勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年08月

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    米議会は、「インフレ抑制法」を超スピードで成立させた。今月7日に上院、12日に下院を通過し、16日の大統領署名・発効まであっという間であった。秋の中間選挙を控えて、国民にインフレ抑制姿勢を見せねばならなかったからだ。

     

    この「インフレ抑制法」は、北米製のEV(電気自動車)には補助金がつく。だが、それ以外の輸入EVは対象外にしたことで韓国製EVも補助金を受けられず、韓国国内は蜂の巣を突いたような騒ぎだ。

     

    韓国の言分は、米国内で2025年に韓国企業のEVが生産される予定である。それにも関わらず、韓国製の輸入EVを補助金対象から外したのは酷い、という感情論である。ただ、現時点では韓国企業のEVは米国で生産されていない以上、補助金対象にはならないのは当然であろう。

     


    韓国の主張を聞いていて気付くのは、米国への「甘え」である。日本に対しては、「ホワイト国除外」はけしからんと言って、反日不買運動を行なったと同じ理屈である。感情過多の国民である。

     

    『朝鮮日報』(8月31日付)は、「自動車業界、米国の韓国製EV差別に裏切られた 外交で解決を」と題する記事を掲載した。

     

    韓国自動車産業連合会の鄭晩基(チョン・マンギ)会長は本紙とのインタビューで、米国が最近、韓国製電気自動車(EV)を補助金支給対象から除外したことについて、「今年5月のバイデン大統領の来韓当時、大規模な投資という手土産を渡した韓国企業にとっては裏切られたとまで感じさせる政策だ」と述べた。

     

    (1)「鄭会長は、「インフレ抑制法が11月の米中間選を前に拙速な形で成立しただけに、今後修正の可能性は十分にある」とも話した。インフレ抑制法はバイデン大統領が大統領選の重要公約を盛り込んだ「より良い再建(ビルド・バック・ベター)法」が7月に急に修正され、十分な討論なしに施行されたというのが業界の受け止めだ」

     


    「インフレ抑制法」という名前の通り、バイデン政権は現下のインフレ抑制という緊急目的と雇用確保姿勢を明確にして、中間選挙に臨もうとしている。韓国は、こういう米国の政治情勢を理解しなければならない。韓国だけの事情を申し立てても、米国の理解は得られないであろう。

     

    米国は、すでにグローバリズムを捨てていることを知るべきだ。それは、対中国戦略によるものである。米国製EVに補助金を出すこと自体が異例であり、脱「グローバリズム」の象徴である。こういう中で、韓国がWTO(世界貿易機関)へ訴えると息巻いているが、米国が安全保障を理由にしたと主張すれば、韓国の敗北となろう。

     


    (2)「鄭会長は米政界関係者に対し、自由貿易協定(FTA)違反などを根拠に挙げ、法改正の必要性を説得すべきだと強調した。鄭会長は「EV補助金を支給条件のうち、組み立て地を米国ではなく『北米』としたのは、米自動車大手の『ビッグスリー』(GM・フォード・ステランティス)の工場がメキシコ、カナダに多いからだ」とし、「米国とFTAを結んでいる韓国と北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国(カナダ・メキシコ)とで異なる待遇を行うことは明らかな差別なので、韓国製にも同じ待遇を求めなければならない」と述べた」

     

    韓国は、米・カナダ・メキシコが製造業で一体化していることを反映し、北米自由貿易協定が締結されている事情を知るべきだ。この三ヶ国は、部品と組み立てがそのたびに三ヶ国の国境を行き来している関係にある。だから、敢えて「北米」となった筈だ。このNAFTAと米韓自由貿易協定は、成立している条件が全く異なっている。韓国が、「北米」と「米韓」は同じ自由貿易協定であるから、韓国製EVも補助金対象にせよと主張すれば、嗤われるはずだ。

     


    (3)「鄭会長はまた、「特に韓国は米国の強力な経済安保同盟国であることを強調すべきだ。米国が推進する『チップ4同盟』『バッテリーサプライチェーン同盟』に積極的に参加する意向を示す必要もある」と付け加えた。鄭会長は今回のインフレ抑制法について、「米国が未来の重要産業(EV)を保護するという意思が強く反映されている」とし、「現代自動車が最近、米国市場でテスラに次ぐ2位を記録したことで、それをけん制しようとする目的もあるのではないか」とした。鄭会長はインフレ抑制法で米自動車最大手のGMが最大の恩恵を受け、逆に韓国GMは米本社からEVの割り当てを受けにくくなったと分析した。韓国GMで生産したEVは、米国の補助金を受けられないからだ」

     

    韓国は、「あれもこれも」と言い募るが、それぞれ条件が全く異なっている。「チップ4」も「IPEF」(インド太平洋経済枠組み)も内容は違っている。韓国の言いたいのは、米国の提案に付合っているのだから、韓国製EVを特例として補助金を認めろ、という「人情論」に過ぎない。これは、法律論として成り立つワケがない。韓国EVを認めれば、中国EVにも補助金を出さざるを得なくなろう。そうなると、米国の国民感情が納得しまい。立法趣旨と異なるからだ。

     

     

     

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    ウクライナ軍は、ロシア軍に占領されている南部へルソン州の奪還に向けた本格的な反攻を開始した。地元高官が8月29日に、明らかにした。

     

    ウクライナのポロシェンコ前大統領は8月29日、CNNに対し、ロシア支配地域を奪還する「待望の」反攻が南部で進行中だと明らかにした。ポロシェンコ氏は「これは待望の反攻作戦だ。本日の(現地時間)午前7時に作戦が始まり、砲撃やミサイル攻撃が行われた」と説明。ウクライナ軍の部隊が反攻のためにこれほど集中投入されるのは今年2月以降初めてで、西側から供与された火砲や高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」、ミサイルも投入されているという。

     

    今回の反攻作戦は、ウクライナが準備万端整えた上で開始したものだ。欧米からの長距離砲の供与によって、ウクライナ軍が主導権を握っての戦いである。

     


    『ニューズウィーク 日本語版』(8月30付)は、
    「『本人も困惑している』プーチンの負け戦、主導権はウクライナ側へ」と題する記事を掲載した。筆者は、元米陸軍情報分析官ウィリアム・アーキン氏である。

     

    (1)「新たな戦略の用意がなく、攻勢を強めようにも兵力と装備が足りないとなれば、さすがのプーチンも停戦交渉に入るか、偽りの勝利宣言をするしかあるまい。あるいは、核兵器の使用をちらつかせることが勝利(あるいは延命)への最善の道と考えるか。米政府は当初から核兵器使用のリスクを考慮し、ウクライナ政府に対してはロシア領内の標的を攻撃しないよう、固くクギを刺してきた。結果、ロシアはある意味で戦術的な優位に立てた。だが、プーチンが核兵器を実際に使用するとは考えにくい。核兵器で攻撃するほどの軍事的標的がないからだ」

     

    プーチン氏は負け戦になれば、最後に戦術核を投下するのでないかと恐れられている。だが、核兵器で攻撃するほどの軍事的標的はないのだ。この点の再認識が重要である。

     


    (2)「ウクライナ兵100万のうち、4分の3に当たる75万人は2400キロ以上に及ぶ前線と後方地域、国内各地の基地に分散している。一方、第2次大戦ではナチス・ドイツとソ連・欧州連合軍が前線に1500万兵力を集結させていた。「戦術」核兵器という概念が生まれたのは、これほどの兵士が戦場に集まっていた時代だ。核兵器を擁護する人々の考えが間違っているのは、昔の戦場の状況を現代に当てはめている点にある」

     

    ロシアが、ウクライナ侵攻で戦術核を使用するような客観条件がない。ウクライナ軍は全軍でも100万人でうち75万人が全土にバラバラになって位置している。一カ所に終結しているのでない。戦術核を投下しても効果はないのだ。

     


    (3)「ロシア軍の士気は、確実に低下している。一方、米政府およびNATOの情報機関によれば、ウクライナ軍も同程度の死傷者が出ているものの、士気は依然として高い。新たな部隊を次々と投入し、兵士の命を守るための作戦も講じている。プーチンの号令の下、ドンバス地方の残り半分(ドネツク州)の戦線ではもっぱら砲撃戦が続いている。接近戦では士気の高いウクライナ軍に勝てないから、ロシア軍は伝統的な砲撃戦を重視し、ミサイルやロケット弾の雨を降らせている。今まではウクライナ軍が劣勢だったが、西側からの追加軍事支援により、長射程で精度の高い武器を使えるようになってきた」

     

    ウクライナ戦線は、全般に状況が大きく変わっている。ロシア軍の劣勢とウクライナ軍の高い士気である。

     


    (4)「オデーサを含む南部戦線では、様相が異なる。ロシア軍は立ち往生し、ドニプロ川の西側の占領地域で孤立している。ウクライナ軍が、川に架かる主要な道路や鉄道橋を破壊し、補給線を断ったためだ。前線で持ちこたえるのをやめ、ロシアの前線部隊への補給を断ち、兵糧攻めにする。ウクライナがそういう戦略に転換したため、この戦いは長引いている。もはや最前線の戦闘員を殺し、戦車を破壊すれば済む話ではない。今のウクライナ軍は後方にあるロシア軍の基地や弾薬庫、物資や燃料も攻撃できる」

     

    ウクライナ軍が、ロシア軍の後方にある兵站線を叩く戦術は、NATO(北大西洋条約機構)譲りの戦術という。これは、白兵戦と異なりウクライナ軍の犠牲を少なくする作戦とされる。ロシア軍に、情勢不利と悟って自然と撤退させる高等戦術なのだ。

     

    (5)「南部戦線の司令官ドミトロ・マルチェンコは、通信社RBCウクライナの取材に「いずれヘルソンは完全に解放される」と語ったが、その時期についての明言は避けた。「予測は好きじゃないが」と彼は言った。「こちらが必要とし、供与を約束された武器が全て手に入れば、来年の春には勝利を祝えると思う」。今年の春までに戦争は終わると、プーチンは読んでいた。その読みを見事に覆したウクライナの人たちは今、自信をもって先を見据える。そう、勝負は「来年」の春だ」

     

    ウクライナ軍は、欧米の重火器の支援を引き続き得られれば、来年春が「勝負の時」になるとしている。勝運がウクライナ軍へ傾けば、NATO諸国の支援にも力が入るはずだ。ドイツのショルツ首相は29日、ウクライナに対し「必要な限り」支援を続けると表明した。

     

    ドイツは、ウクライナに対する軍事支援について、ここ数カ月の間に「根本な心境の変化」があったとし、ウクライナへの支援を「必要な限り継続する」と表明。ドイツは向こう数週間から数カ月以内に、防空・レーダーシステムや偵察用無人機などの最新鋭の兵器をウクライナに提供すると確約した。『ロイター』(8月29日付)が報じた。

     

     

     

     

    あじさいのたまご
       


    米国バイデン大統領は、先に中国・習国家主席と電話会談した。その印象について、習氏は「将来に自信が持てない様子」と語った。バイデン氏は、それ以上を明かさなかったが、中国経済の混乱ぶりを見れば、大筋の検討はつく。習氏が、世界覇権目標を放棄しない限り、米中の融和はあり得ないという緊張した状況だ。それだけに、習氏の悩みも深まるのであろう。

     

    世界で最も古い歴史を持つ経済雑誌は、英国『エコノミスト』(創刊1843年)だ。世界経済の発展を旗印にしており、自由貿易がそれを実現する手段としてこれを擁護してきた。その『エコノミスト』誌が、中国の目指す世界秩序への挑戦がもたらす危険性を排除するには、自由世界が中国に依存しない経済体制を整えるべきであると主張する。これは、世界情勢がいかに逼迫しているかを立証するものだ。

     


    英誌『エコノミスト』(8月27日号)は、「中国が学ぶ対ロ制裁の限界」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアは6カ月前にウクライナへの侵攻を開始した。戦場では、1000キロメートルに及ぶ前線で死と破壊がもたらされ、消耗戦が続いている。戦場の外では、もう一つの戦いが展開されている。欧米諸国が1.8兆ドル(約250兆円)規模のロシア経済にダメージを与えようとこれまでにない制裁を相次ぎ駆使し、1940年代以降で最も激しく広範囲に及ぶ経済的な対立を繰り広げている。

     

    (1)「こうした制裁は欧米の世論を満足させるばかりか、戦略的な狙いがある。短期的には、少なくとも当初は、ロシアに流動性と収支上の危機をもたらして戦費を枯渇させ、ロシア政府に方針転換を迫るのが目標だ。長期的にはロシアの生産能力と技術水準を衰退させ、プーチン大統領が他の国に侵攻しようとしても、軍備や物資の不足から難しくするというものだ。最終的な狙いは、戦争を仕掛けようとする他国を思いとどまらせることだ」

     

    ロシアのウクライナ侵攻で、西側諸国は一斉に経済制裁を科している。これには、二つの狙いがある。ロシアの戦闘能力を低下させることと、中国の台湾侵攻を抑止する点にある。

     


    (2)「問題は、そうした経済への決定的な打撃が現実になっていないことだ。国際通貨基金(IMF)は、ロシアの国内総生産(GDP)が22年に6%縮小すると見込む。3月時点で大方が予想した15%の縮小にもならなければ、ベネズエラの経済ほども縮小しなかった。22年のロシアの経常黒字はエネルギーの輸出に支えられて2650億ドルに達し、中国に次ぐ世界2位の規模となる見通しだ」

     

    ロシアへの経済制裁は、ロシアのGDP成長率を引下げているが、即効性に問題がある。22年のロシアの経常黒字を増やすと逆効果も招いている。

     

    (3)「制裁という武器には欠点があることも判明した。1つ目は、タイムラグがあることだ。欧米が独占する技術の禁輸措置は効果が出るまでには数年かかる。しかも独裁国家は資源を総動員できるため、禁輸の打撃が出始めてもそれをうまく吸収できる。2つ目は、制裁によって科す側が被る反動だ。欧米に比べればロシアの経済規模は小さいが、プーチン氏が支配するガスへの依存から脱却したいとの願いは通じない。制裁の最大の欠点は、全面的・部分的な禁輸を実施していない国が100カ国以上に上り、世界のGDPの4割を占めていることだ」

     

    経済制裁には二つの欠点がある。一つは、制裁効果が出るまでの時間の遅れ。もう一つは、制裁側に副作用が出ることだ。さらに上げれば、経済制裁と無関係な国が100ヶ国以上もある。これが、制裁効果を削いでいる。

     

    (4)「中国の台湾侵攻を事前に食い止めたり、事後に罰したりするために、欧米は中国の3兆ドル規模の外貨準備を凍結し、中国の銀行を国際決済システムから排除することは可能だろう。だが、ロシアと同様、中国経済は崩壊することはないだろう。それどころか中国政府は報復として、電気製品や電池、医薬品の輸出を禁じ、米小売り大手ウォルマート店頭の棚を空にして欧米を大混乱に陥れることもできそうだ。最大の貿易相手国は米国ではなく中国という国の方が既に多いことを踏まえれば、全世界で対中制裁を実施することは対ロ制裁以上に難しい」

     

    中国が台湾侵攻に踏み切れば、西側諸国は一斉に制裁するだろう。だが、中国経済の規模は、ロシアの約10倍である。ロシア経済ですら制裁効果が出るまで時間がかかる以上、中国経済に制裁効果を出すまでにはさらに時間を要する。

     

    もっとも、中国のアキレス腱は食糧自給率が73%と低いことだ。ロシアは小麦輸出国であるから、その点で懸念はない。米国が、中国へ大豆とトウモロコシを輸出しなければ、中国は「干上がる」。中国にはこういう欠陥があるものの、世界のサプライセンターとして工業製品を輸出している強みがある。このリスクを、いかにして未然に防ぐかである。

     


    (5)「ウクライナ紛争から学ぶ教訓があるとすれば、それはむしろ、好戦的な独裁国家と対立するには多面的に行動しなければならないということだ。ハードパワーは欠かせない。民主主義諸国は、敵対国が優位にある資源といった死活分野での依存を引き下げねばならない」

     

    西側諸国の自衛は、中国への依存度を下げることである。これが、中国への経済制裁で返り血を浴びない戦術になる。

     

    (6)「米国は、中国テック各社への依存を減らすとともに、台湾に防衛力強化を促している。一方で問題なのは、習近平国家主席が率いる中国をはじめ、あらゆる独裁国家はロシアに対する欧米の制裁の行方を注視し、制裁による欠点を学び取るのに余念がないことだ。ウクライナ紛争は軍事的、技術的、経済的要素が絡み合った21世紀型の対立という新時代を象徴するものだ。その時代は、欧米が優位にあるわけではない。ドルや半導体に頼るだけでは、誰も力による現状変更に立ち向かうことはできない」

     

    西側諸国は、中国と産業のデカップリング(分断)体制を整えることが緊急要件になる。今や、米ソ冷戦とは違う戦術が求められているのだ。

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    不動産バブル崩壊は、銀行の不良債権を急増させている。中国4大銀行の一角である中国農業銀行は、6月末の不良債権比率が3.97%に跳ね上がった。不動産分野の不良債権は昨年末から19%も増加した。『ロイター』(8月27日付)が伝えた。

     

    中国農業銀行は、行名からも分るように地方金融と農業金融に特化している。それだけに、地方経済の不振ぶりが、不良債権増加となって現れている。農業銀行幹部によると、住宅建設1112のプロジェクトが未完の恐れがあると認めている。これに関連して、12億3000万元(1億7782万ドル)の住宅ローンが延滞している。これは住宅ローン全体の0.023%に相当するという。

     


    中国農業銀行は、国有銀行である。国有銀行は、主として国有企業との取引が多いことで知られている。この点から言えば、国有不動産業も多くの「未完プロジェクト」を抱えているわけで、住宅不振が底なしの事態に陥っているようだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月30日付)は、「中国不動産の不振が波及 大手民間銀の株価急落」と題する記事を掲載した。

     

    中国民間銀行の株価は今年に入って急落しており、不動産部門の不振の影響が波及しつつある。中国最大の民間銀行である招商銀行と平安銀行の上海上場株は、年初からそれぞれ32%、25%下落し、合わせて680億ドル(約9兆4300億円)相当の時価総額が吹き飛んだ。

     

    (1)「これは、不動産業界の減速が経済全体に及ぼしている問題の一端にすぎない。政府が2年にわたり債務圧縮を進めさせたことで不動産開発会社は痛手を負い、流動性がひっ迫。デフォルト(債務不履行)や建設プロジェクトの中断、新築住宅販売の大幅な減少を招いた。また一部の住宅購入者の間では、ローン返済を拒否する動きが広がっている」

     

    下線部は、中国経済の最大の問題が不動産バブル崩壊による混乱を指している。本欄は、早くからこういう事態の到来に警鐘を鳴らしてきたが、ついに来るべきところへ来た感じだ。私の命名する「土地本位制」(学術用語でない)が、中国経済を根本から狂わしているので、短期に終息するとは考えられない。日本の二の舞いになることは不可避である。

     

    (2)「これは、中国の銀行にとって悪いニュースだが、(民間大手の)招商銀行と平安銀行は、大手国有銀行以上に逆風にさらされることになる。光大証券国際の証券ストラテジスト、ケニー・ウン氏はこう話す。不動産資産の価値が目減りすれば、両行の住宅ローン事業が伸び悩むほか、顧客に販売してきた理財商品(資産運用商品)も痛手を被る。理財商品の一部は、不動産開発会社の債務に対するエクスポージャー(価格変動リスク)を抱えているという」

     

    大手民間銀行は、住宅価格高騰をテコにした不動産金融で急成長してきた。その肝心のテコが消えた以上、逆回転することは不可避である。金利規制を外れている理財商品(資産運用商品)は、高利で販売されている。それだけに、元期返済時期に大きなトラブルに発展するリスクを孕むのだ。

     

    (3)「ここ5年間は、招商銀行と平安銀行の株価が大手国有銀行を大きくアウトパフォーム(値上り)していた。リテール(小口金融)部門を強化するためデジタルバンキングに投資するなど、景気拡大下で両行が柔軟に収益源を開拓してきたことが奏功した。だが景気減速下では、民間の商業銀行が新たな分野に進出するのは一段と難しくなると専門家は警鐘を鳴らす。ウン氏は「中国経済が直面している最大の問題は流動性ではない」とした上で、「銀行には十分な流動性があるが、消費者や投資家の借り入れ意欲が減退している。これは信頼感のなさの表れだ」と指摘した」

     

    下線部は、いわゆる「流動性のワナ」が起こっていることを指摘している。銀行には預金が増えているので、本来ならばたっぷりと貸し出す余力(信用創造)がある筈である。だが、前途の見通しがきかない不安によって、新規の借り手が現れないのだ。借り手が現れても、銀行は返済に不安があれば貸出拒否だ。こういう事態に落込むと、回復は容易でない。それは、日本経済が経験した道でもある。

     


    (4)「4大国有銀行の中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行(ICBC)の株価は比較的善戦しており、年初からの下落率が平均で4.9%にとどまる。これに対し、上海および深圳取引所の大型株で構成されるCSI300指数は17%下落している」

     

    国有銀行のバックには、中国政府が控えている。抜群の信用度であるから、株価の急落を免れている。深圳取引所の大型株は、4大銀行の株価下落に比べて4倍もの下落率である。国家の持つ信用度は、これだけ高いことを証明している。ただ、中国農業銀行のように、地方経済の不振の影響を直に受けるケースも出てきたことに注意すべきだ。

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    韓国は、海上自衛隊設立70周年記念国際観艦式への出席問題で揉めている。最大野党「共に民主党」(前与党)議員が反対しているからだ。「日本帝国主義」を象徴する旭日旗へ、韓国海軍が敬礼してはならぬという理由である。この子どもじみた主張が、現在の韓国が持つ国際感覚を示している。

     


    『ハンギョレ新聞』(8月30日付)は、「『旭日旗』海上自衛隊に敬礼、観艦式に出席 韓国国防相『慎重に検討』」と題する記事を掲載した。

     

    イ・ジョンソプ国防部長官は29日、日本の海上自衛隊創設70周年観艦式への参加について「憂慮する部分を考慮し、国際観艦式の概念や慣例などを総合的に考慮して決める」と述べた。イ・ジョンソプ長官はこの日、国会国防委員会の全体会議で「『政府は積極的に観艦式参加を考慮している』とする一部メディアの報道内容の『積極』は正しくない」としつつ、このように述べた。

     

    (1)「海上自衛隊は11月の創設70周年観艦式に韓国海軍を招待したが、海上自衛隊の旗は日本軍国主義の象徴である旭日旗と模様が同じであるため、物議を醸している。海の軍事パレードといえる観艦式の際には、主催国の軍の統帥権者が観閲する艦艇である座乗艦に乗って各国の艦艇を観閲する。この時、各国の艦艇は座乗艦に対艦敬礼を行うことになる。対艦敬礼は、海上で軍艦同士が出会った際に、指揮官の階級がより高い軍艦に対して行うもので、世界の海軍に共有されている海上儀礼だ。日本の観艦式に韓国海軍の艦艇が参加すれば、旭日旗を掲揚した自衛隊の座乗艦に敬礼することになる。海軍は、2018年の韓国の観艦式を前に、日本に対し参加する海上自衛隊艦艇に旭日旗を掲げさせないよう求めたが、日本は拒否し、参加していない」

     


    国際観艦式は、友好国海軍の「お祭り」である。お互いの海軍艦艇を招待して行なう「海上パレード」である。韓国海軍は、2018年の観艦式で海上自衛隊を招待しながら、文政権の反日姿勢によって、「旭日旗を降ろして参加せよ」と通告した。海上自衛隊は、この前代未聞の要求を遺憾として参加せず、引き返した経緯がある。それにも関わらず、日本の国際観艦式では「大人の態度」により韓国海軍を招待したものだ。

     

    (2)「イ長官は、「2018年に日本が韓国海軍の観艦式に参加しなかったのは旭日旗問題のためだというのはその通りだが、その前には日本の艦艇に海上自衛隊旗が掲揚され、相互に2回ずつ観艦式に参加している」と説明した

     

    文政権以前は、韓国海軍は日本の国際観艦式に参加していた。文「反日政権」は、この慣例を破って「旭日旗ノー」を突付けてきたもの。「旭日旗」は、日本の法律で制定され国際的に承認された存在である。フランスのパリ祭で、自衛隊が招待され旭日旗を先頭にパレードを盛上げたこともあるのだ。

     


    (3)「この日、共に民主党のソル・フン、キム・ヨンベ両議員は、観艦式参加に反対を表明した。キム・ヨンベ議員は、国防部は日本の観艦式に参加するために「日本の航空機への対応指針」の廃棄を検討しているのではないかとただした。日本の航空機への対応指針には、日本の軍用機が警告通信を無視して低空近接飛行を行った際にはレーダーを「照射」せよとの内容が含まれている。同指針についてイ長官は「韓日関係とともに検討すべき部分」だとし「観艦式への参加検討と日本の航空機への対応指針は別個の問題であり、連係するつもりはない」と語った」

     

    国際情勢が急変し、朝鮮戦争を引き起こした「中朝ロ」は、再び一体化する動きを強めている。こういう状況下での「旭日旗」拒否である。韓国の「反日姿勢」は、韓国機が自衛隊機へ「レーダー照射」を認める規定を作ってあるほどだ。「中ロ軍機」よりも厳しい規定である。韓国は、ここまで反日に徹している。いくら「温厚な日本」といえども、一言あるべき状況だろう。

     


    (4)「ソル・フン議員は、「2018年の韓国海軍の観艦式で旭日旗を降ろすよう求めたら日本は艦艇が参加しなかった。今回、韓国が日本の観艦式に参加すれば国民は何と言うだろうか。人は行って軍艦は行かないという形で賢く避けるのが良い」と述べた。これに対してイ長官は「おっしゃった部分も重要な考慮要素なので、共に慎重に考慮する」と答えた」

     

    韓国の最大野党議員は、日本の国際観艦式には韓国海軍将官だけ出席させ、韓国艦艇は参加しない方針を提案している。「共に民主党」は、韓国国会で6割の議席を占める最大政党である。ユン政権は、こういう反対論に対してどのように対応するのか。快く参加できないのであれば、韓国海軍は将官も艦艇も欠席すべきであろう。

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