勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年02月

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    2月24日未明、ロシアがウクライナへ軍事行動を開始した。この侵攻作戦は、いかなる目的を持っているのか。ロシアは、ウクライナに親ロ派で米国の影響を受けない新政権の樹立を狙っていると、ロシア与党の幹部議員が語った。ロシア下院国際問題委員会の第1副委員長を務めるニコノフ議員は、「ウクライナ新政権にはロシアとの建設的な関係を支持することを求める」と国営テレビで述べ、「その実現に必要なことは何でもする」と主張した。以上は、『ブルームバーグ』(2月24日付)が伝えた。

     

    ロシア国内では、この無謀な戦いの先行きを懸念して株価の暴落とルーブルの急落を招いている。ロシアでもこの侵攻が招く経済制裁によって、混乱することを予感しているのだろう。

     


    『ブルームバーグ』(2月24日付)は、「ロシア株大幅安、ルーブルは対ドル最安値-中銀が為替介入へ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア資産の価格が24日の金融市場で急落した。通貨ルーブルは対ドルで急落し、最安値を更新。株式相場も過去最大の下落となり、MOEX指数は一時45%下げた。

     

    (1)「ロシア銀行(中央銀行)は外国為替市場に介入し、金融市場の安定化を図る措置を講じると発表した。介入は数年ぶり。同中銀は利上げには言及していないものの、1兆ルーブル(約1兆3700億円)の翌日物レポ入札を同日実施し、銀行システムに追加の流動性を供給するとした。午後の取引で株価とルーブルは下げ幅を縮小。一時9.4%安となったルーブルはモスクワ時間午後0時59分(日本時間同6時59分)現在、3.6%安の1ドル=84.2250ルーブル。MOEX指数は25%安。ロシア最大の銀行ズベルバンクの株価は45%安、ガスプロムは39%下げた」

     

    ロシア国内では、多くがウクライナ侵攻をないと見ていた。それだけに、その反動が大きくなっている。今後、本格化する西側諸国の経済制裁の事態が明らかになると共に、株価はルーブルへの影響が大きく出るであろう。

     


    ルーブル安は、国内消費者物価を刺激する。昨年9月から前年比8%台の上昇率である。今年1月は8.73%でジリジリと上昇速度が上がっている。今回のルーブル安が、輸入物価を押し上げるのは確実。消費者の不満を高めるであろう。

     

    『ロイター』(2月23日付)は、「プーチン大統領に残された選択肢は戦線拡大」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部ドンバス地方の親ロシア派が実効支配する地域を独立国家として承認し、手持ちのカードがこれで尽きたわけではないと述べた。同氏は22日、「今後どんな行動を取り得るのかを具体的に示すことは到底できない。現地の状況次第だ」と話した。

     

    (2)「政治コンサルティング会社R・ポリティークの創設者タチアナ・スタノバヤ氏は、「ロシア軍の侵攻が親ロ派地域にとどまるわけがない。さらに戦線を広げなければ彼らにとって意味がない」と語る。「プーチン氏の論法に従えば、ウクライナの大部分を手に入れる必要がある」。スタノバヤ氏はさらにこう付け加えた。「ウクライナに対する攻撃をどう正当化するのか想像もできないが、ほかに選択肢は見当たらない。目標は今の状態のウクライナを終わらせることだ。ウクライナがなくなれば、問題は解決する」と指摘する」

     

    プーチン氏は、ウクライナを消さない限りロシアの安全保障が維持できないという極端な考えに立っている。これは、西側諸国と完全に対立する考えである。プーチン氏は、解決のない道へ踏込んでしまった感が強い。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月22日付)は、「プーチン氏の終盤戦、ウクライナ超えた野望」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「ジョンズ・ホプキンス大学のメアリー・サロッティ教授(歴史学)は指摘する。プーチン氏はベルリンの壁が崩壊したとき、独ドレスデンの旧ソ連国家保安委員会(KGB)にいた。その後、ソ連が崩壊する直前の1990年に自国に戻された。サロッティ氏によると、プーチン氏は現在、ソ連時代のようにロシア周辺に緩衝地帯を築き、超大国の米国と肩を並べ影響力を誇示したいと考えているプーチン氏のアプローチは、他のNATO加盟諸国を通り越して米国と真っ向勝負することを狙っている。それには同氏の信念が見て取れる。つまり、世界の問題はロシアを含む大国が解決するべき、というものだ」

     

    プーチン氏は、ロシアの国力を忘れて米国と真っ向勝負する覚悟という。米ソ対立時代の再現である。これは、プーチン氏の認識錯誤である。米国には同盟国が控えている。ロシアへ共同経済制裁することを忘れているのだ。こういう点から、プーチン氏は故サッチャー英国首相と同様に辞任寸前の「頑迷固陋」に陥っているのでないか。もっとはっきり言えば、「認知症」を疑われているのだ。

     


    (4)「プーチン氏はこれまで、危機の瀬戸際で能力を発揮してきた。今回、プーチン氏は相当大きな賭けに出ており、簡単には出口が見えない状況に自ら身を置いている。軍部隊を撤退させ、西側各国指導者の注目を集めたばかりか、欧州の安全保障について協議するという米国の約束を得たと主張することもできるが、実現は困難であろう新安保条約を同氏が要求していることを考えれば、従順な段階的緩和を行えば面目を失いかねない」

     

    プーチン氏は、大きな賭けに出ている。ウクライナを消してしまうほどの振る舞いである。途中での妥協を許さないもの。それだけ、解決が難しくなる。

     


    (5)「プーチン氏がウクライナを侵攻するなら、リスクは高まる。西側の軍事専門家はロシア軍が勝利するとみている。だが、敵対的な住民を長期間服従させようとすれば、泥沼にはまる可能性がある。ウクライナの一部地域を切り取ろうとして軍部隊を派遣する場合(例えば、ロシアが併合したクリミアをロシアとつなぐ横断陸路の建設)でも、西側は大規模な制裁を科す可能性が高い。そうなれば、2024年の再選を目指すプーチン氏にとって大きな逆風となる恐れがある

     

    下線部は、重要な指摘である。西側は経済面で優位に立っている。ロシアの産物は、穀物(小麦とトウモロコシ)、原油・天然ガスである。工業製品では見るべきものがない。西側諸国は、ここを狙って経済制裁を加える。半導体も輸入禁止だ。いずれ、ルーブルが米ドル決済機構から追放される。ロシア経済は万事休すとなろう。プーチン氏は、ここまで考えているとは思えない。「認知症」疑惑が、つきまとう理由である。

     

    あじさいのたまご
       

    ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ問題で巧妙に立ち回っている。大軍をウクライナ国境に集め、軍事侵攻の構えを見せながら、現実にはウクライナ東部の「独立国承認」という手を使ってきた。西側の予想を超えた動きである。プーチン氏は、これからどう動くのか。韓国メディアが注目すべき報道をしているので取り上げる。

     

    『東亞日報』(2月24日付)は、「プーチン氏の『グレー戦術』 派兵『今すぐではない』混乱誘発」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部への派兵を決定した翌日の2月22日(現地時間)、「今すぐウクライナのドンバス地域に軍隊を送るとは言っていない」と述べた。しかし、北大西洋条約機構(NATO)は、ロシア軍がウクライナ東部ドンバス地域に進入したことを確認した。これについて米紙ニューヨーク・タイムズなど外信は、自身の考えと真実をわからなくし、相手に圧力をかけるプーチン氏特有の「グレー戦術」と指摘した。



    (1)「ロシアのノーボスチ通信などによると、プーチン氏は同日、ロシア上院の派兵承認後、メディアに「ロシアは(ドンバス地域の親ロシア派武装勢力の)『ドネツク人民共和国(DPR)』、『ルガンスク人民共和国(LPR)』と結んだ脅威時の軍事協力の規定によって軍事的支援をする」と明らかにした。また、「今すぐにロシア軍隊がドンバスに行くとは言っていない。現地の状況次第だ」と述べた」

     

    プーチン氏は、DPRとLPRの独立承認という国際法違反行為をしているが、すぐにロシア軍を派遣するかは状況次第としている。

     


    (2)「NATOと欧州連合(EU)が、ロシア軍の進入を確認した状況で、プーチン氏がこのようなメッセージを出すのは、西側に混乱を与えようとするプーチン氏特有の「グレー戦術」であり、軍事作戦に心理戦、フェイクニュース、政治工作などを結合させた「ハイブリッド戦術」だと、軍事専門家らは指摘する。ニューヨーク・タイムズは、「プーチン氏は、大規模な攻撃と一国家を解体する方式、ニシキヘビのように締め付ける戦略を活用している」とし、「莫大な費用と軍事力が必要な全面戦争よりも段階的にウクライナ内部を破壊し、戦車を動員せず西側に圧力をかけている」と報じた。ロシアが15日にウクライナ国境付近のロシアの一部部隊を撤収したと言ったが、実際は兵力を増強したことも同じ脈絡だ」

    プーチン氏は、大軍を動かして圧力をかけるが、巧妙に立ち回っている。「孫氏の兵法」を彷彿とさせるような振る舞いである。「戦わずして勝つ」という方程式を実践している。

     

    (3)「一部では、プーチン氏が全面戦争に対する負担を感じているという分析もある。プーチン氏のDPR、LPR独立承認および派兵決定直後、ロシアの株価指数であるMOEX指数は10.5%、ロシアの通貨ルーブルの為替レートが3.4%急落した。ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターが昨年末、「ロシアのウクライナ侵攻およびロシア統合」についてアンケート調査を行った結果、賛成は25%にとどまった」

     

    ロシアの株価とルーブルが急落している。西側の経済封鎖がロシア経済に及ぼす悪影響を予知しているのだ。ロシアの世論調査では、ウクライナ侵攻賛成は25%に止まっている。プーチン氏は、2024年の大統領選を意識したウクライナ侵攻という見方もある。思惑が外れる可能性も出て来た。

     

    (4)「CNNは、プーチン氏は、「巧みな日和見主義者であり、実用主義者で合理的選択ができる。今やプーチンが次にすることにすべての視線が集まった」と伝えた」

    プーチン氏については、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月22日付)が興味深い指摘をしている。

     

    プーチン氏には、同じく長期政権を担ったマーガレット・サッチャー元英首相と重なる点があるかもしれない。「政治的な勘を失いつつあった1989年、1990年のサッチャー氏のような立場にある」と。「彼(プーチン氏)は以前ならやめ時を分かっていたが、今はそうした勘を失っていると言っていいかもしれない」


    サッチャー氏の首相末期は、強引な振る舞いで側近すら反旗を掲げて辞任へ追い込まれた。悲劇的な末路であったが、プーチン氏はそれに重なる部分があるというのである。一見、「孫氏の兵法」のごとく行動しているが、落し穴は米ドル決済網から外される日を予測していないことだろう。

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    韓国与党と大統領府は、国連軍を邪魔者扱いにしている。文政権下で、退役となった元将官5人が最近、記者会見して韓国政府の身勝手ぶりを告発した。驚かされるのは、朝鮮戦争で国家を防衛してくれた国連軍への感謝の念はなく、韓国軍が早く「統帥権」をとり戻したいという欲望の強さである。

     

    米軍が、他国軍の指揮下に入った経験がない以上、韓国軍の指揮に従う可能性はゼロである。ましてや、韓国進歩派は北朝鮮との融和に積極的という事実が明らかになると共に、統帥権移譲は極めて困難な課題である。

     

    韓国が、「第二のウクライナ」になる危険性が指摘され始めた。米韓の間に隙間風が吹けば、韓国はウクライナ同様な立場に立たされる危険性が出るのだ。文外交は、「自主外交」と称して際どいところを歩いているのである。

     


    『中央日報』(2月23日付)は、「ウクライナ事態、対岸の火事ではない」と題する社説を掲載した。

     

    ウクライナ事態が一触即発の危機的局面を迎えている。ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部ドンバス地域の親ロシア派が樹立したドネツク人民共和国(DPR)とルガンスク人民共和国(LPR)をウクライナから一方的に分離して独立させる法案に署名した後、平和維持を名目にロシア軍に進入を指示した。ドンバス地域では、親ロ派とウクライナ政府軍の間で小規模な交戦中だ。ロシア軍が本格的に侵攻すれば、ウクライナ軍と正面衝突して大規模な死傷者が発生する恐れがある。

     

    (1)「ロシアの強圧的行動により発生したウクライナ事態で、国際エネルギー価格が急騰し、穀物の価格も暴騰する兆しを見せている。欧州に供給するロシアのガスが遮断され、ウクライナの世界的な穀倉地帯が戦場に変わる可能性があるためだ。すでに韓国のガソリン価格は1リットル当たり1800ウォン(約174円)を超え、2000ウォン台に迫っている。ロシアのウクライナ侵攻が第3次世界大戦の前兆だという恐ろしい話まで出ている。米国と欧州は戦争の拡散を防ぐためにロシアに対する制裁を強化する一方、NATO(北大西洋条約機構)としてウクライナ近隣に兵力を相次いで増強している。戦争が本格化すれば、民間人の被害はもちろん100万人以上の難民が発生する可能性があり、欧州全体が緊張している。ウクライナには韓国の僑民60人余りがまだ残っている。これにより、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は昨日、緊急国家安全保障会議(NSC)を開いた」

     


    ウクライナは、ロシアの身勝手な論理の「餌食」にされている。ウクライナは、元ロシア領という感覚である。中国の台湾に対する姿勢と寸分の狂いもない。こういう魔手から身を守るには、同盟の力を借りるほかない。

     

    韓国は、中国が旧宗主国である。習氏は、韓国について旧領土という感覚である。こういう相手に目を覚まさせるには、自衛力を付ける以外に道はない。米韓同盟の緊密化である。

     

    (2)「ウクライナ事態は対岸の火事ではない。今すぐエネルギーと穀物の需給、僑民の安全確保が至急だが、事態の本質はより重要だ。ウクライナがロシアの侵攻を受けることになったのは、国内政治の混乱と分裂のため防衛力が弱く、同盟すら満足でないためだ。冷戦時期にソ連の治下で迫害されたウクライナは、2014年にロシアにクリミア半島を奪われた。そのため、最近、安全確保のためにNATO加入を試みたことから、ロシアが再び侵攻したのだ。しかし、米国やドイツなどの軍事力支援は制限的だ」

     

    韓国は、脱原発によって不足する電力を中ロから輸入する計画である。エネルギー安全保障から見て、これ以上の危険な選択はない。

     


    (3)「北朝鮮の非核化にとっても悪い先例になりかねない。ソ連核兵器を5000発以上受けたウクライナは、脱冷戦後、ブダペスト条約(1994年)で非核化する代わりに安全保障を約束された。ところが、核兵器がない今、ロシアの侵攻を受けたのだ。これを見守る北朝鮮が一層核保有に執着するのではないかと心配だ。国際社会はロシアを説得し、ウクライナ侵攻を防がなければならない。米国がウクライナに神経を尖らせている間に、北朝鮮が挑発する恐れがあるため、我々は万全の備えをしなければならない。強大国に囲まれたウクライナの地政学的リスクは、韓国の立場に似ている。ウクライナ事態を他山の石とし、堅固な韓米同盟を基盤に安保に隙のないようにしなければならない」

     

    ウクライナ問題は、核兵器を持たず確かな同盟もなかったケースの悲劇である。不届き者が世界に跋扈している限り、しっかりした同盟が安全保障のカギであることを立証している。韓国文政権は、米韓同盟という強い絆を持ちながら「邪魔者扱い」してきた。罰当たりな話である。文在寅は今、首をすくめているに違いない。

     

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    ロシアのプーチン大統領は22日、ウクライナの親ロシア派である「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認する大統領令に署名した。その上で2地域に軍を派遣するよう国防省に命じた。こうした国際法無視の動きに、米国、欧州連合(EU)、英国、オーストラリア、カナダ、日本はロシアの銀行や特権階級層に対する制裁を発表。ドイツはロシアからのガス輸送パイプライン事業の承認手続きを停止した。

     

    バイデン大統領は、「ウクライナ侵攻の始まり」とし、「対ロシア制裁の第1弾」を発動すると表明。ロシアの政府系銀行・開発対外経済銀行(VEB)を含む2つの主要金融機関やソブリン債のほか、特権階級層やその親族らが制裁の対象になるとした。

     


    日米欧が、結束してロシアの違法行為に制裁を加える事態に、中国は敢えてロシアの決定を支持するという危険な行為を避けている。ロシアの行為で、中国が火傷をするという最悪事態に陥らないようにする慎重姿勢である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月23日付)は、「中国、ロシア派兵命令への「支持」見送り、米欧に配慮」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平指導部はウクライナへのロシアの派兵命令への「支持」を見送る方針だ。ロシアを非難する米欧との関係悪化は、現段階で避ける構えだ。一方、将来の台湾との統一をにらみ、ロシアに対する米欧の経済制裁の発動には反対する。

     


    (1)「習氏とロシアのプーチン大統領は4日の北京での会談後、共同声明で、北大西洋条約機構(NATO)の拡大に反対する方針を示した。習氏は主に外交問題でロシアと歩調を合わせてきたが、共同声明は「ウクライナ」には直接言及しなかった。プーチン氏を4日の北京冬季五輪の開会式に招き、五輪を「成功」に導きたかった習氏にとって、共同声明はぎりぎりの表現だったとみられる。中国の王毅国務委員兼外相は19日にドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で「あらゆる国の主権、独立、領土の一体性は尊重されるべきだ」と強調した。米欧に近いウクライナに配慮し、ロシアの強硬姿勢と距離を置いた」

     

    中国は、微妙な立場にある。ロシア支持を打ち出せば、米欧から一段の批判を浴びる。EUとの間にさらなる溝が深まれば、経済面での損失が大きくなる。こういう状況を勘案しているのだ。

     

    (2)「背景にあるのは、米欧の「中国脅威論」への警戒だけでない。中国は欧州連合(EU)加盟国と隣接するウクライナを広域経済圏構想「一帯一路」の要衝と定め、関係強化を目指してきた。中国初の空母「遼寧」は、1998年にウクライナから買い取った「ワリヤーグ」を改造した。中国はウクライナから重要な軍事技術を入手できるとみている。ウクライナには中国製の新型コロナウイルスワクチンも積極提供してきた。1月には習氏がウクライナのゼレンスキー大統領に国交樹立30年の祝電を送った。「戦略的パートナー関係の発展を高度に重視し、さらなる成果に向けて各領域での協力を推進する」と伝え「互恵関係」の強化を訴えた」

     

    中国にとっては、ウクライナも重要なパートナーである。ウクライナの軍事技術を入手したいからである。仮に、ロシアがウクライナ全土を侵攻する局面になれば、中国の立場は一段と苦しくなろう。

     


    (3)「中国は、ロシア系住民の意思を理由にウクライナへの介入を画策するロシアのやり方に表だって支持を表明しにくい。特定地域の住民の期待を理由に、独立や外国への編入を認めれば、中国国内のチベット自治区、新疆ウイグル自治区でくすぶり続ける独立運動に再び火をつけかねないからだ。中国はウクライナ問題の解決に向け、同国東部紛争の停戦と和平への道筋を定めた「ミンスク合意」の履行を求めてきた。だが、プーチン氏は22日、同合意が「もはや存在しない」と発言した。ウクライナ問題を巡り、中ロの溝が目立つようになった

     

    中国は、ロシアに対して「ミンスク合意」の履行を求めた。「ミンスク合意」とは、2014年に始まったウクライナ東部紛争を巡る和平合意だ。ロシアとウクライナ、ドイツ、フランスの首脳が15年2月にベラルーシの首都ミンスクでまとめたもの。ロシアを後ろ盾とする親ロ派武装勢力とウクライナ軍による戦闘の停止など和平に向けた道筋を示した。ロシアは、これを破棄したのだ。こういう状況で、中国はロシアを支持できるはずがない。

     


    (4)「
    習指導部は、ウクライナ問題に対応するうえで、将来の中台統一も想定して米欧の出方を注視する。中国のシンクタンク関係者は「中国は、統一に動いたときに米欧がどのような制裁を発動するのか、その影響も含めて研究している」と話す。米欧による対ロシア制裁の内容は、中台統一をめざす習指導部に格好の研究材料になる。仮に中台統一に動き出した場合、米欧の反応次第ではロシアとの連携維持が一段と重要になる局面も想定されるためだ。天然ガス、石油といったロシアの豊富な天然資源は中国にとって魅力的だ。対ロ制裁に反対する中国にはこうした思惑もある」

     

    中国は、ウクライナ問題を「中台問題」として捉えている。欧米のロシアへの制裁が厳しいものになれば、中台統一でも同様なことが想像できる。となると、エネルギー供給でロシアとの関係強化が不可欠になるとしている。

     

    中台統一問題では、ウクライナ問題の比ではない。日米欧は、戦争状態が想定されるので、全力を挙げて阻止する。半導体など戦略物資は全て禁輸対象になるはず。その意味では、ウクライナに関わるロシア制裁は参考になるまい。次元が異なるのだ。

    テイカカズラ
       

    基軸通貨とSDRを混同

    膨らむ取らぬ狸の皮算用

    韓国をダメにした張本人

    空洞化した製造業の明日

     

    韓国は、不思議な国家である。昨年は、G7首脳会議に招待されたことで、すっかり「G7並」という気分が深まった。また、UNCTAD(国連貿易開発委員会)で、「先進国クラス」へ分類されたので、文大統領は「国連が韓国を先進国として認めた」と宣伝したほど。

     

    この話には裏があるのだ。トランプ米大統領(当時)が、WTO(世界貿易機関)で韓国は発展途上国として申告していることを批判した。韓国は、やむなく発展途上国を取り下げたもの。こういう経緯で、UNCTADが自動的に韓国を先進国クラスへ編入したに過ぎないのだ。文氏は、「宣伝マン」よろしく、国連が韓国を先進国と認めたとすり替えたのである。

     


    韓国は、先進国という呼称に拘っている。ここで、義経の「八艘飛び」に似せて、韓国ウォンを「基軸通貨」にすると言い出す御仁が現れた。韓国大統領選の与党候補・李在明(イ・ジェミョン)氏が共同討論会で発言したのだ。これを聞いた韓国メディアは、李氏の見当違いを冷笑している。米国ドルが、世界の基軸通貨である。他国通貨を寄せ付けない絶対的な強みを持つからだ。

     

    この米国ドルに対して、韓国ウォンなど吹けば飛ぶような存在である。ウォン相場暴落で現実に、米国からドルの緊急融資を受ける身である。李氏には、こういう国際通貨の仕組みが分かっていないようだ。「経済大統領」を目指す李氏だが、その手腕のほどは怪しいのである。

     


    基軸通貨とSDRを混同

    李氏の発言は、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)通貨を指していると見られている。現在、米ドル・EUユーロ・英ポンド・日本円・中国人民元など5通貨が指定されている。韓国ウォンもその一角に組み込まれたいというのだ。

     

    IMFに加盟すれば、出資比率に応じて加盟国に割り当てる仮想通貨がSDRである。通貨危機などで外貨不足に陥った加盟国は、SDRと引き換えに他の加盟国から米ドルなどの外貨を受け取ることができるシステムだ。金や米ドルを補完する手段として、1969年に設けられたものである。IMFは2021年8月、新たに6500億ドル相当(約4560億SDR)のSDR配分を決定した。

     

    SDRになる通貨として、IMFは次の二つの基準を設けている。

    1)輸出基準=輸出額が世界で5本の指に入る時。

    2)自由利用可能基準=国際取引の支払いで広く使われており、主要な為替市場で広く売買される必要がある。

     


    韓国ウォンが、前記の2要件に合うかどうかである。

     

    1)韓国は、過去5年間(2016~2020年)の平均輸出額が5438億ドルでる。ユーロ、中国、米国、日本に次いで5位に入っている。この点ではパスだ。

     

    2)韓国ウォンが現実に、国際取引の支払いで広く使われているかといえば、「ノー」である。国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、2022年1月の国際決済通貨の決済割合は米ドルが39.92%、ユーロが36.56%、英ポンドが6.30%、中国人民元が3.20%、日本円が2.79%である。ウォンは、上位20位にも入っていないのだ。

    以上の結果によれば、韓国ウォンがSDRに採用される可能性はゼロである。それにも関わらず、このウォンSDR化を最初に提唱した韓国の全国経済人連合会(全経連)は、不可能を知りつつ何を根拠にして取り上げたのか。それは、韓国における輸出入取引で、ウォン決済が1992年の0.1%から2020年には4.9%へ増加した点だけである。韓国政府が今後、ウォンの国際化を積極的に推進しているという「努力」を根拠としたのだ。

     


    だが、IMFはSDR資格の第一項で「輸出額が世界で5本の指に入る時」としている。すでにSDRは、米国ドルなど5通貨が採用されている。この上、「6ヶ国目」がSDRに採用される可能性は低い。英国は、2022年中にTPP(環太平洋経済連携協定)の正式メンバーになる見通しである。そうなれば、英ポンドの利用率が高まる。韓国ウォンの出番は来ないと見るべきだろう。

     

    膨らむ取らぬ狸の皮算用

    SDRに採用される通貨には、特別のメリットがあるのか。韓国は、「シニョリッジ効果」を期待している。つまり、貨幣発行によって得る利益である。貨幣の額面価値と製造コストの差額のことだ。SDRになった場合、海外でのウォン流通のために追加発行することで、シニョリッジ効果87兆8000億ウォン(約8兆4500億円)が見込めるという。

     


    これだけでない。さらに「取らぬ狸の皮算用」が続く。

    1)為替レートの不安定性の38.5%減少で輸出増15兆6000億ウォン(約1兆5000億円)

    2)国公債金利の0.63%下落で軽減される利子負担9兆4000億ウォン(約9050億円)

     

    前記2項目は、ウォンがSDRに採用されるほどの国際的な信頼を勝ち取れれば、ウォン相場が安定することや、国公債の発行金利が下がることで、金利負担が軽減されるという見通しである。問題は韓国経済が今後、SDR通貨に相応しい「健全性」を維持できるようになるだろうかだ。実は、韓国経済が多くの問題点を抱えていることに警鐘を打ちならしたい。

    (つづく)

     

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