勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年03月

    テイカカズラ
       


    韓国の前政権は、反日を煽って中国へ接近した。だが、米中対立という局面では、中国依存リスクの大きいことから、尹政権は経済安保で日本との連携強化に大きく舵を切り替えた。韓国左派は、こうした国際情勢の急変に気づかず、「日本屈服」として政権批判に没頭している。「親の心 子知らず」という状態である。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月31日付)は、「経済安保が動かす尹錫悦外交 日本に供給網での連携期待」と題する記事を掲載した。 

    韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が経済安全保障を念頭に、外交や法整備を急いでいる。同国経済の屋台骨である半導体産業は米中対立に翻弄されやすい。日本との関係改善に積極的なのは、サプライチェーン(供給網)を安定させ、安保と経済の「複合危機」に備えたいと考えるからでもある。

     

    (1)「尹大統領は321日の閣議で、「半導体などの先端産業で韓国と日本の企業が連携し、安定したサプライチェーンが構築できる」と、なぜいま日本との関係改善が必要なのかを20分間にわたり説明した。強調したのは経済協力によるメリットだ。岸田文雄首相と合意した日韓の「経済安保対話」や、対立していた輸出管理問題の解決を成果に挙げた。協力事例も列挙した。韓国のサムスン電子が総額300兆ウォン(約31兆円)を投じて建設する新たな半導体拠点に日本の装置や材料のメーカーを誘致するほか、液化天然ガス(LNG)をはじめとするエネルギー調達で日本側と協力する構想に言及した」 

    韓国企業は、日本の技術と資本で発展の基礎をつくった。こういう状況から見ても、日本との協力は不可欠な構造になっている。尹大統領は、日韓経済構造の相互補完性を深く認識したのであろう。

     

    (2)「経済安保の連携とは何を意味するのか。対外経済政策研究院の延元鎬(ヨン・ウォンホ)経済安保チーム長は「韓国と日本は経済で競合するが『経済安保』ならば協力の余地が広がる。供給網の弱みを補完し、制度面で参考にしあえる部分がある」と話す。経済安保の目的は、半導体などの戦略物資を特定の国に依存しない体制づくりだ。日本は米中対立の深まりを踏まえて法整備に着手し、供給網の構築や基幹インフラの安全確保などを柱とする経済安保推進法を20225月に成立させた」 

    韓国企業は、日本から中間財の供給を受け、それを加工して発展してきた。現在も日韓の貿易収支では、韓国が圧倒的赤字を計上している理由だ。文政権は、こうした現実を見落として反日に突進した。日本が仮に、対米貿易の重要性を忘れて、反米活動を始めたらどうなるか。韓国は、これと同じことに気づいたのであろう。

     

    (3)「文在寅(ムン・ジェイン)前政権は中国を経済協力の重要なパートナーと位置づけたこともあり、経済安保という言葉をほとんど使わなかった。文前政権が脱却を目指したのは中国依存ではなく「日本依存」のリスクだった。19年7月には当時の安倍晋三政権が半導体生産に不可欠なフッ化水素など3品目の輸出管理を厳格化した。その後、韓国を優遇対象国から外した。韓国政府は半導体やディスプレーなど強みを持つ分野の100品目を戦略品目に指定。調達先の拡大や国産化を進めると宣言し、特別法を制定した」 

    日韓対立の発端は、徴用工と慰安婦という過去の問題である。韓国が、決着済みの問題をほじくり返して、民族主義に火をつけたのである。日本が対抗上、半導体3素材の輸出手続き規制に踏み切ったのは当然のこと。文政権は、これで中国依存を深めた。この選択が間違っていたのだ。

     

    (4)「韓国の国民が中国依存のリスクを認識したのは、21年秋の「尿素水パニック」がきっかけだった。ディーゼル車の排ガスを浄化する尿素水が、中国の輸出規制で不足した。トラックが運行できずに物流が停滞したり、ガソリンスタンドで尿素水の買い占めが起こったりした。資源の乏しい韓国の経済は貿易に支えられている。半導体生産を支える物資や資源の供給網が滞ると、致命的な混乱をもたらす。韓国の国会ではいま、供給網の管理や危機時の政府対応を統括する司令塔をつくるサプライチェーン基本法案や、石油や重要鉱物の安定確保に関する司令塔を設ける資源安保特別法案の審議が進んでいる 

    下線のように現在の韓国は、サプライチェーンの見直しを始めている。これによって、日本との連携強化という結論になるであろう。

     

    (5)「政権発足から10ヶ月余り、尹氏は経済安保を意識した外交を展開してきた。就任12日目で臨んだ米韓首脳会談後の共同記者会見で、尹氏が「私たちは経済が安保、安保がすなわち経済である時代に生きている」と語ったのは象徴的だ。尹氏は日韓首脳会談後の記者会見で「韓国と日本の国益はウィンウィン(双方に利益)の関係にできる」と語った。長く続いた対立の末、日韓が経済安保という戦略的な側面で距離を縮められる機会が訪れた」 

    「家出した」韓国が、元の日韓関係に戻りたいということだ。韓国が、「反抗期」を過ぎたとするならば、いかに日韓において「大人」の関係を築き上げるかである。尹氏は、その難しい作業を始めたと言えよう。

     

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    韓国労組は、左派勢力の中心である。「反日米・親中朝」を鮮明にしているのだ。このアドバルーン通に、全国民主労働組合総連盟(民主労総)幹部が、数年間にわたり北朝鮮スパイを働いていた容疑で捜査を受けている。民主労総は、110万人以上の労働組合員を擁し、韓国二大労組の一角を占める。暴力的な賃上げ闘争を行うことでも有名な存在だ。

     

    労組幹部が公然と、北朝鮮のスパイを働いていたことには驚くほかない。戦時中の日本でも、新聞記者がソ連スパイを働き刑死したゾルゲ事件がある。韓国には、北朝鮮からの侵略で辛酸をなめさせられた経緯がある。それにも関わらず、スパイという利敵行為を行う労組幹部はどういう認識なんか。左派は、厳しく自問自答すべきだろう。

    『中央日報』(3月30日付)は、「北朝鮮の『目と耳』の役割を果たしていたという韓国民主労働組合総連盟の前現職幹部」と題する社説を掲載した。

     

    公安当局が明らかにした全国民主労働組合総連盟(民主労総)の前現職幹部らのスパイ疑惑が想像を絶する。衝撃的だ。水原(スウォン)地裁は一昨日、民主労総組織局長、保健医療労組組織室長、元金属労組副委員長と組織部長の4人に対し、国家保安法違反の疑いで検察が請求した拘束令状を発行した。国家情報院と国家捜査本部が1月、彼らの住居地と事務室などを家宅捜索した後に確保した証拠により、国家保安法上の目的遂行などスパイ疑惑が認められると裁判所が判断した。

     

    (1)「昨日、一部公開された彼らの具体的な容疑をみると驚くばかりだ。彼らは「支社」と命名した地下組織を作り、数年間にわたっておよそ100回の北朝鮮指令文を受け取り、約30件の報告文を作成して北朝鮮に送ったことが分かった。北朝鮮の指令文には、青瓦台(チョンワデ、当時大統領府)など韓国の主要国家基幹施設の送電網設備を把握し、麻ひさせる準備を指示した内容が盛り込まれていた。日の丸火刑式など反日感情を刺激し、進歩党(旧統合進歩党)の掌握と院内正当化の推進、民主労総の梁慶洙(ヤン・ギョンス)委員長への支持など韓国の政治と外交に介入したこともある」

     

    北朝鮮からは、ベトナムなど海外で指令を受けていた。謝金も得ており、動機は極めて不純である。古くさい言葉だが、まさに「売国奴」にふさわしい行動を取っていたのだ。この集団が、先頭に立って「反日運動」を行っていた。

     

    (2)「特に、民主労総核心幹部A氏は2021年2月ごろ、京畿道平沢(キョンギド・ピョンテク)と烏山(オサン)の米軍基地内に入り主要施設と装備を撮影し、北朝鮮の韓国向け工作機構(文化交流局)に渡した疑いが持たれている。部隊の滑走路・格納庫はもちろん、パトリオットミサイル砲台などを近接撮影した写真もあった」

     

    米軍基地にも入り込み写真を撮っていた。滑走路、格納庫、パトリオットミサイル砲台など主要装備まで近接撮影したとみている。

     

    (3)「尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は先月24日に国情院を、22日には国軍防諜司令部を訪問した。異例的な大統領の行動は、公式的には激励のレベルだったが、スパイ事件に対する深刻な政府の憂慮が反映されたという見方もある。民主労総の前現職幹部らのスパイ行為が一回限りではなく、北朝鮮が国内外で全方位的な情報収集に乗り出したということから今回の事件を決して軽く見過ごすことではない。さらにスパイ事件が発生する可能性もある」

     

    労組幹部が、北朝鮮スパイになったのは、朝鮮戦争を民族解放戦争という位置づけにしているからだ。文・前大統領が、北朝鮮へ大きく傾斜した理由も、本心では民族解放戦争という認識に外ならない。朝鮮戦争が、南北統一を実現できなかったのは、米軍が介入したという理解であり、「反日米」という強い信念を持っている。

     

    (4)「たとえ一部でも、民主労総の核心幹部たちが、北朝鮮の目と耳、腕と脚の役割を果たしたとは、世間に衝撃を与えている。軍事情報を漏えいすることや国内で混乱を引き起こす北朝鮮の指令に従うことは利敵行為に過ぎない。民主労総指導部は、彼らをかばってはならず、反国家的行動に必ず国民の前で謝罪しなければならない。さらにスパイが横行する状況で、国情院の対共捜査権を廃止したことが適切だったのか、国会は見直してほしい」

     

    韓国左派には、リベラリズムという自由な空気が存在しない。単純な民族主義の集団である。それが、「進歩派」を名乗るから実態との乖離が大きくなるのだ。韓国左派は、決して進歩派に値せず、既得権益を貪る集団である。

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    中国は、アリババの巨大勢力を恐れて、これまで数々の圧力をかけてきたが、ようやく妥協点が見つかったのであろう。アリババを6分割して上場させた後、アリババが経営権を放棄するという案だ。アリババは、11億人のアプリ利用者を持つが、それぞれ6分割すれば、1社あたりの利用者は2億人足らずと小規模になる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月30日付)は、「アリババ、分割事業の経営権放棄も 上場後に検討」と題する記事を掲載した。

     

    中国ネット通販大手のアリババ集団は3月30日、分割する事業グループについて、上場後に経営権を手放す可能性があることを明らかにした。同日開いた組織再編に関する説明会で、徐宏・最高財務責任者(CFO)が述べた。

     

    (1)「同社は28日、持ち株会社に移行した上で6つの事業グループに再編し、それぞれに最高経営責任者(CEO)と取締役会を置く体制とすると発表した。徐氏は経営権を放棄する狙いや上場時期などについては明言を避けた。「上場後に企業を評価して、アリババの戦略全体のなかでの重要性から、支配下におき続けるか手放すかを決める」と述べた」

     

    アリババは会社を、クラウド、中国国内の電子商取引、グローバルな電子商取引、デジタルマッピングおよびフード宅配、物流、娯楽・メディアの6事業ごとに分割する。この6事業グループにはそれぞれCEOと取締役会を置き、業績について一切の責任を負う。中国国内の電子商取引事業は引き続きアリババの完全子会社とする。張CEOは従業員宛ての書簡で、新会社はそれぞれ時機を見て資金調達や新規株式公開(IPO)を実施できるとし、「市場が最高のリトマス試験だ」と述べた。以上、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月30日付)が報じた。

     

    29日の香港株式市場は、アリババ集団の6分割を好感して急伸し、一時前日比16%高となった。これで、当局のテック企業への締め付けが終わるという期待である。

     

    (2)「完全子会社のままとするネット通販など中国コマース事業以外については、独自の資金調達や上場も検討する。張勇(ダニエル・チャン)会長兼最高経営責任者(CEO)は「(今後の)アリババの役割は、事業運営から資産や資本の運営に移行する」と話した。張氏は、「ぞれぞれの事業で業務内容や発展段階、業界や顧客、競合相手が異なる」とし、組織再編で意思決定のスピードを高める狙いがあると説明した。創業者である馬雲(ジャック・マー)氏が掲げた「102年以上続く良い企業になる」という方針は変わらないと強調した」

     

    巨大企業の分割は、米国ではよく見られる経営手法である。習近平氏は、やみくもに国有企業の合併で大型化を推進してきた。アリババについては、6分割という逆の手法である。本心は、これでアリババの芽を摘むという認識であろう。

     

    (3)「調査会社のクエストモバイルによると、アリババグループのアプリ利用者数は11億人を超える。中国当局はなお巨大ネット企業の影響力を警戒しているとされる。アリババは事業分割後の経営権放棄に含みを持たせることで、当局の警戒心を和らげる狙いがあるとの見方もある」

     

    習氏が、アリババを俎上に上げたのは、11億人のアプリ利用者がいることに「恐怖感」を持ったことだ。これを利用して、「反習運動」でも起こされるリスクを警戒したのである。習氏の判断の一つは、「打倒習近平」の現れることの阻止である。

     

    (4)「中国政府は政府による統制のもと、ネット企業などの成長を促す方針にかじを切っている。モルガン・スタンレーのローラ・ワン氏は29日、アリババの組織再編や当局の動きに関連して「中国の規制改革が完了し、民間部門やプラットフォーム企業への支援が強化されたことを示している」と指摘した」

     

    中国は、完全に民営企業を当局の支配に組み入れる見通しがつかなければ、「無罪放免」しないはずだ。アリババの6社分割は、当局の「ゴー・サイン」が出た結果であろう。

     

     

     

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    韓国は、社会が封鎖的であるばかりか、株式市場も同様の傾向が強い。韓国株は、過去10年、他の新興国市場と比較して、予想PBR(株価純資産倍率)が平均16%も下回っている。これも閉鎖的な企業経営の結果というのだ。こういう韓国でも、アクティビスト(物を言う株主)の意見が次第に採用されるようになってきた。「コリアディスカウント」も、終わるのでないかと期待する声が出ている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月30日付)は、「コリアディスカウント、ついに終止符か」と題する記事を掲載した。

     

    韓国企業の取締役会でちょっとしたドラマが繰り広げられるケースが増えている。長らく沈黙を保っていたアクティビスト(物言う投資家)が主張し始めたためだ。これは、韓国の株価押し上げにつながるかもしれない。韓国株は、世界有数の重要なテクノロジー企業が名を連ねているにもかかわらず、長い間他国の市場より割安な水準で取引されてきた。

     

    (1)「調査会社インサイティアによると、韓国に拠点を置く企業に対するアクティビストの提案件数は、2020年は9件だったのに対し、21年は38件、22年は56件だった。アクティビストが獲得した取締役会の議席数も、昨年は26議席と2年前の2倍以上となった。ガバナンス(企業統治)と市場規制の改善を目的とした政府の新たな政策も助けになった。それには、スピンオフ時の株主保護の強化や外資規制の緩和などが含まれる。

     

    海外のアクティビストの言動には抵抗しても、国内アクティビストの意見には、韓国企業も聞く耳を持つようになり始めた。閉鎖社会に風が少し吹き込んでいる。

     

    (2)「今回の変革要求は主に、外部から現状を打破しようとする外国人投資家――最も有名な例として、米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントが2015年にサムスングループ傘下企業同士の合併阻止を試みたが、失敗に終わった――ではなく、韓国内部からのものだ。インサイティアによると、2022年のアクティビスト活動の約4分の3は、韓国を拠点とするファンドまたは韓国人ファンドマネジャーによるものだった」

     

    日本にも苦い経験がある。世界の注目を浴びたのが、トヨタ系列の小糸製作所の筆頭株主にブーン・ピケンズの率いるアメリカのブーン社がなったことだ。1989年春に発行済み株式の2割から3割近くも保有したが、株主総会ではピケンズの要求を否決した一件だ。日本の「後進性」を見せつけた。米ヘッジファンドが、2015年にサムスングループ傘下企業同士の合併阻止を試みたが失敗したのと形式的には類似している。韓国は、まだ日本の1990年頃の状態である。

     

    (3)「アクティビスト活動の増加は、韓国企業が低評価される「コリアディスカウント」現象の減衰を促すかもしれない。ゴールドマン・サックスによると、韓国株は過去10年、他の新興国市場と比較して、予想PBR(株価純資産倍率)が平均16%下回っている。その数字は現在さらに大きくなっている。韓国資本市場研究院が2月に公表した調査によると、そうしたディスカウントの3分の1余りは株主還元率の低さが影響している」

     

    韓国社会が開放的になれば、株式市場も次第に株主の要求を受け入れるようになるだろう。今は、その黎明期に当たる。

     

    (4)「ゴールドマン・サックスは、韓国は日本を除くアジア市場で最も配当性向が低いと指摘している。アクティビストが韓国企業にプレッシャーをかけ、株主にもっとキャッシュを還元させることができれば、韓国と他市場との評価格差がついに縮まるかもしれない。ただ問題もある。サムスンやLGなどの「財閥」と呼ばれる一族経営のコングロマリット(複合企業)が、いまだに韓国経済と株式市場を支配していることだ。彼らのアクティビスト活動への抵抗はもっと強いだろう。しかし、特定の一族が支配していない、より規模の小さい企業では、ついに変化が訪れるかもしれない」

     

    韓国は、日本を除くアジア市場で配当性向が最も低いという。これは、企業が株主の存在を軽視している結果だ。株主を労組並みに重視するようなれば、韓国の株価は上がるだろうと見ている。

     

    (5)「韓国経済は半導体価格の低迷をはじめ、景気循環の難しい局面を迎えている。しかし、長期を見据える投資家にとっては、買いの好機になるかもしれない。世界経済が再び好転し、株主還元率の向上が実現した場合はなおさらだ」

     

    韓国経済の回復は、半導体市況しだいである。サムスンが、人為的な減産をしないと頑張っているので、市況底入れのメドはたっていない。

     

     

     

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    中国官僚の汚職は桁違いの規模である。歴史的に、賄賂は名刺代わりに認められてきた社会である。贈賄のない官僚は、無能のレッテルが貼られてきた。問題は、「常識の範囲内」での賄賂は認めるが、超高額になると「お咎め」を受けるという点にある。この線引きが、外部の者にはわからないが、習氏はその曖昧な点を狙って「政敵弾圧」している面もある。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月30日付)は、「中国、汚職摘発官を海外派遣 取り締まり強化へ」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府は国外逃亡者を追跡し、盗まれた資産を回収するため、汚職摘発担当官を海外に派遣している。習近平国家主席による汚職撲滅キャンペーンを強化するため、摘発範囲を海外に拡大することが狙い。

     

    (1)「中国共産党の中央規律検査委員会(CCDI)をはじめとする汚職摘発を担う政府機関は、一部の中国大使館に職員を常駐させ始めている。法執行問題などを巡り外国当局との調整を図ることが任務だという。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。関係者の1人によると、汚職摘発チームは20カ国・地域(G20)の参加国など、腐敗官僚が多額の不正資金を隠し持っている可能性が高い国を中心に活動する。CCDIは今年、腐敗撲滅のため国境を越えた取り組みを強化することを公約に掲げた。特に習氏が唱える巨大経済圏構想「一帯一路」の協力国を対象に取り締まりを強める構えで、これにはG20参加国も含まれる」

     

    中国は、海外の大使館に汚職摘発の要員を配置しているという。中国の汚職規模がいかに大きいかを証明している。近代官僚制が根付かず、清朝時代の家産官僚制の遺風が残っているのだ。中国が、近代国家としての「革命」ができなかった理由はここにある。未だに、家産官僚制のままである。

     

    (2)「習氏は2012年に実権を握って以降、徹底した腐敗撲滅運動を推進しており、今回の海外派遣はその取り組みを改めて後押しするもの。中国当局によると、習氏が党総書記に就任して2期10年で、国外に逃亡していた10700人近い被疑者が強制帰国させられた。これには中国の最重要指名手配犯100人のうち、60人以上が含まれる。だがCCDI当局者は、未解決事件を解決し、巧妙な犯罪者による不正行為を抑止するため、汚職摘発官たちが一段と困難な課題に直面していると話す」

     

    習氏の2期10年間で、国外逃亡した1万0700人近い被疑者が強制帰国させたという。驚くべき数字だ。摘発されただけでこれだけの人数である。氷山の一角である。

     

    (3)「CCDIは昨年12月発行した機関紙に寄せた論評で、「国外逃亡の多くは長い年月を経た古い事件で、有効な手掛かりがほとんどない」とし、汚職の取り締まりには国際協力の強化が必要だと呼びかけた。また、当局者が連携を強化し、新たな戦略や技術を考案することで、こうした困難を乗り越えなければならないとした」

     

    元々、官僚トップになると、子弟を米国へ留学させるとともに財産を米国へ移しており、本人一人が中国で勤務する。こういう例が報道されていた。身が危うくなると、すぐに米国へ逃亡する準備をしているというのだ。国家への忠誠はゼロである。

     

    (4)「各国の中国大使館に汚職摘発官を常駐させれば、受け入れ国が警戒心を強める恐れがある。欧米諸国では、中国の公安部隊が国境を越えて法執行任務を遂行しようとしていることへの懸念が高まっている。例えば米当局は、中国の工作員が許可なく米国内に滞在する逃亡者を追跡していると繰り返し苦情を申し立てている。汚職摘発担当官が海外で具体的にどのような活動に従事するかは明らかにされていない。関係者の1人によると、一部の職員はリーガルアタッシェ(大使館勤務の法務官)として派遣される可能性が高く、これは中国の警察職員が外国政府との連絡官として海外派遣される際の肩書と同じだ」

     

    中国は、海外へ「私設警察」を設けて、中国人を監視しているという報道が相次いでいる。汚職摘発官とこの「私設警察」とは同一なのかという疑問が残る。他国で、中国の警察権を執行するのは違法であるからだ。

     

    (5)「人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」のキャンペーン・ディレクター、ローラ・ハース氏によると、CCDI関係者を法執行機関の連絡官として大使館に常駐させることは、海外におけるCCDIの活動と、法の枠を超えた手法を行使して逃亡者を中国に強制送還させる措置を正当化するための試みだ。ハース氏は、常駐されれば標的となり得る人々の「権利と自由の享受に深刻な影響」を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らす」

     

    下線のような問題点がある。汚職摘発官という名目で「私設警察」をつくっている疑いも消えない。

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