米議会は、「インフレ抑制法」を超スピードで成立させた。今月7日に上院、12日に下院を通過し、16日の大統領署名・発効まであっという間であった。秋の中間選挙を控えて、国民にインフレ抑制姿勢を見せねばならなかったからだ。
この「インフレ抑制法」は、北米製のEV(電気自動車)には補助金がつく。だが、それ以外の輸入EVは対象外にしたことで韓国製EVも補助金を受けられず、韓国国内は蜂の巣を突いたような騒ぎだ。
韓国の言分は、米国内で2025年に韓国企業のEVが生産される予定である。それにも関わらず、韓国製の輸入EVを補助金対象から外したのは酷い、という感情論である。ただ、現時点では韓国企業のEVは米国で生産されていない以上、補助金対象にはならないのは当然であろう。
韓国の主張を聞いていて気付くのは、米国への「甘え」である。日本に対しては、「ホワイト国除外」はけしからんと言って、反日不買運動を行なったと同じ理屈である。感情過多の国民である。
『朝鮮日報』(8月31日付)は、「自動車業界、米国の韓国製EV差別に裏切られた 外交で解決を」と題する記事を掲載した。
韓国自動車産業連合会の鄭晩基(チョン・マンギ)会長は本紙とのインタビューで、米国が最近、韓国製電気自動車(EV)を補助金支給対象から除外したことについて、「今年5月のバイデン大統領の来韓当時、大規模な投資という手土産を渡した韓国企業にとっては裏切られたとまで感じさせる政策だ」と述べた。
(1)「鄭会長は、「インフレ抑制法が11月の米中間選を前に拙速な形で成立しただけに、今後修正の可能性は十分にある」とも話した。インフレ抑制法はバイデン大統領が大統領選の重要公約を盛り込んだ「より良い再建(ビルド・バック・ベター)法」が7月に急に修正され、十分な討論なしに施行されたというのが業界の受け止めだ」
「インフレ抑制法」という名前の通り、バイデン政権は現下のインフレ抑制という緊急目的と雇用確保姿勢を明確にして、中間選挙に臨もうとしている。韓国は、こういう米国の政治情勢を理解しなければならない。韓国だけの事情を申し立てても、米国の理解は得られないであろう。
米国は、すでにグローバリズムを捨てていることを知るべきだ。それは、対中国戦略によるものである。米国製EVに補助金を出すこと自体が異例であり、脱「グローバリズム」の象徴である。こういう中で、韓国がWTO(世界貿易機関)へ訴えると息巻いているが、米国が安全保障を理由にしたと主張すれば、韓国の敗北となろう。
(2)「鄭会長は米政界関係者に対し、自由貿易協定(FTA)違反などを根拠に挙げ、法改正の必要性を説得すべきだと強調した。鄭会長は「EV補助金を支給条件のうち、組み立て地を米国ではなく『北米』としたのは、米自動車大手の『ビッグスリー』(GM・フォード・ステランティス)の工場がメキシコ、カナダに多いからだ」とし、「米国とFTAを結んでいる韓国と北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国(カナダ・メキシコ)とで異なる待遇を行うことは明らかな差別なので、韓国製にも同じ待遇を求めなければならない」と述べた」
韓国は、米・カナダ・メキシコが製造業で一体化していることを反映し、北米自由貿易協定が締結されている事情を知るべきだ。この三ヶ国は、部品と組み立てがそのたびに三ヶ国の国境を行き来している関係にある。だから、敢えて「北米」となった筈だ。このNAFTAと米韓自由貿易協定は、成立している条件が全く異なっている。韓国が、「北米」と「米韓」は同じ自由貿易協定であるから、韓国製EVも補助金対象にせよと主張すれば、嗤われるはずだ。
(3)「鄭会長はまた、「特に韓国は米国の強力な経済安保同盟国であることを強調すべきだ。米国が推進する『チップ4同盟』『バッテリーサプライチェーン同盟』に積極的に参加する意向を示す必要もある」と付け加えた。鄭会長は今回のインフレ抑制法について、「米国が未来の重要産業(EV)を保護するという意思が強く反映されている」とし、「現代自動車が最近、米国市場でテスラに次ぐ2位を記録したことで、それをけん制しようとする目的もあるのではないか」とした。鄭会長はインフレ抑制法で米自動車最大手のGMが最大の恩恵を受け、逆に韓国GMは米本社からEVの割り当てを受けにくくなったと分析した。韓国GMで生産したEVは、米国の補助金を受けられないからだ」
韓国は、「あれもこれも」と言い募るが、それぞれ条件が全く異なっている。「チップ4」も「IPEF」(インド太平洋経済枠組み)も内容は違っている。韓国の言いたいのは、米国の提案に付合っているのだから、韓国製EVを特例として補助金を認めろ、という「人情論」に過ぎない。これは、法律論として成り立つワケがない。韓国EVを認めれば、中国EVにも補助金を出さざるを得なくなろう。そうなると、米国の国民感情が納得しまい。立法趣旨と異なるからだ。