勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年02月

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    昨年、過去最高の業績となった韓国「半導体2トップ」のサムスン電子とSKハイニックスが、今年初めて「売上高100兆ウォン~50兆ウォン」に挑戦するという。「好事魔多し」の喩えの通り、世界的な金利引上げムードと半導体の過剰生産が重なり、これから下り坂に入るという予測が出てきた。要注意である。

     

    半導体は韓国輸出を支えているだけに、風が止んだら大きな影響を受ける。今の韓国には、そういう警戒感はゼロである。半導体好景気で浮き足立っているのだ。

     


    『中央日報』(1月29日付)は、「韓国半導体の過去最高業績を築いたサムスンとハイニックス」と題する記事を掲載した。


    関連業界によると、昨年のサムスン電子半導体部門の売上高は94兆1600億ウォン(約9兆円)と、半導体スーパー好況期だった2018年(86兆2900億ウォン)を上回った。SKハイニックスも昨年の売上高が42兆9978億ウォンと、過去最高を更新した。新型コロナパンデミックとサプライチェーン問題にもかかわらず、昨年1~9月の半導体価格上昇と非対面情報技術(IT)の需要増加が業績上昇につながった。

    (1)「サムスン電子メモリー事業部のハン・ジンマン副社長は、2メモリー半導体価格の反騰時点について、「過去と比べて業況サイクルの変動幅と周期が縮小している傾向は確実に感知される」とし、「半導体の在庫も健全な水準が続き、市場は安定化していると考えられる」と話した。半導体価格の上昇時点が予想より前倒しになるという金融投資業界の見通しと一致する。これに関連しユアンタ証券のイ・ジェユン研究員は、「メモリー半導体価格の反騰時点が今年7~9月期から4~6月期に早まり、サムスン電子の業績成長の可視性が高まるだろう」と予想した」

     

    ここでは、今後さらに半導体価格の上昇があると見ている。だが、後述の世界的半導体市況の予測によれば、今年後半から値下がりリスクが高まるとしている。サムスンは、かなりの楽観論である。危険だ。

     


    (2)「SKハイニックスも28日、カンファレンスコールで自信を表した。SKハイニックスの盧鐘元(ノ・ジョンウォン)社長は、「今年のDRAM需要成長率は10%後半と予想している」とし、「当社のDRAM出荷量も市場水準になるだろう」と述べた。続いて「NAND型フラッシュメモリー市場の需要成長率は30%と予想する」とし「SKハイニックスは昨年に続いて今年も市場増加率を上回る出荷量の増加が見込まれる」と話した」

     

    ハイニックスも、サムスンと同様にさらなる市況高騰を見込んでいる。

     

    (3)「だが、変動要因は少なくない。何よりもグローバル経済の不確実性が高まっている。実際、サムスンのハン・ジンマン副社長は「部品供給イシュー緩和速度、コロナ変異株の持続など需要側に変動リスクが持続的に存在するだけに、現在としては年間成長ガイダンスを提供するのが難しい点を了解してほしい」と述べた。IBK投資証券のキム・ウンホ研究員も「今年のDRAM業況は予想より複雑に流れるとみている」とし「1~3月期の価格下落が予想より低いと予想されるが、これは4-6月期以降の価格の流れにマイナスの変数になるかもしれない」と述べた」

    今年1~3月期に半導体価格の軟弱地合い予想も出てきた。それが、4~6月以降の市況にはっきり現れる懸念も指摘されている。強気一点張りでないことに注目すべきであろう。その点を総括的に指摘しているのが、次の記事である。

     

    英誌『エコノミスト』(1月29日号)は、「半導体、危うい国ぐるみ増産」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「米調査会社ICインサイツの推計では、世界半導体業界全体の21年の設備投資額は前年比34%増で、17年以来の大きな伸びとなった。この投資の急増ぶりは、過去1年にわたり半導体不足に苦しんできた顧客企業にとって歓迎すべき知らせだ。だが、半導体業界にとっては、これは過去に何度も繰り返されてきたおなじみのパターンにすぎない。1月26日にはインテルが、翌日にはサムスンが業績を発表し、いずれも大幅に売上高を伸ばした。売上高拡大が生産能力の拡大を後押ししているが、半導体工場の建設には2年以上かかり、完成を待つ間に需要が減ってしまうことがある。そのため、こうした好況が一気に消え去ることも少なくない」

     

    世界半導体業界全体の21年の設備投資額は、前年比34%増である。17年以来の大きな伸びとなったことは、今後の過剰生産を予告している。半導体増設完了は23年以降になるが、完成を待たずに需要低下のケースを想定する必要があろう。

     


    (5)「半導体事業は1950年代の草創期から、過剰投資と過少投資を何度も繰り返してきたと英調査会社フューチャー・ホライゾンズのアナリスト、マルコム・ペン氏は指摘する。過去を参考にするなら、現在は供給過剰に向かっていることになる。問題は、いつ過剰に陥るのか、だ多くのアナリストは、スマートフォンに対する需要は、特に世界最大のスマホ市場である中国を中心に近く落ち着き始めるとみている。新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)に伴い需要が急拡大したパソコンの販売にも陰りが見えてきたようだ、と米調査会社ガートナーのアラン・プリーストリー氏は指摘する」

     

    現状は、半導体の過剰生産過程にある。スマホ需要は落ち着きを見せ始めた。パソコンの販売にも陰りが見えてきたようだ。

     


    (6)「米金融大手モルガン・スタンレーの調査では、半導体を購入する企業の55%が半導体の供給不足という理由も手伝って二重発注していることが判明、このことが需要をさらに拡大させている。インフレ率が上昇し、近々金利が引き上げられると経済成長にブレーキがかかる恐れがあり、その場合、半導体需要にも影響は及ぶ。ペン氏は、今年下半期か23年の早い段階に半導体のサイクルは供給過剰に転じるとみる


    半導体購入企業の55%が、二重発注しているという。半導体需給が緩和の兆候を見せれば、二重発注は取消される。その時期は、今年下半期か来年早々と見られるという。韓国半導体2社は昨年、過去最高利益を上げた。今年以降、その継続は不可能と見られる。




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    不動産開発は、中国経済のエンジン役を果たしてきたものの、中国恒大の破綻とともに幕を閉じることになった。恒大集団は、不動産管理部門とEV(電気自動車)部門を除き、全部門を売却することで大筋が固まったようである。今回の計画が承認されれば、許家印会長が25年前に設立した中国恒大の解体が始まる。

     

    中国ウオッチャーは、20年余りにわたって経済成長や家計資産、財政収入を大きく後押しする原動力となった不動産市場が、これまでとは全く異なった状況に転換すると予測し始めている。今後の不動産市場は、中国当局が素早く投機熱を抑制し、公益事業のようなリターンしか稼げない国有企業主導の発展に乏しい安定した市場になる、見ている。

     

    『ブルームバーグ』(1月27日付)は、「中国恒大の分割、中国当局が検討と関係者-危機封じ込めに向け」と題する記事を掲載した。

     

    中国当局は、資金繰り難に陥っている不動産開発大手のちゅうごく恒大集団について、資産の大半の売却を通じた分割案を検討している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

     

    (1)「非公開情報だとして匿名を条件に話した関係者によると、中国恒大が本社を置く広東省当局が中央政府にこの再編案を提出。上場企業である不動産管理と電気自動車(EV)両部門を除いた大半の資産を売却するよう中国恒大に求める内容になっているという。中国恒大の主要債権者で、不良債権受け皿会社の中国信達資産管理が主導するグループが売れ残りの不動産資産を取得する可能性があると関係者は述べた。

     

    飛ぶ鳥を落とす勢いであった中国恒大が、ついに解体処理されることになった。昨年秋頃では、4~5部門程度に分割して存続させるプランも練られていた。それが、不動産管理と電気自動車を除いて、すべてを「切り売り」して現金化するという荒療治である。ドル建社債を持つ海外投資家を差別すれば、一挙に「破産申請」されるだけに、当局は慎重にことを進めている。

     


    (2)「中国共産党は今年、5年に一度の党大会を控えており、習近平指導部は中国恒大の無秩序な破綻による国内金融市場および経済の混乱を防ぐことを目指している。中央政府高官が今回の案を承認すれば、指導部によるこれまでで最も大きな企業解体措置となる。資産売却で得られた資金は債権者への返済に充てられるとみられるが、銀行や社債保有者がどの程度までヘアカット(減免)受け入れを余儀なくされるのかはなお不明。中国の規制当局高官は、中国恒大など経営難にある不動産企業の債務リスクに関して、「市場化の原則」に基づいて対処すべきだとの見解を公の場で繰り返している」

     

    国内債権者と海外債権者を公平に扱う必要がある。それが、当局による「市場化の原則」という言葉になっている。中国恒大の「解体処理」がスムースに運べば、他の経営破綻した不動産企業も同様の扱いになるという。

     

    (3)「関係者によれば、提案の中では中国恒大の不動産管理ならびにEV部門は当初段階では売却対象に入らないが、後で含まれる可能性もある。オフショア(海外)投資家に幾分の保護を提供するため、こうした資産を巡りカストディアン(注:投資家に代わって有価証券の保管・管理などの業務を行う金融機関)口座が設けられることがあり得ると関係者の1人が述べた。今回の計画が承認されれば、許家印会長が25年前に設立した中国恒大の解体が始まることになる」

     

    今後の「解体作業」において、資産売却が上手く進まなければ、不動産管理部門とEV部門も現金化されて債権者への返済に充てられるという。

     

    今回の中国恒大の「解体措置」は、中国の不動産事業がもはやこれまでの姿で存続できないことを周知せしめている。住宅の急速な値上がりや不動産大手による債務をテコにした建設ラッシュの時代は、もはや過去のものになったという事実の確認だ。これは、中国GDPの25~30%を占めてきた不動産開発需要の過半が消え去ることでもある。中国経済の縮小均衡が不可避となったことを意味する。

     

    習氏にとっての課題は、終身統治も視野に入る今秋の共産党大会を控え、危機を招くことなく不動産市場の見直しを断行できるかどうかである。中国当局は過去、不動産市場改革に乗り出したことがあった。だが、不動産部門は中国経済の柱である。こうした取り組みは、経済成長率の目標達成を脅かすとして、沙汰止みになった経緯がある。不動産開発の穴を埋められる有力分野が育つ前に、「バブル崩壊」に直面するという大誤算に直面している。

     

    中国は、ハイテクやクリーンエネルギー産業への投資拡大で不動産依存の低減を探っている。こうしたプロセスは時間と忍耐が必要である。とても、急場には間に合わないのだ。こういう緊急事態で、習氏に打つ手はあるのか。あるはずがない。自らの「誤り」を悔いるほかない。

     

     

     

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    米国は、昨年12月の消費者物価指数が前年同月比7.0%と約40年ぶりの上昇となった。これを受けて、FRB(連邦準備制度理事会)の政策金利引上げ回数が、3回以上になるとする見方が増えている。一体、どの程度のペースで引き上げられるのか、ウォールス街の予測はまちまちだ。

     

    『ブルームバーグ』(2月1日付)は、「米経済に急ブレーキかけず、利上げを前に金融当局者が相次ぎ慎重論」と題する記事を掲載した。

     

    米金融当局者らは利上げ開始を準備するに当たり、米経済を不必要に混乱させたくないと述べ、3月に0.5ポイントの積極的利上げを行う意向はほとんどないことを示した。

     

    (1)「パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は先週、約40年ぶりの高インフレを抑制するため3月の次回連邦公開市場委員会(FOMC)会合で利上げに踏み切る用意を表明した。しかし、政策の道筋に関し具体的なガイダンスを示すことは控え、景気支援策は徐々に取り除くべきで、今後の経済指標に対応し機敏な政策運営が必要だと述べるにとどめていた」

     


    昨年12月の消費者物価指数が、約40年ぶりの高騰となれば、政策金利引き上幅が大きくなると見るのは常識であろう。今秋には、中間選挙が控えている。失業率と消費者物価上昇率は、選挙結果と密接に絡む。支持率が低空であるバイデン政権にとって、高い物価上昇率は鬼門だ。FRBとしては、物価を早急に押さえ込みに掛かりたいとしても、景気悪化をもたらしたら元も子もない。

     

    (2)「パウエル議長が踏み込んだ発言を行わなかったことにより、今年は必要に応じ毎会合利上げする可能性が残されたが、議長は今後の政策の道筋について当局者らは心を決めていないとも強調。他の当局者も1月31日にこうした慎重論を示した」

     


    (3)「カンザスシティー連銀のジョージ総裁はエコノミック・クラブ・オブ・インディアナが主催したイベントで、「経済では常に、徐々に進めることが望まれる。予想外の調整で経済を混乱させようとしても誰の利益にもならない」と指摘。「当局は緩和策の解除開始の判断において慎重に行動する必要があると思う」と述べた。同総裁はタカ派色の強い当局者の一人で、今年のFOMCで投票権を持つ。昨年12月のFOMC予測では今年の利上げ回数は3回との見通しが示されたが、パウエル議長の今回の発言以来、投資家の間では年内5回程度となるとの見方が広がっている」

     

    昨年12月のFOMC予測では、今年の利上げ回数を3回と予想したが、先のパウエル議長発言で3回以上になりそうだという見通しが強まっている。

     


    『ブルームバーグ』(2月1日付)は、「3回から7回まで、ウォール街の22年米利上げ予想に大きな開き」と題する記事を掲載した。

     

    米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げのペースや引き上げ幅を巡り、ウォール街の大手金融機関の間では見方に大きな開きがある。各社の2022年以降の予想を以下にまとめた。この予測データを参考にしていただきたい。

     

    バンク・オブ・アメリカ(BofA):

    ·       今年は0.25ポイントの利上げを7回実施し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標が年末には1.75-2%になると予想

    ·       23年には四半期ごとに1回の利上げを実施し、同2.75-3%でピークに達すると予想

    野村ホールディングス:

    ·       今年3月に0.5ポイントの利上げ実施後、5月と6月、7月、12月にそれぞれ0.25ポイントの利上げを行うと予想。年末時点のFF金利は1.51.75%へ

    ·       23年は6月と12月に0.25ポイントの利上げ実施を見込む



    BNPパリバ:

    ·       今年は計6回、11月以外の連邦公開市場委員会(FOMC)全会合で0.25ポイントの利上げを実施し、FF金利1.51.75%で年末を迎えると予想

    ·       23年に追加利上げを実施、同年末のFF金利は2.252.5%となる見通し

    ゴールドマン・サックス・グループ:

    ·       今年は計5回(3月、5月、7月、9月、12月)に0.25ポイントの利上げを行う

    ·       23年は0.25ポイントの利上げを3回実施と予想。24年の追加利上げを経て、FF金利が2.52.75%となる見通し



    シティグループ:

    ·       今年は計5回の利上げを実施(3月、5月、6月の3回と、年後半は四半期に1回ずつ)。年末時点のFF金利は1.251.5%と予想

    ·       23年は四半期に1回利上げ-年末のFF金利は2.252.5

    モルガン・スタンレー:

    ·       今年は3月、6月、9月、12月の利上げを予想-ただ「利上げの一部が2会合連続で行われる高いリスクがある」

    ·       23年は2回利上げ-FF金利は1.51.75%に

    バークレイズ:

    ·       今年3月、6月、9月の利上げ実施を引き続き予想。年末FF金利水準は0.75-1%

    ·       23年は3回の追加利上げがあり、1.51.75%に達する見通し



    JPモルガン・チェース:

    ·       今年は0.25ポイントの利上げを5回(3月、5月、7月、11月、12月)実施と予想。年末時点のFF金利は1.251.5%へ

     

    これだけの利上げ回数予想が出ているのは、根強い需要が控えている証拠であろう。失業率は完全雇用線に収まっているからだ。改めて、米国経済の回復力の強さを示している。

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    世界の工場と言われてきた中国に異変が起こっている。海外の製造業が、続々と工場を閉鎖しているからだ。海外製造業が、中国で直接雇用する労働力だけで4500万人と言われている。間接雇用を含めれば2億人にも達する。それだけに失業問題が深刻化している。

     

    『朝鮮日報』(2月1日付)は、「止まらない製造業の脱中国」と題するコラムを掲載した。筆者は、崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長である。

     

    新年が始まるとすぐ、中国国内の外資系企業による撤退ラッシュが始まりました。世界トップのカメラメーカーであるキヤノンが1月12日、広東省珠海市のカメラ工場の撤退を発表しました。

     

    (1)「キヤノン珠海工場はデジタルカメラ、ビデオカメラ、レンズ、イメージセンサーなどを生産しており、キヤノンの3大海外生産基地の一つです。珠海市内に20万平方メートルの敷地を持つ大規模工場です。一時は1万人を超える従業員が年間13億ドル(約1480億円)の売上高を上げていましたが、現在は従業員数が1000人に満たないそうです」

     

    (2)「最大の理由は、やはりカメラ市場の不振だったでしょう。この工場はスマートフォンの普及で市場が大幅に縮小したコンパクトデジタルカメラを主に生産していたという。キヤノン製品が新疆ウイグル自治区やチベット自治区の少数民族の監視や弾圧に利用されたという指摘が出て、米日政府による撤退圧力もあったといいます」

     

    キヤノンは、自社の3大海外生産基地の一つである珠海カメラ工場を1月12日、閉鎖すると発表した。キヤノン製品が、新疆ウイグル自治区やチベット自治区の少数民族の監視や弾圧に利用されたという指摘が出て、日米政府による撤退圧力があったとも言われている。

     


    (3)「2018年から貿易戦争の始まりで米中の体制競争が本格化し、中国国内の外資系企業は米国発の関税爆弾に直面することになりました。19年には武漢を発端とする新型コロナで中国国内の生産拠点の稼働が中断し、部品調達などに支障が生じました。生産拠点を中国に集中させてきた主要国が生産基盤の一部をインド、東南アジア、メキシコなどにシフトする世界的なサプライチェーン調整が始まりました」

     

    2018年の米中貿易戦争、19年には武漢を感染地とする新型コロナウイルスの蔓延化など、中国を取り巻く状況は厳しくなっている。こうして、生産基地としての中国の役割が再検討され、ASEAN(東南アジア諸国連合)などへの工場移転が始まった。

     

    (4)「脱中国の元祖は、香港の企業経営者たちでした。習近平国家主席が政権を握って以降、中国共産党がこれまでの改革開放路線から離れ、左傾すると最初に判断したのです。香港で最も富豪である李嘉誠・長江和記実業(CKハチソンホールディングス)元会長は2013年から17年まで韓国ウォン換算で17兆ウォン(約1兆6200億円)を超える中国・香港地域の資産を全て処分し、欧州に投資しました。他の香港の財閥も李嘉誠に追随しました。18年に米中貿易戦争が勃発して以降は、韓国、米国、日本、台湾の企業が相次いで東南アジアなどに生産基盤を移しました」

     


    香港で最大富豪とされる李嘉誠氏は、第二次世界大戦後に「香港フラワー」の輸出で巨万の富を築いた人物である。中国本土でも共産党幹部との親交を手がかりに手広く事業を展開した。その李氏が2013年から、突然の方向転換で中国・香港の全事業を売却(終了は2019年)して欧州へ投資したのだ。この離れ技は、見事というほかない。習近平氏の強権体質をいち早く嗅ぎ取ったのだろう。それにしても、地政学的感覚は世界一と言える。

     

    (5)「サムスン電子は19年から20年にかけ、恵州のスマートフォン工場、蘇州の液晶パネル工場とパソコン工場などを閉鎖。昨年にはサムスン重工業が寧波工場を閉鎖しました。ソニー、東芝なども中国工場を閉鎖し、タイなどに生産設備を移しました。米国もスポートウエアのアンダーアーマー、電動工具メーカーのスタンレー・ブラック&デッカーなどが米本土、ベトナム、インドネシアなどに生産拠点をシフトしました。台湾企業による脱中国の動きも加速しています。昨年、台湾企業の対中国直接投資は15%近く減少したといいます。中国にある工場を撤収し、米国、インド、ベトナムなどに生産基盤を移しています」

     

    サムスン、東芝などのIT関連企業が中国工場を閉鎖している。米国のスポーツウエア企業もASEANへ移転した、台湾企業も追随している。人件費アップが大きな理由だ。

     


    (6)「
    その中でも100万人を超える人を雇用してきた世界最大の電子機器受託生産メーカー、フォックスコン(鴻海科技集団)の離脱は中国にとって痛い出来事です。フォックスコンはそれぞれ数十億ドルを投資し、米国、インド、ベトナム、メキシコに生産拠点を建設しているか建設を計画中です。フォックスコンは20年時点で中国の輸出額の4.1%を占めていた企業であり、雇用だけでなく、中国の輸出にも大きな打撃が予想されます」

     

    台湾企業の鴻海(ホンハイ)は、中国で100万人も雇用してきた。それが、米国、インド、ベトナム、メキシコへ生産拠点を移している。中国にとっては、輸出減・雇用減で最大の痛手であろう。

     

    (7)「中国は、依然として世界最大の製造業国家であり、広大な内需市場を持っています。外資系企業が短期間に中国市場の市場とサプライチェーンを放棄することはないはずです。しかし、脱中国の流れは今後加速する見通しです。毛沢東時代に戻りつつある国でビジネスをするのは不安だからです。李克強首相は20年6月、国務院常務会議で2億人の雇用が懸かった対外貿易分野の企業がコロナによる経営難に陥らないように支援することを指示しました。党内の改革派が、脱中国問題に苦労していることを物語る事例と言えるでしょう。中国国内の外資系企業は、直接雇用規模だけで4500万人に達するとされ、下請け企業まで含めれば、その数はさらに巨大なものになります」

     

    中国では、雇用問題が悩みである。都市労働者だけで5%を上回る失業率(実際は、これよりも高い)である。GDP成長率が、6%以上でなければ失業問題を解決できない状況にあるのだ。

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    中国から、台湾を武力解放するという勇ましい発言が後を絶たない。最新の発言では、「2027年」までに行なうと期限を切ってきた。暴力団が、殴り込み時間を予告するようなものだ。

     

    中国側の言分を聞いていると、武器弾薬で米国を上回っているから、いつでも台湾を武力解放できるというのだ。こういう発言をする者は、戦争の本質を知らない「素人談議」である。中国は、「同盟の戦力」を理解できない単細胞である。「海軍力」と「海洋力」を混同しているのだ。「海軍力」とは、その国の持っている艦船数など。「海洋力」とは、「海軍力」を上回る上位概念であり、同盟国の総合戦力である。

     

    中国が、台湾侵攻に踏み切れば、台湾の軍事力に加え、日米英豪の海軍が結集することは火を見るより明らか。これに、仏海軍も加わるであろう。ドイツ海軍は不明である。中国へ義理立てして当初、様子を見ているかも知れない。勝敗の帰趨がはっきりしたとき、ドイツ海軍は遅れて加わるであろう。もしそうであれば、ドイツの信用はガタ落ちである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月31日付)は、「『27年までに台湾武力統一も』 中国人民大・金燦栄教授」と題する記事を掲載した。

     

    米中関係を専門とする中国人民大学の金燦栄教授は日本経済新聞の取材で、習近平指導部が2027年までに台湾の武力統一に動くとの見方を示した。台湾有事では中国人民解放軍がすでに米軍を上回る戦力を保持していると指摘した。金氏は習指導部の外交政策に助言する学者の一人とされる。タカ派の論客としても知られ、インターネットを中心に活発に発信している。

     


    (1)「習指導部は台湾統一を目標に掲げるが、時期は示していない。金氏は「22年秋の共産党大会が終われば、武力統一のシナリオが現実味を増す。解放軍の建軍から100年となる27年までに武力統一に動く可能性は非常に高い」と強調した。米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官も21年3月、米上院軍事委員会で「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と述べた」

     

    クイズ番組のように、台湾侵攻への「時期」を当てることが流行っている。最も大事なことは、そのときの中国経済の置かれている状況である。中国が、台湾侵攻に踏み切れば短期で終わることはない。西側諸国は、民主主義防衛という大義によって結集するはずだ。香港に見る言論と人権弾圧の暴挙を、再び見過ごしできないからだ。まさに西側の「海洋力」が、中国の「海軍力」を圧倒するまで戦端を閉じることはないであろう。

     

    中国経済が、西側諸国の経済封鎖に耐えられるだろうか。食糧不足、エネルギー不足、国内の失業者群が不穏な動きに出ないだろうか。反習近平派が、好機と見て打倒に動き出す懸念もある。習近平氏が開戦を決意するには、自らの「生命」を賭けた戦争になろう。

     

    (2)「台湾有事では米軍が介入するかどうかが一つの焦点となる。金氏は「中国は1週間以内に台湾を武力統一できる能力をすでに有している」と主張し、「解放軍は海岸線から1000カイリ(約1800キロメートル)以内ならば、相手が米軍であっても打ち負かせる」と説いた。解放軍は中国近海に米軍艦艇を寄せつけない戦略をとっており、中国近海での対米国のミサイル攻撃力を磨いていることなどが念頭にあるとみられる」

     

    ここでは、日米海軍の潜水艦部隊の威力を完全に忘れている。もう一つ、中国は近代戦で勝った経験のない軍隊である。世界一の米海軍と対峙したとき、中国海軍は身体に震えは来ないだろうか。それが、戦勝経験のない軍隊の弱点である。

     


    (3)「
    日本では「台湾有事は日本有事」(安倍晋三元首相)との声がある。金氏は「台湾有事に日本は絶対に介入すべきではない。この問題で米国はすでに中国に勝つことはできない。日本が介入するなら中国は日本もたたかざるを得ない。新しい変化が起きていることに気づくべきだ」と語った。台湾の和平統一については「民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の下では難しい。24年の総統選で国民党の候補者が勝てば中台関係は改善するが、国民党は支持を得ていない」と非現実的との考えを示した。台湾の対応については「唯一できることは早く中国大陸と話し合うことだ。時間がたつほど台湾に不利になる」と統一に向けた協議を呼びかけた」

     

    下線部分のように、中国の最も恐れているのが自衛隊とされている。旧日本軍の歴史を引継ぎ、日中戦争では中国軍が山中深く追い込まれた戦史を持つからだ。これは、決して褒められたことでなく自慢もできないが、中国軍にとって自衛隊は「苦手意識」を持つ相手である。日清戦争では、中国艦船が戦わずして戦場を離脱したケースがあった。

     


    (4)「金氏は22年の米中関係について「21年より難しい一年になる。中国は秋に党大会があり、米国も11月に中間選挙を控える。極めて重要な政治日程で、対抗意識が鮮明に出やすい」と語った。台湾も11月に統一地方選挙がある。金氏は「選挙中は中国が批判対象となりうる。それが中米関係にも影響する」と分析した。日中は22年、国交正常化から50年を迎える。金氏は「中国政府は50周年の節目の関係安定を望んでいる。だが、台湾問題への安倍元首相の発言を含め、日本の保守化が進みすぎており、難しい局面にある」と話した」

     

    中国は、アジアの地域覇権を握れないとする見方がある。それは、日本の存在が障害になるからだ。日本が、中国と戦って戦前のような「八紘一宇」という神がかった事態を招くという意味でない。中国が、日本を無視して地域覇権国にのし上がれないことだ。日本を屈服させることはあり得ないという前提である。中国は、日本の存在に最大限の注意を払わざるをえない立場である。日本は、米中を繋ぐ貴重なパイプなのだ。 

     

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