
習近平氏は、今年の経済成長率について米国を抜けと無理な要求を出している。この実現を巡って国務院(政府)で意見の対立が起こっているのだ。緩和派(習側近)と慎重派が綱引きをしているのだ。中国経済は、不動産バブルの後遺症の上に、さらにロックダウンによる経済停滞が重なっている。
経済政策の手直しを求める緩和派も利下げすれば、米中金利差が拡大して人民元の下落を懸念する。要するに、本格的な緩和策でなく、住宅金融を少々、緩める程度の話なのだ。これに対して、慎重派はバブル再燃に繋がると警戒する。いわば、コップの中の「対立」程度のこと。追詰められる中国経済に、実現可能な政策は極めて限られている。
英紙『フィナンシャル・タイムズ』(4月27日付)は、「中国指導部、不動産市場の規制巡り意見対立」と題する記事を掲載した。
中国の政府高官や政策顧問らによると、劉鶴(リュウ・ハァ)副首相率いる規制機関は、不動産市場の締め付けや上海などの都市での新型コロナウイルス封じ込めのロックダウン(都市封鎖)が経済に与える影響を政府が過小評価していると懸念している。しかし、他の政府幹部は同副首相が不動産市場への圧力を緩和させようとしていることに反対している。北京の政府高官や政策顧問6人が『フィナンシャル・タイムズ』(FT)紙に明らかにした。劉副首相は長期にわたって、習近平国家主席の金融経済アドバイザーを務めている。
(1)「中国政府内の政策を巡る意見対立は、同国が難しい選択に直面していることを浮き彫りにしている。中国のGDPは2022年1~3月期に前年同期比で4.8%増えた。しかし、3月の小売売上高が3.5%減少したことから、コロナでの規制が既に不動産市場低迷の影響を受けている経済を一段と鈍らせていることがうかがえる。4月26日の国営メディアの報道によると、習氏は重要インフラ部門への幅広い投資を加速するよう呼びかけたが、その金額や時期については明言しなかった」
習氏は、米国に負けない経済成長率を実現せよと命令しているが具体策はない。名案がないから、政策実施部隊は悩んでいる。
(2)「劉副首相は、中央銀行と銀行・証券などの規制当局の間に立って政策を調整する有力な委員会を率いている。同氏は、不動産購入に関する規制を緩めた多くの地方政府による最近の動きを支持している。しかし、政府高官や政策顧問らによると、他の2人の副首相、韓正氏と胡春華氏は住宅都市農村建設省を支持し、開発業者がプロジェクトで得られた収入の使い道を厳しく制限することで、業者への圧力を維持したい考えだという」
3人の副首相が、1対2で意見が分かれている。不動産金融を緩めることに2人の副首相が慎重である。
(3)「劉副首相が率いる金融安定発展委員会は、負債を抱えた開発業者にもっと自由を与え、住宅購入者からの前払いで得た収入を有効活用できるようにしたい考えだ。地方政府はこの1年、業者が得た収入は関係するプロジェクトの完成のためだけに利用できるよう、使用目的を限定してきた。劉氏と懸念を共有する政府顧問は、「銀行や債券投資家などの貸し手はすでに、開発業者に返済期限の延長を認めることが普通になっている」と指摘する。「このまま不動産業界が弱体化し続けると、不良債権が急増し、金融業界全体が行き詰まることになりかねない」とこの顧問は話す」
不動産金融緩和の根拠は、不動産業界が金融的に追詰められていると指摘する。住宅ローンなどを緩和して、在庫物件を売却し易くする。これによって、不動産業界の不良債権急増を防ぐ、としている。
(4)「韓氏と胡氏の支持者は、ほとんどが国有である中国の銀行業界が打撃を受ける恐れがあるというのは大げさだと主張する。そのうちの1人は「全ての銀行が行き詰まるわけではない。健全な銀行が苦境に陥った銀行を救済すればいい」と話す。劉氏が長く、経済・金融面で中国最強の高官だとみなされている一方、韓氏は3人の副首相の中で最高位にある。韓氏は中国共産党の最高指導機関である中央政治局常務委員会の委員であり、来年任期満了で退任する李克強(リー・クォーチャン)首相の後任として最有力候補とみられている」
不動産金融緩和への反対派は、銀行のメインが国有銀行であって、不良債権により行き詰まる懸念はない、としている。仮に問題銀行が発生したならば、その都度、救済すれば済むと反論する。
(5)「パンデミック(世界的流行)が始まって以来、最悪の経済状況と将来展望に直面していながら、金融当局は過去数週間、控えめな緩和しかしていない。劉副首相と中国人民銀行の易綱総裁は、広範囲にわたる金利引き下げに慎重だ。この両者は、金利引き下げによって過去5年で安定しつつある債務の対GDP比率に影響が出るのを懸念している。また、米国の金利が久しぶりに中国の金利を上回っている現状で中国が金利を引き下げれば人民元の下落につながり、資本逃避が進む可能性があることを憂慮している」
不思議なのは、金融緩和派が政策金利引下げに反対していることだ。米中金利差拡大が、人民元相場の急落を招くと懸念する。要するに、極めて狭いレンジでの金融操作しかできないのである。これこそ、中国経済が絶体絶命の危機にあり、綱わたりを迫られている事実を浮き彫りにしている。
(6)「易人民銀行総裁の側近の1人は、「劉氏と易氏はバブルの再燃を恐れている」と話す。「両氏は、必要としている人に資金を回したいと考えているが、それを幅広い政策ではない方法(預金準備率の引き下げや狙いを定めた融資基準)で達成できるとみている」という。
中国の金融緩和は、預金準備率の引下げしかできない事態に追い込まれている。政策金利引き下げに手を付ければ、人民元下落に繋がる。中国経済へ重大な影響が出るのだ。