勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年09月

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    中国外交が、泥臭い理由は歴史的に外国と交流した経験が少ないことだ。秦の始皇帝以来、その外交術は「合従連衡」である。相手の「合従」(同盟)を壊させ、「連衡」(一対一)の関係に持込んで征服する、という荒っぽいものである。だが、この方式は、中国を自然消滅させる危険性を持っている。中国が、巨大化すればするほど、周辺国へ威圧的に振る舞い、それがもたらす反発によって、中国の力を弱めるというものだ。

     

    世界の戦略家は、すでに中国の抱える本質的な弱体外交へはまり込んでいると指摘する。中国の「戦狼外交」に対する反発が、その第一歩というのである。習近平さん、調子に乗っていると、いずれ「帝王の座」を滑り落ちるであろう。

     


    『大紀元』(9月27日付)は、「仏報告書『中共の最大の敵は中共自身』 世界中で影響力強める行動が裏目に」と題する記事を掲載した。

     

    仏国防省傘下のシンクタンクである軍事学校戦略研究所(IRSEM)は、最新報告書「中国の影響力作戦」の中で、中国共産党(以下、中共)はその権威主義モデルを自由世界に押し付けようとしているが、その最大の敵は中共自身であると述べている。

     

    (1)「650ページに及ぶこの報告書によると、中国政府は近年、積極的な外交行動により孤立を深めている。これらの行動は、これまで友好関係にあった国々からも反発を招いているという。中国の欧米との関係は2017年頃から大きく悪化している。その代表的な例がスウェーデンである。中共が中国を支配するようになってから、スウェーデンは西側諸国として初めて中共政権と外交関係を結んだ。それによると、もともとスウェーデン人は、中国に対して比較的良いイメージを持っていたが、2017年に桂従友氏が中国の駐スウェーデン大使になってから状況が一変した」

     

    スウェーデンは2010年、中国人の劉暁波(りゅう・ぎょう)氏へノーベル平和賞を授賞したことがきっかけで、中国が報復するようになった。このこと自体、中国の偏向を物語っている。旧ソ連ですら行わなかったこと。中国外交の異常さを物語っている。桂従友氏は、駐スウェーデン中国大使に就任以来、スウェーデンをあからさまに侮辱するという異例の振る舞いをした。

     

    (2)「桂氏は、地元メディアの中国に対する批判的な報道を非難したり、ストックホルムのホテルに台湾の国慶節の祝賀会を中止させたりするなど、挑発的な行動をとり続けた。スウェーデン外務省は2017以降、少なくとも40回にわたって、桂氏を抗議のために召喚している。国会議員は2度にわたって彼の国外退去を要求した。中国の評判も下がっている。世論調査によると、スウェーデン人の80%が中国に対して否定的な見方をしているが、4年前は半分以下だった」

     

    桂氏は、大使としての任務を放棄して、スウェーデンへ喧嘩を売った人物である。戦狼外交を地で行く典型例である。こういう破天荒な人物を大使へ任命している中国政府の責任も問われる。「外交官特権」を利用した、やりたい放題な人物のようである。

     


    3)「輸出収益の3分の1近くを対中貿易が占める豪州でも、中共政権に対する国民の感情が変わりつつある。豪州が中共ウイルス(新型コロナウイルス)の発生源について独立した調査を要求したところ、中国政府は同国に報復的な貿易制裁を科した。そのため、学者をはじめとする豪州人は、中国の影響力に対する抵抗感を強めている。2020年6月、豪州は国家安全保障の観点から、外国投資に対する審査を強化する方針を打ち出し、12月9日には外資買収法の改正案が議会を通過した。中国政府が支配・支援している中国企業をターゲットにしていると考えられる」

     

    豪州は、敢然として中国へ軍事力で斬り込む姿勢を見せている。米英豪三ヶ国による「AUKUS戦略」で、米英から最新の攻撃型原潜技術を導入して、10年間で8隻の原潜を建艦する。すぐにでも米国から原潜を借用して訓練するという意気込みである。南シナ海の奥深くに潜み、中国海軍の動向を探るのだ。

     


    (4)「同様のシナリオは世界各地で展開されている。アフリカは、中国の広域経済圏構想「一帯一路」に反発し、このインフラ建設プロジェクトが天然資源の枯渇、土地の汚染、労働者の虐待につながると批判している。中共政権は、香港の自由を抑圧して英国を怒らせた。新疆ウイグル自治区での人権侵害は、欧米における中国政府のイメージをさらに悪化させた」

     

    中国は、欧米の価値観と全く異なる。権力維持のためには、何を行っても良いという「無頼精神」である。これが、「戦狼外交」と表裏一体になっている。およそ、自己反省ということと無縁であり、最後は破滅してみて初めて目が覚める民族である。

     

    実に危険な存在である。「一帯一路」も全て、中国の利益確保が目的である。そもそもの始まりは、国内の余剰な鉄鋼やセメントのはけ口探しであった。自国権益確保が第一なのだ。このことに、進出先が気付いて、遅まきながら自己防衛を始めているところだ。ともかく、善意を装って行う悪意の塊である。

     


    (5)「今年2月に開催された中国と中東欧17カ国首脳会議「17+1」では、欧州側の6カ国の首脳が欠席し、高官を派遣するにとどまったことで、「北京と関わりたくない姿勢」を示唆した。これは、中国政府のイメージダウンの表れとみられている。5月にリトアニアが脱退したことで、苦境に立たされているこの枠組みはさらに縮小した。報告書は、近年の中国政府の「逆効果の行動」について、「中国の人気度を低下させ、自国民を含めて党の影響力を間接的に弱める可能性がある」「中国(中国共産党)の最大の敵は自分自身である」と指摘している」

     

    中国と中東欧17カ国首脳会議「17+1」は、中国の経済援助がゼロゆえに、脱退国が増える方向だ。リトアニアがすでに脱退し、台湾との外交関係強化に動いている。チェコもその動きである。台湾への親近感を見せる中東欧国が増える気配を見せている。

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    世界で頻発する異常気象は、二酸化炭素の排出が原因とされる。その抑制に向けて、世界の科学界が必至で研究に取り組んでいるが、日本の研究者二人の努力で大きな成果が上がりリードしている。東京大学の藤田誠卓越教授と京都大学の北川進特別教授である。お二人の研究の生み出した新素材が、脱炭素のカギを握りノーベル化学賞候補とされている。

     

    どういう素材なのか。微細な穴が無数に開いた金属有機構造体(MOF)は、1グラムにサッカーコート1面分の表面積があり、狙った物質をとじ込められるというもの。1グラムの物質に、サッカーコート1面分の表面積があると聞いただけで、科学に素人な者には驚きである。果物の鮮度の維持や半導体の製造などで実用化されているが、応用の本命は環境分野だ。二酸化炭素(CO2)の回収や、脱炭素燃料の水素の貯蔵に利用しようと世界中で研究が進んでいる。日本との関わりの強い分野である。

     


    『日本経済新聞』(9月28日付)は、「
    CO2『新素材で回収』、独化学大手や米新興が注目 水素も貯蔵 応用進む」と題する記事を掲載した。

     

    8月、米ノースウエスタン大学発のスタートアップ、ニューマット・テクノロジーズ(イリノイ州)は炭素の排出を「効率よく劇的に減らす分離技術の開発」で住友化学と提携すると発表した。住化が注目したのはニューマット社が持つMOFと呼ばれる素材を設計する技術だ。

     

    (1)「MOFは内部に微細な穴が無数に開いた多孔性材料の一種だ。1グラムあたりサッカーコート1面分に相当する7000平方メートル以上の表面積を持つMOFもあるという。既存の多孔性材料では、冷蔵庫の消臭剤に使われる活性炭や工場で有害物質の吸着などに使うゼオライトがあるが、MOFはより表面積が大きく、大量の物質を効率的にとじ込められる。物質の貯蔵や分離のほか、分子の化学反応を促す「場」としても応用できる」

     

    昔から、家庭で炭を下駄箱に入れておくと臭いを吸収するとして使われている。MOFの原理も、簡単に言えばこういうものだろうか。「活性炭」は、木炭の3~7倍の表面積を持って脱臭剤、浄水、ガス精製に使われている。研究のヒントは、こういうところにあったのだろうか。

     

    (2)「MOFの特長を生かした製品は既に実用化している。世界に先駆けたのは英クイーンズ大学ベルファスト校発のスタートアップ「MOFテクノロジーズ」(北アイルランド)だ。2016年9月に果物の鮮度を維持するMOFを製品化すると発表した。果物が自ら放出し熟成を促すエチレンの働きを止める物質をMOFにとじ込め、販売前に果物が腐るのを防ぐ」

     

    MOFを利用した製品が、身近なところに登場している。

     

    (3)「国内では、日本フッソ工業(堺市)が20年12月、化学プラントで使う金属製タンクの表面を守るコーティングでMOFを実用化した。京都大学発スタートアップのアトミス(京都市)が京大の北川進特別教授の技術を使った材料を提供した。力を入れるのはスタートアップだけではない。独化学大手のBASFは04年から研究を本格的に開始し、気体の分離・貯蔵、水の吸収などに使える多様なMOFを開発してきた」

     

    国の内外でMOFの本格的な研究が始まっている。独のBASFでは、気体の分離・貯蔵、水の吸収など、二酸化炭素吸収につながる開発を始めている。

     

    (4)「応用先の大本命として研究が盛んなのは、温暖化対策など環境分野だ。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は20年10月、MOFを使い、大気中に濃度0.04%しかないCO2を直接回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」を安く実現する試験プラントを作ったと論文で発表した。MOFをセ氏80度に熱すると、このわずかなCO2を回収できる」

     

    MOFが、大気中に濃度0.04%しかないCO2を直接回収することに成功した。これは、大きな研究成果である。世界の異常気象解決への貴重な一歩になる可能性を秘めている。

     

    (5)「MOFの産業利用は今後本格化する。中国の調査会社QYリサーチによると、19年に1億4900万ドル(約160億円)だった世界市場の規模は、26年には5.6倍の8億3800万ドル(約920億円)に拡大するという。日本に有力研究者がいることや素材産業の強みを生かし、海外が先陣を切った産業利用で巻き返しを図る必要がある」

     

    MOFが今後、大きな市場規模に成長する見込みという。日本発祥の技術であり、有力素材メーカーのひしめき合う日本が、世界をリードして欲しいものである。

     

    (6)「世界各国で「カーボンゼロ」がキーワードになっている。関西でも脱炭素に関連する研究や実証実験などが盛んだ。大学や素材・機械産業が集積するメリットを生かし、「厄介者」である二酸化炭素(CO2)の分離技術など具体的な成果を積み重ねられれば、2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)で世界に誇る展示になり得る」

     

    2025年の関西万博は、MOFが有力展示物になる条件を備えている。リチウムイオン電池、全固体電池も日本発の技術である。これにMOFが加われば、日本が脱炭素技術「三冠王」に輝く。ノーベル化学賞に輝いて貰いたい。

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    米英豪の3ヶ国が結んだ「AUKUS」(オーカス)は、米英の攻撃型原潜技術を豪州へ移転するだけでない。先端技術でも3ヶ国は協力するという広範な取極である。

     

    インド太平洋戦略では、すでに日米豪印4ヶ国が参加する「クアッド」が存在する。これとは別に、「AUKUS」を結成したのは、より密度の濃い協力姿勢を構築するためだ。米英が、対中国戦略を重層的に組立てていることがわかる。これまで、非同盟であったインドをクアッドに繋ぎ止めた意味は大きい。ただ、それには自ずと限界もある。そこで、AUKUSで核心部分の結束を図るというもの。ここへは将来、日本と台湾を参加させる意図も見え見えだ。ただ、韓国の名前はないのだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月28日付)は、「AUKUSは未来の『インド太平洋条約』」と題する記事を掲載した。

     

    AUKUSは深く根差しながら柔軟性も併せ持った技術大国間の連携枠組みであり、21世紀の世界像を描き出し、米国のインド太平洋域での協力関係のモデルにもなり得るものだ。

     

    (1)「モリソン豪首相が最近のワシントン訪問の際、インタビューに応じ筆者に語ったところによれば、AUKUSの枠組みは、オーストラリアの人々の考えが起点になったという。何年にもわたってオーストラリアへの圧力を強めてきた中国は、昨年11月にはキャンベラ駐在の外交官の口を通じて、豪州が中国政府との関係を改善するためには、14分野の中国の不満を解消しなければならないと警告した」

     

    豪州が、安保面で日本を頼りにしていることは確かだ。中国の圧力を強く受けており、意地でもこれをはね返すという強い意志が滲み出ている。

     


    (2)「この中で中国側は、豪州が取るべき措置として、「反中国」的な研究への資金援助の停止、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生源に関する世界保健機関(WHO)のより徹底した調査を求めるような挑発的行動の抑制、中国による豪州への戦略的投資に反対する動きの停止、民間メディアによる中国関連の「非友好的」ニュース報道の阻止などを挙げた」

     

    中国は昨年11月、豪州が14分野で中国の不満を解消しなければならないと警告した。戦狼外交の典型例である。主権国である豪州が受入れるところでなく、今回のAUKUS結成が豪州の回答である。やぶ蛇となった。

     


    (3)「中国の海軍力強化の規模とスピードを目にした豪州の国防計画担当者らは、国防戦略の見直しを強いられた。この見直しで犠牲になったのが、フランスとの戦略的パートナーシップへの信頼感だ。豪仏間の協力の基盤となっていたのが、先にキャンセルされた潜水艦開発計画だった。とどまるところを知らない中国の台頭を受けて豪州は、自国が必要とする抑止力、防衛力を保証できるのは、米国との関係緊密化だけだと結論付けた」

     

    豪州が、フランスとのあいだで結んだ潜水艦開発は頓挫していた。これに嫌気した豪州が、米英という馬に乗り換えたもの。フランスの怒りは、「共通の敵」に向かい合うため、いずれ氷解するであろう。

     

    (4)「モリソン政権は中国政府に歯止めをかける方法を模索する中、斬新なアプローチを思いついた。インド太平洋地域には、北大西洋条約機構(NATO)のような、正式な安全保障協定を求める声がほとんどない。だが、豪州は、米国の外交官リチャード・ハース氏が「posse(民警団)」と呼んだことで知られる、緩やかな有志連合ではなく、より強固で耐久性のあるものを求めていた。豪州は、英米のパートナーを説得し、情報共有のパートナーシップであるファイブアイズ(米国、英国、カナダ、豪州とニュージーランド)が第2次世界大戦以降何十年をかけて築いてきた深い信頼を利用して、posseとは違う新しいものを創設しようと考えた」

     

    豪州は、中国の強い圧力を受けて、「緩やかな有志連合でなく、より強固で耐久性のあるものを求めた」のである。中国も豪州を怒らせる愚かなことをしたものだ。

     


    (5)「9.11以後のテロに関する情報共有から最近の中国をめぐる協力の間に、ファイブアイズの関係はかつてないほど強固になった。豪州はこのパートナーシップを情報分野から研究および防衛計画を含めるまでに拡大しても良いのではないかと考えた。こうした協力のモデルは既に存在していた。米国は核を推進力とする機密技術を英国の潜水艦計画と共有していた。豪州はこの計画に加わり、量子コンピューターから人工知能(AI)、電子戦争、ミサイル、サイバーに至るまでの分野で3カ国が一層協力することを提案すれば、軍事および外交的な利益とともに、経済的利益がもたらされる可能性があると考えた」

     

    豪州は、自動車産業もないほど製造業で弱体だ。それだけにAUKUS戦略で最先端技術を手に入れられれば「願ったり叶ったり」である。豪州が、これ以上のパートナーを得るのは難しいであろう。このAUKUSに、日本が欠けていては「絵」にならないのだ。

     

    6日)「インド太平洋諸国は多くの欧州諸国に比べ、主権の共有や、規則中心で官僚的な機構を構築することへの関心が薄い。東南アジア諸国連合(ASEAN)は欧州連合(EU)よりも緩く、日米豪印で構成されるクアッドは北大西洋条約機構(NATO)よりも緩い。中国の行為が、近隣諸国・地域を米国との一層緊密なパートナーシップに向かわせ続けるならば、日本や台湾が、よりAUKUSに近い取り決め、そしておそらくはAUKUSそのものに加わる可能性がある。日本、インド、台湾、AUKUS参加国を含む諸国が技術を共有し、防衛政策で協調するブロックとなれば、強大な力となるだろう

     

    AUKUSには、日本と台湾が加わって強固な軍事同盟を結成する可能性を示唆している。日本には憲法上の制約がある。ただ、将来の憲法改正で自衛隊が明記されれば、軍事同盟に参加する道も開かれるであろう。

     

    韓国は、このAUKUS拡大構想に入っていないのだ。韓国のような「宙ぶらりん国」は、中国への情報漏洩リスクを抱えて危険なのであろう。

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    韓国では、文大統領の「巧言令色」的な振る舞いに選挙民の心が離れている。政権交代を臨む世論が5割を超えているにもかかわらず、国民の心を捉える有力候補がいないという悩みを抱えている。朴前大統領は、その意味で保守「期待の星」であったが、あのような結果に終わった。

     

    韓国は、次期政権も進歩派であれば外交や経済の政策で完全に行き詰まる。外交政策では、「親中朝」が明らかで、米国も呆れて見ている状況だ。経済政策も行き過ぎたポピュリズム政策の継続は確実である。韓国を「死の淵」に追込むことは不可避であろう。韓国国民にその自覚が薄い。こういう八方塞がりの中で、韓国の次期大統領候補選びが進んでいる。

     

    『中央日報』(9月28日付)は、「実に憂鬱な大統領選挙」と題するコラムを掲載した。筆者は、チェ・フン編集者である。所属先は不明である。

     

    (過去の)大統領選で最も強力なカリスマを見せた候補は、逆説的に朴槿恵(パク・クネ)だった。保守政党を惨敗から救った「選挙の女王」らしく、民主党の意表を突いた「経済民主化」と「年27兆ウォンの追加福祉」で(結局は悲劇で終わったが)中道を蚕食した。今回の大統領選の新しい様相は、政治が万人対万人の葛藤に変わっていく世相とも軌を一にする。しかし世の中が複雑になり、有権者の欲求はさらに多様で厳しくなった。世代、年齢、男女、貧富、階層、学歴、首都圏と非首都圏、微細な理念性向の差などによる進化と分化が顕著になった。

     

    (1)「李在明(イ・ジェミョン)京畿道(キョンギド)知事、尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長ら1、2位を争う候補の相対的なカリスマ不足も要因に挙げられる。中央政治舞台への露出と経験、検証が短い。しかも李候補は家族史、女優スキャンダルと大壮洞(テジャンドン)「火天大有資産管理」特恵疑惑攻勢に直面した。尹候補もさまざまな政策の経験不足、妻・義母と告発教唆関連疑惑攻勢、朴槿恵弾劾の名分などが克服の対象だ」

     


    衆目の一致するところは、与党候補が李在明知事である。野党候補は尹錫悦・前検察総長だ。この二人によって、次期大統領選が争われるとなれば、国民は戸惑うばかりとしている。両氏とも、問題を抱えていると指摘されている。だが、李氏には人格的な欠陥が目に付く。尹氏は、本人に関わる問題は少ない。せいぜい、朴前大統領を捜査したというが、これは職務上のこと。告発教唆も確証があるわけでなく「噂」の域に止まっている。文政権側は、この問題を大きくとり上げて、尹氏を阻止しようという狙いが透けて見えるのだ。

     

    (2)「今回の大統領選挙を支配する最も有効な変数は、現在のところ「政権交代か、政権維持か」になりそうだというのが、世論調査専門家の多数の意見だ。韓国ギャラップの9月の調査では政権交代(55.3%)が政権維持(37.6%)より高い。8月の49%対37%よりも差が広がった。しかし、民主党支持層の強固な凝集力、169議席の議会の権力と全国地方自治体と議会を掌握した現場組織力、40%前後で維持される大統領支持率、接戦状況の最近の2者対決推移などを代入すると、激しい薄氷の勝負になるという見方が現実的だ」

     

    国民は、文政権の失敗に飽きている。この結果、政権交代(55.3%)が政権維持(37.6%)を17.7ポイントも引離す不名誉を被っている。本欄も、文政権の執権能力をつぶさに見てきたが、この政権ほど「学生運動気分」の抜けない幼稚な存在はない。当然、政権交代すべきだが、「人材不足」も深刻である。比較感で言えば、尹・前検察総長の「清潔感・正義感」に期待するほかないであろう。

     


    (3)「何かやってみようという側と「絶対反対」の選挙の勝者は、常にやってみようという側だった。IMF再交渉を掲げた金大中(キム・デジュン)、行政首都移転の盧武鉉、清渓川(チョンゲチョン)復元の李明博、経済民主化の朴槿恵…。反対ばかりに没頭して自己主張がなくなった候補はすべて消えた。成長・統合など保守の魂を基盤とするものの、不平等の緩和など時代に合う柔軟な政策メッセージで中産層を拡張してこそ勝負になるだろう」

    過去の大統領選では、「絶対反対」よりも、「これを実行する」と具体的な目標を掲げた候補が勝利を収めてきた。与野党候補のいずれが、その具体的目標を打出せるかである。それは、陣営にどれだけの「知恵袋」を集められるかである。

     

    自民党の総裁選では4人の候補が、それぞれ政策目標を掲げている。自民党の方が、韓国の大統領予備選よりもはるかに「上等」に見える。スキャンダル騒ぎのないことだけでも、すがすがしく感じるのだ。この視点で、韓国の現状を見ると目を背けたくなる。

     

    (4)「民主党も同じだ。政権交代の心理が強い変数であるだけに、誰がなろうと「文在寅シーズン2」にはならないという新しい差別化の道であってこそ勝負が成立する。文在寅政権の各種失政に対する党内の率直な認識と告解が先だ。党内選挙1位(累計53.1%)の李在明候補も無償・ポピュリズムのレッテルが貼られている。基本所得など本人の政策の現実性と誠意を中道層にどう説得するかがカギとなる」

     

    与党の李氏は、「ベーシックインカム」(基本所得補償)を掲げている。この発想は、ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンによって唱えられた。フリードマンは、徹底的な自由市場主義者である。競争するが、一方では社会保障制度を完備するという「バランス論」である。韓国は、自由市場でなく「労働組合天国」の政策を続けている。この状況を改善して労働市場を自由化して初めて、「ベーシックインカム論」が登場できる基盤が整う。順序を間違えてはだめなのだ。

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    米国トランプ政権(当時)は昨年秋、中国株の米国上場を制限する方針を打ち出した。これに対して、米国メディアでは米国人の投資機会を奪うと批判の声を上げた。今になって、習政権による中国株への規制がもたらした暴落を見ると、中国株規制は的を得ていたことになろう。

     

    むろん、当時の米政権が今日の事態を見抜いていたとは言えない。ただ、中国当局による突然の方向転換を予感させる中国経済の矛楯深化に気付いていたことはたしかであろう。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月27日付)は、「中国恒大危機、投資家はなぜ巻き込まれたか」と題する記事を掲載した。

     


    ウィリアム・ゴールドマン氏の米映画業界に関する1983年の著作「Adventures in the Screen Trade(映画界での冒険)」にあるこの一文は、中国恒大集団の経営危機とそれに巻き込まれた世界の投資家を端的に表している。今は亡きゴールドマン氏と同じく、筆者も読者が実感できるようにこの一文を繰り返すことにする。

     

    (1)「誰にも何も分からない。というのも中国企業もそこに投資する投資家も、事実上の「終身国家主席」である習近平氏の気まぐれに手足を縛られているからだ。習氏と中国共産党から目をかけられていた経営者、企業、業界全体が何の前触れもないまま力と価値を奪われ、外国人投資家はぼうぜんとしている。誰にも何も分からないからこそ、投資家は自身の中国投資に不安を感じずにいられるようにしておかねばならない。ウォール街では、熱狂はほぼ間違いなく苦悩に行き着く。そしてこれまでのところ、中国投資ブームに乗った人々の経験も例外ではない」

     


    中国投資を賛美してきたのは、米国ウォール街の住人達である。名は秘すが著名な投資銀行のレポートは、絶えず中国経済の成長性を賞賛してきた。私はこれを読みながら、手持ちの中国株を売り抜けるための戦術でないかと疑って見るほどだった。ついに、その化けの皮が剥がされる時期を迎えた。中国経済は、張り子の虎であったのだ。

     

    (2)「モーニングスターによると、主に中国に投資している米国のミューチュアルファンドや上場投資信託(ETF)の純資産額は8月末で430億ドル(約4兆7600億円)に上り、前年同期から44%増えた。この間に流入した新規の資金は約130億ドルだ。ファンドにはこの1年だけで総資産の4分の1を超える資金が流入したことになるが、待ち受けていたのは損失だった。中国株の指標であるMSCI中国指数は2月のピークから30%下落している」

     

    MSCI中国指数が設定されるまで、中国当局はどれだけ「中国経済の潜在成長力の大きさ」を宣伝したか。当時は、情報管理されていなかったから逐一、その舞台裏が報じられていたのである。米国の年金資金もこれを信じて中国へ流れ込んだ。結果は、惨憺たるものだ。中国へ吸い取られてしまった。

     


    (3)「MSCI中国指数は創設された1992年末から今年8月末までの間に年率で平均2.2%のリターンを生み出した(配当含む)。同期間のMSCI新興国市場指数の年率リターンは7.8%、S&P500種株価指数は10.7%だった。この30年近くの間に中国経済は少なくとも10%の成長率を何度も記録した。にもかかわらず、中国株よりも米国債に投資していたほうがはるかに高いリターンを稼げたことになる。中国は1兆ドルを超える米国債を保有している。おそらくウォール街が知らない何かを知っていたのだろう」

     

    下線部は、重要な指摘をしている。中国株(MSCI中国指数)に投資しても、米国株よりもリターンがはるかに低かった。資本主義のメッカである米国株への投資が、最高のリターンを上げられるのである。それは、米国資本主義が世界最高の効率性を上げている事実によるものだ。間違っても、中国のGDPが米国を抜き去るとの幻想に取り憑かれてはなるまい。

     

    (4)「中国政府の意向を把握するのはかつてないほど難しくなっている。多くのアナリストやコメンテーター、投資家は中国の最近の行動を「規制上の取り締まり」と表現している。しかし国際資産運用会社シーフェアラー・キャピタル・パートナーズ(カリフォルニア州)のアンドリュー・フォスター最高投資責任者(CIO)は、今起きているのは規制上の取り締まりではないと指摘する。「これらは規制に関する事象」ではなく、「中国社会を作り変えるための政策介入」で、「習氏の個人的な思惑を指針としていて、必ずしも知り得ない目的の達成を目指している」という」

     

    習氏は、自己の栄達第一で「終身国家主席」を目指している。途中で、辞任すれば政敵によって生命の安全を脅かされる危険性を抱えている結果である。中国経済の発展は、もはや二の次になった。この現実認識は極めて重要なのだ。こういう荒筋は、なかなか信じて貰えないであろうが、独裁者の最後は「自己保身」第一にする。毛沢東もそうであった。江沢民氏も、習近平を任期途中で引きずり下ろす計画を立て、それが暴露されたのである。その反動で習氏が、「終身国家主席」を目指すことになった。独裁は独裁を生むのである。

     

    (5)「習氏の思惑は流動的で曖昧かつ予測不可能であるため、「投資家は投資の将来的な結果を予想する際に、過去の経験に頼ることに大いに注意するべきだ」とフォスター氏は話す。シーフェアラーは中国に投資しているが、同社の主要ファンドが中国に投資している資産は全体の約2割にとどまる。この割合は新興国市場の株の値動きを追う主要ベンチマークよりもはるかに少ない」

     

    下線部は、中国経済の予測可能性が消えたことを指摘している。予測不可能を前提にして、中国投資をすべしとしている。つまり、少額投資で様子見に徹することだ。

     

    (6)「ウォール街は、中国政府が自由な資本市場に向かうはずと考えているが、その根拠はあてにならない。中国の歴代政権は19世紀から株式市場に干渉している。当局は低金利資金でバブルを膨張させたり、政府の役人を企業の取締役に据えたり、日々の業務にあれこれ口を出したり、外部の株主の権利を妨害したりすることを繰り返した。毛沢東が指揮していた共産主義時代の初期でさえ、政府は複数の株式市場を運営しては、最終的にだめにした」

     

    ここでは、歴史的に中国における株式市場が権力者のオモチャにされた事実を指摘している。現在もそうである。中国は、市民社会を経験せず、健全な市場意識が育たない以上、株式市場の成長発展を期待できないのだ。 

     

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