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韓国の次期大統領予備選をめぐって、与野党の候補者が思いつき政策を発表して、選挙民の歓心を集める工夫をしている。肝心要の経済政策をどうするか、というポイントが抜けたままである。

 

与党「共に民主党」で支持率トップの李在明(イ・ジェミョン)京畿道(キョンギド)知事は、高齢者・患者・障害者・子ども・乳幼児を対象にした「5大ケアの国家責任制」を公約に掲げている。公的年金受給率50%強の韓国が、「5大ケア」を国家責任で行うには厖大な予算が必要だ。確実な経済成長あってこそ可能になるが、その面での政策を聞いたことがないのだ。

 


『中央日報』(8月31日付)は、「韓国の成長率0%台に直面、食べていく問題から解決しなくては」と題するコラムを掲載した。筆者は、キム・セジク/ソウル大学経済学部教授である。

 

大統領選挙が近づいている。大統領選挙で韓国国民が最も期待するのは何だろうか。現在、韓国国民の「食べていく問題」は甚大な脅威にさらされている。韓国経済は30年間「5年で1%下落の法則」により、韓国経済の本当の実力を示す長期成長率が5年に1ポイントずつ下落してきた。その結果、次期大統領の任期中に0%台入りを心配しなければならない深刻な状況に直面した。

(1)「もし、ゼロ成長時代に入り込めば、年間成長率がマイナスとなる逆成長が頻繁に起き、マイナス10%に達するマンモス級危機も5%の確率で近づく恐れがある。複数の政権にわたり行われてきた過度な景気浮揚の累積により金融危機に追い込まれる可能性もある。青年だけでなく中高年向けの「良質の雇用」がさらに枯渇し、2700万人の労働者の半分以上が毎年所得減少を経験することになり、所得分配がさらに悪化する可能性もある

 

ここでは、韓国経済の危機を率直に指摘している。ゼロ成長時代になれば、所得分配がさらに悪化するのは不可避だ。

 


(2)「経済学者の立場で見ると、韓国国民の潜在力は驚くほどすごい。筆者が「成長の黄金時代」と呼ぶ1960年初めからの30年間に韓国は人類史上例がなかった8%以上の持続的な長期成長率を謳歌した。人口4000万~5000万人規模の国が超高速成長をこのように長期間維持したことはない。優れた民族的潜在力を引き出して30年間の「奇跡的成長」を持続できたのは決して偶然ではなかった。当代最高の経済学者に挙げられるルーカス教授と現代経済成長理論家が発見した韓国の高度成長の秘法は「人的資本」だ。韓国の労働者や企業家は、自身の頭の中に蓄積していた知識や技術を意味する人的資本に不断に投資してきた。そして国民のこうした投資潜在力を効率的に引き出した「経済体制」があった」

このパラグラフでは、韓国の「漢江の奇跡」が自力で実現したような記述である。実際は、日本からの経済協力金(本質は、日韓併合時代の賠償金)がテコになった。1965年に11億ドル以上(1ドル=360円レート)が、韓国へ支払われたのである。
韓国の国家予算は当時、3.5億ドル、日本の外貨準備額は18億ドル程度の時代だ。韓国は、国家予算の約3年分のドル資金を手に入れたのである。日本外貨準備高の6割が、消えた計算になるほど巨額であった。韓国は、このドル資金を使ってインフラ投資に着手、経済成長の軌道に乗った。



(3)「資本主義体制の中でも当時の韓国は国民が新しいアイデアを自ら考え出す人的資本よりは既存の知識や技術を書き写して覚える模倣型人的資本を早く蓄積した。この方式を誘導する強力な教育、租税と財政システムを備えていた。筆者が「模倣型資本主義体制」と命名したこの体制は模倣型人的資本投資に対する莫大な収益率を保障した。このようなインセンティブによって国民が先進知識と技術を驚くべき速度で熱心に覚えて書き写し、これを利用して企業が素早く新しい製品を作って輸出することになり経済が超高速に成長できた」

 

下線のように、韓国は「模型資本主義体制」を自認している。具体的には、日本製造業の技術を模倣した。サムスンも現代自も、日本国内に「研究所」と称する施設を持っていた。日本が新製品を発売すると、同時に分解して部品を真似し、日本製品よりも安価に輸出していたのだ。この結果、韓国企業は研究開発もせず、日本企業の技術と製品アイデアを窃取してきた。

 


(4)「1990年代からは韓国が世界の技術フロンティアに近づくにつれ特許で保護される海外の先端技術を模倣するのが難しくなった。これとともにインターネットと人工知能(AI)の急速な発達で模倣型人的資本の価値が急落した。これにより個人でも企業でも自ら新しいものを考えて作り出す能力である「創造型人的資本」を育て、新しいアイデアと技術を開発できなければ生き残るのが難しい時代がすでに到来した。それでもその効能を使い果たした模倣型資本主義体制を韓国は30年間踏襲した。その結果5年で1%の下落の法則によって30年間に成長率が急落し、いまや国民の「食べていく問題」に深刻な脅威を加えている。これに伴い、私たちはこの恐ろしい法則とそれにより近づく経済危機の暴風雨を阻止しなければならない重大な時代的課題に直面することになった」

 

下線の「創造型人的資本」は、「模型資本主義体制」とは相容れないものだ。日本は、基礎技術があるから新製品開発で経済発展を実現した。韓国は、基礎技術を担う「創造型人的資本」が、「模型資本主義体制」によって摩耗させられた。ノーベル科学賞受賞者が、一人も出ない理由である。

 

(5)「幸いその解決策はあまりにも明確だ。その解決策とは創造型人的資本投資を促進する「創造型資本主義体制」の構築にある。この体制は国民が考え出した創意的アイデアに対し強力な財産権保障と投資インセンティブシステムを提供して創造的人的資本を育てる効率的教育システムを備えた資本主義体制だ」

このコラムの筆者であるソウル大学教授は、日本の存在によって韓国経済が発展できたという正しい「経済史」の認識がゼロである。さらに指摘すべき点は、韓国の生産年齢人口比率が急減するという人口動態面の知見がゼロである。この二つの「ゼロ」が、韓国経済の近未来を襲う悲劇について、正確に認識する上で障害になっている。

 

1970年時代のことだが、韓国外交官はアジア外交官の集まりで日本を猛烈に批判した。それを聞いていたインドネシア要人は、「わが国が、日本の隣国であれば急成長できたろう残念」と言ったそうである。この言葉が、全てを語っている。

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