勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年02月

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    中国が昨年12月7日、突如としてゼロコロナを打切った背景は、経済の落込みが深刻であったからだ。早く感染を拡大して、社会的免疫度を上げる政策へ転換した。これは、内部文書でも明らかになっている。本欄でも取り挙げた通りである。

     

    このゼロコロナ打切りは、「ゼロワクチン・ゼロ医療」という中で強行されたので、多くの高齢者が犠牲になった。この種の強硬策は、習近平氏だけが行なったものでなく、毛沢東にも前例があるという指摘がされている。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(12月31日付)は、「中国『ゼロコロナ放棄』の冷徹さは毛沢東にルーツがある」と題する記事を掲載した。

     

    あの厳格無情なゼロコロナ政策を、習近平は何の予告もなしに放棄した。これには世界中が驚愕した。公衆衛生や経済面の影響に対する備えはゼロ。しかも中国政府はmRNAワクチンの無償供与という諸外国の申し出を拒否。国内各地で猛烈な感染拡大が報告されていたのに、経口抗ウイルス薬「パキロビッド」の購入に関する米ファイザーとの交渉も打ち切った。

     

    (1)「もしかして、習近平は自慢のゼロコロナ政策の崩壊で無力感を抱き、多くの若者たち同様に努力せず怠惰な「躺平(タンピン、寝そべり)主義」に陥ったのではないか。そんな観測もあった。しかし中国共産党に関する限り、いかなる作為にも不作為にもディープな戦略的理由がある。それは何か? 答えは、ほぼ明らかだ。中国政府筋のさまざま発言を読み解けば分かる。今の習近平には新しい目標がある。可及的速やかに最大限の集団免疫を確立し、全国人民代表大会(全人代)が始まる春までに経済を再び軌道に乗せることだ」

     

    習氏は、3月の全人代開会までにコロナを一掃するという政治目的を立てている。そのためには、「ゼロワクチン・ゼロ医療」やむなしという選択をしたと見られる。

     

    (2)「この「快速過峰」(速やかに感染ピークを越える)の目標は達成できそうだ。早くも一部の地方政府からは、住民の感染率(自然免疫獲得率)が80~90%に達したという報告が届いている。これを全国に広げれば、習は全人代の場で勝利を宣言でき、3期目の国家主席就任に花を添えられる。これが習近平の新戦略。そう考えれば、一連の事態も説明がつく。ワクチンの供与を拒んだのは、そんなものは無用だから。ワクチンの接種には何カ月もかかるが、それでは全人代に間に合わない。感染力の強いオミクロン株を野に放つほうが手っ取り早い」

     

    当局は、感染のピークを越えたと宣伝している。確かに第一波を超えたとしても、第二波の襲来を予想しなければならない。その辺りの見方が違っている。

     

    (3)「でも、それで100万以上の死者が出たら経済にも悪影響があるのでは? いや、ご心配なく。死ぬ人の大半は高齢者や慢性疾患を抱えた人だから、むしろ中国経済にとってはプラスになる。高齢化の進展に伴う不都合な現実を瞬時に解決でき、医療費の大幅な節約にもつながる。むろん、抗ウイルス薬も要らない。重荷や負担にしかならない人々の延命に、中国共産党は貴重な資金をつぎ込んだりしない」

     

    このパラグラフでは、辛辣な評価を下している。年金支払額が減って、年金財政的の負担が減って楽になるとされる。だが、高齢者の年金を頼りにしてきた人々は、これからの生活が苦しくなる、という側面もある。

     

    (4)「しかも、結果として再び世界中に新型コロナウイルスを輸出でき、各国に検疫や防疫などで重い負担をかけられる――。中国にとって、こんなにうまい話はない。だから中国政府は春節(旧正月)に先立って、一般国民の海外渡航を解禁した。思えば3年前もそうだった。この致死的な感染症の発生を知りつつ、すぐには国民(や国内にいた欧米ビジネスマン)の出国を禁じず、ウイルスを国外に拡散させた。こういう「近隣窮乏化政策」は卑劣すぎると思われるかもしれないが、歴史をひもとけば、それは中国共産党の忌まわしい伝統であることが分かる」

     

    春節期に、中国人の海外旅行は増えたが、それによる感染者急増というニュースはまだない。

     

    (5)「習近平が師と仰ぐ建国の父・毛沢東は1935年、偉大な「長征」(と言っても実は必死の退却だったのだが)で遠くて寒い陝西省延安へ向かう途中、雪深い崑崙(こんろん)山脈を前に有名な詩を作った。題して「念奴嬌・崑崙」。そこには「崑崙よ、おまえはそんなに高くなくていい、そんなに雪深くなくていい。私は宝剣を抜き、おまえを3つに切り裂こう。1つは欧州に与え、1つは米国に贈り、残る1つは東方の国(毛自身の解説によれば日本のことだ)に戻す。そうすれば世界は平らになり、どこも同じ気温になる」とある。「寝そべる」どころではない。習はゼロコロナから「ゼロワクチン・ゼロ医療」へと舵を切った。自分の身と中国共産党を守るためだ。それ以外の国は、ご用心を」

     

    習氏が、ゼロコロナ打切りで手本にしたのは毛沢東であると指摘している。毛沢東は、「大躍進政策」や「文化大革命」を強行し、1000万人単位の犠牲者を出している。習氏がこういう前例を踏襲したとすれば、ゼロコロナ打切りに伴う犠牲者急増も頷ける、としている。これでは、コロナ犠牲者の霊は浮かばれまい。

     

     

     

     

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    中国は、個人の創意工夫で研究を推進できる環境にない。全て、共産党のリーダーシップの下で行なわれている。研究費の配分は、党内の序列によって決められることから、真に必要な部分に資金が配分されることはない。これが、西側諸国と完全に異なる点だ。西側では、個人の創意工夫が研究の出発点であり、社会が有用な研究と認めれば、資金が集まるベンチャー・キャピタル・システムが出来上がっている。こうした西側との違いが、中国の技術開発を阻害する背景だ。中国が、技術的先駆者になれないという主張が登場した。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月31日付)は、「中国が技術で先駆者になれない訳」と題する投稿を掲載した。筆者のシモーヌ・ガオ氏はジャーナリスト。ネット上で時事問題を扱う「ズーミング・イン・ウィズ・シモーヌ・ガオ」のホスト役を務めている。

     

    中国は最近、半導体製造分野における米国との覇権争いで急に動きを止めた。米国は、昨年夏に成立した半導体投資を後押しする新法を通じて国内生産再建へのコミットメントを強化し、製造プロジェクトへの2000億ドル(約26兆円)近い民間投資を呼び込んだ。一方、中国は突如として、半導体産業への1兆元(約19兆1300億円)の投資を停止した。

     

    (1)「昨年8月に発表された中国政府の報告書では、国家集成電路産業投資基金の丁文武・総経理を含む業界トップの多くを対象とした汚職調査が相次いでいることが明らかになった。業界で「大基金」として知られる450億ドル規模のこのファンドは、中国政府が半導体業界への巨額投資を管理するための公式な手段となっている。多数の企業に投資しており、投資先には、米国による制裁で打撃を受けている中芯国際集成電路製造(SMIC)や長江存儲科技(YMTC)の半導体大手2社が含まれる」

     

    中国では、半導体企業投資のファンド(「大基金」)450億ドルが、汚職の温床になったとして捜査対象になった。こうして、半導体産業への1兆元(約19兆1300億円)の投資を停止した。

     

    (2)「中国は今回の後退で、国際的に競える先端技術の構築を目指す、政府ぐるみのアプローチが失敗したことを暗に認めている。米国が先進的な半導体製造技術の対中輸出を禁じたことで、オランダや日本など米国の主要パートナー国は、そうした技術を中国に輸出できなくなった。これにより、発展し始めたばかりの中国の半導体業界は苦境に陥っている」

     

    米国は、中国に対する先端半導体の製品・製造設備・技術の輸出と大幅に規制している。当の中国では、汚職問題がからんで政府補助が中断状況である。これにより、中国の遅れは決定的になってきた。

     

    (3)「中国の野心的な技術面での取り組みが失敗しつつある理由には、もっと大きなものがある。共産主義体制によるイノベーション(技術革新)の抑制だ。中国では、すべての主要な資金が共産党によって管理・分配されている。トップクラスの科学者がキャリアアップして資金を得るためには、党の仕組みの中にいる必要がある。党での地位が上がれば上がるほど、受け取れる資金は増える。最近の汚職捜査では、「大基金」の主な関係者や、同ファンドから最も多くの資金を受け取っていた企業の幹部らの関与が明らかになった。これにより、ファンドの幹部たちがこれらの企業から賄賂を受け取っていた可能性があるとの臆測が生じている」

     

    下線部は、重要な指摘である。共産主義が技術革新を抑制するという問題である。全て、中央集権下にあり、自由な研究を認めないことである。党内の序列によって決められており、補助金もこのシステムによって悪用されている。

     

    (4)「中国当局による投資が中断される以前の段階では、半導体分野の新興企業のうち補助金を得ていたのは、対象候補を推薦・検証する業務を担当する地方政府当局者とコネクションのある企業だった。香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』の分析によれば、2021年1月から5月の間に1万5700社が中国半導体企業として新たに登録された。中国メディアの『星島環球』によると、建設、セメント業界から衣類、製薬業界まで多くの企業が少なくとも書類上は半導体メーカーへと業種を変更。その結果、プロジェクトが中断したり、閉鎖が頻発したりする状態となった」

     

    下線部は、有名な話である。半導体補助金を狙って、半導体と無縁の企業が参入した。その数、なんと1万5700社にも。本来、あり得ない話である。

     

    (5)「ファーウェイ創業者で最高経営責任者(CEO)の任正非氏は、公には新たな研究を奨励していたものの、プロジェクトが2年以内に目立った成果を上げられなかった場合は資金が打ち切られる可能性が高かった。そのため、ファーウェイが最も一貫してイノベーションを実現できたのは応用段階においてだけだった。同社は、すぐに利益を上げることのできるイノベーションには報償を与えるが、世界を変革するようなイノベーションにつながる可能性のある長期的研究は行っていない」

     

    ファーウェイも2年間で研究成果が出なければ、そのプロジェクトは打切りなる。基礎研究は論外である。これが、技術盗用の温床になっている。こうした傾向は、ファーウェイだけの問題ではない。それは、共産党支配下の中国社会では普通のことだ。

     

    (6)「中国のゴールは常に、最小のコストで最大の利益を生み出すことだ。夢と情熱は非現実的で高くつき、愚かでさえある。そんなものは捨て去るべきだというのだ。西側諸国が未来の姿を思い描き、創造する中で、中国が自由な発想を持つ人材を育てられなければ、同国は常に追う立場に置かれ、先駆者にはなれないだろう」

     

    儒教文化では、科学技術を軽視してきた。この2000年余の歴史が、目先の利益だけを求める習慣を生み出したのだ。この桎梏からの脱却は、極めて困難である。

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