勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年12月

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    異常気象の原因とされる二酸化炭素排出は、自動車運送が大きなウエイトを占める。この危機脱却手段として、究極のクリーンエネルギーとして「クリーン水素」が注目の的。自然エネルギー利用による水素製造が、二酸化炭素を出さないからだ。そうではなく、水素製造過程で二酸化炭素を出すのはグレー水素と呼ばれる。主流は、もちろんクリーン水素である。韓国は、この研究分野で出遅れているのだ。

     

    現代自動車グループは、2025年発売を目標に進めてきた高級車「ジェネシス」の水素自動車プロジェクトを中断した。内部監査の結果、次世代水素自動車の中核となる技術力と市場性が不備だと評されたためだ。これは、韓国が目指してきた「クリーン社会」実現計画に大きな狂いを出すことになった。

     


    日本は、トヨタを中心に水素電池車と、現在の内燃機関に水素を燃料に使う水素自動車の両面で研究を進めている。水素自動車が実用化できれば、現在の自動車部品企業はそのまま生き延びられるという「雇用問題」も絡んでいる。

     

    『朝鮮日報』(12月28日付)は、「現代自動車『ジェネシス』水素車開発を中断」と題する記事を掲載した

     

    本紙が27日に取材をまとめたところ、現代自動車はジェネシス水素自動車に搭載するため開発中だった「第3世代(水素)燃料電池」の開発成果と研究進ちょく度が当初目標に遠く及ばないという結論を下したことが分かった。燃料電池は水素自動車で内燃機関エンジンと同じ役割を担う中核装置だ。現代自動車グループは監査でこうした結論を出した後、今年11月に組織改編・人事を通じ燃料電池担当部署の役割を大幅に縮小したという。

     

    (1)「現代自動車は、「2025年に水素自動車年間生産13万台」、政府は「2022年に水素自動車販売8万台」をという目標を掲げ、2040年に水素社会を達成し、「環境にやさしい経済成長」という二兎(にと)を得ようとしていたが、こうした「水素ロードマップ」にも赤信号がともることになった。今年11月までの水素自動車累計販売台数は2万台をやや上回る程度だ」

     

    水素エネルギー開発は、コロナ・ワクチン開発と同様に国家の命運を担う重大なプロジェクトである。現代自がこの分野の研究を中断したのは、断腸の思いであろう。水素ステーションの開設や水素電池コストの引下げ見通しがつかないことが理由だ。

     


    (2)「現代自動車は、開発中の第3世代燃料電池システムを今年9月に公開した。販売中の水素スポーツタイプ多目的車(SUV)「ネクソ」に適用された第2世代燃料電池よりも体積を約30%減らし、出力と耐久性を2~3倍高めたという。第3世代燃料電池の中核課題は生産単価だった。現代自動車は、現在3000万ウォン(約290万円)前後と推定される車両燃料電池価格を2025年までに50%以上引き下げる計画だった。水素自動車の価格競争力を確保するためだ。しかし、現代自動車は最近の監査で燃料電池生産単価引き下げ計画の現実味は薄いと判断したことが分かった。水素自動車ロードマップ達成のための「水素自動車事業性」そのものに疑問符が付いたということだ」

     

    トヨタ自動車は12月9日、水素で走る燃料電池車(FCV)のセダンタイプ乗用車「MIRAI(ミライ)」の新型車を発売した。世界初の量産型FCVとして注目を浴びた初代から6年ぶりの刷新となる2代目である。航続距離を延ばすなどして性能を高めつつ、初代からはやや価格を抑えた。2代目の販売価格は710万円からと、初代の約740万円から価格を下げた。トヨタによると、エコカー減税や補助金などにより約140万円の優遇を受けられる。

     

    トヨタの初代「ミライ」は、手作業での組み立てであった。新型では、通常の量産ラインで生産するという本格普及に向けて動き出している。ミライと基幹部品を共有するトラックなどFCVの車種を増やして量産効果を狙うという。トヨタは、現代自が水素自動車の開発中断になっており、明暗を分けた形だ。

     

    (3)「現代自動車の事情に詳しいある関係者は、「ジェネシス水素自動車開発は合計4年間という開発期間を目標に約1年進められた状態だったが、第3世代燃料電池問題で中断されている状態だ」「いつジェネシス水素自動車の研究・開発が再開されるのかも不透明だ」と語った。これまで水素自動車の中核技術開発や事業を担当してきた部署も役割が大幅に縮小された」

     

    現代自に経営的なゆとりがあれば、水素自動車の研究開発を継続できたであろう。そのゆとりを失ったのだ。

     


    (4)「現代自動車を中心とした政府の水素経済ロードマップの現実味に対する疑問も同時に取りざたされている。2019年に発表した政府の「水素経済活性化ロードマップ」によると、水素自動車の販売目標は2022年までに累計8万1000台となっている。しかし、水素自動車内需と輸出の実績は11月現在で2万1000台に過ぎない。来年1年間で約6万台、つまり、過去4年間の累計販売台数の約3倍売れなければ目標が達成できない」

     

    韓国政府の立てた水素経済ロードマップは、完全にハシゴを外された形になった。政府が、研究費を負担するなどの支援策もなかったのであろう。

     


    (5)「水素自動車普及のための水素インフラ拡充も目標には遠く及ばない。
    2022年の水素ステーション設置目標は310カ所だが、水素ステーションは現在117カ所に過ぎない。水素価格も現在1キログラム当たり平均単価が8430ウォン(約815円)で、2022年までに6000ウォン(約580円)以下に下げるには28%も引下げなければならない。これは、単に現代自動車の技術力問題ではなく、水素経済・グリーン水素を唱えるには水素関連技術がまだ十分に熟していないためだ、という指摘もある。水素インフラ拡充と市場性のためには純度の高い水素を安く手に入れる必要があるが、現在の技術では不可能ということだ」

     

    水素ステーシの設置が予定の半分以下。水素価格の引下げも、現代自の力ではどうにもならない。あれこれ考えれば、水素自動車開発は採算にあわず、「時期尚早」という結論になったのであろう。日本では、官民の協力でクリーンエネルギー社会創造へ全力投球である。日韓は、大きく差がついたのだ。

     

     

     

     

     

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    中国が、親切心を装って始めた「一帯一路」融資は、中国で余剰の建設資材の販売と余剰労働力を活用して、莫大な利益を上げることにあった。中国が、「一帯一路」融資を高利貸しスタイルで行なってきた目的は、ビジネスに無知な相手国を籠絡して、可能な限り利益を収奪する「植民地経営」を再現することにあった。

     

    「一帯一路」融資では、中国へ債務返済ができず港の使用権を担保として取り上げられる悲劇も起こっている。私が、「一帯一路」融資を高利貸しと命名したのも、こういうあくどい事実が発覚したからだ。

     

    中国は今度、新手の手法を使っている。ウガンダは、「一帯一路」で中国から最初に2億ドルの融資を受けた。その貸付条項には、融資先でない中国国有銀行が、エンテベ空港の財務管理で多大な支配力を行使できる文言を巧妙に組み込まれていた。空港の経営を監視して、確実に返済させる意図であったのだろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月28日付)は、「中国との契約に盲点、ウガンダに動揺走る 一帯一路事業」と題する記事を掲載した

     

    中国の習近平国家主席が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」による融資は、途上国の経済を大きく変貌させてきた。ここに来てウガンダなどで返済期間が迫る中、中国政府は時には返済期限を延長することもあるものの、契約義務の遂行をどこまで厳しく迫るかに注目が集まっている。ウガンダのエンテベ国際空港への中国融資を巡る目下の動揺は、中国政府の債務国に対する影響力がいかに契約の細則に及んでいるかを浮き彫りにしている。

     

    (1)「ウガンダ政府が6年前に結んだ2億ドル(約230億円)の空港建設契約に、ある条項が含まれていることが最近になって明らかになり、国内で政治的な混乱を引き起こしている。その条項は、中国国有銀行がエンテベ空港の財務に関し多大な支配力を行使できる立場にあることを示唆している。この国有銀は空港に出資しておらず、中国政府が空港の運営に影響を与えている様子もないものの、外国の金融機関がプロジェクトの財務に対してこうした支配力を持つのは異例だと、アナリストやウガンダの野党政治家は述べている」

     

    中国は、融資する側の圧力でウガンダ政府を振り回したことが分かる。

     

    (2)「エンテベ空港は、1976年にハイジャックされたエールフランス機が着陸し、イスラエル特殊部隊が人質を救出した場所として国際的に知られている。同空港は2015年3月、ウガンダ議会が中国の融資提案を検討するよう求められたとき、改修が必要な状態にあったことは疑いの余地がなかった。この計画の下、中国輸出入銀行がウガンダに資金を貸し付けた。融資案によると、プロジェクトは2期に分けられ、それぞれ2億ドルと1億2500万ドルを利率2%、返済期間27年で借り入れ、返済総額は4億1791万ドルになる」

     

    合計3億2500万ドルを金利2%で貸付(返済期間27年)というもの。金利2%は、日本のODA(政府開発援助)では、あり得ない高金利である。明らかに、商業ベースである。

     

    (3)「17ページに及ぶ提案書の中にあるエスクロー契約(注:契約書の内容の妥当性を検証する第三者)に関する記述は、ウガンダが融資に合意した当時、ほとんど世間の注目を集めなかった。融資契約そのものは公開されていない。今年10月になって、野党政治家率いる議会委員会は、空港運営者であるウガンダ民間航空局の全ての収入と経費について、南アフリカのスタンダードバンク・グループのカンパラ支店にある中国輸出入銀行の管理する口座を通す取り決めがあったことを明らかにした。スタンダードバンクには、中国最大の国有銀である中国工商銀行(ICBC)が出資している」

     

    下線部分は、明らかに主権侵害である。中国は、確実に返済させるために資金の出入りを管理しようとしていた。明らかに不当な貸付条件に入る。

     


    (4)「これはつまり、通常は国庫や議会に委ねられている財政監督権を中国の政府系銀行に委ねることになる。それに伴い、どの債権者へ先に支払うかを巡る影響力も手放す格好となる。さらに、急拡大する観光や輸出からの収入をウガンダ政府が活用する能力も制限される。エンテベ空港は地域のハブ空港だ。過去10年で交通量は急増した。ウガンダとコンゴ民主共和国の国境沿いには150億ドルの原油開発プロジェクトがあるため、交通量はさらに増加すると予想されている」

     

    中国は、植民地経営と同じ感覚で臨んでいた。中国が、ウガンダ政府の持つべき財政監督権を横取りしたものである。内政干渉に当る。即刻、訂正すべき条項である。

     

    (5)「融資の詳細を明らかにした議会委員会を率いるジョエル・セニョニ議員は、ウガンダの航空当局の「予算は今や、中国輸出入銀行が承認しなければならない」と指摘。「あきれるばかりだ」と続けた。議会に説明を求められたウガンダのマティア・カサイジャ財務相は、そのような条件に同意したのは誤りだったとしつつ、中国の交渉担当者が、受け入れるか否かのどちらかしかない条件を提示したと話した。その上で、融資は返済するとし、空港が中国の手に落ちる可能性はないと述べた。最初の融資返済は4月に期限を迎える」

     

    中国が、強引に結ばせた契約書であることは間違いない。中国の行なっていることは、植民地経営主義である。糾弾されて当然だ。

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    インドネシアは、自らのEEZ(排他的経済水域)で石油掘削している。これに対して、中国が南シナ海全体の領有権を主張し、インドネシアへ抗議するという「盗賊行為」を行なった。習近平氏が、直々で指示を与えている結果とされている。諸悪の根源は、「習近平にあり」という印象が一層強まる。

     

    『日本経済新聞』(12月28日付)は、「インドネシアの南シナ海EEZ資源開発、中国が中止要求」と題する記事を掲載した。

     

    インドネシアが南シナ海の排他的経済水域(EEZ)で進める資源開発について、同海域の主権を主張する中国が中止を求めていることがわかった。インドネシアは中国との間に南シナ海の領有権の問題は存在しないとの立場だが、中国が揺さぶりをかけている。

     

    (1)「インドネシアは南シナ海の南にある自国領ナトゥナ諸島の周辺のEEZにある「トゥナ・ブロック」と呼ばれる海域で、7月から海底の石油と天然ガスの状況を調査する掘削作業を進めている。インドネシア政府関係者は日本経済新聞の取材に、中国政府から「インドネシアの掘削作業が中国の主権を侵す」として複数回、抗議と掘削中止要求を受けたと明らかにした」

     

    中国は、戦前の日本陸軍と同じ振る舞いをしている。日本軍は、満州へ進駐して「自国領」としたが、中国は南シナ海へ進出して「中国領」と宣言する。この「遅れてきた帝国」中国は、周辺国から大きな警戒心を持たれ、米国への軍事的依存度を高める皮肉な結果を招いている。愚かな振る舞いと言うほかない。

     

    (2)「作業現場周辺で中国海警局とみられる船の目撃情報も確認したという。ただ、インドネシア政府は中国による抗議と中止要求を公表していない。中国との間に南シナ海に関する領有権の争いはないとの立場で、抗議を公にして反応すれば、領有権問題の存在を国際社会に認めることにつながる可能性があるためだ。同国海上保安機構のアアン長官は22日、当面の掘削作業を11月下旬に完了したと明らかにした」

     

    インドネシアは、中国の抗議を完全無視している。国際的にEEZとして認められているからだ。

     


    (3)「中国は南シナ海のほぼすべての沿岸国・地域と領有権を争っている。これまでにフィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾が領有権を主張している。ナトゥナ諸島周辺のインドネシアのEEZをめぐっては、南シナ海で主権が及ぶ範囲として中国が独自に主張する「九段線」と一部が重複する。2019年末ごろから周辺海域で中国船の動きが活発化し、インドネシアとの対立が目立ち始めた。20年5月下旬、インドネシアは九段線や中国が域内で主張する歴史的権利を否定する書簡を国連に送った。中国も南シナ海での主権を訴えつつ、交渉による解決を求める書簡を国連に送り返した。インドネシアは交渉を拒否した」

     

    インドネシアは、東南アジアで最大の人口を抱える国家である。経済的にも発展可能性を秘めた国家として脚光を浴びている。中国が、このインドネシアと事を構えるのは、極めて無思慮な行為である。インドネシアが、軍事的に米国と手を結ぶリスクを見落としているのだ。

     


    (4)「中国が、一方的に領有権の問題を訴えて力を背景に実効支配をうかがう構図は、日本の沖縄県尖閣諸島をめぐる日中の対立と似る。海上保安庁によると21年1月から12月26日までで、尖閣諸島周辺の領海に中国の海警局の船が計40日間、侵入した。日本政府は、尖閣諸島が固有の領土で領有権の問題は存在しないとの立場だ。中国側が、領海侵入するたびに抗議をせざるを得ない。中国には日本に反応させることで、日中に領有権の問題があると国際社会に印象づけようとする狙いがある」

     

    中国が、日本に次いでインドネシアと軍事的に対立するのは、決して好ましいことであるはずがない。その無益な道へ突き進んでいる。

     

    (5)「中国国営の新華社は11月8日、「習氏は自ら戦略と戦術の配置をして、さらには自ら参与した」と明らかにした。中国海警局の尖閣諸島周辺の領海侵入を巡る指示や、南シナ海の仲裁裁判所の判決などへの対処方針について、習近平(シー・ジンピン)国家主席が深く関与していると明かしている」

     

    習近平氏が、中国の飽くなき領土拡大を指示している張本人である。領土拡大が、権力維持の支えになるとは、中国の後進性を遺憾なく示している。

     


    (6)「インドネシアは、中国がナトゥナ諸島周辺の実効支配の機会を探ろうとしているとみて、周辺の防衛・警備体制の強化を急いでいる。国軍は同諸島にある基地の滑走路を拡張し、戦闘機の配備を増やすほか、潜水艦の基地も建設する。地元漁民による中国船の早期通報システムも整備している。米国との安全保障協力も進めており、周辺の海域では共同で沿岸警備の訓練施設を建設している。8月には離島防衛を念頭に、国内の3カ所で両国の陸軍が過去最大規模の軍事演習を実施した」

     

    下線部は、中国がまんまと落し穴に落込む前兆を示して興味深い。インドネシアが、自国防衛で軍事基地強化を図れば、その後ろに米軍が座ることを予見できるはずだ。インドネシアは、潜水艦基地を建設する。それは、「第二のAUKUS」になる可能性を秘めているのだ。米国潜水艦が、インドネシア潜水艦基地を利用するようになれば、中国は自ら包囲網をつくらせるような愚策である。習近平氏は、目先の利益で目が眩んでいるようだ。

     

     

     

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    中国を総合的に俯瞰するには、政治権力争いの行く末を占う意味でも、今後の経済問題がカギを握っている。マルクス用語で言えば、「下部構造(経済)が上部構造(政治)」を決めるという、あの名台詞が生きているからだ。

     

    中国経済は、2001年12月、WTO(世界貿易機関)へ加盟以来、自由貿易体制を利用して急成長してきた。だが、突然の米中対立によって経済のデカップリング(分断)を迫られている。中国は、自由貿易体制から締め出される危険性が高いのだ。不思議にも、中国自身がその道を選ぼうとしている。

     

    こうして、習氏が描いてきた世界覇権への道は、急に茨の道に変わってきた。中国経済が軌道から外れれば、「自立」は不可能である。食糧・エネルギーなどで米国などからの輸入に依存しているからだ。こういう現実に立ち返ると、習氏の世界覇権論は、白昼夢という印象を拭えないのだ。中国の下部構造(経済)が大きく揺らげば、上部構造(政治)に異変が起こって当然である。習氏は、そこまで計算に入れていないようだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(12月25日付)は、「習近平氏が毛沢東になる日は来るのか」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集員である。

     

    中国共産党という存在が、いまほど世界中で意識された時代はない。それは、党総書記で国家主席の習近平が北京・天安門の楼上に立った2021年7月1日、結党100年の大イベントで一つのピークを迎えた。しかし、22年は、さらに大きな注目を集めるだろう。5年に1度の共産党大会が、中国ばかりではなく今後の世界の行方をも左右するからである。

     

    (1)「世界第2位の経済大国は近いうちに経済規模で米国に追いつき、軍事・安全保障分野を含めた世界の勢力図を何らかのかたちで塗り替えるに違いない、とみられている。もしそうなら、われわれ日本を含めた各国が受け入れてきた「第2次世界大戦後の世界秩序」の再編が本格的に始まることを意味する。中国の改革・開放と急成長が長期にわたって成り立った基礎は、まさに戦後世界秩序にある。もしこれが変質して崩れるなら、中国の改革・開放も実質的な意味で崩壊してしまう。「中華民族の偉大な復興」というスローガンを掲げて経済・軍事両面で米国超えを目指す習近平政権は今後、どう動くのか」

     

    下線部は、極めて重要な点を指摘している。中国は、第二次世界大戦後の自由貿易体制を利用し発展した。中国は、その発展基盤へ挑戦して、中国にとってより有利な秩序を構築しようという野望を持つに至った。この矛楯が、どれだけ大きいか。習氏は、そのことに気付かず、大きな落し穴に入り込もうとしている。中国にとって、危険この上ない事態である。

     


    (2)「当然ながら党内には、習の権力がこれ以上強まることに裏で異を唱える勢力が存在する。習がまず警戒しなければいけないのは、自分と同じような革命時代からの高級幹部の子息である「紅二代」だ。彼らには人脈だけでなく資金力もある。紅二代は、習政権の発足当時、自分たちの利益を代表していると考えた新星の登場を歓迎した。そして習の激烈な「反腐敗」運動に協力もした」

     

    習氏と同じ境遇の「紅二代」は、習氏が既得権益を守ると約束したので応援した。だが、それも、習氏の二期目から変って来た。「紅二代」を切り捨てたのだ。

     

    (3)「期待は2期目に入るころから急速にしぼんでゆく。習が抜てきするのは自らに近い側近ばかりで、紅二代への配慮は薄れてゆく。そればかりか、長期政権の確立に向けた個人崇拝の色を強めていく。習としては、早めに彼らの支持を取り付けるのがベストだが、できなかった場合に備えた布石も打っている。紅二代である本人にまでは手を出さないが、その側近らを汚職で摘発するのも一つの手段になる。すでに引退した人物でもその標的になる厳しい措置だ。こうした裏の戦いは、22年夏まで続くだろう」

     

    習氏は、長期政権を目指して「紅二代」重用から、側近重視の政治へ切り変えた。習氏が、「義理人情を無視する」と批判される理由はここにある。よくいるタイプだが、仲間を利用して立身出世し、あとは放り出すという冷たいタイプだ。この種の人間は、落ち目になった時、逆に寄ってたかって足を引っ張られる運命だ。

     


    (4)「中国経済は、インフラ投資拡大や輸出増に支えられてきた。だが、懸念材料は多い。20年、コロナ禍で打撃を受けた雇用や所得の回復はなお遅れている。特に問題なのは若者の就職難だ。21年夏、中国の大学、短大、専門学校の卒業生は過去最高の900万人超になったが、主力である民間企業からの求人は少なく、職が決まらない学生が非常に目立つ。首相の李克強が就職問題を最優先課題に挙げたのも危機感の表れだった」

     

    中国経済は、もはや総資本形成(民間住宅投資・民間設備投資・公共事業)依存度が、対GDP比で43%(2019年)という「異常経済」である。当然、この継続は不可能である。正気に戻らなければならない。個人消費が極端に抑えられた経済だけに、まともな就職先があるはずがない。大学生の好適の就職先であった「塾教師」は、政府の禁止令でゼロになった。100万人が失業したとされている。

     

    (5)「米中関係はいま、歴史的な転換点に立っている。50年という単位で両国の向き合い方を考えるなら、変質は避けられない。習近平政権は、2035年までに経済面で米国に追いつき、追い越そうとする具体的な目標を掲げている。軍事面も同じで、ここに米中両国の技術覇権争いが絡んでくる。米国側から見れば、自ら育てた中国が今度は米国を標的にしはじめたのを見過ごすわけにはいかない。これが米中「新冷戦」といわれる構造だ」

     

    2035年までに経済面で米国に追いつき、追い越そうとした前提には、自由貿易の存続があったはずだ。米中デカップリングは、この想定を破壊したのである。こうして、2035年計画は水泡に帰す運命である。基幹技術のない中国が、米中デカップリング下でどうやって成長率を維持できるのか。そんな妙案はない。

     

    (6)「米国超えを視野に入れた習近平政権による「2035計画」の内容が明らかになったのは、17年の中国共産党大会だ。この方面の勘に優れた前米大統領のトランプは、習近平政権が掲げはじめた、かつての中国とは異なる種類の野望に比較的早く反応し、一気に対中強硬路線に傾斜してゆく。米中対立をめぐっては、バイデン民主党政権の誕生でそれなりの変化があるとの見方もあったが、対中政策は一段と厳しい方向に進んでいる。特に日本、英国、EUなどとの同盟を強化して中国に対処する手法は明確である」

     

    米国の手早い反応で、中国包囲網が形成されている。技術遮断である。これには、中国もお手上げだ。一方の中国は、「一人っ子政策」によって、合計特殊出生率が昨年の「1.30」をさらに割込む公算だ。労働力不足の中で、技術封鎖を受ければどうなるか。習氏が、「第二の毛沢東」になれる経済基盤は、これから一層脆弱化していくと見られる。経済が失速すれば、習氏は道連れにされる運命だろう。

     

     

     

     

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    韓国では、敵味方に分かれて相手側を非難するパターンが定着している。コロナ患者をめぐる処置で、公共病院側が民間病院側を「告発」する報告書を出した。この非難パターンとしても、聞き捨てにできない深刻さが漂っている。民間病院側が、重症患者の受入を断わり、公共病院側へ押し付けたというのだ。この間、韓国政府は民間病院側の意見を聞くだけで、韓国全体の医療資源が有効活用されなかった、とされている。

     

    東京都墨田区では、公共病院と民間病院が協力して、重症患者を公共病院が引き受け、病状が改善するとともに民間病院へ転院させるシステムが上手く作動した。今年8月の感染者急増の際、墨田区では重症者待機も起こらず、死者ゼロという模範的な成績をあげた。韓国の実態を見ると、日本の協力体制が一枚上であることを物語っている。

     

    『ハンギョレ新聞』(12月27日付)は、「『コロナ白書』入手…『韓国政府は病床300床と言うが実際には10床だけ』」と題する記事を掲載した。

     

    本紙が26日に単独入手した白書には、新型コロナと関連した国家の医療対応体制の成果と限界、提言などが盛り込まれていた。特に、国立中央医療院(NMC)の関係者23人と外部の政策決定者などを網羅した計27人と面談した「新型コロナ対応評価研究」の部分を見ると、政府がすでに1年前に病床不足の原因を把握していながらも根本的な対策を講じなかったため、病床不足の事態を招いたと指摘されている。

     

    韓国の全病床の約90%は、民間医療機関が占めており、公衆保健危機の状況下で政府が動員できる病床は非常に限られている。白書で言及された国立中央医療院の医療スタッフの話は、「公共医療体制脆弱国」である韓国の医療対応体制の限界を明確に示している。

     


    (1)「中央事故収拾本部から(コロナ病床が必要だと)連絡しても、45日経っても(民間病院は)返事をしない。(政府は民間病院の新型コロナ)重症患者用病床をすでに確保しており、病床を空けているはずで、病院へ補償金を渡し続けているが、(民間病院は金だけ受け取って)実際には(患者を)受け入れない。このため、全体の病床の約10%にしかならない公共病院がコロナ患者の約90%を担当するという悪循環が繰り返されてきた。白書はこうした事例を挙げ、「ほとんどの民間病院は病床不足の危機的状況で新型コロナ患者の診療に非常に消極的で、政府は損失補償金の支援と一部の病床に対する行政動員命令以外に民間病院を統制する手段がほぼなかった」と評価した」

     

    民間病院は、補助金だけ受取って実際の重症患者を敬遠したと批判されている。日本でも同様の批判があった。医師会幹部の病院は、コロナ患者を余り受入れなかったという批判報道である。

     


    (2)「使用可能な隔離病床や重症患者病床に投入できる医療スタッフについての情報が体系的に収集されていなかったため、危機的状況でこれを活用することが難しかった。
    国立中央医療院の関係者らが「政府が公式に発表した(新型コロナ)病床数と、実際に使用可能な病床数が異なっていた」、「必要な情報が整理されておらず、総括する人もいなかったため、重症患者の看護師に対する分布を把握する機関がなかった」などと評価したのもこのためだ」

     

    このドタバタ劇は酷かった。感染症専門医がいないので皮膚科医や小児科医まで駆り出されたと報じられた。政府が、事前に専門医リストを整理しておくべきであった。

     

    (3)「民間病院の責任回避と、これに対する政府の管理体制の不備で病床不足問題が深刻化したが、民間病院所属の専門家の意見が過大に代表され、公共病院に負担を集中させる形で病床対策が打ち出されたという不満も提起された。白書は「国内のコロナ患者診療はほとんどが公共病院で行われたが、医療に関する政策決定には私立大学病院の教授個人や、彼らが多数を占める学会の意見が過大に代表される傾向があった」と書いた。

     

    下線部が事実とすれば、民間病院は何をしていたのかという非難になって当然であろう。ただ、病床の1割程度の公共病院側がすべての患者を受入れたというのは事実に反するはず。治療は、物理的に見て不可能だ。

     


    (4)「白書は、「現在は病床確保の指針が下されると、患者の転院に関する全ての負担を公共病院が抱えることになる」とし「初期の混乱が解消した後は、病床の大部分を占める民間医療機関も役割を果たせるようにすべきであり、(長期的には)何より全体の医療資源のうち公共病院の役割と比重を増やす『体系としての公共性』の強化戦略が必要だ」と指摘した

     

    下線部分は、韓国に墨田区方式が存在すれば、上手く病院間の連携ができて治療がスムースに行ったであろう。墨田区では、日頃から医師会が話合ってきたので連携が可能であったという。

     

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