勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年03月

    テイカカズラ
       

    ロシアの侵略戦争は、自軍兵士からも疑問を持たれている。上官からの命令を拒否する例が出ていると英国情報機関が伝えている。戦場には、ロシア兵士の遺体が放置され、その異臭がウクライナの人々を悩ませている。ウクライナのゼレンスキー大統領が語った。

     

    『ロイター』(3月31日付)は、「ウクライナ内の一部ロシア兵、士気低下で命令拒否もー英情報機関」と題する記事を掲載した。

     

    英情報機関である政府通信本部(GCHQ)のフレミング長官は30日、ウクライナにいる一部のロシア兵が命令を拒否し、自らの装備を破壊したほか、誤って自軍の航空機を撃墜したことを示す新たな情報が得られたと明らかにした。

     


    (1)「オーストラリア国立大学(キャンベラ)で行われた講演録によると、フレミング氏は、ロシアのプーチン大統領がかつて強大だったロシア軍の能力を「大きく見誤った」ほか、ウクライナ国民の抵抗と制裁を発動した西側諸国の決意も過小評価していると指摘。新しい情報を基に、ロシア兵士の士気が低く、装備が不十分である証拠があるとしたほか、「プーチンのアドバイザーは彼に真実を伝えることを恐れていると思われる」と語った。

    ロイターはGCHQの分析内容を独自に確認することはできなかった」

     

    プーチン氏は独裁者である。これが、正しい情報が伝わらない理由である。前線の兵士は、装備や食糧が不足しており、凍傷に罹る者も増えている。ウクライナの農家で食糧を乞う例まで出ており、まさに「敗残兵」そのものだ。中には、出動命令を忌避すべく自分の足を撃つ者まで現れている。徴兵された若者には、理解できない戦争であるからだ。こういう悲惨な情報は、プーチン氏の耳には届いていない。

     


    (2)「ロシアは、西側諸国がロシアに対して事実上の経済戦争を宣言したため、今後は欧州から離れ東に目を向け、中国とパートナーシップを構築すると表明している。フレミング氏は「しかし、あまりに緊密な連携は両国にとってリスクがある」と指摘。「ロシアは、長期的には中国が軍事的にも経済的にもますます強くなることを理解している」とし、 両国の利益の一部が対立する可能性があると述べた」

     

    ロシアは、経済制裁のために中国へ接近している。だが、ロシアの本心は「本家意識」である。世界で最初に共産党革命を起したのがロシアであるからだ。それゆえ、中国へは微妙な「優越感」が存在する。プーチン氏が「大ロシア帝国」再建を夢見ている以上、中国の下に立つことに反発する筈である。中ロ関係には、その密接化で越すに越せない「溝」があるのだ。

     

    『ロイター』(3月31日付)は、「プーチン氏に戦況の誤情報か、側近『イエスマン』が真実報告恐れ」と題する記事を掲載した。

     

    米ホワイトハウスや欧州当局者は30日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻の戦況や欧米の制裁措置による経済へのダメージを巡り、側近から誤った情報を伝えられている可能性があるという情報を明らかにした。

     

    (3)「ホワイトハウスのベディングフィールド報道官は「プーチン大統領が軍に惑わされたと感じ、軍指導部との摩擦につながっているという情報を入手している」とし、「プーチン大統領の側近は真実を伝えるのを恐れており、ロシア軍の侵攻がいかにうまくいっていないか、欧米の制裁措置でロシア経済がいかに打撃を受けているかについて、誤った情報を伝えられているとわれわれは確信している」と語った。この情報が「ロシアの戦略的な誤り」を示しているとも述べた」

     

    独裁者の下で生き残る者は、イエスマンだけになる。これは,あらゆる組織の共通点である。日本の大蔵省(財務省)では、「悪い情報ほど早く報告しろ」というのが慣わしという話を大蔵省高官から聞いた。かつての「鉄壁の大蔵省」には、こういう掟があったのだ。

     

    ロシアは、独裁体制ゆえに組織は極めて脆弱になっている。民主主義体制の強みは、これと逆である。結論が出るまで議論が沸騰するが、結論が出ればそれに従う。議論の過程で、問題点が認識されるので解決も早いのだ。

     


    (4)「米高官は、米政府による情報の共有がプーチン大統領の戦略を複雑にする可能性があると指摘。「この情報が有益となる可能性がある。プーチン大統領は誰を信頼すべきか考え直す可能性がある」と述べた。欧州の上級外交官は、米国の分析は欧州の見解と一致しているとし、「プーチン大統領は実際の状況よりも事が順調に進んでいると考えていたようだ。この問題は『イエスマン』に囲まれ、長テーブルの端に座っていることに起因しているのだろう」という見方を示した

     

    プーチン氏は長いテーブルを挟んで、国防省長官と参謀総長の二人と座っている写真が話題を呼んだ。これは、プーチン氏が二人と対話するのでなく命令している構図である。独裁者と僕の姿である。

     


    (5)「欧州外交筋によると、ウクライナ侵攻前、ロシアの徴集兵は軍事演習に参加すると伝えられると同時に任務を拡大する文書への署名を義務付けられたという。外交筋は、現時点でロシア軍の反乱を助長するような兆候は見られないとしつつも、状況は「予測不可能」とした」

     

    ポールオブビューティー
       

    中国は、NATO(北大西洋条約機構)、G7(7ヶ国首脳会議)、EU(欧州連合)から、ロシアを経済的・軍事的に支援しないように釘を刺されて白眼視されている。侵略戦争を非難しないのは、中国外交の基本である「平和五原則」に違反する行為である。

     

    だが、ロシアと共に米国の支配する世界秩序へ反旗を翻している手前、ロシア批判をできないというジレンマ立たされている。その孤立感を癒やすべく、中堅国との接触で「同情」を求めようという狙いである。

     


    『日本経済新聞 電子版』(3月30日付)は、「中国、孤立回避へ積極外交 ロシアとの協調を確認」と題する記事を掲載した。

     

    米中首脳が3月18日にオンライン形式の首脳協議を開いた後、中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相がアジア、アフリカ諸国などの外相や首脳と会談や協議を重ねている。ウクライナに侵攻したロシアに対する米欧の制裁に同調する動きを抑えるとともに、対ロ協調の中国が国際社会で孤立しないよう働きかける。

     

    (1)「王氏は30日、中国を訪問したロシアのラブロフ外相と会談し、両国が戦略的パートナー関係の強化を続けていくことで一致した。タス通信によると、ロシア外務省が30日発表した。会談でラブロフ氏は、同様な立場の国々と連携して「多極的で公正、民主的な世界秩序」を構築すべきだと訴えた。王氏は、「関係発展の意欲は一段と強まっている」と話した」

     


    中国は、深い関係にあるウクライナを侵略したロシアを非難しないで、ロシアと戦略的パートナー関係を強化すると他人事のような発言をしている。中国も、ロシアと同じ穴の狢(むじな)であることを証明している。

     

    (2)「2月下旬のウクライナ侵攻開始後、ラブロフ氏の訪中は初めて。ラブロフ氏は、王氏が31日までの2日間、中国・安徽省で主催するアフガニスタン情勢を巡る関係国の外相会合に参加する。会合にはパキスタン、イランなども加わる。中国外務省の汪文斌副報道局長は30日の記者会見で「中ロの協力には上限がない」と指摘した。ロシアのウクライナ侵攻については「両国が話し合いを続け、平和に至ることを支持する」と述べ、これまでの中国の主張を繰り返した。31日から4月3日にかけてはインドネシア、タイ、フィリピン、ミャンマーの外相がそれぞれ訪中し、王氏と会談する。4日にはパナマ外相が中国を訪れる予定だ」

     

    中国の王毅外相は、「狂った」ように短期間の間に25ヶ国の外相と会談するという。ロシアを非難しない「言い分け」の行脚であろう。中国は、これまで「平和五原則」で平和論を得意げに発言してきた。それを取り繕うのであろう。

     


    (3)「18日の米中協議後、4月上旬までの2週間あまりで、王氏は少なくとも計25カ国・地域の外相らと会談や協議をすることになる見通しだ。相手はアジア、アフリカ諸国が目立つ。米欧や日本ほどロシア非難には傾いていないため、中国が関与しやすい「空白」地帯に映るようだ。25カ国・地域のうち、2日の国連総会でロシアを非難する決議を棄権したのは、パキスタン、イラン、タジキスタンなど6カ国にのぼる」

     

    王毅氏は、アジア・アフリカを相手にして中国の宣伝をするのだろう。21世紀の今日、侵略戦争を肯定する国は少ない。ましてや、国連の常任理事国のロシアによる侵略である。百万言を費やしても弁解は不可能だ。

     

    (4)「王氏は外相らの大半と実際に対面で話している。3月下旬にはパキスタン、ネパールとあわせて領有権問題を抱えるインドも訪問した。インドは、米国がインド太平洋地域で中国をけん制するため、オーストラリア、日本とともに設けた4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」の一員だ。米国主導の中国包囲網にくさびを打ち込むとともに、ロシアとウクライナに停戦と対話の継続を促した。フィリピンやインドネシアも米中のはざまでバランスを保ってきた。こうした国々に近づき、米欧日の陣営に取り込まれないようにする狙いだ」

     

    中国は、無駄なことをやっている。日米欧に対抗しようということ自体が自惚れている。日米欧が、ロシアと中国を一括りにして警戒対象にしている以上、中国が浮き上がる可能性はそれだけ低下する。

     

    (5)「ロシアに寄り添うことで、中国が国際社会で孤立する事態を避ける考えもある。中国の習近平(シー・ジンピン)指導部はウクライナに侵攻したロシアを非難せず、同国への経済制裁には一貫して反対する。米国との長期の対立を見通す中国にとって、ロシアは重要なパートナーだ。ウクライナ侵攻は支持しないが、これを理由に関係を悪化させたくはない。同時に「中ロ結託」を非難されることで米欧との亀裂を深めたいとも考えない。こうした思惑が透ける」

     

    中国が、ロシアという無法国家と手を結べば、それだけでマイナス・イメージになる。ロシア経済は、これから確実に沈没する運命だ。中国は、その沈没する船に乗り込もうというのである。

     


    (6)「中国共産党の関係者によると、国内ではロシアの侵攻計画を正確に見通せなかったとの理由で王氏が責任者の一人である外交当局への批判が出ている。この秋には共産党幹部の人事を決める5年に1度の党大会が予定される。王氏の積極外交について「失態を挽回しようと焦っているのではないか」とみる党関係者もいる。中ロは「内政不干渉」を掲げ、人権などを巡る米欧の批判に共闘してきた。国際社会でロシアが居場所を失えば、中国の孤立が深まるという危機感が同国にはある」

     

    中国は、明らかにロシアに利用されている。だが、中ロは米国覇権を倒そうという共通目標を持っている。中国としてはロシアに利用されたが、そうかといって突き放せない関係だ。「悪女の深情け」というところか。

     

     

     

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    中国の新型コロナウイルス感染で、経済都市・上海が麻痺状態に陥っている。このため、株式上場申請手続きが大幅に遅れる事態を招いている。資産査定や情報収集が難しくなっていることが背景だ。推定で90億ドルの資金調達に支障が出ている。『ロイター』(3月30日付)が報じた。

     

    過去1週間では、15社が上海証券取引所の「科創板(スター・マーケット)」への上場申請を停止。ほぼ全ての企業が新型コロナの影響を理由に挙げた。上海市は3月28日からロックダウン(都市封鎖)を開始している。

     


    『ロイター』(3月30日付)は、「上海の都市封鎖、一部区域で前倒し 新規感染6000人に迫る」と題する記事を掲載した。

     

    中国・上海市は3月30日、市の東側で28日に開始したロックダウン(都市封鎖)を予定より早く、西側の一部区域に拡大した。市内の新規感染者が5982人に増えたことを受けた。

     

    (1)「都市封鎖は同市を流れる黄浦江にほぼ沿って市内を2地区に分け、東部は28日から来月1日まで、西部は4月1日から5日まで実施する予定となっていた。封鎖期間中は全市民にPCR検査を行う。しかし、南西部の閔行区は29日遅く、4月5日まで公共バスの運行を停止すると発表した。また市西側の住民の中には、コロナ抑制や近隣住民が濃厚接触者になったなどの理由で今後7日間、集合住宅の敷地外に出ることを禁止するという通知を地域の住宅委員会から受け取った」

     


    上海市で3月29日に確認された新規感染者は、無症状者が5656人と過去最多を更新。有症状者は326人となった。前日は無症状者4381人、有症状者96人だったので、爆発的な増加に見舞われている。

     

    上海市西側では今後7日間、集合住宅の敷地外に出ることを禁止される地域まで出てきた。こうした厳しいロックダウンが、経済活動に与える影響は大きい。

     

    『ブルームバーグ』(3月28日付)は、「中国、コロナ感染拡大で2020年春以来最悪の成長鈍化に直面か」と題する記事を掲載した。

     

    野村ホールディングスは、中国経済が新型コロナウイルス感染拡大の第1波に見舞われた2020年春以来最悪の下押し圧力に直面しているとの見方を明らかにした。

     

    (2)「同社の陸挺氏らエコノミストは26日のリポートで、中国の成長率が1~3月(第1四半期)に減速が加速し、4~6月(第2四半期)にさらに減速する可能性を市場は懸念する必要があると指摘。3月の経済活動は全国的な移動制限強化や不動産セクターの継続的な落ち込みが重石となり、「全体的に著しく悪化する公算がある」としている」

     

    この1~3月のGDP成長率は、昨年10~12月よりも減速する。4~6月には、さらに減速幅が拡大する見通しだ。ロックダウンの影響と不動産販売の不調が重なる。

     


    (3)「新型コロナ感染拡大が対面サービスや建設、一部の製造業の活動など幅広い分野を抑制していることを踏まえると、中国が「22年の国内総生産(GDP)成長率目標である5.5%を達成することはますます難しくなっている」と、エコノミストは指摘した。野村ホールディングスは、新型コロナ感染拡大の状況が悪化していることを理由に、中国の4~12月の成長率見通しを下方修正。1~3月の成長率見通しを4.2%に上方修正したものの、従来予想の2.9%は「経済状況の実態」をかなり反映している可能性があると指摘した」

     

    中国政府が、目標とする22年成長率5.5%前後の達成は、一段と困難となってきた。

     

    (4)「1~3月の成長率見通しの上方修正は、1~2月の公式統計が予想を上回り堅調だったことが背景。同社の22年通年の成長率予想は4.3%で、変更には至っていない」

     

    野村は、1~3月を4.2%成長と見込むが、4~6月はさらに減速すると予測。今年の通年では4.3%と低成長予想である。政府予想の5.5%前後から見れば、相当な低成長になろう。

     

    『ロイター』(3月30日付)は、「中国大手行、厳しいビジネス環境予想 コロナ再燃や不動産業界混乱」と題する記事を掲載した。

     

    中国の大手銀行3行は、今年国内の金融機関は、新型コロナウイルスの感染拡大や世界の政治情勢の影響、国内不動産業界の混乱など複数の逆風に直面するとの見方を示した。

     


    (5)「資産規模で国内第2位の中国建設銀行は29日、中国の銀行業界は「より複雑で厳しいビジネス環境」に直面していると明らかにした。4位の中国銀行も29日、「世界的な疫病が再発し、先進国の緩和策が解除され、地政学的な対立が激化する」としている。中国交通銀行トップは18日、今年は満足できる収益を上げるのは難しいとの見方を示した。中国では、複数都市で新型コロナの感染が再拡大し、部分的もしくは全面的なロックダウン(都市封鎖)措置が導入されている。アナリストはコロナ関連規制が景気の足かせになると指摘する」

     

    中国国有銀行上位行が、そろって経済の悪化を予想している。上海などビジネス都市の感染拡大が経済に影響するもの。香港中文大学の研究チームは、都市封鎖措置によって1カ月当たり460億ドル(約5兆6249億円)以上の経済的コストが生じるとの予測を発表した。GDPの3.1%に当たる規模だ。研究チームは、中国国内のトラック200万台の位置情報データを用い、中国GDPの20%を生み出す都市で都市封鎖を実施するとの想定で分析を行った結果である。『ブルームバーグ』が3月29日に報じた。

     


    経済都市が、ロックダウンする場合の影響が、1ヶ月で
    GDPの3.1%に相当するという。こういう影響力の大きさから、世界の原油相場にまでその影が広がっている。

     

    『ブルームバーグ』(3月29日付)は、「原油先物が下落、中国コロナ再拡大で世界需要への懸念強まる」と題する記事を掲載した。

     

    アジア時間29日午前の原油先物相場は下落。前日値下がりした流れが止まらない。中国での新型コロナウイルス感染再拡大で世界需要への懸念が強まった。

     

    (6)「世界最大の原油輸入国である中国でのコロナ感染は、2年以上前の武漢での拡大局面以来、最悪の状況に見舞われ、感染力の強いオミクロン変異株が同国の「ゼロコロナ」政策を試している」

     

    米国の原油価格は、3月初めに1バレル=123.70ドルまで上げたが、3月30日13時(現地時間)現在、106.76ドルと約14%の下落である。中国の都市封鎖による経済減速を警戒している結果だ。中国経済は正念場を迎えている。

     

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    露のウクライナ侵略理由

    中ロ朝一体化する危険性

    中国は露と関係強化狙う

    中ロに利用された文外交

     

    今年1月まで、韓国の文大統領は、朝鮮戦争の「終戦宣言」を主張してきた。南北交流促進には、これがぜひとも必要という立場である。北朝鮮が、着々と核やミサイルの開発を続けていることを知りながらの提案だ。これに対して、そのような環境が整っていないので、米国や日本は反対した。ロシアによるウクライナ侵略の厳しい現実を見れば、文氏の外交感覚はいかに現実離れしているかが分る。大学生並の理想論である。

     


    2月24日、ロシアのウクライナ侵略が始まり、中国は暗黙の承認を与えて国連安全保障理事会で「戦争反対」の意思表示をしなかった。「棄権」に回ったのだ。さらに、北朝鮮によるミサイル発射実験に対し米国の制裁強化案に対し、中ロが揃って反対に回った。ここに、中ロ朝三ヶ国は世界秩序挑戦で歩調を合わせていることが明らかになった。

     

    こうした事態の変化を受けて、韓国の安全保証問題がにわかにクローズアップされている。「終戦宣言」問題どころでなく、朝鮮戦争を始めた「悪役三国」(旧ソ連・中国・北朝鮮)がそろい踏みで再登場してきたのである。

     


    文大統領は、北朝鮮の軍事的な暴走を食止めるに、中国やロシアの「ブレーキ」役に期待してきた。だから、文政権は中ロのなかでも中国に対して「平身低頭」する屈辱外交を続けた。具体的には、後で取り上げる「三不政策」である。韓国の自主防衛権を半ば、中国へ移譲するような独立国にあるまじきことを行なったのだ。

     

    露のウクライナ侵略理由

    ロシアのウクライナ戦争によって、中ロ朝の悪役三国の存在が今なお、韓国の安全保障にとって危険な存在であることを立証した。それは、ロシアによるウクライナ侵略の理屈付けの中に明らかにされている。

     

    1)ロシアは、ウクライナやベラルーシーとともにスラブ民族であり統一されて当然である。

    2)ウクライナが、NATO(北大西洋条約機構)へ加盟することは、ロシアの安全保障上において重大な懸念要因となる。

    3)ウクライナ政権は、ネオナチズムであるから打倒すべきである。

     


    ウクライナ政府は、民主的手続きによって選ばれた政権である。その政権に対して、ロシアが勝手な理屈をつけて侵略戦争を仕掛けるとは、21世紀の現在において許される行為ではない。こうした不法行為に対して、中国は「反対」の意志を示さずヌエ的な行為である「棄権」で逃げたのだ。この振る舞いを見ると、北朝鮮が韓国へ攻め込んできても、北朝鮮の行動を抑制する期待はゼロであろう。むしろ、朝鮮戦争時と同様に、後に参戦する危険性さえある。

     

    ロシアが、ウクライナへ侵攻した「屁理屈」は、朝鮮戦争時と全く同じであることに気付くべきである。それは、次のような理由である。

     

    1)南北朝鮮は朝鮮民族であり、第二次世界大戦の結果、無理矢理に分割統治された。

    2)韓国が米国の占領下で右傾化しており、北朝鮮の安全保障に重大な懸念をもたらす。

    3)韓国政府は、米帝国主義に隷属しているから打倒されるべきである。

     


    前記の要因は、現在の韓国政府の外交方針の基底とも繋がっている。米国を暗黙裏に「帝国主義」と位置づけ、中ロ朝は人民の利益を基本とする「民主勢力」と評価しているのだ。文大統領が、はじめて中国を訪問した際の挨拶は、国辱ものと言われるほど、中国を宗主国として崇める内容であった。韓国進歩派が、リベラル主義でなく民族保守主義である、と見る私の見解には、こういう背景があるのだ。

     

    中ロ朝一体化する危険性

    中ロ朝に共通しているのは、「反米主義」である。米国を中心とする世界秩序を破壊して、権威主義(全体主義=ファシズム)によって世界秩序を再編成したいという野望が突出している。だが、経済基盤は全くの脆弱である。とても、西側諸国を圧倒するほどの能力がないのだ。それゆえ、焦りが生まれて暴走する危険性が高まる。ウクライナ侵略は、そういう一面を現したと言える。

     


    欧州では、ロシアの侵略的危険性を10年以上にわたり警鐘を鳴らしてきた国がある。それは現在、ウクライナ避難民の受入れ口になっているポーランドだ。NATO(北大西洋条約機構)において、ロシアの危険性を訴えてきたが、どこの国もそれをまともに取り上げようとしなかった。ウクライナ侵攻によって初めて、ポーランの主張がいかに正しかったかを、嫌と言うほど知らされた国がドイツである。

     

    ポーランドは、長い歴史の中で得たロシアの帝国主義に、何回も苦しめられた経験を持っている。それが、ロシア警戒論の基本にある。

     

    ポーランドやバルト三国にとって、ロシアへの警戒感はロシアの侵略と戦ってきた歴史から生まれたものである。ロシア帝国は、1790年代にポーランドの一部を併合した。ポーランドが完全な独立国となったのは、第1次世界大戦後のことである。その直後、ソ連赤軍の侵攻を受けたものの、何とか反撃し、ロシア革命が西に広がるのを阻止した。

    (つづく)

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    ロシアとウクライナの停戦交渉が、トルコで行なわれた。ロシアは、大いに成果があったと宣戦しているが、ウクライナは慎重である。ロシアによる「罠」でないかと警戒されている。

     

    ロシアのフォミン国防次官は29日、ウクライナの首都キエフと北部チェルニヒウ近郊における軍事活動を大幅に縮小すると発表した。フォミン次官は交渉終了後、「相互信頼を高め、さらなる交渉や合意書に署名するという最終的な目標達成に必要な条件を整えるため」、軍事活動を決定したと語った。ただ、ロシア軍が大規模な攻撃を展開しているウクライナ東部や南部については言及しなかった。この点が、「罠」説を裏付けている。

     

    ロシアは、首都キエフと北部チェルニヒフの周辺での軍事作戦を縮小すると発表した。だが、ロシア軍のキエフ進撃はすでに停滞していた。また、これまでの外交努力や人道回廊などの提案はほとんど成果が出ていないか、失敗に終わっている。

     


    両国の交渉終了後、ブリンケン米国務長官は訪問先のモロッコで記者団に対し、「ロシアが言うことと行うことは別だ。米国は後者を注視している」と述べ、戦争のエスカレート抑制に向けてロシアが「実際に真剣になっている兆しは見られていない」と指摘した。交渉中も戦闘は続き、交渉団が記者会見する間もウクライナ全土では空襲警報が鳴り響いた。

     

    『ブルームバーグ』(3月30日付)は、「キエフ周辺でのロシア軍活動縮小は限定的な公算大、戦術的な意図も」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアが29日、ウクライナ北部での軍事活動を「根本的に縮小する」と表明したことを受け、停戦合意への期待から原油価格が下落し株式相場は上昇した。ただ、慎重になるべき理由はなお大きい。

     

    (1)「ロシアの代表団を率いるメジンスキー大統領補佐官がトルコのイスタンブールで行われた停戦協議で、段階的な緊張緩和のためウクライナの首都キエフと北部チェルニヒウでの軍事活動を減らす決定を伝えた。ただ、これには戦術的な面もありそうだ。ウクライナ軍はロシア側に打撃を与え、キエフ周辺の一部地域を奪還していた。また、ロシア軍司令官も軍事作戦をウクライナ東部に集中させる方針を表明済みだった。南東部マリウポリでは、制圧に向けたロシア軍の激しい攻撃が最終段階にあるとみられている」

     


    ロシアの「狡さ」がよく現れている。形勢不利なキエフ付近ではあたかも意図的な「戦線縮小」と発言している。これをもって停戦交渉の条件にしているからだ。南東部マリウポリでは、依然として「皆殺し作戦」を展開中である。

     

    (2)「段階的な緊張緩和は、停戦やキエフ周辺からのロシア軍の完全な撤退を意味しないと、ロシア大統領府に近い関係者1人は指摘した。またロシア側は、ウクライナが受け入れる可能性が低い大幅な譲歩をなお迫っている。ウクライナのゼレンスキー大統領の顧問を務めるアレクサンドル・ロドニャンスキー氏は、停戦協議後にブルームバーグテレビジョンに対し、「市場がこれほど強く反応したことにはある程度当惑した」と語り、ロシアを「本当に交渉のテーブルにつかせる唯一のことは、戦地でのウクライナの成功と制裁を通じたさらなる経済的圧力だ」と指摘した

     

    ロシアが無条件で停戦交渉に応じさせるには、下線のようにロシアを軍事的・経済的に追い込まなければならない。ロシアは、無条件降伏を狙っている。

     


    (3)「
    米当局者や軍事アナリストも懐疑的な姿勢を示しているモスクワ在勤の政治コンサルタント、エフゲニー・ミンチェンコ氏は「イスタンブールでの協議後に双方が語ったことについて、極めて深刻な誤解があると思う」と説明。「私がこれまでに耳にしたのは、キエフとチェルニヒウの周辺で活動が減るということだけだ。これはロシア軍がドンバス地方でのウクライナ軍への攻撃にリソースを集中させるためだ」と語った」

     

    ロシアは、ウクライナ東部での勝利を目指しており、そのためキエフ付近の軍事力を東部へ向ける戦術であろう。 


     
    (4)「ロシア大統領府の考え方に詳しい関係者1人によると、ロシアの現在の目標は、東部のルガンスク、ドネツク全体を制圧し、ロシア国境から2014年に併合したクリミア半島に通じる回廊地帯を奪うことである公算が大きい。それには、国際的にウクライナ領土と認められている地域の約20%を恒久的に失うことを同国に受け入れさせる必要がある。ロシア側はウクライナの中立性、一部地域でのロシア軍駐留、国内軍事インフラを査察する権利なども要求するだろうと同関係者は指摘した

     
    侵略戦争を始めたのはロシアである。簡単に引き下がるはずがない。現在の停戦交渉は、ウクライナの戦意を図っているに違いない。


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