上海は、国際金融都市の座を目指してきたが、コロナによるロックダウンで、外国ビジネスマンが音を上げている。金融都市には、何ものにも束縛されない「自由」が不可欠。現実には、すでに1ヶ月もの拘束生活が続き、「不自由」な環境に追い込まれている。「グッドバイ上海」という外国人ビジネスマンが出始めているのだ。
『ブルームバーグ』(4月26日付)は、「上海『金融センター』の将来に疑問符ー外国人も権威主義の影響免れず」と題する記事を掲載した。
上海の金融街では不気味な静けさが数週間にわたり続いている。普段なら30万人が働く陸家嘴の通りには誰もいないが、高層ビルの一角ではトレーダーや銀行員が家族から離れた環境で仕事を続けている。世界が新型コロナウイルスとの共生に動く中で、中国は徹底的にコロナを抑え込む「ゼロコロナ」戦略を堅持。このため、上海の住民は自宅や職場に閉じ込められたままだ。
(1)「中国は数十年をかけ上海を繁栄と開放性の象徴とし、有能な人材を世界中から呼び込んできたが、人口約2600万人を抱える上海の金融センターは今、窮状に陥っている。中国に派遣された外国人の4分の1が住む上海が、商業の中心地であり続けることに疑いの余地はほとんどないが、悪化したイメージの修復にどれくらいの時間を要するのかは定かではない」
上海は、中国へ派遣された外国人の25%が住むという。その上海で1ヶ月ものロックダウンである。自由を完全に奪われた生活が、これだけ長期に続けば誰でも嫌になって当然だ。
(2)「上海の米商業会議所がロックダウン初期時に会員を対象に実施した調査では、技能を持つ外国人スタッフを引き付けたり引き留めたりすることをコロナ対策が妨げているとの回答が81%に上った。その3分の1余りが「大きな」もしくは「重大」な影響を受けていると答えた。同会議所プレジデントのエリック・チェン氏は、「今回の危機まで、上海は中国の他の場所と比べてビジネスに魅力的な場所として良好な評判を確立していた」と説明した上で、「今は明らかに市政府にとって大きな試練だ。どうやって以前の上海を取り戻すのか」と語った」
中国は、外国人の高技能者を集める上で、今回のロックダウンが大きな障害になる筈だ。権威主義国家の素顔を嫌というほど認識させられたからだ。これまで自由に生きてきた外国人には、耐えられない環境であろう。
(3)「ゴールドマン・サックス・グループやクレディ・スイス・グループなどの外国銀行は、合弁事業における外資規制撤廃を機に、中国で人員を2、3倍に増やす計画をしている。だが、混乱をもたらしている上海のロックダウンは、比較的裕福な住民でさえ権威主義体制の影響を免れ得ないことをあらためて示している。上海に住むドイツ生まれのイベントプランナー、ラルフさんは隔離センターへの報告義務に反発。そうした指示に抵抗した会話を録音し、ソーシャルメディアに投稿した上で、できるだけ早期の出国を目指して準備している。当局の言い分を「信頼できず、もはや真に受けることさえできない」と話した」
中国の金融開放政策によって、外国銀行のスタッフは今後、2~3倍に増える見通しであった。だが、今回のロックダウンに遭遇して、増員どころか早期に出国したいという急変ぶりである。
(4)「JPモルガン・チェースとクレディ・スイスでは今月、中国証券部門のトップが交代。中国の資本市場を揺るがす突然の規制変更とコロナ対策の渡航制限で、事業環境がますます厳しくなる中で辞めた2人の在任期間はいずれも短かった。上海のロックダウン前でさえ、外国人社員には家族を伴い中国を離れる兆しがあった。英国商業会議所のジュリアン・フィッシャー副会頭が引用した封鎖前実施の調査は、中国全土のほとんどのインターナショナルスクールが教師の4~6割を失い、次年度の入学者数が25%減ったことを示している」
外資の中国証券部門のトップでさえ、在任期間わずかで辞めている。中国全土のインターナショナルスクールの次年度入学者数は、25%も減っているのだ。教師にいたっては4~6割が辞めている。中国は、もはや自由な国で育ってきた人間にとって異質の国家になっている。
(5)「今回のロックダウンを経験した銀行員のジャスパーさん(35)は名字を明かさないことを条件に、5年前に香港から上海に移ったが今は上海を去ることを考えていると打ち明けてくれた。「住民に十分な食料を確保することすらできない上海が、どうして国際金融センターになることができるのか」というのが彼の疑問だ」
下線部分は、中国政府にとって痛いところを突かれている。ロックダウンは、人権無視の国家であるからできることである。権威主義国家は、民主主義国家と併存できにくい現実を示している。