勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年05月

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    尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領とは、どんな人物なのか。政治歴はゼロである。一般には、検察人生を走り抜き最後は検察総長として、前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏と対立し辞職に追い込まれた、こと程度しか分っていないのだ。

     

    司法人生を歩むまで8年間も浪人生活を送ったように、人生の目標を「これと決めたら」テコでも動かない点で、剛直と言えそうだ。酒が大好き。50歳過ぎで結婚したとき、貯金は120万円しかなかった、と夫人の「証言」もある。こんなことから伝わってくるイメージは、些事に拘らない性格のように見受けられる。

     


    『中央日報』(5月31日付)は、「尹錫悦vs『運』錫悦」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のソ・スンウク政治チーム長である。

     

    尹錫悦大統領の当選から80日、就任から20日ほど過ぎた。周囲には、「まだそれしか経っていないのか。1年ほど経過したようだ」という人も多い。短い時間だったが、それだけ多事多難だったということだろう。

     

    (1)「当選直後には危なっかしい場面が多かった。「本当に巫俗のためか」という噂が広まった龍山(ヨンサン)への大統領室移転、多くの論争を呼んだ組閣と大統領室人選で一日一日が失点の連続だった。あれほど苦戦していた尹大統領の国政支持率が最近上昇している。新政権を仕事ができるよう後押しすべきという国民の心理、就任コンベンション効果に加え、最近の韓米首脳外交が影響を与えた」

     

    尹大統領は、青瓦台と称せられた大統領府に入ることを頑なに拒否、防衛省の一角に大統領室を設けて執務している。出勤時には、必ず立ち止まって記者の質問に答える姿は、かつての大統領には見られなかった。青瓦台は、公園として国民に公開し音楽会も開かれるなど様変りしている。こういう姿勢が、静かに国民へ浸透しているようで、支持率も50%を上回るようになってきた。

     


    (2)「尹大統領は前政権の検察総長から1年で野党候補、大統領になった奇跡のドラマを描いた。政治入門から大統領選挙での勝利、最近の地方選挙につながる流れをみると、段階ごと、峠ごとに天の助けを受けているような感じだ。舞台は彼を中心に動かし、助演の活躍も想像を超越した。それで市中では「本当に運が良い。尹錫悦でなく運錫悦」という言葉まで出ている

     

    尹氏が、大統領になる過程は幸運の連続である。これほど「ツキ」に恵まれた人物は、滅多にいないだろう。自らの求めたポジションでなくとも、ライバルがミスを冒して尹氏を逆に盛り立てるという「逆転劇」の連続である。「運」錫悦とさえ言われているという。運も実力のうち、という言い方もあるが、「不運」よりはありがたいことだ。

     


    (3)「ドラマは、国民の力への無血入城で始まった。大統領弾劾と記録的な総選挙惨敗で焦土化した党に、彼を牽制するほどの競争者がいるはずがなかった。その次は「前任者運」だ。尹大統領を抜てきした前任者(文在寅氏)は、当選の最高功臣でもある。「ネロナムブル(自分がやればロマンス、他人がやれば不倫というダブルスタンダード)」と「組分け」で綴られた5年間の国政運営は政権審判論に火をつけた。大統領選挙を支配した圧倒的な政権審判論がなかったとすれば勝負はどうなっていたか分からない」

     

    保守党は、朴槿惠氏の弾劾事件で総崩れになった。それだけに、大統領候補になる人物がいなかった。それと、尹氏が文政権からいじめ抜かれたことが幸いした。国民の間に、「判官びいき」のような心理状態が生まれたことも大きかった。

     


    (4)「尹大統領の国政掌握力を本軌道に乗せた今回の韓米首脳会談も、実際には前任者の作品だ。クアッド(日米豪印)首脳会合出席のために日本を訪問するバイデン大統領の訪韓交渉を前政権が進めた。尹錫悦-バイデンが投げかけた「同盟再建」は、過去5年間の「(対北朝鮮)屈従外交」(尹大統領の表現)と対比され、地方選挙直前に新政権に翼を与えた。これほどになれば前任者は尹大統領に「惜しみなく与える木」レベルだ」

     

    バイデン大統領は、尹大統領を「弟分」のような雰囲気で対応した。バイデン氏が、訪日で宿舎を出発する際、見送った尹氏に「アイ・ツラスト・ユー」と言っている。これは、滅多に出てくる言葉ではない。歓迎会の席上でバイデン氏は、尹夫人を褒め「私たちは,結婚で得をした男だ」とも。最上級の褒め言葉だ。こうした米韓首脳の雰囲気が、国民の尹氏への見方を変えているのであろう。

     


    (5)「尹大統領は、大統領選挙の相手にも恵まれた。ライバル(注:李在明氏)は、大庄洞(テジャンドン)開発疑惑と法人カード疑惑で尹大統領に勝利を献納した。特別なネガティブ素材がなかった尹大統領には、夫人関連問題が最大のアキレス腱だった。ところが、ライバルの夫人の絡んだ法人カードスキャンダル一発で夫人熱戦は互角になってしまった。さらにライバルは「防弾出馬」批判の中でも大統領選敗北から2カ月後に国会議員補欠選挙に出馬した。過去に現役大統領と競争したライバルは時間の余裕を置いて力を備蓄した後、国政運営の強力な牽制者として登場したりした。しかし、尹大統領のライバルは野党優勢地域でも勝利を断言できない満身創痍の状況だ。生き返っても尹大統領には大きな脅威にはならないとみられる」

     

    大統領選で戦った相手の李在明氏は、疑惑満載の身であった。尹氏は、検察総長出身で文大統領から政権捜査で手心を加えよと圧力がかかった被害者である。選挙では、政権与党にとって絶対に不利な構図になった。李氏敗北は当然の帰結であろう。 

     

     

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    日本は、6月10日から添乗員付き添いの外国人観光客を解禁する。3回のワクチン接種と陰性を条件に、98ヶ国からインバウンドを受入れることになった。この解禁をもっとも待ち焦がれていたのは韓国旅行客のようである。旅行予約が、爆発的な人気を呼んでいる。

     

    韓国紙『東亞日報』(5月30日付)は、「韓国で日本ツアーが大人気、日本の『海外観光客受け入れ再開』受け」と題する記事を掲載した。

     

    日本政府が2年ぶりに観光入国を許可することにし、新型コロナウィルス禍で抑えられていた日本旅行の需要が激増している。韓国入国時に自己隔離が免除されるワクチン未接種児童の年齢基準も緩和され、家族旅行地として人気の東南アジアへの観光の問い合わせも増えている。

     


    (1)「5月29日、旅行業界によると、「チャムジョウン(本当に良い)旅行」が25日に発売した「大阪・神戸パッケージツアー特価商品」(1365席)は、発売開始から2時間で完売した。今年7月から12月に出発する先行販売商品で、2泊3日の航空券とビジネスホテルでの宿泊、ガイドチップまで含めて49万(約4万9000円~52万ウォン(約5万2000円)で価格が策定された。非特価(54万~79万ウォン)商品も、この日1924人が予約した)

     

    韓国では、日本旅行フアンが多くパンデミック前、「一番の人気国」になっていた。距離が近く、安心して旅行できるのが最大の魅力とされている。

     

    (2)「これは、この5ヵ月間の日本旅行の予約者数(286人)の6.7倍もの水準だ。チャムジョウン旅行の関係者は、「一日の自由時間が含まれた旅行日程に対して、週末にも200~300人ずつ問い合わせが殺到し、販売から5日ぶりに3000人以上が予約した」と話した。「ノラン(黄色い)風船」は、7月と8月に出発する日本旅行のパッケージツアー商品の予約件数が、前月より約7倍伸びた。「インターパークツアー」の16~21日の日本旅行の予約件数は、直前の1週間(9~14日)より139%増加した」

     

    ツアー中、一日の自由時間のある日程が人気を呼んでいる。これは、リピーターでああろう。自由時間に、お目当ての場所を訪ねるというものだ。個人旅行が許可されれば、さらに需要は増える感じだ。

     

    7~8月、夏休み中の日本旅行予約は、4月よりも約7倍という増え方をしている。3年ぶりに、日本フアンが殺到する形になりそうだ。疲弊している国内の観光業者は、「ウエルカム」で朗報となる。

     


    (3)「日本はこれまで、ビジネスや留学生の入国だけを認めてきたが、6月10日から現地旅行会社の申請を通じた団体ツアー客の入国を認めることにした。2020年3月以降2年2ヵ月ぶりである。韓国など98カ国の入国者は、新型コロナのワクチン接種(3回)の証明書がなくても、日本空港の新型コロナの検査と自己隔離が免除される。金浦~羽田路線など、航空便もさらに増える予定だ。新型コロナで中断されたノービザ入国が認められれば、日本旅行の需要はさらに増えるものと見られる」

     

    韓国の「反日不買運動」も,すでに忘れ去られた形だ。新政権の登場で、日本融和が打ち出されていることも追い風になっている。

     


    日本は、インバウンド受入へそろりと動き出したが、欧米ではすでにパンデミック以前に近いレベルへ戻りつつある。欧米発の座席供給数が、5月時点で2019年平均の8~9割になり、ほぼコロナ前水準に戻っているからだ。東アジア発は、14%しか回復していない。

     

    日本は、6月に入国者数の上限を11万人から2万人に増やす。米国など98カ国・地域を対象に10日から観光客の受け入れを再開するが、コロナ前と比べて制約は残る。国土交通省によると18年時点で外国人旅行消費額は、半導体などの電子部品の輸出を超える規模にまで成長した。19年は約3200万人の外国人が日本を訪れ、消費額は年間4.8兆円に達した。経済産業省は、訪日客消費の9割喪失でGDPを0.%も押し下げると試算する。

     

     

     

     

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    ASEAN(東南アジア諸国連合)は、中国と貿易関係が密接であるため、これまで中国の横暴に我慢させられてきた。ところが、IPEF(インド太平洋経済枠組)効果で、フィリピンとインドネシアは堂々と自国の国益を主張するようになっている。米国が、後ろ盾になっていることで、勇気を持ち始めたのだろう。横暴な中国へ対抗するには、米国を後ろ盾にして「団結」することだ。その見本のような話が、持ち上がっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月30日付)は、「フィリピン次期大統領『南シナ海重視の姿勢』中国けん制」と題する記事を掲載した。

     

    フィリピンのフェルディナンド・マルコス次期大統領が、南シナ海の領有権問題で中国に譲歩しない姿勢をアピールし始めた。経済関係を重視してきたドゥテルテ現政権の対中融和路線を修正する可能性がある。海軍も南シナ海に面する新たな基地の利用を始め、中国へのけん制を強めている。

     


    (1)「6月末に大統領に就くマルコス氏は、26日にフェイスブックで公開したメディア取材の映像の中で、海洋権益について「中国に対して断固として(立場を)伝えていく」と明言した。5月上旬に投開票した大統領選後に外交や安全保障の方針に言及したのは初めてだ。マルコス氏は国家の主権や領有権に「交渉の余地はない」と強調し、中国による一方的な領有権の主張に厳しい姿勢で臨む構えを示した。中国は南シナ海の実効支配を強めている。2021年にはフィリピンが排他的経済水域(EEZ)と主張する海域に自国船を停泊し続けたほか、中国海警局の船がフィリピン船に放水銃を撃つ事案も発生した」

     

    フィリピンは、たびたび中国と摩擦を引き起している。中国からの軍事的圧力が原因だ。米国の同盟国でもあり、今後は密着化の傾向をみせている。日本との関係も強化しており、先に外務・防衛の「2プラス2」会合を持った。自衛隊とフィリピン軍の関連強化も検討課題に挙がっている。フィリピンが、日本に対して積極姿勢である。

     


    (2)「2016年に国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は、南シナ海での中国の領有権主張を否定する判決を下した。マルコス氏は「領有権を主張し続けるために(判決結果を)使用する」と語った。ドゥテルテ大統領は同判決を巡り「本当の意味で仲裁というものはない」と話し、融和的な対中姿勢を維持してきた。マルコス氏は、ドゥテルテ氏の方針を踏襲するとみられてきたが、今回の映像を通じて、現政権より領有権問題を重視する姿勢を打ち出した格好だ」

     

    フィリピンは、中国の南シナ海の不法占拠を常設仲裁裁判所へ訴え勝訴した。ドゥテルテ大統領は、この判決を理由にして中国へ撤退を迫ることはなかった。引き替えに、中国からの経済支援を要請したが、すべて空手形に終っている。中国に騙された格好だ。次期マルコス政権は、「勝訴」を理由に中国へ強気姿勢で臨むのであろう。

     


    (3)「フィリピン海軍も、マルコス政権の発足をまたずに動き始めた。海軍は25日、北部ルソン島サンバレス州のスービック湾で新たな基地の運用を始めたと発表した。同湾は南シナ海に面し、1992年まで域内で最大規模の米軍基地があったことで知られる。新たな基地は約100万平方メートルを有し、中国が実効支配するスカボロー礁(中国名・黄岩島)に近い。南シナ海に自国艦船を出航しやすい新基地で、「海軍の海洋業務を拡大する」としており、中国の軍事活動をけん制する狙いだ」

     

    フィリピン海軍も、スービック湾で新たな基地の運用を始めた。米海軍基地が、1992年まで置かれた場所だ。フィリピン海軍は、ここを起点にして中国の軍事活動をけん制する。

     


    『日本経済新聞』(5月30日付)は、「南シナ海離島を経済特区に、インドネシア政府検討 漁業・観光の投資呼び込み 安保強化 中国反発も」と題する記事を掲載した。

     

    インドネシア政府が南シナ海の自国領であるナトゥナ諸島の経済特区化を検討していることがわかった。漁業や観光関連の投資を呼び込むのと同時に、安全保障態勢を強化する。周辺海域は中国が南シナ海での独自の境界線として主張する「九段線」と重複するだけに、中国が今後反発する可能性がある。

     

    (4)「政府関係者によると、島を所管するナトゥナ県の要請を受け、今年初めに政府内に作業部会を設け、経済特区化に向けた水面下の検討を始めた。ジョコ大統領の任期が終わる2024年10月までの実現をめざす。政府と県はナトゥナ諸島に主に外国企業の投資を呼び込み、漁船や港、物流拠点など基礎インフラを整備し、観光地としての魅力も高める青写真を描く。現時点で、インドネシア政府は18の地域を経済特区に指定し、財政・税制面で優遇している」

     

    ナトゥナ諸島は、漁場や観光地に適した場所のようだ。それだけに、欲深い中国がどのように難癖をつけてくるかである。インドネシア政府は、18の地域を経済特区に指定するほど,開発に力を入れている。

     


    (5)「経済特区化にあわせ、周辺海域の安全保障態勢を強める。ナトゥナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)は、中国が主張する「九段線」と重複し、中国漁船が海警局の公船を伴い活発に動く。ベトナムの漁船も周辺海域で活動している。ジョコ氏は3月、ナトゥナ諸島の経済活性化に向け、周辺海域を活動の用途に応じて複数の区画に分ける大統領令に署名した。基地などの拠点も整備する方針だ。大統領府高官は取材に対し、大統領令について「インドネシアが領土の一体性と権利を守る決意の表れだ」と強調した」

     

    中国が主張する「九段線」は、何ら法的な根拠がないと常設仲裁裁判所によって敗訴になった。一説では、酒に酔った台湾軍将校の書いた区画線が、「九段線」の元とされるほど、出鱈目な話である。中国が、この悪ふざけを利用して「自国領海」と決めただけである。

     

    (6)「米軍との連携も強める。インドネシア陸軍は毎年、自国で開催する米軍との合同演習「ガルーダ・シールド」を22年は過去最大規模とする方針で、ナトゥナ諸島での訓練も検討する。3月には米国のソン・キム駐インドネシア大使が同諸島を訪れ、経済と安保両面の協力強化を打ち出した」

     

    インドネシア軍も米軍との連携を深めている。ナトゥナ諸島での訓練も検討するという。中国が、恥知らずにも横車を押してくるかどうかだ。

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    中国は、足元のASEAN(東南アジア諸国連合)から冷たい扱いを受けていることから、南太平洋諸国へ焦点を絞って支配権に組込もうとしてきた。これが失敗したのだ。この連休中、林外相はフィジーとパラオを訪問して、中国の「甘言」に乗らぬよう話合いを行なってきた。米国は、南太平洋諸国の中心であるフィジーをIPEF(インド太平洋経済枠組)へ迎え入れ、14ヶ国目の参加国にする努力を重ねてきたのである。

     

    さらに、豪州とニュージーランドは足元の南太平洋諸国が、中国の影響下に組込まれれば将来、安全保障上において大きなリスクを抱えるため、島嶼諸国へ懸命な説得を行なった。こうした努力が奏功して、南太平洋諸国を訪問中の中国王毅外相は、南太平洋諸国との協定を断念させられた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月30日付)は、「中国、太平洋諸国との安保合意見送り 対米関係配慮か」と題する記事を掲載した。

     

    南太平洋の島嶼国、フィジーを訪問中の中国の王毅国務委員兼外相は5月30日、地域10カ国の外相らとオンラインで「中国・太平洋島国外相会合」を開いた。中国が、目指していた10カ国全体との安全保障協力の強化に向けた協定案は、土壇場で合意が見送られた。秋の共産党大会を前に、米国を刺激して対米関係を悪化させるのを避けたとの観測も出ている。

     

    (1)「中国の習近平国家主席は30日、同外相会合に書面でメッセージを寄せた。「国際情勢がどのように変わろうと中国はずっと太平洋の島国の良き友人だ」と強調。「中国と太平洋の島国の運命共同体を構築していきたい」と結んだ。外相会合には中国と国交を持つ太平洋島嶼国の外相らが参加した。今回は2021年10月に続き2回目だ。中国が目指した安保協力強化の合意に対しては、米国と安保上の関係が深いミクロネシア連邦が事前に書簡で「地域の安定を脅かす」と反対を表明していた。豪公共放送ABCは外相会合後、関係者の話をもとに「中国はいったん、提案について棚上げする」と伝えた。中国側は提案について今後も地域と交渉を続ける方針を示したとしている」

     


    ミクロネシアのパニュエロ大統領は5月20日付の書簡で、合意案は「われわれのライフスパンの中で最も激しい形勢一変」につながる可能性があるとし、他の太平洋諸国に対し、署名を控えるよう警告した。ここまで、中国への批判を明らかにされると、中国は自らの意図を見透かされた形で,タジタジになったのだろう。中国は、「弱小国」と見て高圧的な提案をしたと思われる。南太平洋諸国における、日米豪などの影響力を軽く見ていたのだ。

     

    (2)「外交上のメンツをことさら重視する中国が、自らの提案を棚上げするのは異例だ。緊張が高まる米中関係と共産党内の権力闘争が影響しているとの見方もでている。党内では米国との対決も辞さない強硬派と、融和を探る穏健派が混在している。とくに今年の秋は習氏が3期目を目指す5年に1度の党大会があり、対米外交は大きな争点になり得る。バイデン米政権は米中首脳協議の開催を探っているとの観測がでており、太平洋で米国をこれ以上刺激しないように、いったん提案を棚上げした可能性がある」

     

    中国は、南太平洋諸国から拒否されることが分ったので、提案を撤回したのだ。王毅外相の大失点である。あの強い鼻っ柱が、へし折られた感じである。

     


    (3)「実際に中国メディアは、ここのところ対米批判を抑制気味だ。中国共産党の機関紙、人民日報は28日付の重要コラム「鐘声」で「中国は米国と競争するつもりはなく、相互尊重を基礎に中米関係の発展に努めている」と主張した。首脳協議に向けて環境整備を進めているとみられる。会合後に王氏と共に記者会見したフィジーのバイニマラマ首相は、「中国は(外相会合に)参加した10カ国にとって重要なパートナーだ」と述べた。そのうえで「新たな地域協定に関する議論では、我々は常に(参加国の)意見の一致を優先する」との立場を説明した」

     

    下線部は、重要な点を指摘している。南太平洋諸国は参加国の意見一致を優先するとしている。すでに、フィジーとミクロネシア連邦が反対していることから、中国の試みは今後も成功する可能性が小さいであろう。

     

    (4)「王氏は、26日に訪問したソロモン諸島を皮切りに、キリバス、サモアを経てフィジー入りした。中国は4月に安保協定を結んだソロモンと病院建設に関する書面を交わし、キリバスではインフラ開発や医療品支援など10の文書に署名した。サモアとは外交関係強化に向け経済・技術面での協力で合意したほか、警察学校の建設に関する書面も交換した。太平洋島嶼国と歴史的に関係が深いオーストラリアと米国は、こうした中国の動きに警戒を強めている。23日に豪新首相に就任したアルバニージー氏は、外相のウォン氏を26日からフィジーに派遣。ウォン氏は27日にバイニマラマ氏と会談した」

     

    中国社会は初めに、想像もできないほどの土産を持参し、後から利益を回収するタイプである。中国から「債務の罠」に落とし込まれた国は、ほとんどこのケースだ。きれいなバラにはトゲがあるのだ。 

     

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    習近平氏の無謀な「ゼロコロナ」が、中国経済を大混乱に陥れている。これとともに、経済のエキスパートである李首相の人気が高まっており、「李克強待望論」が出ているという。国民からすれば、「経済が第一」である。果たして、李氏は習氏に代われるか、である。

     

    韓国紙『中央日報』(5月30日付)は、「李克強は習近平に代われるか」と題するコラムを掲載した。筆者は、ユ・サンチョル中国研究所長である。

     

    中国指導部の改編が半年後に迫り「権力闘争」の話がじわじわと流れ出ている。あらゆるうわさの集散地である香港だけでなく米国メディアも加勢して世間の関心が傾いている。権力闘争に関連したうわさの主な内容は一言で「習下李上」に整理される。習近平中国国家主席の権力が弱まるのに対しその権力の空白を李克強首相が埋めることになるだろうという話だ。さらに李克強が習近平に代わり中国のトップになるという「李克強待望論」まで出ている状況だ。

     


    (1)「なぜこうした噂が広がるのか。始まりは4月中旬だ。上海がコロナで封鎖され怨嗟の声が高まるのと時を合わせて中国のインターネット空間には朱鎔基元首相の写真と動画などが登場した。1998年から5年間首相を務め中国経済の皇帝と言われた今年94歳の朱鎔基がなぜ突然召還されたのか。上海市民が共有した朱鎔基関連の投稿と動画を見れば理由を推察できる。「私は党に役立つならばどんな話もはばからないだろう」という朱鎔基の87年の上海市長就任式演説が中国版ツイッターであるウィーチャットに上がってきた。朱鎔基が88年に上海で流行した肝炎を克服する過程を叙述した文も話題を集めた」

     

    朱鎔基元首相は、経済改革派の「元祖」である。国有企業を民営化させて、中国経済急成長の基盤をつくった人物である。それだけに、現在の「反企業主義」の習近平氏と比較される立場にある。

     


    (2)「このところ、米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は、中国党内の幹部が習近平主席を批判したと報道した。鄧小平以来確立された集団指導体制を習主席が破っているというのが批判の骨子であり、声を上げた先頭に朱鎔基がいたということだ。朱鎔基は首相として中国の世界貿易機関(WTO)加入を導くなど経済に輝かしい功績を立て人望が高かったが、首相を再任せず単任に固執して江沢民国家主席の同時退陣を引き出したという評価を受けている。そうした気骨のある政治家朱鎔基が3期目に挑戦する習主席に苦言を投げかけたものとみられる」

     

    朱鎔基氏は、その風貌からも分るように「硬骨」であることを覗わせる。習近平氏の政策と真逆の立場だけに、「習批判」は当然であろう。

     


    (3)「こうしたことがあった後、李克強首相の活動に対する報道が多くなった。特に14日の中国共産党機関紙人民日報には実に9000字に達する李克強の演説全文が掲載されたりもした。李克強の話の中には、権力は諸刃の剣で、うまく使えば国と国民に得となるが誤って使えば他人と自身を害するというなど政治関連言及もあった。すると李克強がついに習近平の陰から抜け出して自分の声を出しているという報道が出てくるなど李克強待望論がふくらむに至ったのだ。これとともに習近平が秋の第20回党大会で3期目挑戦に失敗するだろうという早まった見通しも台頭し始めた」

     

    李克強氏は、性格が温厚である。もともとは学者志望であったが、胡錦濤氏に請われて政治の道に入った経緯がある。物事を理詰めに捉えているから、習近平氏と馬が合うはずはない。ただ、李氏に野心はなく淡々と任務遂行タイプである。

     


    (4)「しかし、「習近平落馬と李克強浮上」は、中国の政治の現実とは違うとみられる。まず権力闘争説と関連し党内の幹部の反発があったのは事実とされる。現在の中国の幹部は78年に始まった中国の改革開放政策を40年以上主導して成長した人物だ。そのような人たちが習近平執権後の現在広がる状況を好ましくないと考えているのは明らかな道理だ。自身の任期を延長して、米国と対立し先鋭化する戦狼外交で国際的に孤立する現実をよしとするはずがない

     

    下線部は、習氏がいかに野心に満ちており、自己の栄誉を狙っていることを示唆している。中国の将来よりも、習氏の将来を優先させているのだ。その道具に、毛沢東主義を利用しているだけと見られる。毛沢東主義の失敗は、習氏の野望挫折を示唆しているものの、中国共産党がそれに気付くかは別問題である。

     


    (5)「習近平と幹部の間がぎくしゃくするというのは、中国メディアが15日に党中央公務処理庁の名義で発表した「引退幹部の党建設業務に関する意見」を報道したことからも如実にあらわれる。『引退幹部に対する意見』と題する文書は幹部を歴任した党員が引退はしても党の話を聞いて党とともに進むべきで、政治的に否定的な話をまき散らしてはならないということを強い語調で表明した。これは党幹部から習近平に対する不満が出続けているという傍証だ。これがさらに大きな問題に広がる前に幹部の口封じからするべきとの趣旨から出たのが中央公務処理庁の「意見」文書だ」

     

    習近平一派は、引退幹部の発言封じに出ている。これこそ、習氏の政策の失敗を告げている。中国経済が、ガタガタになって初めて「習近平批判」は党全体へ広がるであろう。

     


    (6)「李克強首相のメディア露出頻度が高まったのは、幹部をなだめるための措置とみられる。集団指導体制を維持していることを示す次元だ。李克強の発言掲載などは習近平の許諾範囲内でなされることだ。これを持って李克強が経済の権限を取り戻していると解釈するのは無理がある。16日に出された党理論誌「求是」は、「共同富裕」と「資本統制」など中国経済が進むべき方向を提示した習近平の発言を大々的に報道した。これは現在の中国経済の指揮者がだれなのかを赤裸々に見せたケースという話を聞く。香港の政治評論家孫嘉業や89年の天安門事件後に米国に亡命した王丹なども習近平の権力が依然として磐石でしっかりしているという分析を出している」

     

    下線部の「共同富裕」と「資本統制」は突如、昨年夏から急に言われ初めた。そのきっかけは、出生率の急減である。以来、中国経済は音を立てて崩れている。その「音」が、習近平一派には聞えないのだろう。

     


    (7)「李克強待望論は、習近平の政策に不満な人々の希望が産んだ産物とみられる。望みは明らかに存在するが、まだ現実になってはいない状況である。中国指導部改編がなされる秋までにこれと類似の中国権力闘争の話が流れ続ける可能性が大きい。特に中国政界の水面下での対話が行われる7~8月の北戴河会議を前後してより多くの話があふれると予想される」

    下線部は、現在の中国の事態を適確に説明しているようだ。習近平氏への不満は高まっているが、まだ「本丸」まで達していない状況だ。 

     

     

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