勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年02月

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    39日投開票の韓国大統領選に立候補した与野党の4候補は25日夜、テレビ討論に臨んだ。与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏は、ウクライナがロシアの侵攻を招いた原因と批判した。「初心者のウクライナ大統領による外交の失敗が、ロシアのウクライナ侵攻を招いた」と言ってのけたのだ。

     

    これは、韓国与党や文政権に共通した見方である。文政権が、西側諸国と歩調を合せてロシア制裁に踏み切らないで、ぐずぐずしてきた背景が、図らずも李候補によって明らかにされた。韓国政府は、ロシアの侵攻を黙認している点で中国と同じ立場である。「親中ロ路線」に基づくものである。

     


    『WOW!KOREA』(2月26日付)は、「韓国野党の尹錫悦大統領選候補『ウクライナがロシアを刺激したと言った李在明候補国際的な恥さらし、無知の所産』」と題する記事を掲載した。

     

    野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)は26日、与党「共に民主党」の李在明氏のウクライナ侵攻発言について「国際的な恥さらし」と批判した。尹候補はこの日、フェイスブックを通じて「不幸な経験をした他国を慰めるどころか、選挙に活用するために何でも言う姿は全世界の人たちの怒りを買っている」とこのように明らかにした。

     

    (1)「続いて、「海外の有名コミュニティ『レディット』に我が国の大統領選討論映像が掲載された。李候補の発言が世界に知られ、これを非難する数多くの書き込みが掲載されている」と述べた。さらに「韓国の元法務部長官は『指導力が足りない元コメディアンの大統領』、現法務部長官は『アマチュア大統領』と他国の国家指導者を卑下する書き込みも掲載された」と指摘した」

     


    李氏の発言は、海外でも批判を呼んでいる。韓国は、朝鮮戦争で同じ民族から戦争を仕掛けられた国である。それだけに、ウクライナに対して深い同情があってしかるべきである。それがなんと、侵攻してきたロシアの肩を持つという信じ難い発言をした。韓国与党が、「親中ロ」であることをはしなくも示すことになった。

     

    こういう政権において、在韓米軍の持つ統帥権を韓国軍へ移譲することは極めて危険である。韓国政権が、北朝鮮軍の侵攻があっても韓国軍が統帥権を持っていれば、大統領命令で抵抗せずに屈服することも可能だ。南北統一が期せずして実現する。こういう悪夢が、進歩派の「親中朝路線」では現実化するはずである。韓国進歩派は、油断ならぬ存在であろう。

     


    (2)「尹候補は、「ウクライナのゼレンスキー大統領は海外に行かず、首都キェフに残って決死抗戦を率いている。(李候補の発言は)ゼレンスキー大統領を支持した72%のウクライナ国民を愚弄している。ロシアの侵攻がウクライナのせいだというのも深刻な無知の所産だ」と述べた」

     

    常識のある人間であれば、ロシアの肩を持つことは考えられないであろう。ロシアの存在を絶対視する韓国与党は、米韓同盟の存在を疎ましく思っているに違いない。

     

    (3)「また、「他国の戦争を他人事とみなし、言葉だけで平和を叫ぶ政治家に我が国の未来を任せることはできない。自尊心が傷ついたウクライナ国民に大韓民国の大統領選候補として謝罪する」と付け加えた。これに先立ち、李候補は前日、中央選挙管理委員会が主管する2回目のテレビ討論で、ウクライナ侵攻について「6か月の初歩政治家が大統領になり、NATOが加入をしてくれとも言わないのに、加入を宣言してロシアと衝突した」と述べた」

     

    今にも、ロシア軍の砲弾が飛んでくると恐れているウクライナ国民に対して、李氏の発言は、余りにも残酷である。朝鮮戦争を経験した国民が、言ってはならない発言である。

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    文氏が、大統領任期末になって突然、これまでの「脱原発主義」を振り捨てた。ウクライナ問題をめぐって、欧州のエネルギー源はロシヤに依存している危険性が浮き彫りになっている。これが、文氏の「心変わり」の理由と見られる。

     

    EU(欧州連合)のEU委員会(執行機関)では、グリーンエネルギーとして自然エネルギーのほかに、原子力発電と天然ガスを加えた。賛否両論の中で、原子力発電による「脱炭素」の魅力に勝てず見直しとなったもの。フランスは、原発の大増設計画を発表しており、原発に光りが差し始めている。文大統領は、こういう国際情勢の変化を知ったのであろう。

     


    『WOW!KOREA』(2月26日付)は、「脱原発主張の文大統領『原発を主力発電に』、韓国で物議」と題する記事を掲載した。

     

    脱原発を主張してきた韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領が、突然「今後60年間、原発を主力電源として活用するべきだ」と発言し、物議を醸している。25日、アジア経済新聞など複数の韓国メディアが報じた。

     

    (1)「文大統領は25日、大統領府で「グローバルエネルギー供給網の懸案点検会議」の席で、「エネルギー源としての原発が持つ長所にもかかわらず、韓国の場合、原発の密集度が世界最高で特定地域に集中している。万一、事故が発生すればその被害に耐えられないため、電源構成(エネルギーミックス)の見直しは避けられない」と、脱原発の理由を説明した」

     

    このパラグラフでは、脱原発の理由をそれなりに説明しているが、脱原発政策中止の言い訳である。現に、次のパラグラフで、原発継続方針を明らかにしているからだ。

     

    (2)「その一方で「今後60年間は、原子力を主力電源として十分に活用しなければならない」とし、新ハヌル(韓蔚)1・2号機(慶尚北道蔚珍)と新コリ(古里)5・6号機(蔚山市)が早期に稼動できるよう点検してほしいと注文した。同日の会議は、ロシヤのウクライナ侵攻で、グローバルエネルギー供給網の不安が高まっている中、安定的な電力供給基盤の拡充に向け、国内原発の実態点検のために開かれた」

     

    今後60年間は、原子力を主力電源として十分に活用するという大転換方針を明らかにした。すでに、大統領選で最大野党「国民の力」のユン候補は、原発発電所の大増設を公約している。「安全な原発技術を発展させ、今後、韓国の中核エンジンにする」とした。文政権は、2050年までに発電量に占める原発比率を7%に減らし、足りない電力は中国とロシヤから輸入する方針を示してきた。ユン候補は、これを真っ向から批判したものだ。文大統領は、この批判を受入れたに違いない。文大統領が、在任中の政策で改めた唯一の例である。

     


    (3)「野党からは、文大統領の発言に対して、強い批判が起こっている。26日、世界日報によると、保守系野党「国民の力」は文大統領の原発を正常に稼働するよう指示したことについて、「自己否定した」と強く反発した。同党のファン・ギュファン報道官はこの日の論評で「むしろ正直に、国民の前に脱原発政策の失敗を認め、危機状況で頼れるのは原発しかないということを打ち明けろ」と批判した。韓国経済新聞の25日付社説でも、文大統領の発言は脱原発の失敗を「カミングアウト」したものだと批判している」

     

    文氏は、ユン候補の原発復活論に歩があると見たのだ。これまで文氏は、脱原発主義を掲げたので、大学の原子力学科の志望学生はゼロなり、大学院終了者は就職先がないという苦汁を飲まされてきた。文大統領が人気取りで脱原発を唱えなければ、波乱なく過ごしてきたのだ。韓国はこれで、福島原発の処理水問題でも沈黙するであろう。福島県産外の水産物輸入禁止も棚上げか。日本において、波及する先は多方面にわたる。

     


    (4)「文大統領は就任直後、古里原発1号機の永久停止記念式で、原発の安全性を否定し、脱原発時代を宣言している。しかし、文政権が5年間続けてきた脱原発政策で、優良企業だった韓国電力公社が赤字になった。同社は、昨年の約6兆ウォンに続き、今年は創立以来最大の10兆ウォンの損失を予告している」

     

    健全企業であった韓国電力公社は、脱原発で大赤字を抱える企業体に成り下がった。すべて文氏の思いつきの「脱原発主義」にある。現実を知らない、夢想家の大統領が就任すると、天下はひっくり返る実例がここにある。

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    ロシア軍のウクライナ侵攻が始まったのは2月24日早朝である。早くも、戦闘は三日経った。予想よりもロシア軍の侵攻速度が遅いとも言われる。ウクライナ軍の抵抗が、それだけ大きい結果であろう。米国は、三度にわたり軍事費を供与している。ロシア軍は、電撃戦を目指していると指摘されているが、ウクライナの徹底抗戦となれば、事態は変わる。ロシア非難もそれだけ高まるだろう。ロシアは、それを恐れている。

     

    ロシアの目的は、ウクライナの「無力化」である。従属国にさせようという狙いだ。それを指摘するのが、次の記事だ。

     


    「米シンクタンク、ジェームズタウン財団のベテラン軍事アナリストでもあるフェルゲンハウアー氏は、「ウクライナの軍事力は完全に解体され、兵器は一掃され、ウクライナをロシアが全く抵抗を受けることなく好きなように扱える緩衝地帯へと転換することだ」と分析し、「プーチン氏は非常に明確だ。領土的な問題は副次的なものだ」と述べた」(『ブルームバーグ』(2月25日付)

     

    ロシアは、「ロシア帝国」の認識である。それは、「プーチン演説」にはっきりしている。

     

    『共同通信』(2月25日付)は、「『ロシアは核保有国』『攻撃を加えれば不幸な結果に』プーチン大統領の演説要旨」と題する記事を掲載した。ロシアのプーチン大統領が24日に行った演説の要旨は次の通り。

     

    (1)「私は2月21日の演説で、最大の懸念と心配、無責任な西側諸国がロシアに対して生み出してきた本質的な脅威について話した。北大西洋条約機構(NATO)は、軍備をロシア国境に近づけている。過去30年間、われわれはNATOとの間で辛抱強く合意を試みてきたが、NATOは拡大し続けた。われわれの利益と合法的な要求に対する侮辱的で軽蔑的な態度をどう説明するのか」

     


    プーチン氏は、強迫症に取り憑かれている。民主主義国家は、領土の拡張を欲しないもの。専制主義の中国やロシアと本質的に異なる点だ。なぜ、NATO加盟国が増えたか。それは、ロシアの圧力を恐れている結果だ。ロシアの存在が、NATOを拡大させたのである。

     

    (2)「答えは明瞭だ。1980年代後半、ソ連は弱体化し崩壊した。自信を失ったのはほんの一瞬だったが、世界の力の均衡を崩すには十分だった。その結果、古い条約や合意は有効ではなくなった。覇権国家の権力者に都合の悪いものは非難され、有用だと見なすものは強制される。これはロシアだけでなく、国際関係のシステム全体や米国の同盟国にも関係する。イラクや、シリアやリビアなど、米国が法と秩序をもたらした世界の多くの地域では、国際テロ、過激主義が生まれた。しかし米国は依然として偉大な国で、多くの国が彼らのルールを受け入れている」

     

    ロシアが、真の民主主義国家へ変わったのであれば、近隣国を遠ざけることもなかったはずだ。ロシアは、共産主義国家が一足飛びに民主主義国家になれないという教訓を残した。となれば、このロシアを徹底的に内部改造させる機会は、西側の断固たる経済制裁による以外に道はない。

     


    (3)「われわれは2021年12月、NATO不拡大と欧州の安全保障の原則に関し、米国と同盟国と合意ができないかもう一度試みたが、米国は態度を変えなかった。1940~41年初頭、ソ連は戦争を防ごうとしたが、手遅れだった。41年6月のナチス・ドイツの侵攻に対抗する準備ができていなかった。敵を打ち負かしたが、多大な犠牲も被った。この失敗を再び犯すことは許されない。ソ連が解体され能力の大部分を失った後も、ロシアは核保有国の一つだ。最新鋭兵器もある。われわれに攻撃を加えれば不幸な結果となるのは明らかだ。同時に、防衛技術は急速に変化しており、周辺に軍事力が存在する限り許容できない脅威であり続ける」

     

    国家の存立を唯一、核に依存して周辺国を脅迫する。こういう考えは、21世紀の遺物である。ロシアとして、外に誇れるものはないのか。気の毒なほど「後ろ向き」な国家観である。

     


    (4)「これ以上のNATOの拡大やウクライナ国内に軍事拠点を構える試みは受け入れられない。NATOは米国の道具だ。問題は「われわれの歴史的な土地」で反ロシア感情が生まれていることだ。国外からコントロールされ、NATOの軍隊を呼び込み、最新鋭の兵器を得ようとしている。これはロシアの封じ込め政策で、存在と主権に対する脅威だ。レッドラインで、彼らはこれを越えた」

     

    ロシアは、NATOと中立条約を結ぶことだ。そうすれば、東欧諸国も安心する。近隣国は、ロシアの強権政治を嫌っている。その延長で、中国にも違和感を持っているのだ。「NATOは米国の道具だ」と言い切っている当たり「旧米ソ」関係を懐かしんでいるようである。時代はもはや、そういう30年も昔に戻ることはない。

     

    (5)「ウクライナで2014年、クーデターで権力を得た勢力は、お飾りの選挙で力を保持し、平和解決の道を放棄した。われわれは平和的に解決する手段を探ってきたが水泡に帰した。ロシアに希望を持つ100万人へのジェノサイド(集団殺害)を止めなければならない。ドンバスの人民共和国の独立を認めたのは、人々の望みや苦痛が理由だ」

     

    ウクライナは、ロシアよりもはるかに民主化されている。プーチン氏の長期政権自体が、政治の私物化を示している。


    (6)「NATOの主要国はウクライナの極右勢力とネオナチを支援し、クリミアの人々がロシアに再統合する選択を許さないだろう。彼らはドンバスと同様にクリミアでも戦争を起こし、ヒトラーの共犯者同様、市民を殺害する。ロシアと自国民を守るにはこの手段しかない。ドンバスの共和国はロシアに助けを求めており、迅速な行動が必要だ。私は、特別な軍事作戦を行うこととした。目的は、キエフの政権に8年間虐げられてきた市民の保護だ。ウクライナの非軍事化に努める。領土の占領は計画していない」

     

    このパラグラフを読むと、プーチン氏が「認知症」に掛かっていないか心配するほど、メチャクチャな論理だ。専門家は、この発言を診断すべきであろう。妄想狂に陥っているからだ。


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    欧米では、プーチン・ロシア大統領への怒りが沸騰している。国家元首であるプーチン氏を個人制裁する意向を固めた。異例のことである。これにより、プーチン氏が外国に所有する資産(一説では400億ドル)が凍結される。ただ、実際にどれだけの資産が海外にあるかは不明で、「プーチン制裁」は象徴的な意味とされる。

     

    『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「米政府、プーチン氏個人を標的に制裁発動へー主に象徴的な措置」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻したことを受け、米国はロシアのプーチン大統領個人を対象とした制裁発動を計画している。事情に詳しい関係者が明らかにしたもので、近く発表される見通しだという。欧州連合(EU)と英国もプーチン氏個人を標的にした制裁を発動する方向にある。プーチン氏の資産については、その規模や所在に関する情報が不確かなため、制裁を発動しても主に象徴的な意味合いになる。

     


    (1)「プーチン氏は2008年、欧州一の富豪として400億ドル(約4兆6230億円)の資産を保有すると報じられたが、年次記者会見で「根も葉もないでっち上げだ」と一蹴した。ニューヨークのコンサルタント会社オリバー・ワイマンで制裁を担当するダニエル・タネンバウム氏は、制裁の意図がプーチン氏に対する西側の団結した姿勢を示すことにあるのならその目的を果たす可能性はあると指摘。しかし、「同氏の個人資産接収が目的ならば、完全な成功を遂げるのは極めて難しいだろう」と述べた」

     

    プーチン氏は2008年に、400億ドルの資産家と言われたことがある。ロシアの新興財閥の後ろ盾になっていることから言えば、あながち「噂」とは言えまい。献金があったとしても不思議はない。国家元首が個人制裁を受けるとは、ロシアにとって最大の恥辱である。

     

    西側諸国が一致した対ロ経済制裁に踏み切る。これは、ロシア経済にとって大きな負担になるはずだ。経済沈滞を招くことは不可避である。格付け会社は、一斉にロシアの格付けを「ジャンク級」に引下げる。

     

    『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「S&Pがロシアをジャンク級に格下げー引き下げや見直し相次ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアとウクライナとの戦闘激化の中にあって、格付け会社S&Pグローバル・レーティングは25日、ロシアの信用格付けをジャンク級(投機的格付け)に引き下げ、ウクライナも格下げとした。ウクライナの格付けを引き下げたフィッチや、両国のソブリン格付けを引き下げ方向で見直すと発表したムーディーズ・インベスターズ・サービスの動きに加わった。

     


    (2)「S&Pは従来「BBB-」だったロシアの格付けを「BB+」と、投資適格級を下回る水準に引き下げるとともに、さらなる格下げの可能性を指摘。ウクライナ侵攻に対する「強力な」国際的な対ロシア制裁を理由に挙げた。同社はウクライナの格付けも「B-」と、これまでの「B」から引き下げた」

     

    S&Pは、ロシア国債の格付けを「BB+」とした。これは、投資適格級を下回る水準であり、ジャンク級を意味する。国際的な対ロシア制裁が、ロシア経済を徹底的に「打ちのめす」という理由である。外貨準備高6300億ドル(22年1月)も、防波堤にならない。

     

    (3)「ムーディーズは現在、ロシアをジャンク級より一つ上回る「Baa3」、ウクライナはジャンク級で上から6番目の「B3」としている。フィッチはウクライナの格付けをジャンク級で上から7番目の「CCC」と、従来の「B」から引き下げた。ムーディーズは発表文でロシアによるウクライナ侵攻について、地政学的リスクの「一段と大幅な高まり」を示すもので、厳しい対ロ制裁が講じられ、「ソブリン債の返済に影響する可能性がある」と説明した」

     

    ムーディーズは現在、ジャンク級よりも一つ上の格付けであるが、引下げる可能性を認めている。

     


    国際的な格付け会社が、ロシア経済に対して否定的見方をしている。これを受けて、中国は「ロシア接近」のポーズから微妙にスタンスを変えている。国連安全保障理事会の「ロシア非難決議」において、反対せず棄権に回ったのだ。中国が、国際社会からロシアと同じであると見られたくない。そういう「本音」をのぞかせた。

     

    『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「中国の大手国有銀、ロシア産商品購入のための融資を制限-関係者」と題する記事を掲載した。

     

    中国の大手国有銀行で少なくとも2行がロシア産商品購入のための融資を制限している。米国と同盟国が対ロシア制裁を発表する中で、戦略的に特に重要なロシアとの経済関係を維持するとした中国の方針に、限界が迫っていることが浮き彫りになった。

     

    (4)「事情を知る関係者2人によれば、中国工商銀行の国外部門は、ロシア産商品現物を購入するためのドル建て信用状(LC)の発行を停止。人民元建てのLCは一部顧客を対象に発行可能だが、上級幹部の承認を要するという。関係者は部外秘情報だとして匿名で話した。中国銀行(バンク・オブ・チャイナ)も自社によるリスク査定に基づき、ロシア産商品向け融資を制限している。別の関係者が明らかにした。関係者2人によれば、中国規制当局からロシアについて同行に明示的な指針は出されていない」

     

    中国工商銀行は、ロシア産商品現物を購入するためのドル建て信用状(LC)の発行を停止した。LCが出なければ、輸入が不可能という意味だ。中国政府はロシア産の小麦・大麦の輸入を増やすと発表したが、現実は抑制に動いている。中国銀行もロシア産商品向け融資を制限しているのだ。

     


    (5)「中国の大手金融機関と習近平国家主席にとって、今回の融資制限は難しいバランスを探った結果だ。中国にとってロシアは主要なエネルギー供給元であり、米国との地政学的な対立で中ロが協調することも多い。その一方で、中国製品を多く輸入し、ドルが支配する国際金融システムへのアクセスをコントロールする西側諸国に比べると、中国におけるロシア経済の重要性は見劣りする

     

    下線のように、中国ビジネスの多くは西側諸国との間で行なわれている。ロシアを救って、西側市場を失えば元も子もない。中国が、経済的にロシアへ接近することは困難になっている。欧米の経済制裁の強さに驚いているのだろう。これは、中国の台湾侵攻の際にも起こりうる経済制裁である。習近平氏は、首をすくめて見ているはずだ。

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    「止せば良かった」は歌の文句だ。ロシアはウクライナへ侵攻して、これから大きな経済的代償を払わせられる番になった。ロシアの有力銀行との取引停止や国債売買停止のほかに、米国は半導体などのハイテク製品をロシアへ禁輸措置にする。これで、ロシアが輸入するハイテク製品は半減という痛手を被ることになった。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月25日付)は、「米、ロシアにハイテク禁輸 米製規制部品25%超で適用も」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米政権は24日、ウクライナに侵攻したロシアへのハイテク製品の輸出規制を発動した。日本や欧州連合(EU)などと協調し、半導体やセンサーの輸出を止める。「ロシアの軍事、航空宇宙、造船が主な標的」(米商務省)。効力は中国の出方が左右する。

     


    (1)「米商務省によると、半導体や通信部品、センサー、航空機部品、レーザーなど特定のハイテク製品の輸出規制を厳しくする。米国製品のロシアへの輸出を許可制とし、申請は原則却下する。米国の輸出規制は域外適用が特徴で、米国外で製造した製品をロシアに輸出する日本企業などにも規制の網がかかる。米国外で製造した製品も市場価格ベースで25%超の米国製の規制品目を含んでいれば、輸出を止められる可能性がある」

     

    下線部は、ロシア経済にとって重要部分である。プーチン氏の執念で始めたウクライナ侵攻が、後々になってロシア経済を痛撃することになる。

     


    (2)「米国は、「米国と同盟国への影響を最小化するよう設計した」(バイデン大統領)とも説明。様々な例外規定を設けた。スマホなど消費者向け通信機器はロシア政府関係者に売らない限り、規制の対象外とした。日米欧企業のロシア子会社に輸出する場合も、個別判断で輸出を認める。完成車は原則輸出できる。輸出規制は日米欧、オーストラリアや台湾などが足並みをそろえた

     

    輸出規制は、日米欧のほかに豪州や台湾も協調する。この中に韓国が入っていないのだ。韓国は、口先だけでロシア批判に加わったが、経済制裁では態度未定である。だが、ハイテク規制には、韓国企業も該当する。逃げ場はないはずだ。

     

    (3)「日本も25日、半導体など米国と同様のハイテク製品の輸出規制を打ち出した。企業がロシアへ輸出する場合、事前申請して経済産業相の許可を得る仕組みとする。3月に改正する見通しの政令で詳細を示すため、現時点で不明瞭な点も多い。日本のメーカーから「規制対象になる範囲を明確にしてほしい」との声があがる。半導体といっても、単品での輸出に加え、様々な部品や製品に組み込まれた状態で輸出するケースもある。経済官庁の担当者は半導体など規制対象の品目が「製品に組み込まれて簡単に取り外せない状態になっている自動車やスマホ、パソコン、家電などは輸出規制を想定していない」と説明する」

     

    日本は、あらゆる種類の半導体の輸出が規制対象なのか不明瞭だ。米政府が20年に中国の華為技術(ファーウェイ)への輸出規制を厳しくした際も、技術水準が低い半導体は事実上、例外扱いにして輸出を容認した。この辺りは、ケースバイケースで確かめるのであろう。

     


    (4)「輸出規制の効力は、中国が米国の規制を守るかどうかという面もある。米規制の域外適用を中国が拒み、ロシアへの輸出を続ければ「抜け穴」となって効力は薄れる。そこでバイデン政権は米国外で生産した製品について、製造過程で米国の技術を使っている場合も輸出を規制する新規則を取り入れた。新規則は20年にファーウェイに課した枠組みを転用した。日欧は新規則の対象外で、中国が念頭にあるのは明らかだ。ファーウェイは日本や台湾との取引を制限され、スマホ販売が大きく落ち込んだ。米国の設計技術や装置がなければ、半導体の製造は難しい」

     

    韓国は、仮に対ロ輸出規制に加わらなくても、下線部によって抵触する。そうであれば、積極的に米国へ協調することの方が、外交上もスムースに行くと思うが、ロシアへ義理立てしているのだ。

     


    (5)「中国企業が、新規則を無視してロシアに輸出すれば米制裁の対象になる。元米政府高官は、「中国がロシアを助ければ、米政府から強力な対抗措置を受けると認識しなければいけない」と述べ、当面はおおむね順守するとみる。一方、ナザク・ニカクタル元商務次官代行(輸出管理担当)は、「中国は順守しないのではないか。ロシアへの違法な迂回輸出経路になる」と懸念する。新規則は「非常に複雑で企業が判断するのは簡単ではない」(首都ワシントンの弁護士)との声もあがる」

     

    中国企業が米国の規制破りをすれば、「第二のファーウェイ事件」になる。責任者は、逮捕されるだけに米国の新規制を遵守せざるを得まい。

     


    (6)「
    米政権は、多国間の協調で500億ドル(約5兆7500億円)の輸出制限になると主張する。ロシアの21年輸入額の2割弱に相当する。バイデン氏は「ロシアのハイテク輸入が半減する」とも説明した。一方、米国半導体工業会(SIA)は声明で「ロシアは世界の半導体購入の0.%未満で大きな需要家ではない」と述べ、米国企業への影響は小さいと指摘した」

     

    バイデン大統領によれば、ロシアが輸入する全ハイテク製品の半分が該当して輸入できなくなるという。これは、大変な事態になる。ロシア企業の首根っこを抑えるに等しいことになろう。プーチン氏はそのとき、どう対応するのか。見ものである。

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