春節後の出稼ぎ労働者は、意外にも元の職場へ戻る人々が少なく、大都市では工場労働者不足が深刻化している。出稼ぎ労働者は、ゼロコロナで3年ぶりの帰郷になった。大都会でのゼロコロナ生活が余りにも閉鎖的であったので、故郷に近いところで職場を探す人達が増えているのだ。ここから見える構図は、中国の「世界の工場」に赤信号が灯っていることである。ゼロコロナ後遺症は、予想外の方向へ動いている。
『ブルームバーグ』(2月20日付)は、「ゼロコロナの傷跡、中国の優位さ損ねる恐れ 出稼ぎ組が職場に戻らず」と題する記事を掲載した。
中国は約3年続けた「ゼロコロナ」政策から経済がすぐに立ち直ると見込んでいる。だが、中国各地の製造拠点には傷跡が残ったままだ。厳格なロックダウン(都市封鎖)などで新型コロナウイルスを徹底的に抑え込むというこの政策は破壊的だった。
(1)「中国最大の衣料品卸売市場がある広東省広州市の中心部には、出稼ぎ労働者がなかなか戻ってこない。仕事の空きがあるという段ボール製の看板を掲げている人もいれば、働いてくれそうな相手に、条件や福利厚生について数分間でいいから話を聞いてほしいと頼み込んでいる人もいる。こうした人々は工場経営者や採用担当者だ。長期にわたるロックダウンや工場閉鎖で給料が支給されなかったこと、さらに厳しいコロナ規制への反発で激しい抗議活動が起きたことが働き手の心理に影響を及ぼしている」
輸出企業が密集する広州では、求人のビラが壁一面に張られている。これを見れば、人手不足の深刻さが一目瞭然である。「求人呼び込み」まで現れているほどだ。
(2)「広州の海珠区は昨年遅く、約1カ月封鎖された。同区で人材集めをしているタン・ニンさんは1週間で1人も働き手を確保できなかったと言う。彼女が10年余り働いている衣料品工場には今年の春節(旧正月)前、30人余りの従業員がいたが、春節連休恒例の帰省から戻ったのは10人だけだった。タンさんは2月に入ってからのインタビューで、従業員の気持ちは分かると話した。「故郷から遠く離れた大都会にいて、一生働いても家を買えず、共同トイレの古い小さな部屋に住み、1日12時間働いている。唯一の目標はできるだけ稼いで、できるだけ貯金することだ。そこにロックダウンが始まった。いつまで無給か全く分からなかった」という現実を語った」
出稼ぎ労働者は、共同トイレの古い小さな部屋に住み、1日12時間も働いている。だが、家を買えるほどの蓄えも不可能だ。こういう絶望的な生活に見切りをつけて、故郷で働いて人間らしい生活ができる道を選択する向きが増えている。
(3)「中国の労働市場が抱える長期的な構造問題は悪化しつつある。世界製造業生産の約3割を占める中国で、出稼ぎ労働者が生産現場に戻りたくないと考えているのだ。コロナ禍前、人口高齢化で労働力はすでに縮小。若者は安い賃金で、労働集約的な産業で働きたがらなくなりつつある。中国の輸出経済を支える出稼ぎ労働者2億9600万人のうち、どの程度の人々が生産現場に復帰していないかについてのデータはない。だが、従業員や管理職へのインタビューは、軌道に戻るのに一部のセクターが直面する困難を浮き彫りにする。雇用主は働き手を確保するために昇給や何らかの奨励策を提示せざるを得なくなっている」
3億人弱の出稼ぎ労働者が、中国の輸出を支えている。この貴重な人材が他産業で働けば、輸出に大きな影響が出るはずだ。下記のように、出稼ぎ労働者の4割が地元での就職を希望し、すでにその15%は転職している。人手不足が、現実に起ころうとしている。
(4)「中国共産党の習近平総書記(国家主席)が進めてきたゼロコロナ政策で最大級の打撃を受けたのがこうした出稼ぎ組だ。テスラやアップルなど世界的ブランドに製品を供給する工場などもロックダウンの対象となった。工場の稼働停止で何カ月も無給で過ごし、外部との接触を基本的に遮断する「バブル」方式で現場以外の誰とも連絡を取ることができず、家族に会えない厳しい状況に見舞われた労働者もいる。ジョーンズ・ラング・ラサールの大中華圏担当チーフエコノミスト、龐溟氏は「ロックダウン中に不確実さを経験したことで多くの出稼ぎ労働者が、故郷で仕事をしようと決意を固めた」と指摘。「地方のインフラ整備が進んだことや当局の支援策」も地元での職探し増加に寄与していると述べた」
ゼロコロナ最大の被害者は、出稼ぎ労働者とされる。不安な生活を3年間も余儀なくされた以上、もはや大都会の工場へは戻りたくない、という心境になっているのだ。
(5)「オンライン求人サイトの智聯招聘が実施した調査によれば、春節で帰省した労働者の4割近くが故郷での仕事を希望しており、そのうちの約15%がすでに職に就いている。広東省仏山市は出稼ぎ労働者を募るため1月下旬に貴州省に代表団を派遣。チャーター便や鉄道で働き手を連れてくる企業もある。北京市や上海市、浙江省、福建省は企業に生産再開を促すため補助金を支給している」
輸出企業は、チャーター便などを用意して工場復帰を促しているという。当然、賃金も上がる。
(6)「在中国欧州連合(EU)商工会議所のヨルグ・ワトケ会頭は、労働集約型の産業に働き手を呼び込むために必要な高い賃金は、低コストの労働力供給源としての中国の長年の優位性を損なう可能性が高いと分析。「中国は間違いなく、極めて短期間のうちに、労働集約的な分野で得ていた全ての機会を失うだろう」と述べ、バングラデシュやベトナム、インドネシアなどが有利になると予想。「中国が競争力を維持したいのであれば、出稼ぎ労働者に気を配る必要がある」と論じた」
中国は間違いなく、極めて短期間のうちに、労働集約的な分野で得ていた全ての機会を失うだろう、という厳しい「予告」も出てきた。事態は深刻である。





