勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年09月

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    自民党新総裁に岸田氏が決まった。文政権は、2015年12月に締結した日韓慰安婦合意を骨抜きにした。日本側で、この合意をまとめた当事者が岸田外相(当時)であった。その岸田氏が、首相になるのだ。韓国側が、複雑な心境になるのは当然であろう。「日韓関係の早期改善を」と簡単に言い出せないに違いない。苦しいところだ。

     

    『中央日報』(9月30日付)は、「慰安婦合意を覆した韓国にしこり、『岸田氏 来年7月に本性表わす』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「岸田首相時代の最大の関心事は韓日関係だ。最近、岸田氏と単独面談を行ったある要人は「韓日関係は大きく▼来年7月の参議院選挙までの「安全運転」第1段階▼それ以降の「岸田が本性を表わす」第2段階に分けて進められる」と予想した。長期政権になるかどうかが決まる来年7月の参議院選挙まではAA(安倍-麻生)の意向を尊重してコロナ克服を最優先する慎重な政権運用をせざるを得ない」

     


    韓国側の観測によれば、来年7月の参院選までは日韓関係で動き出すことはない。岸田政権が、それ以降に長期安定政権の目途を立てられれば、日韓関係の改善を視野に入れるというのだ。

     

    (2)「『自民党だけではなく日本国民も韓日関係を早期に改善するべき必要性を感じていない』〔陳昌洙(チン・チャンス)/世宗(セジョン)研究所研究委員)〕は、現実的な要因もある。ソウル大学の朴チョル熙(パク・チョルヒ)教授は「『管理』はするものの、『外交リスク』になるようなものを岸田が率先して冒険することはない」と予想する。ただし、韓国に新政府が誕生し、岸田氏も参議院選挙を成功裏に終えればAAの影響から抜け出して本来のDNAである「ハト外交」に転じる余地が生じる可能性もないことはない

     

    韓国に反日でない政権が生まれるという前提に立てば、日韓で本格的な問題解決に向かう動きもありうる。岸田氏の率いる宏池会は、昔は「ハト派」であった。現在の国際情勢下で、「ハト」は中朝の「タカ」に食い殺される危険性が高まっている。こういう状況変化を考えると、韓国は甘い期待を持つべきでない。

     

    (3)「岸田氏の他の側近も29日、中央日報紙に対して「韓国との関係は速度を調節する」と話した。ただし、その理由を選挙や日本国内の世論でなく文在寅(ムン・ジェイン)政府の慰安婦合意破棄に対する「悪縁」のためだと指摘した。俗に韓国では岸田氏が慰安婦合意当時の外相なので韓日関係に関心と愛情があると解釈されているが、実際は違うという説明だ。当時の状況を簡単に振り返るとこうだ」

     

    韓国は、岸田氏を「ハト派」と決め込んでいると間違える。日本では、もはや「ハト派」にならなければならない客観的な理由がないからだ。日本では、安全保障を脅かされる条件が多発している。

     

    (4)「合意4日前の12月24日、当時安倍首相は岸田外相に「日本政府は責任を痛感」という表現が入った合意文に難色を示した。岸田氏は「ここで決着を付けて先に進むべきだ。未来を考えたとき、いま合意しなければ日韓関係は漂流する」と対抗した。結局、安倍氏は「ゴーサイン」を出した。それでも不安だった安倍氏は合意前日夜にも岸田氏に電話をかけて「本当にこのままいってもいいのか」と聞いて確約を受けた」

     

    岸田氏は、外相(当時)として日韓慰安婦合意を推進した。結果的に、安倍首相(当時)の危惧が的中することになった。外相としての面目は丸つぶれである。このトラウマが、岸田氏を韓国に対して強硬な立場に変える可能性を持っている。

     

    (5)「文在寅(ムン・ジェイン)政府発足後、この合意が事実上破棄されると岸田氏は日本世論から集中砲火を受けた。岸田氏は最近も私的な席で「はしごを外された」という言葉を時々口にする。まだ心にしこりが残っている。岸田氏は強制徴用者問題に対しても昨年12月、産経とのインタビューで「それは国際法と条約を守るか守らないかの問題だ。日本が譲歩する余地はない」という趣旨で言い切った。「米国が『(日韓が)仲良くしろ』と言っても(日本の)政論を譲ることはできない」とも述べている。ボールはどこまでも韓国の手元にあるということだ」

     

    岸田氏は、韓国に煮え湯を飲まされた関係にある。ましてや、外相を4年半も経験している。韓国に対して強い姿勢で臨むことは十分にありうるであろう。

     

    (6)「岸田氏のトラウマは逆発想が可能な部分だ。来年成立する韓国の新政府が「慰安婦合意復元」というカードを通じて徴用者問題までパッケージで解決できる余地が生じることがある。文政府も任期末に入って「慰安婦合意は有効」という立場に旋回したことから、その時期を操り上げることもできる。ただし、一つ変数は強制徴用被害者の賠償判決に伴う「現金化」という爆弾だ。これが早期に爆発することになれば韓日関係改善ははるかに向こうに遠ざかる公算が大きい」

     

    日韓には、慰安婦問題のほかに徴用工問題もある。こちらには、日本企業の差し押さえ資産の換金化という差し迫った事態が控えている。韓国政府が、買い取って日本企業へ帰すという「ウルトラ級対策」もささやかれている。文政権が、最後に日本へ見せる誠意かもしれない。

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    製造業中心の戦時経済体制へ

    豪州への啖呵で返り血浴びる

    逆効果になるテック産業虐め

    日本以上の不動産バブル規模

     

    習近平中国国家主席は、昨年1月以来一度も外国へ出ていない。新型コロナウイルス感染防止が表向きの要因である。だが理由は、それだけと思えない。中国内外で、かつて直面したこともない難題に遭遇している結果と見られる。普通なら、とても国家主席を3期も勤めたいと言える義理でない。それを臆面もなく居座る積もりなのだ。難題とは、次のような事柄である。

     

    一つは、「戦狼外交」の行き詰まりである。中国の経済成長に伴い、中国のプレゼンスの増大を利用して、海外で他国を外交的・軍事的に圧迫するケースが増えているのだ。この結果、これまで築いてきた外交路線に大きな軋みをもたらしている。中東欧では、リトアニアが公然と「一つの中国論」を無視して、台湾と外交関係を復活させた。豪州は、中国の外交的圧迫に対して、米英豪による「AUKUS」で攻撃型原潜を導入することになった。

     

    もう一つは、中国経済の行き詰まりである。不動産バブルをテコに経済成長を続けてきたが、ついにその「効能」が切れただけでなく、「副作用」となって中国経済を圧迫し始めていることだ。中国不動産開発業界で第2位の中国恒大が、デフォルトの危機を迎えた。9月23日の外債金利支払いが実行できずにいる。1ヶ月間の支払い猶予期間はあるが、それを過ぎれば「デフォルト」になる。とりわけ、外債へのデフォルトは中国の経済的信頼度を一気に引下げる。

     

    製造業中心の戦時経済体制へ

    以上のような問題を抱える中国が、米中覇権問題という最難関まで抱えている。これは、習氏自らが、中国建国100年に当る2049年に、経済・軍事の両面で米国を凌駕すると広言したことに始まる。自ら招いた米中冷戦だ。

     

    中国は、すでに将来の米中戦争を想定した産業再編成に着手している。それは、製造業中心にした産業育成である。テック産業という付加価値の高い第三次産業を切り捨て、労働力も製造業に振り向け、「戦時経済体制」を敷くという時代錯誤ぶりである。

     

    中国が、米国と戦う意味はイデオロギー戦争である。世界を中国の共産主義思想で統一する、というとてつもない妄想を抱いている。こうなると、これまで中立的な国々までも、「自由と民主主義を守る」との原点から米同盟国として協力することに変わってきた。

     

    中国がなぜ、世界覇権を目指すのか。中国式社会主義の優秀さを世界に広めるというのだが、冒頭で掲げたように、現実は「戦狼外交」への反発やバブル経済の崩壊が、中国のプレゼンスを高めるどころか、沈下への流れを強めている。中国国内で、こういう危機の進行を冷静に受け止めない限り、米中対立の事態は悪化するだけとなろう。

     


    日本経済も、1980年代後半のバブル景気に酔って「日本がGDPで米国を抜く」と馬鹿げた記事が散見された。東京の地価で、米国全土を買えるなどとたわいもない話題で盛り上がっていたのだ。つい、2~3年前の中国で聞かれた妄言と同じである。バブルとは、人々の心理状態を狂わせるのである。

     

    こうした妄言を側面から支えたのは、国際機関による経済予測の「中国ランクアップ工作疑惑」である。最近、分かったことでは、世界銀行のトップがこういう予測でっち上げに関与した疑いが持たれている。中国が金品を渡して籠絡したものと推測される。

     

    「中国経済世界一論」など、架空のモデルを使えば、自由自在にねつ造できるのだ。国際機関まで「中国の毒」が回っていたのである。世界のメディアは、そういうランキングを何ら精査することなく、既定事実かのごとく報道して世論を惑わしてきた。中国は、「してやったり」とニンマリしていたであろう。

     

    豪州への啖呵で返り血浴びる

    中国「戦狼外交」の被害は、中国自身もその跳ね返りを受けている。前述のように、中東欧のリトアニアが、台湾と外交関係を結んだ。これだけでない。中国の防衛に死活的な影響を与えることになった一件がある。

     

    それは、駐豪中国大使館が昨年11月、地元の『ナイン・ニュース』『シドニー・モーニング・ヘラルド』『エイジ』のメディアへ「豪州は反省しろ」と14項目にわたる糾弾文を手渡したことである。外交慣例上でも見られない、極めて異例の「外交欠礼」に当る。その14項目全てを羅列するのも煩わしいので、主な項目だけにしたい。

     

    1)「反中国」的な研究への資金援助の停止。

    2)新型コロナウイルス感染症の発生源に関する世界保健機関(WHO)徹底した調査を求めるような挑発的行動の抑制。

    3)中国による豪州への戦略的投資に反対する動きの停止。

    4)民間メディアによる中国関連の「非友好的」ニュース報道の阻止。

     


    中国側は、豪メディアに前記の14項目文書を手渡す際、「中国は怒っている。中国を敵として扱うならば、中国は敵になるだろう」と警告したという。この14項目を詳しく読めば、まさに、中国が世界に君臨する意識に立っていることを証明する。驚くほどの「お山の大将」になっているのだ。

     

    これを受取った豪州側は、その対策を練った。中国に屈することなく、対抗する道を選んだのである。韓国の場合は2017年に、THAAD(超高高度ミサイル網)設置に対して、中国が執拗な反対をしたので、ついに「3不」という誓約書を出す羽目に陥った。(つづく)

    次の記事もご参考に。

    2021-09-27

    メルマガ296号 韓国いまだに中国の「属国意識」、いずれ米国に見捨てられる日が来る

    2021-09-23

    メルマガ295号 不動産バブルで転けた中国、恒大の不良債権処理が命取り「日本の歩んだ

     



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    中国の石炭在庫量が向こう2週間持ちこたえられるかどうか。その程度の量しか残っていないという分析が公表された。SOSである。

    9月29日、香港『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』(SCMP)は、シノリンク・セキュリティスの分析を引用し、21日基準で中国の主要発電所6カ所の発電用石炭備蓄量は1131万トンで、今後約15日耐えられるかどうかの量だと報じた。

     

    (1)「中国当局が定めた規定によると、発電所は現在のようなオフシーズンには20日以上使用できる石炭を備蓄しなければならないが、これを満たすことができていない。特に報告書が基準としている日から8日が過ぎた現在は、状況がさらに悪化しているものと推定される。シノリンクはまた、今月から来年2月にかけて中国で発電用石炭2億2200万~3億4400万トンが足りなくなることが予想されると伝えた」

     


    下線のように発電用石炭は、2~3億トンも足りなくなる見通しという。なぜこういう事態に陥っているのか。

     

    石炭をベースにした電力供給は、国内発電の70%超を占めている。習氏による温室効果ガス排出削減、ならびに2060年までの「カーボンニュートラル」実現に向けた取り組みで、採炭が伸び悩んでいると説明されている。だが、「カーボンニュートラル」実現という中長期的に実現すべき課題が、目先の電力用石炭不足に直結しているはずがない。それは。習氏のメンツ問題が大きく響いている。

     

    一つは、豪州への経済制裁で豪州からの発電用石炭輸入をストップしたことが、石炭需給を大きく狂わせている。独裁者の判断で、豪州を懲らしめるという感情的な問題が、こういう途方もない問題を引き起している。

     


    もう一つの要因は、来年2月の北京冬季五輪を迎えるに当って、風物詩のスモッグでなく「晴天」を迎えたいという政治的な思惑である。最高権力者が、海外から褒められたいという一念で、今から火力発電を抑制しているのだ。

     

    (2)「中国の電力難は、石炭発電所の稼動率が落ちたことによって現れた。今年1月から脱炭素強化に伴う石炭供給制限と経済再開に伴う需要増加が重なり、石炭価格が1年前に比べて30%以上上昇し、収益性が悪化した中国発電所が十分に電力を生産することができていない。その上、オーストラリアとの葛藤でオーストラリア産の石炭輸入が禁止された。これに伴い、市場では「世界の工場」と呼ばれる中国の電力難が「工場稼働中断→供給萎縮→物価上昇」という悪循環の始まりになるのではないかという懸念が高まっている」

     

    下線部分は、豪州産火力石炭輸入を全面ストップした結果である。市場では「世界の工場」が、「工場稼働中断→供給萎縮→物価上昇」という悪循環の始まりになるのではないかと懸念しているという。豪州と中国の関係は今後、一段と悪化の方向である。豪州は、米英と組んで攻撃型原潜を導入する。中国の首根っこを押さえる役回りになった。豪州をここまで怒らせたのは中国の責任である。

     


    中国はどうして発電量が落ちたのか、という疑問が湧く。これについて、『ブルームバーグ』(9月29日付)は、「中国が電力危機に直面、特有の事情と経済への影響-QuickTake」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「実際には中国政府は要求したものの、それほど迅速ではなく、簡単でもなかった。経済政策全般の立案を担う国家発展改革委員会(発改委)は採炭各社に供給確保を促したが、習主席の環境対策や死者を相次いで出した炭鉱事故を受けて、炭鉱の新規操業・再開はいずれも強化された環境基準や現場の安全規則を満たす必要がある。また、中国当局はエネルギー生産全体に占める石炭の割合を下げる目標を設定したため、一部の金融機関が同事業への資金供給をやめたことも状況をさらに複雑にしている

     

    このパラグラフでは、中国の計画経済が四方八方からの指令で、動きが取れなくなっていることを興味深く説明している。市場経済国であれば、金利と価格の二大信号によって生産や設備投資は進んでいくが、中国はバラバラになっている。この状態で、世界の覇権国になろうという野望だけが先行しているから不思議なのだ。

     


    (4)「発電所は、営業損失を抱えている状況であり、多くは電力供給増に前向きではない。石炭価格がかつてない水準に高騰しているにもかかわらず、電力会社が顧客に対して設定できる価格はほとんど政府が管理している。国営の中国能源報が今月報じたところによると、国内で最も効率的な発電所でも一部は赤字となっている」

     

    このパラグラフに、矛盾点の原因が隠されている。電力会社に電力価格の決定権がないからだ。政府からは、損益だけを取り上げられてあれこれ注文がつく。ならば、赤字になる発電をストップさせることが最善の道という逆立ちしたことが起るのである。中国経済は、非効率なシステムである。

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    米国は、インド太平洋戦略として、二種類を主宰している。クアッド(日米豪印)とAUKUS(米英豪)である。ネーミングが異なる以上、役割も違うはず。その違いはどうなっているのか。改めて考えたい。

     

    『大紀元』(9月29日付)は、「台湾専門家『中国対抗でクアッドとオーカスにぞれぞれの役割』」と題する記事を掲載した。

     

    台湾民間シンクタンク、国策研究院文教基金会は27日、「クアッド4カ国首脳会議と中国脅威に関する座談会」を開催した。参加した専門家は、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド(QUAD)」と新設された米英豪3カ国の枠組み「オーカス(AUKUS)」は、覇権的な動きを続ける中国共産党に対抗する取り組みで、それぞれの役割を分担しているとの見方を示した。

     


    (1)「27日の座談会に出席したシンクタンク「台湾智庫」の頼悦忠執行委員は、「米英豪3カ国の共同声明をみると、オーカスは軍事同盟であることがわかる。英国も今後、インド太平洋地域で軍事的な役割を担う。同時に、(原子力潜水艦の取得で)この地域における豪州の軍事防衛力がさらに強まる」と述べた。

     

    オーカスは軍事同盟であるとしている。英米が、攻撃型原潜技術を豪州へ供与するのだから、軍事同盟と見るべきであろう。英国も、軍事的な役割を担うことになった。これは、従来にないことである。

     

    中国が、英国との間で結んだ香港の「一国二制度」を破棄した恨みもあって、英国は、米豪と共に中国と戦うと宣言した。

     


    (2)「今月15日、米英豪の首脳は共同で会見を開き、3カ国による「インド太平洋地域の平和と安定の維持」に向けた新たな安全保障枠組み「オーカス」を創設すると発表した。首脳らは、今後人工知能(AI)、サイバー空間、水中防衛力などの分野で技術を共有していくとした。米英両国は、豪海軍の原子力潜水艦の取得を支援すると表明した。台湾中山大学の中国およびアジア太平洋地域研究所の郭育仁教授は、クアッドが軍事同盟ではないため、軍事・安全保障に焦点を当てたオーカスが設立されたと分析した」

     

    クアッドが軍事同盟ではないために別途、軍事・安全保障に焦点を当てたオーカスが設立されたということだ。となると、クアッドで残された形の二国である、日本とインドは、AUKUSに比べて軽い役割ということになろう。ただ、米英豪が、日本の軍事力を高く評価しているだけに、いつまで「別クラス」として「そっと」しておくかだ。時間を見て、日本をAUKUSへ誘い込むことは明らかであろう。

     


    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月28日付)は、次のように指摘している。

     

    「インド太平洋諸国は多くの欧州諸国に比べ、主権の共有や、規則中心で官僚的な機構を構築することへの関心が薄い。東南アジア諸国連合(ASEAN)は欧州連合(EU)よりも緩く、日米豪印で構成されるクアッドは北大西洋条約機構(NATO)よりも緩い。中国の(脅迫)行為が、近隣諸国・地域を米国との一層緊密なパートナーシップに向かわせ続けるならば、日本や台湾が、よりAUKUSに近い取り決め、そしておそらくはAUKUSそのものに加わる可能性がある」

     

    ここでは、米国がさらに軍事侵攻作戦を拡大する姿勢を見せれば、日本もAUKUSという軍事同盟へ参加するだろうと見ている。中国は、日本という「強敵」を迎えるのかどうか岐路にあるという分析である。中国の「戦狼外交」次第ということか。

     

    (3)「頼氏は、米国と豪州との原子力潜水艦技術の共有について注目した。「米英豪の首脳は創設声明を通して、豪州が今後、対中で軍事行動を起こす可能性があると暗に警告したのだ」。また、頼氏は、「どの国とも軍事同盟を結ばないというインドの一貫した外交姿勢」が、クアッドが軍事枠組みになれない理由だとした」。「インドはクアッドの主導国ではない。インド側はこれ以上クアッドにコミットすると、将来自分らがコントロールできない展開に巻き込まれるのではないかと心配しているだろう。オーカスの設立によって、クアッドが軍事同盟に発展する可能性はさらに低くなった」と指摘する」

     

    ここでは、クアッドが軍事同盟にならず、その役割はAUKUSに移っていると指摘している。アジアの軍事情勢が悪化すれば、日本もAUKUSへ参加するという含みに読める。非情に微妙な段階に来ている。中国の自重が、中国の寿命を延ばすことになるのだ。

     

     

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    中国の電気事情が窮迫している。広東省最大の国有自動車メーカーでは、電気を消して窓を開け、エアコンの使用を控えるよう求められている。こういう事態を迎えた理由は二つある。燃料炭価格の急騰による発電コストの高騰回避。来年2月の北京冬季五輪を控え、スモッグのない空を演出する政治目的である。これらの理由で停電が相次いでいる。経済や国民生活への悪影響は考慮外である。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月28日付)は、「中国で停電相次ぐ、半導体など供給網にまた試練」と題する記事を掲載した。

     

    中国では、製造業の拠点が相次ぎ停電に見舞われている。政府によるエネルギー消費と炭素排出を抑制する取り組みに加え、石炭価格の高騰が要因だ。半導体をはじめ、世界的なサプライチェーン(供給網)の混乱がさらに悪化する恐れがある。

     


    (1)「広東省や江蘇省など地方政府はここ1週間、エネルギー消費量を抑えるため、地元の工場に対して稼働時間の短縮か、一時閉鎖を命じた。企業の提出書類や企業幹部への取材で分かった。石炭価格の高騰により、生産を縮小している工場もある。さらに事態を深刻にしているのが豪州産石炭の輸入禁止だ。禁輸はオーストラリア政府が新型コロナウイルス起源を巡る国際調査を求めたことに反発した中国政府が報復措置として昨年導入していた。特に大きな影響を受けているのが江蘇省・昆山市だ。台湾系の半導体関連企業10社余りが台湾証券取引所への提出書類で、9月末まで昆山市の製造拠点を閉鎖することを明らかにした」

     

    中国の電力事情悪化で、台湾系の半導体関連企業10社余りが製造拠点を閉鎖するという騒ぎである。これでは、「世界の工場」も台無しである。

     


    (2)「内情に詳しい関係筋は、地元工場の多くでは強制的な停電が実施されており、現時点で経済的な損失額を推定するのは時期尚早だと話している。昆山市やその周辺で事業を展開する企業にとっては、中国政府が掲げるエネルギー消費量の抑制が大きな制約となっている。背景には、11月に英グラスゴーで開催される第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を控え、気候変動対策で世界をリードしている印象を与えたい中国政府の思惑がある

     

    11月に英グラスゴーで開催されるCOP26を控え、中国が気候変動対策で世界をリードしている印象を与えたい思惑で、強制的に停電させるという無茶苦茶な話である。これまで、地道な環境対策を怠ってきたツケが一挙に回ってきた感じである。

     


    (3)「国家発展改革委員会(NDRC)は、2030年までに炭素排出量が減少に転じることを目指す取り組みの一環として、GDP単位当たりのエネルギー消費量(エネルギー強度)を前年から約3%削減する目標を設定した。目標達成には、2021年上期の電力消費量の伸びが実質的に成長率を下回る必要がある。発改委は8月半ば、広東や江蘇など複数の省が目標水準を超えたと指摘。これを受けて、一部の地方政府が電力消費の強制削減などの対策を講じるよう指示していた。ノムラの分析では、エネルギー使用量の削減目標を達成できなかった省は、中国GDPの約7割を占める」

     

    GDP単位当たりのエネルギー消費量は、前年から約3%削減する目標になっている。これを実現すべく発電量を強引に下げているという説明だ。この結果、中国GDPの約7割を占める地域での停電が起こっている。GDP単位当たりエネルギー消費量削減は、総合的な経済政策で行うべきことで、直接に停電とは聞けば聞くほど、呆れた話である。

     


    (4)「豪マッコーリー・グループの首席中国エコノミスト、ラリー・フー氏は「これは総じて自ら招いた供給ショックだ」と指摘する。「中国当局が今年、特定分野の構造改革と引き換えに、成長を犠牲にする覚悟であることは明白だ」。広東省の経済企画当局は27日声明を公表し、エネ目標を達成する必要性から停電となったとの見方を否定。猛暑と発電能力の不足により、エネ需要の急増を招いたと説明した」

     

    習近平氏は、これまでも経済成長を犠牲にした政策を実行している。「共同富裕論」は、その最たるケースである。経済の矛楯を「共同富裕論」で隠蔽しているからだ。

     

    (5)「中国の他の地域においては、石炭価格の高騰がより大きな問題となっている。押し上げ要因となっているのは、中国産製品に対する外国の旺盛な需要に加え、過去数年にわたり進められてきた国内石炭生産の縮小、昨年導入した豪州産石炭の輸入禁止などだ。昨年の中国電力消費のうち、石炭は約6割を占めているが、価格の高止まりで電力会社の生産意欲は損なわれている。中国商務省によると、発電用の石炭(一般炭)価格はこの半年に29%値上がりし、9月19日時点でトン当たり780元(120.80ドル)となっている」

     

    発電用の石炭として最高の品質を誇る豪州炭が、中国の経済制裁で輸入禁止にされた。こうして、燃料炭価格の上昇を自ら招いたのである。この結果、発電コストが上昇して採算に合わず停電する、児戯に等しい振る舞いを行っているのだ。これが、中国政府の経済政策である。

     


    (6)「ここにきて表面化している電力不足の影響で、ノムラや中国投資有限責任公司(CIC)といった国内外の投資銀行の間では、今年の中国成長率見通しを引き下げる動きが広がっている。ノムラは今年の成長率予想を従来の8.2%から7.7%に下方修正。 モルガン・スタンレー では、中国が2021年を通じて、この一斉に集中して目標に向かう「運動式(キャンペーンスタイル)」の生産縮小を現行ペースで継続すれば、10~12月期にGDPを約1ポイント押し下げる可能性があると分析している」

     

    停電の続発によって、中国は今年の経済成長率に下方修正の圧力が掛かっている。これまで8%台とされたがこれを下回るという。雇用状況の改善は、これでさらに遠のくのである。

     

     

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