米商務省は、これまで米半導体大手のクアルコムやインテルなど一部の企業に対し、高速通信規格「5G」に関連しない技術について、ファーウェイへの輸出を認めてきた。だが、安全保障上の理由で、全ての技術輸出を禁止する。ファーウェイにとっては、最後の頼みの綱を切られる形だ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(1月30日付)では、中国国営の中国工程物理研究院(CAEP)は、1997年に米政府の輸出規制対象に指定されたにもかかわらず、2020年以降、インテルやエヌビディアなどの米企業が製造した半導体を入手していたことが判明した。これらの半導体は、データセンターやパソコンに広く使われており、中国国内の再販業者から購入したものである。
このように、米国の対中輸出禁止が骨抜きにされている事例もあることから、厳しい姿勢で臨むことになったのであろう。CAEPは、中国最大の核兵器開発研究機関である。それが、20年以上も前に導入された米国の輸出規制をかいくぐり、過去2年半の間に、コンピューター用の米国製高性能半導体を少なくとも10回程度購入していたのだ。米国政府にはショックな出来事であろう。
『フィナンシャル・タイムズ』(1月31日付)は、バイデン政権 ファーウェイへの輸出許可を全面停止」と題する記事を掲載した。
バイデン米政権が中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)への輸出許可を停止した。ファーウェイに対する米技術の販売を全面的に禁じる措置となる。同政権の関係者によると、商務省が複数の米企業に対し、ファーウェイへの米技術の輸出を今後許可しないと通知した。
(1)「ファーウェイへの締め付けを強化してきた米政府の新たな措置だ。米安全保障当局は同社が中国政府のスパイ活動に協力していると主張しているが、ファーウェイ側は全面否定している。トランプ前米政権が2019年、事実上の輸出禁止対象となる「エンティティー・リスト(禁輸リスト)」にファーウェイを加え、同社への技術輸出を厳しく制限した。米国の安全保障を脅かす中国企業に対し断固たる措置を取る戦略の一環だ。バイデン大統領はこの2年間、特に最先端技術の分野では前政権より厳しい対中姿勢を示し、22年10月には先端半導体の技術や製造装置の対中輸出を事実上禁止した」
バイデン政権は、トランプ全政権時よりも半導体関連の対中輸出では厳しい姿勢を取っている。中国が、ロシアと連携して世界秩序へ挑戦する姿勢を強めている結果だ。
(2)「バイデン政権は22年12月、フラッシュメモリーで中国最大手の長江存儲科技(YMTC)など数十社の中国企業をエンティティー・リストに追加した。フィナンシャル・タイムズ(FT)は22年、YMTCが米国の技術を使った半導体をファーウェイの最新型スマートフォン向けに供給し、米国の輸出規制に違反したとする疑惑をバイデン政権が調査していると報じた。米下院外交委員会のマコール委員長ら共和党の議員もバイデン政権に対し、ファーウェイへの輸出許可の停止を求めていた」
中国最大の半導体メーカーYMTCも、米国の対中輸出規制リストに挙げられている。米議員は、YMTCが米技術を使った半導体をファーウェイの最新型スマートフォン向けに供給したとして、ファーウェイへの輸出許可停止を求めていた。こうした背景も、今回のファーウェイへの全面輸出禁止決定の背景にあろう。
(3)「米シンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のテクノロジー専門家マーティン・ラッサー氏は今回の措置を「極めて重要な動きだ」と指摘する。ファーウェイはここ数年、海底ケーブルやクラウドコンピューティングなどの分野に事業を拡大しており、安全保障上の新たな脅威になっているからだ。米中央情報局(CIA)出身のラッサー氏は「商務省の新たな規制の背景には、ファーウェイが5Gに特化していた4年前とは全く異なる企業体になったという現実がある」と言う」
ファーウェイは、スマホや5Gに特化した企業でなく、海底ケーブルやクラウドコンピューティングなどへ進出し、米国の安全保障上の脅威になっているという。それだけに、米国は先手を打ったのだ。
(4)「米国は、同盟国とともに中国の先端技術開発を制限する取り組みを強めている。人工知能(AI)や核兵器のモデリング、極超音速兵器の開発などにも用いられる先端半導体はその対象の一つだ。1月27日、米国は日本、オランダと先端半導体製造装置の対中輸出規制で合意した。米国は22年10月、単独で米国製半導体製造装置の輸出を制限している。その際、商務省のエステベス氏はバイデン政権が他の複数の分野での規制も視野に入れていることを示唆していた。米国の技術を用いた半導体の対中輸出の全面禁止に踏み切るかどうかについて、同政権はまだ正式決定していない」
中国の軍事脅威を除去するには、米国が同盟国と協力して先端半導体技術の中国輸出禁止するほかない。第二次世界大戦後の「チンコム」復活である。チンコムとは、1952年の朝鮮戦争を契機に米国の主唱で設立された対中国輸出統制委員会である。チンコム・リストはココム・リストの2倍に上る禁輸品目を含んでいた。ココムとは、1949年に設立された対共産圏輸出統制委員会である。今や、冷戦時代へ逆戻りした感じだ。