勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2021年12月

    あじさいのたまご
       


    日本政府は、来年2月の北京冬季五輪へ政府高官の派遣を見送った。代わりに、東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長らが出席すると発表した。日本が、「外交ボイコット」という言葉を使わなかったことで、中国のメンツも立つ格好だ。日本は米国と中国の双方へメッセージを送る形になった。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月24日付)は、「中国、橋本会長らの出席『歓迎』、北京冬季五輪」と題する記事を掲載した。

    (1)「来年2月に開催する北京冬季五輪に東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長らが出席することについて、中国外務省の趙立堅副報道局長は24日の記者会見で「歓迎する」と表明した。そのうえで「スポーツを政治問題にしないという約束を実行するよう促す」と注文をつけた。日本政府が「外交ボイコット」との表現を使わなかったことを評価しているとみられる。習近平(シー・ジンピン)指導部は日本が「外交ボイコット」を表明し、東南アジアや欧州などにも影響が広がる事態を懸念していた

     


    日本は、「外交ボイコット」なる言葉は使わず、政府高官の派遣を見送った。これは、中国の受けるダメージを最小限に抑えた形になった。山下JOC会長らが「代理出席」の形である。他国も、五輪関係者は出席するであろうから、日本だけ特別に中国へ配慮したとは言えない。

     

    日本は、政府高官の派遣中止によって米国と歩調をとることになった。中国は、日本が最後に選択すべき局面において、西側諸国を選ぶことを知ったにちがいない。韓国のように、恫喝すれば中国へ馳せ参じることはないのだ。日本の価値観は、欧米と共にある。

     

    『中央日報』(12月24日付)は、「安倍元首相に会った後、北京五輪『外交的ボイコット』を発表した岸田首相」と題する記事を掲載した。

     

    23日に安倍晋三元首相に25分間ほど会った岸田文雄首相が翌日、北京冬季オリンピック(五輪)「外交的ボイコット」を決めた。6日に米国が中国の人権弾圧を理由に外交的ボイコットを公式宣言して以降、岸田首相は「適切な時期に外交上の観点などを勘案し、国益の観点から自ら判断する」という言葉を繰り返してきた。21日の記者会見でも関連の質問に「今しばらく諸般の事情を総合的に勘案して判断していきたい」と慎重な立場を維持した。

    (2)「来年が日中国交正常化50周年であるうえ、直前の夏季五輪開催国として政府高官級が誰も出席しないのは適切でないというのが、岸田政権内の雰囲気だった。外交的ボイコットの名分である中国の人権問題に対し、日本政府が制裁決議案に賛同しなかったという点も指摘された。したがって、今年7月の東京夏季五輪に中国から苟仲文国家体育総局長が訪日しただけに、政府組織上閣僚でないスポーツ庁の室伏広治長官(元ハンマー投げ選手)を派遣する案が検討された」

     

    来年は、日中国交正常化50周年になる。現在の日中関係では、華やかな式典もないであろう。中国海警船によって、尖閣諸島の領海侵犯が頻繁に行なわれている現在、「祝賀」とはほど遠い雰囲気である。

     


    (3)「24日に日本政府が発表した最終結論は、「政府関係者は一人も派遣しない」だった。前日、岸田首相は安倍元首相の議員会館事務室を訪れた。共同通信は「安倍元首相がこの席で外交的ボイコットを早期に表明することを要求したとみられる」と伝えた。北京五輪に政府使節団が1人でも行けば中国の人権弾圧を容認することになり、国際社会に誤ったメッセージを与えるという理由からだ」

     

    日本が、米国の西側同盟国の一員である以上、西側の不信を買うような行動は慎まなければならない。韓国のような「二股外交」は、著しく国益を損ねるのである。

     

    (4)「日本政界では、安倍元首相ら自民党内の強硬派の圧力に岸田首相一人では対抗できなかったという解釈が出ている。さらに現在推進しているバイデン米大統領との就任後最初の首脳会談を意識せざるを得なかったという分析もある。共同通信は「人権問題を理由に外交ボイコットを発表した米国や英国と協調する姿勢を示した形」とし「ただ、中国との関係を考慮して首相が直接発表せず、官房長官が発表する形をとった」と指摘した」

     

    岸田首相は、早くから「私は出席しない」と明らかにしてきた。今年夏の東京五輪で、中国政府の代表は、序列のかなり低い「体育相」であった。日本政府が、神経を使うほどの高官でなかったのだ。中国も日本と「軽い付き合い」である以上、JOC会長らで釣り合っているのかも知れない。

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    文大統領は、残り少なくなった任期で「レガシー」を残すべく必死である。朝鮮戦争の「終戦宣言」を行いたいと米中双方に強く働きかけているのだ。文氏自身が発言しているように、不都合な事態が起これば、取消せばいいという「いいから加減」なものである。ただ、形式だけ整えれば、それでよしとする姿勢だ。米国が、乗り気でないのは当然である。

     

    いったん「終戦宣言」が出れば、中朝は米国へ必ず「米軍撤退」を要求するはずである。それは、朝鮮半島の安全保障に大きな問題を引き起す前兆だ。文大統領は、こういう分かりきったことが理解できない「外交音痴」に成り下がっている。

     


    『中央日報』(12月24日付)は、「『北SLBMは挑発でない』という韓国、米国『戦略に巻き込まれるべきでない』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国国防部が、北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射を「挑発」でなく「脅威」と規定したことに対し、米国務省が遠回しに反論するような姿を見せた。

     

    (1)「12月24日の『ボイス・オブ・アメリカ』(VOA)放送によると、米国務省報道官室は、前日の韓国国防部の立場表明に関する質問に対し、北朝鮮は不法な武器実験を正常な活動として認識させようとしている」と答えた。これは、二重基準の撤回を要求しながらSLBM発射などを自衛権レベルの正常な武器試験と主張する北朝鮮の戦略に、巻き込まれないという意味と解釈される」

     

    米国は、北朝鮮のSLBM発射実験を脅威として位置づけている。これに対して、韓国は自衛権レベルの正常な武器試験と軽く見ている。韓国政府のこの姿勢は、北朝鮮へのご機嫌取りであり、米国はこれを受入れないと警戒している。米韓では、北朝鮮への姿勢にかなりの隔たりがある。

     


    (2)「23日の業務報告で韓国国防部の関係者は、北朝鮮のSLBM発射に対する性格の規定を問われると、「挑発は主権と国民の危害が明確である場合に使う」とし「(今回の)SLBM発射に対しては軍事的な脅威と明確に規定している」と明らかにした。これに先立ち徐旭(ソ・ウク)国防長官も10月21日、国会で同じ趣旨で答えて論議を呼んだ」

     

    韓国の国防長官まで、北朝鮮のSLBM発射実験に理解ある姿勢を見せている。文大統領の見解に同調しただけだろう。SLBMは、潜水艦発射弾道ミサイルである。核弾頭を装備する戦略兵器であり、爆撃機および大陸間弾道ミサイルと並ぶ主要な核兵器運搬手段となっている。米国が、こういう危険なSLBMの発射実験を軽視するはずがない。韓国の「能天気」ぶりを暴露している。

     


    (3)「こうした雰囲気に対して軍の内外では懸念が強まっている。匿名を求めた(韓国)軍の幹部は、「結局、米国政府は挑発と見ているということ」とし、「任期末に終戦宣言に死活をかけた韓国政府だけが北朝鮮の主張をそのまま認める姿」と話した。北朝鮮側は、韓米の連合訓練を防御的に、北朝鮮の武器開発を挑発と規定するのは二重基準だとし、こうした立場の撤回を終戦宣言の先決条件に掲げている」

     

    北朝鮮は、米韓軍の連合訓練中止と北朝鮮の武器開発容認を「終戦宣言」の条件としている。韓国政府は、この要求に沿っている。米国は、認める訳にいかないとしている。当然であろう。

     

    (4)「米国務省はその間、北朝鮮のSLBM発射を「挑発」と規定する態度を見せてきた。米国のリンダ・トーマスグリーンフィールド国連大使は北朝鮮のSLBM発射翌日の10月20日に開いた安保理非公開緊急会議直前の略式会見で「一連の無謀な挑発のうちでも、直近のこと」と話した。ただ、米国務省報道官室はVOAの質問に対し「我々は米国と同盟国に対する脅威の程度により挑発に対する調整された接近法を取っている」と明らかにし、韓米間の隔たりと映ることに一線を画した」

     

    米国務省は、北朝鮮のSLBMの発射実験を「挑発」と規定している。米国が、これを容認して韓国の主張する「終戦宣言」に賛成するとは思えないのだ。終戦宣言は、文在寅氏の「一人芝居」に終わる可能性が強い。

     


    (5)「米国務省の関係者は、韓国政府が業務報告で終戦宣言を「来年度の核心課題」と明らかにしたことについては、「我々は北朝鮮に最もうまく関与する方法について韓国、日本、そして他の同盟国、パートナーと緊密に協議している」と明らかにした。これに関しVOAは、「日本は停戦協定署名国ではないが、米国務省は終戦宣言に関する立場を尋ねるたびに必ず日本に言及する」と伝えた」

     

    米国務省は、記者団が終戦宣言について質問するたびに、日本について言及している。日本は、朝鮮戦争の当事者でないが、朝鮮半島の安保状況に大きな影響を受ける国である。米国が、日本と密接な連絡を取っていることを覗わせている。韓国は、こういう日米関係の密接さについて無関心であるならば、「外交音痴」と言われても当然であろう。

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    中国は、習近平氏による「鶴の一声」で、「ウィズコロナ」が否定され「ゼロコロナ」という非科学的な選択をして窮地に落込んでいる。この背景には、中国製ワクチンの有効性が欧米製に比べて劣る点が指摘されている。

     

    欧米は、中国製ワクチンを承認していない。これに対抗して、中国も欧米製ワクチンを承認せず、結果として中国は欧米製ワクチンを接種できずにいる。こうして、やむなく「ゼロコロナ」対策という、時代遅れの防疫対策に固執しているのだ。

     

    ここに問題が起こってきた。米国の疫学専門家は、新型コロナウイルスが「オミクロン株」として残留し、「エンデミック」(風土病)になる可能性を指摘し始めている。こうなると、「ゼロコロナ」では、中国経済が持たず疲弊の一途を辿る危険性に見舞われるだろう。

     

    中国は、ここで防疫対策を大転換して欧米製ワクチンやワクチン錠剤を承認しないと、地球上「最後」のゼロコロナ国に成り下がる危険性が高まる。習氏が実態を認識して、「門戸開放」を迫られているのだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月24日付)は、「米コロナ『エンデミック』移行か、対応に変化」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルス変異株「オミクロン株」の猛烈な感染拡大は、米国でコロナ感染症が「エンデミック(特定の地域で普段から繰り返し発生する状態)」に移行する途上にある新たな兆候だと、公衆衛生専門家たちは指摘する。言い換えると、新型コロナのパンデミック(世界的流行)が完全に終息することはない。むしろ、中国でのコロナウイルス発見からわずか数カ月で世界をのみ込んだ危機は、断続的な波を経て徐々に姿を消し、数年かけて、より日常的な感覚のものになるだろうと感染症専門家たちは言う。

     


    (1)「フレッド・ハッチンソンがん研究センターのワクチン感染症部門のジョシュア・シファー准教授は、「全てが終わったと感じる日は来ないだろう」と話す。エンデミックの安定状態がどれだけ早く訪れるのか、また、コロナがどのくらい威力を持ち続けるのかは、当局者や個人がどのレベルの病気なら許容すると判断するかや、積極的に予防策を講じるのか、コロナがどう進化するかにかかっている」

     

    今後のコロナがどのように推移するか不明である。ただ、オミクロン株の感染力は強いものの重症化リスクの低いことから、今後の方向性が見えてきたという。つまり、重症化リスクは下がるものの根絶されないだろうということだ。まさに、「ウィズコロナ」の本格化である。

     

    (2)「新たな波が押し寄せる中、コロナがもたらす脅威に対する姿勢の変化を反映した決定が下されている。米バイデン政権は1月から5億回分の家庭用コロナ検査キットを無料配布するほか、ワクチン接種能力を拡大し、過度の負担がかかる病院に医師や看護師を派遣する準備をしている。一方で、幅広い閉鎖や休業などは求めていない。米当局者は、ワクチン接種や追加接種を受けるように勧め、屋内の公共スペースではマスクを着用し、休暇中に友人や家族と集まる前には検査を受けるよう呼びかけている。いくつかの都市や州では、屋内でのマスク着用を再び求めたり、屋内の公共スペースに入る際にはワクチン接種証明書の提示を義務づけたりしている」

     

    従来は、ワクチンを疫病扱いしてきた。だが、防疫対策の普及で乗切り策が登場して、「ウィズコロナ」という考え方を受入れている。中国は、こういうコロナとの「親和性」がゼロである。今後の「長丁場」を考えると、この硬直化した防疫対策から脱却すべき時期である。

     


    (3)「メルクやファイザーの新しい経口治療薬も、コロナ感染の社会的負担を軽減するのに役立つと期待される。ワクチンの展望としては、初期の実験結果で、モデルナ製およびファイザー/ビオンテック製ワクチンの3回目(ブースター)接種を行うことにより、オミクロン株を防御できる可能性があることが示された。同時に、コロナ検査や公衆衛生当局の監視も極めて重要になる。「これらをうまく融合させれば、もはやコロナがわれわれの社会を混乱させない状態に、いつでも移行できる」。ネブラスカ大学医療センターの公衆衛生学部のアリ・カーン学部長はこう述べた。それでも、コロナやその影響がなくなるわけではない」

     

    コロナの経口治療薬も登場している。モデルナ製およびファイザー/ビオンテック製ワクチンの3回目接種で、免疫度が高まることも分かってきた。コロナ対策が出そろっている中で、正しく恐れるというシステムが作動すれば、罹患リスクを大幅に引下げられるのだ。中国も、この現実を理解することが必要である。

     


    (4)「理学療法士ノア・グリーンスパン氏は、「コロナが消滅することはないと想定している」と言う。
    CDC米疾病対策センター)によると、ある病気が特定の地域で基準レベルの流行を繰り返し、予想可能なパターンになった場合、それはエンデミックと見なされる。また社会に混乱が起きないこともエンデミックのもう一つの特徴だと、一部の公衆衛生専門家は言う。そこで問題となるのは、コロナのリスクやコロナによる死亡者数を市民や政府がどこまで許容できるかということだ。「政治的・社会的な意志がそこに関わってくる」と、バージニア工科大学の准副学長で、感染症疫学者のリサ・リー氏は指摘する。何らかの持続的な予防策を講じなければ、「われわれは脆弱なままだろう」と同氏は言う」

     

    エンデミック(風土病)化すれば、「ウィズコロナ」が最善の方法となろう。中国も、早くこういう防疫体制にならなければならない。

     


    (5)「米国では1日1200人以上がコロナで死亡している。だが、通常のインフルエンザよりも死亡者数や感染者数がはるかに高水準であっても、コロナの感染拡大は恐らく、エンデミックとみなすのに十分なほど予測可能なパターンに落ち着くと、公衆衛生専門家はみている。ウイルスが今後どのように変異し、過去の感染やワクチン接種による免疫反応がどのくらい持続し、コロナ対策で各国がいかに先手を打てるのか。これら全てが、社会とコロナの息の長い関係に影響を与えるだろうと公衆衛生専門家は言う」

    コロナの感染が拡大しても今後は、十分に予測可能なパターンに落ち着くと見られる。こうなれば、防疫対策を講じる時間的な余裕が生まれ、「落ち着いて対応可能」になろう。そういう段階が目前になっている。中国は、こうした現実を知り「ウィズコロナ」の治療体制を立てる時期だ。



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    朴槿惠(パク・クネ)・前大統領の赦免が急遽、文大統領によって決定した。朴氏の釈放は、これまで折りに触れて浮上してきたが、文氏の反対で立ち消えになってきた。それが、ここへ来て本決まりになった。

     

    『ハンギョレ新聞』(12月24日付)は、次のように報じた。

    「文在寅(ムン・ジェイン)大統領が朴槿恵(パク・クネ)前大統領を特別赦免することにした。本紙の取材を総合すると、政府は24日、クリスマス特赦を最終決定し、朴槿恵前大統領を対象に含める予定だ。法務部は当初、朴前大統領に対する刑執行停止を検討したが、朴前大統領が刑執行停止申請をせず、大統領府が赦免する方向に方針を変えた。与党の主要関係者は「健康などの状況を考慮して人道的な側面を反映したようだ」としている」

     

    前記の記事では「人道的な側面を配慮」したとしているが、これは建前の話であろう。文大統領が政治的意図によって決定したはずだ。人道的な意図ならば、今年1月の大法院(最高裁)による最終判決を機に釈放できたはずである。

     

    韓国大法院は朴槿恵氏の再上告審で、懲役20年と罰金180億ウォン(約17億円)を言い渡した原審を確定した。朴氏は、セヌリ党公認介入容疑で確定した懲役2年を加えた22年の刑期後、2039年に出所することになるという判決である。現在から19年後に刑期が終わるのだ。文大統領には、元大統領に対する処遇として「国格」に関わる問題という認識がなかった。政治的に報復するという意識が先立っていた。

     

    それが、突然の「クリスマスイブ特赦」という形をとるには、政治的な理由がある。

     

    1)来年3月の大統領選で、情勢不利な与党候補へのテコ入れである。中道派の支持を増やすには、朴前大統領を特赦して「反政権派」を取り崩す必要がある。文大統領が、あたかもクリスマスイブ特赦として「人道派大統領」というイメージを植え付けたいという狙いも隠されている。文氏は、こういう小細工を平気で行なう人物である。

     

    2)朴槿恵氏の「獄中出版」が、年内に実現の方向である。事前報道では、次のような内容である。

     

    『朝鮮日報』(12月18日付)は、「『政治を共にしてきた人々、全ての重荷を私に背負わせた』…朴槿恵前大統領が獄中出版」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の朴槿恵(パク・クンへ)前大統領の法律代理人を務める柳栄夏(ユ・ヨンハ)弁護士は17日、「朴・前大統領が支持者からもらった手紙やそれに対する返書などをまとめた本が、今月末に出版される」と明かした。

     

    「朴・前大統領は「信じていた周囲の人々の逸脱により、渾身の力を尽くした全てが積弊と烙印を押され、黙々と自分の職分を忠実に履行してきた公職者らが苦難に直面する様子を見守るのは耐えがたい苦痛だった」とし、「初めて政治に携わったころから共にいた人々が、全ての重荷を私に背負わせるのを見て、人生の無常さも感じた」と記した。さらに朴・前大統領は「しかし、誰かのせいにしたり非難して恨んだりする気持ちは捨てて、全てのくびきは私が負わねばならないと考える」とし、「いつになるかは分からないが、国民の皆さんと再び会える日が来るだろう」「困難な時期だが、国民の皆さんががんばってくださることを、そしていつも元気で、幸せでおられることを願っている」とつづった」

     


    この獄中記が出版されれば、朴氏への同情が集まることは必至であろう。すでに5年近い歳月が獄中にある。精神面でも病んでおり治療を受けている状態だ。世論は移ろいやすいもの。これまで朴氏へ向けてきた敵意が、今度は文氏へ向けられかねないリスクを孕んでいるのである。

     

    文大統領は、こういう状況を睨んで自らを「人道派大統領」として売り出す構えだ。どこまでも、人間の心を忘れた振る舞いをしている大統領である。 


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    安倍晋三元首相は、日本で歴代最長の宰相を務めた。外交政策では、インド太平洋戦略「クアッド」(日米豪印)を結成させる裏方になったほか、米国が抜けたTPP(環太平洋経済連携協定)を見事にまとめ上げた点で、米国から高い評価を受けている。一方、守勢に立たされた中国は、安倍氏の「現実外交」によって、日中が最も親しくなった時代を築いた相手でもある。

     

    安倍氏が、単なる「反中」でなく中国と現実外交を行い、日本の力量を深く理解させた点で高く評価されている。中国は、日本を敵視することがどれだけ不利益であるかも理解しているという。安倍氏が、首相の座を去って1年以上経ち、客観的な評価をする時期になってきた。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(12月23日付)は、「インド太平洋に安倍晋三が残した『遺産』」と題するコラムを掲載した。筆者は、ミンシン・ペイ氏(ニューズウィーク・コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)である。

     

    安倍が旗振り役を務めた新体制──包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)と日米豪印戦略対話(クアッド)──は今後長期にわたりアジアの地政学的状況を左右しそうだ。

     

    (1)「トランプ政権が離脱を表明し頓挫した環太平洋諸国の貿易協定TPPを復活するべく、安倍はCPTPP実現に取り組んだ。現在11カ国が加盟し、GDPの合計は14兆ドル近い。さらに2021年2月にはイギリスが正式に加盟申請。9月には中国も加盟を申請、6日後に台湾も後に続いた。イギリスの加盟の公算は高く、実現すれば合計GDPを2兆7000億ドル、約20%押し上げる。厄介なのは中国と台湾のほうだろう。台湾のほうが多くの点で加盟資格を満たしているが、台湾にだけ加盟を認めれば、緊張・対立に拍車を掛ける恐れがある。CPTPP加盟国としては避けたいところだろう」

     

    安倍氏が、米国の脱退したTPPをついに成功させた。米国は、いつでもTPPへ復帰できるように、TPPの骨格を維持しているのだ。米国にとっては、安倍氏が最大の恩人になった。生みの親米国が育児を放棄したが、日本はそれを引き受けたからだ。


    (2)「戦略的に見れば、CPTPPが最大の効果を上げるのはアメリカに関してだ。アメリカではいまだに保護主義が根強く、ジョー・バイデン大統領は政治的にはCPTPP加盟に及び腰。だがCPTPPはアメリカがアジアにおける中国の経済的影響力に対抗できるかどうかのカギを握る。バイデンも最後にはそれを認めざるを得ず、アメリカが加盟できる自由貿易協定があることを安倍に感謝するだろう」

     

    米国には、TPPといういつでも帰れる場所がある。英国も22年には正式加盟だ。こう見ると、米は、国内の状況変化を待って復帰が可能になっている。

     

    (3)「安全保障の面では、安倍の遺産はさらに重要で将来を見据えたものだった。クアッドは安倍が第1次政権時代の2006年に地域の安全保障の枠組みとして提唱。2007年の安倍の辞任後は日の目を見なかったが、安倍の強力なプッシュと中国の影響力拡大を受けて2017年に復活した。今ではバイデン政権はクアッドを中国抑止戦略のカギと見なしている。2021年9月にはホワイトハウスで対面形式では初となるクアッド首脳会議を開催した。クアッドは外交的な象徴の域を超え、合同軍事力も強化している。2020年はインドのベンガル湾で初の合同海上軍事演習を実施、2021年8月にもグアム沖などで実施した」

     

    安倍氏は、インド太平洋戦略の生みの親である。安倍氏が、豪州やインドと親しい関係を生かして対中面で結束させた。米国トランプ大統領(当時)は、この日豪印の友好関係に乗って、「クアッド」を結成したのである。

     

    (4)「CPTPPとクアッドの形成に主導的役割を果たした安倍を、中国封じ込めに熱心な対中強硬派とみる向きもあるかもしれない。だがそうした見方は、安倍の地政学的戦略の第3の柱を見落としている。それは対中直接関与だ。実際、安倍はCPTPPとクアッドを促進する傍ら、日中の安定した協力関係の維持に心を砕いた。2018年10月に訪中し、習近平(シー・チンピン)国家主席の訪日も要請した(2020年4月の予定だったがコロナ禍で延期)。結局、安倍は中国に関しては究極の現実論者だった」

     

    安倍氏は、日中関係の改善にも努力した。習氏の日本国賓訪問の段取りを付けたのである。現状は実現困難になっているが、日本としてはいつでも「切り札」に使える。

     

    (5)「緊張緩和とリスク軽減には2国間関与が不可欠だが、日本の平和と繁栄を維持するには、アメリカとインドをはじめ他の大国との強固な経済・安保同盟も必要だ。その裏打ちがあって初めて、中国は日本を東アジアにおける対等なパートナーとして扱うだろう。現在、この安倍の第3の柱は崩れたかに見える。バイデン政権の説得で菅は安全保障への日本の関与を強化し、日中関係は過去最悪になった。幸い、後任の岸田文雄首相は策を巡らす余地があるかもしれない。安倍の戦略的先見性のおかげで、日本はいま地政学的に中国より優位にある」

     

    安倍氏は、習氏との会談で米中が戦争になれば、中国が致命的な打撃を受けると忠告してきたと言う。中国は、貿易を欠いては生存できない現実を、安倍氏が諄々と説いたというのだ。まさに「安倍氏の現実主義」の面目躍如たるものがある。

     

    (6)「日本が、中国を必要とする以上に、中国は日本を必要としている。デカップリング(経済関係の断絶)と封じ込めというアメリカの戦略の裏をかくには、日本との関係維持が不可欠なのだ。そのため、緊張緩和に伴い、中国側から関係修復に乗り出す可能性は十分ある。そうした自発的な動きはアジア情勢改善につながるだろう」

     

    中国にとって、日本は米同盟国として最右翼に位置する。中国は、この日本との関係を壊せば、米国との関係を繋ぐ国を失うことになる。これだけに、日本を絶対に敵視できない相手であることを認識している。日本は、この立場を有効に生かさなければならないのだ。 

     

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