稀代の「策士」であるロシア大統領プーチンは、軍事作戦で頭の中が一杯かもしれない。だが、迎え撃つ側の米国・EUは経済封鎖でロシアに徹底的打撃を与える準備を始めている。
2014年のクリミア半島侵攻以来、米国が科した経済制裁によってロシア経済は大打撃を受けて回復できないままだ。そこへ、新たにロシア・ルーブルの決済が米ドル決済網から外される。さらに、半導体の禁輸措置が加われば、ロシア経済は麻痺するのだ。
米国とEU(欧州連合)は、ロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2(NS2)」(21年9月完成後、未稼働)を停止させる可能性を臭わせている。ロシアの天然ガスは、輸出全体の6割も占めている。それだけに、NS2への期待も掛かっている。
ロシアにとって、EUが最大の貿易相手だ。モノの貿易の約40%を占め、ロシアへの外国直接投資(FDI)でも最も大きい75%のシェアを握っている。そのEUが、ロシアを締め出す。そうなれば、ゾッとするような光景がロシアに見られるだろう。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月27日付)は、「ロシアの守りに死角、経済制裁に対し弱点多く」と題する記事を掲載した。
ロシアがクリミア半島併合に踏み切った2014年、西側諸国が経済制裁を科すと、ウラジーミル・プーチン大統領はアナリストが「フォートレス・ロシア」と呼ぶ戦略を打ち出した。外貨準備の積み増しや金の購入、対中輸出の開拓を通じて、まさに要塞を構築するかのようにロシア経済を防衛することが狙いだった。
(1)「ロシアがウクライナを再侵攻すれば、足元で浮上している一連の厳しい対ロ制裁措置は、こうした経済防衛策を試すことになりそうだ。米国は1月25日、ロシアへの経済制裁と重要産業への輸出規制を準備していると明らかにした。政権高官によると、米国製の機器やソフトウエア、テクノロジーに基づく超小型電子技術を搭載した多岐にわたる製品について、ロシアへの輸出を禁止する内容で、中国の華為技術(ファーウェイ)に対して行った制裁措置に近い。米当局者はこれまで、ロシアの銀行を対象とするドル資金遮断、ロシアのエネルギー輸出禁止なども検討されていると話している」
後進国経済のロシアが、どう踏ん張って見ても先進国である米国やEUの経済制裁に遭えば、一溜まりもないことは明白。米国・EUは、その弱点を100%突く戦術である。
(2)「ロシアが制裁による影響を低減できていない分野がテクノロジーだ。世界の半導体業界は主に欧米、台湾、韓国の企業が支配している。ロシアにある半導体工場はわずかで、大半は老朽化が進んでおり、西側の企業が持つ部品や特許に依存している。米国が検討しているハイテク技術の輸出規制は、トランプ前政権がファーウェイを窮地に追い込んだ際に使った「外国直接製品ルール(FDPR)」と呼ばれる強力な政策手段を通じて実施される。欧州当局者もハイテク製品などの輸出規制を行うと話しているが、範囲については現在も協議が続いている」。
ロシアの半導体は、西側の部品や特許に依存している。米国は、その脆弱半導体企業に対して、ファーウェイに科したような厳罰主義で臨む。EUも同調すると言う。徹底的に干し上げる戦術だ。
(3)「ハイテク製品の輸出が禁じられれば、ロシアは工作機械やスマートフォンなどの電子製品を購入できなくなるとアナリストは指摘している。そうなれば、経済への打撃は避けられず、経済の近代化に向けた取り組みも阻害されかねない。ロシアは制裁への守りを固めることで、他の産業で一定の成功を収めているが、代償は避けられなかった」
ハイテク製品が禁輸されれば、ロシアは工作機械やスマホなどの電子製品が輸入できなくなって、ロシア経済が止まってしまいかねない重大事態に直面する。
(4)「ロシアのGDP伸び率は2014年以降、世界平均に届いていない。ロシア国民の生活はクリミア半島併合前よりも貧しくなった。2020年末時点の実質賃金は13年比で9.3%落ち込んでいる。さらに、既存の制裁も依然として打撃を与えており、IMFの推定では、2014年から18年にロシアの年間成長率を0.2ポイント下押しした。つまるところ、ロシアによる経済防衛の取り組みは、新たな制裁による衝撃を和らげるには不十分だと指摘されている」
ロシア経済は、2014~18の年間成長率がマイナス0.2%である。この状態で米・EUの経済制裁が加われば、マイナス成長への「引力」は一段と強まる。第二の北朝鮮経済となろう。
(5)「ING銀行の分析では、ロシアの財・サービス輸出のドル決済比率は80%から低下しているものの、なお56%を占める。民間部門はさらに影響を受けやすく、ドルは依然として、現地の為替市場で圧倒的な存在感を持つ。通貨ルーブルとロシア株は数カ月ぶりの安値に沈む一方、ロシアのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は新型コロナウイルス禍が始まって以来の水準に跳ね上がっており、国家財政のリスクが高まっていることを示している」
ロシアの財・サービス輸出のドル決済比率は、米欧の制裁下でもなお56%を占める。ここが、米ドル決済網から切断されれば、致命的な損害を被る。すでに、ルーブルとロシア株が売り込まれている。CDSも危険ラインへ跳ね上がったのだ。
(6)「JPモルガン・チェースのストラテジストは25日、地政学を巡る不透明感が「とてつもなく高まっている」として、ルーブルの買い持ち高を手仕舞うよう投資家に推奨した。経済的な痛みはプーチン氏の支持率をさらに押し下げている。独立系の調査会社、レバダ・センターによると、支持率は2015年に90%に迫る勢いだったが、12月には65%に落ち込んだ」
投資銀行は、ルーブル買いへ警告を出している。値下がりリスクが大きいという意味だ。ルーブル暴落を見込んでいるのであろう。
(7)「バイデン政権はこれまで、世界200カ国余りの金融機関1万1000社以上が参加する「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアを締め出し、ロシアの銀行がドル資金を使えなくすることを検討してきた。バイデン政権がロシアの銀行によるドル資金へのアクセスを遮断すれば、ロシアが実質的に世界から切り離されることになり、大幅なマイナス成長に陥る可能性がある」
プーチンは、ロシア経済がここまで追い込まれれば、お手上げである。プーチン支持率は現在の65%からさらなる落込みが必至である。国民生活は、ルーブル暴落で物価が高騰し、政治的な危機を迎えるに違いない。
中国が台湾へ侵攻すれば、全く同じケースが当てはまるであろう。中国経済は大混乱である。国内の「反習近平派」は好機到来と動き出すであろう。渦巻く国内の不満を吸収して大きな動きが予想されるのだ。





