パンデミック下で米中経済は、対照的な動きをしている。中国は、「ゼロコロナ」対策である。米国は「ウィズコロナ」対策によって、経済とのバランスを取っている。
米国の場合、パンデミック対策として十分な個人補償を行なったこともあり、失業しても暮しに困らないという恵まれた環境にある。これが、求職動機を弱めている。求人が増えても必要な労働力を確保できない、という珍現象を生んでいるのだ。こうして、時給を引き上げざるをえず、これが価格に転嫁されている。この結果、消費者物価上昇率は約40年ぶりのレベル(昨年12月、前年比7.0%)へ押し上げられた。
この事態が、米国経済の足腰を強めることになりそうだ。企業は、足りない労働力をカバーすべく、生産性向上に取り組まざるを得ない。転んでもタダで起きない、そういう事業展開が予想される。中国は、習近平氏の鶴の一声で「ゼロコロナ」である。創意工夫する米国企業と、漫然と休業するほかない中国企業では、こうして大きな差がついて当然だ。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』(2月2日付)は、「『大退職時代』 企業に変化迫る」と題する社説を掲載した。
米国の労働力に一体なにが起きているのか。米国におけるインフレの要因になっている賃上げの問題だけではない。新型コロナウイルスの世界的感染拡大(パンデミック)が始まってから何百万人ものアメリカ労働者が退職し、「大量退職時代」として大きな議論を呼んでいる。米国における退職者数は昨年11月にピークに達した。求人数が非常に高水準にあるなか、2000年以来で最も多い450万人のアメリカ人が職場を去った。
(1)「マイクロソフトのリポートによれば、全世界の労働者の41%が退職を考えているという。長期化するパンデミックに伴う「デジタル燃え尽き症候群」や孤立感、人とのつながりが失われたことなどが原因とみられている。しかし、米国の労働市場は他の多くの国よりもひっ迫しており、その状況は当分続くとみられる。米国の労働参加率は、他の先進国よりも低下が著しく、際だって低い水準にある。企業の間で労働力を確保するための競争が激しくなっており、一定の生産に必要な労働コストは、コロナ前の水準と比べて大幅に上昇している。対照的に、他の先進国では、労働コストは下落傾向にある」
下線部で、米国企業は労働者不足をカバーすべく賃上げしているので「賃金コスト」が上昇している。この実態解消で、米国企業は生産性向上に取り組まざるを得ないのだ。
(2)「この状況を生んだ一因は、パンデミックに対する米国の対応の方法にもある。欧州が雇用を守ることを優先したのに対し、米国は成長の維持に主眼を置いた。米国は、企業が自由に従業員を解雇することを許し、失業者に手当を支給する政策を取った。結果的に、特に大きく落ち込んだ米国のサービス部門が急回復するにつれ、企業は慌てて新たに労働者を雇い入れる必要に迫られた。この解雇・転職の大波に、コロナ対策の一環としての特別失業給付が加わり、何百万もの労働者にとってかつてないほど有利な状況が生まれた」
米国は、パンデミック下の従業員解雇を認めた。これが現在、労働力不足となったはね返っている。従業員は、たっぷりと解雇手当を手に入れたので失業していても裕福である。これが、求職活動を消極化させている。
(3)「転職率は、レジャー、接客、外食産業などで特に高くなっている。こうした業界で働く労働者の多くは、低賃金で長時間労働を強いられていた以前の職に戻る気はない。売り手市場で、企業が賃金や手当の引き上げを迫られている状況を利用して、より好条件の仕事を探す労働者も少なくない。アトランタ連銀のデータによると、昨年の8月から10月までの期間に転職した労働者の賃金上昇率は、中央値で5.1%だった。これに対して、転職しなかった労働者の賃金上昇率は3.7%にとどまった。転職している労働者の多くは低賃金層に属するが、この層の賃金が上昇することで、企業は、高賃金の労働者の給与も引き上げざるを得なくなりつつある。これが転職ブームにさらに拍車をかける要因になる」
転職率の高い業種は、レジャー、接客、外食産業などだ。この業種では、時給を引き上げねば労働力を確保できなくなっている。これが、他産業にも波及している。ここに、企業側は抜本的な対策を打つはずである。労働生産性向上の投資などだ。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月4日付)は、「米労働生産性、コロナ収束後に大きく上昇も」と題する記事を掲載した。
米労働省が2月3日発表した2021年10~12月期の非農業部門の労働生産性は前期比年率換算で6.6%上昇した。大きな伸びではあるが、5%もの低下を記録した7~9月期から持ち直したにすぎない。21年通年の伸びは1.9%で、20年の2.4%や、新型コロナウイルス流行前の19年の2%を下回った
(4)「米国は今、生産性の向上を必要としているということだ。時間当たりの生産高が増えれば、生産にかかる労働コストはそれだけ下がる。生産性の伸びが高ければ、企業は価格を据え置いたまま販売量を増やすことができ、利益の拡大や労働者の賃上げが可能となる。「賃上げが利益率を圧迫するのではないか」とか「持続的なインフレを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が経済にブレーキをかけるのではないか」などと投資家が懸念している時に、生産性の伸びが拡大すれば大歓迎されるだろう」
米国経済は、時ならぬ「労働力不足」に直面している。これを乗り切るには、設備投資を増やすこと。また、仕事の流れを抜本的に変えて在宅勤務を取り入れるなど、種々の方法が試されるだろう。これが、米国経済の足腰を強くするはずだ。
(5)「都合に応じて在宅勤務と出社を切り替えたり、オンラインと対面の会議を適宜使い分けたりできるようになれば、人々の効率性は飛躍的に高まる。オンラインでメニューを選び注文するシステムは多くのレストランが導入しているが、それが生産性に及ぼすメリットを実感できるようになるのはレストラン事業が完全に回復してからだろう。また、需要は強いが労働者の確保は難しいという状況を受け、企業の間では生産性向上策を見いだそうという機運が数年ぶりの高まりを見せている。賃金が、停滞し経済成長がさえなかった時代に考えられなかったような効率化を図る企業が多く出てくるだろう」
米国企業は、人手不足という「危機」を「ビジネスチャンス」に変えるであろう。今、その機会がめぐってきたのだ。





