勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年10月

    テイカカズラ
       

    韓国のサムスン電子は10月27日、創業者の孫にあたる李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が同日付で会長に就任したと発表した。父親の李健熙(イ・ゴンヒ長の死去で会長職は空席だった。前会長の二周忌を終えて、名実ともに韓国最大財閥のトップに就く。

     

    サムスンは、韓国最大のトップ企業である。それだけに、韓国政権の「裏財布」的な役割を押し付けられてきた。民間企業が、時の政権の意向に楯突くことは難しく、李氏も朴槿惠(パク・クネ)政権の要請を受入れ、「贈賄事件」に問われた。李氏は刑務所へ収監されたが、5月の特赦で放免された。こうした騒ぎで過去5年、落ち着いて経営に携わることができず、サムスンの経営にも大きな穴が空いている。

     

    『中央日報』(10月29日付)は、「半導体危機の前に立った李在鎔会長の『ニューサムスン号』と題する社説を掲載した。

     

    サムスン電子は昨日、取締役会を開き、李在鎔副会長を会長に選任した。2012年12月に副会長に昇進してから10年ぶりであり、父親である故李健熙(イ・ゴンヒ)会長が死亡して2年ぶりだ。理事会は同日、グローバル対外環境が悪化している中、責任経営の強化、経営安定性の向上、迅速かつ果敢な意思決定が切実だと判断し、このように議決したと明らかにした。

     

    (1)「李会長は同日、就任式や就任演説など、別途の行事なしに静かに就任した。しかし、李会長の昇進は様々な面で意味が大きい。この間、すでにグループトップとして経営全般を陣頭指揮してきたが、今後公式的に「サムスン会長」のタイトルをつけて「李在鎔のニューサムスン」時代を開くものと期待される。近い将来、サムスン内に強力な人的刷新や組織改編、グループコントロールタワーの構築などを中心に「ニューサムスン」のビジョンが具体化するだろう」

     

    これまで仮釈放という立場もあって、李氏は表立った発言を控えてきた。その李氏が態度を変えたのは、2022年6月である。欧州出張から帰国時に記者団に囲まれた際に「どう考えても1に技術、2に技術、3に技術が重要だ」として危機感をあらわにした。この発言には、中国が半導体や家電など主要事業でサムスンの背後に迫ることへの警戒感がにじんでいた。改めて、5年間の経営空白の大きさに、自ら驚くほかなかったのだろう。

     

    (2)「サムスン電子理事会が明らかにした通り、李会長の「ニューサムスン号」を取り巻く環境はいつにも増して厳しい。狭くはサムスン電子やサムスングループ、広くは韓国経済を取り巻く対外環境が深刻な状況だ。ちょうどこの日発表したサムスン電子7-9月期の営業実績は昨年より30%以上減った「アーニングショック」だった。そのうち、最も大きな割合が営業利益の約70%を占める半導体だ。グローバル景気低迷に端を発した消費心理の萎縮で半導体価格が急落し、サムスン電子の実績も低迷している。10-12月期の見通しも暗い。グローバルIT需要不振とメモリー市況の劣勢が持続するだろうというのが専門家の判断だ。李会長の前に置かれた課題がいつにも増して厳重だということだ」

     

    サムスンの営業利益7割は、半導体へ依存している。この半導体依存の高い状態から、来年の利益がどこまで減るかが注目点だ。ただ、これまでの半導体好況によって、現預金は9月末時点で129兆ウォン(約13兆3000億円)を擁する。これを使って、技術開発と設備投資で「競争力確保」の戦略が注目されている。

     

    (3)「サムスン電子のアーニングショックは、韓国経済のアーニングショックでもある。半導体は名実共に韓国を代表する産業だ。全体輸出で約20%を占める。だが、最近米中技術覇権競争の余波で半導体輸出の60%を占める中国市場が厳しくなったうえに、競争業者である台湾TSMCがサムスン電子を抜いている局面だ」

     

    韓国輸出の2割は、半導体である。その半導体の6割が、中国向けである。中国経済は、不動産バブル崩壊で、大きな傷を受けている。それだけでない。習近平国家主席の3期目が、これまでの市場経済志向から、計画経済へと舵を切る気配が濃厚になった。これでは、中国の経済成長率が一段と低下するものと見るほかない。有り体に言えば、習氏が変な宗教(共産主義純血)に凝ってしまった結果だ。14億の国家が、経済的に戸惑うことになろう。韓国は、この影響をどのように減らすかが問われる。

     

    (4)「半導体はサムスンだけの話ではない。SKハイニックスも26日、メモリー半導体市場低迷の影響で7-9月期の営業利益が前年同期より60.3%減ったと明らかにした。サムスン電子が先頭に立って率いる韓国半導体の現在と未来が厳しくなれば、韓国経済の枠組みが揺れかねない。これから本格的に発足した李会長の「ニューサムスン号」が、サムスンと韓国経済の前に押し寄せている複合不況の3つの波を乗り越えなければならない」

     

    韓国は、米国主導の「チップ4」へ参加するほかなくなった。これまで、中国市場との兼ね合いで、態度を決めかねてきた。だが、今後の中国経済に大きな期待は賭けられない以上、日米台韓の4ヶ国の半導体同盟に加わり、新たな市場開拓をする時期である。脱中国が求められている。

    あじさいのたまご
       


    ロシアのショイグ国防相は28日、プーチン大統領と会い、9月21日に発令された部分動員令にもとづき予備兵30万人の招集を完了したと報告した。このうち、8万2000人がすでに戦地へ派遣され、21万8000人は訓練を急いでいる。

     

    南部のヘルソン市では、学生のような顔をした新兵が多数派遣されていると、現地から報じている。代わって、これまでの軍隊が姿を消しているという。精鋭部隊を撤退させ、「弾よけ」に予備兵を送り込んでいる模様だ。

     

    『ロイター』(10月29日付)は、「ロシア、30万人の部分動員終了 ウクライナ『すぐに補充必要に』」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのショイグ国防相は23日、9月に発表した30万人の「部分動員」が終了したと述べた。国営テレビで放送されたプーチン大統領との会談で、動員された新兵8万2000人が紛争地域に派遣され、そのうち4万1000人が部隊に配属されたことを明らかにした。21万8000人は訓練中という。

     

    (1)「ショイグ国防相は「これ以上の措置は予定されていない」とし、今後はロシア国内の数百万人の予備兵を動員するのではなく、原則として志願兵や職業軍人を派遣するとした。動員を巡っては、対象年齢の男性が数万人規模で国外に逃れる事態を引き起こしたほか、反動員デモで2000人以上が逮捕された。プーチン大統領はショイグ国防相に対し、動員に関する問題は「不可避」とし、軍の増強には「修正」が必要と述べた。また、兵士らの「任務への献身、愛国心、そして我が国を守るという固い決意に感謝したい」とした」

     

    ショイグ国防相は、これ以上の予備役動員は予定していないとした。これは、国内の生産活動に影響が出るという問題が起こっているからだ。


    ロシア中銀は、次のように指摘している。「部分動員令は、向こう数カ月は消費者需要とインフレを抑制する要因になると想定する。その後は、供給制約要因に加わり物価押し上げに働くと予想する」と述べた。『ロイター』(10月28日付)が報じた。動員令は事実上、無差別な徴兵である。これにより、企業の生産活動に大きな影響が出ている。「供給制約要因に加わり物価押し上げに働く」と予見できる状態になっている。こういう影響を考慮して、国防相は「今後、原則として志願兵や職業軍人を派遣するとした」と言わざるを得なくなっている。国内の部隊を派遣するという意味だろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月29日付)は、「ロシア、動員兵8万人超を投入 各地で戦闘激化の懸念」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアが28日、軍事侵攻を続けるウクライナに新たに動員した8万人を超す兵士を投入したと明らかにし、同国軍との戦闘が激化する可能性が高まってきた。東部ドネツク州では攻防が激しさを増し、南部ヘルソン州にも動員された兵士が配備された。南部クリミア半島のロシア黒海艦隊の本拠地への攻撃も伝えられ、緊張が高まっている。

     

    (2)「プーチン氏はロシアの最大の目標として、東部ドネツク、ルガンスク両州の「解放」を掲げる。特に苦戦が続くドネツク州の戦線に、動員した兵士を集中的に投入するとみられる。ウクライナ軍参謀本部は29日、28日に州都ドネツク北方のマイオルシク地区で攻撃を試みたロシア軍を撃退し、約300人を死亡させたと発表した。ロシアは、ウクライナ軍が占領地の奪回を急ぐ南部ヘルソン州にも、動員した兵士を投入している。ウクライナ軍参謀本部は28日、「ドニエプル川の右岸(西岸)地域で敵の部隊が強化されている」と分析し、新たに動員された1000人以上の兵士が配備されたと指摘した」

     

    動員兵の前線派遣が始まっている。短期の訓練で前線投入は極めて危険である。精鋭部隊を後退させ、動員兵を「弾よけ」に使っている感じだ。装備も不足している状態で、これからの「冬将軍」に耐えられるか疑問だ。満足な軍装でないと言われている。

     

    (3)「タス通信によると、ロシアが占領し、黒海艦隊の本拠地があるウクライナ南部クリミア半島のセバストポリで29日早朝、無人機による攻撃があった。飛行型と海洋航行型の両方の無人機16機により攻撃を受け、撃退したという。セバストポリ市の行政幹部は29日、渡し船など民間船舶の航行が禁止されたと明らかにした。セバストポリ市幹部は29日、記者団に「(軍事侵攻開始以来で)無人機による過去最大の攻撃があった」と語り、ウクライナの攻撃だと主張した」

     

    ウクライナ軍はすでに、クリミア半島まで無人機を飛ばしてけん制している。セバストポリ市は黒海に面したクリミア半島南西部に位置する軍港都市である。ウクライナ本土から見れば、最も遠い地点である。ここまで、無人機を飛ばしているのは、いつでも攻撃体制に移れるという示唆であり、現地を不安がらせる効果を狙っているのであろう。「余裕の攻撃」と言って良さそうだ。

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    習近平氏は、矛楯したことを平気で言っている。もはや、彼を咎めたり批判する人たちが消えたからだ。その一つは、「共同富裕論」である。その対極には、「2949年世界一論」がある。この両者は、どう見ても結びつかないのだ。

     

    習氏が昨年、強調し始めた「共同富裕論」の中身は、競争よりも平等を重視する社会であることが分かった。これは古来、中国が理想としてきた「大同論」の現代版である。個人の所有でなく、社会全体の共有概念が強調されている。共産主義社会の理想郷だ、「好きなだけ働き、好きなだけ使う」というもの。だが、この段階へ達するには、高い生産性が実現してこそ可能になる。

     

    それには、個人のインセンティブを生かす「競争」があって初めて生産性も上がるのだ。習氏は、この因果関係を忘れている。物質は、自然に生まれて増えると錯覚していないか。ともかく「競争」を否定しては「平等」は実現しない。競争を認めて平等を実現するには、所得再分配を行なうことだ。中国では、この機能が全く働いていない。「富める者から税金を取る」単純な機能が、共産党幹部によって妨害されているからだ。

     

    具体的には、固定資産税が存在しないことである。「富める者がますます富める」社会が、現在の中国である。「共同富裕論」実現には、特権階級の意識を変えることが不可欠である。習氏は、ここに手を付けずに「競争」を悪と片づけている。競争によってこそ、中国は「世界一」が実現するのだ。この関係を理解できない習氏は、とんだ「ピエロ」と呼ぶほかない。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月29日付)は、「共同富裕へ内から変える 競争よりも平等、刷り込む」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国共産党の習近平総書記(国家主席)は16日の党大会の活動報告で、「中国式現代化は人類が現代化を実現させるうえで新たな選択肢をもたらした」と発言。近年の中国の取り組みが、国際社会で模範になり得ると強調した。米欧では経済格差による分断があらわとなり、新型コロナウイルス禍で民主主義の脆弱さも浮き彫りになった。それを尻目に、習氏は23日の演説で急速な経済発展と社会の長期安定を中国の「二大奇跡」と誇った」

     

    中国の所得不平等を示す「ジニ係数」は、最悪状態である。習氏が批判して止まない資本主義経済の権化である米国よりも悪いのだ。この事実から言えば、中国は、最悪国家である。財政が所得分配機能を放棄している結果である。富裕な共産党幹部を守るためだ。

     

    (2)「総書記3期目の目標はその両立となる。格差をなくして社会全体を豊かにし、より完全な社会主義に近づける「共同富裕」をスローガンとする。競争よりも平等を、出世よりも勤勉さを――。習氏がいま、新たに変えようとしているのは人々の心の持ちようだ。16日の報告で「物の豊かさと心の豊かさ」に触れ「人民の内面世界を充実させる」と訴えた。党が率先し内側から変えていくという「自我革命」との表現も最近目立つ」

     

    習氏は、「競争よりも平等を、出世よりも勤勉さを」と訴えている。いかにも修身の教科書に出てくる標語である。社会が発展し増える高齢者の介護を手厚くするには、財政が豊かにならなければ不可能だ。それは、個々人が創意工夫してビジネスを行い、付加価値を高めることによって実現する。「競争」というインセンティブがあってこそ、成長と発展が可能になる。競争を封印すれば、毛沢東が実施して失敗した「人民公社」の二の舞いである。人々は働かず、分配の平等を求めるだけで、農村は疲弊して瓦解した。

     

    (3)「すでに受験戦争の現場で競争意識を薄めようとの動きがある。「成績に関係なく進学校に入れるのはむしろ不公平ではないか」。上海市で小学4年生を育てる張佳さん(仮名)は子どもの将来に不安を抱く。というのも、上海市が2022年から高校受験の制度を改め、入学試験の成績順で決まる合格枠を減らしたからだ。地元の区や中学校への割り当てを増やし、義務教育の公平性を高めるという」

     

    小学校で、入学試験の成績順で決まる合格枠を減らしたという。これは、加熱する受験競争を鎮める上で、効果があろう。

     

    (4)「一人っ子が多い都市部で教育熱が過剰となり、若い世代が出産をためらうほど教育費も高騰した。教育面でも広がった富裕層と貧困層の格差是正を狙っている。こうした「振り分け」は職業選択にも及ぶ。中国で新学期にあたる9月。今年から小学・中学校で「労働」が必修科目となり「額に汗して働く尊さ」を教え始めた。中国教育省も技術者を育てる職業学校を増やし、子どもの希望進学先を高校・大学から職業学校に移そうとしている」

     

    教育費高騰は、不動産高騰と絡みあっている。「良い学校」へ入学するために、その校区にあるマンション入居で莫大な資金が掛かったからだ。不動産開発企業は、優秀な私立学校をつくり、上級学校への進学率を高める戦術に出た。この手法が、全土に広がり教育費高騰=不動産高騰という相関図を現出させた。だが、不動産バブルの崩壊で前記の構図は崩れる。受験競争は鎮まるだろう。

     

    問題は、政府が子ども達の針路へ陥入することだ。習氏は、米中戦争を想定している。米国から経済封鎖を受けた場合、国内の製造業に頼るほかない。職業教育を充実させて、「職工」を確保しようという狙いである。

     

    (5)「高学歴化で大卒生の希望が「白領(ホワイトカラー)」に集中し、労働力構成に偏りが生じているためだ。25年に主要産業で3000万人ほどの人手不足になるという。共通するのは、個人の意思の持ちようを国の目的に合うように仕向ける発想だ。それで本当に心の奥底にひそむ不満や反発まで抑え込めるのか。新型コロナウイルス対策では感染防止を名目に、隣人同士が行動制限を守っているかを監視しあう社会を定着させた」

     

    習氏の頭は、完全に従来の産業地図に基づいている。今後の産業は、IT化の促進で高学歴化が求められている。従来の「職工」の範疇では収まらないほど、業務の質が高まっているのだ。習氏を取り巻く少数の古い人間が考え出す職業観では、時代の変化に乗り遅れよう。

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    習近平氏は、国家主席3期を実現した。公約の目玉は台湾統一である。国民誰もが賛成する「大祖国統一」の旗印で、台湾侵攻を目指している。ミソは、国家主席4期目も視野に入れていることだ。後継者を置かないことにそれが現れている。台湾侵攻は、国家主席4期目にずれ込む可能性がある。

     

    『ロイター』(10月29日付)は、「新たな中国軍最高機関、『対台湾』で結束とスピード発揮か」と題する記事を掲載した。

     

    中国共産党トップの総書記に再任された習近平氏の下で陣容を新たにした軍の最高指導機関のメンバーは、いずれも習氏への忠誠心が選ばれた第一の理由かもしれない。そうした関係性は、台湾侵攻を計画する場合に軍事上の重要な目的の1つをかなえるのに役立つ。一糸乱れぬ結束力と、強い決断力の確保だ。

     

    (1)「実際に台湾に侵攻する場合、最終的な決定を下すのは共産党最高指導部の政治局常務委員会だが、戦闘計画の策定と実行は軍最高指導機関の中央軍事委員会に委ねられる、とアジアや西側の中国駐在武官は説明する。23日に中央軍事委員会に新たな3人のメンバーが選出されたのに先立ち、習氏は共産党大会の政治報告で、台湾に対する「武力行使の放棄は決して約束しない」と発言した」

     

    習氏が、国家主席3期を実現した最大の背景は、台湾侵攻である。香港への「一国二制度」は中国自らが破ったので、台湾が受け入れるはずがない。結局は、武力の統一になる。

     

    (2)「4人の安全保障専門家と4人の駐在武官は、ロシアがウクライナで「泥沼」に陥っている状況を挙げ、中国が台湾侵攻を計画する場合、台湾軍や国際社会の支援の機先を制するという意味からも、侵攻の準備と実行を迅速化することがいかに大事か証明されたと述べた。シンガポールを拠点とする戦略アドバイザーのアレクサンダー・ニール氏は、「習氏が台湾侵攻の引き金を引こうとするなら、中央軍事委員会からの反対意見を聞いている余裕はない。優位に立ちたければ素早く、電撃的に行動しなければならず、ためらう余地はない。これが台湾について中国側が常に考えていることだ。ウクライナの事態で、補給態勢の構築が遅れて身動きできなくなるのを避ける必要性が確かめられた」と指摘する」

     

    ロシアは、ウクライナ侵攻で泥沼に落込んでいる。中国はこれを教訓にして、奇襲攻撃を行なうと推測される。だが、台湾の制空権は最低でも6割を握らなければ勝利の見込みはないとされる。

     

    情報戦の発達している現在、奇襲攻撃は可能なのか。事前の兆候は必ずあるはずだ。クアッド(日・米・豪・印)は、広い情報ネットワークで中国を監視する。「ファイブ・アイズ」(米・英・豪・カナダ・ニュージーランド)が、第二次世界大戦以来の高度秘密情報網が機能している。米国が、ロシアのウクライナ侵攻で事前情報を公開できたのは、フィブ・アイズも貢献しているであろう。

     

    奇襲攻撃が成功しなかった場合、その反動は大きい。中国の敗北を招く公算が強くなる。西側が揃って反撃する。中国は、「第二の真珠湾攻撃」で台湾の核心部分を叩き、和平交渉を狙っているのかも知れない。そういう思惑通りに進む保証はないのだ。ウクライナを見れば立証済だ。



    (3)「これまで軍に対する党の支配強化を進めてきた習氏は今回、中央軍事委員会に3人の新メンバーを送り込むとともに、軍の中で最も信頼する張又侠上将を制服組トップの副主席に留任させ、一段と自身の影響力を増大させた。張又侠氏は72歳で、これまでの中央軍事委員会の慣例ならば引退する年齢だった。シンガポールのラジャトナム国際研究院で軍事を研究しているジェームズ・チャー氏は、「習氏による前例を破った(張又侠氏留任という)人事は同時に2つのメリットを実現するためだった」と語り、これで作戦指揮に精通し、かつ政治的に信頼できる人物を制服組トップに据えたままにしておけると説明した」 

    習氏は、自分の「分身」である張又侠上将を軍のトップに留任させた。

    (4)「張又侠氏は、米国防総省が昨年公表した中国軍の近代化に関する報告書で人民解放軍の「小君主」と表現したほど、強大な権力を持つ。張氏と習氏は、父親同士が1949年の国共内戦で戦友だったという縁がある」 

    張氏の父親と習氏の父親は、戦友関係にあった。こういう縁を大事にするのが中国だ。「人縁社会」の縮図である。張氏は、習氏を勝利者にしたいという「身びいき」で、間違った戦略を具申しないか。戦争には、人情でなく冷徹な見通しが不可欠である。戦前の日本軍は、「武士の情け」で、戦いで失敗した司令官を起用し続け、さらに穴を広げた。米軍は、失敗した司令官を直ぐに更迭した。戦場に、情けは無用なのだ。 

    (5)「あるアジアの中国駐在武官は、近年の人民解放軍が進化を遂げているとしても、現在の戦争の経験がない点は明白だと指摘。「あらゆる演習やパレードもその代わりにはなり得ない。彼ら自身にとっても、外部から注目しているわれわれにとっても、果たして人民解放軍が戦争を遂行できるのかというはっきりした疑問が存在する」と述べた」

     

    下線部分は重要な指摘だ。米軍仕込みの台湾軍が、簡単に中国軍に捻られるとは思えない。米軍も支援するから、中国軍はウクライナ侵攻のロシア軍以上の苦戦へ持込まれよう。その場合、習氏の「永久国家主席」の可能性は消える。

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    過去20年間、世界経済をけん引してきた中国の不動産主導の成長モデルが今、急速に崩壊しつつある。世界第二の経済大国・中国が、不動産に代わる成長エンジンを見つけるのは不可能である。中国の時代は終わったのだ。

     

    史上最大の不動産ブームが終わり、バブルがはじけたということである。しかし、より深く分析すると、中国の政治経済システムの核の部分にあるより複雑で厄介な問題が見えてくる。

     

    「土地本位制」(学術用語でない)によって、好きなように財源をつくり、軍拡費用に回してきた手品の終りである。習氏のこれまでの10年は、完全な「不動産太り」であった。この手品が消えた後には、地方政府に対GDP比52%の「隠れ債務」53兆人民元(約1078兆円)が残される。この処理にてこずることは言うまでもない。「宴の後」の厳しさに襲われるのだ。

     

    中国『財新』(10月13日付:東洋経済オンライン10月28日付)は、「中国不動産大手 19月『成約額半減』7割超の業者が年間販売目標の60%に届かず」と題する記事を掲載した。

     

    中国の不動産デベロッパーが未曾有の苦況にあえいでいる。不動産情報サービスの克而瑞のデータによれば、業界上位100社が2022年19月に販売したマンションの累計成約額は約4兆6700億元(約95兆3978億円)と、前年同期比45.4%の大幅な落ち込みを記録した。

     

    (1)「販売不振は業界大手も例外ではない。克而瑞がまとめた企業別の販売ランキングでは、1位から5位までの顔ぶれは碧桂園(カントリー・ガーデン)、保利発展(ポリ・デベロップメント)、万科企業(バンカ)、中国海外発展(チャイナ・オーバーシーズ・ランド・アンド・インベストメント)、華潤置地(チャイナ・リソーシズ・ランド)だった。これらの5社は、いずれも9月までの月次成約額を開示済みだ。それによれば、碧桂園と万科企業の19月の累計成約額は前年同期比の減少率が3割を超えた。保利発展と中国海外発展の減少率は同2割超、華潤置地は同12%となっている」

     

    不動産バブルが崩壊した以上、価格は下落するから消費者は様子見に徹する。これが、古今東西のパターンだ。一貫して不動産先高観を煽ってきた。それが、習政権の10年間である。10年間も煽って来たのだから、その風が止めばパタリと市場は動かなくなって当然。いくら、テコを使っても動く筈がない。人口動態的に、購入層を上回る販売を続けてきた咎めが、これから表面化する。

     

    (2)「マンションの販売不振の長期化で、デベロッパー各社の販売目標の達成は困難になる一方だ。年間販売目標を開示している大手14社を対象に克而瑞がまとめたデータによれば、9月末時点で7割超の業者の目標達成率が60%に届いていない。「担当地域の成約額は9月末時点で目標の3分の1にとどまっている。年末までに50%に届けば、まだましなほうだ」。ある大手国有デベロッパーの深圳地区のセールス担当者はそう溜息をつく」

     

    住宅の販売目標が、達成できる方は不思議なほど。いくら物件がよくても需要が落ちている影響は不可避である。それどころか、これまで投機用で買って置いた物件が、あらたに市場へ供給される。新規物件の販売は落ちる運命なのだ。

     

    (3)「別の中堅国有デベロッパーのセールス担当者によれば、華南地区の8都市にある営業所のうち19月の成約額が年間目標の75%に届いたのは1カ所だけで、残りの7カ所の達成率は60%に満たないという。目標の大幅な未達は、販売の最前線で働く営業部隊にとって大きなプレッシャーになっている」

     

    営業担当にとっては、厳しい時期だ。これまでは、販売すれば黙っていても、消費者の方が寄ってきた。先高状態では、言い値の販売である。現在は、逆になっている。値引きなどの条件提示が常識になっている。

     

    (4)「前出の大手国有デベロッパーのセールス担当者は、ある同一物件の営業責任者が、予算未達を理由に2022年初めから現在までの間に4人も更迭されたと打ち明けた。「目下のような状況が続けば、年末までにセールス担当者の大規模な人員カットが実施されるのではないか。同僚たちもみな心配している」。この担当者は不安を隠さない」

     

    下線のような事態の発生は、不可避となろう。成約減に見合った人員整理をしなければ、企業は採算を取れないからだ。

     

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