勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年08月

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    ロシアは、西側諸国にエネルギー販売で「外濠」を埋められつつある。ドイツが、天然ガスで「脱ロシア」を進めており、10月の予定貯蔵量は1ヶ月繰り上がって9月に達成できる見込みとドイツ経済省が発表した。G7が進めているロシア産原油の上限価格引下げは、米国がインドへも話を持込んでおり、「建設的な話合い」であったという。

     

    こうして、ロシア産エネルギー輸入ボイコットの準備は順調に進んでいる。こういう西側の動きを睨み、ロシア中央銀行は来年の原油輸出価格について慎重になっている。

     


    ロシア財務省は、1バレル=60ドルの原油価格と日量950万バレルの石油生産量を政府系ファンド収入へ繰り入れことを提案した。しかし、中央銀行のアナリストは、「原油価格と生産量の基準が高すぎるようだ」と指摘し、難色を示している。ウクライナ侵攻以前の財政規則では、1バレル=40ドルが基準となっていた。『ブルームバーグ』(8月29日付)が報じた。

     

    『ブルームバーグ』(8月29日付)は、「ドイツのガス貯蔵率、10月の目標を来月に前倒し達成へー経済省」と題する記事を掲載した。

     

    ドイツ経済省は28日、ロシアからの主要パイプラインを経由した天然ガス供給は不透明だが、ガス貯蔵施設の貯蔵率は予定を上回るペースで上昇していると指摘し、10月に85%という目標を9月初めには達成するとの見方を示した。

     


    (1)「ハーベック経済相は電子メールで配布した声明で、ロシア産ガス輸入を終わらせる取り組みは「かなり」順調だとした。浮体式天然ガスターミナル設置作業は計画通り進んでいる上、オランダとベルギーからの供給は増加する見通しで、フランスもドイツにガスを供給する意向だと説明。「非常に厳しい状況にあり、膨大な貯蔵はなお確実に必要だが、国家として備えている」と語った」

     

    ハーベック経済相の声明が出る前に、電気やガスなど社会インフラを管轄する独連邦ネットワーク庁のミュラー長官が8月17日、やや悲観的な見通しを発表していた。それによると、ドイツのガス貯蔵率が11月までに目標の95%を達成できるとしても、ロシアが供給を全て止めてしまえば、暖房・電力・鉱工業需要の約2カ月半分にしかならないだろうと指摘。現在の貯蔵率は77%で、予定より2週間早く貯蔵が進んでいると付け加えた。経済省は、こういう「暗いニュアンス」の発表を打ち消して、明るさを強調したもの。

     


    (2)「ロシアが主要パイプライン「ノルドストリーム」を通じた供給を大幅に絞ったことでガス価格が上昇し、数十年で最悪の欧州エネルギー危機が深刻化する中で、ドイツの連立政権は10月までに85%、11月までに95%のガス貯蔵率を求めている。ロシア国営天然ガス会社ガスプロムは8月、ノルドストリーム経由の欧州へのガス供給を31日から3日間停止すると発表した。ただハーベック経済相は、ドイツはそれまでに10月の目標をほぼ達成しているだろうとの見解を示した」

     

    ロシアは、8月31日から3日間ノルドストリーム経由の欧州へのガス供給を停止する。ドイツはその前に、10月目標の貯蔵率を達成できるとしている。ロシアの「脅迫」に屈しないという姿勢を鮮明にした。

     

    主要7カ国(G7)は、ロシア産原油輸入について欧州連合(EU)が海上輸送されるロシア産原油への禁輸措置を発動する12月5日までに、価格上限制のメカニズムを導入したい考えである。これは、米国が主体になって取り組んでいる。

     


    『ロイター』(8月26日付)は、「米、ロシア産原油価格の上限案巡り印と建設的協議ー財務副長官」と題する記事を掲載した。

     

    インドを訪問中のアデエモ米財務副長官は26日、ロシア産原油の価格に上限を設ける案について、インド政府高官らと「非常に建設的な協議」を行ったと明らかにした。

     

    (3)「アデエモ氏は、ニューデリーで開かれた記者会見で、上限設定はロシアがウクライナ侵攻に使用できる石油収入を抑えるとともに、世界的に手頃な価格で原油供給を十分に確保することを目的としていると述べた。「12月5日に世界にとって利用可能なロシア産原油が減少し、価格上昇につながることを非常に懸念している」と述べた。上限が設定されれば、ロシア産原油の購入と輸送に引き続き欧米のサービスを使うことが可能になるとした」

     

    G7は、12月の石油需要期入りに当り、ロシア産原油価格の引下げを図る計画である。上限価格制を敷いて徐々に引下げて行く狙いだ。G7は、この上限制を推進するが、インドへも呼び掛けている。インドが、これに賛同すれば海上保険サービスを付与するとしている。欧州は、世界の海上保険で圧倒的支配権を持っている。原油輸送に海上保険が付かないと、海外港湾への入港が拒否されるリスクを抱える。こうして、ロシア産原油の輸出を阻止する構えだ。

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    中国は、米国との復交交渉(1971年)以来、民主化路線を歩む振りをしながら、秘かに米打倒の戦術を練っていた。米国はそれとも知らずに、中国へあらゆる技術を惜しげもなく提供してきた。米国は、この「陰謀」を習氏が国家主席に就任する前後に知って仰天したのである。

     

    中国に騙されたという米国の怒りは、日本の「真珠湾奇襲攻撃」並である。米国は、この怒りを中国への半導体技術やノウハウの輸出禁止という形で現している。米軍が、日本本土へ無差別攻撃したように、中国へも高級半導体に関わる一切の技術やノウハウの流出をストップさせる厳しい戦術である。米国の怒りの尾を踏んだ形だ。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(8月21日付)は、「米中対立のはざまで方針転換迫られる半導体企業」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の半導体メーカー、マグナチップ半導体は昨年12月、中国系プライベート・エクイティ(未公開株)ファンドのワイズロードキャピタルとの合併案を残念ながら白紙に戻すと発表した。マグナチップの件は、米中関係の緊迫が半導体業界に及ぼす影響がいかに大きいかを示している。台頭する中国技術への対抗手段を模索する米国政府に協力するよう半導体企業に圧力が高まっている。

     

    (1)「米半導体メーカーは、予算総額2800億ドル(約38兆5000億円)にのぼる「通称米半導体法)」で給付される補助金を狙っている。タカ派色を強める米大統領府によって規制を通じて、半導体業界を追放されることを避けようと懸命だ。フィナンシャル・タイムズ紙は今月、韓国半導体大手のサムスン電子やSKハイニックスが対中投資を見直していると報じた。同法が米政府の補助金を受け取る企業に向こう10年、中国で先端半導体の生産能力を拡大・更新することを禁じる「ガードレール」条項を定めているためだ。台湾積体電路製造(TSMC)や米インテル、マイクロンなど中国に生産拠点を持つ競合他社も、米国での生産を増やし中国政府が先端半導体を入手しにくくするよう圧力を受けている」

     

    米半導体法は、総額2800億ドルである。米国民の税金を使う以上、補助金を受けた企業は、中国への便宜供与を禁じられる。この法律は、韓国の半導体企業の「二股」を禁じることが主目的である。

     


    (2)「
    米国は、半導体の研究開発や補助金、サプライチェーン関連政策で協調する「チップ4」同盟に韓国、台湾、日本を引き込もうとしており、この圧力はさらに強まる可能性が高い。韓国の半導体メーカーは、これまで米中対立のどちらかに肩入れすることに慎重な姿勢で、世界の半導体業界を方向付けしてきた。サムスンとSKハイニックスは中国市場で大きなシェアを持ちながら、米国の生産施設への投資を拡大した。韓国貿易協会によると、昨年の韓国から中国への半導体輸出額は前年比26%増の500億ドルと、半導体輸出総額の4割近くを占めた」

     

    韓国は、半導体輸出総額の約4割が中国向けである。米国は、この対中輸出に枠をはめようと狙っている。

     


    (3)「韓国メーカーは、先端半導体の製造に必要な技術に関し、一握りの米欧日の半導体設計・製造企業にほぼ全面的に依存しており、この「半導体製造プロセスの重大なボトルネック」(米タフツ大学のクリス・ミラー助教授)が米国政府に影響力を与えているという。先端半導体をけん引するのは米欧企業である。
    5月まで韓国産業通商資源省通商交渉本部長を務めた呂翰九(ヨ・ハング)氏は、「中国には市場があり、米国には技術がある。技術がなければ生産はできない。だが、市場がなくなった場合は、多様化して代替市場を探すことが可能だ」と指摘する

     

    下線部は、韓国半導体企業の弱点である。半導体技術の原点が米国にある以上、米国のコントロールに逆らえないのだ。

     


    (4)「半導体業界分析会社、セミアナリシスのチーフアナリスト、ディラン・パテル氏は、
    米国による最先端装置の対中輸出規制は韓国のメモリーメーカーに影響を及ぼすとみる。韓国勢の中国での生産シェアは「時間がたつにつれ、大幅に減るだろう」とも予想する。「SKハイニックスは中国でEUVを使えなくなる。旧式の技術を使えば事業として成り立たない。同社や他の半導体大手にとって、中国でのDRAM製造は死んだも同然だ」(パテル氏)「だが、DRAM工場は、完全に閉鎖されるのではなく、NAND型メモリーの工場に転換される可能性が高い。しかし、それはサムスンやSKハイニックスが中国で最も激しい競争にさらされる分野だ」と指摘」

     

    韓国は、米国の半導体法によって最も大きな影響を受ける。かつて日本半導体は、米国との輸出協定で衰えるきっかけになった。韓国は、その二の舞いになりそうだ。

     


    (5)「韓国やその他半導体メーカーは、いかに中国政府からの報復を受けずに中国から米国への生産シフトを実現するかというジレンマに陥っている。米国が、親密な国の間で供給網を構築する「フレンドショアリング」を提唱していることに対し、中国は声高に反発するようになっている。パテル氏は、中国が外国企業の半導体や技術に依存している以上、できることは限られていると説く。「中国政府は国内の製造業のために半導体を輸入せざるをえない。部品の輸入が止まれば、電子機器を作れなくなるだけだ

     

    中国は、例の調子で反対論を打ち上げているが、半導体を輸入せざるを得ない立場だけに、反対の実効を挙げられない哀しみを抱えている。

     

    (6)「ワシントンの法律事務所アレントフォックス・シフのパートナーで、対中問題に関して多国籍企業の顧問を務めるデビッド・ハンケ氏は、半導体メーカーは米半導体法の字面だけではなく、その精神にも注意を払うべきだという。ハンケ氏は「各企業が中国の技術開発にどれだけ貢献しているかが精査されるだろう」と語った。米商務省が、半導体メーカーへの補助金を2年ごとに見直す点が重要だという。「半導体法の許容範囲ギリギリまで行く企業には、明らかに大きな問題が発生するだろう」

     

    下線部が重要である。米国は、中国の裏切りを絶対に許さないという怒りに燃えている。これが、米半導体法の「精神」である。ここを見誤ると、韓国半導体は「沈没」するだろう。

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    中国経済は、世界の株式専門家から見捨てられたのも同然の扱いである。変われば変わったものだ。複数の有力企業が、好決算を発表した後に株価が下落している。「売り時」と判断されたのであろう。

     

    これは、中国の不動産危機や電力不足、長引く新型コロナウイルス禍などさまざまな懸念が、中国株への悲観的見方を浮き彫りにしたものだ。利下げや財政刺激策でも、市場のセンチメント改善には全くつながっていないのである。

     

    米国バイデン大統領は、こういう中国経済の実態を見ているのか、中国に対して気遣いを見せるほどの余裕ぶりだ。

     


    『大紀元』(8月29日付)は、「バイデン米大統領、習近平氏は将来に自信持てず 民主党集会で」と題する記事を掲載した。

     

    米国のバイデン大統領は8月25日、メリーランド州で開かれた民主党全国委員会の集会で、中国と習近平国家主席は「自分たちの将来に自信を持っていない」と発言した。

     

    (1)「バイデン大統領は、習近平氏について「私は他国の指導者よりも長い時間、習氏と一緒に過ごしてきた」と話し、習近平国家主席と二人きりで78時間以上を共にしたと明かした。「そのうちの68時間は、過去12年間にわたって習氏と直接会っていた」と述べ、習氏の考えを熟知していることをアピールした」

     

    バイデン氏は、副大統領時代を含めて習氏との接触時間が最も長いであろう。米中対立が、ここまで激しくない時代は、お互いに胸襟を開いて話をしたに違いない。

     

    (2)「中国の将来の方向性について、「自分がどこに行くのか、どう対処するのかを考えなければならない状況にある。中国はそれに確信がない」と言及した。「習近平氏の宣伝文句は何だったのだろうか。『中国に投資しないか?この巨大な人口を相手に商売ができるからだ』。しかし今どうなんだ。彼は自分の能力について全く確信がない。中国人は自分たちの将来がとてもとても不安である。中国の人々は自分たちの将来について不安である」と述べた」

     

    中国の混乱は、習氏が国家主席ポストに長期居座りの野望を持ったことから始まった。2015年に「中国製造2025」を発表して、米国覇権へ対抗する姿勢を見せたが本来、発表すべきでなかった文書である。国内用の宣伝が、米国に「宣戦布告」と受け取られたのだ。こうして、米国の中国「締め付け」が一気に高まった。習氏の身から出た錆である。中国は、経済的に身動き取れない事態へ追込まれている。これは、習氏の政策判断ミスが招いた結果である。

     

    米国が本気になって、中国の覇権を食止める気になれば、現在のような対中包囲網は簡単に出来上がるのだ。習氏は、こういう米国の動員力を100%見落としていた。習氏が、事情も分らないままに側近による「煽て」に乗せられたというべきだろう。その意味では、東条英機に似た側面がある。習氏と東条は、自国の国力を正確に知らなかったのであろう。

     


    (3)「台湾国立政治大学の盧業中教授は、この発言は「習近平政権下の中国の不確実性がますます高まっているというバイデン政権の懸念を反映している。バイデン政権内部で、中国に対し関与政策をとるべきか、議論しているのかもしれない」と分析」

     

    下線部の「関与政策」とは、米国が中国の経済市場化へ手助けする意味だが、米中対立がはっきりして「敵味方」に分かれた以上、中国を助ける必要はない。米国が、旧ソ連崩壊時に「援助」しなかったと同様に、中国が倒れるならば放置すべきである。それによる、一時的な経済混乱は甘受することだ。「世界平和へのコスト」である。

     


    (4)「トランプ前大統領は政権後期、長年続けてきた対中関与政策が失敗したと判断し、競争に力を置く方針を強めた。バイデン政権は発足当初、中国との競争関係を制御しながら協力できる分野で連携していく対中戦略を考案した。「習近平氏の統治下で中国の政治環境が厳しくなり、経済もより閉鎖的になったことから、習近平氏は西側とのデカップリング(分断)を決心したのではないかと推測する」と盧教授は指摘した。「中国が西側とデカップリングをするなら、西側の関与政策は役に立たなくなる。これが、バイデン大統領が習近平氏と中国指導部の将来に関心を持つ理由である」と指摘」

     

    中国経済の混乱が、習氏のデカップリング政策の結果とすれば、それも「また良し」である。中国が、ロシアなどと小さな経済圏を作って、その中で「自給自足」的な経済を営みたいのであれば、結構な話なのだ。目的は、平和維持である。それが、デカップリングで実現できるのであれば、「デカップリング万歳」である。習氏は、デカップリングになっても自分の国家主席の座を守りたいだけである。国家の将来よりも、習氏の運命に関心を持っていると見るべきだ。独裁者の最後は、そういうものである。 

     

     

    ムシトリナデシコ
       

    旧徴用工賠償金支払いをめぐる、三菱重工業の商標権・特許権差押え事件は、9月4日までに大法院(最高裁判所)判決が下される見込みである。審理をしている判事が、9月4日に退任予定とされるので、今週中にも判決が出ると見られている。

     

    差押判決が出れば、日韓関係に激震の走ることは間違いない。特に、最大野党「共に民主党」代表に反日を売にしている李在明(前大統領候補)氏が選出されたので、強力な反日運動を展開すると見られる。これが、新たな変数として加わった形である。

     


    『中央日報』(8月29日付)は、「日本企業の韓国内資産現金化『運命の1週間』、韓国外交部 裁判所決定後への備え」と題する記事を掲載した。

     

    強制動員被害賠償を拒否してきた日本戦犯企業に対する韓国最高裁の決定が迫っている。

     

    (1)「法的手続き速度が最も速い三菱重工業強制動員被害者の商標権・特許権特別現金化命令事件を審理している最高裁3部主審の金哉衡(キム・ジェヒョン)最高裁判事が、9月4日に退任する予定だ。19日までだった「審理不続行」決定期限を越えて正式決定することになったが、長時間審理した事件であるだけに金最高裁判事の退任前に決定が出る可能性が高いとする見方が多い。最高裁判所2部〔主審=李東遠(イ・ドンウォン)最高裁判事〕に係留中の事件も争点が同じであるため、同時期に結論が出る可能性も言及されている」

     

    韓国大法院は、これまでの判決の流れから見て、三菱重工の資産差押え判決を出すことが予想される。日韓関係がどうなろうと「知ったことでない」というのが、最初からの姿勢であった。大法院長は、文政権が選んだ人事である。日本にとっては最悪事態を想定するべきかも知れない。

     


    新たな変数として、最大野党「共に民主党」(前与党)の代表に李在明氏が就任することだ。自らの疑惑事件を隠すためにも、一段と「反日」に力点を置いて韓国国内を煽動するリスクが高まっている。ユン政権は、苦境に立たされよう。

     

    (2)「最高裁が原告の三菱重工業の再抗告を棄却すれば、韓国内の資産売却による現金化手続きが開始される。日本の激しい反発を鑑み、両国関係は破局に突き進む可能性もある。このような雰囲気をそのまま反映し、両国政府は緊迫した動きを見せた。26日、東京で李相烈(イ・サンヨル)外交部アジア太平洋局長と日本外務省の船越健裕アジア大洋州局長と韓日局長協議を行った。2時間ほど続いた協議で、韓国政府は日本企業の謝罪問題など官民協議会の議論事項を日本側に詳しく説明した。ただし、日本側は「傾聴」する水準の態度を固守したという」

    日本側の対応は、下線の通り「聞き及ぶ」という姿勢である。徴用工賠償金問題は、日韓基本条約で解決済みであるからだ。韓国は、謝罪を求めている。国家の謝罪は、一度行なえばそれが限度である。米国でも、日本への原爆投下に対してそのような姿勢を見せなかった。こういう国家間での暗黙の「ルール」を考えれば、韓国の要求は節度を欠いたものである。

     


    (3)「政府は7月から3度にわたり官民協議会を開き、被害者側の関係者や学界、法曹界などの関係者の意見を集めた。その後は、一部の被害者側の関係者らが協議会を拒否し、協議は開かれていない。外交部当局者は「意見収集・傾聴と説得・説明する努力が続くだろう」と述べた。同時に、政府は日本側に官民協議会の意見収集など政府の努力を説明し、韓日外相会談などでは日本側の「誠意ある対応」を求めてきた」

     

    韓国の一部では、この問題をユン政権だけに委ねず、文・前政権も協力すべきであるとの意見も出ている。そういう超党派の動きがなければ、韓国世論をまとめられないであろう。ましてや、李在明氏という文在寅氏を凌ぐ「反日チャンピオン」が登場する。日本側が、この問題に深入りできないのは、韓国で反日を利用する政治勢力が存在することだ。

     

    あじさいのたまご
       

    韓国進歩派(民族主義集団)は、口先では「理念」を滔々とまくし立てるが、現実認識を欠いた暗記による妄念にすぎない。本欄は、文在寅政権の政策がいかに誤っているか。それを、文氏在任の5年間にわたり指摘し続けてきた。

     

    今回、文政権側で最低賃金大幅引上げを主導してきた人物が、自ら韓国進歩派の政策について猛烈に懺悔する記事が掲載された。今になって「反省文」を書かれても、取り返しは付かない。進歩派は、民族主義集団であり、合理的な判断が苦手な感情過剰な集団であることを認めたのである。

     


    『中央日報』(8月26日付)は、「『所得主導成長、韓国進歩の総体的失敗』元民主研究院副院長の反省文」と題するインタビュー記事を掲載した。

     

    韓国野党「共に民主党」のシンクタンクである民主研究院で副院長を務めたチェ・ビョンチョン氏(新成長経済研究所長)は、「韓国進歩勢力の主張は初めから『社会科学』の論理ではなく『社会運動』の論理に近い」と、まもなく出版される著書『良い不平等』(原題)で進歩陣営の経済政策をこのように評価した。2012年入党後、今年初めに副院長を退任するまで10年間にわたり朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長や民主党議員室などで政策参謀として仕事をしてきたチェ氏が出した一種の自己反省だ。

     

    (1)「著書の内容は、民主党立場から見ると痛恨の内容が多い。例えば文在寅(ムン・ジェイン)政府で大統領直属所得主導成長特別委員会の委員を務めたチェ氏が、所得主導成長を「韓国進歩の集団エラー」と結論づける部分がそうだ。チェ氏は所得主導成長によって「結果的に大規模な雇用衝撃が発生した」と認めた。最低賃金1万ウォン政策については「最大の長所は1万ウォンという直観的なスローガンが覚えやすかったということ」と述べた。次は主な一問一答である。

     

    文政権の所得主導成長は、「韓国進歩の集団エラー」という。IMF(国際通貨基金)までが、韓国の最低賃金大幅引上げが間違っていると指摘したほど。これを強力に主張したのが、あの戦闘的労組であった。生産性を無視した最賃大幅引上げが、韓国のように経営側に罰則を伴う「強行法規」になると、「殺人兵器」になるのだ。韓国はこれによって、雇用構造を破壊した。その罪は重い。「間違ってご免なさい」では済まないのだ。

     

    (2)「(質問)進歩陣営への批判を記した本を出した理由は。
    (答え)我々がこれまで間違った分析をし、そのため間違った処方を下していた。だから我々が一生懸命に執行すればするほど結果は悪化の一途だった。そして、このイシューは終わったわけではなく、今後も続いていくイシューであるということを知らせたかった。1997年通貨危機以降に生まれた進歩陣営の不平等通念のほとんどが間違いだ。例えば『財閥・新自由主義・非正規職乱用』は積弊であり、ここから不平等が始まったという思い込みは誤ったものだ。このような『積弊の経済学』は不平等を二分法で見ることになるが、所得主導成長もそのような認識のために失敗した」

     

    下線部は、政治家の発言だけでなく、ジャーナリズムや学者まで汚染している。反企業主義をばらまいてきた。企業を取り締るのでなく、成長させて雇用を増やすことで国民福祉を増大させるという発想がゼロである。習近平の反企業主義に近似していたのだ。

     

    (3)「(質問)所得主導成長は何が問題だったか。
    (答え)労働談論に過剰に没頭した。労働階級論的な観点から見ると、最下層である1階にいるのは『低賃金労働者』だ。民主党はその1階の問題を解決すれば不平等を解決することができると考えた。だが、本当の問題は1階ではなく地下室にある。賃金さえ受け取ることができない高齢者など非労働者を冷遇しておいて、表面で不平等問題の解決を叫んだことだ」

     

    経済についての分析が、データに基づかず左派教科書の妄念に支配されてきた。この悪弊は、日韓併合にも向けられている。現実を分析せず、主義主張で一刀両断する。「日本は悪である」と単純に結論づけている。これでは、社会科学が韓国に根付くはずがない。

     


    (4)「チェ氏は、所得主導成長を「25年の進歩経済学の総体的失敗」と繰り返し強調した。25年という数字は進歩陣営の経済談論が拡散し始めた1997年通貨危機を基点としている。この当時、86運動圏世代のマルクス主義に基づいた談論は、次第にロビン・フッド世界観とつながっていったというのがチェ氏の考えだ。簡単に言えば、金持ちのものを奪って貧者に与えるということが進歩の経済談論だというのだ。この時期には盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府もあったが、チェ氏は「政策的だけで見るなら、盧武鉉と文在寅は正反対」と話した。チェ氏は、「盧武鉉政府は進歩陣営の主張をあまりにも受け入れないため政務的困難に陥り、文在寅政府は進歩陣営の主張をあまりにも受け入れすぎて政策的困難に陥った」と述べた」

     

    下線部は、事実をありのままに指摘している。マルクス主義に染まって、「日本帝国主義」と口にするのも恥ずかしいような手垢の付いた言葉に酔ってきた。日本帝国主義は現在、どこに存在するのか。存在しないものを大真面目に取り上げる。これこそ、韓国「学校秀才」の限界である。 

     

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