勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年10月

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    韓国社会は、進歩派(民族主義)、保守派(自由主義)、中立派がそれぞれ4:4:2の割合で世論を形成している。選挙では、この2割の中立派を味方に引入れた方が勝利を収めるというのである。具体的には、55%対35%の世論調査結果が出れば、大勢が決するとされている。つまり、55%の支持率を収めた側の勝利が確実というのである。

     

    こういう状況を眺めると、韓国は二大政党制のような趣だが、互いに対立派を感情的に攻撃するという「醜さ」を見せている。現在、来年3月の大統領選挙をめぐって、激しい感情的な争いを始めている。出所不明のような「怪情報」を取り上げて攻撃する一方、立派な刑事事件になる情報が報じられているにもかかわらず、与党候補者に関わる問題だけに検察が真剣に捜査を取り組まない。こういった雑音が、激しくなっている。

     

    韓国特有の「敵・味方論」にたった批判・攻撃がされている中で、保守派を一方的に切りつける寄稿が登場した。いかにも韓国的な相手を一方的に批判しまくる内容である。

     


    『ハンギョレ新聞』(10月30日付)は、「メルケル時代の16年と大韓民国の政治」と題する寄稿を掲載した。筆者は、キム・ヌリ韓国・中央大学独語独文学科教授である。

     

    ドイツでは今、「アンゲラ・メルケルの時代」が終わりつつある。メルケル首相の16年間を振り返ると、何かと大韓民国の政治が重なって見える。メルケル首相の政治が韓国政治に示唆するものとは何か。

     

    (1)「ドイツは過去72年間、キリスト教民主同盟の成長重視政策と社民党の分配志向政策が周期的に交代してきたことで、成長と分配が理想的にバランスを成す安定した福祉国家として発展してきたのだ。韓国は、ドイツとはあまりにも違う。大韓民国が今、世界で最も不平等な国の一つとなっているのは、まさに進歩と保守の競争と交代という成熟した民主国家の基本的な政治地形を持てなかったからだ。韓国の政治地形は、世界で類を見ないほど極端に右傾化している。保守をせん称する守旧、進歩を装う保守が互いに寡頭支配する政治地形こそ、韓国の真の姿だ。こうした「守旧-保守オリガーキー(寡頭政治)」によって、私たちは「社会的地獄」に向かって突き進んでいるのだ」

     

    このパラグラフは、目を覆いたくなるほど公平さを欠いている。筆者は、与党「共に民主党」支持者のようだが、学者として中立の立場で判断しなければならない。ドイツが、保守政権と革新政権がバランス良く続いているのは、ドイツ国民が二度とヒトラー時代へ戻してはいけないという信念からだ。だから,特定政党へ絶対多数の議席を与えず、連立政権にさせている。先ず、こういう政治的背景を理解すべきである。

     


    韓国の進歩派は、欧米の進歩派と違って民族派であり、南北統一を目指している。それゆえ、北朝鮮へ接近する立場から共産主義に対して極めて寛容である。南北統一を実現するためには、あらゆる犠牲を払っても良いというニュアンスさえ感じられるのだ。文政権の行動は、まさにそれを象徴している。北朝鮮の軍拡に対しても、ひたすら沈黙しており韓国の国益を著しく損ねている。この対北朝鮮政策の延長で、中国に対しても平身低頭の外交姿勢だ。米韓同盟を結びながら、米韓には隙間風が吹いているのが現実である。

     

    (2)「アンゲラ・メルケルの政治は、保守政治の本質について考えさせる。保守とは何か。保守主義とは、何よりも個人を共同体よりも優先する自由主義とは異なり、個人よりも共同体を重視する政治理念だ。だから保守主義は、共同体の原型である民族を重視し、共同体の過去である歴史を重視し、共同体の生活様式である文化を重視するのだ。メルケル首相が「社会的市場経済」の路線を堅持し、ドイツ統一の意味を大切にし、過去の清算と難民受け入れの政策を展開してきたことは、保守の肯定的な姿と符合する。こうした合理的保守主義がドイツを「尊敬に値する国」、メルケルを「信頼に値する指導者」にしたのだ」

     

    ここで、筆者は保守主義にの本質について誤解している。保守主義とは、既存の価値・制度・信条を根本的に覆そうとする理論体系が表われた時に、これに対抗するイデオロギーである。欧州で言えば、市場経済をぶち壊そうとする共産主義には敢然として対抗するのだ。欧州に、めぼしい共産主義政党が存在しない理由であろう。市場経済の基本は、市民社会である。その基盤は、市民革命である。こういう欧州の歴史と伝統を考えれば、欧州の保守と革新と言っても紙一重の差にしかならない。ドイツでも、連立政権を組める基盤がある。

     


    (3)「韓国はどうか。韓国で自らを「保守」と称する人々を見てみよう。彼らは共同体を語れば「アカ」と攻撃し、民族を語れば「容共」と非難し、歴史を語れば逃げたり歪曲したりし、文化を語れば垣根を作って生きている人々だ。韓国政治の悲劇は、このように良い保守がいないというところにある。いまや韓国政治もメルケル首相から学ぶところがなければならない」

     

    韓国は、宗族社会の遺制を色濃く持っている社会だ。政治上でも、反対派には「敵・味方」論で厳しく対抗して妥協せず、最後まで排斥する。特に、この傾向は進歩派の「共に民主党」に顕著である。文政権は、朴政権に連なった高官をことごとく検察の手に委ねて厳罰を要求した。自殺者が,20名も出たとされている。韓国進歩派は、こういう報復政治を行いない、進歩派政権を20年間継続させる野心を抱いてきた。これに合せて検察制度を変革し、文大統領は引退後に検察の手が回らないように手を打っているのだ。

     

    韓国保守派が、言われるように「箸にも棒にもかからない」とすれば、進歩派も同様にあくどい振る舞いをしていることに気付くべきである。そうすれば,初めて筆者の「大学教授」の肩書が生きるであろう。

     

    反日も、韓国ではこういう論調で切り捨てられている。日本が、一方的に悪いという位置づけだ。韓国は一度、台湾と共同のディスカッションをした方が良いだろう。タイトルは、「日本植民地時代の朝鮮と台湾」である。ぜひ,実行して欲しいものである。

     

    ムシトリナデシコ
       

    米国人は、親切心から「お節介」とされている。ゴルフに喩えれば、やたらと他人に教えたがる「小父さん」タイプだ。アラブでも民主主義を説いて回ったが、成功した国は見られなかった。民主主義は、西欧型の市民社会から生まれたもので、そういう歴史がないところに根付かないものである。

     

    米国が中国と復交後、物心両面で支援して民主主義国になるよう仕向けてきた。結果は、大失敗である。習近平氏からは、想像もしていなかった世界覇権奪回宣言を突付けられ、米国は怒り心頭に達している。改めて、民主主義は西欧文化の生んだもので、他民族には迷惑な政治制度であるのかもしれない。

     

    こういう視点の記事が出てきた。米国は、中国の民主化など期待するな、という結論である。せいぜい、習近平氏から寝首を搔かれないように民主主義国は結束して防衛することが、最善の道であると言うのである。

     


    『ニューズウィーク日本語版』(10月27日付)は、「中国の体制転換を狙う『冷戦型ゲーム』を仕掛けても、アメリカに勝ち目なし」と題する記事を掲載した。筆者は、シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)である。

     

    ビル・クリントンは米大統領在任時に中国のWTO加盟を後押ししたとき、加盟が実現すれば中国に「内側から」変化をもたらすと言った。WTOの一員になることで中国は、アメリカ製品をより多く輸入するだけではなく、「民主主義の最も重要な価値観の1つである経済的自由」も受け入れる──。

     

    (1)「クリントンは、「中国で経済の自由化が進むほど、市民の持つ潜在力も自由化される」と、予測した。だが現実は、それほどシンプルには運ばなかった。2001年のWTO加盟から20年がたった今、中国は予測以上の経済成長を遂げた。だが、民主主義に移行したとは到底言えない。アメリカの指導層は「経済の自由が政治の自由につながる」という前提に自信を失い、今では欧米の民主主義国が中国の影響を受けることを危惧している。バイデン米大統領はこの夏、欧米と中国との争いを「世界中の専制国家との闘い」と定義した。冷戦時代と同様の論理で、最後に残る政治体制は1つということらしい」

     

    中国は,WTOに加盟する際に徹底的に「裏をかく」研究をしたという。WTOルールを守ると誓約したが、最初から守る気はなかったのだ。IMFで人民元をSDRに昇格させる際にも、人民元の自由変動相場制・資本移動の全面自由化を約束したがその後、実行する気配はない。こういう「噓」を平気でつく民族であることを、この際、はっきりと認識することだ。中国には、もともと契約履行という経済倫理が存在しないのである。

     


    (2)「中国もおおむね、これと同じ世界観のようだ。欧米の人権重視の姿勢を、自国の政治的安定に対する脅威と見なしている。アメリカは慎重になるべきだろう。今や中国は超大国で、その経済は世界の成長と繁栄を支えている。中国の体制が根本的に変化するようなことがあれば、平和的な移行にはならない可能性がある。そうなれば、影響は世界中に及ぶ。もちろん中国共産党が許さない限り、そうした変化は訪れない。共産党は改革の芽を、ことごとくつぶしている」

     

    中国社会は、儒教倫理による上下関係によって社会秩序を形成している。民主主義社会は、上下の関係でなく対等の関係で形成される。中国では、「私」概念は邪悪である。民主主義社会では、「私」概念が社会を構成する基本単位である。このように、倫理・通念の異なる中国へ民主主義を説いたところで迷惑がられるだけなのだ。今まで、米国はこれに気付かずに中国を「友人」と思っていた。米国は今、その間違いに気付いたのだ。

     

    (3)「中国共産党は、権力の独占など自らの目的に沿う形で、ある種の資本主義を使うことに成功している。経済成長は一党独裁制に、政治学者のサミュエル・ハンチントンが言う「業績に基づく正統性」を与えている。しかし一方で、経済の急激な減速が起きれば、この状態が覆ることもあり得る。経済運営がこのまま成功することが、共産党にとって問題となる可能性もある。アメリカの指導層が抱く「経済的自由が独裁制を弱める」という前提は、あながち間違いではない。かつてスペインのフランコ独裁政権では、まさにそうしたことが起きた。経済的繁栄と国外との接触の増加は、専制国家の内部に不満を蓄積させることがある」

     

    中国共産党にとって、経済は便法に過ぎない。人民を支配するツールである。下線部は、まさにそういう意味である。ただ、中国共産党は、自らの意図から外れた経済成長になれば、権力で抑え込む手法を持っている。現に、「共同富裕論」がそれだ。社会的不平等が拡大すると、政治的なツールである「共同富裕論」を持ちだして封じこめようとしている。

     

    ただ、成功する確率はゼロである。一時的に「蓋」をしているだけだ。いずれ、さらに問題は大きくなってくるが、それに耐えられなければ権力の交代が起るだけであろう。辛亥革命が、中国の近代化にならなかったのは、中国に民主化を育てる土壌(固有の文化)がなかったことを意味している。台湾にそれがあったので民主化が成功した。その土壌を生んだのは、日本の植民地時代の教育である。それが芽を吹いたのである。

     


    (4)「だからこそ中国共産党は、高いコストをかけても経済の完全な自由化を抑え込み、国家部門を温存し続けている。国内の治安維持に力を入れているのも、これが大きな理由だ。17年の治安維持費は1兆2400億元(約22兆円)で、国防費を2200億元(約3兆9100億円)も上回る。こうした政策により、中国で革命が起きる可能性は低くなる。仮に中国でクーデターが起きたとしても、欧米の民主主義に近いものをもたらすと考える根拠は乏しい

     

    下線部は、中国文化が圧力釜そのものであることを意味し、フライパンでない証明だ。

     

    (5)「中国による安全保障上のリスク軽減のためには、アメリカが「何をやるか」と同じくらい「何をしないか」も重要になる。バイデン政権がやるべきなのは、AUKUS(オーカス)やクアッドなど昨今進めている集団的安全保障の枠組みの構築をさらに続けること。一方、やるべきでないのは、中国の体制転換を狙った冷戦時のようなゼロサムゲームを仕掛けることだ」

     

    もはや、中国が民主主義国になる夢を捨てる時期だ。中国4000年の歴史が、専制主義を育てたのである。それが、50年や100年の短い期間で変わるはずもない。圧力釜はフライパンにはならないのだ。

     

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    文政権誕生では、市民の「ローソク・デモ」が朴・前政権の退陣を求める上で大きな力になった。裏から支えたのが労組である。こういう経緯から、労組は文政権生みの親気取りで振る舞っている。違法デモを公然と繰返しているのだ。

     

    警察は、文政権の意向を「忖度」し見て見ぬ振りをしている。これが一層、違法デモを拡大させる要因となっている。本来ならば、労組デモは学生から支持を受けそうだが、今や呆れられる存在にまで堕ちてしまった。

     

    ソウル大学、釜山大学、全北大学など、韓国113の主要大学のキャンパスには、労組デモ反対の内容が書かれた壁新聞が掲示されるほどである。今月20日にゼネストと大規模集会を予告した全国民主労働組合総連盟(民労総)を「民弊労総」と呼んで強く非難するほどになっている。

     

    与党「共に民主党」は、来年3月の大統領選挙を控えて、有力支持団体の労組がこういう違法ストを行っても止められない現実に、批判の矛先が向けられている。

     


    『韓国経済新聞』(10月24日付)は、
    「『国民の迷惑』になった民主労総、さらに切迫した労働改革」と題する社説を掲載した。

     

    平日の10月20日午後2時、ソウルで民主労総が違法集会を強行した。この余波で都心の機能が2時間以上まひした。主宰側推定で2万7000人が西大門(ソデムン)駅交差点を出発し、ソウル市庁、乙支路(ウルチロ)などに移動した。警察は光化門(クァンファムン)に車壁を設置したが違法デモを事実上傍観した。全国14地域で行われたこの日のストで学校給食と学童保育が打撃を受けた。

    (1)「民主労総の違法集会はきのうやきょうのことではない。民主労総のヤン・ギョンス委員長は7月3日にソウル都心で全国労働者大会を主導した容疑で9月2日に拘束された。違法集会直後に新型コロナウイルス第4波が始まった。今回の集会はタイミングがさらに悪い。多くの国民が日常回復に向け「ウィズコロナ」を準備すべき敏感な時に集団感染リスクの懸念を拡大した」

     

    民主労総のヤン・ギョンス委員長は、違法ストライキ指導の疑いで警察から再三の呼び出しを受けても無視、最後は逮捕されることになった。労組の背後には、文政権が控えているという甘えが、警察の呼び出しを無視する挙に出たと見られている。労組が、政治権力と密着している姿は醜悪の一語に尽きるのだ。

     


    (2)「民主労総問題は、いまや単純に違法集会次元だけではない。民主労総は最近全国を事実上無法共和国にしている。8月に京畿道金浦(キョンギド・キンポ)の宅配代理店事業主は民主労総傘下の宅配労組組合員から集団で仲間はずれにされついに極端な選択をした。9月には民主労総貨物連帯所属組合員の利権争いの渦中にパリバゲットの運送ストで全国3400店のベーカリーが材料を適時に確保できなくなり営業に大きな被害を受けた。組合員はSPC三立の工場入口で材料配送を防いだりもした」

     

    労組は、与党が後ろについているということから、「無理筋」のことを平気で行っている。これが世論から非難されて、与党支持率を引下げている。

     

    (3)「雇用労働部の消極的な対応も事態を拡大した。民主労総は自分たちの支持で文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生したと考えるのか、公権力の前でも傍若無人なスタイルを見せた。文在寅政権になってからの5年間に全国の建設現場で1日平均23回集会が開かれたが、制裁は1件もなかった。労組の生産現場違法占拠が毎日のように起き、「労労衝突」が起きても当局は積極的な対策を立てなかった。いま民主労総は政治権力集団になり、大韓民国の法と原則を無視する「秩序破壊者」になった局面だ

     

    下線部の指摘は深刻である。権力を結託して、秩序破壊者に成り下がっている。日本では、考えられない光景だ。韓国の国民性の表われと言うのであろう。

     


    (4)「韓国社会において「民主労総の怪物」が誕生する過程で、文在寅政権の責任は軽くない。「雇用大統領」を標榜して非正規職の正規職化を強行した。公企業は先を争って正規職転換を急ぎ、賃金も大幅に引き上げた。そして後処理は、国民の税金で埋め合わせている。それでも民主労総は11月には全国労働者大会を、来年1月には民衆総決起大会を予告している。政治色の濃厚な集会を通じ大統領選挙局面で勢力を誇示しようとする布石だ」

     

    政府系企業有力38社中、16社が営業利益で借入金利息を払えない「ゾンビ企業」になっている。人件費増が,経営を圧迫しているのだ。全て、労組の要求を丸呑みして起こっている現象である。

     

    (5)「世の中は第4次産業革命と人工知能の拡散で日を追うごとに変わっている。政治色を前面に出し「貴族労組」の利益だけ得ようとする民主労総の労働運動は次第に限界に直面している。文在寅政権は、いま民主労総を統制する意志も力もないように見える。今後、期待するのは次期政権だけだ。大統領選挙候補は年金改革とともに労働改革に対する明確な公約とビジョンを提示しなければならない。ポピュリズム公約を徹底的に排除し違法行為は法により厳しく処断するという大原則を再確立することが問題解決の出発点だ。労働改革なくして大韓民国の持続可能な成長もない。労組権力に対抗し英国の労働改革を主導したサッチャー元首相のリーダーシップも参考にできるだろう」

     

    韓国経済組織を一変させるには、英国のサッチャー元首相のように、労働運動を正常化させることが必要である。ただ、これを実行する段になると、大騒ぎになることは確実である。貴族労組が、好き勝手に文政権を操ってきただけに、今後の暴発が予想されるのだ。

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    中国は、昨年9月に習近平中国国家主席が「中国が新型コロナウイルス戦争で重大で戦略的な成果を上げた」として事実上新型コロナウイルス終息宣言した。今にしてみれば、大変なフライングであった。来年2~3月の北京冬季五輪を控えて、デルタ変異株が流行の兆しを見せているのだ。

     

    中国製ワクチンは、デルタ変異株には効かないことで有名だ。インドネシアでは、多数の医師が中国製ワクチンを2回接種後に、デルタ変異株に感染して多数の死亡者を出した。このことから、「中国製ワクチンは効かない」という評判が世界中へ知れ渡る事態になった。WHO(世界保健機関)でも、中国製ワクチン接種者は、欧米製ワクチンを追加接種するよう通達を出す騒ぎである。

     

    中国は現在、欧米製ワクチンの接種を認めていない。欧米が、中国製ワクチンを承認していない結果だ。この中国による「対等主義」が、とんだ災いをもたらそうとしている。中国で現在、感染拡大の兆候を見せ始めたデルタ変異株に対して、有効な欧米製ワクチンを承認していないのだ。

     


    そこで、習近平氏は例によって強気を装いつつ、G20において次のような提案をした。

     

    (1)「世界保健機関(WHO)のワクチン緊急使用リストを根拠に『ワクチンの相互承認を推進する』と語った。米欧が中国製ワクチンを承認することを条件に、米欧のワクチンの中国内での使用を容認する考えを示したとみられる。今年だけで20億回分以上のワクチンを海外に提供する計画も改めて示した」(『日本経済新聞 電子版』10月30日付)

     

    欧米が、中国製ワクチンを承認すれば、中国も欧米製ワクチンを承認するというのだ。一見、強気の提案だが、中国でぜひ欧米製ワクチンを使用したいというカムフラージュである。欧米は、中国製ワクチンをこれまでも承認しなかったのだから、いまさら承認する必要性がないのだ。現状において中国は、欧米製ワクチン接種が不可能である。したがって、得意のロックダウンでしのぐしか方法はあるまい。メンツに拘らず、欧米製ワクチンを承認して、感染を防ぐ方がベターなのだ。

     


    習氏が、欧米製と中国製のワクチン同時承認を狙う裏には、これによって中国製が世界的ワクチンであることのお墨付きを得たいのである。これによって、中国製ワクチンの輸出テコ入れを狙っているのだ。

     

    『ブルームバーグ』(9月31日付)は、「中国ワクチン輸出減少、『mRNA』へのシフト広がる-新型コロナ」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスワクチンの接種が始まったばかりのころ、無数の命を救ったのは中国製ワクチンだ。

     

    (2)「中国がアジアと中南米、中東で接種プログラムを始める一方で、比較的豊かな国々は米国のファイザーやモデルナが開発したメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの確保に動いていた。だが今では、かつて科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)あるいは中国医薬集団(シノファーム)の不活化ワクチンに頼っていた多く国が欧米製のワクチンを選択するようになっている。デルタ変異株に対する中国製の効果を巡る懸念が広がり、欧米勢によるmRNAワクチン囲い込みも緩んでいるためだ

     

    有効性から見て、中国製ワクチンは欧米製に敵わないという現実がある。中国製ワクチンしかない段階では、購入したが欧米製ワクチンが登場して、中国製ワクチンの役割が終わったのだ。

     


    (3)「こうした変化はすでに中国の通関統計に示されているようだ。中国のヒト用ワクチン輸出は2020年12月から着実に増えていたものの、今年8月は19億6000万ドル(約2190億円)と、7月の24億8000万ドルから21%急減した。香港城市大学のニコラス・トーマス准教授は、ワクチン接種が初めて可能になったときは「人々は基本的に手に入るワクチンの接種を受けた」が、「接種が進むにつれ、医療従事者だけでなく一般の人々もワクチン間の違いについて多くを知るようになった」と指摘。「人々は予防という点で全てのワクチンが同じではないことに気付いた」と述べた」

     

    下線のように、中国製ワクチン輸出高は8月に前月比で21%もの急減である。中国当局が、輸出市場拡大の手段として欧米製ワクチンと同等の扱いを求めていることは明らかだ。習氏は、欧米製ワクチンの国内使用と中国製ワクチンの輸出テコ入れの両面を狙ったのだ。

     

    (4)「シノバックはブルームバーグへの書面による回答で、同社のワクチン「コロナバック」は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)において入院や集中治療、死亡を効果的に防いできたとコメント。シノバックの広報担当者は、一部の国は入院リスクの高い高齢者にまず接種し、後に比較的若い人々が別のワクチンの接種を受けたと説明し、「このことはコロナバックの有効性評価に加味すべきだ」と主張した。シノバックによると、タイなど多くの国が「人口に応じ接種回数を最大化するため複数のサプライヤーからワクチンを購入」している」

     

    中国製ワクチンが、これまで役割を果たしたことは事実だが、初期の「火消し役」であったことも明らか。それ以上ではない。

     

    (5)「中国製ワクチンから距離を置き始めているか、欧米製のワクチンで「ブースター」と呼ばれる追加接種を行う国には、シンガポールやトルコ、アラブ首長国連邦(UAE)も含まれる。香港では、保健当局が欧米製ワクチンをブースターとして用いた場合、中国製ワクチンの効果が上がるか検証中だ」

     

    欧米ワクチンが、「ブースター」として選ばれている。中国製ワクチンの役割は終わった。

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    韓国とは,不思議な国である。コロナ感染者が一日2000名を超えている中で、11月1日から「ウィズコロナ」へ踏み切るからだ。日本が、10月1日から緩和に踏み切ったことで、「韓国も負けない」という妙な意地を張った結果のように見える。現に、医療側からは、「医療崩壊」を危惧する発言が相次いでいる。今回の決定は、政治主導で行われたのは明らか。ここまで、日本を意識しているとは、気の毒にさえなる。

     

    『中央日報』(10月30日付)は、「韓国、医療対策のないウィズコロナ 専門家『感染者急増による医療崩壊も』」と題する記事を掲載した。

     

    11月1日から段階的な日常回復(ウィズコロナ)が本格的に始まる。私的な集まりや営業時間の制限が大幅に緩和され、全面登校授業が再開される。2年近く続いた新型コロナとの戦争を終え、コロナと共存する道を進むことになった。専門家らは日常の回復を先延ばしできないと強調しながらも、政府の準備不足を心配している。突然の防疫緩和で感染者が急増する場合の対策がないという指摘が多い。中央災難安全対策本部は29日、「段階的な日常回復履行計画」を発表した。

     


    (1)「日常回復は3段階で進められる。政府は生業施設→大規模行事→私的な集まりの順で防疫措置を緩和する計画だ。ひとまず11月末までに第1段階を進行し、予防接種完了率、医療体系余力および重症患者・死亡者発生、流行規模など推移を眺めながら第2段階への転換を検討する計画だ。2週間の評価期間は状況によって調整可能で、日常回復支援委員会への諮問を経て中央災難安全対策本部で次の段階への移行を決める」

     

    日常回復は3段階で行う。11月末までに第1段階を進行。その後の様子を見て、第2段階への転換を検討する計画する。

     

    (2)「第1段階では遊興施設(24時まで)を除いてカラオケボックス、室内体育、入浴場などすべての施設は時間制限なく営業できる。首都圏では10人、非首都圏では12人まで私的な集まりも可能だ。マスクを外すことになる飲食店では未接種者は最大4人まで含めることができる。ワクチン接種・新型コロナ陰性証明書「防疫パス」は1週ほどの試験期間を置いて適用し、第2次改編からは廃止する。状況が悪化する場合は非常計画(サーキットブレーカー)を発動する。集中治療室の病床稼働率が75%以上または週7日移動平均70%以上である場合に検討する。その前に予備警報も出す」

     

    第1段階では遊興施設(24時まで)を除いて、カラオケボックス、室内体育、入浴場などすべての施設は時間制限なく営業できるという。カラオケボックスは、感染率が高いとされているだけに大丈夫なのか。

     


    (3)「ウィズコロナで防疫措置を緩和すれば初期感染者が急増する可能性がある。これに対応する準備が不足しているという指摘が出ている。接種率が高まっても初期接種者の防御効果は日々低下する。ウィズコロナの適用を控え、7月から続いてきた第4波が10月に入って落ち着き始めたが、最近また増加している。新型コロナの伝播力が高まる冬季が近づいている点も日常回復の進行に不利な点に挙げられる

     

    下線のように現在、一日2000人を超える新規感染者が出ているなかで「ウィズコロナ」だ。季節的にも感染しやすい冬季に近づいている。

    (4)「政府は最近の感染者増加について、「18日に私的な集まりの規制などを一部緩和した影響」と分析した。しかしソウル大のキム・ユン医大教授は「防疫緩和が理由なら飲食店やネットカフェのような大衆利用施設で多くの感染者が出るはずだが、そうではない。最近の感染者の大部分は療養型病院・療養院、病院、学校、職場で出ている」とし「現在の感染傾向をみると、接種で得た効果が落ちた高齢者や脆弱階層がいる施設で大規模な突破感染が発生したり、まだ接種していない生徒が集まった学校で出ている」と説明した。実際、この日、昌原(チャンウォン)のある精神科病棟で121人の集団感染が確認された。ほとんどが突破感染と推定される」

     

    下線部は、韓国の防疫体制の偏りを示している。コロナの集団発生(クラスター)は、疫学的に最も警戒すべき現象と指摘されている。韓国では、中国と同じで全数調査にこだわっている。そうではなく、疫学的に発生リスクの高いところを「潰して」行くべきである。だから、検査数が多いことだけでは自慢にならないのだ。この点が、日本と決定的に異なっている。日本は、ワクチン接種も職域単位で行ったことがクラスター対策として有効だった。

     


    (5)「専門家らが最も憂慮するのは感染者急増による医療崩壊だ。感染者が増えれば重症患者も増え、十分な治療を受けることができなければ死者も増えるしかない。大韓医師協会新型コロナ対策専門委員会のヨム・ホギ委員長は27日のウィズコロナ懇談会で「国内の一日の感染者が2万人まで増える可能性もある」という見方を示した。大韓医師協会は29日、「第5波のシナリオと対策を出して、大規模な患者発生による重症患者診療体系と在宅治療に対する準備を徹底する必要がある」という声明書を出した

     

    韓国の医師会は、「ウィズコロナ」に伴う第5波感染対策をすべきという警告の声明を出している。疫学的には、感染者が急増するという認識である。疫学専門家の意見を無視した「ウィズコロナ」である。政治の独走は間違いなく、その裏には、日本が「ウィズコロナ」で上手く進んでいることへの対抗であろう。



    (6)「ソウル大のキム教授は、「短期的には医院を含むすべての病院がコロナ患者に対応できるようにすべきだが、その部分の議論は進展せず、従来のように重症患者病床を動員するような接近では限界がある」とし「このためウィズコロナに入ればすぐに基準に到達して一時停止し、再調整の過程に入ることも考えられる。そうなれば国民をどう説得するのか心配だ」と警告した」

     

    このパラグラフでは、専門家の危惧が表明されている。11月に入ってから、さらなる感染者急増の場合、国民に対してどう説明するのかと、すでに警告されている始末だ。それほど、先行きが懸念されるにちがいない。

     

     

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