ロシア中央銀行は、4月5日に期限のきた国債元利金支払いで「ルーブル払い」を強行したが、ついにドル払いへ転換した。これで、デフォルトという最悪事態を免れる。方針転換した裏には、制裁によってロシア経済が急速に悪化している事情がある。ダブルパンチを回避するには、契約通りの「ドル払い」しか道がなかったのであろう。
格付け会社は、上記のロシア国債は契約違反として「潜在的デフォルト」扱いになっている。5月4日までにドル払いとならなければ、最終的な「デフォルト」が決定するところだった。
『ロイター』(4月29日付)は、「ロシア、ドル建て債の支払いをドルで実施 デフォルト回避か」と題する記事を掲載した。
ロシア財務省は29日、これまで自国通貨ルーブルで行うとしていたドル建て債の支払いをドルで行ったと明らかにした。デフォルト(債務不履行)回避に向けた動きとみられる。
(1)「財務省は2022年満期債券について5億6480万ドル、24年満期債券について8440万ドルの支払いをドルで行ったとし、資金はシティバンクのロンドン支店に送られたと明らかにした。両債券の支払い期日は過ぎているが、30日の猶予期間が設定されているため、最終的な期日は5月4日になっている。米政府高官は、ロシアが米国で凍結された外貨準備金を使わずに支払いを行ったと確認しつつも、資金の明確な出所は不明と述べた」
ロシアは、意地を張って合計6億4920万ドルの支払いをルーブル払いにする損失が、今後のロシア経済に大きな痛手になることを認めた形だ。ひたひたと迫りくる経済制裁による黒い影に、ロシア当局が音を上げたものであろう。
『日本経済新聞』(4月30日付)は、「ロシア、制裁で傷む経済 3月製造業生産マイナス」と題する記事を掲載した。
ウクライナ侵攻をめぐり米欧から制裁を受けるロシアで、実体経済の傷みが目立ってきた。禁輸措置などのあおりを受け、3月の製造業の生産指数は前年同月比で1年1カ月ぶりにマイナスに転じた。ロシア中央銀行は2回連続の利下げを決めたが、インフレ懸念から大胆な金融緩和には踏み切れない。ロシア経済の冷え込みが続けば、軍事作戦継続への影響が出そうだ。
(2)「ロシア中銀は29日、政策金利を17%から14%へと引き下げると決めた。5月4日から実施する。利下げ発表は4月8日に続き2回連続。声明では利下げの背景として「企業は生産や物流面で相当な困難に直面している」と指摘した。制裁の影響を見えにくくするため、ロシア政府は原油生産量など一部の経済統計の発表を取りやめている。それでも入手可能なデータの分析からは、同国経済の苦境が垣間見える。世界銀行は2022年のロシアの経済成長率を前年比マイナス11%と見込む。国内景気の悪化と外貨収入の減少、インフレに手足を縛られる金融政策という三重苦になっている」
ロシア中銀は、4月に2回もの政策金利引下げを発表した。20%から14%へとつごう6ポイントの引き下げだ。それでも異常な高さである。設備投資への刺激期待はゼロであろう。
(3)「一例が鉱工業生産指数で、3月は3%増と2月(6.3%増)から勢いが鈍った。鈍化の主因は製造業だ。2月の6.9%増から一転、3月は0.3%減だった。自動車関連は45.5%低下し、電気機器やたばこも10%以上下がった。「外資撤退や部品不足による生産減が顕著に表れてきた」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介副主任研究員)。2月下旬以降、欧米や日本は半導体や工作機械の輸出を停止し、ロシア産製品の輸入も禁じた。外資に頼ってきた自動車生産は特に縮小が目立つ。仏ルノーやトヨタ自動車など車各社は3月にロシアでの生産を相次ぎ止めた。欧州ビジネス協議会(AEB)によると3月のロシアの新車販売台数は前年同月比63%減った」
経済制裁による影響は大きい。鉱工業生産指数は、2月の6.3%増が3月は3%増と半分に鈍化した。4月以降はマイナスに転じるであろう。外資撤退や部品不足が顕著になっているからだ。原油・天然ガスの輸出減少も痛手である。
(4)「雇用への影響は深刻だ。米エール大経営大学院によればロシア事業の停止や縮小を表明した企業は750社以上。モスクワ市長は同市の外国企業で働く「約20万人が職を失う恐れがある」とブログに投稿した。
外資による事業停止や縮小、撤退などによって約20万人が失業の危機を迎える。外資による雇用は100万人以上とされている。
(5)「主力産業である石油や天然ガスなど鉱業は7.8%増と堅調さを保っており、鉱工業生産指数全体ではプラス圏を維持した。欧州などはエネルギーをロシアに依存し、禁輸に踏み切れていない。ただし直近では消費者からの批判を懸念して、商社などがロシア産原油を自主的に回避する動きがじわりと広がる。国際エネルギー機関(IEA)は、ロシア産の石油供給が5月以降日量300万バレル減るとの見方を示す。輸出量の4割に相当する。主に欧州向けに輸出されるロシア産原油は需要鈍化のせいで国際価格に比べて約3割安で取引されている」
IEAの予測では、5月以降の原油生産が日量300万バレルの減少である。これは、約3割減と大幅なダウンである。5~6月積み出しの原油入札では、応札がゼロという深刻な事態だ。価格も国際市況の3割安と不利な状況に追い込まれている。状況に精通していない向きでは、国際市況を基にしてロシアの原油収入は大幅増と言っているが、そういう甘い期待を持つべきでない。
(6)「国際金融協会(IIF)の分析では、原油・石油製品・天然ガスが、ロシアの輸出の5~6割、財政収入の25%を占める。「輸出や生産が落ち込めば財政への打撃は大きく、支出削減を迫られる可能性がある」(IIF)」
一説では、原油・石油製品・天然ガスが財政収入の45%としている。これが落込めば、ロシア経済に痛手は当然である。戦争継続上も負担が増大する。今年の歳入不足分は、国債発行に依存せず、ファンドからの借入れで賄う方針だ。財政相がすでに発表している。