勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年05月

    ムシトリナデシコ
       

    年初来、中国から資本流出が大きな流れになってきた。今年の資本純流出は。3000億ドルに達するとの予測も出ており、中国への評価は変わりつつある。最大の理由は、習近平氏の政策が「反企業」的であることだ。毛沢東の再来を思わせるような、反時代的な経済認識に、多くの米英系企業が疑問を深めている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月26日付)は、「冷める中国への愛、外資系企業に心情の変化」と題する記事を掲載した。

     

    外資系企業は中国に見切りをつけつつあるのだろうか。不満を抱いているのは確かなようだ。在中国の欧州連合(EU)商工会議所が行った4月の調査によると、現行または計画中の対中投資を他の市場に変更することを検討しているとの回答が23%に上った。これはここ10年で最も高い水準だ。

     


    (1)「アップルは、委託先企業に製造を他の拠点に移管するよう要請している。アップルのサプライヤーは中国民間部門で雇用の最大の受け皿だ。在中国米商工会議所が今春行った調査によると、新型コロナウイルス変異株「オミクロン株」が上海市で猛威を振るう以前から、米企業の3分の1余りが、政策環境を理由に、対中投資を削減する意向を示していた。アップルといった外資大手はこれまで中国に巨額の投資を行っており、今でも現地でかなりの利益をたたき出している。そのため、せきを切ったように中国から撤退する可能性は低いだろう」

     

    アップルは、中国で約100万人の雇用を生み出している。そのアップルが、製造委託会社へインドやベトナムでの生産移管を検討させている。米企業の約3割は、対中投資の削減意向を持つ。習近平政策に疑問を持ってきたことが理由である。

     


    (2)「長らく予想されながら遅々として進まなかった製造業大手による中国からの生産拠点の分散化は、ここにきて一段と協調した取り組みに向けた下地が整いつつあるようだ。その結果、中国景気の減速そのものや人民元のさらなる下落に加え、李克強首相といった成長重視の指導者の存在感が増すかもしれない。長らく蚊帳の外に置かれていた李氏はここにきて、国営メディアで言及される頻度が増えており、再び存在感を増している」
     

     

    ここへ来て,急に「中国熱」が冷めたわけでない。これまでの不満が高まり、一気に「移転」へと舵を切らせるまでになってきたのであろう。ロックダウンやウクライナ侵攻を巡る中国のロシア支持など、外資系企業には疑問だらけの事態が起こっている。

     


    (3)「製造業に中国離れを促している最大の理由は、過去2カ月をほぼ通じて上海市の大半でロックダウン(都市封鎖)が敷かれるなど、その厳格なゼロコロナ政策だ。さらにロシアのウクライナ侵攻に対する暗黙の支持や、昨年の不動産・テクノロジー業界への締め付けによる国内経済への広範な打撃に加え、より透明かつ穏やかな流れに慣れていた外資系企業の間で、中国当局の政策ミックスが実際に有害な影響をもたらしかねないとの認識が広がりつつあることも要因となっている」

     

    中国の企業風土が、欧米のそれと余りにも異なることだ。習近平氏以前の中国であれば、改革派がリードしていたので見通しが持てたのである。ところが、習氏の統治下では予想もつかない政策が突然に打ち出される。これでは、中国に愛想が尽きるのであろう。

     


    (4)「2020年~21年に外資による対中投資が急増したことは、中国と西側諸国との関係が急激に冷え込んでいた当時の状況とは矛盾するかに見えた。だが振り返れば、その理由を説明することはさほど難しくない。他のアジア諸国の輸出拠点を含め、世界全体が大きな打撃を受けているのを尻目に、中国は輸出を筆頭に絶好調だった。外資による対中投資を後押しする要因は輸出競争力だけに限らないが、極めて重要であることは確かだ。過去20年にわたり、中国輸出の伸びと外資による対中直接投資のトレンドは全般的にほぼ二人三脚の構図になっていた。外資系製造業による利益の再投資を除く商務省の一連の統計でさえもだ」

     

    下線部は重要である。外資の対中投資が伸びるから、中国の輸出が増えてきた。この事実を押さえておくと、外資が見限った後の中国輸出は、逓減を余儀なくされることだ。

     

    (5)「ところが、足元では中国輸出の伸びに急ブレーキがかかった。オミクロン株流行を受けた封鎖措置、外需の低迷といった足かせに加え、昨年は工場閉鎖に追い込まれていた低コストの製造業者との競争が激化していることがおそらく主因だ。上海の封鎖措置が解除されれば、輸出が一時的に持ち直すことはあり得る。とはいえ、これらの要因の多くは当面、その影響が長引くだろう」

     

    中国は、上海のロックダウンが解除されれば、一時的に輸出が増えても継続性を期待できまい。外資系企業が、対中投資を抑制し始めているからだ。

     

    (6)「中国では、早くとも2023年初頭までゼロコロナ政策が大きく転換される見込みは薄いとされ、経済活動を阻害するロックダウンが今後も避けられない見通しだ。東南アジア諸国やインドといった代替の製造拠点はいずれも課題を抱えているが、一方で明確な強みも持ち合わせている。具体的には、拡大している若い労働力に加え、これらの国々の政府はイデオロギー的、あるいは可能性として、軍事的に民主主義の先進国と対立する立場にはないという点だ」

     

    中国のゼロコロナ政策は、来年初頭まで続く見通しである。ASEANやインドが、代替生産地として浮上するのは、労働力の豊富さに加え、イデオロギー面・軍事面で先進国と対立しない点が大きな要因になっている。

     

    (7)「そして何より重要だと思われるのが、中国が硬直したコロナ対策に固執しつつ、最も成功している民間企業の一部に容赦のない攻撃を加え、その両方による連鎖的な影響が中国の消費者や新卒の雇用市場に深刻な痛みをもたらしている点だ。そのため、将来的な中国市場の成長性やビジネスにとっての政策環境全般の安定性に対して、著しい疑問が生じている

     

    習近平氏の毛沢東イズム崇拝は、現代の思潮から著しくかけ離れている。これが、中国市場の将来性に影を落としており、ビジネスの安定性に疑問を生んでいるのだ。中国は、厄介な指導者を持ったことになる。

    あじさいのたまご
       

    韓国ユン政権で、TPP(環太平洋経済連携協定)加入の意味・手続きを理解していない水産部長官(水産大臣)が現れた。無知というか、勉強不足というか、ともかく凄まじい認識不足の長官である。

     

    「TPPへ加盟しても福島産食品の輸入禁止措置を撤廃しない」と力んでいるのだ。TPP加盟は、全加盟国の賛成を条件にしている。日本が、韓国に対して「TPP加入はNO」と言えばそれだけで加入が不可能になる。韓国水産部長官は、こういう手続きの流れを知らないのだろう。何ともお粗末な長官が生まれたものだ。

     

    韓国は、TPP11カ国のうち日本とメキシコを除く9カ国と、すでにFTAを締結している。TPP加入は事実上、日本と追加でFTA協定を結ぶようなものである。日本は自動車と農畜水産物分野で韓国より優位であり、韓国が、日本とFTAを結ぶのはむしろ損害という分析が多かった。韓国が、TPPへ加入しなかった理由は、以上の点にある。

     


    韓国は、放射能を理由に福島県産などの農漁産物の輸入を禁止しているが、本音は競争力の低さを恐れてカムフラージュしているものである。極めて、卑怯な遣り方である。

     

    『中央日報』(5月25日付)は、「韓国海洋水産部長官、『TPP加入しても福島産水産物の輸入認めない』」と題する記事を掲載した。

     

    海洋水産部の趙承煥(チョ・スンファン)長官は25日、環太平洋経済連携協定(TPP)と関連し、「協定に加入しても国民の健康と安全のため日本の福島産水産物輸入を禁止した既存の立場に変化はない」と明らかにした。

     


    (1)「趙長官は、この日政府世宗(セジョン)庁舎で開かれた担当記者団との昼食懇談会で「TPPは国益のために進まなければならないものという韓国政府の立場は理解する」としながらこのように話した。彼は続けて「福島産水産物輸入に対しては断固として国民の安全・健康が(優先であり)重要だという考え。漁民が受ける被害に対しては十分に補償するだろう」と付け加えた」

     

    TPPへ加盟申請している英国と台湾は、すでに福島産食品の輸入禁止を撤廃した。同様に、TPP加盟を申請している中国は、福島産食品の輸入禁止について、何らの対策も講じていない。多分、中国はTPPへ加盟できないと見込んでおり、福島産食品の輸入禁止に手をつけないと見られる。

     

    韓国が、福島産食品の輸入禁止を撤廃しないでどうやってTPPへ参加する積もりだろうか。本音部分では、TPP参加が難しいと読んでいるのかも知れない。ともかく、福島産食品の輸入禁止を撤廃しない限り、日本は韓国のTPP参加に賛成しない筈だ。よって、韓国はTPPへ参加不可能となろう。

     


    韓国の福島産食品の輸入禁止は、WTOでも具体的な根拠になるデータを提出できなかったのである。そこで考え付いたのが、「風評被害」である。WTOもこの扱いに困って結局、韓国の言分を認めざるを得なかった、TPPでは、風評被害という根拠不明の噂話を通すほど、甘くない。日本政府が、韓国のTPP加盟に当って、「高いレベルを超える自信はあるのか」と皮肉を込めて発言している裏には、こういう日本側の厳しい要求がある。

     

    (2)「現在、韓国の水産業関係者はTTP加入時に漁業関係者に支払われる水産補助金と、輸入水産物に対する関税が廃止されかねないとして反発している。福島原発汚染水放出を控え福島産水産物開放圧力も大きくなると懸念している」

     

    このパラグラフに、韓国が日本とFTAも結ばなかった事情が現れている。韓国漁業者は補助金と高い輸入関税で守られている。もっと、厳密に言えば、「福島産食品の輸入禁止」で守られてきたと言える。噓八百を言い連ねて、自国産海産物を保護しようというのは、道義的にも許してなるまい。 

     

     

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    米の新たな切り札IPEF

    インドが国是を破った背景

    海洋追跡態勢で中国を監視

    権威主義対民主主義の戦い

     

    中国は、アジアの盟主を狙って近隣諸国を睥睨(へいげい)してきた。足元のASEAN(東南アジア諸国連合)とは、経済関係で密接なつながりを持ってきたので、中国の政治的な影響力は揺るがないと自負してきたはずである。だが、この思い上がりは一瞬で崩れることになった。

     

    米国主導のIPEF(インド太平洋経済枠組)へ、ASEAN10ヶ国のうち、親中派のミャンマー、カンボジア、ラオスを除く7カ国が参加したのである。インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナム、シンガポール、ブルネイなど7ヶ国だ。これら諸国は、中国から何らかの被害を被っている。とりわけ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイは、中国の南シナ海領有主張で権益を奪われた国々である。中国を快く思う筈がない。

     


    中国は、自らが脛に傷持つ身でありながら、IPEFを米国の経済植民地と連日、非難攻撃している。IPEFの結成が、よほど中国の弱点を突いているのであろう。

     

    米の新たな切り札IPEF

    IPEFとはどのような内容か。暗黙的だが、中国へ対抗する「経済安全保障」という色彩を持っている。中国の影響力を排除して、安定的な経済活動を行なう目的だ。米中デカップリング(分断)の一環である。

     

    IPEFには、TPP(環太平洋経済連携協定)のように関税引き下げメリットはない。それでも前記のASEAN7ヶ国の他に、「クアッド」(日米豪印)4ヶ国と韓国、ニュージーランドの合計13ヶ国が参加することになった。分野は次の4部門である。分野ごとに参加国は変わるという柔軟組織である。

     

    1)貿易

    2)供給網

    3)インフラ・脱炭素

    4)税・反汚職

     

    前記4部門はIPEFの柱である。具体的な内容は決まっていない。参加国が相談して決めるという民主的な手続きを踏む。ASEANから7ヶ国が、中国の反発を恐れずに参加するには、IPEFにそれなりの魅力を感じとっている筈だ。その魅力とは多分、2)供給網と、3)インフラ・脱炭素と見られる。

     

    2)供給網では、半導体などで混乱が起きたときに助け合えるよう(品不足の)早期検知システムの構築をする。長期的には、各国で生産能力をシェアし、融通しあえる体制を整えなければ、IPEFに参加する意味はない。現状では、自国で半導体生産など夢のような話に聞える国でも、日米韓という半導体先進国がIPEFのメンバーあれば、気安く相談できる環境になる。

     

    3)インフラ・脱炭素も魅力的な分野だ。いずれも、大規模な資金と技術を必要とする。インフラでは、今回の「クアッド」会合で500億ドル(約6兆4000億円)の拠出を決めている。これは、一回だけの拠出でなく継続的に行なわれる筈だ。日米主導のABD

    (アジア開発銀行)から優先的な融資を受けられるという便益も考えられる。

     


    米国では、中国の「一帯一路」プロジェクトに代わって普及させると意気込んでいる。アジアは将来、経済発展する余地が大きいと見込まれているだけに、日本のODA(政府開発援助)の拡大版で低利・長期の融資を行なえば、アジアの経済発展に寄与することは確実であろう。

     

    米国はIPEFについて、関税引き下げメリットがなければ、結束力を欠くとの批判がある。理想型は、TPP(環太平洋経済連携協定)であり、米国がここへ復帰すれば、問題はすべて解決すると指摘するのだ。ただ、米国では関税引き下げが労働者に被害が及ぶとして反対論が強い。IPEFは、こうしてTPPの簡易版という位置づけであり、「次善の策」としている。関税引き下げがないので、国会の審議も不要だ。バイデン政権には、早急に成果を出せる意味で、取り組みやすいというメリットがある。

     


    このIPEFは、日本が事務方となって切り盛りすることになろう。TPP加盟国が、日本を含めて6ヶ国と多く、IPEF13ヶ国の半分近いことで、日本を仕切り役にするであろう。日本は、ODAで培った相手国の事情を100%汲み取ることになれているからだ。これが、アジアにおける日本の信頼度を1位に押し上げている背景である。

     

    インドが国是を破った背景

    「非同盟」を国是とするインドがなぜ、IPEFに参加したのか。最大の理由は、中国と長年にわたり国境紛争を起している事情がある。その意味で、「反中国」の色彩の強いIPEFで「仲間」ができれば、これに超したことはないのだ。

     

    今回の「クアッド」会議で、米印首脳会談も開かれている。これについて、インド外務省報道官は24日、次のようにツイッターへ投稿した。「両国の貿易、投資、技術、防衛、人的関係の協力を強化する方法について議論して、実質的な結果が得られ、2国間のパートナーシップの深みと勢いが増した」というのだ。

     

    これまで、インドと米国の関係は決してスムーズなものでなかった。そのインドがクアッドへ参加したのは、安倍首相(当時)とインドのモディ首相が昵懇という背景があったからだ。インドが、ロシアのウクライナ侵攻に対して「中立」の立場を取っているのは、武器供給でロシアへ依存していることと無縁でない。この間、米国はインドに対して冷淡な態度で臨んでいた。これが、米国への不信を高めた理由だ。(つづく)

     

     

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    中国GDPの3割を稼ぎ出す住宅販売が、ゼロコロナ政策とバブル崩壊の挟撃にあって不振の極にあえいでいる。中国の住宅販売上位企業で構成するCRICリーディング中国本土不動産株価指数は、不動産大手の中国恒大集団が部分的な債務不履行(デフォルト)と認定された昨年12月上旬以降、これまで2割も下落している。

     

    5月も24日までで7%下げ、ピークだった2020年初との比較ではほぼ半値になっている。個別銘柄をみても業界最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は25日終値が昨年末比で29%安く、2位の万科企業は同8%下げである。

     

    不動産株価指数が、昨年12月上旬以降で2割も下落していることは当然、中国経済の足を大きく引っ張る要因になっている。以上の不動産株の推移は、『日本経済新聞 電子版』(5月25日付)から引用した。

     


    ブルームバーグ(5月25日付)がまとめた、中国のエコノミスト予測の予測平均値は、5月に入って「釣瓶落とし」状態である。

    1月1日 5.2%

    2月1日 5.1%

    3月1日 5.0%

    4月1日 4.9%

    5月1日 4.5%

     

    『ブルームバーグ』(5月25日付)は、「今年の中国のGDP成長率目標、未達ほぼ確実-『ゼロコロナ』堅持で」と題する記事を掲載した。

     

    中国の「ゼロコロナ」戦略堅持は、2022年の経済成長率が5.5%前後という政府目標を大きく下回ることがほぼ確実であることを意味している。

     


    (1)「ブルームバーグの最新エコノミスト調査によれば、中国の国内総生産(GDP)は今年、前年比4.5%増(予想中央値)となる見込み。約30年前に成長率目標を設定し始めた中国政府が目標未達を認めたのは一度だけだ。1998年は目標をわずか0.2ポイント下回った。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まった2020年は、成長率目標を定めなかった」

     

    中国政府は、これまで目標とする経済成長率達成に大きな努力をはらってきた。これにより、中国共産党の正統性を国民に訴える根拠にしてきたもの。今年については、もはや成長率達成に拘る余裕もなくなっているようだ。ただ、習氏が米国のGDPに負けるなと檄を飛ばしたという話が伝わっているので、完全に「5.5%成長率目標」を忘れているとも思えない。

     


    (2)「中国が年央に成長率目標を調整したことはないため、そうした選択肢があるのか、あるとしてもどのようなプロセスで調整されるのかは分からない。エコノミストらは、雇用の維持・創出が優先課題とされ、成長率目標はひっそりと扱われることになる公算が大きいとみている。共産党の習近平総書記(国家主席)は、厳しいロックダウン(都市封鎖)を含め、徹底的にコロナ感染を抑え込む戦略を変えていないが、習総書記の下で党が昨年採択した歴史決議にはGDPはもはや「唯一の成功基準ではない」と記されている」

     

    中国が、年央に経済成長率の見直しをする例がないので、今年それを行なうこともないであろう。問題は、今年の大卒が大学院卒や留学生帰国組を含めると、約1100万人が雇用先を探している。この人たちにどのように職場を与えるかが現在、最大の関心事になっている。昨年採択した歴史決議では、GDPがもはや「唯一の成功基準でない」と記されている。それは事実だが、経済発展を図る尺度として必要不可欠なものだ。

     

    過去、中国はGDP統計をねつ造してきた。それが、「必要でない」という意味であるならば納得するが、「低成長」を注目点から逸らす意味では賛成しかねる話である。

     


    (3)「政府は、今年3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、22年の成長率目標を発表した。それ以後、ほとんどこの目標には触れていない。その代わり、政府当局者が最近繰り返し強調するのが雇用の安定だ。コロナ関連の規制で人々が働くことができないとしても、政府は企業に補助金を支給することで雇用の維持を働き掛け、失業率を目標の5.5%未満に抑えることは可能だ」

     

    同じ「5.5%未満」でも、こちらは失業率目標である。GDPの5.5%未満達成は不可能だが、失業率はこの範囲内に抑えたいとしている。だが、不可能な話である。経済成長率が,目標を達成できないで、失業率だけ目標内に抑えることなど「手品」の世界である。

     

     

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    中国包囲網が、ジリジリと狭まってきた感じである。「クアッド」(日米豪印)は、中国の海上における不法行為を取り締るべく、リアルタイムで中国船舶の動向を把握して、即刻対応するシステムを構築することになった。

     

    これまでの中国は、他国領有の島嶼を奪い取る手法として、漁民を装った部隊を上陸させ、後から正規の中国軍が「漁民保護」名目で上陸する巧妙な手法をとってきた。こういう不法行為を断ち切るには、海上での24時間監視システムが必要である。南シナ海で、中国と領有権を争うベトナムやフィリピンなどとの連携を想定したものだ。

     


    韓国紙『東亞日報』(5月25日付)は、「クアッド、インド太平洋の船舶をリアルタイムで追跡監視へ 海上の中国包囲網を構築」と題する記事を掲載した。

     

    米国主導のインド太平洋安全保障協力枠組み「クアッド(Quad)」が24日、東京で行われた首脳会議で、中国の海上活動に対するリアルタイムの監視システムを導入することにしたことは、中国の海上覇権の追求を遮断するという明白な信号とみられる。

     

    (1)「台湾海峡と尖閣諸島(中国名・釣魚島)がある東シナ海、中国と東南アジア諸国が領有権で争う南シナ海や太平洋など、中国周辺の海で包囲網を構築するということだ。特に、中国が海上領有権紛争地域に、事実上の準海軍部隊である海上民兵隊を派遣する「グレー戦術」を展開しており、クアッドはこれらの活動を阻止する計画だ」

     

    中国は、漁民を準軍事組織に組入れている。他国所有の島嶼奪取の先兵に利用しているのだ。一見、漁船に見えるので安心していると、実際は武装した漁民である。昨年は、長期にわたりフィリピン所有の島嶼付近に何十艘もの漁船を停泊させて威圧した。フィリピン軍が、立ち去れば占拠する計画であったと思われる。

     


    (2)「クアッド首脳たちが合意した人工衛星基盤のリアルタイムの海洋追跡システムは、自動船舶識別装置(AIS)を消して移動する中国船舶の不法操業だけでなく、中国海軍の活動を支援する海上民兵隊の活動をリアルタイムで追跡し抑制する。南シナ海ではシンガポール、インド洋ではインド、南太平洋ではソロモン諸島とバヌアツに設置された拠点基地を通じて衛星基盤海洋追跡システムを構築すると、バイデン政権は明らかにした」

     

    下線のように、シンガポール、インド、ソロモン諸島、バヌアツに設置される拠点基地を通じて衛星基盤海洋追跡システムを構築する。海上における中国の不穏な動きを即時、キャッチするというもの。中国への海上包囲網である。

     

    (3)「中国の海上民兵隊だけでなく、中国軍艦の移動もリアルタイムの追跡と監視が可能になる見通しだ。青い制服を着て「リトル・ブルーマン」と呼ばれる海上民兵隊は、中国海軍の教育と支援を受ける準海軍部隊だ。中国は、南シナ海など領有権紛争地域に海上民兵隊を不法操業の船舶と共に投じ、他国の海域への進入を阻止する戦術を展開している。中国の黙認の下、東シナ海などで対北朝鮮制裁を違反し、洋上で違法に物資を積み替える「瀬取り」を行っている北朝鮮船舶に対する監視も一層強化されるものとみられる」

     

    海上を移動する中国の「物体」は、すべて監視対象になる。中国は、海の上だから発見されまいと高を括っていると、衛星からキャッチされることになる。北朝鮮による「瀬取り」も監視されて、現場を押さえられることになろう。

     


    (4)「バイデン大統領はクアッド首脳会議で、「世界が転換的な瞬間を迎えた」とし、「私たちは暗い時代を生きている」と述べた。また、「民主主義対権威主義の構図であるウクライナ戦争は欧州だけの問題ではなく世界の問題だ」と強調した。岸田文雄首相は、「インド太平洋で同じようなことを決して起こさせてはならない」と述べた」

     

    クアッドは、中国問題を民主主義対権威主義の構図として捉えている。中国は、中ロ首脳会談における共同発表「限りない友情」が、「中ロ枢軸」を裏づけるとして警戒感を強めているのだ。現に、中国は次々と勢力圏拡大に動いており、クアッドの警戒心を高めている。



    (5)「クアッドはまた、中国の華為技術(ファーウェイ)などが主導している第5世代(5G)移動通信装備の市場からの中国排除に向けた先端技術協力の強化にも合意した。インド太平洋経済枠組み(IPEF)発足に続き、クアッド首脳会議を通じて、中国に対する貿易・技術・海上安全保障など全方向の牽制体制を構築したのだ。クアッドは、核心技術のサプライチェーン(供給網)に対する共通原則を発表し、5G移動通信供給業者の多様化はもとより、中国が掌握した通信装備に依存しないよう無線接続網を開放型に変える「オープンRAN(Open Ran)」に向けて協力に乗り出す計画だ」

    中国は、ファーウェイの5Gを使って世界的に諜報活動を展開する予定であったが、米国を中心とする西側諸国によって事前に遮断された。なぜこのような、姑息な手段を用いて対抗しようとするのか。共産主義に名を借りた権威主義によって、一党独裁を世界に広める動機に基づくものだが、世界史の動きに逆行する「あがき」に見えるのである。共産党員だけが、栄耀栄華の生活を保障される共産主義に、未来永劫性を求めるのは、余りにも幼稚な動きに映るのである。

     

     

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