中国恒大集団は、もはや経営再建が不可能であり「終戦処理」を急いでいる。最終的には、国有不動産企業が買収する説も流れているほどだ。こうした中で、中国は恒大集団の国内債権者を重視する一方、海外債権者を無視する動きをみせている。これが、現実のものとなれば、中国企業の信頼性に大きな傷がつき今後、海外投資家から敬遠されるだろう。中国の身勝手な振る舞いが、自分の首を締めるのだ。
中国恒大集団の海外株主グループは1月20日、同社が実行可能な再建計画の策定を目指すと繰り返してきたが、海外債権者と実質的な交渉を行っていないと指摘した。同グループは、強制措置を真剣に検討する以外の選択肢はなく、法的権利を守るために必要なあらゆる行動を取る用意があるとの声明を発表した。
具体的には、破産申し立てである。この事態になると、全債権者は平等な権利が保証され、現在行なわれている「国内債権者優先」は認められなくなる。これに驚いた中国恒大集団は、海外債権者との話合いの応じるとしているが、ただの時間稼ぎという側面も見え隠れしている。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月31日付)は、「中国では『二級市民』?外国人投資家はご用心」と題する記事を掲載した。
経営危機に陥っている中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の資産を巡る争いが熱を帯びてきた。ほとぼりが冷めた時に誰が生き残っているかは、投資先としての中国の将来を決定づけるだろう。
(1)「香港市場に上場する恒大集団はすでにオフショア債券の一部についてデフォルト(債務不履行)に陥っており、債券は額面を大きく割り込んだ水準で取引されている。だが、ここ1週間には二つの重要な出来事が起こった。まずは、オフショア(海外)債の保有者が法的措置をちらつかせる書簡を送ったことを受け、恒大が26日、今後半年以内に「暫定的な再編計画」の公表を目指すと発表したことだ。二つ目は米オークツリー・キャピタルが香港にある推定10億ドル(約1150億円)相当の恒大の不動産について、有担保融資がデフォルトしたことを理由にその大半を差し押さえに動いたとの英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』報道だ。この不動産は恒大のオフショア債の再編で重要な役割を果たす可能性があった。FTによると、オークツリーはこれとは別に、恒大の国内大型プロジェクトに絡み、有担保融資を行っている」
海外債権者でも、有担保融資はデフォルト同時に担保の処分によって債権の回収を行える。だが無担保債は、企業の経営力を信じるというだけ。債権回収に当っては、不確実性が壁になるのだ。同じ海外債権者でも、有担保と無担保ではこのように債権回収で大きな差が生まれる。
(2)「一方で、恒大はオンショア(国内)債券については、本土の債権者――最終的には当局から何らかの支援が得られると見込んでいる可能性がある――との協議により、厳密な意味でのデフォルトを免れた。そのため、事業継続に資金が振り向けられ、恒大は引き続き仕掛かり物件の完工に充てている。その結果、オークツリーのような有担保の外国人債権者も回収に入り、恒大集団の正式な再編案が届く頃には、争うものが何も残っていない状況に陥るリスクが高まる」
結局、無担保債権者が経営危機時に、最も酷い扱いを受ける。恒大集団のケースでも、現実にはその方向にあるようだ。中国企業が今後、ドル債を発行したくても恒大集団の「踏倒し」が壁になって、海外での資金調達が困難になろう。現在は、その瀬戸際にある。
(3)「そもそも、オフショア債保有者の悲劇は自ら招いたところがあるのも事実だ。格付け会社ムーディーズによると、子会社に認められる借り入れ規模の上限や配当支払いの抑制といった恒大債の債務条項は、過去10年に著しく弱められた。しかも、極めて借金が多く、オンショア資産の大半が本土子会社の下に置かれている恒大のような会社の無担保債券を保有することは常に多大なリスクを伴う。とはいえ、恒大のオフショア債権者が厳しい仕打ちに遭えば、投資先としての中国の評価が突出してひどいことは否定し難くなる。過去1年に米市場に上場する教育サービス、ネットテクノロジー関連の中国企業の株主が経験したことを踏まえればなおさらだ」
中国政府は、海外企業との契約不履行をなんら気にしていない驚くべき錯誤がある。最近の事例では、カナダと結んだ新型コロナウイルスのワクチン共同研究による「製品」ができても、カナダへの輸送を認めないという契約違反を冒している。
海外債権者の無担保債について、国内債権者よりも不利な扱いをすれば、今後のドル債発行に大きな障害となる。そればが、中国経済の成長の芽を摘むことになるのだ。
(4)「中国の一般企業および、地方政府傘下の投資会社の双方にとって、重要な資金調達源だった中国のドル建て社債に対する需要は、深刻かつ恒久的な打撃を受ける恐れがある。オークツリーが中国の裁判所を通じて恒大の本土プロジェクトについても追及し、失敗したとすれば、外国人にとってのビジネス環境全般が痛烈に非難されることになるだろう。しかしながら、中国の借り手や債券投資家は今のところ、少なくとも不動産を除けば、外国人の扱いに対する代償を払っていないようにみえる。これでは外国人投資家の多くが激怒しているのも無理はない」
中国経済自体が、急減速に直面している。今後の中国経済の動向を考えれば、海外投資家との関係を良好に保つことが不可欠である。その命綱を、自ら目先の損得計算で断ち切れば、自沈速度を早めるだけだ。