中国当局は、ゼロコロナ反対を叫ぶ街頭の若者たちへ対抗策を取り始めた。街灯を消して、デモ参加者の顔写真を撮っているのだ。いよいよ、苛烈な弾圧が始まる序曲であろう。問題は、習政権が若者から仕事を奪っていることにある。若者の失業率は18%に達しており、「3年間、仕事がない」という悲痛な叫びが出ているのだ。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月30日付)は、「中国の抗議デモ、背後に若者の経済不安」と題する記事を掲載した。
中国各地の主要都市で先週末発生した市民の抗議デモは、当局による新型コロナウイルスの厳格な封じ込め対策への不満が引き金となった。背後には、当局が爆発しかねないとして警戒を強める別の「マグマ」もくすぶっている。中国の若者層に広がる経済的な不満だ。
(1)「大学構内を含め、市民が異例の抗議活動を展開した背景には、中国当局がなかなか景気減速に歯止めをかけられないでいることがある。中国の成長率は今年、コロナが最初に流行した2020年を除き、40余年ぶりの水準に沈む見通しだ。若者層にとって、先行きの見通しはとりわけ暗い。中国都市部の若者(16~24歳)の失業率は18%前後と、過去最悪の水準付近で高止まりしている。中国では来夏、過去最多となる1158万人余りの学生が卒業する。ところが、大卒者ら若者の仕事は、インターネットや教育、サービス業を中心に消滅した。厳格なゼロコロナ政策に加え、中国当局が過去1年に民間企業への締め付けを強めてきたことが原因だ」
約3年にわたるロックダウンで、中国経済は大きく揺さぶられている。その間に、「共同富裕」という名目で、IT関連産業や不動産開発業へ規制の網がかけられた。実は、これら部門が若者にとって憧れの職場である。それが、消えかかっている。新規雇用どころか解雇へ動いているのだ。
(2)「上海では11月26日夜、デモ隊の一部が「この3年間、仕事がない!」と叫んでいた。参加者の話で分かった。人気ソーシャルメディア「豆瓣(ドウバン)」では昨年、厳しい雇用情勢を共に嘆く支援グループが結成され、5万2000人余りの参加者が集まった。高まる不満が治安悪化へと発展しないよう、習近平国家主席ら指導部にとっては、早期の成長てこ入れが喫緊の課題となっている。とはいえ、ハイテク企業や不動産市場への締め付けが足かせとなり、輸出主導の中国経済が世界の需要低下という逆風に耐える力は弱まっており、景気回復は難しいと指摘されている。多くの専門家が予測するように、冬場にコロナ感染が全国的に増えれば、なおさらだ」
ゼロコロナ抗議活動の実態は、若者の雇用不安が引き金になっている。ロックダウンによる不満が、雇用不安への怒りと結びつき、大きなうねりになっているのであろう。
(3)「キャピタル・エコノミクスのアジア上級エコノミスト、マーク・ウィリアムズ氏は、「習(氏)にとって最も危険なのは、市民が指導部の国家運営能力を疑い始める展開だ」と話す。「ゼロコロナ下で検査と隔離が永遠と繰り返される現状により、その点に人々の関心が向かっている」と指摘」
国民に雇用を保証できない政権は、無能扱いされて当然だ。中国共産党は、国民との間でこうした「社会契約」を結んで、独裁政治を行なっているはずだ。その大事な雇用を保証できなければ、若者が不満を言い立てるには自然な動きであろう。
(4)「中国共産党の指導部にとって、若者の経済的な不満はかねて心配の種だった。大規模な学生運動を武力で弾圧した1989年の天安門事件を巡っては、当時インフレ率が18%に跳ね上がっていたことがデモを誘発したとみるエコノミストが多い。今回のデモは、新疆ウイグル自治区のウルムチで起こった火災の犠牲者への追悼から、ゼロコロナ政策への批判へと変化する中で発生した。別の懸念も浮上している。27日には、北京の名門、清華大学で数百人の学生がキャンパス内で「民主主義と法の支配を」と連呼した。また言論の自由への弾圧に抗議するため、各地でデモ隊が白い紙を掲げた。上海では、習氏の辞任を要求する声も上がった」
天安門事件の裏にも経済的な不安があった。今回のゼロコロナ反対運動と似た側面がある。この延長で、「共産党反対」という過激な言葉が出るのはやむを得まい。
(5)「エコノミストの間では、中国の若者にとって雇用市場の圧力は今後も続くとの見方が多い。中国景気が減速する度に、その痛みは新たに労働市場に加わる若者に過度に集中する傾向があるという。企業の間で経験者を維持しようとする動きが出るほか、先行き不透明感を理由に、採用を凍結することが要因だ。また度重なるコロナ検査と封鎖措置により、飲食店や旅行代理店など、多くのサービス業者が廃業に追い込まれた。これらは若者にとって大きな雇用の受け皿だ」
ゼロコロナ対策が続く限り、下線のように多くのサービス業が廃業に追込まれる。サービス業は、若者が好む職場である。こう見ると、ゼロコロナが、若者の経済的な不安を駆り立てる大きな要因を含んでいることに気づくべきだ。