勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年04月


    韓国次期政権は4月24日、日本政府との政策協議団を派遣した。日韓関係改善へ向けて動き出したもの。28日まで5日間の滞日予定である。岸田首相への親書を携えており、大統領就任式へ招待するという。

    政策協議団は訪日中、岸田首相に続き、安倍晋三元首相、菅義偉前首相を相次いで表敬訪問する予定だ。また十倉雅和経団連会長と武田良太日韓議員連盟幹事長、泉健太立憲民主党代表ら政財界主要人物と幅広く面談する。林芳正外相とは25日に夕食をともにする。

     


    『中央日報』(4月25日付)は、「『韓日の誤解を解こう』、韓国次期大統領 就任式に岸田首相招待」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が冷え込んだ韓日関係に突破口を見出すために日本の岸田文雄首相を大統領就任式に招待するカードを出した。就任式の出席を名分として2年以上断絶していた韓日首脳間の疎通チャネルを復元しようということだ。

    (1)「韓日政策協議代表団は、5月10日大統領就任式の招待内容を記した尹氏の親書を岸田首相に手渡す予定だ。代表団の団長である鄭鎭碩(チョン・ジンソク)国会副議長は、「最悪の状態で放置されてきた韓日関係を改善して正常化することが我々の国益に符合するという認識を尹氏は持っている」とし、「韓日間の密度ある対話を始めたい」と明らかにした。続いて岸田首相の大統領就任式の出席について「通常、各国首脳の出席はその国が決める」としつつも「最終決定事項はまだ受け取っていないが、世界各国のどの首脳も出席意志を送って下されば最善の礼節を守って迎える準備をしている」と答えた」

     

    日本の首相が韓国大統領就任式へ出席するとなれば、2008年2月李明博(イ・ミョンバク)元大統領就任式に福田康夫首相が出席して以来、14年ぶりとなる。



    (2)「大統領職引き継ぎ委員会は岸田首相が就任式に出席する場合、2年以上中断されていた韓日首脳間の疎通が復活されるとみている。通常、新しい大統領は就任式に出席した各国首脳と会談して祝賀使節団に面会する「就任式外交」を行う。朴槿恵(パク・クネ)前大統領の場合、2013年2月25日に韓印首脳会談に続いて麻生太郎当時日本副首相と面会した。翌日には韓加、韓豪首脳会談に臨んだ」

     

    韓国次期政権は、対日関係で文政権との違いを強く打ち出したいところだ。米韓関係の緊密化には、日韓関係改善がポイントになっている。米国は、日米韓三ヶ国の連携強化がインド太平洋戦略の重要な結節点になると見ているからだ。

     

    『ブルームバーグ』(4月24日付)は、「文政権下で冷え切った日韓関係、尹大統領就任で高まる改善期待」と題する記事を掲載した。

     

    ここ数年悪化の一途をたどっていた日韓関係に転機が訪れそうだ。韓国の尹錫悦次期大統領は日本に歩み寄る姿勢を見せている。

     

    (3)「韓国の代表団が24日から5日間の日程で日本を訪問する。5月10日に大統領に就任予定の尹氏は、文在寅政権下で悪化した日韓関係の修復に意欲を示している。尹氏はすでに米国に代表団を派遣しており、中国にも就任前に送る予定だ。共に米国の同盟国である日韓の関係改善は、バイデン政権にとっても歓迎すべき展開となる公算が大きい。米国は、中国と北朝鮮が突きつける安全保障上の脅威に対抗し、中国の干渉を受けることなく半導体など主要製品のサプライチェーンを確保するために日韓に協力を求めている」

     

    経済が、安全保障と重要な絡みを持つ現在、日韓は半導体などの主要製品の供給面で大きな役割を担っている。米国は、日韓関係の改善を強く期待しているが、従来のように日本へ圧力をかけることを避けている。日韓関係悪化の理由が、韓国側にあることを熟知しているからだ。韓国の姿勢が改まるのをじっと待っていたのである。

     

    (4)「保守系最大野党「国民の力」の尹氏は外交でタカ派姿勢を取る意向を示しており、これは岸田文雄政権が取り組む安全保障上の優先課題とも一部合致するだろう。地域での脅威が高まる中、ロシアのウクライナ侵攻は日韓両国に米国への依存を再認識させており、新政権の誕生は日韓関係正常化への機会をもたらす可能性がある。明知大学校のシン・ユル教授(政治学)は、韓国の安全保障には米国が不可欠であり、日本との関係修復も必要だと尹氏は認識していると指摘。「問題は歴史認識と安全保障のどちらを優先するかだ。選挙戦での公約と当選後の行動を踏まえると、尹氏は後者を優先する可能性が高い」と述べた」

     

    韓国の安全保障には、米国のほかに日本の協力が不可欠である。韓国次期政権は、こういう認識に立っている。文政権は、米韓関係を大事にするが、日本は「主敵」という信じ難い姿勢であった。その意味で、韓国次期政権は対日関係のスタンスが大きく変わる。

     


    (5)「もっとも、親日的と受け止めたられた過去2人の保守系大統領は国民から批判され、支持率の低下や政策の停滞を招いており、関係改善が円滑に進むかどうかは見通しにくい。歴代大統領の中でも支持率が低く、議会の過半数を革新系が占める中で就任する尹氏にはいかなる失敗も許されない」

     

    韓国の最新世論調査では、日本への認識が変わってきた。親日ではないが、日本の存在を必要とするという変化である。この流れが、次期政権の登場によってどこまで深まるかだ。

     



     

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    文大統領は最近、国内向けに「韓国は世界10位」と宣伝している。立派に先進国入りしたと胸を張っているのだ。だが、先の韓国国会でのウクライナ大統領演説では大ミソを付けた。国会議員300人中、出席した議員はわずか50~60名に過ぎず、国際問題への関心の低さを見せつけたのである。

     

    この様子をみると、韓国の先進国入りという自己宣伝は、眉唾ものに聞えるのである。それどころか、日本社会がウクライナ問題で大きな関心を持っていることを訝っているほど。日本は,ウクライナ侵攻を利用して「軍事大国を狙っているのでないか」という記事まで現れる始末である。日本と比べた韓国の国際感覚は、かなりのギャップが見られるのだ。

     


    『朝鮮日報』(4月24日付)は、「尹錫悦次期大統領、バイデン氏訪韓を『G9』加入の契機とすべき」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の李河遠(イ・ハウォン)国際部部長である。

     

    (1)「世界史的事件であるウクライナ侵攻開始後、米国が新たな国際秩序を作るために動き始めた。集団虐殺を行ったロシアとこれをほう助する国々を苦しい立場に追い込もうというバイデン米大統領の考えがはっきりとうかがえる。バイデン大統領は先月の訪欧時、「ロシアはG20(主要20カ国会議)から除外されるべきか」という質問を受けた。すると、同大統領は少しも迷わず「私の答えはそうだ」と答えた。そして、「もしロシアをG20から排除できないなら、ウクライナを招待する」とも言った」

     

    韓国は、G20が先進国とロシア・中国などの新興国と利害関係が対立しているので、いずれ瓦解すると見ている。

     


    (2)「ジャネット・イエレン米財務長官はさらに一歩踏み込んだ。ロシアがG20から排除されないなら、これを『無用の長物』にするという方針を今月初めに示唆した。「今年、インドネシアで開催されるG20会議にロシアが出席するなら、米国は出席しない可能性がある」とクギを刺した。バイデン大統領はウクライナで人種虐殺や性的暴行を振るったロシアと21世紀の「プトラー」(プーチン+ヒトラー)を容認することができない。進歩主義者として生涯を生きてきた彼の信念がそうさせる。「ロシアとの戦争も辞さない」とも主張する共和党に対抗し、今年11月の中間選挙で勝利するためにも、なおのことそうだ」

     

    韓国は、G20が機能を果たさなくなれば、「G7+α」が機能を拡充して役割を果たすという見立てをしている。この「+α」には、韓国や豪州が加わるだろうと期待している。

     


    (3)「米国際政治学者ヘンリー・キッシンジャー氏は著書『外交(Diplomacy)』で「力の空白は必ず満たされるが、重要なのは誰によって満たされるのかだ」と述べた。ロシアと中国、インドなどを含むG20体制が崩壊したら、世界で代表性を認められる機構が必要だ。その代案の一つとして、G7(主要7カ国会議)の拡大が挙げられる。米国は既に2020年、「G7に韓国やオーストラリアなどを加えて、『G11』体制に拡大しよう」という構想を提示している

     

    下線部分は、米国の前大統領トランプ氏が即興的に言い出した案である。G7を拡大するには、加盟国がすべて賛成しなければならない。

     


    (4)「来月発足する尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は世界秩序再編期を生かし、経済力がほぼ同じオーストラリアと共に「G9」加盟国になるという構想を持って動いた方がいい。G9になると欧州偏重でなくインド・太平洋地域の声を反映させて中国やロシアに効率的に対応できるという論理を推進できる」

     

    韓国は、次期新政権が米国や日本との協力関係強化を強く打ち出している。文政権とは、外交スタイルが全く異なっているのだ。次期政権の日本への使節団が、24日から派遣された。

     

    (5)「大韓民国は既に「30-50クラブ」に世界で7番目に加わっており、G9に入る名分は十分だ。30-50クラブとは、1人当たりの国民総所得が3万ドル(約380万円)以上で、人口5000万人以上という条件を満たす国を意味する。30-50クラブは、G7諸国のうちカナダを除く米国、英国、ドイツ、フランス、日本、イタリアの6加盟国とも一致する」

     

    「30-50クラブ」が、正式に存在するわけでない。韓国が、勝手に線引きして「先進国風」を吹かしてきたものだ。

     


    (6)「駐韓米国大使に指名されたフィリップ・ゴールドバーグ氏に対する先日の議会聴聞会は、韓国の立場をあらためて確認する場だったと言っても過言ではない。同氏は、「韓国は新型コロナウイルス、世界民主主義、気候問題といったグローバルな挑戦に対応することにおいても米国と共にいた」「米国は『グローバル・コリア』を必要とし、歓迎する」と述べた。来月のバイデン大統領訪韓・訪日は国際秩序転換期に繰り広げられる超大型の外交舞台だ。いつにも増して重要な時期のバイデン大統領訪韓を対北朝鮮抑止力強化という視点からしか見ないのは外交の下級者だ。韓米同盟をアップグレードするのはもちろん、世界で韓国の役割と影響力を広げる機会としなければならない」

     

    韓国は、アジアで重要な地位になってきた。ただ、これまでの文政権は、「中ロ」のご機嫌伺いに熱心で、「クアッド(日米豪印)参加を渋ってきた国である。この路線をどのように変えるのか。実績を見なければならない面もある。

     


    (7)「韓国が世界の先導諸国と肩を並べるG9国家化は、米国の賛成だけでは実現しない。何よりもアジアで唯一のG7国家として活動してきた日本が支持してくれなければならない。韓日関係が暗闇の中にある状況で、それこそ外交の総合芸術が繰り広げられなければできないことなので、この事案は尹錫悦政権にとって最初の試験の場になるかもしれない。大韓民国のG9加入は、経済力は大幅に伸びたものの、発展途上国レベルの低い市民意識や浅はかな政治現象を改善し、「真の先進国」になる良い契機だ。尹錫悦政権序盤にこれに関して朗報を聞くことになれば、政権の順調な航行にも助けになるだろう」

     

    仮にG7を拡大することになるとしても、日本が首を縦に振らなければ話が進まないのだ。この厳しい事実を知れば、文政権のような「反日政策」は成り立たなくなる。文政権、いかに世界を知らなかったかを物語っている。

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    「いつまでもあると思うな親と金」は、親が子どもを戒める言葉である。これがそっくり,中国へ当てはまる局面になった。「いつまでも続くと思うな人口世界一論」が、中国の苦悩を浮き彫りにしている。

     

    中国は今年、人口減社会へ突入する。21年の中国の出生数は1062万人。一方、死亡者は1014万人と接近。昨年の「自然増」は48万人にすぎず、今年から「自然減」は不可避であるからだ。こうした人口動態の悪化が、早くも中国の長期金利低下に現れていると読めるのである。

     


    『日本経済新聞 電子版』(4月24日付)は、「中国、金利低下が映す『人口の崖』 バブル処理困難に」と題する記事を掲載した。

     

    中国の長期金利が低下している。指標となる10年物国債の利回りは同米国債利回りを約12年ぶりに下回った。習近平(シー・ジンピン)指導部が堅持する「ゼロコロナ」政策で経済の下振れリスクが高まっているためだ。見逃せないのは中国の金利低下の根底に人口減少と過剰債務という2つの長期的な構造問題が横たわっていることだ。経済停滞から抜け出せない「日本化」に陥りかねない。

     

    (1)「UBSグローバルウェルスマネジメントの胡一帆氏は、「4月の経済指標には大きな下押し圧力が掛かっている」と警鐘を鳴らす。新型コロナウイルスの感染拡大で、中国最大の経済都市、上海市が1カ月近く都市封鎖(ロックダウン)され、中国経済は短期的に下振れリスクが浮上している。野村の陸挺氏は「4~6月の国内総生産(GDP)が前年同期比で減少に転じるリスクが高まっている」と見る」

     


    中国は、上海市のコロナによるロックダウン(都市封鎖)によって、経済活動がストップしている。それだけでない。長江デルタ地帯の経済の要であるので、「上海経済圏」は中国GDPの2割を占める。この巨大経済圏が、麻痺状態に陥っているのだ。4~6月のGDPは、マイナスの危険性が高まっている。

     

    (2)「中国人民銀行(中央銀行)は25日から預金準備率を引き下げる。金融緩和色の強まりで、中国の長期金利は22日時点で2.878%と、新型コロナの大流行で湖北省武漢市が都市封鎖された2020年春の水準(2.%前後)にじわじわ近づいている。一方、新型コロナウイルスとの共生を志向する「ウィズコロナ」政策にかじを切った米国などの先進国は利上げの手を緩めない。中国の長期金利は4月中旬以来、米国の長期金利を下回る場面が増えている」

     

    中国の長期金利が、ロックダウンを反映して2.878%と低下し、米国の長期金利を下回る局面が増えてきた。これは、米中経済の潜在成長率を反映しており、中国経済は米国経済を抜けないことを暗示している。長期金利は、設備投資需要を映す。中国経済の「短命」を予告しているのだ。

     


    (3)「米国を下回る中国の金利水準は、長期的には人口減少社会の到来と過剰債務という不都合な未来を映す鏡でもある。中国の21年の出生数は1949年の建国以来最も少なかった。2021年から解禁した3人目の出産政策の効果は乏しい。「一人っ子でも経済負担は大きい」(湖北省武漢市の女性)。一人っ子同士の夫婦が双方の両親4人と子ども1人、計5人の面倒を見なければならないケースが大半だからだ」

     

    中国の出生率低下は構造的要因である。女性の高学歴化によって、職業キャリアを出産よりも優先させる傾向が強まっている。中国は、女性社員が出産で休暇を取ることを奨励しない雰囲気が強く、結婚しても出産しない。あるいは「一人っ子で十分」というムードを高めている。こうして、二人、三人という子どもは望めなくなっている。

     


    (4)「中国では今後、人口減少が確実視されている
    。国連の最も出生率が低い低位推計では人口の減少は25年から始まる。今秋の共産党大会での続投を前提にすると、習氏の次の5年の任期(22~27年)中に減少に転じ、2100年には約6億8000万人と半減する。米国は2100年まで一貫して人口増加が続く。低位推計でも、人口減が始まるのは48年からとなる」

     

    私が、冒頭に掲げたように今年から中国は「人口減」社会に突入している。国連による出生率の低位推計さへ下回る出生率に低下したのだ。このパラグラフは、大幅に修正する必要がある。米中の人口動態比較からみても、米中経済の逆転は起こりようがない。従来の逆転論者は、目を覚ますべきだろう。



    (5)「人口が減少すると潜在成長率を押し下げ、デフレ圧力を通じて実質的な債務返済の増大をもたらす。国際決済銀行(BIS)によると、中国の民間企業債務(除く金融部門)はGDP比で161%(20年)。米国(85%)の2倍近い。約2兆元の負債を抱え、部分的な債務不履行(デフォルト)に陥った中国恒大集団がその象徴的存在と言える」

     

    中国の人口減少は、潜在成長率を押し下げるので、デフレ圧力を通じて実質的な債務返済の増大をもたらすはずだ。これまで、中国経済についてバラ色論をまき散らしてきた国際機関は、中国の現状を深く認識して撤回すべきであろう。中国企業は,潜在成長率低下の中で過剰債務の返済に苦しむのだ。

     


    (6)「苦しむのは企業だけではない。人民銀の調査によると、中国の都市部の持ち家比率は9割を超す。一人っ子同士の夫婦の間に生まれた子どもは少なくとも3戸の住宅を相続する可能性が高い。建築ラッシュが続いた住宅の価格が下落に転じれば、投資目的で複数の住宅を保有する富裕層や不動産会社が売り急ぎ、負の循環を引き起こしかねない。中国に先行して人口減が続く日本はバブル崩壊後に長期停滞に陥った」

     

    一人っ子が将来、少なくの3戸の住宅を相続する形になる。2戸は不要になるので売却対象だ。住宅市況は、大幅下落に見舞われるであろう。それは、新築住宅の販売不振へと跳ね返り、中国GDPを押し下げるに違いない。人口減社会は、こういうこれまで想像もできなかった現象をもたらす。中国経済の「終り」が、始まるのだ。 


     

     

     

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    権力を濫用した文政権の野望

    検察の骨抜き狙う陰謀の数々

    ユン氏が名大統領になる条件

    文氏の真反対を行なえば可能

     

    文在寅(ムン・ジェイン)大統領時代が、5月9日で幕を閉じる。文氏は退任後、「忘れられた存在」になりたいと言っている。果たして、希望通りに忘れられた存在になれるかどうか。そのカギは、次期大統領の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が握っている。

     

    韓国は、退任した大統領を巡って必ずと言っていいほど汚職事件が起こっていた。それを、現職大統領が炙り出すという陰惨な過程を経てきた。朝鮮王朝を巡る騒ぎを彷彿とさせるものである。文在寅氏は、こういう事例を見てきたので、今のところ金銭面の問題は浮上していない。だが、権力の濫用はおびただしかった。進歩派政権の永続性を狙い、公然と法律違反を重ねたのだ。それだけに、証拠は明白である。例えば、次のような事件だ。

     


    1)蔚山(ウルサン)市の市長選挙で、現職(保守派)を追い落とすために虚偽の理由で家宅捜査させ、結果的に落選させた。この事件では、大統領府高官が絡んでおり、当選した候補者は文氏の長年の友人である。

     

    2)強引な原発廃止を行なわせるべく、黒字操業中の原発の経理状況を赤字に粉飾させた。監査院(日本の会計検査院)が事情調査に入ると、夜間にデータを改ざんさせるべく役所へ忍び込ませるというスパイもどきの犯罪を行なった。

     

    以上の二つの事件は、文政権の土台を揺るがすものである。文政権は、法務部長官(法務大臣)を使って検察捜査を妨害した。この過程で、次期大統領のユン氏は当時、検察総長として政権から度重なる弾圧を受けた。二度も実質的な職務停止処分されたが、そのたびに行政裁判所から「失効命令」を得て職務復帰を果たしたほど、波乱に満ちていた。その後も続く嫌がらせに耐えられず、ユン氏は辞職したのだ。ユン氏へ、次期大統領へ登る階段を与えられたのは、皮肉にもいじめ抜いた文在寅である。

     


    権力を濫用した文政権の野望

    前記のように、証拠が揃っている事件の「首謀者」は、文在寅氏を囲む現政権幹部である。ユン次期大統領は現在、中断している捜査を再開させれば、文氏にも捜査の手は伸びるはずだ。これを熟知している文氏は、捜査が身辺に及ばないように「溝」を掘ってある。「公捜処」(高位公職者犯罪捜査処)がそれだ。大統領、国会議長、大法院長(最高裁長官)などの高位公職者の犯罪捜査を専門とする独立機関である。狙いは、検察庁の捜査を遮断して、政治色の強い捜査機関をつくって身を守ろうとしているのだ。実に、巧妙な振る舞いである。

     

    ところが、大統領は「公捜処」で身を守られても、与党「共に民主党」議員や大統領府高官が、検察庁から捜査を受ける危険性がある。こういう思惑から、検察庁の捜査権の全てを取り上げるという暴挙に出た。「検察捜査権完全剥奪」法案がそれである。文政権の存続中に立法化させるというものである。

     

    「共に民主党」では、ユン政権になれば現与党議員20人が逮捕されるので、それを防ぐための立法措置と広言している。脛に傷を持たなければ、こういう怯え方をしないはずだ。それほど、悪辣なことをした結果であろう。自ら罪を告白しているに等しい行為である。

     

    当初、次期与党になる最大野党「国民の力」は、立法化に絶対反対の姿勢を見せていた。それが、土壇場で妥協したのである。妥協の内容は、次のようなものだ。

     

    検察の6つの主要犯罪捜査権のうち腐敗・経済の2つだけを残し、公職者・選挙・防衛事業・大型惨事の4つは警察に譲るという内容である。国会司法改革特別委員会の議論を経て、16カ月後に韓国版FBI(連邦捜査局)の「重大犯罪捜査庁」が発足すれば、残りの2つの捜査権も重大犯罪捜査庁に移る、としている。

     


    与党「共に民主党」が、検察の捜査を恐れたのは、一重に文大統領を守るためであった。これによって、進歩派政権の偽「クリーン」を国民に訴えて、進歩派政権を最低20年間継続させ、南北交流から統一への足固めをする計画であった。

     

    文政権は、検察を恐れる一方で警察擁護に力を入れていた。だが、検察官は司法試験に合格している法律のエキスパートである。警察官は、司法試験と無縁の公務員である。法律の表や裏を知り抜いた検察官に比べれば、捜査力も見劣りするであろう。とても、政治がらみの重大事件の捜査ができる体制にないのだ。文政権は、そこを狙って目こぼれに預かろうとしたに相違ない。

     


    検察の骨抜き狙う陰謀の数々

    次期政権を担う現野党は、なぜ問題含みの「検察捜査権完全剥奪」法案に賛成したのか。これは、多分に政権発足後に野党になる「共に民主党」の協力を得たいという思惑と見られる。ユン政権発足後の与党「国民の力」の議席は、定数300のうち113に過ぎない。一方、野党「共に民主党」は172である。

     

    こういう議席数の比較から言えば、ユン政権の独自議案は、すべて野党によって否決される運命だ。しかも、韓国国会には解散がないのだ。次期総選挙は、2024年4月である。それまでは、「少数与党」で国会運営を乗り切らざるを得ない事情にある。(つづく)

     

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    韓国では、相変わらずの就職難が続いている。転職市場が、伝統的な雇用慣行である終身雇用・年功序列賃金が厚い壁となっている。人事の新陳代謝がないから、企業は新人を採用できないのだ。その上、雇用主に罰則を伴う厳しい最低賃金制と週52時間労働制が災いになっている。企業が、新規雇用に臆病になっている背景だ。

     

    文政権5年間が、大手労組の要求をそのまま受入れたことが、現在の就職難の理由の一つである。もう一つは、暗い経済見通しである。韓国経済の底の浅さが招いたものであろう。

     


    日本の大卒就職内定率(今春の卒業生)は、政府発表(昨年12月1日現在)によると83.0%(前年同期比0.8ポイント上昇)である。韓国は61.0%だ。大きな差がついている。

     

    『朝鮮日報』(4月24日付)は、「高スペックも通じない韓国の就職難、短大再入学目指す大卒者大幅増」と題する記事を掲載した。

     

    今年2月、釜山にある四年制大学のベトナム語学科を卒業したチュ・ソヒョンさん(25)は、1カ月後の3月に再び「新入生」となった。短大の青岩大学に再入学したのだ。チュさんが四年制大学を卒業した後、短大に「Uターン」した理由は、就職のためだ。

     

    昨年卒業を控え、衣類会社の海外営業職に志願したものの、思い通りの結果が得られなかった。成績もいい上、貿易英語1級、ベトナム語の資格証など「スペック」も劣らなかったが、採用市場の壁は侮れなかった。コロナ禍でこうした傾向がさらに強まると、チュさんは大胆にもUターン入学を決心した。

     


    チュさんは「実務経験があってこそ就職に希望が生まれるが、そもそもインターンの機会を得ること自体が困難」とし「眼鏡士免許を取得した後、ベトナム語の実力を生かして東南アジアの眼鏡市場を開拓したい」と将来の目標を見据える。

     

    (1)「チュさんのように四年制大学を中退、もしくは卒業した後、再び短大に入学するいわゆる「Uターン入学生」が、コロナの流行を機に大幅に増えたことが分かった。17日、韓国専門大学教育協議会によると、今年の短期大学の入試で「Uターン」入学(大学卒業者)選考を受けた志願者は1万4071人と、2020年(1万0268人)の1.4倍となった。実際、入学者数も2年間で1571人から1768人へと増えた」

     

    大卒者が、短大へ再入学とは聞いたことのない話だ。短大卒業生が、大学へ入学するのはよくあるケースである。こうした逆コースが生まれる理由の一つには、韓国の大学が日本の大学のように実務を教えず、「座学」中心という欠陥がある。大学の建築学科が図面引きを教えず、学生は街の塾で学ぶウソのような例がある。

     


    (2)「コロナ禍で就職難が長期化し、一般大学を卒業しても就職が困難となったため、実用的な技術や専門資格を取得することで、就職難を突破しようとする試みとの見方が強い。今年の「Uターン」入学生の半数(49.5%、876人)は看護学科に再入学し、次いで理学療法学科4.4%(77人)となった。社会福祉、協同組合経営(農協大)、演技なども人気があった」

     

    日本企業への就職も、パンデミックで閉ざされている。以前は、相当数の学生が日本企業へ就職していた。文政権の「反日」で、意地になって止めたことも災いしている。

     

    (3)「教育部(省に相当)の統計によると、2020年の大卒者の就職率は65.1%で、11年の集計開始以来、最も低かった。四年制大学が61.0%、短期大学が68.7%で、前年(四年制大学63.3%、短期大学70.9%)比で共に低下したが、四年制大卒者の就職率の低下幅はより大きく、この5年間で最も大きな格差となった」

     

    韓国企業は、労組の強い要求で終身雇用・年功序列賃金制下にある。途中の退職ケースが少ないことが、人事の新陳代謝を妨げている。企業もこうした雇用制度によって,新規部門=新規採用に臆病である。米国流の雇用慣行になれば、経済活性化が進むはずである。

     


    (4)「企業の新規採用が萎縮したことも影響を及ぼした。韓国経済研究院が売上高上位500位の大企業を対象に毎年行っている調査で、下半期の新規採用計画を持たないか、一人も採用しないと答えた企業は2020年に74.2%、昨年は67.8%だった。2019年から昨年にかけ、国営企業の正規職の新規採用が半数(47.3%)に減ったとする分析結果もある」

     

    売上高上位500位の大企業が、新規採用に慎重である。これは、強固な労組が終身雇用・年功序列賃金を主張して譲らないからだ。韓国大企業は、こうした労組の「監視」を逃れられないのである。それにしても、大企業の採用ゼロが、7割前後とは驚きである。韓国大企業は、「死んだ」も同然である。

     


    (5)「
    専門大学(注:短大)協議会のオ・ビョンジン入学支援室長は、「ここ10年間、Uターン入学生が増加する傾向にあったが、コロナが本格的に入試に影響を及ぼし始めた昨年から目立って増えた」と説明する。韓国教育開発院の教育統計によると、短期大学全体の入学生のうち25歳以上が占める割合は、2019年の10.0%(1万9888人)から20年には12.1%(2万2762人)、21年には16.3%(2万7215人)へと増加傾向にある。全体の入学定員が毎年減っているにもかかわらず、成人入学生は着実に増えている」

     

    短大へのUターン入学が、21年には全体の16.3%も占める事態となっている。実技(実務)を学んで就職戦線を突破しようという若者だ。

     


    (6)「Uターン入学の増加を肯定的とのみ見ているわけにもいかないと指摘する声もある。大卒就職難と学歴インフレを断片的に物語っているにすぎないというのだ。明知大学のキム・ギョンフェ碩座(せきざ)教授(寄付金によって研究活動を行えるよう大学の指定を受けた教授)は、「すでに一般大学に通いながら授業料と時間をかけ、再び職業教育を受けるために費用を支払う学生が増えたという意味」とし、初・中等段階の進路・進学教育を強化する必要性があるとの見方を示した」

     

    大学が、カリキュラムで実務科目を取り入れるべきだ。こういう提案は、数年前から出ていたのである。韓国の大学は、高尚な理論を教えるが実務を「下等」として忌避する。こういう「科挙試験」の悪弊が残っている。教授先生は、「下等」なことを教えないことを誇りにしているのだ。

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