この平和な時代に、中国では火力発電用の石炭不足と価格高騰が災いして停電が頻発している。「世界の工場」は停電で悲鳴を上げている。この結果、9月の製造業景況判断PMI(購買担当者景気予測指数)は、好不況の分岐点の50を割り込んで49.6にまで落ち込んだ。製造業は、すでに「不況局面」入りしている。
中国国家統計局が、9月30日発表した9月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.6と予想外の50割れ。8月は50.1であった。50割れは2020年2月以来だ。新型コロナに襲われた時の衝撃的事態の再来である。前回は「コロナショック」。今回は「停電ショック」と言えそうだ。事態を重く見た政府は、ようやく対策を取り始めた。
『ロイター』(9月30日付)は、「中国発改委、電力料金に需給を反映」と題する記事を掲載した。
(1)「中国の国家発展改革委員会(NDRC)は29日、電力料金に需要と供給を反映させるとともに、暖房と発電の需要を満たすために石炭輸入を規律的に増やすと発表した。また、国内の天然ガス生産量を増やし、液化天然ガス(LNG)のスポット輸入を早期に手配するように企業を指導することも明らかにした」
これまで、電力会社に電気料金の決定権を与えなかった。この結果、石炭価格の上昇で赤字操業を余儀なくされたので停電する事態を招いた。これを避けるべく、電力価格決定権を電力会社に与えることにしたもの。当然の措置だ。
(2)「NDRCは、「(政府は)電力価格が合理的な範囲内で変動することに介入せず、市場原理やコストの変化を価格に反映させる」とコメントした。NDRCは一般家庭の電力消費量は全体の5分の1に過ぎないため、中国は「完全に保護」できるだけの電力を提供する能力があるとした。石炭と電力の供給不足で最も大きな打撃を受けた地域の一つである中国北東部で冬の暖房使用のピークに向けた石炭供給を確保するため、鉱山会社に対して発電所との間で燃料炭の中長期契約の締結を強化するように求めた。一方、政府は中国北部の山西省、陝西省、内モンゴル自治区の主要炭鉱を冬の緊急供給地に指定した」
このパラグラフで注目すべきは2点である。
1)家庭への電力供給は十分に行うものの、企業への言及がないこと。
2)中国北部の石炭産地では生産増を行うこと。
習政権は、二酸化炭素の排出抑制で石炭生産を減産してきたが、背に腹は代えられない事態のため石炭の増産を始めるという。これまで、中国政府が世界気象変動対策に率先、協力するポーズをとってきた。これが、停電騒ぎの頻発で難しくなってきたのである。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月30日付)は、」石炭・天然ガス不足、中国政府の思惑に試練」と題する記事を掲載した。
中国では、危険で老朽化した炭鉱業界の状況を改善するための新たな取り組みによって、供給が伸び悩み、石炭価格が高騰している。それは液化天然ガス(LNG)市場にも波及している。こうした状況は、回復途上にあった中国景気に政府の鉱山閉鎖が打撃となり、石炭価格のすさまじい高騰を招いた2016年末を髣髴とさせる。
(3)「今年3月から8月までの国内石炭生産量は前年同期比で平均1.5%縮小。その一方で、同期間の電力生産量は平均8.9%増加した。このため冬の暖房シーズンに向け、発電所の在庫が急速に減少している。CQコールのデータによると、東部の主要7省では先週、平均在庫がわずか12.5日分と、少なくとも2015年以来の低水準となった。これは2020年10~12月期の平均値の半分にも満たない」
国内の低品質石炭の生産を縮小している一方、電力需要が増えたので停電している。これが、現状説明である。ならば、高品質の輸入炭はどうか。豪州炭は経済制裁で輸入禁止にしているという、ちぐはぐな状態に落ち込んでいる。この混乱ぶりは、漫画を見るような滑稽さである。豪州側にすれば、手を叩いて笑う局面だ。先週の手持ち石炭在庫は、2週間分もないのである。
(4)「最も重要なことに、気候変動やエネルギー効率の目標達成へ向け、中国規制当局が不動産部門や鉄鋼などエネルギー集約型産業を締め付けているため、中国の重工業生産の伸びと電力需要の伸びは急速に減速している。もし中国の不動産セクターが本当に崩壊してしまえば――不動産の巨大企業である中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の解体が遅々として進まないことを考えれば可能性がある――重工業生産はさらに大きな打撃を被るだろう。8月の粗鋼生産量は前年同月比13.2%減少し、電力需要はわずか0.2%増と、ほんの数カ月前には2桁増だったのが、状況が反転している様子が鮮明だ」
皮肉な話だが、中国の二酸化炭素排出に最も貢献するのは、不動産部門の縮小である。これが、鉄鋼・セメント・アルミというエネルギー多消費産業と関わっているからだ。中国恒大が、仮に破産する事態になれば、二酸化炭素排出はぐっと進む。中国政府は、不動産バブル破綻と二酸化炭素排出縮小を天秤にかけている面も否定できないだろう。
(5)「最後に、中国政府にとって手痛い停電の問題がある。石炭価格の高騰により発電所が大きな損失を被り、停電は拡大している。気候変動目標の達成や、エネルギー集約型の重工業からの脱却など、長期的な検討事項は明らかに以前よりも重みが増している。だが、既に景気の足取りが揺らいでいる中、多くの中小企業を倒産に追い込みかねない石炭発電の「ボルカー・モーメント」(注:急激な引き締め)に対し、中国に本当に備えがあるかは依然として不明だ」。
中国が、停電続発問題を象徴する二酸化炭素の排出抑制を急激に進めれば、中国経済は確実にひっくり返るリスクを抱えている。北京冬季五輪は、来年2月に開催される。その時、スモッグでなく青空で迎えるべく、二酸化炭素の排出抑制のため、すでに停電を始めているという見方もある。独裁者は、自分の夢だけ叶えればそれで充分だ。中国下半期の経済失速が懸念される理由である。


