勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年07月

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    ロシアのウクライナ侵攻で、ロシアの物価は二桁の急騰が続いている。経済発展省が発表の統計では、7月1日時点のインフレ率は前年比16.19%で、前週の16.22%から伸びは若干の鈍化になった。だが相変わらず、市民生活は大きく圧迫されている。

     

    ロシアは、過去の戦争時に経験した自給自足の生活に戻っており、庭で小動物を飼える法律も施行されている。ロシア市民は、ウクライナ市民と被害のレベルは桁違いだが、窮屈な生活を強いられている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月26日付)は、「ロシア人は菜園で自給、制裁下のインフレ対策」と題する記事を掲載した。

     

    クセニヤ・アブラモワさん(43)と母親は毎週末、白いふわふわの毛に覆われた大型犬のサモエドと6匹の猫を車に乗せ、サンクトペテルブルクから5時間かけて家族の庭をいじりにやってくる。そこで年内分の果物や野菜、ナッツを栽培するつもりだ。

     


    (1)「多くのロシア人同様、アブラモワさんも、ウクライナ侵攻後の制裁措置による高インフレや食料供給途絶の可能性に対応しようとしている。「何もかもがばかばかしいほど高い。大惨事だ。だから夜明けから夕暮れまで庭を耕している」と話す。ロシア人の家庭では、夏は緑豊かな田舎の別荘で過ごすのが恒例だ。今年は、食料価格の高騰を相殺するために庭いじりをする人が増えている。6月の食料価格は前年同月比19.1%上昇した。同48%上昇した砂糖や28%上昇したパスタなど、一部の商品の価格はさらに上昇している」

     

    スーパーの棚からは、輸入品がほとんど消え、その後を国産品が占めている。質は落ちても、棚が空になることはないようだ。最低限の生活は営まれている。その裏には、ロシア市民の大半が持っている田舎の家で、野菜作りで自給自足体制を取っているので、少しは生活の足しになっているという。

     


    (2)「米ウィリアムズ大学の社会学者オルガ・シェフチェンコ氏は、「ロシア市民、特に古い世代の人たちは、長年さまざまな激動の連続を生き抜いてきており、自らのリソースを頼りに苦難を乗り切れることに、一定のプライドを持っている」と話す。「人々は生存が懸かったときには個人的な努力という、自己防衛のための『繭』に引きこもるものだ」とシェフチェンコ氏は話す。今それが再び起こっているのだとすれば、「政権が内外の観測者に印象付けようとしている力強い愛国心」とは対照的だ」

     

    ロシア市民は、自己防衛で日々の生活に必要な野菜づくりで保存食を蓄えている。

     


    (3)「ロシア世論・市場調査センターが今年行った調査によると、ロシア人の半数近くが別荘か庭地を所有している。また、夏休みに別荘や庭地で過ごす予定だと答えた人は39%と、昨年より5%増えた。ほとんどの人が、その土地で食料を育てるのに使用していると答えた。写真家のアブラモワさんは、今年に入って収入が半減したと話す。そこで、エストニアとの国境に近いプスコフ近郊の人里離れた場所にある2.5エーカー(約1万200平方メートル)の家族の土地で、母親と一緒に農作業をしている」

     

    ロシア文学では、大地が大きなテーマだ。ロシア人の半数近くが、別荘か庭地を所有しており、黙々と野菜づくりしているという。あの広大なロシア領であるからできる芸当だろう。

     


    (4)「アブラモワさんは、春に温室の換気・かんがいシステムに投資し、果樹園のチェリー、リンゴ、プラム、ナシの木を保護するために殺虫剤を散布した。自慢は40本の木が植えられたナッツ園だ。今季の収穫物で既に漬物やイチゴジャムを作っている。スグリの実やサワーチェリーが熟したら、ウオッカで漬け込むつもりだ。アブラモワさんは重労働が好きなわけではないが、庭いじりは生活の他の部分で増すストレスに対処するのに役立っていると話す。「植物は育つし、植物にとっては世間で起こっていることなど関係ない」という」

     

    庭いじりでストレスを解消しているという。漬物やイチゴジャムを作っている光景は、戦争の影を感じさせないものだが、一方ではウクライナ市民が犠牲になっている。ロシアの田園的風景とウクライナの地獄絵は、この世のものとは思えないチグハグな光景である。

     


    (5)「ソ連時代、政府は都市住民に庭地や「ダーチャ」と呼ばれる夏の別荘を割り当てた。米アリゾナ大学のジェーン・ザビスカ准教授(社会学)によると、国家経済では十分な果物や野菜を生産できなかったため、政府は国民に庭でそれらを栽培するよう奨励した。「経済的な自給自足のためだけでなく、コントロール感や安心感を得るためでもあった」とザビスカ氏は述べた。政府当局は庭造りや農業を奨励している。ウラジーミル・プーチン大統領は最近、農場に関する行政規則を緩和し、庭地で個人が使用するニワトリやウサギの飼育を認める法律に署名した

     

    プーチン氏は、個人が庭地でニワトリやウサギの飼育を認める法律を施行させた。肉まで自給自足体制である。

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    4~6月期のGDP成長率が発表された。前期比で0.7%増、年率2.83%増だ。中身を見ると、新政権誕生への期待感から個人消費が盛り上がったものだ。韓国の個人消費は、政治の変化を敏感に反映する特色がある。

     

    下期は、悪材料がズラリと並ぶ。4~6月期の実質国内総所得(GDI)が、前期比マイナス1%になったので、個人消費が減少すること。大統領支持率の低迷も個人消費を抑制する。次は、「ドル箱」の対中輸出が不調であること。これも経済には大きなブレーキだ。下半期の韓国経済は、「マイナス成長」も否定できない状況である。

     


    『中央日報』(7月27日付)は、「韓国、消費で支えた4~6月期の経済成長率0.7% 輸出鈍化で暗雲迫る」と題する記事を掲載した。

     

    4~6月期の経済成長率は前四半期比0.7%成長した。社会的距離確保が解除され消費が回復した影響が大きい。だが韓国経済のエンジンである輸出が停滞した上に高物価・高金利・ドル高の「3高」が本格化し韓国経済に暗雲が立ち込めている。


    (1)「韓国銀行が26日に発表した4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率(速報値)は前四半期比0.7%を記録した。「0.5%を下回るかもしれない」という市場の見通しより善戦した。前年同期比では2.9%増え、オミクロン株の感染拡大で民間消費が振るわなかった1~3月期の0.6%と似た水準だ」

     

    4~6月期の前期比成長率は0.7%で、1~3月期の同0.6%と大差ないものである。

     


    (2)「4~6月期の成長は民間消費が牽引した。衣類や靴などの準耐久財と、飲食・宿泊と娯楽文化などの対面サービスを中心に民間消費が3%増加した。4月18日から社会的距離確保が解除されたことで冷え込んでいた消費が急速に回復した。政府消費もやはり社会的弱者に対する手当支給など社会保障が増え1.1%増加した。建設投資は建物建設を中心に0.6%増加したが、設備投資は運送装備が減り1%減少した。両指標ともマイナス3.9%を記録した1~3月期と比較すると改善された」

     

    4~6月期の成長率は、個人消費が牽引した。新大統領の誕生やコロナ感染の下火から規制緩和も寄与した。2年ぶりの春を祝えた気分になれたからだ。ただ、企業の設備投資意欲がまだ落込んでおり、十分な回復には至らなかった。

     


    (3)「輸出の将来は暗い。韓国経済の柱である輸出が4~6月期にマイナスに転じたためだ。4~6月期の輸出は化学製品や一次金属製品などを中心に前四半期比3.1%減少した。輸出増加率がマイナスになったのは昨年4~6月期以来だ。ウクライナ情勢と中国都市封鎖、サプライチェーン不安など対外悪材料がそのまま反映された結果だ」

     

    韓国経済を支える輸出は、前期比マイナスに落込んだ。昨年4~6月期以来である。これは、今後の動向と絡むが、韓国経済の負担になる。

     


    (4)「問題は、本格的に高物価・高金利・ドル高の「3高」に苦しめられることになる下半期だ。消費不振は輸出が埋め合わせ、輸出萎縮は消費が支えた上半期とは違い、下半期は内需と輸出とも安心できない状況だ。韓国銀行は5月に年間成長見通しを2.7%と提示した。韓国銀行のファン・サンピル経済統計局長は「高い物価上昇率と景気鈍化への懸念、新型コロナの感染拡大など民間消費と輸出をめぐる不確実性が大きい状況」としながらも、7~9月期と10~12月期に0.3%ずつ成長する場合には目標達成が可能だと話した」

     

    韓国銀行の予測によれば、下半期は0.3%の成長率である。これによって、今年の通年で2.7%成長を達成可能としている。だが、これを否定する見方も多い。

     


    (5)「ほとんどの専門家は2%半ばの成長には懐疑的だ。下半期に成長が鈍化すると予想しているためだ。最大の火種は輸出鈍化だ。現代経済研究院のチュ・ウォン経済研究室長は「6月の輸出増加率が予想より早く鈍化しており、IMFが世界成長率見通しを下げ続けるなど下半期の状況は良くない。7~9月期と10~12月期にマイナス成長する可能性も考えなければならない」と話した。KB証券エコノミストのキム・ヒョジン氏は、今年の年間成長率は2.4%、来年の成長率は1%まで低くなるかもしれない」と予想する。

     

    IMF(国際通貨基金)の最新世界経済予測(7月)では、今年の世界成長率は3.2%に減速する見込み。IMFは4月時点では3.6%、1月時点は4.4%と予測していた。それが、予測の度に下方修正されている。世界経済の成長率は「3%」を割ると、不況に落込み世界貿易が縮小する。輸出依存度の高い韓国経済は、この影響をフルに受け下半期の輸出増加率がマイナスも見込まれるほどだ。

     


    (6)「消費不振の可能性は、4~6月期の実質国内総所得(GDI)で確認できる。4~6月期の実質GDIは、GDPの増加にも関わらず前期比1.0%減少し、2020年4~6月期のマイナス1.6%以降で最も低いレベルだ。貿易環境の悪化による影響である。実質GDIは国の実質購買力を示す指標になる。キム・ヒョジン研究員は、「消費の土台となるGDIが減少し、株式と不動産など資産市場が下落し始めただけに下半期に消費が回復するのは難しい」と話した」

     

    実質購買力の指標である実質国内総所得は、4~6月期に前期比マイナス1.0%である。これが、7~9月期以降の個人消費へ影響する。こうしたことから、下半期のマイナス成長の懸念が強まるのだ。

     

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    「油断も隙もない」という言葉がある。中国には、これが100%当てはまる。米共和党議員による調査で、中国はここ10年間にわたりFRB(米連邦準備制度理事会)職員に対して、情報提供(スパイ)活動するように迫っていたことが判明した。上海へ出張したFRB職員に対しては、機密データを提供しなければ拘束するとまで脅迫した。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(7月26日付)も、この問題を報じている。『ブルームバーグ』をベースにしながらWSJで補足していく。

     


    『ブルームバーグ』(7月26日付)は、「FRBの内部情報狙い中国が工作活動 職員に接触ー米議員報告書」と題する記事を掲載した。

     

    米上院国土安全保障・政府活動委員会で同党筆頭理事を務めるロブ・ポートマン議員がまとめた報告書(7月26日発表)によれば、連邦準備制度が独自に行った調査で何人かの職員が中国側とつながりがあったことが判明。金融政策の手掛かりや内部データのアクセスを得ようとする動きもあったという。

     

    (1)「同議員は声明で、「リスクは明白だ。主要な敵対国の一国からのこうした脅威に対抗するため、連邦準備制度に連邦捜査局(FBI)と協力し対策を強化するよう促す」と表明した。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は同議員宛ての書簡で、報告書の「主張と示唆に強い懸念」を抱いたとコメントし、センシティブな情報にアクセス可能な職員の「包括的」な身辺調査を行うと約束した。連邦準備制度の政策協議は高度な機密情報で、政策決定を支える文書の公表で金融市場が動くことは多い。FRBと12の地区連銀から成る連邦準備制度は、大手金融機関のリスクや資本に関する多くの情報も保持している」

     

    パウエルFRB議長は、名指しされたFRB職員13人の身辺調査を行なうという。本来ならば、FBIに調査を任せるべき案件であろう。

     

    (2)「ポートマン議員の報告書によると、連邦準備制度は中国の工作員とのつながりがあった参考人13人を特定。参考人には8地区連銀の関係者が含まれていた。連邦準備制度は参考人と見なされた職員らを「Pネットワーク」と呼び、中国の工作員は専門家に自己勘定情報の共有を働き掛けていたという。報告書はまた、一人の連銀シニアアドバイザーが大量の内部データを外部のサイトにダウンロードしたとも指摘。このアドバイザーは連銀総裁3人の利上げに関する見解を示した機密情報を求めていた中国政府と関係のある人物から要請を受けていたという」

     

    『WSJ』によると、FRB職員が10年余りにわたって中国の「人材招聘プログラム」から契約を持ち掛けられ、米経済や政策金利の変更、政策に関する情報を現金で買い取ることなどを提案されていたことが判明したという。

     


    「人材招聘プログラム」とは、中国が海外から有力な研究者1000人を招聘するプログラムである。高給を持って優遇し、米国の優れた情報を窃取するのが目的であった。ハーバード大学の学部長経験者で、ノーベル科学賞受賞候補にも上がった「超一級」の人材が、これに引っかかり懲役刑の有罪判決を受けている。FRBへも同様の働きかけがあったわけだ。

     

    『WSJ』によれば、機密情報が漏えいしたかどうかについて、報告書は触れていない。ただ、FRBが米国の経済活動を広く分析し、金融システムの監督や政策金利の決定を行うことを踏まえると、こうした情報へのアクセスによって有益な洞察を得ることができると考えられる、としている。私の意見だが、米中戦争を前提にすれば、中国にとって米国の経済力分析は不可欠である。こういう準備までしようとしていたのだ。

     


    (3)「2018年には別の連銀エコノミストがモデルコードのデータを中国人民銀行(中銀)と関係する中国の大学に移管。19年には複数の中国当局者が上海で4回にわたり連銀職員1人を拘束し、同職員の連絡先を写し取ったとしている。報告書は、具体的な個人名は挙げていない。委員会側は、連邦準備制度のシニアスタッフとしているが、最高幹部ではないという」

     

    『WSJ』によると、上海で拘置されそうになったエコノミストに関しては、米中が貿易戦争の真っただ中にあった2019年に中国当局がエコノミストを拘束し、関税を含む米政府の政策に関するデータや情報を提供するよう強く求めたとされている。

     


    (4)「オハイオ州選出のポートマン議員は、FBIの分析と共に連邦準備制度の独自文書などを基に実施された今回の調査で、米国の「金融政策に対する中国からの広範な脅威に対し連邦準備制度が目を覚ます」ことを期待していると述べた。FBIはコメントを控えた」

     

    米当局者によれば、中国は米政府の情報や企業秘密、科学技術研究を入手するための大規模な工作活動を行っている。その際、中国は人材招聘プログラムを多用し、厚遇で自国の研究機関に採用したり、機密情報を盗むインセンティブを与えているという。

     

    FBIは、中国のスパイ活動の手口を米国の大学・研究機関へと周知させるべく、積極的な情報活動を行なっている。FRBが、中国スパイ活動の対象外であるはずもない。厳重警戒が必要になってきた。

     

     

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    中国は、米国に対して「怖いもの知らず」の振る舞いをしているが、米国のロシアへ見せた経済制裁の威力に恐れおののいていることが分った。今年上半期、中国の一帯一路のロシア投資をゼロにしたことだ。中国は、グローバル経済に深くコミットしているだけに、米国から二次制裁を受ければ対米輸出も止まって、中国経済がガタガタに崩れることを恐れているのだろう。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(7月24日付)は、「16月の対ロシア『一帯一路』投資ゼロ 中国が距離」と題する記事を掲載した。

     

    中国の広域経済圏構想「一帯一路」の対ロシア投資額が初めてゼロになった。ロシアのウクライナ侵攻を受けた欧米の経済制裁に違反し、強硬措置を発動されたくないという思惑がうかがえる。中国・上海の復旦大学グリーン金融発展センターがまとめ、『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が入手した報告書によると、2022年1~6月に中国はロシアの企業や団体と一帯一路関連の新規契約を1件も締結しなかった。

     


    (1)「同センターの王珂礼所長は、制裁違反になるのを恐れて中国がロシアでの投資を控えた可能性があると話した。その一方、中国は中東への関与を深めていた。王氏は投資の減少はおそらく「一時的」であり「ロシアと中国には確実に強いつながり」があるとみる。その証拠にウクライナ侵攻にもかかわらず、中国はロシアからエネルギーの購入量を増やしていると述べた。一帯一路は中国の習近平国家主席が肝いりで立ち上げた世界最大とされる経済開発構想で、ロシアはこの計画の投資先として大きな恩恵を受けてきた国の一つだ」

     

    現在のロシアは、海外投資を渇望している。頼りにする唯一の国・中国が、今年上半期に対ロシアへの一帯一路投資をゼロにしたことはショックであろう。「中ロ枢軸」と言っても、経済面のつながりはこの程度である。中国が、国内向けにロシアを利用して、「中国は孤立していない」と強調しているのかも知れない。習氏の「個人的事情」が、前面に出た中ロ関係かも知れない。中国国内では、ロシアとの結びつき強化に反対する層が存在することを示唆している。

     


    (2)「報告書では2013年の始動以来、この計画による中国の累積投資額は9320億ドル(約127兆円)に達する。このうち5610億ドルは建設契約で、3710億ドルは投資だ。事業は港湾、鉄道からデータセンターや鉱山まで多様な業種に及ぶ。半期ベースで中国とロシアが一帯一路関連の契約を結ばなかったのは22年上半期が初めて。両国は21年には約20億ドル規模の契約を結んだことが調査でわかっている。米バージニア州にあるウィリアム・アンド・メアリー大学の研究機関エイドデータによると、一帯一路を含めた中国からロシアへの公的融資は00年〜17年に1254億ドルに達した。このうち580億ドルは中国国家開発銀行、150億ドルは中国輸出入銀行によるものだ。両行は政策金融を担当している」

     

    下線部は重要である。中国のロシアへの公的融資は、1254億ドルに達している。貸付はドル建てだ。中国の場合、自己資金での融資でなく海外からの借入金を「又貸し」している例が多く、貸付金利は商業ベースである。つまり、借入れ金利に上乗せして貸し付けている。だから、貸付先がデフォルト(債務履行)になると、元利金を一銭も減らさないという「あこぎ」なことを行なっている。

     

    中国が、今年上半期の一帯一路投資をゼロにしたのは、米ドル金利が高騰して採算が合わないという裏事情も考えられる。

     


    (3)「
    復旦大学の報告書は、かつて中国が「世紀のプロジェクト」と呼んだ一帯一路の役割が変化し、規模が縮小していることを示している。中国がこの構想に参加する147カ国を対象にした投資や協力事業は22年上半期で284億ドルにとどまり、前年同期の296億ドルから減少した」

     

    新興国は一般的に、現在のドル高と高金利に音を上げている。急速に、財政状況が悪くなっている国が多い。中国は、焦げ付け債権(不良債権)が増えているはずだ。先進国のパリクラブ(新興国への貸付金を持つ先進国の集まり)は、新興国の財政立て直しをすべく元利金の減免を行なっている。中国は、全くの非協力である。借入金の又貸しであることが理由と見られる。これでは、一帯一路の協力事業を抑えるほかない。

     

    (4)「一帯一路事業の長期的減少は、中国の融資が立場の弱い相手国の財政圧力をいかに高めているかを精査する動きが活発になったことを受けたものだ。最近の例では5月にデフォルト(債務不履行)状態に陥ったスリランカがある。研究者はこの事業規模は過去のピーク時の水準には戻らないとみる。データからは、中国が中東やアフリカ、中南米でクリーンエネルギー技術の開発に使われる鉱物などの戦略資源の確保に的を絞っていることを示している。王氏は「一帯一路は今も非常に重要だ」と述べた」

     

    下線のように、一帯一路事業は終焉を迎えている。中国は、自己資金を貸付けるという先進国のスタイルに馴染まないのだ。中国は、見栄を張って自己資金のように貸付をしたり、投資している。それも限界を迎えたのだ。

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    習近平氏は昨年7月、「共同富裕論」を打ち上げて、インターネット関連産業が抑制対象になった。また、不動産開発企業には3つの財務ルールを適用して、過剰債務規制を始めた。こうして、インターネット関連産業と不動産開発産業は、一挙に斜陽化への道を歩まざるを得なくなった。

     

    前記2業種は、大学卒業生にとって花形産業であり、重要な雇用吸収の場であった。それが、もはや見る影もなくなっている。若者の失業者は、1500万人とも言われている。「5人に1人は失業」という就職苦難期を迎えているのだ。

     

    民間企業が狭き門になっているので、就職先は公共部門へ殺到している。「安定」を求めた結果であるが、中国経済のイノベーションの芽を摘んで、将来の潜在成長率を引下げる要因になると指摘されている。

     


    『ブルームバーグ』(7月26付)は、「中国経済、次のリスクは若年層の雇用危機深刻化ー5人に1人が失業」と題する記事を掲載した。

     

    中国の歴史上最も教育を受けた世代は、より革新的で技術的に進んだ経済を切り開く道を歩むと期待されていた。だが、約1500万人の若者が失業していると推計される中で、公務員や国有企業への就職を目指す大卒者が増えており、起業家精神が失われつつあるようだ。

     

    (1)「16~24歳の都市部失業率は6月、過去最悪の19.3%と、米国の2倍余りの水準に上昇。政府の厳格な新型コロナウイルス対策で人々は職を失い、不動産・学習塾企業に対する規制強化が民間部門に打撃を与えた。労働市場は今夏、大学と専門学校を卒業した過去最多の約1200万人を迎えるが、これも雇用のミスマッチを強めることになる。希望する職に就けない若者たちは民間企業に失望し、報酬の低い公的部門で働くこともいとわないようになっている。こうした傾向が続けば経済成長にはマイナスで、労働力の縮小は国内総生産(GDP)に対する下押し圧力となる。失業と不完全雇用は給与にも影響を及ぼし続ける。2020の研究では、5年前に失業を経験した人の賃金が3.5%減ったことが示された」

     

    習氏の「世迷い政策」が、確実に中国の将来を蝕んでいる。困ったことに、中国指導部は、この現実に異議を唱えず、唯々諾々と従っている。羊の群に化した。習氏の魔法にかけられているようである。失業者の群は、賃金を引き下げて経済成長にマイナスとなる。

     


    (2)「中国の規制当局が昨年狙い撃ちしたのは、インターネットなどそれまで高成長を遂げてきた業界だ。民間企業が支配的なこうしたセクターは、やる気のある若者を多く引き付けていた。ネット企業には独占的な慣行を理由に罰金処分が下され、民間の学習塾運営セクターはほぼ全面的な事業停止に陥った。当局への届け出によると、中国の上場教育会社上位5社は規制当局による締め付け後の1年間に従業員を計13万5000人減らした」

     

    習氏が、大学卒業生の花形職場を奪ったのは、製造業重視の結果である。将来の米中戦争を前提にしており、武器生産で製造業を強化する必要があるからだ。習氏は、本気で戦争を準備していると見るほかない。そうでなければ、こういう愚かな政策を進めるはずがない。

     


    (3)「
    公務員・国有会社志向の強まりが意味するのは、新しい業界に飛び込みイノベーション(技術革新)に挑む若者が減る可能性だ。中国就業研究所(CIER)の曾湘泉所長は、「中国経済が今直面している構造調整に必要なのは、起業家として挑戦する人を増やすことだ」「若い労働力を活用し損なっており、経済にとって良いことではない」と述べた。人材サービスの51ジョブによると、大卒者の約39%が昨年、国有企業への就職を第1志望として挙げた。17年は25%だった。公務員を第1志望とした割合は28%に上ったが、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)に見舞われた労働市場では、合理的な選択だ」

     

    公務員重視は、発展途上国の特色である。民間を統制するためだ。中国の前途には、「中所得国のワナ」という、障害物が控えている。これを突破するには、民間による経済力底上げが不可欠である。そのテコを抑圧しているのだ。習氏が、常識外れの行動に出ているのは、GDP世界一を諦めて米国との戦争の道を選んでいる公算が強い。警戒すべきだ。

     


    (4)「徹底的に新型コロナを封じ込める「ゼロコロナ」政策の厳格なロックダウン(都市封鎖)と、隔離措置にあらゆる職場が大打撃を受けた。雇用削減に踏み切る傾向は、民間企業が強かった。政府が講じた雇用対策の柱は、公的セクターに雇用を増やすよう命じたことだった。ただ、若者たちが政府に不満をぶつけるのではなく、国有企業に就職しようとしていることに習近平国家主席に安堵(あんど)しているかもしれない」

     

    国有企業の生産性は、民間企業を大幅に下回っている。習氏は、生産性の高い部門を抑えつけ、低い方へ人材を向けている。あべこべだ。これこそ、習氏の狙いがどこにあるかを明確にしている。

     

    (5)「人材派遣などを扱う智聯が4月に実施した調査によると、大卒者が期待する初任給は昨年に比べ6%余り下がり月6295元(約12万7000円)となった。この間に国有企業の魅力が高まったという。所得期待の低下と人材が民間部門を敬遠するトレンドは、長期的に成長を低下させる可能性があり、35年までに中国経済の規模を20年の水準から倍にするという習主席の計画には逆風だ。その過程で、国内総生産(GDP)が米国を抜き世界一の経済大国になるという習主席の野心にも影響する」

     

    下線のように、大卒者の期待初任給は約12万7000円である。日本は、2020年で約23万円である。日本が8割上回る。岸田首相は、企業へ賃上げを呼びかけているので、日中の差が開きそうだ。

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