勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年12月

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    購買力平価説というものがある。外国為替相場を決める要因として、その国の消費者物価水準を手がかりにしようという考え方だ。例えば、日本円と米国ドルの為替相場は、長期的に日米の消費者物価水準で決まるというもの。

     

    これは、一種の仮説である。永遠の真理ではない。ところが、日韓の国民一人当たりの名目GDPを購買力平価で換算すると、韓国が日本を引離しているから、韓国の国力が日本と逆転したという「謬説」が堂々と現れている。以前、韓国人学者が「喜び勇んで」これを取り上げて「悦に入って」いた。私はその誤りを指摘した。今度は、日本人学者が同じことを言い出したのである。

     

    いささか辟易するが、購買力平価で計算した一人当たりの名目GDPは、物価が安い国の方が有利になるという「マジック」に過ぎない。例えば、シンガポールの一人当たり名目GDPは購買力平価で9万8483ドル(2020年)、米国の6万3414(同)を上回っている。これを見て、シンガポールの国力が米国を上回っていると見る人は絶無であろう。

     

    シンガポールと米国で差が出たのは、シンガポールの物価水準が米国より安いという理由である。ここまで説明すればお分かりの通り、日韓の物価水準の違い(韓国の方が安い=賃金が安い)が、逆転した印象を与えているに過ぎない。日韓の総合国力から見て、日韓逆転などと騒ぐのは的外れと言うほかない。第一、科学技術水準が異なるのだ。

     


    『ニューズウィーク 日本語版』(12月27日付)は、「『日韓逆転』論の本質は日本の真の実力への目覚め」と題する記事を掲載した。筆者は、神戸大学教授木村幹氏である。

     

    韓国が日本を逆転......、そんな記事が新聞をはじめとする多くのメディアを賑わせている。取り上げられているのは、主に三つの指標での「日韓逆転」である。すなわち、第一がPPP(購買力平価)ベースでの一人当たりGDP、第二がやはりPPPベースでの年間賃金、そして最後がドル建てでの軍事費である。ちなみに、各々のデータの出所は第一のものについては、世界銀行やIMFの一般的な統計が用いられる一方、第二のものについてはOECD、そして第三の軍事費については、ストックホルム国際平和研究所の統計が使われることが多くなっている。

     

     

    (1)「PPPベースの一人当たりGDPで、韓国が日本を追い越したのは2018年だから、既に3年も前のことである。OECDが発表するPPPベースでの年間賃金で韓国が日本を上回った年に至っては、2015年だから、既にそれから6年も経過していることになる。逆に一部で「逆転」が伝えられたドルベースでの軍事費は、少なくともストックホルム国際平和研究所が公式に発表しているデータでは、昨年、2020年の段階では、未だ日本が辛うじて上位に立っている」

     

    購買力平価は、長期の為替相場の水準を議論するときの手がかりになるものだ。それ以外には、利用されていない。ただ、IMFがこういう購買力平価に基づく数値を参考として出しているだけで、これが政策議論のベースになっている訳でない。いわば、「付属品」のようなものだろう。

     


    購買力平価が真に議論対象になるには、自由貿易によって「一物一価」の原則が貫かれるケースだけである。そのような物価は、論理的には存在しても、現実にはあり得ない「架空」の存在だ。そうした「架空」データで日韓逆転などと議論しても全く意味はない。韓国のPPPレベルの一人当たりGDPが、日本を上回ったのは韓国の物価が安いことに過ぎない。

     

    (2)「周知のように、我が国の経済的不振は1989年代末のバブル景気終焉から既に30年以上続いている。この結果、PPPベースでの一人当たりGDPの日本の世界ランキング上での位置は、やはりIMFの推計を使えば1989年の22位から2020年には32位まで落ちることになっている。だから当然のことながら、この間に日本を追い抜いたのは、韓国だけではない。例えば、東アジア・東南アジア地域では、シンガポール、マカオ、香港、台湾、そして韓国が、既に日本の上位に位置している」

     

    PPPレベルの一人当たり名目GDPは、生活実感を示すものであっても、これを基準にした政策議論は成り立たない。念のために言い添えるが、「一人当たりGDP」は名目値であって、実質値ではない。この点をぜひ頭に入れて置いていただきたい。

     


    (3)「指摘すべきは、新型コロナ禍の状況が、日本人に今の自分たちの国際的な立ち位置を認識せざるを得ない状況を作り出していることであろう。少なくとも現段階において、新型コロナウイルスの感染拡大の抑え込みに成功しているこの国は、他方で、付随して起こった経済的不況からの脱出に、世界各国の中でも最も苦労している国の一つでもある。IMFが今年10月に発表した予測によれば、多くの国が昨年の深刻な経済的危機からの回復を見せる中、日本の経済成長率はG7の中で最も低い2.%に留まることとなっている」

     

    日本の潜在成長率が、G7で一番低いのは理由あってのことだ。日本が、1990年に総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比でピークをつけ、それ以降下降局面にある。これは、潜在成長率の低下を意味している。先進国では最初の経験をしているのである。1990年から見れば現在、生産年齢人口比率は約10%ポイントも下がっている。その中で、日本は必死に生産性を上げるべく努力している。決して日本を卑下することはない。先進国の課題を背負って進んでいるのだ。

     

    この日本の通っている道は、すでに中国も韓国も入っている。まだ、そのマイナス幅が目立たないだけであり、間もなく泥沼が顕著になろう。時間の問題である。

     


    (4)「この経済的危機の中での日本の状況は、これまで幾度も繰り返されてきた同様の危機においてとは、いささか異なるものにもなっている。例えば、過去の国際的な経済危機では、「安定通貨」としての信用から必ず価値を上げてきた円は、今回の危機においてはむしろ価値を落としている。30年を超える危機からの脱出の道筋が見えないのは明らかであり、コロナ禍で人々の将来に対する不安感は更に大きなものとなっている」

     

    日本の金利水準は、事実上「ゼロ金利」である。他国は、これから金利を引き上げるので、日本との金利差は拡大する。このため、円相場は円安に振れても円高には進まない構造である。ただ、国際情勢で突発的事件が起これば、日本円と米ドルが「避難通貨」として買われることに変わりない。日本は、世界一の対外純資産国である。これに、誇りを持つべきだろう。「腐っても鯛は鯛」なのだ。

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    韓国では、ようやくコロナ感染者数の減少兆候が見られ始めた。「ウィズコロナ」中止による効果が少しずつ出はじめたもの。韓国の中央防疫対策本部が、27日0時基準で発表した新規感染者数は4207人。新規感染者は、前日(5419人)より1212人減少して4000人台へ下がった。この背景には、週末で検査件数の減少も影響をあったとみられる。新規感染者数が、4000人台となったのは7日(4953人)以来20日ぶりだ。

     

    コロナ感染の第6波では、新たに口径錠剤の治療薬が登場してきた。飲むだけで済むので医療側負担も軽くなるメリットがある。それだけに、世界的に大きな関心を集め、入手をめぐって競争が起こっている。この競争で、韓国はまた後手に回っている様子である。韓国メディアが、政府を叱咤しているのだ。

     

    『中央日報』(12月27日付)は、「ワクチンの失敗に続き飲み薬でも遅れを取ったとは」と題する社説を掲載した。

     

    新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)の発生から3年目を控え、主要国家は経口用治療薬の確保に死活をかけている。韓国政府は躊躇しているうちにワクチン確保競争から押し出された痛恨の失策を今回は絶対に繰り返してはならない。「戦略物資」と認識し、迅速な意志決定で良い治療薬を充分に確保するために命運をかけなければならない。

    (1)「米国食品医薬品局(FDA)は22日(現地時間)、ファイザーが開発した新型コロナ経口用治療錠剤「パクスロビド」の緊急使用を承認した。その翌日にはメルク・アンド・カンパニー(MSD)の治療錠剤「モルヌピラビル」にも使用承認を下した。FDAは「パクスロビドが新型コロナによる入院・死亡のリスクを88%低下させることができる」と評価した。モルヌピラビルは効能が30%程度だと伝えられた。外信はファイザー治療薬のほうが薬効に優れていて副作用が少ないと確認されたとし、相対的にメルク治療薬の比率が低くなるかもしれないと展望した。経口用治療薬は従来の注射型治療薬とは違い、服用するだけでよいので使用が便利で変異株にも効果があるという。このために「新型コロナのゲームチェンジャー」と評価されている」

     


    ファイザーが開発した新型コロナ経口用治療錠剤「パクスロビド」は、入院・死亡リスクを88%も低下させるという。これは、凄い治療剤である。メルクの「モルヌピラビル」も30%程度の効果という。いずれにしても、これが現実の治療に使われれば、「コロナ禍」は、大きく軽減される。

     

    (2)「感染予防に傍点がつけられたワクチンは当初の期待とは違ってブレイクスルー感染(突破感染)が相次いで発生したためゲームチェンジャーとしての役割を十分に果たすことができなかった。このような苦しい状況で経口用治療薬が登場し、新型コロナの克服にも青信号が灯ったといえる。米国・英国・日本・シンガポールなどは錠剤物量の確保のために足早に動いている。米国はパクスロビド1000万人分、モルヌピラビルは310万人分を確保した。英国はパクスロビド25万人分とモルヌピラビル48万人分をすでに確保し、追加で2種類の治療剤を各250万人分と175万人分注文した」

     

    すでに米国は、ファイザー製とメルク製を合せて1310万人分、英国は73万人分をそれぞれ確保した。英国はその上、追加で425万人分を注文した。英国は、合計498万人分になる。

     

    (3)「隣国日本の場合、モルヌピラビル160万人分を確保し追加でパクスロビド200万人分の供給契約をした状態だ。韓国は今回も遅れをとった。韓国政府はパクスロビド7万人分とモルヌピラビル24万2000人分に対してのみ確実な導入契約を締結するのにとどまった。効能が高いというパクスロビドに限って比較すれば、人口の違いを考慮しても日本に比べて物量が非常に少ない。韓国政府はパクスロビドの緊急使用承認を検討中だ」

     

    日本は、両社で360万人分を確保、ないし追加供給される契約を結んでいる。韓国は、31万2000人分で日本の8.7%に過ぎない。これでは、韓国メディアがヤキモキするのは当然であろう。

     

    (4)「韓国政府は一部の官営学者の話を聞いてワクチン導入のタイミングを逃した前例がある。実際、昨年ワクチン購入競争が起きた当時、国立がんセンター教授の奇牡丹(キ・モラン)青瓦台防疫企画官は「患者が少ないのでワクチン購入にそれほど急がなくてもよい」と政府に助言した。このような誤った判断のためか、先進国が良質のワクチンを先行獲得している渦中に韓国は効能が落ちるワクチンを主に購入したせいで、ブレイクスルー感染を無惨に許すことになった。K防疫の名誉を回復するためにも経口用治療薬の確保に最善を尽くすよう望む」

     

    韓国は昨秋、ワクチン購入で大きく出遅れて政治問題化した。今回の経口治療薬でも同じ轍を踏んでいる。防疫体制に問題があるのでないか。合議制であれば、責任分担で出遅れはないはず。韓国では、一部の人間が決定権を握っている結果、自らの責任追及を恐れて契約が遅れる。韓国では後々、責任追及がよく行なわれる。ワクチン購入が遅れたのも、問題が起こった場合、責任を追及されるリスク回避が原因であった。悪しき官僚制がもたらす慣行である。

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    韓国が、秘かに怯えていることがある。家計債務が増え続けていることだ。この段階で、政策金利が引き上げられれば、家計は金利負担が重くなり返済不可能なケースが起こりうると警告音が鳴り響いている。

     

    韓国銀行(中央銀行)は、「コロナ後の家計負債増加幅が先進国の3倍に達する。韓国の場合、2000年代初めのカード事態以降16年間一度もデレバレッジ(負債縮小)なく家計負債が累積してきた」と指摘した。これは、世界的にも異例な現象で、住宅価格急落のリスクが高まっていることもあり、不安定な状況にある。韓国銀行は、すでに次回の利上げを予告しているほどだ。

     

    韓国がよく引き合いに出すのは、「日本の失われた20年」である。バブル崩壊(1990年)から、約20年間も「低空飛行経済」を余儀なくされた。韓国経済も、家計負債増加の影響から、こうした事態へ落込むのでないかというものである。

     


    『中央日報』(12月23日付)は、「韓国にも『失われた20年』くるのか」と題するコラムを掲載した。筆者は、イ・チョルホ中央日報コラムニストである。

     

    韓国経済の構造的問題は悪化している。少子高齢化は回復不可能な構造で定着してしまった。日本で20年かけて起きた高齢化が韓国では10年に圧縮され進行している。「世界で最初に消滅する国」という不名誉とともに昨年の合計特殊出生率が0.84人に落ちた。世界最下位だ。

    (1)「日本の変曲点は1990年だった。株式・不動産バブルが崩壊にし始めた。奇しくも同じ年、に日本の生産可能人口(注:生産年齢人口)もピークに達した。その後の生産可能人口減少により労働生産性が下落し、貯蓄と投資が萎縮していった。
    韓国は2019年に生産可能人口が初めて減少した。2020年には人口そのものが減少した。死亡者が出生者より多く3万3000人の人口が減ったのだ。戦争や天変地異でない限り人口の自然減少は人口災害と変わらない。社会は活力を失い、経済の躍動性も落ちるほかはない」



    生産年齢人口(15~64歳)が総人口に占める比率がピークを打つと、それ以降は潜在成長率が低下していく。日本のピークは1990年、韓国が2014年である。韓国はこの現実を認識すべきであり、すでに「日没する」経済状況になっている。

    (2)「これまで韓国版「失われた20年」の可能性を否定してきた専門家は、次のような根拠を出してきた。韓国は、日本に比べて資産価格上昇幅が大きくなく、企業の投機的不動産購入が少なく、家計の実所有目的の不動産投資が多いという反論がまさにそれだ。この4年間で、こうした信頼が根本からひっくり返されている。何より住宅価格上昇幅が1980年代の日本に匹敵する水準になった。ソウルのマンション平均売買価格は2017年5月の6億708万ウォンから今年10月には12億1639万ウォンと2倍以上に高騰した。ここに借金をしてまで投機的に不動産や株式を買う動きが猛威を振るった。金利が上がる場合、日本のように不動産・株式バブルが崩壊しないという保障はない」

     

    韓国の住宅価格上昇は近年、半端なものでない。1980年代後半の日本に匹敵する水準になった。これは、不動産バブルと呼んでもおかしくない現象である。この不動産バブルを生み出したのは、家計債務の急増である。それだけに危険な状況になっている。日本の「失われた20年」が、韓国で再現しないという保障がなくなったのである。

     


    (3)「ムーディーズは11月、「コロナで家計負債が急激に増えた状況から金利引き上げまで重なれば金融圏の資産健全性を脅かしかねない」と警告した。韓国銀行も「コロナ後の家計負債増加幅は先進国の3倍に達する。韓国の場合、2000年代初めのカード事態以降16年間一度もデレバレッジ(負債縮小)なく家計負債が累積してきた」と指摘した」

     

    ムーディーズは、家計債務が急増した後の金利引き上げに警戒している。韓国銀行は、特に韓国における長期の家計債務急増に警戒の目を向けている。韓国は、決して安心できない状況にあるのだ。

     

    (4)「日本が失われた20年を耐え忍んだのは基礎体力がしっかりしていたためだ。国内機関が保有する国債の割合が90%と高い上に純債権国の地位が確かだった。そのおかげで日本は途轍もない財政赤字にも資本流出の恐怖に苦しめられなかった。純外貨資産は253兆円に上り、貿易収支で赤字が出ても経常収支全体では豊富な黒字を維持した。一言で通貨危機の心配がなかった」

     

    日本の対外純資産は、年間GDPの68%に相当する金額を保有している。むろん、世界一の規模である。最近、日本国内で日本の生産性が落ちると、この対外純資産を食い潰すという「珍説」がメディアに登場した。

     

    生産性が落ちると恒常的な貿易赤字になって、経常収支が赤字になるという前提であろう。だが、現在の円安は輸出を増やし、海外からの所得収支を増やすので経常収支は赤字にならないのだ。よって、対外純資産を食い潰すことにはならない。念のために書いておきたい。

     

    (5)「経済学用語で、可処分所得から消費を差し引いた割合を純貯蓄率という。日本は1991年に個人の純貯蓄率が15.9%だったが10年後には3.7%に下落した。これは長い不況の間に日本国民が貯蓄を減らして消費に当てたという意味だ。これに対し韓国の純貯蓄率は2.7%にすぎない。貯蓄を減らして消費に充当するのが容易でないという意味だ。景気低迷で所得が減少すればいつ消費減少・家計破産・不況深化の悪循環に陥るかもしれない。一言で日本は冬眠しても耐えられるほど皮下脂肪が蓄積されているのに対し、韓国経済の皮下脂肪は貧弱だという意味だ」

    日本は、高度経済成長時に溜め込んだ貯蓄がある。同時に、年金制度が成熟して現役時代の最大4割程度の所得を保障している。こうして、個人の純貯蓄率は韓国のように低レベルにまで落込まないで済んでいる。韓国が、「失われた20年」に落込めば、日本よりも低レベルへ落込むであろう。

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    韓国は、12月中旬から「ウィズコロナ」を取り止め、ソーシャルディスタンスを強化している。これに伴い、自営業者の経済的な損害が増えている。これに対する不満から、来年1月4日以降、「集団休業」すると発表した。予定では、3日程度であるが、政府の対応が不十分であれば、防疫規則を守らないという「不服闘争」入りを予定している。

     

    12月26日午前0時現在、国内の感染者数は前日から5419人増え、重篤・重症患者は1081人。6日連続で1000人台を記録した。死者は新たに69人確認された。新規感染者数は前日(5842人)より423人少なく、やや鈍化する傾向にある。

     

    高齢者を中心にワクチンの追加接種(ブースター接種)の完了者が増えているほか、私的な集まりの人数を4人までに制限するなどした防疫措置強化の効果が出ているためとみられる。ただ、重篤・重症患者と死者の減少にはつながっていない。こういう状況下で、自営業団体が「集団休業」宣言を出したが、これによって、防疫効果が出る期待も湧くが、自営業者にとっても事態は深刻である。

     


    『東亞日報』(12月25日付)は、「『
    防疫に不満』、自営業者団体が集団休業を決意」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府の「距離確保」政策の強化で被害を訴えている自営業者らが、来年1月4日以降、集団休業に入る。

    (1)「コロナ被害者営業総連帯(コ自総)は24日、「来月4日午後に会議を開き、集団休業の時期と期間を決めることにした」と明らかにした。コ自総は、韓国外食業中央会など6つの小商工人・自営業者団体で構成され、同日午後2時から1時間ほど会議を開き、団体別に全国同盟休業を巡る賛否投票の結果を共有した」

     

    韓国の自営業者比率は、24.64%(2020年)。世界10位と高いランクにある。これは、決して褒められることでなく、雇用構造の前近代性を示している。転職市場が整っていない結果、会社勤めを辞めて自営業になるケースが多いことを示している。

     

    これだけの高い自営業者比率ゆえに、コロナによるソーシャルディスタンス強化の影響を最も強く受ける構造になっている。政府に保障を求めるのは生活が懸かっているだけに当然であろう。

     


    (2)「コ自総によると、外食業中央会会員5万1490人のうち85%(4万3710人)が休業に賛成し、3日間休業しようという意見が37.4%で最も多かった。△韓国居酒屋業中央会(99.9%)、△大韓カラオケボックス業中央会(98.2%)、△韓国遊興飲食店中央会(91%)の3団体に所属する会員も、90%以上が集団休業を支持した。韓国インターネットPC文化協会と韓国休憩飲食店中央会の残り2団体の会員を対象にした賛否投票は、30日まで行われる。休憩飲食店中央会の関係者は、「20日から投票を始めたが、集団休業の賛成側に会員たちの世論が集中している状態だ」と明らかにした。コ自総のミン・サンホン代表は、「法を守りながら同盟休業後、政府の満足できる損失補償措置がなければ、人員制限と営業時間の制限といった防疫規則を守らず、全国的に不服闘争に突入する」と語った」。

    集団休業では、1月4日以降で「3日間」程度が多数意見である。この間に、政府と交渉して成果が上げられなければ、「人員制限と営業時間の制限といった防疫規則を守らない」という不服闘争に入るという。韓国では、「スト慣れ」しているので不服闘争が始まる懸念もある。

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    足下から崩れる危険性

    長短二つの難題抱える

    鄧小平賛同で反旗翻す

    韜光養晦が中国を救う

     

    中国は、次に指摘するように、極めて困難な局面を迎えている。

    1)短期的には、国内経済をどう立て直すか。

    2)長期的には、米国と対立して包囲されるマイナスが、中国の将来を救いのない局面へ追い込むことである。

     

    足下から崩れる危険性

    中国の国内危機は、不動産バブルが象徴するように、不動産=土地の価格をスパイラル的に押し上げ、それがGDPを支えてきたことにある。政府は、土地売却益を主要財源(約5割)にして財政運営を行なってきた。土地が、文字通り「打ち出の小槌」になった。童話の世界でなく、現実に起こっていたのである。

     

    これが、厖大な軍事費やインフラ投資に向けられてきたことは疑いない。この「打ち出の小槌」が今後、不動産バブル終焉になれば、使用不可能になる。代替財源をどうするか。中国の税制は、間接税が全体の3分の2を占め、直接税は3分の1である。先進国税制と、全く逆転した「大衆課税」国家である。共産主義を標榜しながら、大衆課税とは信じ難い話である。共産党幹部や経営者が優遇されている結果である。

     

    この事態を放置して、習近平氏は「共同富裕論」を大真面目に唱えている。これを実現するには、税制を変えることですぐに実現可能であろう。直接税を3分の2に増やし、間接税を3分の1に引き下げれば、庶民の税負担が軽くなって「共同富裕」へ近づく筈である。それを実現できないところに、中国の深い闇があるのだ。

     


    中国の長期的な悩みは、米中対立のもたらす途方もない「マイナス」である。中国は、22~23年には、人口減社会へ突入する。日本、韓国、中国という順序で人口は「自然減」(出生数<死亡者数)になる。高齢者への扶養が、減り続ける青壮年の負担に降りかかる社会が到来するのだ。こうなると、生産性向上は最大急務になるものの、生産技術進歩が米中対立で大幅に制約されるという壁が立ちはだかるのだ。

     

    具体的に言えば、半導体の生産である。中国は、半導体設計が可能でも、それを製品する技術が米国の輸出禁止令で不可能である。半導体は、今後の世界で不可欠な部品である。中国は、その必須技術を入手できなければ、人口減社会をどう凌ぐ計画なのか。

     

    基礎技術のない中国だ。独力で半導体製造技術を進歩させられ訳がない。高速鉄道も、日本の新幹線技術導入で壁を乗り越えられた国である。結局、米国との和解=覇権放棄が、中国の生きる道であることが明白である。習政権では、それができないというジレンマに陥っているのだ。

     


    習氏は、独裁体制を敷こうとしている。中国共産党100年において3回目の「歴史決議」まで行い、習氏の終身権力を認める形になった。習近平氏が、毛沢東や鄧小平に匹敵する「人物」として、承認されたからだ。実は、中国共産党内部でそういう受取り方をされていなかったのである。現実は、それほど経済が深刻な事態であるのだ。

     

    長短二つの難題抱える

    22年の中国経済の抱える問題点は二つある。

     

    1)中国のコロナ感染症対策は、「ゼロコロナ」である。これによってもたらされる経済的な損害が甚大である。つい最近では12月22日、陝西省の省都である西安市(人口1300万人)が、コロナ感染者累計(12月9日から)患者数が143人となり23日、都市封鎖(中国では「閉鎖式管理」と呼称)へ踏み切った。

     

    西安市の人口は、東京都(1400万人)とほぼ同規模である。これだけの大規模都市が、累計143人の患者が出てロックダウンになった。東京都の対応から見ると、想像もできない事態である。中国製ワクチンが効かないことや、医療施設が完備していないことから、超早期のロックダウンである。

     

    こうした「ゼロコロナ」対策は、習氏の指導によるものだ。「ウィズコロナ」を主張した医療関係者は、習氏から厳しい叱責を受けたという。医療専門家でない習氏が、ここまで干渉して決めていることには、中国国内で必ず反対者がいる筈だ。すべて習氏の指示を「唯々諾々」として聞いているとすれば、国を滅ぼす「大罪」に等しいこと。中国にも「義士」はいるはずだ。

     

    ロックダウンすれば、個人消費は低迷して当然である。1世帯につき2日に1回、1人だけが外出して生活用品を購入できるという。西安市内への出入りは禁止される。フライト情報サイトによると、西安発着便の85%以上が欠航した。東京都とほぼ同規模の巨大都市が、買い物も制限されている。窒息状態に陥ったのだ。

     

    2)不動産バブルの終焉は、中国経済の健全化にとって正しい選択であるが、今後の不動産投資の減少がもたらす需要減が、GDPを直撃することである。中国の住宅投資は、鉄鋼・セメントなど素材や耐久消費財買換えなど含めた関連需要が、GDPの25~30%を占めると推計されている。それだけに、不動産バブルの鎮火が、GDP成長率を引き下げるのだ。

     

    ドイツは、中国の不動産バブル鎮火に対して警戒信号を出している。ドイツの対中国輸出依存度は、8.0%(2020年:JETRO調査)であり米国の対中輸出依存度8.6%(同)を下回っている。EU圏は、36.6%と首位だ。それでも、ドイツ連邦銀行(中央銀行)は、次のような厳しい見解(11月『月次報告書』)を発表した。

     


    中国恒大などの債務危機による中国不動産市場低迷で、ドイツの輸出が減少し、GDPの0.6%(ポイント)を失うことになる。『中国経済への依存度の高い国はGDPの損失がより大きくなる』と予測した。ドイツGDPは、21年が実質3.05%成長(IMFが21年10月推計)」

     

    22年のドイツGDPは、中国の不動産バブル鎮火によって、2%台前半に止まりそうである。ドイツですら、GDP0.6%ポイントの落込みを予測している。当の中国経済は、それを上回る負の影響が出て当然であろう。(つづく)

    次の記事もご参考に。

    2021-12-06

    メルマガ316号 「台湾有事は日米有事」、安倍発言で中国はピリピリ 弱点見抜く日本

    2021-12-20

    メルマガ320号 予想以上の経済失速 習近平は「顔面蒼白」 危機乗切り策やっぱり「同じ手!」

     

     

     

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