勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年02月

    あじさいのたまご
       

    韓国大統領選の投票日(3月9日)まで、半月余りを残すだけとなった。最大野党「国民の力」尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補は、自らの検察捜査の体験を折り込みながら、文政権が何をしてきたか。舌鋒鋭く斬り込んでいる。政権支持メディア『ハンギョレ新聞』は、堪りかねて「政治を色分けしている」と反論するほど。与党には響いているのだろう。

     

    『WOW!KOREA』(2月22日付)は、「韓国野党の尹錫悦大統領選候補、連日にわたり李在明候補と与党に攻勢 『共に民主党が政治支配をしてはならない』」と題する記事を掲載した。

     

    ユン・ソンニョル(尹錫悦)国民の力(野党第一党)大統領選候補は22日、チュンチョンナムド(忠清南道)を訪れ、「国家最高意思決定権者になってはならない人を大統領候補に推すイ・ジェミョン(李在明)候補の共に民主党の主役たちがこの国の政治を支配してはならない」と明らかにした。

     


    (1)「尹候補はこの日の午前、忠清南道タンジン(唐津)市の中央市場を訪れ、イ・ジェミョン(李在明)大統領選候補と共に民主党(与党)に対する攻勢の勢いを強めた。尹候補は「テジャンドン(大庄洞)事件の人を候補に推す共に民主党がキム・デジュン(金大中)元大統領の民主党であり、ノ・ムヒョン(盧武鉉)元大統領の民主党なのか。何の危機で『強い経済大統領』というでたらめな話をして、こんな人たちが政権を継続するようになったら、果たしてこの国の秩序は確立され、経済成長は実現するだろうか」と批判した」

     

    与党候補の李氏は、「経済大統領」を自称している。だが、先のTV共同討論会で、とんでもない間違い発言をして、経済知識のなさを暴露した。韓国ウォンを基軸通貨にすると言い出したのだ。基軸通貨は米ドルである。ウォンが逆立ちしてもなれる訳がない。IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)を意味したようである。このSDRも、国際貿易に使われるウォンの比率は、世界20位以下という状態だ。SDRにもなれないのだ。

     

    李氏は、こういう現実認識もなくデタラメ発言を繰返している。韓国経済は、さらに悪化するはずだ。文政権と同様に誤りを繰返すであろう。

     

    (2)「続いて、(ソウル近郊・京畿道城南市の大庄洞開発事業で)「3億5000万ウォン(約3311万円)を出資して、これまで8500億ウォン(約804億円)を受け取った。これからさらに1兆ウォン(約946億円)までお金をさらに受け取るという。私も26年間不正腐敗と戦ってきた者だから金額をはっきり見積もれる事件だ。これは相当な組織力がなければできないが、これだけなのだろうか」と述べた。尹候補は「私はこうした腐敗犯罪者たちと数十年間戦ってきた。腐敗犯罪者の中でもかなりあくどい人たちは皆これを他人のせいにする。そのようにあがくが、立証して処罰するのは難しくない」と述べた」

     

    城南市の大庄洞開発事業は、李氏が城南市長当時の都市開発事業である。巨万の利益が、民間出資者に渡った事件だ。すでに3人が命を絶つなど犠牲者が出ている。李氏は、無関係であると言い張っている。検察捜査もそれ以上、進まないなど疑惑が膨らんでいる。この背後に文政権の検察圧力があるのでないかと指摘されている。

     

    (3)「また、「共に民主党は口を開けば『労働者、農民、社会的弱者、庶民のため』と言うが、その人たち(の本心)は自分たちの利益のためなのだ。国家の持続可能な発展ではなく、自分たちの持続可能な政権と利権の分け合いに最後まで執着し、逃さないようにもがいている」と明らかにした。さらに、「このような嘘の攻勢、偽りの工作、与党よりのメディアを動員し、土壇場でもがいている。私が、国民の力と共に大韓民国を正常な国家に変え、経済繁栄を約束する」と述べた。

     

    下線部は、与党の痛いところを突いている。「貴族労組」と一部「市民団体」の利益擁護に夢中になってきた。労組でも、李候補を支持せずユン候補の支持に回った労組も出てきた。「貴族労組」の仲間でない「庶民労組」であろう。

    文政権は、原発反対で太陽光発電を推進したが、市民団体が太陽光発電を行い多額の補助金を手にしている。与党は、原発全廃を目指しているのだ。足りない電力は、中国とロシアから輸入するという。「エネルギー安保論」から見ても、極めて危険である。

     

    現在のドイツが、すでにこの状態である。ドイツは当初、ウクライナ問題でロシアへ様子見を続けていた。自国原発を止めて、ロシアの天然ガス依存体制へ切り変える方針が災いしたもの。米国の強い説得で、ドイツはロシア非難に切り替わった。

     


    (4)「尹候補は、ソサン(瑞山)市での遊説でも「皆さんの圧倒的支持で私と国民の力が次の政府になれば、李在明候補の共に民主党を作り出した主役たちは政治から退出させ、共に民主党の中の良心ある立派な政治家たちと合理的なガバナンスを展開しながら、統合の政治で大韓民国を発展させることができる」と強調した。続いて、「私が皆さんの支持で政府を引き受けることになれば、何よりも良心的で正直な大統領として国民にきちんと仕え、国を正常化させたい」と述べた」

     

    韓国進歩派は、リベラル派でない。民族主義者集団である。中朝ロへの依存心が強いのは、過去の歴史に遡って生きたいという願望であろう。自由民主主義は、口先で唱える方便に過ぎない。手始めに、南北一体化を目指して韓国国内から「親日派=保守派」を消すことを目標にするという驚くべき計画を持っている。保守派が、リベラル派というのが韓国の政治状況である。 

     

     

     

    a0001_001078_m
       


    英国は昨年、TPP(環太平洋経済連携協定)加盟申請を出しており審査は順調に進んでいる。TPP加盟条件は、全てクリアした。関税率の引下げ問題が残っているだけだ。これが済めば、英国の加盟が決まる。

     

    これに続くのが、中国と台湾である。中国は、国有企業や強制労働でTPP条項抵触が確実である。それが分っていて、なぜ加盟申請したのか。台湾申請の実現を妨害する目的と見られている。台湾の「有力保証人」は日本と豪州である。とりわけ、日本の後押しが力を発揮すると見られる。中国の保証人は、メキシコ・シンガポールだ。

     


    『大紀元』(2月22日付)は、「中国と台湾のTPP加盟、『日本はキーマン 中国は妨害工作の可能性』=米VOA」と題する記事を掲載した。

     

    米『ボイス・オブ・アメリカ』(VOA)によると、通商専門家は、加盟を申請した台湾と中国をめぐって、日本の後押しを受けている台湾に対して、中国当局は友好関係にあるTPP加盟国を味方につけ、台湾の失敗を目論んでいると指摘した。中国当局は昨年9月16日に、台湾政府はその6日後の22日にそれぞれTPP加盟を申請すると発表した。専門家は、TPP協定の拡大で主導権を発揮し、台湾に友好的な姿勢を示している日本は、台湾が加盟を成功させるキーマンであると指摘した。

     

    (1)「台湾政府系シンクタンク、中華経済研究院WTO・RTAセンターの李淳・副執行長は、台湾だけでなく「すべての申請国は『主要保証人』となるTPP加盟国の支持を得なければならない」と指摘した。「台湾の加盟を歓迎したのは日本だ。日本の立場は非常に重要である。台湾にとって、われわれの主要保証人が躊躇するのであれば、これからの手続きは難しくなるだろう」。李氏は、日本とオーストラリアは、すでに一部の加入手続きを終えた英国の主要保証人であるとの見方を示した」

     

    台湾の主要保証人は、日本・豪州である。中国の主要保証人は、メキシコ・シンガポールと見られる。

     


    (2)「日本政府は18日、加盟国の首席交渉官は同日のオンライン会合で、英国の加盟について、ルール順守に関する英国の取り組みを確認する協議を終えたと公表した。手続きは次の段階である市場アクセスの協議に進むという。台湾が昨年9月22日にTPPへの加盟申請を発表した翌日、茂木敏充外相(当時)は台湾の加盟について「歓迎したい」と述べ、「台湾は自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、密接な経済関係を有する極めて重要なパートナーだ」と語った。また、岸田文雄首相は昨年12月10日の参院本会議の代表質問で、台湾のTPP加盟について「歓迎している」と述べ、中国をめぐって「貿易慣行に関して様々な意見があり、しっかり見極める必要がある」とした」

     

    日本では、首相や外相が「台湾歓迎」と発言している。中国については、「お手並み拝見」と他人事である。

     


    (3)「台湾政府は21日、2011年の東京電力福島第一原発事故以降に実施した福島県を含む5県で生産された食品に対する輸入禁止措置を解除したと公表した。台湾のNPO団体、当代日本研究学会の陳文甲・第一副会長は米VOAの取材に対して、日本側が過去10年にわたり台湾政府の輸入禁止措置を自由貿易に反していると批判してきたことを挙げ、台湾政府の措置撤廃で、日本は台湾のTPP加盟をより支援しやすくなると述べた。日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の佐藤幸人・上席主任調査研究員は、台湾政府の輸入禁止解除で、日本は疑いなく台湾を支持していくと指摘した」

     

    台湾は、TPP加盟を前提にして福島県産外の食品に対する輸入禁止措置を解除した。日本の「歓迎」に応える意味だ。

     

    (4)「TPP委員会では、申請国の加盟や交渉入りに関して、すべての参加国の承認が必要になる。陳文甲氏は、中国と台湾のTPP加盟をめぐって今後、3つの可能性を指摘した。「1つ目は、中国当局が加盟を拒否された後、TPP協定に参加している友好国に、台湾加盟に反対するよう働きかけていく。2つ目は、ハイテク分野で中国本土が台湾に強く依存していることを考え、WTO(世界貿易機関)加盟時と同じように、中国も台湾もTPP協定に加盟する。3つ目は、中国が台湾より早くTPP加盟を実現した後、TPP参加国として台湾の加盟に反対していく」

     

    中国は、最初からTPP加盟条件を満たしていないことを承知で申請している。台湾が極秘で加盟申請準備をしていたが、中国に漏れて申請で先行された。中国は、台湾申請を潰す目的である。TPPはWTOと条件我違う。TPPが「選抜試合」なら、WTOは「一般試合」であり、加盟資格が完全に異なる。

     


    (5)「VOAの取材を受けた専門家の大半は、日本政府が最後まで台湾を支持していくと認識している。ただ、専門家は、国際社会が対中陣営と親中陣営に分かれているなか、中国当局がTPP参加国のなかから、どれほどの支持国を獲得できるかに注目している。
    李淳氏は、「少なくともシンガポール、マレーシア、メキシコとチリは中国の加盟を支持すると中国側は見ている」とした。しかし、マレーシア政府とチリ議会はTPP加盟を批准していないため、両国はTPP協定の未締結国である。李氏は、メキシコとシンガポールは中国の「主要保証人」になると推測した」

     

    中国の主要保証人では、マレーシアとチリがTPPの未批准国でその資格がない。

     

    (6)「佐藤幸人氏は、中国がシンガポールやペルーなどの友好国にどのように働きかけていくのか、日本は注視していると指摘する。同氏は、中国当局がTPP協定の高い加基準をクリアできないとし、中国側が友好国を通じて台湾の加盟を妨害する可能性が高いと指摘した。同氏はまた、「加盟国に混乱をもたらして対立させるためなのか、それとも加盟国に『1つの中国』原則を押し付けるためなのか」と中国がTPP加盟を申請した目的に疑問を呈した

     

    通商専門家は、中国加盟は「玄関払い」になると見られる。中には、TPP加盟を中国経済の近代化を進めるテコに使えという「善人」もいる。WTO加盟時の約束も全て反古にしている中国だ。約束など守ったことがない国である。TPPもしかり。騙されてはいけないのだ。

    a0960_008527_m
       


    台湾では、中国との統一を促進する国民党が不人気である。香港への「国家安全維持法」導入をきっかけに、台湾市民の中国警戒論が一挙に高まっている。この煽りを食って、国民党の人気が下落、蔡政権が2016年5月以来続いている。こうした高い支持率を背景に2月18日、福島県産外の食品輸入再開を公表した。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(2月22日付)は、「台湾はなぜ『政治的リスク』を冒してでも、福島の食品を『解禁』したのか?」と題する記事を掲載した。

     

    2011年の東日本大震災で東京電力福島第1原子力発電所が放射能漏れの事故を起こしたとき、台湾はいちはやく日本産の食品に輸入規制をかけた。あれから11年。その規制を緩和する計画案が、28日に発表された。福島県と近隣4県で生産・加工された食品に対する10年以上にもわたる輸入規制は、台湾が日本との経済関係強化を図るなかで、大きな障害になってきた。今回の緩和案は、紆余曲折を経て、ようやく(しかし比較的予想外のタイミングで)示されたものだ。

     


    (1)「蔡英文(ツァイ・インウェン)総統率いる民進党政権は、これを機に、日本が中心となっている「包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)」への加盟に弾みがつくことを願っている。その一方で、今回の提案は蔡を「台湾の人々の食を危険にさらしている」という批判にさらすリスクもはらんでいる。実際、日本産食品の輸入規制緩和措置は2018年に住民投票にかけられたことがあり、反対が多数を占めた(台湾では数年に1度、主要課題について住民投票が行われ、得票率によってはその結果が法的拘束力を持つ)。蔡政権としては昨年12月の住民投票で、自らが進めてきたアメリカ産豚肉の輸入解禁が支持されたことに勢いを得て、今回、日本からの食品輸入規制も緩和する計画を明らかにしたようだ」

     

    台湾蔡政権は、日米との関係強化が台湾の安全保障のカギと理解している。「台湾有事は日米有事」という共通認識を持たせたことは蔡政権の大きな功績になろう。こうした状況下で、台湾は日米へ食品輸入問題で大きな「バリア」を背負ってきた。豚肉(米国)と福島県産外食品(日本)である。この二大課題をクリアさせたのだ。

     


    (2)「11年前の台湾の動きは早かった。当時は国民党の馬英九(マー・インチウ)総統の時代だったが、3月11日の震災後、15日には8食品群のロット別抜き取り検査が始まり、26日には8品目の輸入規制が始まった。現在は野党となった国民党は、今回の輸入規制緩和案にさっそく反対の姿勢を示している。そもそも国民党は、中国との統一を目指して親中路線を掲げており、日本との関係強化を嫌ってきた。その反日感情は日中戦争にさかのぼる根深いものだ。日本からの食品輸入問題を、日台の接近阻止に利用したいという政治的動機があるのも驚きではない」

     

    福島県産外食品の輸入禁止は、中国本土との接近を進める国民党政権が行なったものだ。日台接近にくさびを打ち込む目的であった。

     

    (3)「一方、民進党は日本との関係を強化して、万が一の台湾有事のときは、日本が台湾の肩を持つ政治的インセンティブを高めたいと考えている。これと同じ理由から、蔡政権はアメリカとの関係強化も急いでいる。長年にわたり規制していたアメリカ産豚肉の輸入を、2021年1月に解禁したのもそのためだ。アメリカ産豚肉には、世界約200カ国中180カ国ほどで使われていない成長促進剤ラクトパミンが使用されている。このため台湾でも安全性への懸念から輸入が規制されてきた」

     

    民進党の蔡政権は、国民党と外交方針が異なる。台湾有事の際は、日米の支援を仰がなければならぬという事情から日米へは格別の友好姿勢を取っている。

     

    (4)「アメリカと自由貿易協定を結んで通商関係を強化したい蔡にとっては、2016年の政権発足以来の頭の痛い問題だった。それ故の昨年1月の輸入解禁だったわけだが、国民党は猛反発。輸入規制の再導入を求めて署名を集め、12月の住民投票にかけることに成功した。だが、実際の投票では十分な賛成票を集めることができず、輸入解禁は維持されることに。それどころか、国民党主導で住民投票にかけられた4つの事案は、全て有権者のダメ出しを食らった」

     

    台湾では住民投票制度がある。これによって、台湾の民主主義制度は世界でベストテンに数えられている。日本よりも上位だ。この住民投票が昨年12月に行なわれ、国民党主導の4事案は全て否決された。この中には、米国産豚肉輸入禁止案も含まれており、輸入継続になった。この住民投票結果から、福島県産外食品の輸入禁止を解除することにしたもの。

     


    (5)「蔡政権が日本の食品の輸入規制緩和案を発表すると、国民党は輸入規制を支持した2018年の住民投票の結果を無視する決定であり、台湾の民主主義を踏みにじる措置だと非難の声を上げてきた。さらに国民党は、蔡政権によるアメリカ産豚肉の輸入解禁も「独裁的だ」と非難してきたが、昨年12月の住民投票で、かえってその措置が民意に沿っていることを証明することになった。蔡は日本の食品輸入についても、同じような展開を期待しているのかもしれない。蔡が今回、日本産食品の輸入規制緩和に向けて動いたのは、このように台湾政治の勢力図で民進党の立場が盤石であることを確認してのことだろう」

     

    米国の豚肉問題よりも、福島県産外食品の方がはるかに安全である。実態が明らかになれば、台湾で理解されるであろう。

     


    (6)「2期目を迎えた総統としての任期は2024年5月まで十分あり、その政治的影響力は衰えていない。今年11月には、次期総統選の前哨戦となる統一地方選が予定されているため、早めに日本産食品の輸入規制を緩和したいという思いもあっただろう。だが、国民党が選挙でこの問題を持ち出すのは必至だ。このため蔡は、今回の規制緩和があくまで部分的であること(例えば、野生鳥獣肉やキノコ類の輸入は引き続き禁止)、そして現在も輸入を禁止しているのは世界で中国と台湾だけであることを強調した。さらに台湾原子力委員会は、食品に含まれる放射能物質を検査できる態勢を台湾全土で整えると発表した」

     

    台湾は、日本産食品の輸入規制緩和に積極的である。韓国は、全く逆である。悪意に満ちた行動を重ねている。台湾は、日本の安全保障面で重要な関わりを持つが、台湾もそのことについて十分な認識を持っている。こういう相互理解が成り立つ日台関係は理想的である。韓国は全く別である。日本に対して敵意すら抱いている。対照的である。

    a0001_000268_m
       

    中国は、ロシアのウクライナ対応をめぐる西側諸国の動きを、他人事ならず見ているであろう。中国が、台湾侵攻をした場合にどのような制裁を受けるか、予測できるひな形がウクライナ問題であるためだ。

     

    中国は、ウクライナ問題では対米関係を考慮して慎重になっている。ロシア支持一辺倒という態度を取ることなく、王毅外相は「あらゆる国の主権、独立、領土の一体性は尊重されるべきだ」と発言しているからだ。この辺に、中国の悩める姿勢が滲み出ている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(2月21日付)は、「ウクライナ危機、中国の対ロシア政策に試練」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアによるウクライナ侵攻の懸念が高まるなか、中国は習近平国家主席のプーチン・ロシア大統領への支持と地域の安定という自国の利益との間でバランスを取る必要が生じていると専門家は指摘する。

     

    (1)「中国は2月4日、ロシアと歩調を合わせて北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対し、習氏とプーチン氏の協力関係が新たな段階に達したことを示した。しかし、中国の王毅外相は19日、ドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で「あらゆる国の主権、独立、領土の一体性は尊重されるべきだ」と発言した。また「対話と協議を通じて欧州の安全と安定が真に保障される解決策が見つかることを期待する」とも述べた。王氏は1月下旬にはウクライナをめぐり米国とNATOと対立するロシアへの支持を表明し、ロシアは「安全保障上の合理的な懸念」を抱いていると述べていた。19日の発言は立場の変化を示している」

     

    中国の王毅外相はウクライナ問題に付いて、1月下旬の発言でロシア支持を明らかにしたが、2月19日の発言では中立的な発言にもどっている。ウクライナをめぐる揺れる中国の立場を示すものだ。余りにロシア寄り姿勢を見せれば、西側諸国との溝を深めることを懸念しているからだ。

     


    (2)「王氏の論調は、緊張を高めているとバイデン氏を非難する中国外務省の見解とも異なる。
    中国のある有名大学の国際関係論のベテラン研究者によると、中国はロシアを支持する一方でウクライナとの軍事的、経済的関係を損なわないよう「バランスを取る」必要があるという。「欧米メディア、さらに欧米政府関係者の一部には、中国がロシアのウクライナ侵攻を支持するという共通の誤解がある。それは事実ではない」とこの研究者は匿名を条件に話す。「いかなる軍事紛争も、特に大規模な戦争は疑いなく中国の欧州での利益を損なう」王氏は中立を保っていると見せようとしているが、欧米がロシアに金融制裁を課した場合はその立場が試される

     

    中国は、米国との対立に加えて欧州とも溝を深めれば、先進国から「外交孤児」となる。「一帯一路」のリーダーというお山の大将では、どうにもならないからだ。

     

    (3)「米シンクタンク、外交政策研究所のユーラシア担当部長クリス・ミラー氏は、「中国が欧米の新たな制裁を順守するか、あるいはロシアの制裁回避を手助けするかによって、状況がどうエスカレートし、制裁でどの程度ロシアが経済的、政治的に孤立するかが決まる」とリポートに記した。中国は米国やNATOへの対抗に関しては公にロシアを支持しているが、ウクライナの主権侵害に関する留保は別の問題として扱おうとするだろうと専門家は指摘する。「中国とロシアの相互支持は、米国の優位性に挑戦する時に最も強くなる。この点で両国の利益が一致するからだ。だが、領土問題になるとお互いの行動に関してやや曖昧な立場を示す」と豪シドニーにあるニューサウスウェールズ大の中ロ安全保障関係の専門家、アレクサンダー・コロレフ氏は指摘する」

     

    中国には、下線部の領土問題が絡む事態になると、ロシアと微妙な違いを見せている。中国が「一帯一路」で経済権益拡大を目指す地域に旧ソ連領を含む。ロシアが、この地域に対して「宗主国」としての権利を主張し軍事行動を発動する事態になれば、中国は大きな被害を受けるのだ。ここが、中ロ協調路線の「レッドライン」となろう。

     


    (4)「中国のウクライナでの権益は、数十億ドル(数千億円)規模の建設契約、通信機器大手華為技術(ファーウェイ)を通じた通信分野への投資やウクライナ製の軍事装備品の購入などが含まれる。中国は、ウクライナとロシアに対し(ウクライナ東部紛争の停戦と和平への道を示した2015年の)ミンスク合意の復活を求めているが、一方で「内政不干渉」の立場の堅持も主張している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の初期から内向き志向を強めている中国が緊張緩和に向け、より大きな外交上の役割を果たそうとするのか、あるいは軍事行動に傾くプーチン氏を支持するのか、専門家の間でも見方が分かれている」

     

    このパラグラフは、苦しい中国の胸の内を示している。中ロは、NATOの拡大反対で一致する。NATOが将来、インド太平洋地域へ拡大されれば、中国が封じ込められるからだ。だが、ロシアによる「内政干渉」になる軍事行動が始まれば、ロシアへ同調できなくなるという限界点を抱える。欧米の対ロ経済制裁が発動されて、中国へもその影響が及び兼ねないからだ。

     


    (5)「欧米が、ウクライナ危機で制裁を発動すれば、ロシアの中国依存度が高まる。習氏は将来、米国と紛争が起きた際にどう行動すべきか制裁の成否から学べると専門家は見ている。
    「欧米がロシアに高い代償を払わせることに成功すれば、アジアで危機が起きた際に中国に制裁を課すとの脅しが通用しやすくなる」とミラー氏は指摘する。「(しかし)もし制裁の影響を緩和するために中国がロシアに協力すれば、米国は重要なツールを失い、経済的手段で中国を抑え込む能力は低下する」。22年2月に習氏とプーチン氏が北京で会談した際、ロシアから中国への天然ガス供給増でも合意した」

     

    中国外交部は、ロシアと同盟を結んでいないと発言している。だが、ロシアは欧米から受ける経済制裁の逃げ道を中国に求めて手助けされる形となれば、最終手段として金融制裁が発動される。これは、中国に甚大な影響が出るはず。中国には、台湾侵攻で予想される広範囲な経済制裁の「模擬実験」となろう。

     

    caedf955
       

    北京冬季五輪は終わった。100%の人工雪で多くの事故者が出た点でも記録される筈だ。IOC(国際オリンピック委員会)は、こういう教訓をどこまで生かすのか。金持ち開催国であれば目を瞑るのか。話題は尽きない。

     

    問題は、これからの中国経済の動向である。いわゆる「オリンピック景気」も起こらなかった。むしろ、「ゼロコロナ」の後遺症の懸念が深まる。なまじ、五輪を開催したデメリットが、中国経済を襲うと見るべきだろう。五輪による国威発揚とは、逆の場面だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月22日付)は、「一段と減速も、統制で活力出ず」と題する記事を掲載した。筆者は、柯隆(か・りゅう)東京財団政策研究所主席研究員である。この記事は、『日経ヴェリタス』2022年2月20日号掲載である。

     

    (1)「2022年の中国経済は一段と減速する可能性が高い。新型コロナウイルスの影響が続くなか、習近平主席と李克強首相も国内で「これから厳しい生活を送る準備をしなければならない」と呼びかけている。昨年12月に開催した22年の経済政策の方針を決める中央経済工作会議の演説で習主席が多用した言葉は「安定」だ。経済の不安定さへの危機感の裏返しだ。国際通貨基金(IMF)は22年の国内総生産(GDP)成長率の見通しを4.%としているが、下回る可能性は十分ある」

     

    IMFが1月に発表した中国の22年経済見通しは、昨年11月予測よりも0.8ポイントも引下げる厳しいものである。IMFは、「ゼロコロナ政策」の撤廃を求めると同時に、有効なワクチン開発を提案している。中国が、新型コロナウイルスの後遺症に悩まされる見通しだ。新型コロナウイルスを世界にばらまいた「咎め」というべきであろう。

     

    (2)「景気回復に向けた大型の財政出動も期待できない。「一帯一路」政策や、アフリカ諸国への600億ドルの援助、今回の北京五輪など、様々なところで金を使いすぎた。一般的には減税や金融政策が想定されるが、中国の国有銀行の収益構造は金利収入に依存しており収益圧迫に直結する利下げはしにくい。先日の中国人民銀行(中央銀行)の利下げはあくまで金融緩和のメッセージにすぎず、実際の効果はあまり期待できないだろう」

     

    銀行には不動産バブル崩壊による不良債権が貯まっている。これを償却するためにも、銀行の利ざやを確保せざるをえず、貸出金利の引下げには限度がある。財政面では、土地売却収益の減少で財源が急減している。財政出動も困難である。要するに、八方塞がりだ。

     


    (3)「すでに中国は高度経済成長期が終わり、今後の成長には経済構造や産業構造の変換が待ったなしだ。だが、トップダウン型で産業を育成してきた中国では、ボトムアップ型のイノベーションが起こりづらい。21年の全人代で定めた5カ年計画では、素材やエンジンなど、革新的な技術の競争力を強化することを盛り込んだ。宇宙関連などのシンボル的な技術は成功するかもしれないが、民間のイノベーションは起きにくい。加えて、昨今の習政権は市場経済の統制に動いている。統制では企業の活力がでてくるはずがない」

     

    産業構造の転換では、第3次産業のテック企業を伸ばさなければならない。だが、アリババ系列のアントの上場阻止など、逆行したことを行なっている。習氏の政敵が、アント株主として潜り込んでいたのが理由である。

     


    (4)「中国の構造的な問題として、政権が一度決めた方針を修正する力を持っていないのも問題だ。習主席はこれまでの実績として700万人以上の腐敗幹部を追放したことを挙げている。だが、残った幹部はリスクを取りたがらず、国家公務員のモチベーションは相当下がっている。いまの政策立案の実態を見るとかなり混乱している印象だ。昨年の恒大問題の件をみても、結局今までに誰も公式な見解を出していない。大規模停電の際も事前の周知が不徹底な状態で、交差点が大渋滞したり高層マンションの人がエレベーターにとじ込められたりと、人々の生活が大混乱に陥った」

     

    強権政治が、強権経済へと拡大されている。経済発展の起点は、自由な創意工夫にあるが、この源流が強権によって踏みにじられている。テック企業への圧力がそれだ。公務員も出る杭は打たれるので、全て「指示待ち」に徹している。歯車が、錆び付いてきた。

     


    (5)「外交面でも明らかに孤立している。08年の北京五輪と比較しても明らかだ。今年は日中の国交正常化から50周年の節目の年でもあるが、空気感はかつてなく悪い。今後中国から拠点を分散する動きはハイテク産業以外にも着実に広がるだろう」

     

    中国は2月4日、ロシアによるウクライナ問題で支持を表明して以来、西側諸国から「中ロ一体説」が流されている。ここで急遽、「中ロは同盟を結ばない」と外交部が発言するなど慌てている。外交的な孤立が、一段と進みかねず苦慮しているところだ。

     

     

    このページのトップヘ