異常気象の原因とされる二酸化炭素排出は、自動車運送が大きなウエイトを占める。この危機脱却手段として、究極のクリーンエネルギーとして「クリーン水素」が注目の的。自然エネルギー利用による水素製造が、二酸化炭素を出さないからだ。そうではなく、水素製造過程で二酸化炭素を出すのはグレー水素と呼ばれる。主流は、もちろんクリーン水素である。韓国は、この研究分野で出遅れているのだ。
現代自動車グループは、2025年発売を目標に進めてきた高級車「ジェネシス」の水素自動車プロジェクトを中断した。内部監査の結果、次世代水素自動車の中核となる技術力と市場性が不備だと評されたためだ。これは、韓国が目指してきた「クリーン社会」実現計画に大きな狂いを出すことになった。
日本は、トヨタを中心に水素電池車と、現在の内燃機関に水素を燃料に使う水素自動車の両面で研究を進めている。水素自動車が実用化できれば、現在の自動車部品企業はそのまま生き延びられるという「雇用問題」も絡んでいる。
『朝鮮日報』(12月28日付)は、「現代自動車『ジェネシス』水素車開発を中断」と題する記事を掲載した
本紙が27日に取材をまとめたところ、現代自動車はジェネシス水素自動車に搭載するため開発中だった「第3世代(水素)燃料電池」の開発成果と研究進ちょく度が当初目標に遠く及ばないという結論を下したことが分かった。燃料電池は水素自動車で内燃機関エンジンと同じ役割を担う中核装置だ。現代自動車グループは監査でこうした結論を出した後、今年11月に組織改編・人事を通じ燃料電池担当部署の役割を大幅に縮小したという。
(1)「現代自動車は、「2025年に水素自動車年間生産13万台」、政府は「2022年に水素自動車販売8万台」をという目標を掲げ、2040年に水素社会を達成し、「環境にやさしい経済成長」という二兎(にと)を得ようとしていたが、こうした「水素ロードマップ」にも赤信号がともることになった。今年11月までの水素自動車累計販売台数は2万台をやや上回る程度だ」
水素エネルギー開発は、コロナ・ワクチン開発と同様に国家の命運を担う重大なプロジェクトである。現代自がこの分野の研究を中断したのは、断腸の思いであろう。水素ステーションの開設や水素電池コストの引下げ見通しがつかないことが理由だ。
(2)「現代自動車は、開発中の第3世代燃料電池システムを今年9月に公開した。販売中の水素スポーツタイプ多目的車(SUV)「ネクソ」に適用された第2世代燃料電池よりも体積を約30%減らし、出力と耐久性を2~3倍高めたという。第3世代燃料電池の中核課題は生産単価だった。現代自動車は、現在3000万ウォン(約290万円)前後と推定される車両燃料電池価格を2025年までに50%以上引き下げる計画だった。水素自動車の価格競争力を確保するためだ。しかし、現代自動車は最近の監査で燃料電池生産単価引き下げ計画の現実味は薄いと判断したことが分かった。水素自動車ロードマップ達成のための「水素自動車事業性」そのものに疑問符が付いたということだ」
トヨタ自動車は12月9日、水素で走る燃料電池車(FCV)のセダンタイプ乗用車「MIRAI(ミライ)」の新型車を発売した。世界初の量産型FCVとして注目を浴びた初代から6年ぶりの刷新となる2代目である。航続距離を延ばすなどして性能を高めつつ、初代からはやや価格を抑えた。2代目の販売価格は710万円からと、初代の約740万円から価格を下げた。トヨタによると、エコカー減税や補助金などにより約140万円の優遇を受けられる。
トヨタの初代「ミライ」は、手作業での組み立てであった。新型では、通常の量産ラインで生産するという本格普及に向けて動き出している。ミライと基幹部品を共有するトラックなどFCVの車種を増やして量産効果を狙うという。トヨタは、現代自が水素自動車の開発中断になっており、明暗を分けた形だ。
(3)「現代自動車の事情に詳しいある関係者は、「ジェネシス水素自動車開発は合計4年間という開発期間を目標に約1年進められた状態だったが、第3世代燃料電池問題で中断されている状態だ」「いつジェネシス水素自動車の研究・開発が再開されるのかも不透明だ」と語った。これまで水素自動車の中核技術開発や事業を担当してきた部署も役割が大幅に縮小された」
現代自に経営的なゆとりがあれば、水素自動車の研究開発を継続できたであろう。そのゆとりを失ったのだ。
(4)「現代自動車を中心とした政府の水素経済ロードマップの現実味に対する疑問も同時に取りざたされている。2019年に発表した政府の「水素経済活性化ロードマップ」によると、水素自動車の販売目標は2022年までに累計8万1000台となっている。しかし、水素自動車内需と輸出の実績は11月現在で2万1000台に過ぎない。来年1年間で約6万台、つまり、過去4年間の累計販売台数の約3倍売れなければ目標が達成できない」
韓国政府の立てた水素経済ロードマップは、完全にハシゴを外された形になった。政府が、研究費を負担するなどの支援策もなかったのであろう。
(5)「水素自動車普及のための水素インフラ拡充も目標には遠く及ばない。2022年の水素ステーション設置目標は310カ所だが、水素ステーションは現在117カ所に過ぎない。水素価格も現在1キログラム当たり平均単価が8430ウォン(約815円)で、2022年までに6000ウォン(約580円)以下に下げるには28%も引下げなければならない。これは、単に現代自動車の技術力問題ではなく、水素経済・グリーン水素を唱えるには水素関連技術がまだ十分に熟していないためだ、という指摘もある。水素インフラ拡充と市場性のためには純度の高い水素を安く手に入れる必要があるが、現在の技術では不可能ということだ」
水素ステーシの設置が予定の半分以下。水素価格の引下げも、現代自の力ではどうにもならない。あれこれ考えれば、水素自動車開発は採算にあわず、「時期尚早」という結論になったのであろう。日本では、官民の協力でクリーンエネルギー社会創造へ全力投球である。日韓は、大きく差がついたのだ。