勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年04月

    テイカカズラ
       

    「歴史決議」という後ろ盾

    硬直性を増す政治経済体質

    中ロは武器の「弱者連合」

    高いコロナと規制のリスク

     

    中国では、習近平中国国家主席を巡る評価が揺れている。これまで、コロナのパンデミックの影響をいち早く脱したこと。対米外交では、ロシアと「共闘」して成果を上げてきたことなどが、中国人の「中華復興の夢」を満足させてきた。ところが、事態は急変した。

     

    今年に入ってからは、前記の二点がことごとく裏返しになった。上海のロックダウン(都市封鎖)によって、「ゼロコロナ」が時代遅れの象徴になった。対米外交でロシアと共闘してきたことは、ロシアのウクライナ侵攻によって大きな外交的な負担に変わった。ロシアが世界の孤児になりそうな事態の中で、中国へも厳しい目が向けられているのだ。

     

    「歴史決議」という後ろ盾

    習氏は、ゼロコロナやロシア蜜月関係が、習氏の「イデオロギー」になっている以上、簡単に変えられないという問題を抱えている。習氏は、中国共産党結党以来三度目の「歴史決議」を成立させている。換言すれは、「神格化」された存在になってしまったのだ。習氏の判断が最も正しいという位置づけである。習氏が存命中は、習路線を歩まざるを得ないという大きな矛楯を背負うことになった。

     

    一人の思想が、一国の発展方向を決める。民主主義社会では、あり得ない事態である。そのあり得ないことが、人口14億人の中国社会で起こっている点に、中国の悲劇性を強く感じざるを得ない。中国に見られる制度や政策の硬直性は、すでに中国の株価や人民元相場の急落に現れている。

     

    具体的に言えば、市場の不安が高まっているのだ。4月25日、人民元相場が対ドルで6.55元と約1年ぶりの安値を付けた。また、上海総合株価指数が急落して、心理的節目とされる3000を下回った。上海株の終値は、約1年10カ月ぶりの安値水準である。この背景には、コロナが上海市から北京市へ拡大したのでないかという懸念が生んだ結果である。上海市が、すでに1ヶ月ロックダウンしても、防疫成果の上がらないことへの不安が増幅されたものである。

     


    上海市は、中国の誇る最大の経済都市である。この上海を軸とした長江デルタ地帯は、中国GDPの2割をも占めている経済圏だ。上海港からの輸出業務もストップしており、上海を巡るロックダウンは、中国経済を左右するほどの影響力を持っている。この経済圏が活動麻痺に陥っている以上、株価も元相場も急落して当然である。

     

    人民元相場の急落に対し当局は、金融機関の外貨預金準備率を1ポイント引き下げ8%にすると発表した。引き下げ実施は5月15日である。準備率の引き下げにより、ドルなど外貨の供給が増え、元安が和らぐと見込んだものである。

     

    株式市場については、3月中旬に高値から75%も下落していた。機関投資家は、それでも中国株を完全に見限っていた。その理由は、次の3点にある。

    1)中国とロシアとの緊密な関係(地政学的リスク)

    2)新型コロナウイルス感染拡大抑制のための極端な「ゼロコロナ」措置(ゼロコロナ・リスク)

    3)規制当局の締め付けがいつまで続くか不透明(規制リスク)

     


    すでに、中国とロシアの親密な関係とゼロコロナ政策の失敗は、習近平氏の功績とされてきたことが逆転していることで明らかである。習氏がますます規制を強めることのマイナス面は、「共同富裕論」をきっかけにして急浮上した。こうした3つのリスクが、中国の経済に重くのしかかっている。これが、中国の将来を一段と暗くさせる要因である。中国は、次に述べる三回目の「歴史決議」を出すことによって柔軟性を失い、激動する世界情勢を上手く乗りきれず、衰退過程へ飛び込むことは疑いない。

     

    硬直性を増す政治経済体質

    共産党は2021年11月に開いた重要会議「6中全会」で、党の歴史上3度目となる「歴史決議」を採択した。歴史決議とは、党の政治体制や基本政策を方向付ける重要な決定である。これを主導した習氏は、党内での権威を大幅に高めることになった。この段階では、コロナのさらなる感染拡大や、ロシアのウクライナ侵攻を予想もしていなかった。

     

    3度目の歴史決議では、鄧小平が主導した第2の歴史決議(第1の歴史決議は毛沢東主導)の核心部分を骨抜きにした。つまり、個人崇拝の禁止、集団指導の堅持、終身制の禁止の3点が引き継がれなかったのだ。鄧小平の外交路線である「韜光養晦(とうこうようかい)」(才能を隠して内に力を蓄える)路線から、強国路線への転換を鮮明にした。党内では「習氏が毛沢東のように独裁的な終身制に道を開くのではないか」との噂を広げるきっかけになった。

     

    習近平氏は、こうした「歴史決議」を背景にして、絶対的な権力を振るえるお墨付きを得たのである。習氏の考え一つで、中国全体を動かせるという、極めて危険な政治体制を構築したことになる。この硬直した政治体制が早速、ロシアのウクライナ侵攻と上海のコロナ感染拡大で試された。(つづく) 

     

     

    a0960_008567_m
       

    習近平氏は、すべて自分の出世のために中国を利用しようとしている。「オミクロン株」という感染力の強いコロナの伝播を防ぐため、かつてない厳しいロックダウンを実施している。それにも関わらず、当局へは、「今年のGDP成長率で米国を抜け」と厳命を下した。

     

    こうなると、得意の「データ改ざん」する以外に道はなさそう。今年1~3月期のGDP成長率4.8%も改ざんの跡が見えるという指摘も出ているのだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月27日付)は、「習氏、経済成長率で米国超え指示 ゼロコロナ政策も」と題する記事を掲載した。

     

    中国では新型コロナウイルスの感染拡大が経済を圧迫しているものの、習近平国家主席は2022年の国内総生産(GDP)成長率で米国を上回ることを目指しており、当局者らにハッパを掛けている。複数の関係者が明らかにした。

     

    (1)「習氏はここ数週間の会合で経済・金融担当の高官らに対し、経済の安定と成長を確保することの重要性を指摘した。背景にあるのは、中国共産党による一党支配体制は欧米の自由民主主義に代わる優れた選択肢であり、米国は政治的にも経済的にも衰退していることを示すことができる、との考え方だ。関係者によると、中国の政府機関は成長拡大を目指す習氏の号令に呼応し、大規模な建設事業を加速させる計画を検討している。製造業やテクノロジー、エネルギー、食品が重点分野とみなされている。個人消費の刺激に向けたクーポンの発行なども議題に上っているという」

     


    下線部分が、習氏の認識であると言う。こういう間違った認識で、「中華再興論」を囃し立てているのだ。本人が、真面目にそう考えているとしたら、相当の「重症」であろう。留学経験のない「井の中の蛙」である。毛沢東も留学経験がなかったから荒唐無稽な計画を立てた。鄧小平や周恩来はフランスへ遊学している。外国の空気を吸っている。この差が、鄧小平の現実的な政策展開になったのであろう。

     

    (2)「米国の2021年10~12月期GDPは前年同期比5.5%増え、中国の4.0%増を上回った。ジョー・バイデン米大統領は、米経済が中国経済を成長率で上回ったのは20年ぶりと述べ、自身の功績との認識を示した。中国の政府高官らはこれにいら立った。中国人民銀行(中銀)金融政策委員会の王一鳴委員は、コロナの影響を緩和するために中国は「より強力な」マクロ政策を導入する必要があると語る。王氏は今週北京で開かれた経済フォーラムで、中国は今年の目標とする5.5%の成長率達成に向け、4~6月期の成長率を5%超に回復させることが重要との認識を示した。中国の1~3月期GDP成長率は4.8%となったものの、多くのエコノミストはこの数字は中国経済の強さを誇張している可能性が高いと指摘する」

     

    下線部で、指摘されたように1~3月期のGDP成長率は、「誇張」=「改ざん」していると見破られている。中国社会の脆弱性とその限界が浮き彫りになっている。習氏は、ウソのデータでもつくって、自らの国家主席3期目に「花を添えたい」のだ。

     


    (3)「中国経済の成長ペースが減速している兆候があるにもかかわらず、当局者らは今年の成長率目標は5.5%との認識を繰り返している。景気刺激策の強化を目指す習氏の掛け声は、成長拡大と目標達成に向けて当局者らが直面する試練を浮き彫りにしている。習氏が発する指示は、たとえ詳細が曖昧であっても非常に大きな重みを持つ。コロナ感染者ゼロを目指す「ゼロコロナ政策」を中国が維持する限り、成長率目標の達成に懐疑的なエコノミストは多い。中国経済は既に不動産市場の低迷や輸出需要の後退が足かせになっており、コロナ禍で個人消費や工業生産への打撃が深まっている」

     

    不動産バブルの後遺症とゼロコロナの経済萎縮によって、中国経済は大きく傷ついている。それでも、4~6月期は5%成長へ「改ざん」させる積もりのようだ。現実は、決してそのような「ウソ」を認めるような状況でない。

     


    『ロイター』(4月27日付)は、「
    中国の消費、コロナ流行の沿岸地域で低迷鮮明に」と題する記事を掲載した。

     

    中国の各地方の統計部門がこれまでに公表したデータによると、第1・四半期の小売売上高は新型コロナウイルス流行で打撃を受けた主要沿岸地域が特に低迷したことが分かった。第2・四半期には消費がさらに低迷する可能性も指摘されている。

     

    (4)「経済規模の大きい南部の広東省と上海に近い江蘇省の小売売上高伸び率はそれぞれ前年同期比1.7%と0.5%となり、中国全体の伸び3.3%を下回った。中国で最も人口の多い市である上海では、コロナの流行が深刻化し、小売売上高が3.8%減少。第1・四半期にオミクロン変異株の流行に見舞われた北京近くの主要港湾都市・天津は3.9%減となった」

     

     

    中国沿海部の小売売上高の伸び率は、1~3月期は軒並み全国平均の3.3%を下回った。平常な時期であれば、8%前後の伸びが維持できたにもかかわらず、惨憺たる状況である。4~6月期については、次のパラグラフで指摘されているように、コロナ規制の強化でさらに悪化見通しである。

     

    (5)「キャピタル・エコノミクスは26日付のノートで「家計支出の増加ペースは第1・四半期に軟化し、第2・四半期初めにはコロナ規制が強化されたためさらに弱まったと思われる」とする一方、「新たな感染拡大が抑制される限り、妥当な回復が依然として見込まれる」とも指摘している。半面、南部の江西省は3月中旬までコロナ感染者がほとんど確認されず、小売売上高は第1・四半期に8.9%の伸びを記録。これまでにデータを報告した省レベルの地域の中で1~3月のGDP(域内総生産)成長率がトップとなった」

     

    南部の江西省では、コロナ感染者が出なかったので、小売売上高は1~3月期に8.9%と標準的な増加率を示している。ゼロコロナをやらなければ、それなり増加率を期待できたであろう。習氏の国家主席3期目を確実にすべく、ロックダウンを押し付けられている。

     

    テイカカズラ
       

    ロシア国営石油大手のロスネフチは、5月積み出し原油の入札を行なったが、入札者がゼロという異常事態に陥った。欧州の大手資源商社トラフィギュラが4月26日、ロシア産原油の調達を5月15日までに全面停止すると表明したことが理由だ。

     

    今回のロスネフチの入札は、商社が取り扱いを敬遠するようになった分の原油を自ら輸出するための試みだった。原油の輸出先を失うロシアは、経済的に大ピンチに陥る。ロシアの2021年予算のうち、45%が石油・ガス販売収入によるものと国際エネルギー機関(IEA)が分析している。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月27日付)は、「
    ロシア原油輸出に急ブレーキ、買い手つかず」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアはこのほど大量の原油を入札にかけたが、買い手がつかず失敗に終わった。国営石油大手に対して近く発動される制裁措置が足かせとなっており、ロシア経済の屋台骨であるエネルギー業界は苦境に追い込まれつつある。

     

    (1)「ロシアはウクライナへの侵攻を開始して2カ月間は、堅調なペースでエネルギー輸出を維持し、巨額の代金を受け取ってきた。ところが、ロシア国営石油大手のロスネフチはここにきてタンカー船を埋めるだけの十分な買い手を確保することができず、輸出に急ブレーキがかかった。事情に詳しいトレーダーが明らかにした。ロスネフチは先週、企業を招いて原油を入札にかけていた。トレーダーへの取材やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した文書で分かった」

     


    ロシア国営石油大手のロスネフチは、ロシア経済最大の「納税者」とされている。そのロスネフチが、世界への輸出に急ブレーキがかかった。同社は、プーチン大統領の側近であるイーゴリ・セチン氏が率いるという。こうした状況はいち早く、プーチン氏の耳に入っているはずだ。

     

    (2)「今回の一件は、5月15日から導入される欧州の対ロスネフチ制裁が、ロシアの石油販売に影響を与え始めている初期の兆候と言えそうだ。ロスネフチへの措置は、ロシア産原油の全面禁輸には踏み込んでいない。とはいえ、欧州はいずれロシア産石油を全面禁止とする方向に向かっているとの見方は多い。欧州連合(EU)が3月半ばに明らかにした制裁措置では、企業に対してロスネフチの原油を欧州以外で再販することを禁じており、スイスも追随した。これにはウクライナ侵攻以降、ロシア産原油を買い占めているインドなど、アジアの大口買い手への販売も含まれる

     

    欧州の大手資源商社トラフィギュラは26日、ロシア産原油の調達を515日までに全面停止すると表明した。石油製品についても購入を大きく減らし、欧州の顧客が必要とする最低限の量に限定する。EUの対ロシア制裁では、5月後半以降に取引を原則禁じる対象にロスネフチが含まれており、この制裁に沿って関係を見直した。『日本経済新聞 電子版』(4月27日付)が報じた。

     

    EUは、ロスネフチの原油を欧州以外で再販することも禁じている。アジアの買い手は、ロシアから直接購入するほかない。

     


    (3)「ロスネフチの原油販売が行き詰まれば、西側の金融・商業分野からすでに総じて締め出されているロシア経済にはさらなる衝撃が及ぶだろう。ロスネフチによると、同社はロシア最大の納税者で、国家収入の約2割を占める。国際エネルギー機関(IEA)では、ロシアの2021年連邦予算のうち、45%が石油・ガス販売収入によるものだったと分析している。「石油販売ができなくなれば、(ロスネフチは)油井を閉鎖し始めなければならなくなる」。英オックスフォード・エネルギー研究所(OIES)のシニア研究員で、ロシア国営エネルギー大手ガスプロムの子会社で石油販売の責任者を務めていたアディ・イムシロビッチ氏はこう指摘する」

     

    ロスネフチの原油販売が行き詰まれば、2つの問題が起こる。

    1)国家歳入の45%を占める石油・ガス販売が減少すれば、戦争経済が行き詰まる。

    2)大量の原油を貯蔵できる施設がないので、油井を閉めざるを得ない。これが長期化すれば復旧が不可能になる。

    こういう厳しい状況に追い込まれるのだ。

     


    (4)「ロスネフチは先週、ロシアの代表的な油種ウラル原油510万トン(約3800万バレル)について、買い手の企業を招いて入札を実施した。これは大型タンカー船19隻を満載にするほど膨大な量だ。同社は入札の場で、代金支払いをルーブルで行うよう異例の要請を行った上で、原油は5~6月にバルト海と黒海の港湾からタンカーに積み荷されると説明した」

     

    ロスネフチは、大型タンカー船19隻を満載にするほど膨大な原油輸出(原油510万トン:約3800万バレル)の入札に失敗した。5~6月にかけて積み出す予定であった。ロシア経済にとっては痛手だ。ロシアの原油生産量は、日量1000万バレルとされる。3800万バレルは、約4日分の生産量である。これが消える計算になる。

     

    (5)「ロスネフチは実際の販売について、長らく石油商社大手トラフィギュラやビトルといった一握りの企業にほぼすべて委託し、これらの石油商社が世界の買い手へと届けていた。だが、これらの石油商社はEUの制裁が発動されるのを待たず、ロシア市場から撤退している。内情に詳しい関係筋によると、世界最大の独立系石油商社で、ロシアで30年の販売実績を持つビトルは、年内にロシア産石油の取り扱いを停止する見通しだ」

     

    ロスネフチは、石油商社大手のトラフィギュラやビトルなどに販売を委託してきた。この両社は、経済制裁によってすでにロシア市場から撤退している。ロスネフチは、生産に特化して販売を委託していただけに、経済制裁の衝撃は大きい。

     

    (6)「ロシアは米国とは異なり、大量の原油を貯蔵できる施設がない。そのため、原油販売が滞ってだぶつけば、国内のエネ供給網はすぐに目詰まりを起こし、生産縮小に追い込まれる。油井がいったん閉鎖されると、閉鎖前の生産能力に戻すことは難しいとされる。PVMオイル・アソシエーツのアナリスト、タマス・バルガ氏は、ウラル原油は原油の国際指標である北海ブレントに対して約35ドルのディスカウント水準で売られているとして、精製業者がロシア産原油以外から調達を急いでいることを示唆していると指摘している。ウクライナ侵攻前は、両油種とも数ドル程度の価格差で取引されていたという」

     

    ロシアのウラル原油は、国際指標である北海ブレントに対して約35ドルのディスカウント水準で売られている。相場に対して3~4割の値引きだ。高油価の恩恵を100%受けている訳でない。ロシアが、大量の貯蔵施設を持っていない結果、値引きしでもその日に生産した原油を販売せざるを得ないのである。

     

     

    a0960_008532_m


       

    ウクライナ侵攻開始から4日目の2月27日、ロシアのプーチン大統領は、戦略的核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。西側諸国が、ロシアに「非友好的な行動」をとったことを理由にしたのである。ロシア政府による「核戦争危機論」は、その後沈静化していたが、4月25日にラブロフ外相の蒸返しによって、改めてこの問題が浮上している。

     

    『ロイター』(4月26日付)は、「ロシア外相、核戦争の『深刻なリスク』警告」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ロシアのラブロフ外相は国営テレビのインタビューで、核戦争が起きる「かなりのリスク」があり、過小評価すべきではないとの見方を示し、ロシアはリスクを抑えたいと述べた。また、西側諸国がウクライナに供与する武器はロシア軍の「正当な標的」になるとした。「このようなリスクを人為的に高めることは望まない。高めたいと考える国は多い。深刻で現実の危険があり、それを過小評価してはならない」と語った。外務省のウェブサイトに発言内容が掲載された」

     


    このような発言が飛び出す背景は、ロシア軍が苦戦していることを意味する。英国防省は25日、つぎのような発表をした。

     

    「英国防省は25日、ウクライナのマリウポリ防衛が「多くのロシア部隊を消耗させ戦闘効果を落とした」と明らかにした。ロシアが、ウクライナ東部ドンバス地域をすべて占領しようとして「小さな進展」を成し遂げたが、供給問題が攻勢の足を引っ張り「重大な突破口」を設けられずにいると付け加えた。また、英国のウォレス国防相は下院でウクライナ軍によるロシア軍の戦死者が1万5000人に達するという分析を明らかにし、ロシア軍の装甲車も2000台以上が破壊されたり、ウクライナ軍に奪取されたと話した」『中央日報』(4月26日付)が伝えた。ロシア軍が,予想以上の苦戦を強いられていることから、苦し紛れに「核戦争論」が出てきたのであろう。



    (2)「ラブロフ氏のインタビューを受け、ウクライナのクレバ外相はツイッターで、ロシアはウクライナ支援をやめるよう外国を脅せるとの望みを失ったようだと指摘。「つまり、敗北感を覚えているということだ」とした」

     

    ウクライナ外相は、このバブロフ発言がロシア軍劣勢を自ら言っているようなものだと批判している。核戦争がどんな意味を持っているか、あまりにも軽々に発言しすぎているからだ。客観的に見て、ロシアがウクライナ戦争で「核投下」する危険性はあるのか。

     


    英『BBC』(3月1日付)は、「核使用のリスク、どれくらいあるのか ロシアのウクライナ侵攻」と題する解説記事を掲載した。

     

    ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月27日、核兵器を含む「抑止部隊」を「戦闘の特別態勢」に移すよう、軍に命じた。一体なにを意味しているのか。多くの人は今回の動きについて、実際の核兵器使用の意図を示したというより、主に世界に向けてシグナルを送ったものと解釈している。プーチン氏は、核を使えば西側から核の報復を受けることを分かっている。イギリスのベン・ウォレス国防相は、プーチン氏の発表について、主に「言葉の上」のことだとの考えを示した。だからといって、リスクがゼロというわけではない。状況は注意深く見守られることになるだろう。

     

    (1)「プーチン氏は先週、間接的な言い方で、ロシアの計画を邪魔する国は「見たことのないような」結果に直面すことになると警告していた。北大西洋条約機構(NATO)に向かって、ウクライナで直接的な軍事行動を取らないよう注意したものと、広く受け止められた。NATOは一貫して、そうした行動を取るつもりはないと言明している。もし実施すれば、ロシアとの直接衝突につながり、核戦争へとエスカレートしうると理解しているからだ。2月27日のプーチン氏の警告は、これまでより直接的かつ公なものだった」

     

    プーチン氏は、NATOが直接的な軍事行動を恐れて、「核使用」という形でけん制している。もともと、ロシアはNATOがロシアの安全保障を脅かしているという理由で、ウクライナ侵攻を行なったはずだ。それが、本当にNATO参戦になれば、大変な思惑違いになる。

     


    (2)「プーチン氏は、ウクライナの戦場でロシア軍がどれほど抵抗を受けるかについて、見誤っていた可能性がある。プーチン氏はまた、西側が厳しい制裁措置を取ることについて、どこまで結束するのかも見誤った。そのため、彼は新たな選択肢と、さらに厳しい話を持ち出すことになった。「怒り、フラストレーション、落胆の表れだ」と、ある元英軍司令官は先日、私に言った」

     

    プーチン氏の予測が完全に外れたことへの絶望感が、「核使用」というトンデモ発言に現れたに違いない。最近では黒海艦隊旗艦「モスクワ」が撃沈されるなど、予想外の事態が連続的に起こっている。「核使用」という言葉を外相に使わせて鬱憤晴らしをしている面もあろう。

     


    (3)「このように見ると、核への警戒の呼びかけは、自国民に向けてメッセージを発する1つの方法のように思われる。別の見方としては、西側がウクライナに軍事支援を提供するのをプーチン氏は懸念しており、西側に対してやり過ぎないよう警告しているとも考えられる。さらに、プーチン氏が制裁について、政情不安と政権転覆を狙ったものではないかと心配しているとの解釈もできる(演説では制裁に触れていた)。しかし、メッセージ全体としては、NATOに対して、直接関与すれば事態は悪化しうると警告したものと思われる」

     

    ロシアが、甘く見ていたNATOの結束ぶりに驚き、さらに本格的な反撃に出てくることを恐れているにちがいない。その意味でロシアは日々、苦境に立たされているとの認識を強めているのかも知れない。

     


    (4)「冷戦時代、西側ではロシアの核兵器の動きを監視する巨大な情報マシーンが作り出された。人工衛星、通信傍受、その他の情報を分析し、ロシアの行動に変化を示すものがないか探った。武器や、爆撃機の乗組員の準備といった、警告が必要となる状況が生じていないか調べた。それらの多くはまだ残っていて、西側各国はロシアの動きに重大な変化がないか、活動を注意深く見ている。変化を示すものは、いまのところない」
     

    NATO軍の情報収集に加え、「ファイブアイズ」(米英豪加ニュージーランド)5ヶ国の特別諜報網が、ロシアによる核への動きを監視している。冷戦時代のソ連監視網は、現在に引継がれているのだ。仮に、ロシアが核投下の兆候を見せれば即、世界へ発表されるだろう。ロシアの評価は、それだけで激落間違いない。そういう事態にならぬよう、プーチン氏の自重を祈るほかない。


    114
       

    文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、あと2週間で大統領府を離れる。大統領就任演説では、国民統合を第一に掲げ、「経済大統領」として雇用問題解決に取り組むとも宣言した。現実は、すべてあべこべの結果になった。国内では、保守派を親日派として追詰める、李承晩初代大統領のような振る舞いであった。賃上げでは、労働組合の言いなりになって、大幅引上げをして雇用構造を破壊した。

     

    要するに、業績として残るようなことは一つもなかった。これほど、強い先入観に支配された大統領はいなかったのである。だが、文氏にはまだ救いの道がある。離任に際して、自己の業績を自慢するのでなく、自らの至らなかった点を国民へ率直に詫びることである。就任に際して国民へ約束し、できなかったことを謝罪するのだ。

     


    これが、これからの韓国政界での相互不信による対立を除去する上で、大きな影響を残すであろう。次期政権が、文政権を報復するという疑念を捨てるためにも、文氏が率直に国民へ詫びれば、韓国の融合化にプラスとなるのは間違いない。

     

    『中央日報』(4月26日付)は、「文大統領が退任前にやるべきこと」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のコ・ヒョンゴン論説主幹である。

     

    韓国の文在寅大統領は朴槿恵(パク・クネ)政権の途中下車で大統領をただで拾ったようなものだ。ろうそく集会の勢いに乗って80%を超える圧倒的な支持でスタートした。その気があれば報復の悪循環を断つこともできた。尊敬される指導者として歴史に残る絶好の機会だった。弾劾で傷ついた国民はネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領のような和解のリーダーシップを期待した。

     


    (1)「マンデラは600年間にわたり黒人を弾圧した白人政権を許した。自身に終身刑を求刑した検事を大統領官邸に招いて接待した。マンデラは27年間も獄中生活を送り、ひどい拷問を受けた。文大統領はマンデラの道を選ばなかった。就任演説では「真の国民統合の始まり」と言った。インクも乾く前に積弊清算という名の政治報復に執着した。剣を握ると恐れるものはなかった。国民全員の指導者でなく「陣営のボス」のようだった。すべてのことが理念化、政治化された。経済・社会・外交政策までが政治スローガンに変質した」

     

    文氏の後継政権は、保守派である。これまで進歩派政権は連続2期続いた。国民が、文政権の失敗に懲りて2期連続を認めなかった。それほど、酷い政権であったのだ。対立する相手には、すべて報復するという専制政治スタイルだ。権力行使を100%愉しんだのである。

     


    (2)「所得主導成長、不動産、脱原発、正規職化、韓半島平和プロセス、韓日関係、司法改革など主要政策が次々と失敗した。問題が生じても中道に修正しなかった。過ちを認めなかった。最低賃金引き上げで自営業者が苦痛を受け、雇用が減ると「所得主導成長をさらに強化する」と答えた。「常に自主をする」として「一人飯」で鍛えた自分だけの世界、特有の我執を固守した。「反対の意見が出ればさらに強行するのが文大統領のスタイル」といった親文派の言葉通りだった」

     

    人権派弁護士として名を売った文氏は、この評判に有頂天であった。何をやっても許されるという錯覚に陥ったまま、目を覚まさなかったのである。「反対の意見が出ればさらに強行するのが文大統領のスタイル」とは、恐れ入る。もともと、政治家になるべき人間でなかったのだ。

     


    (3)「政策の失敗もそうだが、文大統領が最も大きな過ちは(敵・見方の)組分けだった。2019年のチョ・グク元法務長官事態(注:チョ氏をめぐる犯罪捜査)は国を真っ二つに分裂させた。国民の心の中に相手に対する憎悪を植え付けた。文大統領は争いをやめなかった。「国論分裂とは考えない」と言った。数カ月後「チョ・グク元長官に心の借りを作った」と話した。チョ・グクに怒った半分の国民は眼中にないような発言だった。(文氏は)同じ陣営の人たち(の犯罪には寛容で)多数を赦免した。半面、李明博(イ・ミョンバク)元大統領、朴槿恵(パク・クネ)前大統領と財界人には厳格な基準を突きつけた」

     

    文大統領は、保守派の大統領二人を強引に刑務所へ送った。李氏の場合は、最初から刑務所へ入れる目的で捜査させた。朴氏は、歴代大統領が行なってきた大企業からの寄付金集めを、特別に「賄賂」と認定させた。贈収賄は、最も裁判が難しいとされる。証拠がなければ犯罪性を立証できないのだ。それにも関わらず、強引に有罪判決へ誘導させた。

     


    文氏が、こういう「悪行」を行なってきたから、自分も同じ扱いをされると極端に警戒している。それが、検察庁解体という前代未聞のことに走った。一人の大統領が、自分の身を守るために検察庁を潰すとは凄い権力濫用である。

     

    (4)「文在寅政権が残り2週間となった。終盤まで40%支持率を維持した。組分けで自分たちの勢力を結集したからだった。国民は政治的内戦の真ん中に立たされている。3月の大統領選挙直後、文大統領は尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領に「葛藤を解消して統合しなければいけない」と話した。執権中に常に分裂を助長してきた彼が言う言葉ではないようだ。強靭なメンタルを持っているのか、何を間違ったのか分からないのか」

     

    文氏は、徹底的に味方を守り、敵対者を追放する手段に出た。習近平氏やプーチン氏と手法は同じである。

     


    (5)「退任後に、「現実政治に関与せず平凡に暮らしたい」と言ったが、それだけでは足りない。退任前に国が分裂したことを素直に謝り、国民の心中の凝りをなくすことを望む。これが(国論)統合にプラスになり、本人にも薬になるだろう。大統合赦免も検討するに値する」

    文氏の権力濫用には、ぜひとも法の裁きを受けさせたい。ただ、現職大統領が前任者を獄窓に繋ぐのは、忍びないことでもある。この悪弊を絶つには、冒頭のマンデラ氏の見せた寛容な態度が必要だ。ユン次期大統領は、文氏を許すほかない。その前提として、文氏は大統領離任の際、国民へ謝罪して許しを請うべきだろう。



    このページのトップヘ