勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年02月

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    米国バイデン大統領は、日豪印の大使に長年の盟友を指名した。インド太平洋戦略の要である「クアッド」(日米豪印)に、気心の知れた人物を大使として配置した。中韓は、ベテラン外交官を指名して米国とのさらなる関係密接化を図る意図は見えない人事である。韓国の反応はまだ分らないが、文政権の二股外交によって米国の信頼は揺らいでいることを見せつけた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月3日付)は、「バイデン氏、日豪印大使に盟友 対中抑止へ戦略配置」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米大統領は日本、オーストラリア、インドの米国大使に自らに近い人物を相次ぎ起用した。インド太平洋地域で中国抑止へ協力する国と緊密に連携できる陣容をそろえた。対立する中国や北朝鮮と向き合う最前線になる中国、韓国の大使には職業外交官を据える。

     


    (1)「
    新たに駐日米大使に着任したラーム・エマニュエル氏は、クリントン政権の政策顧問や下院議員を経て、バイデン氏が副大統領を8年務めたオバマ政権で大統領首席補佐官を務めた。日本側はバイデン氏を含む政権中枢とのパイプを通じ、日本政府の意向を迅速に伝える窓口役を期待する。エマニュエル氏は2月1日、外務省で林芳正外相と面会した際に北朝鮮のミサイル発射やウクライナ情勢に触れて「日米が直面する課題にしっかり取り組む」と話した。中国を念頭にルールに基づく民主主義の秩序が脅かされていると指摘した。林氏は「日米同盟をさらに強固なものにするため率直に議論できる関係を築きたい」と伝えた。両氏は「自由で開かれたインド太平洋」実現に協力を申し合わせた」

     

    米国にとって今や、日米関係は最も重要な関係になった。対中戦略の要として日本が位置づけられているからだ。民主主義の防波堤といっても言い過ぎでない。日本は、尖閣諸島の防衛で米軍の協力を必要とする。一方、米国はインド太平洋戦略において、日本が持つ豪印との親密性がクアッドの基盤を強化するメリットを受けられるのだ。

     


    (2)「これまでの駐日米大使は、政府・議会の大物、大統領の盟友・側近、知日派の学者――に大別できる。知日派といえないエマニュエル氏は他の要素を併せ持つ。軍事・経済両面で台頭する中国をにらみ、同盟国である日本とインド太平洋で民主主義国家の結びつきを広げる責務を担う。2000年代前半までは副大統領や下院議長などを経験した大物が就く例が目立った。最近は大統領との個人的な関係を重視する傾向にある。エマニュエル氏の前任のハガティ上院議員はトランプ前大統領の政権移行チームで政治任用の人事担当の責任者だった」

     

    戦後の駐日米国大使は、いずれも米国の「大物」が赴任してきた。当時は、日米関係の強化発展が眼目であった。現在は、さらに豪印とりわけインドとの関係強化が必要になっている。米印関係は、これまでそれほど親密といえる関係でなかった。インドの「非同盟主義」が立ちはだかったからである。そのインドが、米国との関係強化に乗出した背景には、中国との対立が深刻化している外に、日印関係の良好さが土台になり米印関係も深まったという事情がある。日本がその仲介役を担った。具体的には、安倍元首相の外交力に負うものだ。

     


    (3)「米アメリカン・エンタープライズ研究所のザック・クーパー氏は「関係が良好な日豪印で大使が扱う懸案は比較的少なく、各国は政権に影響力を持つ人物を望むケースが多い」と話す。豪印にもバイデン氏とつながりが深い大使を送る。豪州にはオバマ政権で駐日大使を務めたキャロライン・ケネディ氏を指名した。20年大統領選でバイデン氏を支持し、資金面でも支えた。ケネディ元大統領の長女という名門の出身で、なお民主党内に影響力を維持する。豪州は日米印と構成する「Quad(クアッド)」に加え、米英との安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の一角。いずれも中国抑止を主眼にバイデン政権が21年に立ち上げた集まりで、豪州の戦略的価値の高さを裏付ける。日米に張るケネディ氏の人脈も使い、円滑に調整する態勢を整える」

     

    豪州が、対中関係で強硬姿勢に転じたのは、中国の対豪経済制裁と「戦狼外交」によるあからさまな「侮辱」にあった。豪州を属国扱いする文書を手渡し、「イエスかノーか」を迫ったのである。これが、AUKUSという軍事同盟を生んだきっかけである。豪州は、「台湾防衛」を広言するほど、中国へ敵意を見せている。

     

    豪州大使のケネディ氏は、駐日大使を務めた人物である。日豪関係の親密さを象徴するような人事である。菅前首相とは昵懇の関係にある。菅氏が首相としての訪米時に、自宅へ招待するほどで日米関係の良好さを見せている。そのケネディ氏が駐豪大使である。クアッドは一層強いつながりに発展するであろう。

     

    (4)「インド大使にはロサンゼルス市長で閣僚への起用も取り沙汰されたエリック・ガルセッティ氏を充てる。米メディアによると、大統領選で「個人的に親しい友人」であるバイデン氏の支持を表明し、陣営を取り仕切った幹部の一人とされる。高校時代に日本に留学した経験もある」

     

    インド大使は、バイデン政権で閣僚起用も話題になった人物である。バイデン氏と親しい関係にある。

     

    (5)「中国と韓国の大使にはプロの外交官を配置する。「最大の競争相手」と位置づける中国にニコラス・バーンズ元国務次官を充てた。必ずしも中国の専門家ではないものの、30年近い外交官生活で携わってきた旧ソ連や中東、欧州は時の最重要テーマの一つだった。バーンズ氏は党派を超えて要職に起用され続けた。民主党のクリントン政権で国務省報道官、共和党のブッシュ政権(第43代)で同省ナンバー3の国務次官などを歴任した。21年12月の上院本会議で与野党議員の賛成で承認されたバーンズ氏の人事は、超党派で中国に対峙するメッセージになる。駐韓国大使には対北朝鮮制裁調整官を務めたフィリップ・ゴールドバーグ氏(現コロンビア大使)が内定した。米メディアが報じた。クーパー氏は「当面は朝鮮半島情勢に精通する実務者を求めている表れだろう」とみる」

     

    中韓の米国大使は、専門外交官である。それぞれ米国との関係を覗わせる人事である。バイデン政権が、中韓をどのように扱っているかを示している。韓国は、明らかに米国の「外様大名」に落ちたことを示している。二股外交による信用失墜が理由であろう。

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    ソロス氏の「習失脚説」

    主たる目的は政敵追放

    土地売却益へ5割依存

    前近代的感覚で自滅へ

     

    中国経済は、厳しい局面を迎えている。不動産バブル崩壊と「ゼロコロナ」による都市封鎖が、景気を窒息状況に追い込むのだ。さらに、米中対立は米中冷戦の域に向かっている。米中デカップリング(分断)は、中国経済には致命的打撃を与えることになろう。

     

    中国は、2001年12月にWTO(世界貿易機関)へ加盟し、グローバル経済の一員として発展できる基盤を整えた。それ以降、豊富な労働力をバックに急成長を実現した。だが、調子に乗りすぎた習近平氏は、世界覇権へ挑戦する構想を明らかして壁に突き当たっている。米国と同盟国が、これを容認せず中国の前に立ちはだかっているからだ。

     

    中国は、グローバル経済でなければ発展できない体質である。その中国が、西側諸国と対立すればどうなるか。この未知数が、不動産バブル崩壊と「ゼロコロナ」の都市封鎖のもたらす負の効果を増幅させ、一挙に中国経済を制御不能な事態へ追い込むのだ。

     

    習近平氏は、過去10年間にわたり中国の司令塔を務めてきただけに、その責任を免れないのだ。習氏は、昨年11月の「歴史決議」によって、終身国家主席を約束されたように見えた。だが、今秋の党大会で確実に「3選」を勝ち取れるか、米国には疑問視する見方が出ている。

     

    ソロス氏の「習失脚説」

    習氏の「3選疑問説」を唱えているのは、かつて世界的投資家と言われたジョージ・ソロス氏である。ソロス氏は、単なる「投資家」ではなかった。投資家であると同時に、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で哲学の博士号を得た哲学者である。政治運動家、政治経済に関する評論家としても活躍している。

     


    ソロス氏の名前が世界に知られるきっかけは、1992年の英国ポンド投機でイングランド銀行を屈服させた、その知的采配の見事さにあった。世界情勢を見抜いたその眼力が、イングランド銀行から勝利を得たと指摘されている。2011年に投資家引退を表明したが、その洞察力はなお健在である。

     

    ソロス氏は、習近平国家主席が、3期目の続投を実現できない可能性があるとの見方を示して注目されている。『ブルームバーグ』(2月1日付)が報じた。その要旨は、次のようなものである。

     

    「中国共産党内の強い反対を踏まえると、習主席が毛沢東、鄧小平両氏の地位に上り詰めることは決して起きないかもしれない」と指摘する。その要因として、次の点を上げている。

     

    1)党内にある政敵の存在

    2)不動産危機の後遺症

    3)ゼロコロナ対策のコスト莫大

    4)出生率の急低下

     

    主たる目的は政敵追放

    以下は、私のコメントである。『ブルームバーグ』が説明していない部分を補足して立体的に理解を深めたい。

     

    前記4項目のうち、まず「政敵の存在」を上げている点に注目すべきである。実は、習氏が突然「共同富裕論」を唱え、住宅・教育・医療にメスを入れて国民大衆の生活安定を目指すとした。確かに政治家として正論であるが、余りにも遅すぎたのだ。少なくとも、国家主席就任と同時に着手すべきことがらであった。

     

    習氏の政策は、経済成長率の促進が第一目的であり、不動産バブルを放置したのだ。土地国有制を悪用して、不動産バブルによる莫大な土地売却益で財政を潤し、軍事費の膨張につぎ込んできた。これが偽らざる姿なのだ。土地売却益に依存しなければ、短期間であれだけの軍備拡張は不可能であろう。

     

    習氏は一昨年、はたと気付かされことがある。習近平氏の政敵が、IT企業の有力株主に潜り込んでいたことだ。アリババの傘下企業である金融のアントンが、株式公開する際に発覚したのは、政敵である江沢民一派が巧妙に有力株主として名前を連ねていたことである。この事実が浮上せず株式公開していれば、政敵に厖大な利益が転がり込むところであった。習氏は、タッチの差でことなきを得て安堵の胸をなで下ろしたであろう。

     

    習氏はこれ以降、テック企業へ厳しい目を向け監視することになった。テック企業5社の株価は、一挙に値下がりしたままだ。先進国では、ハイテク企業の株価が高騰しているのに対し、中国は大きく値下がりするという逆行現象が起こっている。すべて、習近平一人の身を守るための犠牲である。

     

    習氏は、不動産開発企業が急成長した裏に、金融機関と官僚の癒着を疑って調査させた。これが、不動産危機に大きく影響した。

     

    中国恒大が、国有銀行などからの融資で業容を急拡大させた点は疑いない。創業25年の恒大集団が、不動産開発業界で売上2位にまで踊り出られた背景には、官僚との「癒着」を否定できないのだ。腐敗を調査する共産党中央規律検査委員会は、不動産開発への融資実態を細かく調査した。一時、業界全体で銀行融資が止まる事態まで発生したのだ。これが、不動産開発企業への融資を極端に細らせる結果を生んだのである。こうして、不動産バブルは急速に萎んだ。(つづく)

    次の記事もご参考に。

    2022-01-13

    メルマガ325号 「自縄自縛」習近平の敗北、コロナとバブル崩壊が追詰める中国経済

    2021-12-06

    メルマガ316号 「台湾有事は日米有事」、安倍発言で中国はピリピリ 弱点見抜く日本 がけん制

     

     

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    トヨタ自動車は、在庫を持たない経営である「ジャストインタイム」の元祖である。世界を風靡したが、今回のパンデミックによるサプライショックで、見直し気運が強まってきた。多目の在庫を持った方が安心して操業できることに気づいたからだ。経営は、時代の風の変化を受けて変わるという象徴的な動きである。

     

    パンデミックは、「企業共同体意識」を高めているようだ。これまで、下請け企業は大手企業からは絶えず、選別対象にされ不安定な地位に甘んじてきた。だが、部品一つ不足していても製品組立ができない以上、共存共栄を図ることが利益になるという意識に立ち返ったようである。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(1月31日付)は、「供給網混乱で『ジャストインタイム』見直す米企業」と題する記事を掲載した。

     

    企業幹部らの話では、新型コロナの感染拡大による工場の閉鎖や輸送費の高騰、ドライバー不足の影響が広範にわたっているため、長年重視してきた「ジャストインタイム」の生産体制の見直しを迫られている。取引するサプライヤーの数、主要部品の生産地との距離、補完できる在庫の限度を再検討しなければならないという。

     

    (1)「鉄道会社ノーフォーク・サザンのエド・エルキンス最高マーケティング責任者(CMO)は「パンデミックによって、メーカー各社が確実な供給と、販売地に近い場所での在庫確保を優先したサプライチェーンの再設計を余儀なくされた」と投資家に語った。物流大手プロロジスのハミード・モガダムCEOは、不測の事態への備えを増やすために倉庫スペースを20~25%拡大しなければならないという相談を顧客から受けていると話す。「エンジニアは予測可能性を軸にサプライチェーンを設計してきた。その予測可能性が消えてしまうと、あっという間に何もかもが台無しになる」とモガダム氏は説明した」

     


    ジャストインタイムの全盛期では、部品を積んだトラックが工場正門にズラリと並んでいたものだ。そういう光景が、これから消えて企業が倉庫をつくって部品を貯蔵し、欠品不足のリスクを減らすという。180度の変化である。

     

    このことは、需要地の近くで生産するという工場立地条件の見直しにも通じる。一カ所で大量生産して各地へ運ぶこれまでのスタイルが見直されるのだ。これは、サプライチェーンとしての中国の地位が沈むことを意味する。大きな変動である。

     

    (2)「ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のリッチ・レッサー会長もインタビューで「ほとんどの企業が、リスク対応能力より業績を伸ばすための業務を優先しすぎていたことに気づきつつある」と指摘し、顧客の間で「ジャストインケース(有事想定型)」の意識が強まっていると付け加えた。レッサー氏によると、在庫拡大は対応の一例にすぎず、サプライチェーン稼働状況の追跡に使うデータの精度を上げ、将来起こりうる非常事態に備えておくという方法もある」

     

    リスク対応能力が、業績を伸ばす業務より優先される時代に変わったようだ。この変化は大きい。まさに、企業会計の原則である「ゴーイング・コンサーン」の再確認である。

     

    (3)「産業機械大手のダナハーが、特殊な部品の調達に苦戦し、航空機・防衛大手のレイセオン・テクノロジーズで溶接工の人手が不足するなど、企業幹部らが言及したサプライチェーンの問題は幅広い。対応の仕方も企業によってさまざまで、塗料大手シャーウィン・ウィリアムズは樹脂メーカーを買収し、VFコーポレーションは調達に使う「フルサイズのジェット機」をチャーターした」

     

    企業は、自社でフルセットを持つ時代になってきた。外注すれば、低コストで済むことが分かっていても、万一に備えて「無駄」な部分も抱えようというのだ。パンデミックの影響は凄いところまで及んでいる。

     


    (4)「事業規模が小さく、経営環境の厳しさに耐えかねているサプライヤーに、金銭的な支援を提供せざるを得ない場合もある。防衛大手ロッキード・マーチンは21年10~12月期「賢明なリスク低減戦略」として、サプライヤーに対する22億ドル余りの支払いを早めた。サプライチェーン専門のコンサルティング会社セラフのアンブローズ・コンロイCEOは、サプライヤーの財務状況が悪化するとの懸念が広がっていると指摘した。自動車業界で財務の厳しい顧客がいくつかある。以前なら経営破綻に追い込まれたはずだが、顧客が資金を注入している」。

     

    下請け企業も大事に扱うというのだ。これまでの下請けは、将棋の駒に過ぎなかった。それが、ファミリー扱いに昇格である。資本主義経済は、「切り捨て型」から「抱えこみ型」へと血の通った関係になるとすれば、大きな進歩であろう。

     


    (5)「企業の財務健全性を調査するラピッドレーティングスのジェームズ・ジェラートCEOは、利上げが今年続くとの見通しを踏まえると、さらに懸念は強まると話した。「金融市場が不安定化し、多くの企業で信用力が疑問視され始めると、格付けの最下層に影響し、大手の上場企業より非上場企業が痛手を被る」。レイセオンのグレッグ・ヘイズ会長兼CEOは、複雑なサプライチェーンを擁する大企業にとって、小さなサプライヤーが極めて重要な意味を持ち得ると力を込めた。レイセオンが取引する1万3000社のサプライヤーのうち「本格的に懸念されるのは100社未満だ」と語り、「それでも1社の問題だけで出荷が1件遅れる」と続けた」

     

    戦後の日本では、行政が「護送船団方式」によって脱落する企業を出さないことに努力した。今度は、企業グループで金融面から中小企業の脱落を防ぐ方式が推奨されるという。時代は、競争から協調へ動く前兆であろうか。そうだとすれば、大きな変化である。 


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    習近平氏は、過激な民族主義者であり、「中華再興」を掲げている。失われた清国時代の誇りをとり戻すというのである。当時の清国は、世界一の経済規模であったという推計がある。当時は農業社会である。国土が、広ければ農地にも恵まれている筈。中国が、農業で世界一であったというのも、あながちウソとは言えない。

     

    現在は、工業社会であり高度サービス社会である。中国が、過去の科学空白時代を乗り越えて世界一になるのは極めて困難な条件を抱える。中国は、科学立国を目指すならば、解放体制を継続しなければならない。だが、習氏は「第二の長征」を標榜している。長征とは、毛沢東が国民党軍との戦いを回避した、1934年10月から1年余、江西省瑞金から陝西省北部まで約1万2500キロの大行軍である。

     

    習氏は今後、この大行軍に匹敵する苦難を厭わず、米国と対抗するというのである。それが、中国国民を幸せにする保証はない。そういう対抗を挑むより、平和的な手段による共存共栄を図るのが効果的である。習氏は、それを拒否して戦いを挑むようである。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(2月2日付)は、「過度のナショナリズムは『経済回復』の足を引っ張る、それは歴史からも明らかだ」と題する記事を掲載した。筆者は、カウシク・バス米コーネル大学教授である。

     

    世界銀行は1月11日、年2回発表する「世界経済見通し」報告書の最新版を公表した。それによると、世界経済成長率は昨年の5.5%から、今年は4.1%に減速する。債務負担が増大し、サプライチェーンの問題が物品・サービスの流れを妨げインフレ率が上昇するなか、各国は追加の財政支援を行う力を失っている。「債務返済が困難な状態に陥るリスクが高い」国が複数あると、世銀は警告する。さらに、昨年後半に急騰したエネルギー価格がさらに跳ね上がり、その上昇率は世銀の半年前の見通しを上回るという。

     


    (1)「報告書の統計表に盛り込まれた情報の中で、特に興味深いのは主要経済国の最近のGDP成長率と今後2年間の成長予測だ。昨年、主要経済国のうちで実質GDP成長率がトップクラスだったのはアルゼンチン(10%)、トルコ(9.5%)、インド(8.3%)だ。ただし、危機の後の成長率は注意深く解釈する必要がある。昨年の成長の大部分は、パンデミックによる2020年の景気減速の深度を反映したものにすぎない。アルゼンチンの20年の成長率は前年比9.9%減で、インドは7.3%減。メキシコと並び、主要経済国中で最低水準だった」。

     

    昨年の新興国の経済成長率が高かったのは、一昨年のマイナス成長の反動に過ぎない。

     

    (2)「新興国・途上国は通常、比較対象となる基数がより低いこともあって、先進国より成長率が高い。だが世銀の報告書によれば、23年末までの新興国・途上国の経済見通しは先進国を下回る。追加支援を行う政策余地が限られ、より大きな「ハードランディング」リスクに直面しているからだ。経済回復がばらつく主な理由の1つは、経済よりも政治に絡む。近年、先進国のアメリカでも新興国のブラジルでも、攻撃的なナショナリズムへの支持が急速に拡大している。この事実が、経済パフォーマンスの在り方を決定する上で、大きな役割を果たしているのは間違いない

     

    今年の経済は、先進国が新興国を上回る。新興国が、先進国に及ばないのは攻撃的ナショナリズムに傾斜している結果である。これは、言外に中国のナショナリズムへの動きを示唆しているのであろう。「ゼロコロナ」で欧米のワクチン接種を拒否する中国へのメッセージである。

     


    (3)「極度のナショナリズムは多くの場合、長期的に見て経済に大損害をもたらす顕著な例がアルゼンチンだ。20世紀に入ってしばらくは世界で最も急速に成長し、アメリカを追い越すとの見方がもっぱらだった。変化が起きたのは1930年。軍事クーデターによって、ウルトラナショナリスト政権が発足したときだ。開放的だった経済は世界に扉を閉ざし、すぐに停滞してアメリカに大差をつけられた。イギリスからの独立後のインドでは、初代首相ネールや詩人ラビンドラナート・タゴールらが、出どころが西洋であろうと最良のものを吸収しようとし、人間としての普遍的なアイデンティティーを擁護した。彼らの姿勢は世界的にも際立っていた

     

    ここでは、アルゼンチンの軍事クーデターが、経済発展を止めてしまった例を挙げている。中国も、国内は監視体制で身動きできないように圧迫している。こういう事態が、中国経済の発展を阻害する。その点、インドはナショナリズムに陥らず、普遍的価値観に沿って発展して来た。それが、インド経済を発展軌道に乗せたのである。

     


    (4)「私の子供時代、父のある友人はわが家を繰り返し訪れ、より急進的なナショナリズムが必要だと説いた。ある日、私たちを説得できないことにいら立った彼は大声でこう言い放った。「西洋がインドに倣わないのなら、インドは西洋に倣うべきでない」。こんな矛盾したことを言うのは、攻撃的なナショナリズムのせいで思考力が鈍っているせいだ。小学生だった私にも、それは明らかだった。公衆衛生危機は終わらず、同時に暴力的混乱の脅威を抱えている国もある。それでも極度のナショナリズムに屈すれば、国家の失敗を自ら招くことになる」

     

    インドは、英国の植民地であったが、独立後に英国へ対抗することもなく融和姿勢を続けている。中国は、列強に支配された屈辱を晴らすと、民族主義へ舵を切っている。印中、どちらが将来の発展性に富むか。そういう問題へ帰着するだろう。結論は言うまでもない。

     

     

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    北京冬季五輪は、2月4日開催である。出場選手は毎日、PCR検査が義務づけられる。だが、この裏で、「陰謀」が行なわれるのでないかという警戒論が出ている。

     

    一つは、一流選手のDNA採取である。中国は、遺伝子採取に異常な関心を持っているので、PCR検査を利用して採取するのでないかというもの。もう一つは、中国と対立する国の選手にメダルを取らせないために、PCR検査で「偽陽性」にするのでないかだ。

     

    『大紀元』(1月31日付)は、「中国共産党が一流選手のDNA採取する恐れー専門家」と題する記事を掲載した。

     

    非営利団体やコンサルタント会社の最高経営責任者(CEO)らは1月26日、大紀元の動画コンテンツ「EpochTV」に出演し、北京冬季五輪に参加する選手から中国共産党がDNAを採取する可能性があると警鐘を鳴らした。さらに、新型コロナウイルスの検査結果を利用して「金メダル候補の選手を排除する」事態も起こりうると懸念をあらわにした。

     

    (1)「北京冬季五輪では、中共ウイルス感染対策として選手や関係者の外部との接触を遮断する「バブル」方式を導入。200人以上の米代表選手は毎日PCR検査を課されている。「EpochTV」のオンラインセミナーに参加したコンサルタント会社、DCインターナショナルアドバイザリーのスティーブン・イェーツCEOは、中国共産党は入手した大量のデータを非倫理的な目的で使用すると指摘した。「中国(共産党)は人工知能 (AI) をはじめとする人間のプロセスに関する多くの研究を、文明国が許さない方法で武器化してきた」と述べ、検査で入手した膨大なデータを利用して中国選手に競争上の優位性を与えたり、心理戦の機会を増やしたりする可能性があると強調した」

     

    五輪出場の一流選手のDNAは、中国にとって宝の山であろう。中国全土に監視カメラを設置する国である。常識では推し測れない部分がある。「何かをするだろう」という想定はできる。

     


    (2)「米国の政府関係者や専門家はこれまでも、中国共産党が米国人の個人情報や健康情報を含む大規模なデータベースを蓄積し、人工知能システムや医療分野の強化、スパイ活動や軍事作戦の支援に利用する可能性があると警鐘を鳴らしてきた。カナダを拠点とする非営利団体プローブ・インターナショナルの取締役パトリシア・アダムス氏は中国共産党が五輪で成績優秀な選手のDNAを収集する可能性は「非常に高い」と主張。「中国共産党は毎日検査している」とし、渡ったデータに対する第三者の監視の目は「全く届かない」と指摘した。また、PCR検査で「偽陽性」という手段を使って「金メダル候補の米国人選手を排除する」可能性についても言及した」

     

    下線部分は、現実問題としてありうることだ。「偽陽性」という曖昧な判断であれば、後でいかようにも訂正できる。中国が、小細工する懸念は消せない。

     


    (3)「ロイターによると、昨年11月の五輪テスト大会でドイツのスノーボードチームのコーチが検査で陽性と判定されるも、その後、偽陽性だったことが判明。スノーボード統括団体のミヒャエル・ヘルツ会長が「中国での大会でフェアプレーが実現するかは疑問だ」と不信感をあらわにした。アダムス氏は「すべては中国共産党の手中にあり、データがどう使用されるかは誰にもわからない」と述べ、ことごとく国際ルールを破ってきた中国共産党を「信用することはできない」と非難した」

     

    1936年のベルリンオリンピックでは、ハイウェイが飛行機の離陸に利用できるよう細工が行なわれていた。独裁者が考えることに、そう違いがある訳でない。何かを企んでいることは間違いないだろう。

     


    (4)「北京冬季オリンピックの参加者全員に利用が義務付けられている健康管理アプリ「My 2022」についても、トロント大学の研究室「シチズン・ラボ」がセキュリティ上に重大な欠陥があるほか、情報検閲機能も備えていると発表。オランダ・オリンピック委員会は北京五輪の出場選手に個人所有の携帯電話やノートパソコンを中国へ持ち込まないよう勧告している。米政治専門紙「ザ・ヒル」によると、米共和党のトム・コットン上院議員も昨年、バイデン大統領に書簡を送り、中国共産党が北京冬季五輪で参加選手からDNAを採取する可能性があると警告。政府に選手の保護を求めた」 

     

    このパラグラフの警戒情報は、すでに広く知れ渡っている。平和の祭典とされるオリンピックが、これほどまでに疑心暗鬼の場になっているのは稀なことだ。

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