勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年07月

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    習近平氏が最近、ワクチン接種したという「古いニュース」が発表された。誰でも、今頃になってなぜ、と訝ったはずだ。これは、国産ワクチンの接種を忌避している高齢者へ、ワクチン接種を奨める意味であった。

     

    中国の「ゼロコロナ」は、防疫体制の遅れを世界へ宣伝しているようなものである。優秀なワクチンがない結果、ロックダウンして感染を防ぐしかないのだ。中国製ワクチンは、70種類以上の副作用が知られているほか、白血病で亡くなるケースも稀でない。こうして、高齢者がワクチン接種を忌避しているのだ。「ゼロコロナ」の裏には、テコでも動かない高齢者のワクチン不信感が存在する。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月26日付)は、「中国『ゼロコロナ』ワクチン接種の足かせに」と題する記事を掲載した。

     

    中国では高齢者や重症化リスクの高い人々の間で新型コロナワクチンの接種が進んでいないため、集団検査とロックダウン(都市封鎖)の悪循環を断ち切ることができず、世界第2位の経済大国の足かせとなっている。

     

    (1)「中国政府はここ数カ月でワクチン接種率を押し上げようと取り組んできた。だが、数千万人におよぶ60歳以上の国民は依然として未接種で、さらに多くの国民が流行中のオミクロン変異株の亜種から身を守るために必要なブースター接種(追加接種)を受けていない。中国当局は、最高指導部メンバーたちが接種したワクチンが国産であると発表し、ワクチンの深刻な副作用を巡る根拠のないうわさを否定することで、高齢者を中心に広がるワクチンへの懐疑的な見方やためらいを克服しようとしている」

     

    中国製ワクチンが効かないことは周知のこと。噂話の好きな中国人が、この種の話には敏感に反応している。中国国民は、政府の発言を信用しないことで有名だ。昔から、「上に政策あれば、下に対策あり」の国である。必ず、逃げ道を探す国民である。

     


    (2)「中国政府が23日発表したデータによると、7月22日時点で人口14億人のほぼ90%が少なくとも2回目接種を完了済みだ。60歳以上の高齢者も同様の割合で1回目接種を完了しているが、これは裏を返せば、2700万人以上が依然として未接種であることを示唆している。ブースター接種率ははるかに低く、人口の約57%、60歳以上では67%にすぎない。中国政府のデータによると、新型コロナ感染症による重症化や死亡のリスクが最も高い80歳以上の人々の25%以上がワクチン未接種であるほか、60%以上がブースター接種を受けていない

     

    下線部は、中国製ワクチンの効果が低いことと合わせて、時間が経てば経つほどワクチン効果はゼロ同然になっていく現実がある。この哀しい事実が、ゼロコロナを必要としている。「水みたい」と批判されてきた中国性ワクチンが、こういう事態を招いたと言える。

     


    (3)「この数字は、中国の新型コロナ対策における重大な弱点を示している。中国は従来の技術で開発した国産ワクチンに依存しており、専門家によれば、重症化や死亡を十分に防ぐには少なくとも3回の接種が必要だ。ワクチン接種率の低さはまた、厳格なロックダウンと集団検査によって感染拡大を封じ込める「動態(ダイナミック)ゼロコロナ」戦略からの移行を阻む要因にもなっている。上海では今年前半、2カ月にわたり大規模なロックダウンが実施された」

     

    効かないワクチンが、接種率を引下げている。これによって、やむを得ず「ゼロコロナ」に進まざるを得なくさせている。中国政府は、効かないワクチンの現実を知っている筈だ。

     

    (4)「ワクチン接種のペースもここ数カ月で低下している。中国政府のデータによると、1日あたりの接種回数は2022年1月上旬の800万回余りをピークに減少しており、6月には100万回を大きく下回った。中国ではワクチンを巡る過去の不祥事に加え、高齢接種者を対象とする国産ワクチンの安全性と有効性に関するデータが不足しているため、国民の間で接種忌避が根強い。公式のワクチン接種ガイドラインは、発作が起こる慢性疾患患者について注意喚起している」

     

    下線部は、小児用ワクチンで大掛かりな不正事件を指している。製薬メーカーと保健所が組んで、検査で落ちたワクチンを出荷させて死者を出した事件だ。「金のためなら何でもやる」中国社会の悪しき伝統が、現在のような危機克服時に足を引っ張っている。

     


    (5)「習近平国家主席のゼロコロナ政策が、比較的成功を収めていることも、接種促進の妨げになっている。一般の中国人の多くは感染リスクが低いことを理由にワクチン接種の必要性を感じなくなっているためだ。新型コロナ感染急拡大の波が他国を襲う中、中国は国家の誇りとしてゼロコロナ政策を掲げてきた。香港大学公衆衛生学院で疫学部門を率いるベン・カウリング教授は、「中国本土の高齢者がワクチン接種に消極的な主因の一つは、新型コロナのリスクが低いと考えられていることだ」とし、「ダイナミック・ゼロコロナ戦略を実施中の場所でワクチン接種の義務化が正当化されるとは思えない」と指摘する。「この場合、まれに発生する副作用のほうが、ワクチン接種で期待される利点より重視される可能性が高いだろう」

     

    下線部は、中国の現状を見事に言い当てている。効かないワクチンどころか副作用もある。運悪ければ、白血病に罹る危険性もあるのだ。これでは、進んでワクチン接種を受ける気持ちにはなるまい。すべては、習近平氏が欧米製ワクチンを承認しない狭量さの招いた悲劇である。

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    中国は、固定資産税の存在しない国である。いくら多くの住宅を持っていても無税である。これほど、「金持ち優遇」の共産主義国家も珍しい。これだけでも、習近平体制下の中国政治が何を目的にしているかを示唆している。共産党員優遇が目的である。

     

    固定資産税のない代わりに、地方政府は土地国有制度を利用し、土地売却収入を主要財源にしている。これによって、間接的に不動産バブルを焚きつけてきた。割高の土地売却価格を提示して入札にかければ済むからだ。この「土地本位性」というカラクリが、今や破綻して逆回転を始めている。住宅価格の下落で土地売却収入が激減しているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月25日付)は、「中国地方政府の土地収入、7年ぶり前年割れの公算 22年」と題する記事を掲載した。

     

    中国の地方政府が依存する土地収入が、2022年は7年ぶりに前年割れする公算が大きくなっている。財政省によると、1~6月の収入は前年同期を31%下回った。政府の規制強化などで不動産開発会社が資金不足に陥り、マンションの新規開発に必要な土地の需要が落ち込んでいる。財政難が深刻になれば、地方政府と国の公共事業で当面の景気浮揚につなげる習近平指導部の目算が狂い、経済底上げの支障となりかねない。

     

    (1)「中国の土地は国有地のため、地方政府が入札で土地の使用権を不動産開発会社に販売する。景気対策の減税などで税源が細るなか、地方政府は土地収入への依存を強めてきた。地方政府の決算をみると、20年の土地収入は遡れる10年以降で初めて地方税収を上回った。頼みの綱の土地収入が昨夏から落ち込んでいる。単月でみると前年同月比の減少率は拡大し、6月は39.%減と、15年5月以来の大きさとなった。通年での前年割れは、「チャイナ・ショック」と呼ばれ景気が減速していた15年以来となる。

     

    今年の土地販売収入は、2015年以来7年ぶりである。それだけ、地方財政は逼迫する。インフラ投資を行なう余裕はない。

     


    (2)「当時を振り返ると、住宅販売の面積や価格は14年に落ち込んだ後、15年には持ち直した。一方、地方政府の土地収入は15年に前年を下回り、16年から回復した。まず住宅市場の需要が盛り返し、販売が伸びる。マンションの在庫も少なくなると、不動産開発会社が新規開発へ土地の確保に動く。そうして、地方政府の土地収入が増えるという構図だ」

     

    マンション販売が回復しない限り、土地販売収入は増加に転じない。肝心の住宅は、さらに悪材料である住宅ローン支払い拒絶問題が起こっている。購入心理は、一段と萎縮するであろう。

     

    (3)「土地収入の先行きを占う住宅販売は足元でさえない。中国の証券会社、広発証券によると、主要30都市のマンションなどの取引面積は、7116日時点で前年同期比38%減った。上海市のロックダウン(都市封鎖)解除などで、住宅展示場の来訪者が増えた6月は前年同月比6%減までマイナス幅を縮めていた。マンションの値上がり期待が薄れたことに加え、景気悪化で所得不安も高まっている。住宅販売の本格回復には時間がかかりそうだ」

     

    下線分は重要である。マンションの値上がり期待は消えている。雇用不安がつきまとっており、とても安心して住宅を購入できる環境でない。

     

    (4)「財政省が発表する土地収入には、地方政府内のお金のやりくりで「水増し」している分もある。中国系証券会社の国盛証券は、主要20都市が22年に実施した1回目の土地入札の落札企業を調べた。融資平台と呼ぶ地方政府傘下の投資会社が35.%を占め、国有企業とほぼ並んだ。民間の不動産開発企業は3割弱にとどまった。中国では地方政府は認可された債券発行以外の資金調達ができない。そこで融資平台が「別動隊」として資金調達し、公共事業などを手掛けることが少なくない」

     

    公式発表される土地販売収入には、「水増し」が含まれている。純然たる民間業者への土地販売でなく、地方政府の「身代わり」である融資平台が落札しているケースが35.%も占めている。これは、タコが自分の足を食っていると同じこと。地方政府にとっては、土地販売が行き詰まっている証拠である。

     


    (5)「融資平台に土地を購入させることは、融資平台からのつなぎ融資に近い。マンションの建設予定がない土地は地方政府が買い戻すか、塩漬けになって融資平台の財務を悪化させる。融資平台の経営が行き詰まれば、最終的には地方政府が支援せざるを得なくなる可能性がある。土地収入への過度な依存が地方財政を揺らす。

     

    融資平台による土地購入は、帳尻だけ合わせて中身が足りない結果になる。勘定合って銭足らずになるのだ。これは、地方財政破綻の原因になる。すでに多くの地方財政は、融資平台を使って厖大な「隠れ債務」を抱えている。これまでの、経済成長はこういうカラクリの上に出来上がったガラスの城である。

     


    (6)「土地収入に代わる安定財源として、固定資産税に相当する不動産税が必要だとの声は多い。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は21年10月、政府が同税を試験導入することを認めた。政府内の調整が本格化したが、22年3月に年内見送りを発表した。景気の落ち込みに加え、秋の共産党大会を控えて混乱を避けたもようだ。土地財政の改革が先送りされ、地方の財政難は一段と厳しさを増している。米S&Pグローバルは、地方政府の最大3割が22年末時点で、歳出削減など早期是正措置を求められる水準まで財政が悪化するとはじいた」

     

    今年こそ、固定資産税導入に踏み切ると見られていた。だが、共産党員は一斉に反対して、独裁者の習近平氏すら撤回させる圧力となった。すさまじい反対の請願が寄せられたのだ。

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    プライドの高い韓国人は、他人が金儲けしたという話を聞くと、自分も遮二無二借金して「参戦」するという国民性である。なんと20代の債務破綻者が、今年上半期に2019年の同期より28.3%も増えたという。原因は、株式ブームに乗ろうと借金したが、その後の値下がりで損失を被り、返済が不可能になったものだ。

     

    昨年1月ころ、うなぎのぼりの株価上昇に、全国民が「株式熱病」を患っていた。「2人以上集まれば株の話をしている」と言われるほどの熱狂ぶりであった。日本では考えられない加熱ぶりだ。他人が儲かったという話を聞くと、もうじっとしていられない。付和雷同型なのだ。反日もこの調子でやるのだろう。

     

    国際金融協会(IIF)の報告書によると、韓国は昨年4~6月期の対GDP比の家計債務残高が104.2%。調査対象の世界37カ国・地域の中で唯一、家計債務残高がGDPを上回った。韓国に次いで、香港(92.0%)、英国(89.4%)、米国(79.%)。日本はぐっと低く63.9%だ。日本の家計は、韓国に比べて超堅実である。


    『中央日報』(7月25日付)は、「崖っぷちに追いやられる『借金で投資』韓国で20代の債務調整申請3年で28%急増」と題する記事を掲載した。

     

    昨年株式と暗号資産のブームの中で投資に出た20~30代が崖っぷちに追い込まれている。資産市場過熱の中で低金利をレバレッジとして積極的な投資に出たが、資産市場の下落と金利引き上げの逆風によろめいている。「20~30代金融残酷史」が再び繰り返されている。

     

    (1)「与党「国民の力」のユン・チャンヒョン議員室が23日に信用回復委員会から提出させた内容によると、上半期の20代の債務調整申請者は7594人で投資ブーム前の2019年の5917人より28.3%増えた。世代別の増加率を見ると、高齢化などの原因で60代以上の増加率が31.8%で最も高い。問題は、他の年齢層に比べ20代の債務調整申請増加率が目立つところにある。40代の債務調整申請は0.7%減ったが、30代の6%、50代の4%と比較して、20代の30%弱の増加幅は目立った大きい」

     


    世代別の債務破綻増加率を見ると、60代以上が最も高いのは高齢化の影響である。だが、この世代を除くと、20代が28.3%と極めて高い増加率である。社会的な経験が、他世代と比べて少ないということを割引いても、突出した増加率である。他人が儲かっている話を聞いて、「自分も」と安易な株式投資が招いた災いである。

     

    (2)「今年上半期は、政策金利引き上げに伴う貸出金利上昇によって、株式と暗号資産などの価格が下落した。この点を考慮すると、下半期になって20代の債務調整申請者がさらに増える恐れがある。実際、「共に民主党」のイ・ヨンウ議員室が、韓国大手証券会社5社の年齢別担保不足口座を分析した結果、6月24日基準で20~30代の割合は21.3%に達した。株式担保融資は主に株式投資に慣れた40~50代の専有物と見なされてきた。それが、相当数の若い世代は、株式を担保に資金を借りる危険な投資をして損失を出した」

     

    今年に入ってから政策金利は、急ピッチで引き上げられた。この影響で、さらに下期の債務破綻増になって現れる恐れが強い。大手証券会社5社の年齢別担保不足口座を分析によれば、6月24日基準で20~30代の割合は21.3%に達している。株価が回復しない限り、信用取引の期限によって損失が確定する。下期の債務破綻者がさらに、増える気配である。

     


    (3)「ユニインベストのイ・ソンス代表は、「2000年代初めのドットコムバブルの時も若い投資家がカードローンを使って投資をしたり信用取引で株式を売買することを当然視する雰囲気が蔓延した」と話す。2002年のカード大乱では所得のない青年層に無分別にカードを発行し、カード債務に追われる青年層が急増して社会的問題になった」

     

    カードローンによる借入で、株式の信用取引を行なっている層が多いと見られている。韓国では、小学校から金融知識を教えないと「一攫千金」を狙うことの犠牲者を減らせまい。

     

    (4)「最近の雰囲気も、こうした流れと無関係ではない。「青年世代の積極的投資→被害と社会的危機→国の救済」が、タイムラグを置いて似たパターンで続く様相だ。最近、金融委員会が青年特例プログラムを通じ信用評点下位20%以下の34歳以下の青年を対象に最長3年の償還猶予期間を与え、3.25%の低金利を適用することにして借金して投資するのを助長しかねないとの議論などが起きている」

     

    韓国の「徳政令」が現在、問題になっている。「青年世代の積極的投資→被害と社会的危機→国の救済」という悪循環が続いているからであろう。宗族社会の慣わしで、「身内を救済しなければならない」という、妙な同情心が根付いているのだ。甘えの社会である。

     

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    中国経済は、「土地本位性」でのし上がってきたが現在、大きな障害にぶつかっている。購入予約した住宅が竣工せず、消費者はローンだけ払い続けることを拒否しているからだ。これが、中国社会へ衝撃を与えている。

     

    ローンを組んで住宅を購入したミドルクラス(中間所得者層)にとって、持ち家の評価額が下がり家計資産が目減りしていることは大問題である。不動産市場は、中国経済の2割強を占め、家計資産の約70%が不動産市場に関係している。不動産は、中国共産党にとって最も政治的に難しい問題の一つになった。潜在的危険性が突如、習近平氏の前に立ちはだかってきたのだ。

     


    『ブルームバーグ』(7月25日付)は、「中国の不動産危機,ミドルクラスを直撃-積極的な住宅購入が裏目に」と題する記事を掲載した。

     

    中国で深刻化しつつある不動産不況は同国に4億人いるミドルクラス(中間所得者層)に衝撃を与え、不動産は確実な蓄財方法との概念を覆しつつある。

     

    (1)「不動産開発が各地で停滞し、住宅価格が下落する中、多くの住宅所有者は支出を削減しているほか、結婚など人生の重要イベントを先送りし、未完成物件の住宅ローンの支払いを差し控えるケースも増えている」

     

    住宅は、高額で人生最大の買い物である。その住宅が、購入予約したばかりに、いつ完成すか分らず、毎月ローンだけを払い続けさせられる身となれば、ローン支払い拒絶は当然である。

     


    (2)「例えばピーターさんは起業も高級車「BMW5シリーズ」の購入も断念した。河南省の省都・鄭州にある自宅200万元(約4030万円)相当の建設を中国奥園集団が停止したためで、この完成しないかもしれない住宅のローンに可処分所得の90%を奪われている。「全ての投資にはリスクが伴い、自分の選択の代償を支払わなければならないことは分かっている。しかし、住宅所有者に責任はなく、しわ寄せがいくべきではない」と、ピーターさんは報復への懸念からフルネームや個人情報を使わないことを条件に語った」

     

    住宅のローンに可処分所得の90%を支払うとは、共稼ぎでない限り不可能だ。大変な高額物件を購入契約したのであろう。

     

    (3)「奥園や中国恒大集団などの不動産開発業者がプロジェクトを停止したことを受け、中国の90都市余りでピーターさんら数十万人の住宅購入者が計2兆元の住宅ローンの支払いを拒否。総資産の70%が住宅関連と推定されるミドルクラスで、返済ボイコットに加わる人が増えており、経済・社会の安定に脅威をもたらしている。中国当局は現在、状況打開を急いでおり、ローン支払いの猶予期間を設けたり、地方政府や銀行が開発に介入・救済するといった案も出ている」

     

    現在、90都市余りで数十万人の住宅購入者が、計2兆元(約40兆3000億円)の住宅ローンの支払い拒否を始めている。この動きが、どこまで広がるかだ。中国不動産バブルは、消費者反乱で終焉を迎える。これは、同時に大きな政治問題へ発展する危険性を秘めている。

     


    (4)「ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、クリスティ・フン氏の試算によると、建設停止の影響は中国の住宅計4兆7000億元相当に及ぶ可能性があり、そうした未完成物件を完成させるには最大1兆4000億元、つまり国内総生産(GDP)の約1.3%相当が必要となる可能性がある」

     

    建設停止中物件の影響は、総額で約4兆7000億元相当(約94兆7000億円)に及ぶ可能性があるという。これら未完成物件を完成させるには、あと28兆円強の追加投入が必要という。GDPの1.3%に当る。政治危機を防ぐには、政府がこの巨額資金を負担するほかない。

     

    (5)「中国の住宅価格は10カ月連続で下落し、1人当たりの可処分所得は4~6月(第2四半期)に5四半期連続で縮小した。過去10年の借り入れブームを背景に、2021年末の中国の家計債務は対GDP比で61.6%と、11年末の27.8%から上昇。それでもなお、米国や日本などと比べれば低い水準にある。交銀国際の中国担当ストラテジストだった洪灝氏は住宅ローンの返済ボイコットが、住宅価格と販売を抑制し、経済全体に波及する負の資産効果を生み出すと予測する。不動産市場について、「良い投資先だとは思わない。かつては住宅価格が下がることは決してないと考える人が多かったが、パラダイムシフトが起きている」と指摘した」

     

    今回の住宅ローン支払い拒絶問題は、住宅神話を根本から否定する結果になった。住宅を買い急ぐ危険性を嫌と言うほど知らされたのだ。住宅価格は、すでに10カ月連続で下落している。「土地本位性」に踊らされた中国国民は、住宅価格の値下がりで資産目減りに耐えなければならなくなった。

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    「世界の工場」とされる中国東部の工業地帯は、受注低迷で深刻な事態に陥っている。その日暮しを続ける農民工にとって、仕事は減る時給も低下とダブルパンチに見舞われている。景気下支え役を担うインフラ工事は増えても、沿海部に暮らす農民工には無縁だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月25日付)は、「中国、ゼロコロナで揺らぐ『世界の工場』 雇用戻らず」と題する記事を掲載した。

     

    中国の新型コロナウイルスの感染封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策が、「世界の工場」と呼ばれる南部・広東省の経済に打撃を与えている。省内には様々な製造業が集積するが、求人が減り給与も大きく下がっている。上海市のロックダウン(都市封鎖)などの影響で、多くの工場が受注の減少で操業を止めたからだ。足元も求人件数は低迷しており、回復のメドが立っていない。

     

    (1)「中国のSNS(交流サイト)で6月末、夏休みのアルバイトの仕事を探す学生たちに対し、広東省の電子部品工場の採用担当者が言い放った場面とされる動画が拡散した。「9元(約180円)だ! 1時間9元だ! 嫌なら荷物をまとめて帰れ!」。今の中国で9元はかなり低い水準だ。庶民的な料理である牛肉麺を例にとっても、都市部の店で食べるなら1杯10元以上する。時給9元では1時間働いても昼食代に達せず、SNS上では「法外だ」「あまりに低い」などの批判が多く集まった」

     

    広東省の電子部品工場では、時給180円で採用している。昼食代にもならないと非難されている。これが、現在の中国の姿だ。

     

    (2)「これは決して特殊な事ではない。省都の広州市に隣接し、数多くの工場が立地する東莞市。「今なら夏休みのアルバイトの時給は7元だ。9元と言うところがあっても2元は仲介手数料。もっと高い時給を提示するところがあったら、それは噓だ」。7月中旬、市内の人材仲介所を訪ねると、担当者の蔡さんはそう話した。1年前の時給は12~13元だったが、現在は大幅に下がり、社会人向けの求人も学生向けアルバイトと同じような状況だという。別の人材仲介所では時給20元前後をアピールする張り紙も見られるが、それらの多くが色あせており、以前の求人情報をそのまま掲載しているだけで実際には募集されていない」

     

    1年前の時給は12~13元だった。現在は9元と大幅に下がっている。受注が減っている以上、支払い能力の限界がここまで低下したもの。ざっと、4分の1も切り下がっている。

     


    (3)「時給の大幅低下の背景にあるのは、市内に数多くある工場の求人が激減したことだ。上海市のロックダウンは6月に解除され、政府の景気刺激策もあって自動車関連産業などはにわかに活況を呈している。ただ東莞市は電子部品や軽工業の工場が多く、受注が戻らないまま稼働停止に追い込まれているケースが多い。統計数値も減速ぶりを示す。広東省の22年1~6月期の域内総生産(GDP)は2.%増にとどまり、1~3月の3.%増から鈍化した。高速通信規格「5G」対応スマートフォンや電気自動車(EV)などの生産が増えているとされるものの、電子部品全般に増加のペースがにぶり、素材関連の落ち込みも目立つ」

     

    「世界の工場」とされる広東省のGDPは、今年上半期で前年比2.0%増である。未だに、回復への兆しが見えない。「時給9元=約180円」が、それを物語っている。

     


    (4)「経済が減速し求人も減れば、雇用の不安定化につながる。東莞市をはじめ広東省には「農民工」と呼ばれる農村からの出稼ぎ労働者が多く来ている。中国に約3億人いる農民工のうち半分は、沿岸部である東部地区で働く。このうち広東省の主要都市を中心とする珠江デルタ地区は4000万人を超える。その多くは第3次産業で働くが、東莞市などに数多く立地する工場も雇用の大きな受け皿となってきた」

     

    農民工(出稼ぎ)は約3億人とされる。このうち、珠江デルタ地区は4000万人を超える人たちが働く。低い時給でも、我慢しなければならぬ身の上の人たちだ。この経済構造で、世界覇権を握りたい。こういう野望は、どこから出てくるのか不思議だ。

     

    (5)「今でも地方から職を求めて広東省にやってくる人は多いが、簡単には仕事が見つからない状況だ。東莞市内では「1カ月かかっても良い仕事が見つからない」(湖北省の若い女性)、「いくつも人材仲介所を回ったが、どこも閉まっている。早く仕事が見つからないと食べていけない」(湖南省の30代の夫婦)など、悲痛な声が聞かれる。こうした出稼ぎ労働者の雇用を確保できなければ、所得格差などの社会問題が広がる恐れがある」

     

    農民工は、地方から出て来ても目指す仕事が見つからない。生死に関わる問題である。

     


    (6)「地元政府も手をこまねいているわけではない。中国メディアによると東莞市政府は
    6月下旬、地元企業の関係者などを呼んで雇用問題を話し合う座談会を開いた。各企業からは原材料価格の上昇や輸送の混乱、人材流出などの課題への支援について要望が相次ぎ、政府も支援を約束したという。広東省政府も企業に対して雇用を増やすように働きかけを強めている。求人不足の主因が、受注の減少による工場の稼働停止である以上、経済が正常化しないことには根本的な解決にはならない。ゼロコロナ政策を堅持する限り、コロナの感染が広がれば再び主要都市でもロックダウンに踏み切る恐れがあり、先行きを見通しづらい状況が続く」

     

    下線が指摘するように、中国経済の回復がなければ農民工も救われない。その時期はいつか。誰にも分らないのが現実だ。習近平氏一人の「胸三寸」にある。

     

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