2月24日未明、ロシアがウクライナへ軍事行動を開始した。この侵攻作戦は、いかなる目的を持っているのか。ロシアは、ウクライナに親ロ派で米国の影響を受けない新政権の樹立を狙っていると、ロシア与党の幹部議員が語った。ロシア下院国際問題委員会の第1副委員長を務めるニコノフ議員は、「ウクライナ新政権にはロシアとの建設的な関係を支持することを求める」と国営テレビで述べ、「その実現に必要なことは何でもする」と主張した。以上は、『ブルームバーグ』(2月24日付)が伝えた。
ロシア国内では、この無謀な戦いの先行きを懸念して株価の暴落とルーブルの急落を招いている。ロシアでもこの侵攻が招く経済制裁によって、混乱することを予感しているのだろう。
『ブルームバーグ』(2月24日付)は、「ロシア株大幅安、ルーブルは対ドル最安値-中銀が為替介入へ」と題する記事を掲載した。
ロシア資産の価格が24日の金融市場で急落した。通貨ルーブルは対ドルで急落し、最安値を更新。株式相場も過去最大の下落となり、MOEX指数は一時45%下げた。
(1)「ロシア銀行(中央銀行)は外国為替市場に介入し、金融市場の安定化を図る措置を講じると発表した。介入は数年ぶり。同中銀は利上げには言及していないものの、1兆ルーブル(約1兆3700億円)の翌日物レポ入札を同日実施し、銀行システムに追加の流動性を供給するとした。午後の取引で株価とルーブルは下げ幅を縮小。一時9.4%安となったルーブルはモスクワ時間午後0時59分(日本時間同6時59分)現在、3.6%安の1ドル=84.2250ルーブル。MOEX指数は25%安。ロシア最大の銀行ズベルバンクの株価は45%安、ガスプロムは39%下げた」
ロシア国内では、多くがウクライナ侵攻をないと見ていた。それだけに、その反動が大きくなっている。今後、本格化する西側諸国の経済制裁の事態が明らかになると共に、株価はルーブルへの影響が大きく出るであろう。
ルーブル安は、国内消費者物価を刺激する。昨年9月から前年比8%台の上昇率である。今年1月は8.73%でジリジリと上昇速度が上がっている。今回のルーブル安が、輸入物価を押し上げるのは確実。消費者の不満を高めるであろう。
『ロイター』(2月23日付)は、「プーチン大統領に残された選択肢は戦線拡大」と題する記事を掲載した。
ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部ドンバス地方の親ロシア派が実効支配する地域を独立国家として承認し、手持ちのカードがこれで尽きたわけではないと述べた。同氏は22日、「今後どんな行動を取り得るのかを具体的に示すことは到底できない。現地の状況次第だ」と話した。
(2)「政治コンサルティング会社R・ポリティークの創設者タチアナ・スタノバヤ氏は、「ロシア軍の侵攻が親ロ派地域にとどまるわけがない。さらに戦線を広げなければ彼らにとって意味がない」と語る。「プーチン氏の論法に従えば、ウクライナの大部分を手に入れる必要がある」。スタノバヤ氏はさらにこう付け加えた。「ウクライナに対する攻撃をどう正当化するのか想像もできないが、ほかに選択肢は見当たらない。目標は今の状態のウクライナを終わらせることだ。ウクライナがなくなれば、問題は解決する」と指摘する」
プーチン氏は、ウクライナを消さない限りロシアの安全保障が維持できないという極端な考えに立っている。これは、西側諸国と完全に対立する考えである。プーチン氏は、解決のない道へ踏込んでしまった感が強い。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月22日付)は、「プーチン氏の終盤戦、ウクライナ超えた野望」と題する記事を掲載した。
(3)「ジョンズ・ホプキンス大学のメアリー・サロッティ教授(歴史学)は指摘する。プーチン氏はベルリンの壁が崩壊したとき、独ドレスデンの旧ソ連国家保安委員会(KGB)にいた。その後、ソ連が崩壊する直前の1990年に自国に戻された。サロッティ氏によると、プーチン氏は現在、ソ連時代のようにロシア周辺に緩衝地帯を築き、超大国の米国と肩を並べ影響力を誇示したいと考えている。プーチン氏のアプローチは、他のNATO加盟諸国を通り越して米国と真っ向勝負することを狙っている。それには同氏の信念が見て取れる。つまり、世界の問題はロシアを含む大国が解決するべき、というものだ」
プーチン氏は、ロシアの国力を忘れて米国と真っ向勝負する覚悟という。米ソ対立時代の再現である。これは、プーチン氏の認識錯誤である。米国には同盟国が控えている。ロシアへ共同経済制裁することを忘れているのだ。こういう点から、プーチン氏は故サッチャー英国首相と同様に辞任寸前の「頑迷固陋」に陥っているのでないか。もっとはっきり言えば、「認知症」を疑われているのだ。
(4)「プーチン氏はこれまで、危機の瀬戸際で能力を発揮してきた。今回、プーチン氏は相当大きな賭けに出ており、簡単には出口が見えない状況に自ら身を置いている。軍部隊を撤退させ、西側各国指導者の注目を集めたばかりか、欧州の安全保障について協議するという米国の約束を得たと主張することもできるが、実現は困難であろう新安保条約を同氏が要求していることを考えれば、従順な段階的緩和を行えば面目を失いかねない」
プーチン氏は、大きな賭けに出ている。ウクライナを消してしまうほどの振る舞いである。途中での妥協を許さないもの。それだけ、解決が難しくなる。
(5)「プーチン氏がウクライナを侵攻するなら、リスクは高まる。西側の軍事専門家はロシア軍が勝利するとみている。だが、敵対的な住民を長期間服従させようとすれば、泥沼にはまる可能性がある。ウクライナの一部地域を切り取ろうとして軍部隊を派遣する場合(例えば、ロシアが併合したクリミアをロシアとつなぐ横断陸路の建設)でも、西側は大規模な制裁を科す可能性が高い。そうなれば、2024年の再選を目指すプーチン氏にとって大きな逆風となる恐れがある」
下線部は、重要な指摘である。西側は経済面で優位に立っている。ロシアの産物は、穀物(小麦とトウモロコシ)、原油・天然ガスである。工業製品では見るべきものがない。西側諸国は、ここを狙って経済制裁を加える。半導体も輸入禁止だ。いずれ、ルーブルが米ドル決済機構から追放される。ロシア経済は万事休すとなろう。プーチン氏は、ここまで考えているとは思えない。「認知症」疑惑が、つきまとう理由である。