韓国のサムスン電子は10月27日、創業者の孫にあたる李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が同日付で会長に就任したと発表した。父親の李健熙(イ・ゴンヒ長の死去で会長職は空席だった。前会長の二周忌を終えて、名実ともに韓国最大財閥のトップに就く。
サムスンは、韓国最大のトップ企業である。それだけに、韓国政権の「裏財布」的な役割を押し付けられてきた。民間企業が、時の政権の意向に楯突くことは難しく、李氏も朴槿惠(パク・クネ)政権の要請を受入れ、「贈賄事件」に問われた。李氏は刑務所へ収監されたが、5月の特赦で放免された。こうした騒ぎで過去5年、落ち着いて経営に携わることができず、サムスンの経営にも大きな穴が空いている。
『中央日報』(10月29日付)は、「半導体危機の前に立った李在鎔会長の『ニューサムスン号』と題する社説を掲載した。
サムスン電子は昨日、取締役会を開き、李在鎔副会長を会長に選任した。2012年12月に副会長に昇進してから10年ぶりであり、父親である故李健熙(イ・ゴンヒ)会長が死亡して2年ぶりだ。理事会は同日、グローバル対外環境が悪化している中、責任経営の強化、経営安定性の向上、迅速かつ果敢な意思決定が切実だと判断し、このように議決したと明らかにした。
(1)「李会長は同日、就任式や就任演説など、別途の行事なしに静かに就任した。しかし、李会長の昇進は様々な面で意味が大きい。この間、すでにグループトップとして経営全般を陣頭指揮してきたが、今後公式的に「サムスン会長」のタイトルをつけて「李在鎔のニューサムスン」時代を開くものと期待される。近い将来、サムスン内に強力な人的刷新や組織改編、グループコントロールタワーの構築などを中心に「ニューサムスン」のビジョンが具体化するだろう」
これまで仮釈放という立場もあって、李氏は表立った発言を控えてきた。その李氏が態度を変えたのは、2022年6月である。欧州出張から帰国時に記者団に囲まれた際に「どう考えても1に技術、2に技術、3に技術が重要だ」として危機感をあらわにした。この発言には、中国が半導体や家電など主要事業でサムスンの背後に迫ることへの警戒感がにじんでいた。改めて、5年間の経営空白の大きさに、自ら驚くほかなかったのだろう。
(2)「サムスン電子理事会が明らかにした通り、李会長の「ニューサムスン号」を取り巻く環境はいつにも増して厳しい。狭くはサムスン電子やサムスングループ、広くは韓国経済を取り巻く対外環境が深刻な状況だ。ちょうどこの日発表したサムスン電子7-9月期の営業実績は昨年より30%以上減った「アーニングショック」だった。そのうち、最も大きな割合が営業利益の約70%を占める半導体だ。グローバル景気低迷に端を発した消費心理の萎縮で半導体価格が急落し、サムスン電子の実績も低迷している。10-12月期の見通しも暗い。グローバルIT需要不振とメモリー市況の劣勢が持続するだろうというのが専門家の判断だ。李会長の前に置かれた課題がいつにも増して厳重だということだ」
サムスンの営業利益7割は、半導体へ依存している。この半導体依存の高い状態から、来年の利益がどこまで減るかが注目点だ。ただ、これまでの半導体好況によって、現預金は9月末時点で129兆ウォン(約13兆3000億円)を擁する。これを使って、技術開発と設備投資で「競争力確保」の戦略が注目されている。
(3)「サムスン電子のアーニングショックは、韓国経済のアーニングショックでもある。半導体は名実共に韓国を代表する産業だ。全体輸出で約20%を占める。だが、最近米中技術覇権競争の余波で半導体輸出の60%を占める中国市場が厳しくなったうえに、競争業者である台湾TSMCがサムスン電子を抜いている局面だ」
韓国輸出の2割は、半導体である。その半導体の6割が、中国向けである。中国経済は、不動産バブル崩壊で、大きな傷を受けている。それだけでない。習近平国家主席の3期目が、これまでの市場経済志向から、計画経済へと舵を切る気配が濃厚になった。これでは、中国の経済成長率が一段と低下するものと見るほかない。有り体に言えば、習氏が変な宗教(共産主義純血)に凝ってしまった結果だ。14億の国家が、経済的に戸惑うことになろう。韓国は、この影響をどのように減らすかが問われる。
(4)「半導体はサムスンだけの話ではない。SKハイニックスも26日、メモリー半導体市場低迷の影響で7-9月期の営業利益が前年同期より60.3%減ったと明らかにした。サムスン電子が先頭に立って率いる韓国半導体の現在と未来が厳しくなれば、韓国経済の枠組みが揺れかねない。これから本格的に発足した李会長の「ニューサムスン号」が、サムスンと韓国経済の前に押し寄せている複合不況の3つの波を乗り越えなければならない」
韓国は、米国主導の「チップ4」へ参加するほかなくなった。これまで、中国市場との兼ね合いで、態度を決めかねてきた。だが、今後の中国経済に大きな期待は賭けられない以上、日米台韓の4ヶ国の半導体同盟に加わり、新たな市場開拓をする時期である。脱中国が求められている。