勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年02月

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    中国経済は、厳しい局面を綱わたりしている。安易な金融緩和もできず、ひたすら我慢の政策を余儀なくされているのだ。不動産バブルが崩壊して、不動産開発企業は過剰な債務を抱え二進も三進も行かない状況に追い込まれている。利下げをすれば、米中金利差の拡大でドル資金の流出を招き、人民元安に拍車を掛けるのだ。ここは、我慢するほかない。

     

    『ロイター』(2月26日付)は、「中国経済、明確で強い金融政策下で23年に回復ー人民銀報告書」と題する記事を掲載した

     

    中国人民銀行(中央銀行)は24日に公表した四半期の金融政策実施報告書で、中国経済が2023年におおむね立ち直り、金融政策は明確で強くなるとの見通しを明らかにした。

     

    (1)「人民銀は内需拡大を支援し、経済成長と物価を安定化させる一方、「洪水のような」刺激策を避けるとした。しかし、外部環境は依然として「厳しく複雑」だと指摘し、国内経済回復の基盤は「底堅くない」とも言及。不動産部門は移行に時間を要し、地方政府が財政収支の均衡を取るための圧力は続いているとした

     

    一目瞭然である。このパラグラフでは、中国経済がいかに厳しい局面にあるから率直に指摘している。下線部のように、GDPの最大3割を占める不動産部門が、安定するまでには時間がかかること。これに伴い地方政府の土地販売収入が回復しないので、地方政府の財政が困難を極めている、としている。まさに、「土地本位制」(学術用語でない)破綻を認めているのだ。

     

    (2)「中国はインフレの動向と変化を注視し、エネルギーと食料の価格を安定させると記した。人民銀は流動性を合理的な範囲で潤沢に保ち、効果的な信用の伸びを維持すると主張。主に経済成長、雇用、物価の安定に重点を置き、社会の期待と信頼を高める方針を示した。前回の報告書から大きな変化はなかった。市場は、中国政府が3月5日に始まる全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で経済チームなどの再編成や、23年の経済目標と政策を発表すると見込んでいる。李克強首相は22日の閣議で中国経済は安定化に向かい、改善しつつあるものの、依然として多くの課題に直面していると言及していた」

     

    ロシアのウクライナ侵攻が、エネルギーと食料の価格を高騰させている。これを、抑制するには、金融政策を引締め的に運用せざるを得ない。バブル崩壊の後遺症を重視すれば、金融緩和局面だが、エネルギーと食料の価格高騰が起こっている以上、金融緩和は不可能である。こうして、中国の金融政策は動きが取れなくない状態が続くであろう。

     

    こういう局面は、中長期的に続くであろう。となると、新たな中国人民銀行(中央銀行)総裁には、国内の銀行が破綻しないように目配せできる人材が必要になる。これに、ピッタリの候補者が登場した。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月26日付)は、「中国、人民銀総裁にCITIC会長の朱氏か 政治的関与強化へ」と題する記事を掲載した。

     

    国の習近平国家主席は側近を中国人民銀行(中央銀行)幹部に据え、金融への政治的関与を強める考えだ。事情を知る複数の関係者が明らかにした。

     

    (3)「関係者によると、人民銀の次期総裁には、国有複合企業の中国中信集団(CITIC)で会長を務める朱鶴新氏が最有力視されている。ただ、中国政府の重要ポストの人事は3月上旬の全国人民代表大会(全人代)で正式決定するため、確定しているわけではないと関係者は話している。易綱・現総裁は米国で教育を受けたエコノミストである」

     

    次期の人民銀総裁候補は、金融実務には長けているが、金融理論とは無縁の人物である。一国の中央銀行総裁としては異色となろう。この人事の目的は、銀行破綻を予防する狙いだ。不動産バブルの崩壊で、地方政府の「融資平台」は約1100兆円の債務残高がある。それだけに、この処理いかんで中国経済は大きな影響を受ける。その予防人事であろう。

     

    (4)「朱氏は総裁に就任する場合でも、人民銀内で最も権力のある共産党書記のポストには就かない見通し。人民銀内の共産党トップの地位には、何立峰氏が就任する公算が大きいという。習氏を長年支えてきた何氏は、経済・金融・産業担当の副首相に就くとみられている。何氏がこの役職に就けば、人民銀はより強固な政治的後ろ盾を得る一方で、その権威は一段と損なわれかねない。3月に何氏が副首相に就任し、国務院(内閣に相当)で発言力を持つ立場になれば、人民銀は国務院の指示により直接的に従わざるを得なくなるとみられる」

     

    朱氏は、金融実務の専門家であり、金融政策というマクロ政策は不得手であろう。それを補うべく、人民銀内の共産党トップの地位には、何立峰氏が就任するというのだ。長短補う人事となろう。

     

     

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    外国人観光客の訪日が解禁されたが、全体の3分の1は韓国客が占めた。パンデミック前から、韓国からはリピーターが多くその流れが復活した形だ。日本の観光地では、どこへ行っても韓国語が聞えた、というほどの賑わいである。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(2月26日付)は、「訪日韓国人急増、『いくら安くても日本に行かない』との回答も一変 その理由は?」と題する記事を掲載した。

     

    日本政府観光局(JNTO)が発表した2023年1月の訪日外国人は推計149万7300人。コロナ禍前の旧正月に日本を訪れていた中国人が、規制の影響から3万1200人にとどまった一方、韓国人は56万5200人と3分の1を占めていた。韓国人の次に多かったのは台湾の25万9300人で、香港の15万9000人が続いている。

     

    (1)「日本製品不買運動の余熱が続いた2020年12月に韓国世論調査会社が行ったアンケート調査で、70.1%が日本製品不買運動に参加したと回答、49.9%が「日本は敵対国だ」と回答し、55.7%が「いくら安くても日本に行かない」と答えた。しかし、2022年12月のアンケートで不買運動に参加したという回答は60.0%に減少、「日本は敵対国」という回答も36.1%まで減少し、「日本に行かない」という回答は26.8%まで急減した。昨年7月にクレジットカード決済大手のビザが行ったアンケートでも1年以内に行きたい観光地の1位は日本だった」

     

    韓国も、多くの人達が文政権の「反日」に踊らされた。文氏の「二度と日本に負けない」という刺激的発言が影響したのであろう。文氏は、相当なアジテーターである。

     

    (2)「22年10月11日、日本政府がビザなし渡航を再開すると韓国内で訪日熱が再燃した。通信販売大手インターパークが、10月11日から3か月間に販売した日本行き航空券は前年同期の400倍、コロナ禍前の19年と比べても4.8倍に達していた。Gマーケットが1月1日から17日に販売した国際航空券は大阪便が最も多く、東京、福岡と続いていた。1位から3位を日本路線が占めたのだ」

     

    韓国の日本人気の高さは、国際航空券の1位から3位までが日本の都市が占めた。円安も手伝ったであろう。リピーターが、大挙して訪日したと言えそうだ。長い間、訪日がストップしていたからだ。

     

    (3)「韓国人が、大挙して日本を訪れる理由は主に3つある。格安航空会社LCCの国際航空運賃はコロナ禍前のFSC (フルサービスキャリア)並みと高額で、FSCのエコノミークラスの運賃はコロナ禍前のビジネスクラスと大差ない。距離が近く便数が多い日本便は以前と比べて高額とはいえ、他の国より安価である。また、昨年から続く円安で、日本旅行費が低下していることも訪日韓国人の増加に拍車をかけている」

     

    日本を訪れる理由は主に3つあるという。

    1)渡航費の安さ

    2)円安で旅行費が低下

    3)医療インフラの充実

    要するに、韓国国内と同じ気分で安心して旅行できるという点であろう。

     

    (4)「医療インフラから日本を選ぶ韓国人も少なくない。前述のビザが行ったアンケートで、旅行先を選ぶ際、医療インフラを重視すると答えた韓国人はコロナ禍前の1.6倍に増えていた。日本に対する否定的な感情が薄らいだことに加えて、費用や安全面から日本を訪れる韓国人が増えているのだ」

     

    医療インフラと言えば、日本の地方にある医科大学が、羽田で病院を建設するというニュースがあった。医療目的の訪日客が、多いというのだ。

     

    (5)「訪韓日本人が増加しても日本観光業界の好況につながる可能性は大きくない。日本製品不買運動が吹き荒れた2019年下期、韓国の旅行会社と航空会社が甚大な被害を受けたが、多大な被害を受けた日本企業はほとんどない。成田空港に到着する外国人旅行者の多くがJRの成田エキスプレスや京成スカイライナーで都心に向かい、関西空港でもJRの特急はるかや南海のラピートを利用するが、韓国人は多くがより安価な一般列車を利用する」

     

    一般公共交通機関を利用するのは普通であろう。特別、不思議がることもない。日本人でも、海外旅行の際は公共交通機関を利用している。タクシーを利用するのは、一部の金持ちの振舞であろう。

     

    (6)「日韓往来が1000万人に達した2018年、訪日外国人のなかで最も支出が少ないのが韓国人だった。訪日韓国人の増加で韓国の航空会社と旅行会社が好調な再スタートを切る一方、日本が享受する恩恵は限定的だろう」

     

    一番、消費額の多いのは中国観光客であった。韓国人の消費額の少ないのは、リピーターの多い証拠であろう。物見遊山でなく、日本の良さをじっくり味わいたいという意味に理解すべきだ。この記事の筆者は、派手に金を使う客を「上客」と見るタイプのようだ。

     

     

     

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    出生率激減で未来はない

    政治対立は国民にも浸透

    財政悪化の元凶が文在寅

    MZ世代登場は20年後

     

    韓国政治は混乱の極みにある。最大野党「共に民主党」代表の李在明氏の逮捕を巡り、国会の許諾が必要という、前代未聞の事態を迎えている。李氏は、「疑惑のデパート」とさえ言える人物である。数ある疑惑の中で焦点なのは、李氏が城南市長時代に行なった都市開発で動いたとされる巨額の賄賂である。関係者は全て起訴されており、逮捕されていないのは「本丸」とされる李氏だけだ。

     

    当の李氏は、「法治の仮面をかぶった司法狩りが日常化していく暴力の時代」として尹錫悦政権と検察を強く批判し抵抗している。尹大統領と検察の陰謀にすり替えているが、日本であればこういう醜態にはなるまい。嫌疑を受けた時点で、所属政党を離党するのが常識であるからだ。こういう、議会人としての常識すら持ち合わせていない韓国政界は、韓国の抱える非常識と深い関わりがあることを示唆している。

     

    出生率激減で未来はない

    人口問題は、国家の基本構成要因である。その人口問題で、韓国は世界でワースト・ワンという事態に落込んでいる。俗な表現を使えば、韓国は世界で最初に消える国の候補だ。これは、合計特殊出生率で推計できる。合計特殊出生率は、1人の女性が生涯に出産する子どもの数である。その国は、2.08人で人口横ばいを維持できる。

     

    韓国の合計特殊出生率は、2022年に0.78である。前記の2.08に比べて37%と超低位の水準だ。21年は0.81であった。韓国統計局によれば、24年はさらに低下して0.70になると推計されている。文政権時代、この出生率低下問題を巡って、委員会の座長である文氏は一度も会合を開かずに無策を通した。人口問題よりも、南北融和と反日で精力を使い果たしていたのだろう。5年間もの時間が、空費されたのである。

     

    文氏が、出生率低下に真っ正面から取り組まなかった理由は何か。それは、将来の南北統一を夢見ていたのであろう。北朝鮮人口2600万人と韓国5200万人を合計すれば、ドイツ並みの人口規模になると皮算用を弾いていたのでないか。そうでなければ、人口対策に手を打たなかった理由が分からないのだ。

     

    韓国の合計特殊出生率急低下の背景で最大要因は、婚姻件数が減少したことだ。儒教国家の韓国では婚外子が少なく、婚姻数の減少が出生率低下となった。結婚は、経済要因と深く関わっている。就職と住宅の問題がそれだ。韓国では、この両方で大きな障害が発生していた。就職難と住宅高騰である。いずれも、文政権が政策で失敗し結果である。

     

    有効求人倍率は日本の場合、継続的に1以上の水準を維持している。韓国では、ほぼ0.5前後と、求職者数に比べて求人数が半分程度の状況だ。こうして若年失業率(15~29歳)は、ほぼ10%に近い高水準が続いている。しかも、大手企業の大卒新入社員の平均年齢は、1998年には25.1歳だったが、2020年になると31.0歳にまで跳ね上がっている。この間の約6歳の遅れは、結婚年齢を遅らせた。

     

    就職難は、年功序列・終身雇用が大きな災いになった。硬直的な雇用慣行が、労働市場の流動化を阻止して、企業に対して新規雇用へ慎重姿勢を取らせているのだ。これを改めるには、労働市場を流動化して、不況時の解雇を弾力に行なわせることであろう。これが結局、臨機応変の雇用増をもたらすのである。

     

    結婚は、就職してからとなるので当然、30代にはいってからだ。もう一つクリアしなければならないのは、新居の確保である。文政権5年間で、ソウルのマンションは約8割もの高騰になった。これも、婚姻を遅らせる理由である。結婚に必要な初期費用が、非常に高いのだ。特に男性にその負担が大きかった。

     

    2022年の調査では、住宅を用意するのに約2200万円、嫁入り道具の購入が約130万円、結婚式および新婚旅行などに約250万円を支出している。費用の平均60%を男性が負担するという。男性側の就職年齢が30代で、前記のような費用を工面するとなれば、結婚に当っては、「愛」だけで解決できない金銭問題が障害になるだろう。

     

    政治対立は国民にも浸透

    韓国の合計特殊出生率急低下の背景には、韓国の抱える政治問題が深く関係している。となると、韓国政治が近代化して真摯な討議が可能という問題に関わるはずだ。現在の与野党は、無闇やたらと対立する。この構図を解決することが可能か、という難題に突き当たるのだ。

     

    韓国の党派的な対立は、国民生活のなかにすら浸透している。韓国の最大紙『朝鮮日報』が行なった世論調査では、驚くべき結果が出ている。「自分と政治的立場が違う人は国家的利益に無関心だ」という回答が、「国民の力」「共に民主党」支持者いずれも67%に達したことだ。与野党の支持者が、互いに相手を「国の役に立たない人間」だと指弾しているのである。

     

    冒頭で取り上げた「共に民主党」代表の李氏が、自分の逮捕状請求に対して「法治の仮面をかぶった司法狩りが日常化していく暴力の時代」と言い放って自己弁護する姿は、検察と大統領を「悪しき、醜い存在」として責める「二極分化」を象徴している。これは、韓国政治が治療不可能なほどの深刻な対立に落込んでいる状況を指し示すのだ。(つづく)

     

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    中国はこれまで、自国の勢力圏拡大目的で欧米の影響が及びにくい国々を引き込んできた。だが、米国が経済支援体制を強めてきた結果、中国へなびいてきた国が距離を置くようになっている。中国の一帯一路事業が、「債務漬け」を招いたことも、中国警戒要因になっているのだろう。

     

    『朝鮮日報』(2月26日付)は、「親中国家にも背を向けられる中国外交」と題するコラムを掲載した。筆者は、崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長である。

     

    今年に入って中国外交は四面楚歌状態になっています。ウクライナ戦争で中国は中立でありながらロシア寄りの姿勢を維持しているため、セルビア、カンボジア、パキスタンなど親中として知られる国々も中国に背を向け、ウクライナ支持を宣言しました。南太平洋の島国では10年以上かけて親中ネットワーク構築を目指してきましたが、これもおかしな状況になっています。

     

    (1)「南太平洋の島国は昨年1年間、米国と中国による外交戦争の戦場でした。ソロモン諸島を中心とする親中諸国が中国との安全保障協力強化を進めると、米国とオーストラリアはこれをけん制し熾烈(しれつ)な外交戦が繰り広げられました。フィジーはソロモン諸島と同じく中国に友好的な南太平洋の島国ですが、2011年に中国と結んだ警察協力協定の停止を宣言しました。昨年12月の総選挙で新たに就任したランブカ首相は1月26日、『フィジー・タイムズ』の取材に「中国の警察関係者は今後フィジー警察で働く必要はない」と述べました」

     

    米国が、南太平洋諸国への外交的関心を薄れさせている虚を突き、中国は自国の勢力圏拡大へ動いた。米国は、南太平洋がハワイへ近いこともあり、ここへ中国艦船が出入りするような事態になれば一大事だ。そこで、日米豪の三ヶ国が集中的に南太平洋諸国への経済支援体制を組んだ。この成果が出て来たのだろう。

     

    (2)「フィジーは、これまでこの協定に従い毎年警察官を中国に派遣して訓練を受けさせ、中国も警察の担当者をフィジーに派遣してきました。昨年9月にはフィジーに中国公安連絡事務所を設置することで合意しました。ランブカ首相は「フィジーの民主主義と司法システムは(中国とは)違うので、同じようなシステムを持つ国に戻る」「類似のシステムを持つオーストラリアやニュージーランドの警察がフィジーに滞在するだろう」と明らかにしました。フィジーは、昨年5月にも米国中心のインド太平洋経済フレームワーク(IPEF)への参加を決めましたが、これも中国外交に大きな打撃となりました」

     

    米国は現在、南太平洋諸国へ外交機関も復活させている。常時、当該国の相談に乗って解決案を提示するなど、従来の無関心ぶりを100%撤回し「御用聞き」姿勢を取っている。豪州などが、具体的に支援する形だ。

     

    (3)「中国にとってさらに打撃となったのは、セルビアなど親中諸国の態度が変わったことです。東欧の代表的な親中の国でロシアとも近いセルビアは1月中旬、ロシアの民間軍事会社ワグネルによる雇い兵募集を禁止しました。セルビアのブチッチ大統領はブルームバーグとのインタビューで「セルビアはロシアと昔から良い関係だったが、それはクレムリンの全ての決定を支持するという意味ではない」「(ロシアが併合した)クリミア半島とドンバスはウクライナの領土だ」と述べました」

     

    中国は、東欧のセルビアへ接近していた。一帯一路事業をエサにしたものだが、肝心の経済支援がほとんどないことから、中国離れが起こっていた。約束したことを履行しないからだ。

     

    (4)「セルビアは東欧で中国の一帯一路に協力する国の一つで、コロナの感染が広がった際には欧州で最初に中国製ワクチンを購入するなど、中国とも関係が深い国でした。ロシアによるウクライナ侵攻は非難しましたが、国際社会による対ロシア制裁には参加せず、中国と歩調を合わせてきました。そのセルビアが中国に背を向けたのです。セルビアは貿易額全体に欧州連合(EU)が占める割合が30%に達しているため、EU加盟を強く希望しています。つまりEU加盟に向け親欧米路線に転換したのです。ブチッチ大統領は「EU加盟がセルビアの道であり、他に道はない」との考えを示しました。中国は親中諸国の態度が変わったことについて「米国など欧米諸国が政治的に操っている」と主張していますが、内心は焦っているようです

     

    セルビアは、EU加盟を希望している。中国へ接近しても経済的なメリットがないことから、隣接のEUへ加盟できれば、経済的利益は飛躍的に増えるのだ。中国の経済力が落ちれば、自然発生的に中国と距離を置く国が増えるであろう。

     

     

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    中国当局は、人工衛星によるウクライナ侵攻の様子を克明に分析しているという。ここまで、関心を寄せているのは、台湾侵攻への準備であることは間違いない。中国は同時に、台湾侵攻の際に受ける西側からの経済制裁によって、どの程度の被害が出るかの推計も始めた。

     

    この分野では、すでに台湾侵攻に伴う世界経済への被害額推計が行なわれている。米国務省は中国が台湾を封鎖した場合、推計2兆5000億ドル(約356兆円)の経済損失が生じるとの調査結果をパートナー国や同盟国に通告済である。米調査会社ロジウム・グループが同省から受託・作成した同報告書の内容を知る関係者6人が明らかにしたもので、『フィナンシャル・タイムズ』(22年11月11日付)が報じた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月25日付)は、「対ロシア制裁を見つめる中国、経済封鎖の研究を急げ」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナへ侵攻したロシアに米欧日は強力な経済制裁を発動した。重要資源や先端技術の禁輸、中央銀行の海外資産の凍結、国際決済網からの排除――。一部始終をつぶさに観察してきた国がある。中国だ。

     

    (1)「2022年12月、政府系シンクタンク、中国社会科学院トップに就いた高翔氏は、「経済封鎖への対応策の研究を加速しろ」と経済学者や歴史学者に指示した。高氏は明・清の鎖国政策の研究で知られる。鄧小平による改革開放では、否定されがちだった鎖国について「外国の侵略を防ぐのに有効だった」と再評価し、「自主的開門制限」と言い換えるよう提唱した。台湾対岸の福建省の宣伝部長も務め、台湾問題にも詳しい」

     

    中国社会科学院トップに就いた高翔氏は、門戸閉鎖派である。明・清の鎖国政策が成功したという評価であるからだ。この結果、産業革命後の世界情勢を見落として、「アヘン戦争」に巻き込まれるという歴史的な大失敗をした。鎖国は、国運を沈滞させるのだ。

     

    (2)「共産党関係者によると、台湾有事の経済封鎖に関する研究が本格化したのは17年秋の党大会後。共産党政権や国民経済の安定確保、海外からの技術輸入の継続――が主なテーマという。中国は対ロ制裁に目をこらし、温めてきた「封鎖対策」に磨きをかける。中国人民大学国際関係学院の李巍教授は「経済拠点国家の育成が重要になる」と指摘する。米欧日から制裁を受けた場合、「抜け穴」になる国を意味する。中国は中東や中央アジアの国々に照準を定める

     

    中国は、中東や中央アジアを「抜け穴」国として利用する魂胆だ。だが、中国貿易の主要国は、全て西側諸国である。この先進国との貿易を絶ち、発展途上国と貿易をしても、中国国民の不満を抑えることは不可能のだ。自ら選ぶ経済封鎖は、「自壊」を早めるであろう。そこまでして、台湾へ侵攻する。正気の沙汰には見えないのだ。

     

    (3)「習近平(シー・ジンピン)国家主席は22年12月、約7年ぶりにサウジアラビアを訪れ、アラブ諸国の首脳らに「石油や天然ガス貿易の人民元決済を展開したい」と訴えた。ドル決済を封じられてもエネルギー調達を確実にする思惑とみられ、2月にはイランのライシ大統領も北京に招いた。制裁されやすいドル依存の脱却も進める。中国の保有する米国債は1年で2割減り、12年半ぶりの低水準だ。対照的に22年の金の輸入額は前年から6割増え、中国人民銀行(中銀)も金の保有を増やし始めた」

     

    サウジは、安全保障で米国の庇護下にある。そのサウジへ、ドルに変えて人民元取引を申入れて断られたのは当然である。無鉄砲なことをやっているものだ。

     

    (4)「中国は侵攻を批判せず、ロシアに「貸し」をつくる。米欧から警告されてもロシアとの貿易を増やし、習氏は訪ロを検討する。ロシアが弱体化すれば台湾有事の際に「味方」がいなくなるのも原因とみられる。22年12月の中韓外相協議では「産業サプライチェーン(供給網)の円滑な保障を願う」と韓国に求めた。対中半導体規制に加わらないようクギを刺し、年明けもビザ発給の停止で揺さぶった。中国経済に依存する韓国を技術封鎖の「迂回路」にする思惑とみられる」

     

    韓国は、米韓同盟に縛られており、もはや「二股外交」を行なう余地はなくなっている。中国の認識が足りない証拠だ。

     

    (5)「米欧日は有事で中国との経済関係が途絶えても自国経済を守っていける態勢づくりが急務となる。国内総生産(GDP)の規模がロシアの10倍ある中国からの依存低減は容易ではない。とくに地理的にも経済的にもつながりの深い日本は相当な覚悟を求められる。早稲田大の戸堂康之教授らの試算では、中国から日本への輸入の8割が2カ月間途絶すると約53兆円分の生産額が消失する」

     

    日本が困れば、中国も同等に困るのだ。中国の貿易構造が、完全に開放型になっているからだ。

     

    (6)「軍事以前に中国からの物資の途絶で米欧日の経済が立ち行かなくなれば、台湾有事などで中国を止めるのは難しい。逆に中国なしでも自国経済をある程度回せれば、経済制裁でフリーハンドを得られ、それが対中抑止力にもなる。経済安全保障でどちらが早く優位に立つか。民間企業も巻き込んだ競争が始まった」

     

    中国も、食糧自給率では70%前半まで低下している。これが、最大のウイークポイントである。中国が得をして西側が困るというワンサイドゲームではない。西側は、サプライチェーンの分散を進めている。中国には、そういう動きがないのだ。現在の経済成長を前提にすれば、中国は西側諸国と貿易をしなければならないシステムだ。

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