勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年10月

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    韓国は、反日が生きがいになっている感じさえ与える国になった。これにより、不都合なことも多いのだ。日韓関係は、歴史問題さえ持出さずに来れば万事、丸く収まっていたはずである。それが、解決済みの徴用工と慰安婦の問題で深刻な対立を生んでいる。外交に歴史問題を持出すことはタブーなのだ。文政権は、自らその外交の「掟」を破って四苦八苦している。

     

    『朝鮮日報』(10月13日付)によれば、韓国陸軍が1999年から2000年に導入した12機のドイツ製偵察ヘリBO105の標的捕捉探知装置(TADS)が故障して修理もできない状態にあるという。韓国陸軍が導入したBO105はTADSを使って夜間にも標的を捕捉できる仕様だが、故障のために夜間の偵察は難しく、昼間に肉眼でのみ偵察が可能で、同紙は韓国軍が1200億ウォン(約114億円)の血税を無駄にしたと報道した。

     


    こういう事例は、自衛隊に相談すれば少なくとも解決のヒントを得られたであろう。それが、2018年12月に起こった韓国海軍艦艇による、海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件で対立したままだ。韓国軍は従来から、北朝鮮軍を「主敵」としてきた。今や、自衛隊がその位置に代わるという異常な振る舞いをしている。これでは、日韓の防衛協力も途切れたのも同然である。日本へ前記の
    TADS故障の修理問題で相談できるはずもない。

     

    『ニューズウィーク日本語版』(10月27日付)は、「インド太平洋の安保同盟 QUADAUKUSから取り残される韓国」と題する記事を掲載した。筆者は、佐々木和義氏である。

     

    韓国軍は当初、米国製F35Aを60機配備する計画だった。しかし、日本政府が護衛艦「いずも」と「かが」をF35Bが発着できる軽空母に改修する計画を発表した直後の19年8月、韓国政府が軽空母の開発に着手すると発表し。20年8月、F35Aの20機を垂直離着陸型のF35Bに変更すると発表した。

     


    (1)「ロッキード・マーチン社が公表しているF35Aの航続距離は2200キロメートル以上で、韓国内のすべての空軍基地から北朝鮮全域をカバーする。一方、F35Bは航続距離が短く、また、搭載できる兵器も少ないことから有事の際の運用に限界がある。さらにF35のアジアの整備拠点は、韓国が戦犯企業に挙げている三菱だ。一定の飛行時間ごとに行われるメンテナンスやオーバーホールと修理など、国際整備拠点「MRO&U」で行う決まりで、自衛隊と在日米軍や在韓米軍等のF35は愛知県にある三菱重工業のF35最終組立施設「FACO」で行われる」

     

    F35の定期修理工場は、アジア拠点が愛知県の三菱重工業である。韓国が、反日を貫けば日本を避けるであろう。代わりにどこへ行くのか。

     

    (2)「韓国軍が指定可能な「MRO&U」は愛知県の「FACO」、オースラリアのウィリアムズタウン、米国のフォートワースである。韓国から直行可能な「MRO&U」は三菱しかない。韓国からウィリアムズタウンへは、韓国の清州空軍基地から米国のグアム空軍基地やオーストラリアのタウンズビル空軍基地を経由するなど片道だけで最低3日はかかる。フォートワースへの自力飛行は不可能だ」

     

    韓国は日本を忌避すれば、オースラリアのウィリアムズタウンか米国のフォートワースである。韓国から豪州のウィリアムズタウンへは、片道だけで最低3日掛かるという。韓国は,意地を張れば大変な時間的なロスが掛かる。

     


    (3)「李秀赫(イ・スヒョク)駐米韓国大使は10月13日、国政監査で「クアッド(QUAD:日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国による外交・安全保障の協力体制)」参加に関する野党の質問に「当分の間は参加国を増やす考えがないことを米国側と確認した」と答弁した。コロナ禍の長期化で、中国との蜜月関係の構築が厳しくなった文在寅政権は、(米国あら)招待されたら(クアッドへ出席を)検討する方針に転化したが、バイデン政権が韓国を招待することはなく、米国が韓国をクアッドに参加させる意思がないことを明確に示したことになる」

     

    米国は、インド太平洋戦略では、「クアッド」(日米豪印)と「AUKUS」(米英豪)の二頭馬車を編成した。前者は、緩やかな対話集団。後者は、軍事同盟である。この「ツー・トラック」によって、韓国の出る幕はなくなった。駐米韓国大使は、「日本が韓国のクアッド参加を拒否した」と発言している。これは、言外に「韓国も参加の意思を固めていた」ことを覗わせている。韓国は、クアッド参加のタイミングを逸したのだ。

     


    (4)「英国は9月15日、米国、オーストラリアと3カ国同盟「オーカス(AUKUS)」を結成すると発表した。クアッド参加国の中で中国から距離があるオーストラリアの軍事力が強化され、また将来的にオーカスとクアッドが連携するとみられており、英国がアジアの安保に関与できるようになる」

     

    英国が、インド太平洋戦略に積極的である。今回の「AUKUS」では、中国と軍事対決する意思を明確にしている。英国は、韓国の出番を奪ってまでも中国へ対抗する姿勢を鮮明にしたのである。韓国が、国際情勢を見る目がなかったのだ。

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    中国は、台湾の蔡英文総統が「米軍が台湾軍の訓練に参加している」と発言したことで、激怒している。中国も薄々は知っていたのであろうが、台湾総統の発言によって米軍による台湾軍へのテコ入れが公になった。

     

    蔡氏は、米国CNNとのインタビューで「人々が思っているほど(駐留する米兵は)多くないが、米国とは防衛能力の向上を目的に、幅広い協力関係にある」と指摘した。通常、米軍がほかの国や地域の軍隊を訓練する場合、共同作戦への準備が視野に入る。この点について蔡氏は明確に発言しなかったが、米国は台湾への武器供与を続けている。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は10月7日、米軍が短くとも過去1年にわたり、台湾軍を訓練してきたと報じた。特殊部隊や海兵隊を秘密裏に台湾へ派遣していたという。

     

    台湾の蔡氏が、米軍の台湾駐留事実を初めて公式に認めたことで、中国は台湾に対して強硬発言をしている。中国国防部は28日、「必要なすべての措置を講じる」と警告し、外交部は「台湾独立は死の道」と言い切るほどだ。米国シンクタンクでは、中国による台湾侵攻のシミュレーションを行っている。その結果、自衛隊が参戦することで状況は大きく変わるとしているのだ。



    『大紀元』(10月29日付)は、「中共による台湾侵攻シミュレーション 抑止には日本の台湾支持が特に重要=シンクタンク」と題する記事を掲載した。筆者は、佐渡道世氏である。

     

    台湾海峡をめぐる米中衝突のリスクが高まるなか、米シンクタンクは10月26日、中国共産党による台湾侵攻を想定した机上の模擬戦争(ウォーゲーム)を実施した。分析によれば、台湾の南東にある東沙諸島(プラタス諸島)を中国に占拠された場合、再び島を台湾に戻すことは極めて難しいという。東沙諸島は南シナ海の海上交通路に差し掛かる位置にあることから、中国共産党はかねて入手を試みると想定されてきた。東沙諸島は台湾の施政下にあり、台湾軍兵士500人が駐留する。

     

    (1)「模擬戦争を実施した外交安保シンクタンク・新アメリカ安全保障センター(CNAS)は結果を受けて、侵攻が起こるのを未然に防ぐことが最も重要だと結論づけている。台湾と米国は特に、中国の行動の抑止には日本の関与が不可欠だと指摘する。日本の関与への期待は、中国が絡む他の紛争リスクを抑え込む成功例になりうるためだ。もし、「日本が台湾支持をはっきりさせないなら、中国軍撤退を呼びかける努力の効果も損なわれる」。また、台湾侵攻が実施されてしまえば「日本の領土を含むほかの紛争においても、中国による歯止めの効かない攻撃を許す前例となりかねない」と警告を発した」

     

    下線部は、中国の軍事行動を抑止するには日本の関与が必要であると指摘している。理由は、明らかにされていないが、自衛隊が中国軍の弱点を熟知しているという意味であろう。また、中国経済に及ぼす日本影響力の大きいことを示唆している。中国は、日本の要求を無視できない立場にあると見ているのだろう。

     

    (2)「米国、台湾、中国の専門家によるこのCNASのシミュレーションでは、2025年に中国人民解放軍の特殊部隊が「訓練」と称して突如、東沙諸島に上陸することを想定している。中国軍は島の台湾軍駐屯地を占拠し、兵士らをつぎつぎに捕虜に取る。そして、中国の武装警察や「民間」部隊を常駐させ、実質上の軍事基地化を始める。南シナ海一帯で軍事演習を強化するとともに、台湾への経済的圧迫を強めていく。台湾は最悪の事態である全面戦争を避けるため外交努力を続けるが、周辺国は懸念や非難の声明を出すのみで、効力は低いという。米国は台湾の米軍配置で一時的に対応するが、このほか官民一体の対策センターの設置やインド太平洋のパートナーシップ構築といった「緩慢な政策」しかとれないとCNASはみている」

     

    下線部の擬装作戦は十分にあり得ることだ。最近でも、中国軍は頻りに上陸作戦の訓練を繰返している。中国軍が東沙諸島侵攻後に、米台が「話合い解決」といった生温い対応をすると、禍根を残すと指摘する。上陸してくる中国軍は、徹底的に排除しないと既成事実をつくらせる。そこで、「一兵」たりとも上陸させてならないのだ。

     

    シミュレーションでは、「AUKUS」(米英豪)の原潜部隊出撃は含まれていないようである。最初が肝心である。AUKUSも参戦して、中国軍を追い払うべきである。中国へ、ことの厳しさを教えることである。

     


    (3)「最終的に、米国と台湾は中国を外交的・経済的に孤立させることに注力し、国際的な支持を得ようとする。しかし、台湾に関して「内政干渉」を主張する中国によるアジア地域の影響は強く、ゲームの主導権もまた依然として中国にあり、奪取された島の返還は極めて困難になるという。こうした島の侵攻を未然に防ぐために、CNASは、東沙諸島を、捕食者に危険をわからせる「ドクガエル」にするよう提案している。中国にこの島を占拠すれば軍事、経済、政治の面において高コストであると認識させ、侵略を防ぐ戦略だ」

     

    中国に、東沙諸島侵攻がいかに高い代償を払う結果になるか、事前にそれを知らせる必要性を強調している。そこで、ASEANから最大の信頼を得ている日本が、率先して動くことの重要性を指摘している。軍事的には、潜水艦部隊が出撃して、中国艦船を撃沈すること。経済的には輸出を止めること。ASEANを結束させるべく根回しをすること、などが期待されているのであろう。

     

    (4)「CNASは、中国の侵略を未然に防止するうえで、日本の協力が不可欠だと強調した。米国の同盟国である日本が関与することで、中国による軍事行動や外交がもたらすリスクが変化する可能性があるためだ。日本が関与することで、インドやオーストラリアとの4カ国戦略枠組み(クアッド)の連携も高められる。そして、ベトナムやフィリピンなど、中国による領土侵略に直面する他国との連携の機会も生まれる。報告書によると、この模擬戦争は「将来の予測」ではないが、脆弱性を見つけ、さまざまな意思決定手段を探るのには有効だと付け加えた」

     

    ASEANの中で、日本が最大の支持率を得ている。全体の半分以上が、日本を「好ましい」としている。米国や中国を上回っているのだ。これだけ高い支持を得ている日本が、台湾危機に対して逃げ腰であれば、ASEANの失望を買うだろう。

     

    あじさいのたまご
       

    COP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は、英北部グラスゴーで10月31日から開催される。世界最大の炭素排出国である中国には、頭の痛い国際会議となる。英国のジョンソン首相は29日、中国の習近平国家主席との電話協議で、中国側にエネルギー源としての石炭の利用の段階的な廃止に向けた対応をとるよう要請した。

     

    英政府によると電話協議でジョンソン氏は習氏に「石炭の段階的廃止を含む(温暖化ガスの)排出削減と再生可能エネルギーへの転換を促す具体的な行動をとることが重要だ」と訴えた。習氏は9月下旬の国連総会の動画での演説で、海外の新規の石炭火力発電へ投資しない方針を示した。だが国内の石炭火力については停止の方針は示しておらず、ジョンソン氏はさらなる対策強化を求めたかたちだ。『日本経済新聞 電子版』(10月29日付)が報じた。

     


    中国は、過去の改革開放政策の40年間、環境問題について,ほとんど国際世論を無視して、「GDPオンリー」で暴走してきた経済である。GDPの3分の1は,環境破壊によるものと推計されるほど酷いことをしてきたのである。環境破壊は、先進国の責任と嘯(うそぶ)いてきたもの。それだけに、経済急減速と環境破壊の急進展の重圧が、一挙に中国経済へ掛かっている。市場経済であれば、市場調整で脱炭素が進む余地もある。統制経済で、それが不可能というまさに「三重苦」である。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月29日付)は、「エネルギー危機が重荷、COP26控え後手に回る中国」と題する記事を掲載した。

     

    中国の指導者らが危機対応に奔走していた9月は、英グラスゴーでの国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳会議に向けて中国政府が準備を進めていた時期と重なっていた。こうした状況は、化石燃料からの脱却の加速化を求める国際的圧力と、国内のエネルギー供給の安定を保つ必要性との間でバランスを取るという、中国に突き付けられた課題を浮き彫りにした。

     


    (1)「中国の習近平国家主席は、今年春の首脳会議の場で、2026年以降に石炭消費の削減を開始すると表明した。習氏は昨年の国連総会では「2030年前後」としていた中国のCO2排出量ピークアウトの目標時期を、「2030年以前」に変更した。一部先進諸国は中国に対し、この時期をさらに前倒しするよう求めてきた。10月24日に公表された16ページの文書は、主として既に発表されていた約束を再確認するものだった。しかしアナリストらによれば、2026~30年に石油消費量を頭打ちにするという目標は、中国のCO2排出量が2025年の水準付近でピークアウトすることを示唆している

     

    下線部は、重要な点を指摘している。中国の経済成長率が2025年近辺で大きく屈折することを前提にしている。中国のエネルギー専門家は、中国経済の先行きを極めて警戒的に捉えていることが、これまでのエネルギー需要予測で示されていたのだ。今後2~3年で急激な省エネ技術革新が起るわけでない。重要の急減が主因のはず。中国経済の腰折れが始まるのだ。要警戒である。

     

    (2)「エネルギー分野の専門家は、ここ20年で最悪と呼ばれる中国の電力不足について、中国指導部がエネルギー市場の扱い方を基本的に誤っていたことが主因だと述べる。中国指導部は迫り来る危機の兆候をほとんど見過ごしていた石炭価格は、市場の動向によって定まるのに対し、電力価格は中央政府が統制している。このため、世界の石炭価格が急騰しても、電力会社はコスト上昇分を消費者に転嫁できなかった」

     

    下線部は、中国の弱点を突いている。石炭価格は市場で決まるが、政府は電力価格を統制している。この矛楯が、現在の中国経済を襲っている。グローバル経済で、統制経済は存続不可能である。その不可能に挑んでいるのが中国である。ドン・キホーテなのだ。

     

    (3)「エネルギーの供給不足は、9月の終盤に表面化した。一般炭の基準価格は9月24日に1079元(約1万9000円)と、3月初め時点の580元からほぼ2倍に跳ね上がった。この危機は、政治的な小競り合いを引き起こした。最近の協議に詳しい人物らによると、さまざまな政府機関および国有企業は危機の原因の1つとして、李克強首相が支持した電力価格の統制政策を挙げている」

     

    3月初めの一般炭価格が、9月末にはほぼ2倍に跳ね上がった。この間、電力料金は据え置きである。電力会社は、発電を増やせば増やすほど赤字が累積する。これでは、停電が起って当然である。中国政府は、電力価格の統制を続けて、ついに電力危機を招いた。

     


    (4)「李氏が率いる中国の経済政策立案者らは長年、電力価格の急騰を容認することで生じる社会的影響への懸念を表明していた。李氏は過去数年の政府の年次報告書で、2018年と19年の電力価格を10%、2020年の価格を5%引き下げることさえ求めていた。工場の生産コストを抑えるためだ。協議を知る2人の人物によると、一連の緊急会合(10月初めの国慶節の連休の間に開かれたものを含む)の後、習主席は価格統制を緩めることに賛成した。中国は10月12日、石炭火力発電の電力価格の変動レンジをこれまでの10%から20%に引き上げ、大口顧客については変動価格にすることを容認すると発表した」

     

    価格は、政治権力による統制で引下げられるものでない。市場経済の中で競争や技術革新などで自然に下がるものである。中国は、政治権力が市場の調整力を奪ってしまい硬直化させている。これぞ、一大欠陥である。中国社会主義とは、こういう融通の利かない制度である。

     


    (5)「冬の到来が近づく中、国家発展改革委員会は10月19日、記録的な高値となっている石炭価格を引き下げるため、中国の価格法で規定されたあらゆる必要な手段を行使する意向を表明した。
    エネルギー問題を専門とする英オックスフォード大学のミハル・メイダン教授は「現在のエネルギー危機は、『電気料金の値上がり分を誰が負担するのか』という問いを中国に突き付けることになった」と指摘した」

     

    価格決定権は市場が持つ。ただし、経済的な弱者にその負担が強く及べば、所得再分配制度でその不公平を解消すべきである。中国の財政制度には、そういう再分配機能がほぼゼロである。金持ち優遇の税制を行っている結果だ。中国は、その意味で社会主義国家ではない。18世紀の資本主義経済である。

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    韓国の有力政府系企業36社(資産2兆ウォン以上)中、19社が営業利益で利息も払えない「ゾンビ企業」となっていることが分かった。この裏には、文大統領就任後に人気取りのために行った、アルバイトを「正規雇用」にしたことによる人件費増が、経営を圧迫したことも影響している。

     

    非正規雇用を正規雇用にするのは、政治的に言えば「美談」であろうが、一方では赤字を増やしている。最終的には、国民の税金で尻ぬぐいせざるを得ない。真の雇用問題解決は、お涙頂戴でなく、韓国経済全体の最適資源配分を行うという経済政策の原点に立ち戻ることだ。

     

    日本では、従来の政府系企業がほとんど民営化されている。この結果、韓国のようなゾンビ企業は生まれる基盤がなくなった。この面でも韓国は遅れている。その理由は、政府系企業の労組が大きな政治的な力を持ち、政治を動かしているからだ。「弱い労組」も困るが、強すぎる労組は国家経済を破綻させるリスクを孕んでいる。

     

    『朝鮮日報』(10月29日付)は、「韓国の大規模政府系企業19社は利払いもできない『ゾンビ企業』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国企画財政部はこのほど、大規模政府系企業の半数近い19社が今年、稼いだ利益で利息を支払えないほど深刻な経営難に陥ると予想した。

     

    (1)「秋慶鎬(チュ・ギョンホ)国会議員が28日、企画財政部から提出を受けた資料によると、政府系企業350社のうち、資産が2兆ウォン(約1900億円)以上ある38社と政府が損失を補填しなければならない2社など政府が「中長期財務管理対象」に指定した40社のうち、韓国電力公社、韓国石油公社、韓国鉄道公社(コレール)など19社の「インタレスト・カバレッジ・レシオ」が1を下回ると予想した。インタレスト・カバレッジ・レシオは年間の営業利益を利払い費用で割った数値で、1を下回れば稼いだ利益で利払いを賄えないことを示す」

     

    下線部は、韓国のインフラ企業の「インタレスト・カバレッジ・レシオ」が1以下という最悪事態である。電力・石油・鉄道が営業利益で利息も払えない状態とは驚きである。日本であれば、この一事で政権交代の要因になるほど重大な問題である。しかも、それが1~2社程度でなく有力政府企業の半数にも達するのだ。大袈裟に言えば、「国家破産」という表現も可能だろう。危ない橋を渡っているものだ。

     


    (2)「
    2016年時点でインタレスト・カバレッジ・レシオが1未満だったのは9社で、17年には6社に減ったが、その後は毎年増えている。今年19社まで増えれば、文在寅(ムン・ジェイン)政権発足1年目に比べ3倍に増えることになる。大規模政府系企業40社の合計営業利益は5兆5000億ウォンと予想されるが、利払い費用はそれを上回る6兆4000億ウォンが見込まれ、1兆1000億ウォンが不足する」

     

    インタレスト・カバレッジ・レシオが1未満だった「ゾンビ企業」は、文政権が発足後に3倍増になる。進歩派政権への交代で、経営に素人の幹部が大量に採用され、貴族労組と「お手盛り経営」を行ったことは間違いない。

     

    文政権は、朴政権の任命した政府系企業の役員を任期中にもかかわらず、圧力をかけて退任へ追込んだ。一部は、裁判沙汰になって政府が敗訴したほど。こういう強引な人事で「論功行賞」を行った結果が、大量の「ゾンビ企業」を生む背景である。他国の話だが、よくもこういう不合理なことを平気で行なうものと呆れる。

     

    (3)「40社のインタレスト・カバレッジ・レシオを計算すると、0.9にとどまった。14年に財務管理対象となる政府系企業のインタレスト・カバレッジ・レシオの集計を開始して以降、初めて1を割り込んだ。16年には3.4あったが、現政権1年目の17年に2.5に低下。18年(1.2)、19年(1.1)、20年(1.6)と3年連続で1倍台だったが、今年はついに1も割り込むことになりそうだ。秋議員は「コロナ長期化や原材料価格上昇など悪材料でエネルギー、レジャーなどの分野の政府系企業の業績が悪化した側面があるが、正社員化強行など政府の要求に伴う経営管理上の問題の方が大きな問題かもしれない」と話した」

     

    政府系企業36社の人件費総額は、朴政権時代の16年の9兆8000億ウォンから昨年の12兆6000億ウォンへと29%増加した。同じ期間に従業員数は12万7000人から15万1000人へと19%増えた。民間の雇用創出能力が低下すると、政府は政府系企業に新規採用を奨励し、文大統領が掲げた「公共機関非正規職ゼロ」の公約に従うため、非正規職を正規職に転換した影響であることは明らかだ。

     

    民間での雇用増加は、経済活性化の証であるので大いに歓迎される。だが、政府系企業での雇用増を、政府の一時的な雇用対策として行うのは間違いである。国民の税金で雇用を維持しなければならない羽目になるからだ。文政権は、最低賃金の大幅引上げで民間企業を虐めて雇用悪化をもたらした。その穴埋めが、政府系企業の雇用増である。文政権ほど、韓国経済へ害毒を残す政権も珍しい。

     


    (4)「韓国政府は主な政府系企業の業績改善により、40社全体のインタレスト・カバレッジ・レシオが来年には1.5まで回復するとみている。しかし、国会予算政策処は最近、2022年度公共機関予算案分析報告書で、「金利が上昇すれば、インタレスト・カバレッジ・レシオが政府見通しよりも悪化しかねない」と指摘した。また、「財務管理対象の政府系企業40社は負債規模が大きく、収益性が悪化すれば、政府の追加的な予算支援が避けられない」とした。大規模政府系企業40社による昨年の負債は512兆1000億ウォンで、公共機関全体(544兆8000億ウォン:350社のうち韓国産業銀行、韓国輸出入銀行、IBK中小企業銀行を除く347社基準)の94%を占める」

     

    このパラグラフは、これから潜在成長率が「0%台」に向かう韓国経済にとって、新たな時限爆弾であることを示唆している。政策金利が、過去最低の「0.5%」に引下げられながら、利息も払えないゾンビ企業を増やしているからだ。しかも、韓国経済を支えるインフラ企業である。韓国経済は、慢性疾患になる深刻な要因を抱え込んでいると見るほかない。 

     

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    中国が、発展途上国において政治的覇権と経済的利益を目的に始めた「一帯一路」は、自国労働者をも搾取する機構であることが暴露されている。中国から連れて行く労働者は当初、好条件で募集する。だが、現地に着くとパスポートを取り上げ、契約時とは違った劣悪な労働条件を押し付け、帰国もままならない事態に追込まれている。

     

    中国政府の宣伝した「一帯一路」プロジェクトは、工事を行う現地で労働者を集めて工事するという触れ込みであった。実際は、建設資材も労働者も全て中国から「持込む」形になった。「一帯一路」プロジェクトに期待した欧州企業は、完全に蚊帳の外に置かれて、「一帯一路」宣伝に利用されるだけとなった。中国は、このようにあくどいことを平気でやっているのだ。 



    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月28日付)は、「『一帯一路』で搾取される中国人労働者」と題する記事を掲載した。

     

    中国人労働者のジャン・チャンさん(31)は今年3月、中国からインドネシアに向かった。中国鉄鋼メーカーの現地工場で働くためだ。6カ月後、彼は4人の男たちとマレーシア沿岸で岸にたどり着こうともがいていた。「詐欺」から逃れるためだった。5人はマレーシアの地元当局に拘束された。ジャンさんは現地のインタビューで「われわれはだまされたと感じたし、自分ではどうすることもできないと感じた」と語った。

     

    (1)「中国政府の公式データによれば、8月末時点で約60万人の中国人出稼ぎ労働者が国外で働いている。その多くは、習近平国家主席の看板政策である巨大インフラ建設事業「一帯一路」と関連する中国企業のプロジェクトに投入されている。ニューヨークを拠点とする労働者の権利擁護団体、チャイナ・レーバー・ウオッチ(CLW)によると、ジャンさんらが経験したような状況は珍しいことではない。CLWが12カ国で働く中国人労働者約200人とのインタビューと、中国商務省の内部告発者1人(名前は非公表)からの情報に基づいて推計したところ、約束より少ない賃金しか支払われていないなど搾取されている出稼ぎ労働者が数万人いるという」

     

    同じ中国人が、中国人を搾取するというケースである。これを読むと、中国人同士ですらこういうことが平然と行われている社会である。他民族に対する搾取は、言うまでもないであろう。

     


    (2)「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の計算によると、中国企業は2013年以降、インドネシアの鉄鋼・ニッケル事業に少なくとも127億ドル(約1兆4450億円)を投じてきた。これらの企業にとってはインドネシアの豊富なニッケル埋蔵量が魅力だった。地元労働者を雇うのではなく本国からの出稼ぎ労働者に依存する中国企業の手法は、一部の国で反感を買っている。インドネシアのある主要労働組合は今年に入って、中国人の非熟練労働者を使うやり方について、地元労働者から仕事をだまし取る行為だと批判した」

     

    地元の労働者を雇って「騙し行為」が発覚すると国際問題になる。だから、騙しても「国内問題で済む」中国人を雇っているのであろう。最初から、計画的な犯行である。

     

    (3)「中国の労働者供給事業者は、労働者を国外に送る手配をする前に政府の認可を得なくてはならない。ジャンさんが連絡を取った民間事業者「Rongcheng Environmental Engineering Co.」がある中国東部・無錫市の商務・人材の両当局によると、地元企業でそのような認可を取っている所はないという」

     

    労働者供給事業者は、政府の認可が必要である。悪徳業者はモグリであるので、政府の認可を取っていないのだ。

     


    (4)「ジャンさんら中国人出稼ぎ労働者が9月初めに微信(ウィーチャット)に投稿した説明によると、彼らはインドネシアに着くと、パスポートを箱の中に入れるよう指示された。その後、中国の非上場鉄鋼メーカー、江蘇徳龍業がモロワリ県で運営する金属精錬所に移動させられた。同社がインドネシアで行うニッケル生産事業は、2020年5月に中国当局が「一帯一路の主要プロジェクト」と説明していた。Rongcheng社は江蘇徳龍の下請け業者の一つ。ジャンさんらはモロワリで、約束されていた月給1万5000元ではなく、1万元の建設業の仕事を提示され、長時間労働を求められた。給与は毎月1000元が現金で支払われ、残りはプロジェクトが完了する将来の不特定の日まで支給されないという内容の雇用契約を提示された。ワンさんが明らかにした」

     

    悪徳人材供給会社は、インドネシア雇用先企業の下請け業者であった。しかも、最初の話では月給1万5000元のはずが、1万元の建設業の仕事を提示され、長時間労働を求められた。給与は、毎月1000元が現金で支払われるだけであった。明らかに食い物されている。

     

    (5)「パプアニューギニアとインドネシア、セルビアで働く中国人労働者はWSJに対し、(コロナ禍で)自分たちの代わりに来る新規の労働者がほとんどいないため、既存の労働者は帰国が禁じられたり帰国しないように言われたりしていると述べている。帰国したい場合は、航空券と隔離のために多額の費用を負担する必要があるという(隔離は2~4週間にわたる)。労働者は通常、往復航空料金の支給を約束されているが、コロナ流行下では雇用主が帰国時の航空料金を出し渋り、労働者を長く仕事にとどまらせるケースが多い」

     

    コロナ禍で、後続の労働者が中国から来ないので、既存の労働者が帰国できずにいる。酷い労働条件がさらに延ばされている。「地獄の延長」である。

     

    (6)「インドネシアにいるジャンさんと、同郷の労働者4人は、自分たちの家族に対し、ジャカルタの中国大使館に何度も助けを求めるように頼んだ。ワンさんによれば、大使館は彼らを助ける力はないとし、代わりに警察に通報するようアドバイスした。雇い主は敷地を警備するために銃を携行した地元の警備員を雇っており、5人はこの雇い主からの反発を懸念し、行動を思いとどまったという。ジャンさんによれば、中国大使館はその後、モロワリにある江蘇徳龍の事務所に5人に関する書簡を送った。これを受け、彼らの管理者は腹立たしげに、パスポートの返却と帰国用チケットの確保と引き換えに7万5000元(約133万円)を要求してきたというジャンさんは「国から出たいのであれば、必ず正規のルートを使い、出国前にまず契約書に署名することだ。われわれのようになってはいけない」と語った」

     

    ジャンさんは、自分の家族にジャカルタの中国大使館に何度も助けを求めるように頼んだという。中国大使館は、ようやく重い腰を上げたが、企業側は法外にも約133万円を帰国費用として要求した。この結果、彼ら5人は違法出国を決意したが悪徳ブローカーに騙されて官憲に逮捕される始末になった。当局は、彼らの置かれている事情を理解し、中国送還となったが、まだ出国日程は決まっていないという。

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