指摘している。傅氏は、「米国も自国の研究施設への調査を受け入れなければ公平ではない」と述べた。中国は24日、世界保健機関(WHO)に米国の研究施設への調査を要請した。このように、中国は中国の起源説を否定して、米国へ押し付ける作戦である。

     


    『ロイター』(8月24日付)は、「中国『開き直り』戦略か、コロナ起源や人権で猛反発」と題する記事を掲載した。

     

    常にけんか腰な中国外務省の趙立堅報道副局長は昨年5月、新型コロナウイルスの震源地となった武漢市にウイルスを持ち込んだのは米軍の運動選手だとの見方を示唆し、米政府を激怒させた。その際、中国政府内で趙氏を支持する発言をした当局者は誰もいなかった。ところが14カ月たった今、趙氏がこの考えを再び持ち出すと、上司である外務省報道局長の華春瑩氏や共産党機関紙などが早速援護射撃を繰り出した。米政府に対し、この運動選手の「データ公表」や、メリーランド州フォート・デトリックにある米軍関連研究施設を調査のために公開するよう求めた。

     

    (1)「新型コロナの起源について科学者の間で主流となっているのは、中国国内で発生した公算が大きく、恐らく野生動物の取引を介して広がったという見方だ。最近では武漢ウイルス研究所から流出したとの説も勢いを増している。こうした中で、あえて中国が確たる証拠がない「米国起源説」を蒸し返したのは、コロナウイルスから人権まで中国に向けられるさまざまな批判の矛先をそらし、逆に西側諸国を人権問題などで猛攻撃する取り組みを急速に活発化させているという背景がある、と専門家や外交官は指摘する。中国国内で人気を得ているこの戦略は、もはや政府が西側諸国との関係改善をあきらめたと開き直っている可能性の表れではないかという」

     

    中国は、西側諸国との関係改善を諦めているはずだ。WHO(世界保健機関)の再調査要請を撥ね付けており、中国起源説は深まるばかりである。後は、国内を取り繕えば良いのであろう。

     

    (2)「中国は、米議会の共和党議員だけでなく米情報機関の間でも支持されている新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から流出したとの説を、一笑に付している。その代わりに展開しているのが、2019年にフォート・デトリックの米軍関連研究施設からウイルスが流出したという主張だ。また新疆ウイグル自治区におけるジェノサイド(民族大量虐殺)が行われているとの批判に対しては、米国で広がった人種差別に抗議する「黒人の命も大切だ」運動を引き合いに反撃している。ロイターの分析によると、中国の外交官が公式の場で人権とフォート・デトリックの施設に言及する回数が増加しており、西側諸国に批判する資格などなく、自分たちが抱えている問題こそ調査すべきだというメッセージを拡散させている様子がうかがえる」

     

    中国の外交官は、公式の場で人権批判を押し返し、新型コロナウイルスの感染源を米国に押し付ける戦術を展開している。これは、習近平氏の指示にほかならない。習氏は、国内重視で製造業を強めて、米国へ対抗する政策に切り変えている。海外戦略は、付け足しになった。

     


    (3)「ジュネーブのある西側外交官は、国連人権理事会での中国の姿勢も180度変わったと話す。伝統的に「名指しで恥をかかす」やり方に反対を唱えてきたが、今年に入って積極的にそうした手法を駆使し始めたという。
    この外交官は、多分に中国国内の世論を意識し、強気姿勢をアピールしているのだろうが、これまでと別の言い回しで国際的な支持を広げようとしている気配も見て取れるとしている。一方、複数の西側外交官からは、中国の攻撃的な態度は逆効果であり、どこに向かってメッセージを送っているのかいまひとつ分からないと疑問の声が聞かれる。ジュネーブ駐在外交官の1人は「手当たり次第の攻撃だった。(逆に)非常に防衛的で、反射的だった」とロイターに語った」

     

    下線部分は、重要な意味を持っている。中国は、国際社会の理解を得られないことが分かっている。原因が、自国にあるからだ。それにも関わらず、こうした否定(コロナ)と反発(人権)を繰返しているのは、国内向けである。国内の支持を失えば、中国共産党の生き延びる力は、それだけ減殺される。こうして、国内世論を繋ぎ止めることに全力投球である。

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    中国は、アフガンに対して経済的に言えば、地下資源へ大きな魅力を感じている。だが、政治的な影響が新疆ウイグル自治区に及ぶことを極度に警戒するという複雑な関係にある。新疆ウイグル自治区では、100万人もの人々を強制収容所に入れて、「思想改造中」とされている。タリバンが、中国によるウイグル族から信仰を奪う大胆な振る舞いを、最終的に認めることはないだろうとも予想される。

     

    こうしたアフガンには、インドやパキスタンも大きな利害関係を持っている。インドは、パキスタンや中国と対立しているだけに、アフガンをめぐる関係国の構図は複雑である。中国の勝手に描く「アフガン未来図」では、事態が進まないだろうと見られるのだ。

     


    『ロイター』(8月25日付)は、「アフガン巡る三つ巴戦略ゲーム、中国とパキスタンとインド」と題する記事を掲載した。事態は複雑であるので、コメントはつけない。

     

    アフガニスタンはアジア内陸部に位置する地政学上の要衝で、19世紀には英国とロシアが勢力争いを繰り広げ、20世紀は米ソ角逐の舞台になった。そしてイスラム主義組織タリバンが政権を掌握した今、新たな大国際戦略ゲームの主導権を握ったのはパキスタンだ。そのパキスタンと友好関係にある中国も、この地域で足場を固める機会を虎視眈々(たんたん)と狙っている。

     

    アフガニスタンはアジア内陸部に位置する地政学上の要衝で、19世紀には英国とロシアが勢力争いを繰り広げ、20世紀は米ソ角逐の舞台になった。そしてイスラム主義組織タリバンが政権を掌握した今、新たな大国際戦略ゲームの主導権を握ったのはパキスタンだ。そのパキスタンと友好関係にある中国も、この地域で足場を固める機会を虎視眈々(たんたん)と狙っている。

     

    パキスタンとタリバンの結びつきは深い。パキスタン政府は、米国が支援するアフガニスタンの民主政権に抵抗するタリバンを支援している、と批判を浴び続けたが、これを表向き否定してきた。しかし先週、タリバンが首都カブールを制圧するとパキスタンのイムラン・カーン首相は、アフガンの人々が「奴隷の鎖」を断ち切ったと称賛。タリバンが政体を決めるための協議を続ける中で、複数のメディアがこの話し合いに何人かのパキスタン当局者が関与していると報じた。

     

    このゲームにはもう1つ、インドというプレーヤーが存在する。パキスタンと歴史的な敵対関係があり、中国とも1年余りにわたる国境紛争を抱えるインドは、崩壊したアフガンの民主政権の重要な支え手だっただけに、タリバンが支配するアフガンでパキスタンと中国が影響力を強める事態に不安を高めつつある。

     

    もっとも中国側の言い分では、タリバンに近づく主な狙いは、反中国を掲げてアフガン内に避難場所を求める恐れがある東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)から、新疆ウイグル自治区を守ることだ。四川大学で南アジア問題を研究するチャン・リ教授は「パキスタンはインドに対抗する手段としてアフガンの利用を考えているかもしれない。だが中国にとってそれは必ずしも当てはまらない。中国の主要な関心は、タリバンが包括的で穏健な政治体制を構築してテロが新疆と地域全体に広がらないことだ」と述べた。

     


    インドのセンター・フォー・ポリシー・リサーチのブラフマ・チェラニー教授(戦略論)は、中国はタリバンがアフガンを統治する上で必要とする2つの要素、つまり外交的な承認と、のどから手が出るほどほしいインフラ整備・経済支援を「えさ」としてぶら下げていると指摘。「機を見るに敏な中国がこの新たな突破口を手掛かりに、豊富な鉱物資源を有するアフガンに戦略的な浸透を図り、パキスタン、イラン、中央アジア諸国にも深く食い込もうとするのは間違いない」と話した。

     

    ニューヨークのイサカカレッジで教鞭を執る政治評論家のラザ・アフマド・ルミ氏は、アフガンの政変に失望するインドの姿に、パキスタン国内では快哉の声が満ちあふれていると話す。インドとパキスタンは1947年の分離独立以来、3回の戦争を経験。「ソーシャルメディアやテレビ画面で大喜びするパキスタン人の様子が伝えられているのは、(アフガンに対する)インドの影響力喪失とつながっている面が大きい。なぜなら従来の政治サークルは(アフガン元大統領の)ガニ氏とインドの緊密な関係を脅威とみなしていたからだ」とルミ氏は説明する。

     


    インドの元アフガン駐在大使ジャヤント・プラサド氏は「わが国の現在の立場は、現実に適応するというものだ。われわれはアフガンで長期間のゲームに参加しなければならない。(アフガンと)直接国境は接していないが、この地に利害関係がある」と強調した。複数のインドの外交筋によると、過去1年間でタリバンがアフガンの有力な政治勢力として復活し、ドーハで米国を仲介者とする協議が始まるとともに、インドの外交当局もタリバンとの接触に乗り出したという。

     

    外交筋の1人は「われわれはすべての関係先と協議している」と述べたが、協議の詳細には触れなかった。インド国内では、米国さえタリバンと交渉を始めた段階でなおもインドがガニ政権に全面的に肩入れし、足を洗うのが遅れたとの批判が出ている。

     

    それでも、中国への過度の依存を避けようとしているタリバンにとって、インドは経済的な関係を築く魅力的なプレーヤーになり得る、とこの関係筋は分析する。インドはアフガン34州の全てに開発プロジェクトを保有しており、そこには同国がカブールに建設した国会議事堂も入っている。

     


    元ロイター記者のミラ・マクドナルド氏は、タリバンの政権掌握はインドにとって一歩後退だが、決して「ゲームオーバー」ではないと強調。「これは過去の再現にはならない。2001年9月11日の米同時多発攻撃の以前に比べれば、誰もがアフガンにおけるイスラム過激派を野放しにすることにずっと慎重になるだろう。さらに、相対的に考えれば今のインドはパキスタンより経済力ははるかに強い」と、インドが持つ優位性を描写する。タリバン幹部の1人はロイターに、貧困化しているアフガンに必要なのは米国、ロシアと並び、イランを含むこの地域の諸国からの支援だと語った。

     

    以上の記事にコメントをつけない。結論は、中国一国でアフガンを動かす力がないということである。このことを強調したい。

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