中国経済は、厳しい局面を綱わたりしている。安易な金融緩和もできず、ひたすら我慢の政策を余儀なくされているのだ。不動産バブルが崩壊して、不動産開発企業は過剰な債務を抱え二進も三進も行かない状況に追い込まれている。利下げをすれば、米中金利差の拡大でドル資金の流出を招き、人民元安に拍車を掛けるのだ。ここは、我慢するほかない。
『ロイター』(2月26日付)は、「中国経済、明確で強い金融政策下で23年に回復ー人民銀報告書」と題する記事を掲載した
中国人民銀行(中央銀行)は24日に公表した四半期の金融政策実施報告書で、中国経済が2023年におおむね立ち直り、金融政策は明確で強くなるとの見通しを明らかにした。
(1)「人民銀は内需拡大を支援し、経済成長と物価を安定化させる一方、「洪水のような」刺激策を避けるとした。しかし、外部環境は依然として「厳しく複雑」だと指摘し、国内経済回復の基盤は「底堅くない」とも言及。不動産部門は移行に時間を要し、地方政府が財政収支の均衡を取るための圧力は続いているとした」
一目瞭然である。このパラグラフでは、中国経済がいかに厳しい局面にあるから率直に指摘している。下線部のように、GDPの最大3割を占める不動産部門が、安定するまでには時間がかかること。これに伴い地方政府の土地販売収入が回復しないので、地方政府の財政が困難を極めている、としている。まさに、「土地本位制」(学術用語でない)破綻を認めているのだ。
(2)「中国はインフレの動向と変化を注視し、エネルギーと食料の価格を安定させると記した。人民銀は流動性を合理的な範囲で潤沢に保ち、効果的な信用の伸びを維持すると主張。主に経済成長、雇用、物価の安定に重点を置き、社会の期待と信頼を高める方針を示した。前回の報告書から大きな変化はなかった。市場は、中国政府が3月5日に始まる全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で経済チームなどの再編成や、23年の経済目標と政策を発表すると見込んでいる。李克強首相は22日の閣議で中国経済は安定化に向かい、改善しつつあるものの、依然として多くの課題に直面していると言及していた」
ロシアのウクライナ侵攻が、エネルギーと食料の価格を高騰させている。これを、抑制するには、金融政策を引締め的に運用せざるを得ない。バブル崩壊の後遺症を重視すれば、金融緩和局面だが、エネルギーと食料の価格高騰が起こっている以上、金融緩和は不可能である。こうして、中国の金融政策は動きが取れなくない状態が続くであろう。
こういう局面は、中長期的に続くであろう。となると、新たな中国人民銀行(中央銀行)総裁には、国内の銀行が破綻しないように目配せできる人材が必要になる。これに、ピッタリの候補者が登場した。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月26日付)は、「中国、人民銀総裁にCITIC会長の朱氏か 政治的関与強化へ」と題する記事を掲載した。
国の習近平国家主席は側近を中国人民銀行(中央銀行)幹部に据え、金融への政治的関与を強める考えだ。事情を知る複数の関係者が明らかにした。
(3)「関係者によると、人民銀の次期総裁には、国有複合企業の中国中信集団(CITIC)で会長を務める朱鶴新氏が最有力視されている。ただ、中国政府の重要ポストの人事は3月上旬の全国人民代表大会(全人代)で正式決定するため、確定しているわけではないと関係者は話している。易綱・現総裁は米国で教育を受けたエコノミストである」
次期の人民銀総裁候補は、金融実務には長けているが、金融理論とは無縁の人物である。一国の中央銀行総裁としては異色となろう。この人事の目的は、銀行破綻を予防する狙いだ。不動産バブルの崩壊で、地方政府の「融資平台」は約1100兆円の債務残高がある。それだけに、この処理いかんで中国経済は大きな影響を受ける。その予防人事であろう。
(4)「朱氏は総裁に就任する場合でも、人民銀内で最も権力のある共産党書記のポストには就かない見通し。人民銀内の共産党トップの地位には、何立峰氏が就任する公算が大きいという。習氏を長年支えてきた何氏は、経済・金融・産業担当の副首相に就くとみられている。何氏がこの役職に就けば、人民銀はより強固な政治的後ろ盾を得る一方で、その権威は一段と損なわれかねない。3月に何氏が副首相に就任し、国務院(内閣に相当)で発言力を持つ立場になれば、人民銀は国務院の指示により直接的に従わざるを得なくなるとみられる」
朱氏は、金融実務の専門家であり、金融政策というマクロ政策は不得手であろう。それを補うべく、人民銀内の共産党トップの地位には、何立峰氏が就任するというのだ。長短補う人事となろう。