勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年10月

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    この平和な時代に、中国では火力発電用の石炭不足と価格高騰が災いして停電が頻発している。「世界の工場」は停電で悲鳴を上げている。この結果、9月の製造業景況判断PMI(購買担当者景気予測指数)は、好不況の分岐点の50を割り込んで49.6にまで落ち込んだ。製造業は、すでに「不況局面」入りしている。

     

    中国国家統計局が、9月30日発表した9月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.6と予想外の50割れ。8月は50.1であった。50割れは2020年2月以来だ。新型コロナに襲われた時の衝撃的事態の再来である。前回は「コロナショック」。今回は「停電ショック」と言えそうだ。事態を重く見た政府は、ようやく対策を取り始めた。

     


    『ロイター』(9月30日付)は、「中国発改委、電力料金に需給を反映」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の国家発展改革委員会(NDRC)は29日、電力料金に需要と供給を反映させるとともに、暖房と発電の需要を満たすために石炭輸入を規律的に増やすと発表した。また、国内の天然ガス生産量を増やし、液化天然ガス(LNG)のスポット輸入を早期に手配するように企業を指導することも明らかにした」

     

    これまで、電力会社に電気料金の決定権を与えなかった。この結果、石炭価格の上昇で赤字操業を余儀なくされたので停電する事態を招いた。これを避けるべく、電力価格決定権を電力会社に与えることにしたもの。当然の措置だ。

     


    (2)「NDRCは、「(政府は)電力価格が合理的な範囲内で変動することに介入せず、市場原理やコストの変化を価格に反映させる」とコメントした。NDRCは一般家庭の電力消費量は全体の5分の1に過ぎないため、中国は「完全に保護」できるだけの電力を提供する能力があるとした。石炭と電力の供給不足で最も大きな打撃を受けた地域の一つである中国北東部で冬の暖房使用のピークに向けた石炭供給を確保するため、鉱山会社に対して発電所との間で燃料炭の中長期契約の締結を強化するように求めた。一方、政府は中国北部の山西省、陝西省、内モンゴル自治区の主要炭鉱を冬の緊急供給地に指定した」

     

    このパラグラフで注目すべきは2点である。

    1)家庭への電力供給は十分に行うものの、企業への言及がないこと。

    2)中国北部の石炭産地では生産増を行うこと。

     

    習政権は、二酸化炭素の排出抑制で石炭生産を減産してきたが、背に腹は代えられない事態のため石炭の増産を始めるという。これまで、中国政府が世界気象変動対策に率先、協力するポーズをとってきた。これが、停電騒ぎの頻発で難しくなってきたのである。

     


    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月30日付)は、」石炭・天然ガス不足、中国政府の思惑に試練」と題する記事を掲載した。

     

    中国では、危険で老朽化した炭鉱業界の状況を改善するための新たな取り組みによって、供給が伸び悩み、石炭価格が高騰している。それは液化天然ガス(LNG)市場にも波及している。こうした状況は、回復途上にあった中国景気に政府の鉱山閉鎖が打撃となり、石炭価格のすさまじい高騰を招いた2016年末を髣髴とさせる。

     

    (3)「今年3月から8月までの国内石炭生産量は前年同期比で平均1.5%縮小。その一方で、同期間の電力生産量は平均8.9%増加した。このため冬の暖房シーズンに向け、発電所の在庫が急速に減少している。CQコールのデータによると、東部の主要7省では先週、平均在庫がわずか12.5日分と、少なくとも2015年以来の低水準となった。これは2020年10~12月期の平均値の半分にも満たない」

     

    国内の低品質石炭の生産を縮小している一方、電力需要が増えたので停電している。これが、現状説明である。ならば、高品質の輸入炭はどうか。豪州炭は経済制裁で輸入禁止にしているという、ちぐはぐな状態に落ち込んでいる。この混乱ぶりは、漫画を見るような滑稽さである。豪州側にすれば、手を叩いて笑う局面だ。先週の手持ち石炭在庫は、2週間分もないのである。

     


    (4)「最も重要なことに、気候変動やエネルギー効率の目標達成へ向け、中国規制当局が不動産部門や鉄鋼などエネルギー集約型産業を締め付けているため、中国の重工業生産の伸びと電力需要の伸びは急速に減速している。もし中国の不動産セクターが本当に崩壊してしまえば――不動産の巨大企業である中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の解体が遅々として進まないことを考えれば可能性がある――重工業生産はさらに大きな打撃を被るだろう。8月の粗鋼生産量は前年同月比13.2%減少し、電力需要はわずか0.2%増と、ほんの数カ月前には2桁増だったのが、状況が反転している様子が鮮明だ」

     

    皮肉な話だが、中国の二酸化炭素排出に最も貢献するのは、不動産部門の縮小である。これが、鉄鋼・セメント・アルミというエネルギー多消費産業と関わっているからだ。中国恒大が、仮に破産する事態になれば、二酸化炭素排出はぐっと進む。中国政府は、不動産バブル破綻と二酸化炭素排出縮小を天秤にかけている面も否定できないだろう。

     

    (5)「最後に、中国政府にとって手痛い停電の問題がある。石炭価格の高騰により発電所が大きな損失を被り、停電は拡大している。気候変動目標の達成や、エネルギー集約型の重工業からの脱却など、長期的な検討事項は明らかに以前よりも重みが増している。だが、既に景気の足取りが揺らいでいる中、多くの中小企業を倒産に追い込みかねない石炭発電の「ボルカー・モーメント」(注:急激な引き締め)に対し、中国に本当に備えがあるかは依然として不明だ」。

     

    中国が、停電続発問題を象徴する二酸化炭素の排出抑制を急激に進めれば、中国経済は確実にひっくり返るリスクを抱えている。北京冬季五輪は、来年2月に開催される。その時、スモッグでなく青空で迎えるべく、二酸化炭素の排出抑制のため、すでに停電を始めているという見方もある。独裁者は、自分の夢だけ叶えればそれで充分だ。中国下半期の経済失速が懸念される理由である。

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    米政府は9月24日、詐欺などの罪で起訴した中国ファーウェイの孟晩舟副会長(CFO)の身柄を釈放した。米司法省との司法取引の結果であり、孟氏は犯罪事実を文書で認めた。約3年ぶりに帰国した直後に、中国で拘束されていたカナダ人2人も解放された。この件をめぐって、米中に雪解けムードが始まるかという期待もあったが、米国の事務的な処理の結果で政治的意図はない。法人としてのファーウェイの裁判は、米国で続けられる。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月29日付)は、「ファーウェイ副会長釈放 取引成立までの舞台裏」と題する記事を掲載した。

     

    現地時間9月24日午後4時30分、中国機が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)を乗せてカナダ・バンクーバーから飛び立った。ちょうどその頃、中国で拘束されていたカナダ人男性2人が空路で北京を後にしていた。綿密に調整されたとみられるこの「捕虜交換」により、米中加3カ国の関係をこじらせていた大きな火種が解消された。背景には、孟氏が従来の法的立場を一転させたことで、先週に入って交渉が大きく進展したことがあった。米司法省当局者や孟氏の弁護団関係者らが明らかにした。

     

    (1)「孟氏はそれまで数年間堅持していた姿勢を転換し、一部の不正行為を認めることに同意。これが転機となり、カナダ人の企業家マイケル・スパバ氏と元外交官マイケル・コブリグ氏の解放に向けた段取りが一気に動き出した。当局者らが明らかにした。両氏の解放はあまりに性急に手配されたため、2人は北京で飛行機に搭乗する直前まで帰国が認められたことを知らされていなかったという」

     

    カナダ人の逮捕・勾留は、中国による「人質逮捕」という見せしめである。中国の品位を著しく損ねる措置であった。

     

    (2)「孟氏は2018年12月、米当局の要請を受けて、乗り継ぎ地点だったバンクーバーの空港で拘束された。その約1週間後、中国がカナダ人男性2人を拘束し、スパイ罪で起訴。過酷な環境で人質に取っているとして、カナダや他国から批判を浴びた。2人は不正行為を否定した。この記事では、米司法省関係者や孟氏とファーウェイの立場に詳しい関係筋への取材を基に交渉の舞台裏に迫った」

     

    中国の異質性を世界に示す事件である。孟氏は、声高に逮捕の違法性を主張していたが、最後は司法取引に応じ自らの「犯罪事実」を認めた。

     


    (3)「孟氏のチームが問題の決着に向けて司法省幹部との交渉を始めたのは2020年春。ファーウェイの弁護団や幹部も会合の多くに同席した。昨年を通じて協議を重ねていたが、トランプ政権が末期に差し掛かり、拘束からほぼ2年がたとうとする中、双方の隔たりは依然大きかった」

     

    昨年春から、司法取引をめぐる交渉が始まっていた。孟氏は、それを拒否して身の潔白を訴えていた。

     

    (4)「米検察当局は、イランで事業を行っていた傘下企業とファーウェイとの関係について2010年初頭に銀行に虚偽の説明をしたという起訴内容を、孟氏が認めるべきとの主張を譲らなかった。銀行は巨額のドル取引を決済し、イランとの取引を禁止する米国の制裁法に違反したとされる。だが孟氏は不正行為がなかったとの立場を一貫して変えなかった。孟氏は公の場でも非公式にも起訴内容に異議を唱えており、支持者らは孟氏が人質にとられているとの見方を示していた。だが、米司法省にとっては、「ファーウェイが意図的に銀行をだましていた」との事件の核心を孟氏が認めることが、いかなる解決策においても譲れない一線だった

     

    米司法省は、孟氏の違法行為の証拠を掴んでいた以上、「違法事実が存在しない」という空言を認めるわけにいかなかった。

     


    (5)「米司法省幹部は、孟氏が検察の指摘する不正行為を認めるべきという、従来通りの要求を繰り返した。一方で、ファーウェイの起訴とは別に、孟氏の起訴については解決したい意向も明確に伝えた。9月19日、交渉が大きく進展する。孟氏の弁護士テーラー氏が初めて、孟氏が不正行為を認める意向であることを伝え、認める用意のある内容を記した文書を送付したためだ。孟氏は同合意に基づき、自身が2013年、ファーウェイとイランで事業を行う子会社との関係について銀行に虚偽の説明を行い、銀行がイラン制裁法に違反するサービスを提供する結果を招いたと認めた。ファーウェイは声明文で、同社の事業活動に関する米政府の訴えに対しては、今後も争う方針を明らかにした」

     

    9月19日、孟氏は初めて自らの不正行為を認めた。ここに、司法取引が成立して釈放されることになった。一方で、法人としてのファーウェイは告訴されたまま。

     

    この司法取引という制度は、一般には刑事手続において被告人と検察官の間で、被告人の利益と引換えに捜査あるいは公判手続における協力を得ることをいう。米国では、一般的な司法手続きである。

     


    (6)「米司法省関係者によると、米検察側にも決着させたい動機があった。孟氏が米国で有罪評決を受けるか有罪を認めた場合でも、検察側は孟氏が承諾した陳述書と実質的に同じ内容しか得られないとみられていた。また孟氏と同様の通信・銀行詐欺罪に問われている被告人の中には、ほとんど実刑判決を受けていない事例もあった。さらに司法省としては、孟氏が起訴されているブルックリンの連邦裁判所に出廷した場合に、最終的に達成できると望んでいたことの85%が今回の司法取引に盛り込まれていると感じていた」

     

    米検察が、孟氏との間で司法取引を望んだのは、同種の事件で実刑判決を受けない事例のあることだ。孟氏が、仮に無罪になれば検察として「徒労」に終わるので、法人のファーウェイ処罰に重点を置いて司法取引を持ち掛けたとみられる。

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