勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2022年12月

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    巨人軍の王貞治選手は、「1本足打法」でホームラン756本の世界記録を残している。現在も、この記録は破られず燦然として輝く。韓国経済は、半導体の「1本足打法」で支えられているが、世界経済の落込みで大きな影響が出ている。

     

    韓国は、世界経済の逆境に弱い経済構造である。輸出依存度が36.14%(2021年)と高い結果だ。輸出が減ればガクンと腰折れする構造ゆえに、来年のGDP成長率が1%台と見積もられている理由である。

     

    『中央日報』(12月27日付)は、「半導体と金利に足を引っ張られた韓国証券市場、外国人投資家4兆ウォン売り越しと題する記事を掲載した。

     

    外国人投資家の「セルコリア」は進行形だ。今年だけで有価証券市場で4兆ウォンを超える株式を売り払った。半導体に偏っている上に金利引き上げと為替相場などに弱い構造、グローバルスタンダードに逆行する各種政策と規制が、外国人投資家が韓国市場を冷遇する要素に選ばれる。

    (1)「12月26日の韓国取引所によると、外国人投資家は12月に入りこの日までで1兆3221億ウォンを売り越した。年間で見れば外国人投資家は4兆1823億ウォン相当を売り越した。外国人投資家は新型コロナウイルスが本格化した2020年に22兆1808億ウォン、韓国総合株価指数(KOSPI)が過去最高を記録した昨年25兆9984億ウォンを売り越したのに続き今年も売り攻勢を続けた」

     

    韓国株が売られている。外国人投資家は、今年に入って4兆1823億ウォン相当(約4200億円)を売り越した計算だ。2020年には、22兆1808億ウォン(約2兆3000億円)も売り越しているので、来年が売越しのピークとなろう。

     

    (2)「『セルコリア』は『セル半導体』の同義語だ。KOSPIで占める割合はサムスン電子の18.9%とSKハイニックスの3.1%で20%を超える。半導体銘柄を売買する外国人投資家の動きに市場は泣いて笑った。外国人投資家は9月まで10兆2111億ウォン相当のサムスン電子株を売った。だが10月には1兆5059億ウォン相当、11月には7393億ウォン相当を再び買った。この期間にKOSPIは14.71%上昇した。だが今月に入り再びサムスン電子が4076億ウォン売られ、KOSPIもやはり6.28%下落した。今年1年間に外国人投資家がサムスン電子を売り越した金額は8兆3737兆ウォンに達する」

     

    「セルコリア」は、「セル半導体」でもある。韓国輸出の支柱は、半導体である。半導体市況が悪化すれば、韓国輸出が落込む構造になっている。半導体輸出比率は、約20%と首位を占める。それだけに、市況急落の影響が輸出額全体に大きな影響を及ぼす。

     

    (3)「韓国の証券市場が金利引き上げ、為替相場、景気低迷など対外変数に弱いことも外国人投資家の立場では投資をためらわせる要因だ。金利引き上げ期には韓国など新興国に対する投資心理が悪化する状況で、IT関連ハイテク株など成長株を中心に将来の実績に対する疑問が大きくなり大幅な調整を受ける。未来アセットメディアコンテンツ本部長のソ・サンヨン氏は「韓国の証券市場は、ネイバーやカカオなどのIT業種と二次電池などのハイテク株が多いため外国人投資家の立場では金利引き上げ期に魅力が落ちる」と分析した」

     

    韓国の政策金利は、すでに3.25%にもなっている。昨年7月には、0.5%だったからこの間の引上げがいかに急激であったかを物語っている。韓国企業の業績が悪化して当然であろう。消費者物価指数が5%台に高止まりする結果だ。来年、米国がさらに利上げに走れば、米韓金利差拡大を阻止すべく、追随利上げが予定されている。

     

    『中央日報』(12月27日付)は、「サムスン電子にSKハイニックスまで 韓国企業「業績寒波」に震える」と題する記事を掲載した。

     

    (4)「サムスン電子に寒波が押し寄せている。10~12月期の業績に「冷たい風」が吹くと予想され大々的なコスト削減に入った。全社的に「海外出張50%縮小」の指示が下されたためだ。法人カードでのゴルフ費用決済を控えるよう命じたほか、オフィスの暖房温度をこれまでより1度低くするなど大々的に乾いたタオルを絞っている」

     

    サムスンが、「海外出張50%縮小」やオフィス暖房を1度下げるなどの経費削減を始めた。

     

    (5)「SKハイニックスは役員に割り当てられた予算を50%、チーム長は30%削減した。社内イントラネットには自己啓発費用と車両支援費など福利厚生費と活動費、業務推進費などを減らすという公示が上げられた。LGエレクトロニクスは最高財務責任者(CFO)主導でウォールーム(戦時状況室)の稼動を本格化した。社内の各種非効率を除去し費用を節減するのが目標だ。
    SKハイニックスは、役員予算を50%、チーム長は30%削減するという。


    (6)「韓国の大企業がこのようにベルトをきつく締めるのは、今後不況の谷間がさらに深まると予想するためだ。金融情報会社のFnガイドが26日に明らかにしたところによると、サムスン電子の10~12月期の営業利益コンセンサスは7兆3968億ウォンで前年同期と比較して半分近い46.6%の減少となった。一部では6兆ウォン台と予想したりもするが、これは新型コロナウイルス流行初年度である2020年4-6月期以降初めてだ。10-12月期の予想売り上げは74兆324億ウォンで前年同期比3.31%減少した。

     

    サムスンの10~12月期は、営業利益が前年同期比46.6%の減益見通しだ。売上は、同3.31%減に止まる。営業利益が半分近い減益になるのは、損益分岐点が高くなっている結果である。これを避けるためには、固定費の切り詰めが必須課題になるほど厳しくなっている。今後、減益幅の拡大は不可避だ。

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    今年の新車販売台数でトヨタは連続3年、世界一になる公算が強くなった。トヨタも依然、半導体不足が続いているので、全ての需要を満たせない状況という。余裕を残しての世界一と言えそうだ。

     

    『日本経済新聞』(12月27日付)は、「トヨタ、3年連続世界一へ 22年新車販売台数 中国でVWと明暗」と題する記事を掲載した。

     

    トヨタ自動車の2022年の世界新車販売が3年連続で世界首位になる見通しとなった。トヨタが26日に発表した1~11月の世界販売台数は前年同期比横ばいの956万台だった。独フォルクスワーゲン(VW、9%減の742万台)を214万台上回った。主力市場の中国や東南アジアでの販売増が全体を押し上げた。一方、半導体不足などに端を発する世界的な生産停滞は続いており、需要をすべてまかなえない状態が依然リスクとなっている。

     

    (1)「ダイハツ工業と日野自動車を含む、トヨタグループ全体の11月単月の世界販売は88万台と前年同月比で4%伸びた。一方、VWは9%増の67万台だった。トヨタを逆転して首位に立つには22年の月間平均販売の3倍を超える台数が12月だけで必要になる計算だ。トヨタ単体(トヨタ・レクサスブランド)だけでもVWを上回りそうだ。1~11月でけん引したのは中国や東南アジアだ。トヨタ単体の中国での販売は2%増だった。「カローラ」や「カムリ」といった車種が好調だったほか、夏に工場の生産能力を増強し、新型コロナウイルス禍の落ち込みから回復し始めた旺盛な需要を取り込んだ。東南アジアでは多目的スポーツ車(SUV)などが好調で、インドネシア(1割増)やタイ(2割増)などで販売を伸ばした」

     

    1~11月までの実績で、トヨタがVWを引離して世界一位になることは確実な情勢である。トヨタは、半導体手当でよりスムースに行っていることもプラスになっている。もちろん、車の質が評価されている。米国では、耐久性で断トツの強みを発揮している。

     

    (2)「VWは中国で6%減と苦戦し、その他のアジア太平洋地域でも6%増にとどまった。中国でのロックダウン(都市封鎖)により、部品供給や海上輸送の混乱が響いた。独北部ウォルフスブルクの本社工場の稼働にも影響し、販売台数が大きく落ち込んだ。VWの新車販売の4割、トヨタでも2割を占める中国市場が明暗を分けた。中国市場への進出でトヨタは後発だ。このため、トヨタの中国での1~11月の販売台数はVWと比べて4割少ない。事業規模が小さい分、半導体不足やロックダウンの影響を相対的に抑えられたとみられる」

     

    中国でも、トヨタはホンダと並んで下取り価格で高いことが注目されている。このことが、ユーザーを繋ぎ止めているのであろう。

     

    (3)「22年の中国新車市場については、中国汽車工業協会が21年を上回ると予測。一方で、新型コロナウイルスの封じ込めを狙う「ゼロコロナ」政策緩和前は、自動車各社は販売店の営業が一部でできず、生産調整も実施した。12月の生産・販売ではトヨタとVWの双方に影響がでるとみられ、1月以降も新型コロナ感染拡大が需要に影響する可能性が懸念されている」

     

    中国は、「ゼロコロナ」から一足飛びに「ウイズコロナ」になって、生産・流通で大混乱に陥っている。この影響は、少なくも来年1~3月まで続く見通しである。これが、トヨタとVWにどのような結果をもたらすか、である。

     

    (4)「トヨタも中国以外の主力市場では苦戦した。北米と日本ともに1割減だった。半導体を多く使う高性能車種の供給が滞ったことが原因だ。VWもお膝元の西欧地域で7%減だった。9月に就任したVWのオリバー・ブルーメ社長は「供給不足は例外ではなく、もはや自動車産業のルールとなりつつある」と語る。成長領域とされる電気自動車(EV)ではVWが先を行く。1~9月に前年同期比25%増の約36万台を販売した。トヨタは11月までで2万台弱にすぎない。トヨタは本格量産EVの「BZ4X」が不具合によりリコール(回収・無償修理)に追い込まれるなど、思うような成果が出せていない」

     

    トヨタは、EVで苦戦している。「BZ4X」がリコールに追込まれたからだ。トヨタにしては珍しい失敗である。ただ、トヨタのことだ。これを教訓にして再出発するであろう。

     

    (5)「トヨタは23年3月期に世界で970万台を生産する計画を掲げていたが、11月に50万台下方修正した。前期実績(857万台)や過去最高だった17年3月期(907万台)を上回る高水準だが、半導体不足によって計画通りに造れない混乱がなお続いている。

    足元では改善の兆しもある。トヨタの11月の世界生産は1%増の83万台と11月として過去最高だった。ある部品会社幹部は「半導体不足は最悪期を脱した」と語る。生産が正常化すれば、世界で積み上がっている受注残が解消され、長引く納期問題の改善にもつながる」

     

    下線部のように、半導体不足で納車遅れが続いている。半導体供給が増えれば、受注残は販売増となる。

     

    (6)「調査会社の米S&Pグローバルによると、23年の世界新車(乗用車系)販売台数は前年比6%増の約8360万台の見通しだ。半導体不足は緩和されるものの、早くても24年までは影響が残るという。供給網全体で部品を安定調達できるかが問われる局面は続きそうだ」

     

    23年は、世界新車が前年比で6%増が見込めるという。ただ、中国のコロナに伴う大混乱を折り込んでいないであろうから、割引しておうべきだ。

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    中国政府は、コロナを「管理」するという思考がない。「絶滅」させるという感染症対策では考えられない方針をとってきた。中国企業も、この「絶滅方針」に従っているので、工場の操業計画が硬直的になっている。

     

    アップルは、中国で約8割を生産している。こうして、ゼロコロナとその後の大混乱に翻弄されており、次なるヤマ場が来年2~6月に来ると想定している。アップルも、「脱中国」へと舵を切るほかなくなっている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(12月26日付)は、「APPLE、中国のコロナ感染拡大で高まるリスク」と題する記事を掲載した。

     

    米アップルの事業が中国での新型コロナウイルス感染拡大によって脅かされ、サプライチェーン(供給網)の専門家らは、同社のスマートフォン「iPhone」の生産に数カ月にわたる混乱が生じるリスクの高まりに警鐘を鳴らしている。

     

    (1)中国政府が「ゼロコロナ政策」を転換する中で、もっと長引きそうなリスクが浮上している。中国全土の部品工場や組み立て工場での人手不足だ。供給網のマッピングサービスを提供するうえで300万点以上の部品の移動を追跡している米カリフォルニア州の企業、レジリンクのビンディヤ・バキル最高経営責任者(CEO)は、「工場だけでなく倉庫や流通、物流、輸送の拠点でも欠勤による大きな影響が出てくるはずだ」と話す。アップルは11月6日、クリスマス休暇前の「重大な」混乱について警告を発した。最も重要な年末商戦期間の売上高伸び率について経営陣が8%に届かない低水準の見通しを示し、それから2週間足らずの異例の警告だった」

     

    コロナ感染急拡大で、工場だけでなく輸送などが混乱している。仮に、製品ができても運搬面でネックが起こっている。

     

    (2)「米情報サービス会社ビジブル・アルファがまとめた銀行のアナリストによる予測の平均値では、アップルの2022年10〜12月期の売上高は前年同期に記録した過去最高の1239億ドル(約16兆4000億円)をやや下回り、純利益は8%強の減少となる見込みだ。iPhoneに500万〜1500万台の供給不足が生じる中で、これは14四半期続いた増収が途切れることを意味する。多くのアナリストは当初、受注残はキャンセルされず入荷待ちになるとみて、次の6カ月間の予想を上方修正していた」

     

    22年10〜12月期の売上高は、前年同期を若干下回る程度で済むが、問題は来年である。生産そのものが現在、大混乱の状態にあるからだ。

     

    (3)「アップルの売上高は中国が2割を占め、iPhoneの90%以上が中国で組み立てられている。競合する韓国サムスン電子は19年に中国でのスマホ生産から撤退し、組み立てを少なくとも4カ国に分散している。米コンサルティング会社アシムコを率いる独立系アナリストのホレース・デデュ氏は、ここ数カ月にわたるアップルの生産・事業上の問題の後に、消費者が支出の優先順位見直しに動いている中国での需要の危機が続く恐れがあると指摘する。同氏は、「世界の他の国では都市封鎖(ロックダウン)中に需要が上向いたが、それは在宅勤務と景気刺激策によるものだった」と言う。さらに「免疫レベルが低く、最低限のセーフティーネットしかない中国の消費者は来年、縮こまって大きな買い物を避けようとする可能性がある」と指摘する」

     

    中国は、iPhoneの供給と需要の両面で大きな役割を果たしている。需要の面でも来年は影響が出そうだ。ゼロコロナ後の感染拡大で、消費者が財布の紐を締めるリスクがあるからだ。

     

    (4)「ホンハイや和碩聯合科技(ペガトロン)、緯創資通(ウィストロン)などアップルの最も重要な台湾の製造委託先は、初めて間もないインドでの生産を拡大しようとしている。インドの首都ニューデリー近郊のグルガオンに本拠を置く市場調査会社、サイバーメディア・リサーチを率いるプラブ・ラム氏は、現時点でiPhoneのおよそ7〜8%がインドで組み立てられていると推計し、台湾の3大委託先は24年までにその数字を18%に引き上げようとしているとみる」

     

    インドが、「脱中国」の受け皿機能を果たす。iPhoneのインド生産は、24年までに18%程度まで引き上げられる見通しだ。

     

    (5)「供給網を専門とするロンドンのコンサルティング会社で、企業の新型コロナ対応の基準に関して国連に協力しているステート・オブ・フラックスのアラン・デイ会長は、コロナを制御するよりも根絶しようとした中国の試みによって、同国内の組み立てラインが危機にさらされたと指摘する。「中国は新型コロナの扱いに慣れていないため、アップルの供給網にとっては次の26カ月がまさしく分かれ目になる」とデイ氏は言う。「世界の他の国は基準を作り上げたが、中国は企業にそうした基準を採用させることを全くしていないも同然だ」と同氏は指摘する」

     

    下線のように、中国はコロナでも「弾力的」に対応する考え方がない。「ゼロコロナ」から「ウイズコロナ」へと一足飛びである。国民が、どれだけ迷惑を受けるかという発想がゼロなのだ。こういう硬直的な政策によって、来年2~6月がどのように推移するか見当がつかない状況である。中国は、こうして「世界の工場」の地位を失っていくのだ。

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    中国は、コロナ感染が急拡大している。だが、2大都市の北京と上海の地下鉄は週明け、マスク姿の通勤客で混み合った。コロナ規制が緩和された当初は、感染への恐怖感から家に閉じこもる動きも見られたが、コロナと共生しようというムードが徐々に広がっているようだ。『ロイター』(12月126日付)が報じた。

     

    市民は、こわごわと出勤を始める姿も出てきたが、職場によっては感染拡大による人手不足が深刻な事態に陥っている。そこで、感染して回復した人を優先雇用する企業が現れた。一度感染したなら直ぐに感染することもあるまい、というのが理由だ。

     

    『中央日報』(12月26日付)は、「『新型コロナ陰性者は連絡もするな』 中国の求人広告、『陽性者優待』に急変」と題する記事を掲載した。

     

    「ゼロコロナ」撤廃後大幅に新型コロナウイルス感染者が急増する中国で、「コロナ経験者」を優先雇用しようとする企業が相次いでいる。一度感染した経験があれば一定期間再感染せず働けると考えたのだ。ゼロコロナ当時は感染者が雇用差別を受けたとすれば、いまは逆転する様相だ。

     

    (1)「中国共産党司法機関紙の『法治日報』などによると、感染急増で多くの業界が労働力難に苦しむ中、北京市、河北省、江蘇性、甘粛省などで求人広告を出す企業が急増している。「コロナ回復者優先採用」「陽性判定を受けたことがある人優待」などの文言が目に付く。法治日報は北京のある外食産業グループが社員300人を募集する広告に「コロナから回復した人優待」「オミクロン株感染後に回復した人歓迎」という文言があったと報道した。この会社の関係者は法治日報に「求人広告内容は事実であり、PCR検査結果に基づいて志願できる」と話した」

     

    コロナ感染の急拡大で、人手不足が深刻化している。そこで、一度感染して回復した人であれば、すぐに感染しないであろうと、優先して採用するもの。これだけ、働ける人が減っている証拠だ。

     

    (2)「河北省石家荘のあるホテルではフロントスタッフ募集要綱に「PC基本操作可能者、コロナ陽性判定を受けたことがある人優待」と明示した。採用時にPCR検査陽性証明書を提示するよう要求した企業もあるという。中国ではコロナに感染して抗体を得れば数カ月は再感染しなかったり軽微な症状で終わると信じる人が多い。法治日報は「コロナ経験者を優待するのは平等就業権侵害に当たり雇用差別に当たる。PCR検査結果の提示を要求するのは個人情報保護法違反になり得る」と指摘した」

     

    PCR検査の陽性証明書を出せば、優先的に採用されるという。中国では、一度感染すれば、数ヶ月は再感染しないと信じられている結果だ。

     

    (3)「ゼロコロナ政策を固守していた今年の夏だけでも、中国の就業市場では感染者忌避現象が目立った。このためコロナにかかった後に雇用を失い、トイレで生活する女性の話が現地メディアで報道されたりもした。就職活動生の間では、「これまでは小陽人(コロナ陽性者)が、これからは小陰人(陰性者)が差別を受ける」という話も出ている」

     

    これまでは、コロナに感染して失職した例が多かった。今は逆に、採用されるという変化である。雇用市場で求人が難しくなっているのであろう。

     

    (4)「もともと小陽人は活気にあふれた人を意味したが、コロナ時代には陽性判定を受けた人を意味する言葉になった。インターネット上では小陽人と発音が同じ「小羊人」も使う。法治日報は「求人広告に『陰性の人は連絡するな』という文言も出ている」と伝えた。国内移動制限がなくなった中国では来月下旬の春節(旧正月)を迎えコロナ発生以来初めての民族大移動が予想され数億人が感染するという見通しが出ている」

     

    コロナ陽性者が歓迎されている一方で、陰性者は敬遠されるという珍風景を見せている。陰性者は、いつ感染して休むか分からない不安を抱えていると判断しているに違いない。この一例を見ても、中国ではワクチン接種による有効性など、誰も信じていないのだろう。

     

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    ロシア大統領プーチン氏は、インターネットを使わないので、生の情報に直接接する機会はない。側近が、情報を整理してから手元に届けるシステムだ。このため、プーチン氏に不都合な情報は割愛されている。「裸の王様」という最も危険な状態に置かれている。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月26日付)は、「孤立し不信抱くプーチン氏、頼るは強硬派顧問」と題する記事を掲載した。

     

    この記事は、現旧のロシア当局者や大統領府に近い人々に行った数カ月にわたる取材に基づく。その証言が描き出したのは、おおむね、ウクライナが成功裏に抵抗することを信じられないか、信じようとしない孤立したリーダー像だ。彼らは大統領が22年をかけて自身にこびへつらうためのシステムを構築してしまったと述べ、周囲の人々は彼を落胆させるデータを伏せたり、取り繕ったりしたと指摘した。

     

    (1)「事情に詳しい関係者によると、大統領との会合に参加した軍事専門家や武器メーカーの代表団は夏の間中、プーチン氏が戦場の現実を理解しているのかと疑問を呈していた。大統領はそれ以来、戦争の実態をより明確に把握するためにあらゆる努力をしてきた。だが、同氏の周りにいるのは依然として、人的・経済的な犠牲が増大しているにもかかわらず、ロシアは成功するという彼の確信に応える政府高官らだという」

     

    「敗戦情報」が、プーチン氏の元に届かないのは極めて危険である。太平洋戦争中、天皇は敗北の事実を知っていたが、プーチン氏は実態を知らないままに戦争を継続させている。

     

    (2)「11月にプーチン氏に解任されるまで、同氏が選んだ人権委員会のメンバーだったエカテリーナ・ビノクローバ氏は、「プーチン氏の周りにいる人たちは自分たちを守っている。彼らには大統領の気分を害するべきでないという深い信念がある」と述べた。その結果生じた間違いが、ロシアの悲惨なウクライナ侵攻の基盤となった。(ロシア)兵士らが花束とともに迎えられるだろうとプーチン氏が考えていた開戦当初から、北東部および南部で屈辱的な撤退をした最近に至るまでだ。兵役に就いたことのないプーチン氏は、時間が経つにつれ、自身の指揮系統に対する強い不信感から、前線に直接命令を出すようになった」

     

    側近は、プーチン氏を不愉快にさせてはならないと信じているという。これこそ、亡国の前兆である。こういう事態を招いたのも本人の責任ではあるが。

     

    (3)「米国とロシアは、互いの大使館、米国防総省や中央情報局(CIA)を通じてほぼ毎日連絡を取っているものの、米当局者によれば、対話は制約を受けている。米当局者によると、プーチン氏に最も近い側近の一部は、権威主義的指導者である大統領自身よりも強硬派だと判明している。プーチン氏は毎朝午前7時頃に目を覚まし、戦争の概況を記した書面を読む。ロシアの元情報当局者と現旧のロシア当局者によると、その概況は成功を強調する一方で失敗を重要視せず、慎重に調整を加えた情報を掲載している」

     

    米ロ間には、確実な対話チャネルが存在している。米ソ時代からの蓄積だ。プーチン氏の側近は、プーチン氏以上の強硬派という。

     

    (4)「事情に詳しい関係者によると、戦地の最新情報がプーチン大統領に伝えられるまでに数日かかり、情報が古くなっていることもあるという。前線の司令官は旧ソ連の国家保安委員会(KGB)の後継機関であるロシア連邦保安局(FSB)に報告する。FSBはロシア連邦安全保障会議の専門家らのために報告書を編集し、専門家らはニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記(プーチン氏にウクライナ侵攻を説得したタカ派の知謀家)に託す。そして、パトルシェフ氏がプーチン大統領に報告書を渡す」。

     

    戦地の最新情報が、プーチン氏に伝えられるまで数日かかるという。悪い情報ほど、早く伝達するのが組織の原点である。ロシアはこれと逆であり、危険な状態に陥っている。

     

    (5)「7月、米政府が供与している衛星誘導型の高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」がロシア軍の兵站基地を攻撃し始めると、プーチン氏は防衛企業の幹部約30人をモスクワ郊外ノボオガリョボの邸宅に招集したと、この会合について知る関係者は明らかにした。プーチン氏は、ロシア軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長に説明を求めた。ゲラシモフ氏は、ロシアの兵器はうまく標的に命中し、侵攻は計画通りに進んでいると述べた。関係者によると、兵器メーカーの幹部らは、プーチン氏がこの紛争について明確に把握していないとの感想を持って、会合の場を去った」

     

    ゲラシモフ参謀総長は、プーチン氏にロシアの兵器はうまく標的に命中していると「ウソ情報」を報告している。事態は深刻だ。

     

    (6)「プーチン氏は9月にウズベキスタンで、中国の習近平国家主席と会談したが、会談内容を知る人々によれば、プーチン氏は習氏に静かに語りかけ、戦争は間違いなくうまく進んでいるとの見方を伝えたという。その週にロシア軍は、数百平方キロもの占領地を失った。プーチン氏の侵攻作戦が明らかにつまずき始めた3月以降、西側の指導者らはある疑問を抱いてきた。それは、対ウクライナ政策とロシア軍の威光を取り戻すことばかりに強く執着してきたプーチン氏がどうして、ウクライナの力を過小評価し、ロシア軍の戦力を読み間違えたのかという疑問だった」

     

    プーチン氏は、自己陶酔に陥っている。この状況から目が覚めるとき、どんな事態が起こるのか。プーチン氏は、正常な心理状態でいられないであろう。

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