勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年04月

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    習近平氏は、今年の経済成長率について米国を抜けと無理な要求を出している。この実現を巡って国務院(政府)で意見の対立が起こっているのだ。緩和派(習側近)と慎重派が綱引きをしているのだ。中国経済は、不動産バブルの後遺症の上に、さらにロックダウンによる経済停滞が重なっている。

     

    経済政策の手直しを求める緩和派も利下げすれば、米中金利差が拡大して人民元の下落を懸念する。要するに、本格的な緩和策でなく、住宅金融を少々、緩める程度の話なのだ。これに対して、慎重派はバブル再燃に繋がると警戒する。いわば、コップの中の「対立」程度のこと。追詰められる中国経済に、実現可能な政策は極めて限られている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月27日付)は、「中国指導部、不動産市場の規制巡り意見対立」と題する記事を掲載した。

     

    中国の政府高官や政策顧問らによると、劉鶴(リュウ・ハァ)副首相率いる規制機関は、不動産市場の締め付けや上海などの都市での新型コロナウイルス封じ込めのロックダウン(都市封鎖)が経済に与える影響を政府が過小評価していると懸念している。しかし、他の政府幹部は同副首相が不動産市場への圧力を緩和させようとしていることに反対している。北京の政府高官や政策顧問6人が『フィナンシャル・タイムズ』(FT)紙に明らかにした。劉副首相は長期にわたって、習近平国家主席の金融経済アドバイザーを務めている。

     

    (1)「中国政府内の政策を巡る意見対立は、同国が難しい選択に直面していることを浮き彫りにしている。中国のGDPは2022年1~3月期に前年同期比で4.%増えた。しかし、3月の小売売上高が3.%減少したことから、コロナでの規制が既に不動産市場低迷の影響を受けている経済を一段と鈍らせていることがうかがえる。4月26日の国営メディアの報道によると、習氏は重要インフラ部門への幅広い投資を加速するよう呼びかけたが、その金額や時期については明言しなかった」

     

    習氏は、米国に負けない経済成長率を実現せよと命令しているが具体策はない。名案がないから、政策実施部隊は悩んでいる。

     


    (2)「劉副首相は、中央銀行と銀行・証券などの規制当局の間に立って政策を調整する有力な委員会を率いている。同氏は、不動産購入に関する規制を緩めた多くの地方政府による最近の動きを支持している。しかし、政府高官や政策顧問らによると、他の2人の副首相、韓正氏と胡春華氏は住宅都市農村建設省を支持し、開発業者がプロジェクトで得られた収入の使い道を厳しく制限することで、業者への圧力を維持したい考えだという」

     

    3人の副首相が、1対2で意見が分かれている。不動産金融を緩めることに2人の副首相が慎重である。

     


    (3)「劉副首相が率いる金融安定発展委員会は、負債を抱えた開発業者にもっと自由を与え、住宅購入者からの前払いで得た収入を有効活用できるようにしたい考えだ。地方政府はこの1年、業者が得た収入は関係するプロジェクトの完成のためだけに利用できるよう、使用目的を限定してきた。劉氏と懸念を共有する政府顧問は、「銀行や債券投資家などの貸し手はすでに、開発業者に返済期限の延長を認めることが普通になっている」と指摘する。「このまま不動産業界が弱体化し続けると、不良債権が急増し、金融業界全体が行き詰まることになりかねない」とこの顧問は話す

     

    不動産金融緩和の根拠は、不動産業界が金融的に追詰められていると指摘する。住宅ローンなどを緩和して、在庫物件を売却し易くする。これによって、不動産業界の不良債権急増を防ぐ、としている。

     


    (4)「韓氏と胡氏の支持者は、ほとんどが国有である中国の銀行業界が打撃を受ける恐れがあるというのは大げさだと主張する。そのうちの1人は「全ての銀行が行き詰まるわけではない。健全な銀行が苦境に陥った銀行を救済すればいい」と話す。劉氏が長く、経済・金融面で中国最強の高官だとみなされている一方、韓氏は3人の副首相の中で最高位にある。韓氏は中国共産党の最高指導機関である中央政治局常務委員会の委員であり、来年任期満了で退任する李克強(リー・クォーチャン)首相の後任として最有力候補とみられている」

     

    不動産金融緩和への反対派は、銀行のメインが国有銀行であって、不良債権により行き詰まる懸念はない、としている。仮に問題銀行が発生したならば、その都度、救済すれば済むと反論する。

     


    (5)「パンデミック(世界的流行)が始まって以来、最悪の経済状況と将来展望に直面していながら、金融当局は過去数週間、控えめな緩和しかしていない。劉副首相と中国人民銀行の易綱総裁は、広範囲にわたる金利引き下げに慎重だ。この両者は、金利引き下げによって過去5年で安定しつつある債務の対GDP比率に影響が出るのを懸念している。また、米国の金利が久しぶりに中国の金利を上回っている現状で中国が金利を引き下げれば人民元の下落につながり、資本逃避が進む可能性があることを憂慮している

     

    不思議なのは、金融緩和派が政策金利引下げに反対していることだ。米中金利差拡大が、人民元相場の急落を招くと懸念する。要するに、極めて狭いレンジでの金融操作しかできないのである。これこそ、中国経済が絶体絶命の危機にあり、綱わたりを迫られている事実を浮き彫りにしている。

     

    (6)「易人民銀行総裁の側近の1人は、「劉氏と易氏はバブルの再燃を恐れている」と話す。「両氏は、必要としている人に資金を回したいと考えているが、それを幅広い政策ではない方法(預金準備率の引き下げや狙いを定めた融資基準)で達成できるとみている」という。

     

    中国の金融緩和は、預金準備率の引下げしかできない事態に追い込まれている。政策金利引き下げに手を付ければ、人民元下落に繋がる。中国経済へ重大な影響が出るのだ。


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    インドは、インド太平洋戦略「クアッド」で日米豪と共にその一角を形成している。中国の対外膨張主義へのストッパー役である。このインドが、ウクライナ危機では「クアッド」メンバー国と共同歩調を取らず、ロシアへ親近感を見せている。この奇異な光景に、誰でも疑問を持つが、この背景には「対ロ信頼、対米不信」の歴史があるのだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月27日付)は、「ウクライナ危機中立のインド、対露信頼と対米不信」と題する記事を掲載した。

     

    次々とニューデリーを訪れた米当局者らは、ロシア政府を孤立させる取り組みにインドも加わるよう説得した。だが、傍観者の立場を変えるべきだと納得させるのは難しかった。インドは今回のウクライナ戦争で中立姿勢を維持しており、ロシアの行為に対する国連非難決議の投票で棄権に回り、対ロ制裁への参加も拒否している。インドのこうした姿勢はある意味、必要に迫られたものでもある。ロシアが、インドに対する最大の武器供給国だからだ。

     


    (1)「
    2020年に領土問題でもめる国境地帯で中国との衝突が起き、インド人20人、中国兵士4人が死亡した際には、インドの国防相が3カ月間で2回モスクワを訪問した。当時の状況を直接知る当局者によれば、この訪問の目的の一つは、武器弾薬を追加で確保し、国境地帯の防備を強化することだったという。これを受けてロシアは、ミサイル、戦車部品、その他の兵器をインドに追加供与した。イデラバードのカウティリヤ・公共政策大学の学部長で、元インド国連常駐代表のサイード・アクバルディン氏は「多くの人々は、インドが危機に瀕した際にロシアとの友好関係がインドの利益に貢献したと信じている」と語った」

     

    インドは、国境問題で中国と長年にわたり対立し衝突を重ねている。国境を守るには武器が不可欠であり、ロシアがその武器供給で重要な役割を果たしてきた。ロシアへの「恩義」があるのだ。

     


    (2)「インドは何十億ドルもの資金を費やしてロシアから武器を購入しており、ロシアは何十年にもわたってインドにとって最大の武器の供給元となっている。インドは供給元を多様化する取り組みを行っているものの、2016年~2020年に輸入された武器の50%近くは、依然としてロシアから来たものだ」

     

    インドは、ロシアの武器輸出国構成比(2010~21年)で33.8%と1位である。2位の中国(13.5%)を大きく引離している。ロシアにとっても、インドは最大の顧客になっている。インドとロシアは、持ちつ持たれつの関係だ。

     


    (3)「米当局者は、(ウクライナ)開戦以降続いているインドとの協議で前進していると指摘し、モディ氏が最近、ウクライナのブチャでの市民の殺害を非難する発言をしたことを例に挙げた。それでもなお、一部の米当局者は時々、インドがロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対する一段と強い非難を渋っていることに対して不満を示している。インド当局者は、米国がウクライナについてインドに説教をするようなことになれば、インドの米国に対する懐疑的な見方は一段と強まると述べている」

     

    米国は、インドもロシアを非難してくれるものと期待していたが、武器の購入関係を見ると、深いつながりがある。武器=安全保障である以上、性急に「反ロシア」になるのは無理であろう。実は、ロシアの武器輸出国は45ヶ国に上がっている。これら国々は、表だってロシア批判できない事情にある。その代表がインドだ。中国もこの範疇に入る。

     

    (4)「カーネギー国際平和基金に所属するアジア地政学の専門家、アシュリー・J・テリス氏は、「インドの人々は常に、ロシアの人々から尊敬され、支えられてきたように感じてきた。その一方で、われわれ(米国人)は威圧的な態度を取りがちだ」と述べる。現旧のインド当局者の多くは今も、米国がインドを不当に扱ったと感じられた歴史上の瞬間を容易に列挙できる。1960年代には、ガンジー首相によるベトナム戦争への米国批判に対して食糧支援で報復したこと。1971年には、インド・パキスタン戦争で、米国がパキスタンを支援したこと。1998年には、米国が核実験の実施を理由にインドに制裁を科したことだ」

     

    下線部分は重要である。国際関係は、尊敬されているという実感が友好の裏付けになる。ロシアは、インドが武器輸出で最大の顧客である。丁重に扱って当然であろう。

     


    (5)「バイデン政権当局者はインドの当局者に対し、インドと中国の国境周辺での紛争に関し、米国の方が兵器供給国として信頼性が高いことを納得させようと努めてきている。ウクライナでの戦争は、ロシアの軍事装備が信頼できないことを示しているほか、ウクライナの戦場で装備を消耗し、自国の軍事備蓄を補充しなければならないためロシアは間もなく供給不足に陥る可能性がある、と米当局者らは指摘する。同当局者らはまた、西側の制裁によりロシアは先端兵器システム向けの部品を確保できなくなるだろうと述べた」

     

    ロシアは、遅くも来年には経済制裁で軍需品の生産がストップする筈だ。武器弾薬は、演習による消耗で部品など補給しなければならない。ロシアは、その部品供給が不可能になる時期が近い。ロシアから武器を購入している国は、大変な事態が発生するであろう。

     


    (6)「ボリス・ジョンソン英首相は4月22日にインドを訪問した際、インドへの武器輸出の促進、インドが自国の防衛装備品を製造するのを支援するための専門技術の共有化を図ることを約束した。あるインド当局者によると、同国政府はハードウエアおよび武器の供給拡大に関する米国の提案を検討しているものの、高額なコスト、技術移転に米企業が消極的なことから協議は進んでいない。米国務省当局者によれば、協議にはインドが購入できるようにする目的で米国の余剰防衛装備品を活用することや、各種融資案などが含まれている」

     

    米英は、インドに対して軍需品問題で具体的な提案をしている。インドも、ウクライナ戦争におけるロシア軍の作戦ぶりを見て、ロシア製武器への疑念が湧くであろう。

     


    (7)「ブリンケン米国務長官は、「インドはロシアの関係を何十年にもわたって発展させてきた。この間、米国はインドにとってのパートナーとなることができなかった」と述べた。その上で同氏は、「時代は変わった。われわれは現在、インドの選択するパートナーとなり得るし、またそうなりたいと思っている」と語った」

     

    米国は、インドから選択されるようなパートナーになる、としている。インドは、クアッド・メンバー国である以上、誠実に対応する必要がある。

     

     

     

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    ロシアが、ウクライナ侵攻を始めてすでに2ヶ月を経た。ロシア軍は、当初の軍備が25%も損耗していると報じられている。一方のウクライナ軍は、NATO(北大西洋条約機構)から武器弾薬の補充を受けている。ウクライナが、相対的に有利な立場になってきたと伝えられている。

     

    こうした状況を受けて、英国外相はこれまでの慎重論から一歩出て、ウクライナからロシア軍を押し出せとまで発言するようになった。

     


    英『BBC』(4月28日付)は、「トラス英外相、ロシアを『ウクライナ全土から押し出すべき』」と題する記事を掲載した。

     

    イギリスのリズ・トラス外相は4月27日、ロシア軍を「ウクライナ全土から」押し出さなければならないと発言した。

     

    (1)「ロンドン市長の官邸「マンション・ハウス」での基調講演でトラス外相は、ウクライナの勝利は西側諸国にとって「戦略的急務」となっていると語った。イギリスはこれまで、ロシアのプーチン大統領のウクライナ侵攻を「失敗させ、そう見せる必要がある」と述べるにとどまっていた。この日のトラス氏の発言は、ウクライナでの戦争をめぐるイギリスの目標を、これまでで最も明確に示したものといえる」

     

    イギリスは、これまでウクライナ戦争について慎重な見方に立ってきた。それが、ロシア軍をウクライナから押し出せと目標を明確化した。

     


    (2)「トラス外相は、西側の同盟諸国はウクライナへの支援を「倍増」しなくてはならないと強調。「ロシアをウクライナ全土から押し出すために、これまで以上に、より早く行動し続ける」と述べた。これは、ロシア軍について、2月24日の侵攻開始以降に占領した地域だけでなく、南部クリミアや東部ドンバス地域の一部など8年前に併合した地域からも撤退すべきとの考えを示唆したものとみられる。侵攻開始から1カ月の節目に、ロシアはその目的を「ドンバスの解放」と位置付けた。ここでいうドンバスとは主に、ウクライナのルハンスクとドネツクの両州を指している。これらの地域の3分の1以上はすでに、2014年に始まった紛争で親ロシア派の武装組織が制圧している」

    ロシアが、2014年にクリミアを占領して以来、行なってきたウクライナの領土奪取に対し、すべて取り戻すという目標設定である。英国が、ここまで高い目標を掲げたのは、軍事的に可能という前提があるのだろう。ロシア軍は、それだけ弱体化しているということかも知れない。

     

    西側諸国からの経済制裁で、ロシアは軍需部品が輸入できなくなっている。遅くも来年初めには、ロシアの軍需品生産がストップする見通しという。こういう詳細な情報を積み立てていけば、ウクライナ軍に有利な展開になるのだろう。

     


    (3)「トラス氏の野心的な目標は、全ての西側諸国と共有されているわけではない。武力によってであれ交渉によってであれ、達成は難しいとの懸念があるためだ。フランスやドイツの政府関係者からは、戦争の目的を明確にすればロシアを挑発するリスクがあるという慎重な声も出ている。それらの関係者は、ウクライナ防衛という表現に絡めて話をすることを好んでいる。トラス外相の発言は、目標を高く設定することで、ウクライナが今後、交渉の場に立った際に、政治的和解についてより有利に立てるようにしたいという西側諸国の思いを反映している」

     

    英国が、仏独の慎重な言動に比べて積極的なのは、英国防省が軍事情報を収集している結果であろう。前線の詳細な動きを把握しているのだ。

     


    (4)「トラス外相はまた、西側諸国は「経済的影響力」を使って、ロシアを西側の市場から排除すべきだと述べた。「グローバル経済へのアクセスは、ルールにのっとっているかで決められるべきだ」とトラス氏は指摘した。最大野党・労働党のデイヴィッド・ラミー影の外相は27日、トラス氏の演説は、保守党政府の10年超にわたる防衛・安全保障政策の「失敗を認めたように思える」と指摘した」

     

    ロシアが、再び周辺国を侵略しないようにするには、長期にわたり経済制裁を続けることだ。軍需生産の息を止めなければ、安全保障面で周辺国は安心できないだろう。

     


    (5)「トラス氏は演説の中で、西側諸国はロシアのさらなる侵攻を防ぐための対策を講じるべきだと訴えた。これには防衛費の増額も含まれるとし、北大西洋条約機構(NATO)が各国の拠出目標として設定している国内総生産(GDP)2%という数値は「上限ではなく下限と見るべきだ」と述べた。さらに、ロシアから脅威を受けている国々に対する武器供与にも積極的な姿勢を示した。「ウクライナだけでなく、西バルカン諸国やモルドヴァ、ジョージアといった国々が、主権と自由を維持する耐久力と能力を持てるようにするべきだ」

     

    NATO諸国が、国防費を増額することも大事である。だが、根本的にはロシアの軍需産業を復活させないことだ。ロシアは、世界45ヶ国へ武器輸出している。中国はその第二位である。日本の安全保障面からも、ロシアの武器輸出を止めなければならない。

     


    (6)「スウェーデンやフィンランドがNATO加盟を選んだ場合には「迅速に統合させることが必要だ」と述べた。「ウクライナの戦争は我々の戦争、全員の戦争だ。ウクライナの勝利は、我々全員の戦略的急務になっているからだ」、「重火器、戦車、戦闘機……倉庫の奥まで探し回って、生産能力を高める必要がある。そのすべてをする必要がある」、「私たちは慢心できない。ウクライナの運命はまだ拮抗(きっこう)している。はっきりさせておきたいのは、もしプーチン大統領が成功すれば欧州全体に甚大な悲劇が起こり、世界中に恐ろしい影響が出るということだ」と指摘した」

     

    スウェーデンやフィンランドがNATOへ加盟するとなれば、ロシアがウクライナ侵攻した意味がゼロになる。21世紀の現在、ロシアのように周辺国を侵略することは、これを以て最後にすべきだ。

     

    テイカカズラ
       

    海外メディアは、ウクライへ派遣されたロシア兵の士気が低いと報じている。ロシアとウクライナでは、親戚や親、兄弟たちが別れ住んでいるケースがかなり多い。ロシアは、こういう特別地域であるウクライナへ侵攻した。ロシア兵の士気が上がらないのは「良心の証」とも言えよう。

     

    ロシア軍は、5月9日の対独戦勝記念日(祝日)のパレードに花を添えるべく、ウクライナ東部で戦果を上げたいところ。だが、実態はウクライナ軍の反撃で進撃速度は遅々としている。ロシア兵の士気の低さと、ウクライナ軍の武器弾薬強化が理由である。こうして、プーチン大統領もイライラが募っているようだ。

     


    ロシアのプーチン大統領は28日までに、ウクライナに介入する全ての国はロシアの電光石火の対応に直面するだろうと警告した。「もし何者かが(ウクライナで)進行中の出来事に外部から干渉することを意図し、我々にとって容認できない戦略的脅威をつくり出すなら、その者はそうした攻撃への我々の対応が素早く電光石火のものになると知っておくべきだ」としている。米『CNN』(4月28日付)が伝えた。

     

    ロシア軍の士気の低さを物語るのは、ウクライナ国境に近いロシア領の弾薬庫が相次いで爆発事故を起している問題である。

     


    米『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月28日付)は、「
    ロシア軍施設で火災相次ぐ、補給線に影響も」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナとの国境に近いロシアの弾薬庫で再び火災が発生した。ロシアではこのところ、ウクライナとの隣接地域にある軍施設で火災が相次ぎ発生しており、ロシア軍への補給線に支障が出る可能性がある。

     

    (1)「現場はウクライナ国境から15マイル(約24キロ)に位置するベルゴロド州の弾薬庫で、27日早朝までには火は消し止められた。ベルゴロド州のグラドコフ知事が明らかにした。ロシア当局によると、ウクライナに近いクルスク、ボロネジ両州でも爆発があった。両州の知事は防空システムが27日早朝にドローン(小型無人機)を撃墜したと話している」

     

    ウクライナ国境付近での弾薬庫が爆発事故を起せば、ウクライナ侵攻作戦に支障が出るのは当然であろう。ロシア国内で、戦争を終結させようというグループが動き出したとしても不思議はない。

     


    (2)「ロシアではここ数週間、ウクライナ東部に隣接する地域で似たような火災が相次いでいる。ロシア軍は目下、ウクライナ東部を支配下に置くことを目指し進軍している。ロシア当局者によると、ウクライナのヘリ2機が4月1日、ベルゴロドの石油貯蔵施設を攻撃した。25日には、ブリャンスク州でも燃料補給廠(しょう)で火災が発生している。ロシアは、14日にも黒海艦隊旗艦である巡洋艦「モスクワ」で搭載されていた弾薬が爆発する事故が発生し、嵐の中で沈没したと説明していた。これに対し、米国はウクライナの対艦ミサイルによる攻撃を受けたためと主張している。ウクライナ当局者は明確には認めていないが、何らかの関与をにおわせている」

     

    下線部のように、似たような火災事故が発生しているという。黒海艦隊旗艦「モスクワ」の沈没事故原因になった弾薬爆発も、何らかの人為的関与があったのでないかと憶測されている。えん戦気分は、静かに広がっているのだろう。

     


    (3)「ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問は25日、ツイッターへの投稿で「ベルゴロド、モスクワ、ブリャンスク。相次ぐ事故。これが(ウクライナの)子どもたちを殺害した報いではないと誰が信じられるだろうか」と述べている。王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のロシア安全保障専門家、キール・ガイルズ氏は、ロシアはそもそも注意怠慢などの理由から、事故や災害に見舞われることが多いと指摘する。そのためウクライナが関与を認めなければ、実際にウクライナの攻撃によるものかは分からないという」

     

    ウクライナが、ロシア側へ「攪乱工作」を仕掛けていることを臭わせている。同じスラブ系であるから、ロシアでの工作はやりやすいのかも知れない。

     


    (4)「ガイルズ氏は、「(ロシアの)システムは平時でも、自ら傷を負うことがある」とした上で、「激しい戦時下でさらなる負荷がかかれば、事故が自然と起こる確率が増えても驚きではない」と述べる」

     

    このパラグラフは、意味深長である。ロシア軍部での不満分子が自ら破壊工作に乗出す可能性を暗示している。「えん戦気分」がもたらしたものであろう。

     

    (5)「ロシア連邦保安庁は27日、ベルゴロドの輸送インフラ拠点に妨害を加えようとしていたとして、ロシア人2人を拘束したと明らかにした。2人はウクライナ国家主義者の支持者で、軍事作戦に参加しているロシア兵の情報をウクライナの首都キーウ(キエフ)を拠点とするウェブサイト「ピースメーカー」に提供していたという。同サイトでは、ウクライナや同国の国家安保保障に対して罪を犯した人物の身元情報を公開している。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はロシア連邦保安庁が主張する妨害工作について独自に確認できなかった」

     

    このパラグラフでは、はっきりとウクライナ側へ通報している人間の存在を臭わしている。ロシアは、何回かウクライナ大統領ゼレンスキー氏の暗殺を試みたが、すべて失敗している。事前に、ロシア側から秘密情報が伝えられ、難を免れたという。これも強い「えん戦気分」の存在を示している。

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    ロシアのラヴロフ外相が、ウクライナ戦争で核を使用すると臭わせている問題は、どこまで信憑性があるのか。英国の見解を見ておきたい。

     

    ロシアの独立系の世論調査機関「レバダセンター」によると、侵攻前、60%台で推移していたプーチン支持率は先月(3月)、83%にまで上昇した。圧倒的な高さである。国民からこれだけ高い負託を受けている以上、プーチン大統領は「フリーハンド」を得ているに等しく、ウクライナ戦争収拾は自らの決断で可能となる理由だろう。

     


    「ジョンソン首相はトークTVのインタビューで、たとえウクライナでロシア軍の戦況がこれまで以上に不利になったとしても、ロシア政府が核兵器を使うとは思わないと述べた。ジョンソン氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の国内支持基盤は「圧倒的」で、「ロシアのメディアは、見る限りまったく(戦争の実態を)分かっていない」ため、プーチン氏が姿勢を和らげて撤退するだけの「政治的な余地」は十分あるという見方を示した」(『BBC』(4月27日付)

     

    ロシア国内では、官営メディアだけが許されており、政府の意向と異なる報道は禁じられている。このことは、ロシア国民がウクライナの真実を知らされていないという大きなマイナスがあるものの、ロシアが核戦争に訴えるように追い込まれない点ではプラスという複雑な面を持っている。現在のモスクワ市内が、どのような状況にあるかをBBC記者がレポートした。

     


    『BBC』(4月27日付)は、「『私が知っていたロシアはもうない』、変わるモスクワをBBCロシア編集長が紹介」と題する記事を掲載した。

     

    私はソヴィエト連邦時代のこの国を経験している。ソ連崩壊後のロシアでずっと暮らした。そして世界最大の国は今また、姿を変えた。「特別軍事作戦のロシア」をご案内しよう。

     

    (1)「スーパーへ向かうために車に乗り込む。いつもの習慣でラジオをつける。周波数はFM91.2メガヘルツ(MHz)に合わさっている。かつてこれは、ラジオ局「モスクワのこだま」の周波数だった。「モスクワのこだま」は、ロシアのラジオ局の中で私の一番のお気に入りだった。信頼できるニュースと情報を発信する媒体だった。しかしこの数週間で、この国の独立系メディアはすべて活動停止か廃止に追い込まれた。FM91.2MHzで現在放送しているのは、国営のラジオ・スプートニクだ。ここはウクライナへの軍事侵攻を支持している」

     


    ロシアでは、国営メディアしか許されない。これは、戦時中の日本人が「大本営発表」を唯一の情報源としていた状況と良く似ている。日本国民は、表だって戦争反対を唱えることもなかった。仮に、そういう発言をすれば「非国民」扱いで村八分になった。現在の、ロシアも同じ状況だ。だから、政府の方針をそのまま受入れるであろう。国内動向から見て、「核戦争」になるような反プーチン・ムードは存在しないのだ。これが、皮肉にも核戦争を防ぐ役割をするのかも知れない。

     

    (2)「ガーデン・リングを運転していると、劇場の前を通る。この劇場は建物の表に、巨大な「Z」の文字を立てている。ラテン文字の「Z」はロシアの軍事作戦のシンボルだ。ほかにも、ロシア鉄道の本部前にも「Z」がある。運転しながらトラックを追い越すと、車の側面に「Z」のシールが貼ってあった。この数週間というもの、クレムリン(ロシア政府)を批判する人たちの玄関にも、この「Z」が次々と落書きされている

     

    「Z」マークは、至る所に氾濫している。国民の意識をコントロールしているのだ。

     


    (3)「スーパーに入ると、棚には商品がそろっている。パニック買いで3月に起きた砂糖不足は、解消されたようだ。しかし、商品の種類は前に比べると少ないように思う。そしてこの2カ月で、物の値段は一気に上がった。ショッピングセンターの外で、ナデズダさんという医者と雑談を始めた。「一番つらいのは、ウクライナで起きていることの真相を知りたがらない社会に暮らしていることだ。みんなローンの支払いや借金の支払いを心配するのに、忙しすぎる。自分の周りで何が起きているのかには興味がないんだ。でもウクライナで起きているのはひどいことだと思う。自分がロシア人なのが恥ずかしい」という」

     

    ロシア国民は、兄弟国ウクライナ国民の犠牲を全く知らないで、別世界で生きている。知識人にとっては耐えがたいことであろう。

     


    (4)「私が最後に向かったのは、第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利したソ連の戦いをたたえる巨大な戦争博物館だ。甚大な人命の損失を伴う大勝利だった。この博物館は現在、ウクライナにおけるナチスに関する展示をしている。ロシア軍はいま「ウクライナをナチスから解放している」のだという、ロシア政府による虚偽の主張を、固めるのに役立つ。私がいるここは「特別軍事作戦のロシア」。オーウェル的な平行宇宙だ。侵略は解放で、軍事侵攻は自衛で、批判者は裏切り者なのだ。私がこの30年間かかわってきたロシアは、もうなくなってしまった。そんな感じがする」

     

    モスクワの戦争博物館は、ウクライナ戦争の士気を高める展示を行なっている。こういう展示物が、プーチン支持率を高めている上で役立っている。それによって、核戦争の危機を未然に防ぐとしたら、何とも複雑な思いがするのだ。

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