自民党新総裁に岸田氏が決まった。文政権は、2015年12月に締結した日韓慰安婦合意を骨抜きにした。日本側で、この合意をまとめた当事者が岸田外相(当時)であった。その岸田氏が、首相になるのだ。韓国側が、複雑な心境になるのは当然であろう。「日韓関係の早期改善を」と簡単に言い出せないに違いない。苦しいところだ。
『中央日報』(9月30日付)は、「慰安婦合意を覆した韓国にしこり、『岸田氏 来年7月に本性表わす』」と題する記事を掲載した。
(1)「岸田首相時代の最大の関心事は韓日関係だ。最近、岸田氏と単独面談を行ったある要人は「韓日関係は大きく▼来年7月の参議院選挙までの「安全運転」第1段階▼それ以降の「岸田が本性を表わす」第2段階に分けて進められる」と予想した。長期政権になるかどうかが決まる来年7月の参議院選挙まではAA(安倍-麻生)の意向を尊重してコロナ克服を最優先する慎重な政権運用をせざるを得ない」
韓国側の観測によれば、来年7月の参院選までは日韓関係で動き出すことはない。岸田政権が、それ以降に長期安定政権の目途を立てられれば、日韓関係の改善を視野に入れるというのだ。
(2)「『自民党だけではなく日本国民も韓日関係を早期に改善するべき必要性を感じていない』〔陳昌洙(チン・チャンス)/世宗(セジョン)研究所研究委員)〕は、現実的な要因もある。ソウル大学の朴チョル熙(パク・チョルヒ)教授は「『管理』はするものの、『外交リスク』になるようなものを岸田が率先して冒険することはない」と予想する。ただし、韓国に新政府が誕生し、岸田氏も参議院選挙を成功裏に終えればAAの影響から抜け出して本来のDNAである「ハト外交」に転じる余地が生じる可能性もないことはない」
韓国に反日でない政権が生まれるという前提に立てば、日韓で本格的な問題解決に向かう動きもありうる。岸田氏の率いる宏池会は、昔は「ハト派」であった。現在の国際情勢下で、「ハト」は中朝の「タカ」に食い殺される危険性が高まっている。こういう状況変化を考えると、韓国は甘い期待を持つべきでない。
(3)「岸田氏の他の側近も29日、中央日報紙に対して「韓国との関係は速度を調節する」と話した。ただし、その理由を選挙や日本国内の世論でなく文在寅(ムン・ジェイン)政府の慰安婦合意破棄に対する「悪縁」のためだと指摘した。俗に韓国では岸田氏が慰安婦合意当時の外相なので韓日関係に関心と愛情があると解釈されているが、実際は違うという説明だ。当時の状況を簡単に振り返るとこうだ」
韓国は、岸田氏を「ハト派」と決め込んでいると間違える。日本では、もはや「ハト派」にならなければならない客観的な理由がないからだ。日本では、安全保障を脅かされる条件が多発している。
(4)「合意4日前の12月24日、当時安倍首相は岸田外相に「日本政府は責任を痛感」という表現が入った合意文に難色を示した。岸田氏は「ここで決着を付けて先に進むべきだ。未来を考えたとき、いま合意しなければ日韓関係は漂流する」と対抗した。結局、安倍氏は「ゴーサイン」を出した。それでも不安だった安倍氏は合意前日夜にも岸田氏に電話をかけて「本当にこのままいってもいいのか」と聞いて確約を受けた」
岸田氏は、外相(当時)として日韓慰安婦合意を推進した。結果的に、安倍首相(当時)の危惧が的中することになった。外相としての面目は丸つぶれである。このトラウマが、岸田氏を韓国に対して強硬な立場に変える可能性を持っている。
(5)「文在寅(ムン・ジェイン)政府発足後、この合意が事実上破棄されると岸田氏は日本世論から集中砲火を受けた。岸田氏は最近も私的な席で「はしごを外された」という言葉を時々口にする。まだ心にしこりが残っている。岸田氏は強制徴用者問題に対しても昨年12月、産経とのインタビューで「それは国際法と条約を守るか守らないかの問題だ。日本が譲歩する余地はない」という趣旨で言い切った。「米国が『(日韓が)仲良くしろ』と言っても(日本の)政論を譲ることはできない」とも述べている。ボールはどこまでも韓国の手元にあるということだ」
岸田氏は、韓国に煮え湯を飲まされた関係にある。ましてや、外相を4年半も経験している。韓国に対して強い姿勢で臨むことは十分にありうるであろう。
(6)「岸田氏のトラウマは逆発想が可能な部分だ。来年成立する韓国の新政府が「慰安婦合意復元」というカードを通じて徴用者問題までパッケージで解決できる余地が生じることがある。文政府も任期末に入って「慰安婦合意は有効」という立場に旋回したことから、その時期を操り上げることもできる。ただし、一つ変数は強制徴用被害者の賠償判決に伴う「現金化」という爆弾だ。これが早期に爆発することになれば韓日関係改善ははるかに向こうに遠ざかる公算が大きい」
日韓には、慰安婦問題のほかに徴用工問題もある。こちらには、日本企業の差し押さえ資産の換金化という差し迫った事態が控えている。韓国政府が、買い取って日本企業へ帰すという「ウルトラ級対策」もささやかれている。文政権が、最後に日本へ見せる誠意かもしれない。