ロシアは、ウクライナ戦争で大苦戦を強いられている。弾道ミサイルの備蓄も急減しており、兵器の損失規模もウクライナの3倍にのぼるとの推計も出てきた。こうした状況下で、中ロ首脳のオンライン会議が12月30日行なわれた。これにより来春、中国の習近平国家主席がロシアを訪問することを決めた。
ロシア国営メディアによると、プーチン氏は「ロシアと中国の軍隊の交流強化を目指す」と話し、軍事協力の強化を示唆した。中国から軍事支援を得たいという願望が強く滲み出た発言である。ロシア軍劣勢の中で、中国が今になって軍事支援するリスクを冒すとは考えられない。経済的な面での話し合いと見られている。
『日本経済新聞 電子版』(12月31日付)は、「ロシア軍の消耗顕著に『兵器損失』ウクライナの3倍か 広がる兵員不足観測 29日に大量ミサイル攻撃」と題する記事を掲載した。
(1)「ロシア軍は12月29日朝、ウクライナ全土で大規模なミサイル攻撃を実施した。ウクライナ軍によると各地のエネルギー関連のインフラ施設に向けて69発のミサイルが発射され、54発が迎撃された。ロシア軍は10月からウクライナ各地のインフラを標的にしたミサイル攻撃を続けてきた。市民生活を窮乏化させ、継戦能力を奪うのが狙いだったが、いまだに戦局をロシア優位に転換できていない。ウクライナ国防省の情報機関トップ、キリロ・ブダノフ氏は英BBCが29日に公開したインタビューで、ロシア軍が「完全に行き詰まっている」と語った」
ロシア軍は、米国提供の「ハイマース」によって兵站線を徹底的に潰されている。ロシア軍「行き詰り」の理由はこれだ。
(2)「ロシア軍のミサイル備蓄は急減している。これまでの大規模攻撃で発射されたミサイルの数は確認された分だけで計549発。ロシアの年間生産量のおよそ6年分を3ヵ月で使い切った計算だ。米欧による先端技術部品の輸出禁止でロシアのミサイル生産能力も落ちている。ウクライナ軍はあと2~3回の大規模攻撃でロシア軍の弾道ミサイルの備蓄が尽きるとの見方を示す。兵器の損失も膨らみ続けている。民間の軍事情報サイト「Oryx」の24日時点のリストによると、破壊されたり、ウクライナ側に渡ったりしたロシア側の装備品は計約8500点で、ウクライナ側のほぼ3倍だ。ロシア軍は直近の1カ月で計240両を超える戦車と装甲車を失ったという」
ロシアは、ミサイルの年間生産量のおよそ6年分を、3ヵ月で使い切った計算という。これだけ早いペースで、ウクライナ国内へ攻撃しても戦況を回復できないのは、ウクライナ国民の士気の高さだ。理不尽な戦争への怒りが、ウクライナを結束させている。
(3)「ロシア軍では兵員不足の懸念も広がる。現在のロシア軍の兵員は訓練不足の徴集兵が多く、敵地で戦うために損耗率も高い。侵攻開始以来の死傷者数は10万人を大きく超えるとみられる。ロシアの独立系メディア、メドゥーザは22日「数カ月後には再び深刻な人手不足に陥りかねない」と指摘した。プーチン大統領は21日、9月末に部分動員令で集めた30万人のうち、15万人はまだ戦闘地域に投入していないと主張した」
ウクライナは、ロシア軍兵士10万人以上が死亡したとしている。これが、正しいとすれば、この2倍以上の重傷者が出ていると見られる。特に、痛手は将校クラスの損失である。戦場で指揮官がいない部隊は、烏合の衆になりかねないのだ。
(4)「ショイグ国防相は21日、軍の規模をいまの3割増の150万人に拡大させることを提案した。兵力の早期消耗をにらんだ大規模な追加動員の布石とみる向きが多い。プーチン氏が9月に部分動員令を発した際は社会が大きく動揺した。独立系調査機関レバダ・センターが発表するプーチン氏の支持率は7割台に低下。動員令後、出国したロシア人男性は70万人に達したとの推計もある」
23年早々に、新たな動員令が出るとの情報も見られる。また、出国者には課税するというニュースも出てきた。ロシアが、人的補充で苦しい局面にあることを覗わせている。
(5)「ロシアでは市民の生活水準も悪化し続けている。国際通貨基金(IMF)は、ロシアの22年の実質経済成長率をマイナス3.4%と予測する。景気後退は鮮明で、欧州ビジネス協議会によると1~11月のロシアの新車販売台数は前年同期比60.9%減だった。プーチン氏はこれまで、ソ連崩壊直後の貧困を知る高齢層に生活水準の向上をアピールし、政権基盤を保ってきた。生活水準の悪化に加え、大規模動員という第2次大戦以降で初めての事態に市民が直面すれば、抗議活動は一気に広がる可能性がある」
ロシアは、原油価格がEU(欧州連合)によって価格上限制が引かれた結果、大幅に値下がりしている。1バレル=42~45ドルである。国際価格の45%引きという捨て値相場だ。これでは、ロシア財政に大きく響く筈。年金財政も厳しくなる。
(6)「米国はウクライナ支援を増やす一方、プーチン氏を追い詰めて偶発的な核戦争のリスクが高まる事態を懸念する。21日には18億5000万ドル(約2400億円)の軍事支援を表明したが、戦局打開のためウクライナが望んだ最新鋭戦車、戦闘機、長距離ミサイルの供与は控える方針を維持した。ロシア本土や同国が併合を宣言したクリミア半島への攻撃に対し、ロシアが核兵器で報復し、北大西洋条約機構(NATO)を巻き込むリスクがあるためだ」
ロシア軍は苦境に立つと、核問題を持出して威嚇している。ウクライナ軍は、核投下がないという前提で作戦計画を遂行している。米国もNATOも厳重にロシアへ核投下について警告しているところだ。ロシアが核を使えば自滅の運命である。