ロシアが9月30日、国際法を無視して勝手にウクライナ4州のロシア領編入を決めた。中国は、主権国家のウクライナの主権を侵すこの犯罪行為に対して沈黙するほかない。今さら中ロ枢軸を壊す勇気もないのだ。中国は、困った相手と手を組んだものである。
中国は、ロシアとの間に長距離の国境線を持つ。毛沢東時代の中ソ対立が、どれだけ中国に負担になったことか。こういう過去の歴史を考えれば、「付かず離れず」の立場しか取れないのだ。こうして、ロシアが暴走すればするほど、中国の立場も苦しくなるという関係に陥っている。
『日本経済新聞』(10月1日付)は、「中国、ロシア見捨てられず」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のコラムニスト秋田浩之氏である。
ロシアはウクライナ東・南部4州を強引に併合しようとするなど、暴挙を重ねている。こうしたなか、中国がロシアと距離を置き始めたとの観測が広がっている。
(1)「根拠のひとつが9月15日、ウズベキスタンで開かれた中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とロシアのプーチン大統領の会談だ。冒頭、プーチン氏が「(ウクライナ問題で)中国の疑問や懸念を理解している」と語ったことから、中国がロシアに不安を伝えていたことが明らかになった。これに先立つ9月上旬、中国からは全国人民代表大会の栗戦書(リー・ジャンシュー)常務委員長がモスクワを訪れた。訪問中の栗氏発言について、ロシア側の発表が世界に波紋を広げた。栗氏がロシア側に対し、ウクライナ侵略に至ったロシアの立場に理解と支持を表明した、という内容だったからだ。中国側はこの発言を一切、公表していない。栗氏は表に出さないオフレコを前提に内々の「理解と支持」を伝えたにもかかわらず、ロシア側が一方的に公表してしまったとみられる」
中国は、ロシアに対して表と裏の対応している。裏では、リップサービスして「支援」するが、表では西側に配慮した「振り」もしなければ、より一層の孤立を招く危険性があるからだ。だが、西側はこういう中国の「裏技」こそ本音と見ている。対中警戒姿勢を強めている理由である。いずれにしても「ならず者国家」と誼を通じている中国の損失は莫大である。
(2)「中国は今後、どこまでロシアと距離を置くのか。9月上旬、旧ソ連圏のジョージア・トビリシで開かれた国際会議でも、中ロの行方が焦点になった。そこで出た分析は、主に2つに分かれる。一つは、中ロは長期戦略が異なるため、結束は長続きしないとの見方だ。ロシアは現秩序を破壊することで、自国の生存空間を確保しようとしている。一方、中国は現秩序を壊すのではなく、国際機関などへの影響力を強め、中国色に染めようとしている。この点で、両国の長期戦略には大きな溝が内在しているというわけだ」
国際会議では、中ロ関係の今後に関心が集まっている。一つは、関係性は薄まると言うものだ。この立場の根拠は、中国が世界のリーダーになるべく努力しており、ロシアの振る舞いが邪魔になるとしている。
(3)「もう片方の分析は、中ロは米国に対抗し米勢力圏を切り崩す目標を共有しており、結束を弱めることはないという見立てだ。少なくとも短・中期的には、中国はロシアと決別しないという後者の分析が正しいだろう。第1の理由は、中国と旧ソ連圏が長い国境を接していることだ。今でこそ中ロは蜜月だが、1960年代には敵対し、69年に国境紛争も起きた。もしウクライナ問題で中国がロシアを見捨てれば、ロシアは数十年にわたって恨みを抱き、中ロは極めて険悪な関係になりかねない。中国からみれば、太平洋側に米国、北側にロシアという火種を抱えることになる。このような事態を防ぐためにも、中国はロシアを見限ることができないのだ」
下線部のような理由で、中国はロシアと手を切れない関係としている。ただ、中ロは習近平とプーチン二人の独裁者が「意気投合」し、互いの政治生命を保障し合う「個人同盟」という側面がある。これを見落としてはならない。習氏が、自らの政治生命を長期に維持する上で「プーチン装置」は不可欠である。自分の存在をプーチン氏によって補強している面もあるのだ。
(4)「中ロが友好関係を謳歌し始めた90年代半ば、中国政府高官は筆者の取材に対し次のように語った。「太平洋で隔てられた米国と異なり、ロシアとは長い陸上国境を接する。ロシアが将来、自国の勢力圏を広げようとし、中ロが緊張することもあり得る。中国にとっては、今後もロシアが最大の火種であり続ける」。当時はエリツィン大統領の時代だった。この観点に立てば、核の脅迫を繰り返し、凶暴に振る舞う現在のプーチン政権は、中国の目により危険に映るに違いない」
ロシアの通常軍事力は、ウクライナ侵攻で白日の下に曝け出されている。もはや、旧ソ連軍の力を失ったのだ。今後は、さらにこの傾向を強める。ロシアは、張り子の虎になった。
(5)「中ロが決別しない第2の理由が、すでにふれた対米戦略上の思惑だ。中国は2050年までに、米国に並ぶ超大国になる目標を掲げる。ロシアは米国に対抗していくうえで、ただ一つの大国仲間だ。ロシアがウクライナで決定的に敗北し、国家崩壊の危機にひんするようなことになれば、中国は独りで西側陣営に対抗しなければならなくなる。1991年12月にソ連が解体し、中国がただ一つの社会主義大国になった構図に逆戻りするようなものだ。この筋書きが現実にならないよう、中国はロシアへの軍事支援を控えつつ、プーチン政権を外交、経済的に支えていくだろう」
中国は2050年までに、米国に並ぶ超大国になる目標を掲げるが、もはやその夢は不可能である。人口動態統計一つを見ても、それを裏づけている。さらに、「中ロ枢軸」というレッテルを貼られたマイナス要因がどれだけ大きいか。西側の「中国封じ込め」戦略の発動を見れば分る。下線部のような振る舞いが、中国を一段と警戒させるのだ。愚かな夢を見たものである。