勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年04月

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    中国国家統計局が、4月30日発表した4月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は前月より2.7ポイント低い49.2へ急落した。好調・不調の境目である50を4ヶ月ぶりに下回ったのでる。家計の耐久財消費や住宅投資の持ち直しが遅れており、新規受注が落ち込んだことが原因である。

     

    製造業PMIは、新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策が終わった1月から50を上回ってきた。それが、4月には50割れとなって、中国経済の回復遅れを見せつけている。こうした事態は、鋼材相場の急落で証明された。中国の鋼材は、住宅建設が主要需要先である。住宅需要の回復が思わしくないことを示している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月30日付)は、「鉄冷え再来の懸念  鋼材5カ月ぶり安値 中国減速を警戒」と題する記事を掲載した。

     

    鉄や非鉄金属など産業素材の価格が急落している。鋼材は約5カ月ぶりの安値をつけ、亜鉛は高値に比べ2割安い。中国のゼロコロナ政策後の景気回復を期待して2022年末から価格は上昇したが、需要の伸び悩みが明らかになってきたためだ。中国景気の腰折れへの警戒に加え、中国で余った鋼材が安価に輸出され、国際市況を悪化させる「鉄冷え」への懸念も高まっている。

     

    (1)「中国の商品先物取引所である上海期貨交易所(SHFE)に上場する熱延コイルは4月26日に1トン3928元(約7万6000円)と、終値ベースで5ヶ月ぶり安値を付けた。薄い鋼板を巻き取った熱延コイルは建築部材や産業機械の生産に欠かせず、中国の鋼材価格の指標だ。現地の鋼材市況の悪化を示している。非鉄金属や化学製品も下落が目立つ。亜鉛の国際指標は1月下旬の年初来高値と比べ2割安い。アルミも1月中旬の高値から1割下がった。建設資材として使う塩化ビニール樹脂のアジア価格も高値から6%安い」

     

    産業資材相場(鉄鉱石・熱延コイル・アルミニウム・亜鉛)は、3月後半からの下落が目立っている。需要不振が明らかになって「リオープン景気」が空振りになった。

     

    (2)「国内の商社関係者は、商品安について「期待の空振り」と昨年12月のゼロコロナ政策緩和後の産業素材の需要の戻りの弱さを指摘する。コロナ後の経済活動の回復を視野に入れて、川上の素材産業は生産を急拡大させてきていた。23年1~3月の中国の鉄鉱石輸入量は前年同期比約10%増の2億9434万トン。同時期としては過去最高となった。中国国内の粗鋼生産量も2億6160万トンと6%増えた。一方で、中国国家統計局によると、1~3月の製造業などの設備稼働率は74.%と、22年通年と比較しても1.3ポイント低い。1~3月の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4.%増と市場予想(4.0%)を上回る強さをみせたものの、耐久消費財などの回復に力強さがみられない」

     

    製造業などの設備稼働率は、1~3月に74.%で22年通年と比較し1.3ポイントも低いことが分った。昨年は、ゼロコロナで経済活動が大幅に制限されていた時期だ。この1~3月の稼働率が、昨年通期より下回っているのは、中国経済の立ち上がりがいかに不調であるかを見せつけている。事態を楽観してはならい事例がここに出てきた。

     

    (3)「鋼材需要の過半を占める建設向けも低調で、1~3月の不動産開発投資は前年同期比で5.8%落ち込んだ。3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で大規模な不動産振興策が打ち出されなかったこともあり、産業素材の需要増への期待感は一段と後退した。丸紅経済研究所によると、中国の13月の粗鋼の生産量から鋼材の消費量を引いた供給過剰分は約2714万トンと2年ぶりの高水準となった。「鋼材の供給過剰が価格の下押し圧力となっている」と丸紅経済研究所の李雪連氏は指摘する」

     

    1~3月の不動産開発投資は、前年同期比で5.%も落ち込んでいる。これだけ、鋼材需要が減っていることを示している。報道では、住宅販売が微増としているが、それは住宅在庫が減ったという意味に過ぎない。まだ、新規建設へは結びつかないのだ。雇用状態が悪化している中で、住宅ローンを組んでまで住宅購入できる層は限られるであろう。

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    ウクライナのレズニコウ国防相は4月28日、ロシア軍に対する反転攻勢の準備が終わりつつあるとの見解を示した。オンライン上の情勢説明で述べた。「次の問題は参謀本部次第」とし、「神の意思があり、天候条件が整い、司令官たちの決定があれば直ちに実行する」と主張した。『CNN』(4月29日付)が報じた。 

    『CNN』(4月25日付)は、「ウクライナ南部前線に広がる『沈黙』、反攻開始への臆測募る」と題する記事を掲載した。 

    ウクライナのマリャル国防次官は先週、反攻の発表は行わないと述べた。一方、ロシアもウクライナ側の勢いを語りたがらない。恐らく、自軍の兵士の既に弱まっている士気をさらに打ち砕かれることを懸念しての対応だろう。米シンクタンク「戦争研究所」は23日、ウクライナ軍がヘルソン周辺でドニプロ川を渡ったとするロシア軍ブロガーのコメントを報告した。人数は少なくても、ロシア側にとってウクライナ軍がいて欲しくない場所への上陸となる。

     

    (1)「この上陸がどれほど継続したもので、前例のないものなのか、またそれがウクライナ側の大きな計画でどんな役割を担うのか、明らかとなっていない。この10日間、ウクライナは明らかにザポリージャ地域全体について沈黙している。この地域では反攻が行われると強く予想されている。ウクライナ軍が占領されたクリミア半島をウクライナ東部の占領地域及びロシア本国から切り離すにはここしかないからだ 

    ウクライナ軍は、南部ザポリージャ地域全体について沈黙している。この地域は、今回の反攻作戦で最も重視されている。それだけに、この沈黙が何を意味するか、である。 

    (2)「ロシアはウクライナの標的とみなすものに空からの攻撃を試みている。ザポリージャから南東約64キロにある街オリキウでは、軍の拠点に見えるあらゆる施設が繰り返し爆撃を受けた。こうしたロシア軍による激しい無差別の攻撃は、今後数週間の大きな賭けを予兆するものとなっている。ロシアはそれがやがて来ると6カ月も前から知っていた」 

    ロシア軍も、このザポリージャ地域へ絨毯爆撃を行っている。ウクライナ軍の攻撃を予想しているのであろう。ウクライナ軍にザポリージャが奪還されると、ロシア軍は占領地への物資補給が苦しくなるという点で、大きな負担になると指摘されている。

     

    (3)「今は、ロシアにとってこの戦争で決定的に重要な時期となる。ロシアの指導者らはこれまで、残されたわずかなリソースを、戦略的に重要でないウクライナ東部ドネツク州のバフムートに投じてきた。だがそれもいまだ成功には至っていない。これまで両軍に多大な被害が出た。厳しい冬の戦いで、街が認識できないほど破壊された。それでも、ロシアは市全体を掌握すれば手にするはずの小さな戦果を挙げられていない。仮に勝ち取ったとしても、もはや居住不可能な瓦礫の上での勝利者となる」 

    ロシア軍は、戦略的意味の小さいバフムート攻略にこだわり、莫大な人命の損失を被っている。ロシア軍は、長い消耗戦で疲れ切っているだけに、どこまでウクライナ軍の反攻作戦に対応できるか。それが、焦点になっている。 

    (4)「ウクライナ軍にとってザポリージャ州での戦果は、ロシアのより広範な軍事作戦に一段と強力な打撃を与える可能性がある。占領されたドンバス地方と、同じく占領されたクリミア半島を結ぶ陸の回廊となっているからだ。ザポリージャ州はロシアが昨年掌握した地域で、14年にロシアが一方的な併合を宣言したクリミア半島とロシア本土を陸路でつなげる、ロシアにとって長期的にもっとも有用な地域となっている。ザポリージャ州を失えば、クリミア半島のロシア軍を大きな危険にさらし、占領地が2つに分かれる結果になる。もしウクライナ軍のあまりに明白な野心の実現を回避できなければ、ロシアは自軍に戦略的能力がないことをさらすことにもなる」 

    ザボリージャの反攻作戦が、大きな山場になると指摘している。これは、ロシア軍も承知の上だ。ウクライナ軍が、どういう戦い方をするのかである。

     

    (5)「今はウクライナにとっても決定的に重要な時期だ。北大西洋条約機構(NATO)はこれまでになく団結し、ウクライナへの支援と武器供与で大胆になっている。これほど目標設定が明確となる状況は西側民主主義国では外れ値に当たり、来年には選挙や経済条件など他の雑音でその明確さが薄まるだろう。今どのような発表があっても、ウクライナは来年、今のようなレベルの支援を当てにすることはできない」 

    NATOにとっても、天王山である。奪還作戦が成功すれば、今後の軍事支援の負担も少なくなる。それだけに、手に汗握る感じで奪還作戦を見守るであろう。 

    (6)「ウクライナは今、ここ数カ月よりも弱い敵を目の前にしている。ロシア軍は負傷した受刑者の兵を前線に戻している状況だと複数の受刑者の新兵が明らかにしている。ウクライナ軍はかつてないほど高度な武器と訓練をNATOから提供されている。そして今目撃している沈黙――ザポリージャ州の前線からティックトックやその他のコメントがほぼ完全にない状況――は、この重要な段階が進んでいるということをこれまでになく明確に示す兆候の可能性がある」 

    ウクライナ軍は、ザボリージャの軍事情報を完全に管理している。これは、重大な軍事行動展開前の兆候と見るべきだと指摘している。

     

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    ピュー・リサーチ・センターが昨年行った世論調査で、米国と日本、韓国、オーストラリア、スウェーデンでは回答者の約8割が中国に好感を抱いていないことが分った。これらの国では政治家が、悪化する対中感情をテコに、中国の政治・経済的影響力を抑えるための政策が推進されている。例えば、米国である。半導体技術への中国のアクセスを制限するために、日本とオランダを説き伏せて実行へ持ち込んだ。中国の悪印象が招いた事態である。

     

    この悪印象をさらに強めかねない事態が迫っている。7月1日から実施される改定「反スパイ法」である。逮捕の基準が不明確であり、西側諸国への報復という見方が出ている。これでますます「反中国的」な動きを強めることになろう。

     

    『ブルームバーグ』(4月28日付)は、「『次は誰か』、中国の外国人駐在員に広がる不安-米ベインにも調査」と題する記事を掲載した。

     

    中国指導部は外国からの投資を一層呼び込もうとしている様子だが、外国人駐在員の間では外国企業を標的とした新たな調査があるのではとの不安が広がっている。米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーは今週、同社の上海オフィス従業員が中国当局から事情を聴かれたことを確認した。

     

    (1)「ベインの広報担当者はニューヨーク時間4月26日、上海オフィス内で「中国当局がスタッフに事情を聴取した」とブルームバーグ・ニュースに述べ、「適宜協力している」と説明。それ以上のコメントは控えた。英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)はこれより先、中国の警察が約2週間前にベインの上海オフィスを突然訪れ、コンピューターと電話を押収したが、スタッフの身柄を拘束することはなかったと報じていた。事情に詳しい6人の関係者からの情報だという」

     

    米コンサルティング会社ベインに対して、中国当局はコンピューターと電話を押収した。威嚇するには十分な動きだ。身柄が拘束されれば、どうなるか分らない。暗黒社会の恐怖感を与えるのだ。中国嫌いになる理由に事欠かない舞台装置である。

     

    (2)「中国当局は3月、ニューヨークに本社を置く企業調査会社ミンツ・グループの北京拠点を捜索。その数日後にはアステラス製薬の社員を拘束した。在中国米商工会議所のマイケル・ハート会頭は、「われわれのビジネスコミュニティーはおびえ、会員企業は『次は誰か』と問いかけている。政府の意図とは関係なく、それがメッセージとして受け取られている」と指摘した」

     

    中国では一度、獄窓につながれたらどうなるか分らない恐怖感がある。GDP2位の国家がやるべきことではない。恐怖政治の対外版である。

     

    (3)「中国当局は3月31日、米マイクロン・テクノロジーに対しサイバーセキュリティー調査を始めたと発表した。先端半導体の対中供給を絶とうとする米主導の取り組みに対して、中国が反撃する用意があるというメッセージを米国とその同盟国に送るもの。すでに、中国事業に対し慎重になっている米企業をさらに遠ざける危険性もはらむ。企業調査を手掛ける米ミンツ・グループアステラス製薬の社員が、中国本土でほぼ同じ時期に拘束された件にも同じことが言えそうだ。詳しい拘束理由は明らかにされていない」

     

    詳しい拘束理由を明示しないところに、恣意的逮捕という印象を強める。先端半導体輸出禁止への報復と受け取られているのだ。西側諸国は人権第一で、中国のこうした暴挙に報復しないので「やられ損」になっている。

     

    (4)「中国の経済成長と企業利益には改善が見られるものの、外国投資家は中国株に慎重な姿勢を崩していない。地政学的な緊張は資金流入や中国株のパフォーマンスを抑え、トレーダーは米中関係がどこまで悪化するのか見極めようとしている。MSCI中国指数は4月に約5%下落し、世界最悪の部類に入る。アジアのファンドは米国勢とは異なり経済再開トレードの時期に中国をオーバーウエートとしたが、いまやエクスポージャーを減らす方向に動いている

     

    かつて親中派を公言していたウォール街も、今では中国に懐疑的になっている。習政権が民間セクターを締め付け、「中国は投資できない国になったのではないか」とマネーマネジャーは懸念しているからだ。中国のゼロコロナ政策廃止に伴い、「中国経済リオープン」を囃し立て上げた株価も、すでに「行って来い」に終わった。中国経済は、こういう形でじり貧に追込まれて行くのであろう。すべては、習氏の権威主義が招く事態である。 

     

     

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    中国は、韓国が「二股外交」に幕を引き、西側諸国と価値観同盟を結ぶという選択に焦っている。中国が現在、些細なことに「ケチ」をつけて、大げさに騒いでいるからだ。こういう中国の感情的な振る舞いは、韓国の離反が経済的にも手痛い打撃になっていることを証明する。中国半導体が、致命的な損害を受けるのであろう。

     

    中国は、韓国が米国と「鋼鉄の同盟」と結束を誇っているだけに、日本へ接近してきた。日本が半導体製造装置の対中禁輸措置を決めたことへの「陳情書」だ。日本人を「反スパイ法」で拘束する一方で、こういうアプローチをしてくる。利益のためには、メンツを捨て手段を選ばない動きをするのだ。

     

    『中央日報』(4月28日付)は、「中国の非難に焦りがにじみ出ている」と題する記事を掲載した。

     

    中国は、「鋼鉄同盟」を高らかに謳う韓米首脳を見守った不安が、凶器のような荒々しい言葉で噴出している。THAAD(高高度防衛ミサイル)事態以降、静かだった韓中関係が再び荒波に陥る雰囲気だ。

     

    (1)「環球時報元編集者の胡錫進氏は4月27日、「大勢は逆らうのが難しい」という題名のコラムで、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領を露骨に非難した。尹大統領に対して胡氏は、「韓中修交以降、中国に最も非友好的な韓国大統領であり、韓国社会の反中感情をあおる実質的な煽動者の1人」としながら「韓国を悪の道に追い込んでいる」と直撃した。さらに「尹大統領は中国文化で定義する小人で、道徳性が不足していて戦略的夢遊病患者のように行動する」とし「中国はそのような政治家を叱責し、決して免罪符を与えてはいけない」と主張した」

     

    感情論での批判は、中国が苦しい立場であることを証明している。中国も感情過多に陥っている。「戦狼外交」の延長戦だ。

     

    (2)「前例を探しづらいほど過激な言葉での韓国非難だ。中国「戦狼」メディアの代表格である胡氏は、ソーシャルメディア2476万人のフォロワーを率いて、当局の意中そのままに世論を追求してきた。「中国は、戦略的決断を維持して尹政府とダンスを踊ってはならない」という部分で、今後の中国による反撃を予想させる」

     

    中国は、どういう形で韓国へ報復するか。5月のG7首脳会議では、中国による制裁に対する共同報復案が検討される。中国は、この「罠」に引っかかる恐れがあろう。

     

    (3)「韓国政府は、中国の態度にひとまず言うべきことは言うという姿勢だ。中国外交部が、尹大統領の台湾発言に対して20日「口出しを容認しない」と言ったことに、韓国外交部は「無礼な発言は容認しない」と正面から受けて立った。「日本にひざまずいた」という中国メディアの報道には、「傲慢が度を越した」と反撃した。反論とあわせて「武力による現状変更はしてはならない」という発言に興奮した中国に、「一つの中国原則を尊重する立場には変わることがない」と流した韓国外交部の応酬は時期適切だった。韓国の原則的な発言に興奮し、中国が外交的礼儀まで失ったという印象だけを残したのである。中国外交部はこの日も韓米共同声明を問題視して「台湾問題で間違った危険な道に行くな」と警告した」

     

    中韓の応酬で見せた韓国の対応は、堂々としていた。中国よりも「格上」という感じさえするほどだ。韓国が、冷静に切り返しており、過去になかった対中姿勢を見せている。

     

    (4)「韓米間半導体協力を巡り、「米国の命令に従えば韓国企業に被害が及ぶ」という中国の反応も過度な側面がある。米国の提案は、韓国企業が中国のチップ不足分を満たさないでほしいと言うことだ。こうなればチップ輸入量が減る中国が、直接的な打撃を受ける場合が出てくる。焦った中国が、遠まわしに韓国を圧迫したといえよう」

     

    米国は、韓国の半導体中国工場の生産量を今後10年間に5%増にすることにした。韓国半導体が、米国で補助金を受領するための条件である。中国の言い分は、この5%枠に縛られずに増産を要請しているのであろう。約束を破れば、韓国が米国から制裁される羽目になるから、契約破りは不可能なのだ。

     

    (5)「韓米会談以降、中国がどんな対応に出るかははっきりしない。だが、北朝鮮問題や輸出企業制裁など中国が使える手段は多様だ。中国が受ける圧力が大きくなるほど反撃の強度も強くなる可能性がある」

     

    中国は、米中デカップリングがもたらす影響を冷静に分析すべきである。台湾侵攻計画を捨てないことへのペナルティーだ。中国は、台湾侵攻を内政問題としている。ロシアも、ウクライナ侵攻を内政問題とするなど、全く同じ理屈である。戦争は悪という認識が、中ロに欠如しているのだ。これは、甚だ困ったことで、ペナルティーを科されて当然である。



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    韓国の文在寅・前大統領は、在任当時から中ロ朝の三カ国に対しては融和姿勢を貫いてきた。ユン大統領が今回、訪米による「共同宣言」で北朝鮮への抑止力を前面に出したことを批判している。ロシアのウクライナ侵攻と、それを間接支援する中国。さらに、ミサイル実験で暴走する北朝鮮の行動を目の当たりにしながら、文氏はなおも朝鮮半島の「非核化」をめぐる話し合いを訴える悠長さだ。

     

    文氏は、こういう根っからの「争いを好まない人物」かと言えば、全く違った側面を日本に見せていた。海上自衛隊機へは撃墜も厭わない「交戦指針」を出していたのである。中ロ朝には「微笑」で応え、日本へは「殺気」で対応した。

     

    『中央日報』(4月29日付)は、「尹大統領の『ワシントン宣言』の翌日、文前大統領『非核化、中露とも協力すべき』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が27日、対北朝鮮政策について「南・北と米国が共に対話復元の努力をすべきだ」とし「韓半島(朝鮮半島)非核化のためには中国・ロシアとも協力する必要がある」と述べた。

    (1)「文前大統領は、「4・27板門店(パンムンジョム)宣言5周年記念学術会議」で代読され記念演説で、板門店宣言を「誰も毀損できない平和の里程標」とし「一触即発の危機状況で奇跡のように作り出した平和の春」と評価した。文前大統領は記念演説で「ハノイ朝米首脳会談の決裂で韓半島平和プロセスがそれ以降は進まず、南北の貴重な約束がすべて履行されず、本当に残念だ」とし、「まだ停戦協定を平和協定に転換できないのは極めて遺憾」と伝えた。続いて「板門店宣言が約束した平和の道はいかなる場合にも後戻りできない。板門店宣言の成果が一時的に消えて後退するよう見えても、結局はまた未来に向けて発展していくだろう」と強調した」

     

    文氏は、「板門店宣言」を金科玉条としてありがたがっているが、北朝鮮にその意思が全くないことだ。金正恩氏が、トランプ氏(前米大統領)への書簡で、文氏を信用していないことを明かしていた。こういう空虚な宣言を「経典」のように扱うことは、文氏の外交センスの欠如を意味する。

     

    (2)「特に、「何より心配なのは、状況を安定的に管理するための真摯な努力は見られず、むしろ競争するように互いに刺激、敵対視し、不信と反目がさらに深まっていることだ」とし、「こうした状況が続けば、結局は平和が崩れ、軍事的衝突をあおることになり、国民の生命も安全も経済も取り返しのつかない危険に向かうかもしれない」と指摘した。そして「さらに遅くなる前に南と北、国際社会が共に対話の復元と緊張の解消、平和の道に一日も早く出てくることを望む」と呼びかけた」

    このパラグラフは、文氏が大統領であったことで、韓国がどれほど不利益を被ったかを表している。言葉で、平和が守られるのならば地球上で戦争は起こらないであろう。相手国の領土を狙う邪悪な企みが存在する以上、同盟の力で抑止するほかない。ドイツの哲学者カントが、共和国(民主主義国)は同盟によって戦争を防ぐべきと説いているほどだ。戦争抑止の哲学である。

     

    こういう文氏だが、日本へは「交戦も辞さず」という戦闘モードであった。権威主義国家には「微笑」で臨み、友邦国日本へは「交戦」という全く異なる顔を持っていたのだ。

     

    『中央日報』(22年8月18日付)は、「文政府、『日本哨戒機に追跡レーダー照射しろ』 事実上の交戦指針」と題する記事を掲載した。

     

    文在寅政府で、軍当局が低い高度で近接飛行する日本海上哨戒機に対して現場指揮官が追跡レーダーを照射するなど積極的に対応するよう指示をする指針を作っていたことが確認された。2018年12月~2019年1月、相次ぐ日本海上哨戒機低空威嚇飛行に伴う措置だった。追跡レーダーの照射は艦砲やミサイル攻撃の意志を伝えるものだ。ところでこの指針は韓国防空識別圏(KADIZ)を絶えず無断進入する中国や領空を侵したロシアには適用されない。そのため公海で唯一日本との交戦は辞さないという趣旨となる。

    (3)「第三国航空機対応指針」(2019年2月)は、公海で第三国の航空機が味方艦艇に近づいた場合、段階的に対応するよう指示する内容を含んでいる。「日航空機対応指針」は、「第三国航空機対応指針」と比べると、1段階さらに追加された5段階となっている。日本軍用機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するように規定した。追跡レーダーは艦艇で艦砲やミサイルを狙うために標的の方向や距離、高度を測定するレーダーだ。射撃統制レーダーである」

     

    韓国は、自衛隊機に対して友邦国にも関わらず「追跡レーダー照射」(射撃統制レーダー)を認めたことは異常な決定だ。自衛隊機が、これに応戦することもありうる点で戦闘誘発行為になる。この決定は、国防部でなく大統領府によるものだった。つまり、文大統領の指示ということになろう。

     

    (4)「追跡レーダーは、レーダービームを相手航空機に照射するので攻撃する意志があると相手に伝える行為だ。「日航空機対応指針」が、日本を韓国の軍事管轄権に対して友好的ではない中国・ロシアよりも強硬に扱っている点が問題視される。軍事的に緊張を緩めてはいけない中国・ロシア軍用機に対する対応は、日本とは違って第三国と同じように積極的警告通信など4段階までがすべてだった」。

    自衛隊機が、中国・ロシア軍用機よりも敵対的扱いであった。文政権が、中ロを友好国として扱い、日本を敵国視していたことは間違いない。国際情勢から言えば、逆立ちしていたのだ。これが、文氏の外交感覚であった。

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