中国に向かって、人権を説いても無駄とする見方がある。そもそも、中国思想には、「人権」という認識は存在しないからだ。力でねじ伏せて社会秩序を形成する上意下達の国である。実力のある者には従うが、そうでなく説教だけ垂れる人間を軽蔑するのである。
こういう中国人の本質を理解すれば、西側諸国は、防備の固さを見せつけ、中国の弱点を突く戦略がより効果的と言えそうだ。
『ニューズウィーク 日本語版』(12月29日付)は、「中国に道徳を説いても無意味、それでも『核拡散』を防ぐ方法はある」と題する記事を掲載した。筆者は、ケビン・ラッド(元オーストラリア首相・外相)である。
中国は2021年の7月と8月、核弾頭搭載可能な極超音速ミサイルの発射実験をしたとされる。中国側は認めていないが、事実だとすれば戦略核兵器の均衡を脅かすものであり、現に米中間の緊張を一段と高める結果になった。
(1)「同じ時期に、中国が北部の砂漠地帯で最大300ものミサイル格納庫を新たに建設中であることが衛星写真で確認された。敵の目を欺くためのダミーもありそうだが、全体の半分が本物になるだけでも中国の核弾頭数は現状の3倍近くに増える。事態を憂慮する米国務省は10月、「中国核戦力の急速な増強は懸念すべきであり、国家間の安全保障と安定を脅かしている。......中国政府がわが国との協議に応じ、現実的な対策で不穏な軍拡競争と紛争のリスクを減らすよう求める」と警告を発した。すると中国の軍縮担当大使である李リー・ソン松がすぐさま反論し、オーストラリアに原子力潜水艦を供与するために米英豪の3国が結んだ新たな安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」こそ核拡散の「教科書的事例」であり、軍拡競争を加速するものだと非難した」
中国が、AUKUSを懸念していることは確か。豪州が、米英から攻撃型原潜技術を導入して、8隻を建艦する予定だ。これは、中国にとって想定外の事態が発生したことになろう。また、インドネシアが潜水艦基地を建設する。ここへも米原潜が寄港するようになれば。中国はジワジワと追詰められる形になる。
元を質せば、原因をつくったのはすべて中国の「戦狼外交」に始まる。豪州やインドネシアを脅したことが反発を呼び、自ら包囲網をつくらせた。
(2)「今のところ、中国は戦略兵器の削減に関してアメリカとの交渉を拒み、アメリカの保有する4000発近い現役核弾頭数の大幅削減が先だと主張している。だが中国も現に核戦力の増強を急いでいる以上、この理屈は通らない。9月には中国のベテラン外交官で元軍縮大使の沙祖康が声を上げ、相手より先に核兵器を使わないという従来の政策は「もはや時代にそぐわない」と論じた。アメリカは「新たな軍事同盟を結んで中国周辺での軍事的プレゼンスを高め、中国に対する戦略的圧力が強まっている」からだという。そうである以上、「核兵器の先制不使用について中米が交渉で共通理解に達し、あるいは中国の戦略兵器の有効性を損ねるような否定的施策をアメリカがやめない限り」、先制不使用政策を維持すべきでないと沙は説いた」
中国は、これまで周囲に敵らしい敵が存在しないことが、「やりたい放題」の戦術を可能にさせた。南シナ海進出は、その最適例である。中国の底意が、領土拡張にあることがはっきりした以上、これを放置せず包囲することが、中国が危機感を深め軍縮への道を求めるきっかけになる。経済制裁もちらつかせれば、食糧やエネルギーの自給不可能な中国が、軍拡を思い止まるようになろう。
韓国が「二股外交」をしていることは、その意味で極めて障害になる。米同盟国が一体化して中国へ対抗することが、軍拡を防ぐ道になるのだ。韓国は、小賢しく「出し抜け」を狙っている。
(3)「この発言は重い。中国政府の高官が個人的見解を述べることはない。全ては当局の許可があっての発言だ。事が核戦略という重大事に関わるとなれば、なおさらだ。こうした強硬姿勢は現状の危険な変更につながりかねない。だが沙の発言からは、今日の米中対立のルーツも見える。中国政府は自国の核戦力と世界戦略の脆弱性に深刻な懸念を抱いている。そのことをアメリカ側は理解すべきだ。習近平国家主席も繰り返し、これは中国の台頭を何としても阻止したい大国との数十年来の「闘争」だと述べている」
米同盟国は、中国に対して自国国力が「なんぼのもの」であるかを理解させることだ。習氏は、過剰評価しているだけに、徹底的な技術遮断して、裸の力を浮き彫りにさせるべきだろう。
(4)「ここには現状を打開するヒントもある。戦略的世界観に関して、中国は徹底してリアリストだ。彼らに道徳的な正義を説いても何も得られない。だが、冷徹かつ現実的な議論には乗ってくる。両国の競争関係の深化は、むしろ中国を交渉の席に着かせる好機となり得る。そのためには、軍縮合意があれば自国の脆弱性を減らせると、中国に信じさせなくてはならない。どうすればそれが可能か。本格的な交渉には、中国も簡単には応じにくい。しかしアメリカの軍事力を気にしているのは確かで、そうであれば戦略的透明性や危機管理に関する実務者レベルの協議には応じるだろう」
中国が、米同盟国と戦っても勝算のないことをはっきり認識させるべきである。それは、中国経済の破綻が明白になる時期と重なるであろう。この点からも、技術封鎖は不可欠である。
(5)「そうした非公式協議は以前にもあったが、19年に中断された。これを再開し、あるいは新たに対話の場を立ち上げること。それが第一歩ではないか(時期としてはバイデン政権が核戦略の見直しを終える22年春以降になるだろう)。次に必要なのは、相互の信頼構築に向けて予測可能性や互恵性を確保していく手続きだ。これには弾道ミサイル発射実験の事前通告システムやミサイル防衛能力の合同技術評価などが含まれる。できれば、新しいSTART」(戦略兵器削減条約)体制には中国も参加させたい」
西側諸国の団結が、中国を軍拡に誘う必須条件である。韓国の二股外交は、その邪魔になっている。