勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年06月

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    中国経済が泥沼に喘いでいる。6月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、好不況の分岐点50を割り込んだ。3ヶ月連続である。中国は、すでに膨大な過剰債務を抱えており、これ以上の債務による景気刺激策をとることも不可能な事態になっている。打つ手はない。

     

    『ブルームバーグ』(6月30日付)は、「中国経済の勢いが一段と鈍化、PMI示唆ー支援策強化の声拡大」と題する記事を掲載した。

     

    中国経済の勢いが6月に一段と鈍化した。製造業のPMIが再び縮小を示し、非製造業の指数も予想に届かず、政策支援の強化を求める声は高まっている。

     

    (1)「国家統計局が30日発表した6月の製造業PMIは49。前月の48.8から若干改善したものの、活動拡大・縮小の境目である50を引き続き下回った。ブルームバーグ調査のエコノミスト予想中央値(49)とは一致した。建設業とサービス業を対象とする非製造業PMIは53.2。5月は54.5、エコノミスト予想は53.5だった」

     

    6月製造業PMIが、3ヶ月連続の50割れ状態になっている。輸出不振など需要不足が大きな要因だ。非製造業PMIは50を上回るものの低下している。雇用面で大きな影響を与える製造業の停滞が、中国経済の足取りを重くしている。

     

    (2)「オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の大中華圏担当チーフエコノミスト、楊宇霆氏は6月のPMIについて、「持ち直しには至っておらず、中国経済が減速しているとの見方を裏付けている」と指摘。「もはや問題は政府が景気刺激策を講じるかどうかではない。政府はそうしてきており、尋ねるべき正しい問いは刺激策の質だ」と語る。中国の景気回復ペースが鈍化する中、政策支援の可能性を巡る観測が広がっている。個人消費が減速し、住宅の回復は息切れ気味。輸出は低調で、インフラ投資も抑制的となっている」

     

    下線のように、中国経済が切迫した状況にあることを示唆している。だが、大規模な景気テコ入れは不可能な事態に陥っている。目立った利下げは、さらなる人民元相場安をもたらす危険性が高い。同時に、利下げしても新規の資金需要が増える見通しがないことだ。借入よりも返済して金利負担を減らす方向に向かっている結果である。不動産バブルという壮大な「宴」が終わって、手元に膨大な借入金が残り経営を圧迫している。日本が、平成バブル崩壊後の長期泥沼に嵌まり込んだと同じ状況が始まるはずだ。

     

    『ブルームバーグ』(6月30日付)は、「中国の預金者 収入減と住宅値下がり見通しで悲観強まるー人民銀調査」と題する記事を掲載した。

     

    中国人民銀行(中央銀行)の調査で、住宅が今後3カ月で値下がりすると予想し、収入が減っていると答えた預金者が増えていることが示された。

     

    (3)「人民銀の6月期預金者調査によれば、人々が自身の収入についてどのように感じているかを測る指数が49.7に低下し、回答者の約6分の1が1~3月期と比べ収入が減ったと答えた。同指数は昨年、新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)の影響で低迷していたが、今年1~3月期には回復していた」

     

    4~6月期の収入が前の期に比べて減っている。雇用環境悪化が主因である。

     

    (4)「中国の住宅価格が次の四半期に下落するとの予想は17%近くに上り、3月期調査の14.4%を上回った。住宅値上がりを見込んでいるのは約16%で、1~3月期の18.5%から低下。変わらずと考える人は54.2%で、基本的に前期と同じ割合だった。住宅建設は経済にとって極めて重要なセクターだが、価格も建設も低迷し、ここ2年ほどは危機的状況に陥っている」

     

    住宅価格の見通しでは、値下がりが増えている。値上がりは逆に減っており、住宅を買うムードがさらに冷えていることが窺える。これでは、住宅も売れなくて当然であろう。

     

    (5)「不動産デベロッパーがデフォルト(債務不履行)に陥り、多くの集合住宅が売れ残る中で、住宅ローンの返済を拒む住宅所有者も出ている。人民銀と地方政府は現在、金利引き下げや購入制限緩和で下支えを図るが、新築住宅の需要が回復する兆しはまだほとんどない。不動産業界は1~3月期にわずかに回復し、1.3%成長と、ここ1年余りで初めて拡大。ただ、銀行が家計に昨年融資した長期ローン総額は約10年ぶりの低水準で、借り入れは今年1~5月も13%減った」

     

    住宅購入ローンは昨年、10年ぶりの低水準になった。今年1~5月もさらに低迷し13%減である。不動産バブルは終わったのだ。

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    次世代コンピュータとして、量子コンピュータ開発が熱を帯びている。現行のスーパーコンピュータが、1万年かかる演算をわずか3~4分で終えることができるとされる。それだけに、韓国も独自技術で量子コンピュータを開発すると計画を立てた。2035年を目標に、世界的量子経済の中心国家へ発展するという構想だ。

     

    日本はこの3月、国産初の量子コンピュータが稼働し、実用化への挑戦が幕を開けている。これから見ると、韓国の出遅れは明らかだ。日本政府が産学と協力して調べたところ、グーグルやIBMも採用する「超電導量子コンピュータ」を構成する部品71種のうち、日本製は28種にのぼり、米国製の26種を上回ったという。「ほぼ、日本と米国製部品で量子コンピュータを完成できる」という見通しがついている。

     

    IBMは、量子コンピュータに必要な半導体製造で、日本と組むことになった。日本の半導体国策会社「ラピダス」へ、IBMが「2ナノ超」(ナノ=10億分の1メートル)半導体製造技術を提供した背景だ。日本製半導体を量子コンピュータに搭載し、世界市場を握る計画だ。

     

    米国のIT企業2社が、シカゴ大学と東京大学へ量子コンピュータの共同研究費用を提供する。IBMは1億ドル、グーグルは5000万ドルを寄付する計画だ。こうした日米の開発状況から見れば、韓国は「星雲状態」である。いずれ、日本の下請け的な存在になるであろう。

     

    『中央日報』(6月29日付)は、「量子技術開発、タイミング逃せば永遠の二流国になる」と題する社説を掲載した。

     

    韓国科学技術情報通信部が一昨日「大韓民国量子科学技術戦略」を発表した。韓国が独自技術で量子コンピュータを開発・活用し、世界最高水準の量子センサーで海外市場を先取りし、国防・先端産業と融合して2035年に世界的量子経済中心国家時代を開くという内容だ。このため2035年までに官民合同で最小3兆ウォンを投資して量子技術を先導国の85%水準まで高めるという計画だ。

     

    (1)「この日戦略発表に参加した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「クオンタム(量子)技術はデジタル基盤社会をさらに発展させ、経済・科学・医療・保安・エネルギーあらゆる分野で途轍もない革新をもたらすものだが、機会と挑戦を同時に抱かせるだろう」と話した。科学技術情報通信部が明らかにした戦略と尹大統領の話のように、量子科学技術は人類の生活に革命的変化をもたらす見通しだ。21世紀の科学技術の発展は破壊的だ。発展のスピードが速いというより既存の技術と産業を無力化して新しい生態系を開くためだ。「破壊的技術」の波にタイミング良く乗ることができなければ永遠の二流として残るほかない」

     

    韓国は、科学技術情報通信部が文政権時代2020年度に60億ウォン(当時、約5億3000万円)の支援構想を打ち出したが立ち消えになった経緯がある。ユン政権で再出発だが、立ち後れは否めない。文政権には量子コンピュータの意義が、理解できなかったのであろう。日本は、2008年から量子コンピュータ開発に取組んできた。

     

    (2)「量子コンピュータはスーパーコンピュータが1万年かかる演算をわずか3~4分で終えることができる。この恐るべき能力の余波は想像以上だ。これまで技術で解決できなかった予測と計算を通じて多様な分野の新たな世界を開ける。量子コンピュータの演算能力はこれまでのデジタル暗号システムも無力化する。このため金融を筆頭に全産業分野のセキュリティに一大変革が避けられなくなる。しかし韓国の現実は憂鬱だった。米国はIBMとグーグルが量子コンピュータを開発し、中国も2018年にすでに世界初の量子通信衛星である「墨子」を通じた量子情報通信に成功した。これに対し韓国の量子科学技術水準は先導国の63%水準にすぎない」

     

    中国も、量子コンピュータ開発に取組んでいるが、肝心の「2ナノ」半導体を製造できないことが致命傷になろう。IBMは、量子コンピュータで世界市場を狙っているが、日本も富士通・日立製作所などが世界市場へ打って出る。結局、日米コンピュータの寡占状態になろう。

     

    (3)「韓国政府のビジョン通り、「2035年世界的量子経済中心国家」に到達するために専門家らは次のような提言をしている。まず韓国科学技術の慢性病である「研究開発パラドックス」に閉じ込められずに事業化まで続けなければならない。このためサムスンなど韓国の大企業と最初から目標が明確な協業をしなければならない。大統領が企業オーナーらと直接額を突き合わせなくてはできないことだ。米国で量子コンピュータの「イオンQ」を作ったデューク大学のキム・ジョンサン教授のような在外韓国碩学との緊密なネットワークも必須だ」

     

    このパラグラフの通り、韓国はこれからのスタートだ。日本は富士登山に喩えれば、すでに「5合目」という。韓国は、日本の下請けになるほかないであろう。

     

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    習近平氏は、きっと肝を冷やしたに違いない。盟友プーチン氏へ反旗を翻す騒ぎが起るとは夢にも思わなかったであろう。この伝で言えば、中国の反習近平派の共青団(中国共産主義青年団)や上海閥(江沢民派)が将来、混乱に乗じて習氏追放へ動き出してもおかしくない。権威主義政治では、こういう「一揆」がいつでも起こりうることを示したのだ。 

    もう一つの驚きは、習氏が米国を初めとする西側諸国への対抗パートナーとして選んだロシアが、たった1日とは言え、反乱騒ぎが起るほどの矛盾を抱えていたことだ。こういう脆弱なパートナーでは、とても巨大な西側諸国と対抗することは不可能である。「弱い」相手をパートナーにしたことへの失望感を味わったであろう。今時、権威主義など時代逆行思想が民主主義へ対抗することの無益を悟るべきであろう。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月29日付)は、「ワグネル蜂起、中国外交も揺さぶる」と題する記事を掲載した。 

    民間軍事組織によるロシア政府への束の間の反乱と、その際に浮き彫りになった同政府のぜい弱性は、中国にとって米国主導の世界秩序に挑む上で主要なパートナーであるロシアとの関係に新たなリスクを投げかけている。

     

    (1)「中国は3年に及んだゼロコロナ政策を今年初めに撤廃すると、世界の外交舞台で前面に立ち、世界第2位の経済大国としての地位にふさわしい、より大胆な振る舞いで自国の主張を押し出している。さらに、米国の覇権に対抗する国際秩序という習近平国家主席の構想を掲げ、これに沿った新たな発展と安全保障の取り組みを推進している。その過程で中国は、米国主導の民主主義陣営による圧力緩和を狙い、ロシアとの連携を強めた。両国は歴史的には緊張関係にあったが、習氏とロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、米国と同盟国が両国を抑え込もうとしているとの共通認識のもと、より緊密な関係を築いてきた」 

    習氏は、プーチン氏と同年齢(プーチン氏の誕生日が半年早い)であり、互いに終身ポストを狙っているという共通項もあって友情を深めた。ただ、打算の趣が強く、ロシアの実態を精査しなかったのであろう。習氏の個人的な利害関係が、国益を左右したケースである。 

    (2)「民間軍事会社ワグネル・グループの武装蜂起は失敗に終わったものの、この混乱で国内ではプーチン氏への圧力が強まり、ウクライナで戦闘を続けられるかが改めて疑問視されている。そのため、習氏のプーチン氏との友好関係は一段と不都合なものと映り、緊密に連携する強大な隣国同士というイメージが傷ついた。ウクライナ侵攻が起きてもなおロシアとの関係を優先するあまり、中国は米欧や多くの主要国との関係を損なってきた」 

    習氏は、政敵をことごとく獄窓へつないできたので「終身ポスト」でない限り、身の安全を保てないというジレンマを抱えている。それが、プーチン氏を理由の如何にかかわらず支持しなければならない理由だ。この結果、中国の国益は大きく損なわれている。

     

    (3)「元米中央情報局(CIA)職員のジョン・K・カルバー氏は、「習氏と中国にとって、ロシア内部の混乱や、西側が支援するウクライナの反転攻勢を受けたつまずき、制裁などは、孤立が深まるリスクを高めることになる」と、上級客員研究員を務める米シンクタンクのアトランティック・カウンシルへの寄稿でこう指摘した。中国にとって「現実的な選択肢は、米国や欧州との緊張を緩和することだろうが、習氏は前任者たちよりイデオロギー的であることがはっきりしてきた」という」 

    習氏は、中国の国益を大きく損ねている。西側諸国との対立は、習氏の自己保身に関わっている部分が大きいからだ。習氏が、国家主席3期目を目指したことから、歴史の歯車は逆回転を始めている。 

    (4)「中国が、プーチン氏に背を向ける気配はない。世界情勢における米国の影響力低下を狙う中国は、自国やロシアなどパートナー国の発言力を高める、多極体制と呼ぶ枠組みを推進している。米中の当局者は、対立を望まないとしている。それでも、中国が国際情勢でより積極的な役割を担うようになり、また米国が最先端技術への中国のアクセスを制限するよう同盟国に働きかけていることで、摩擦や衝突の可能性は高まっている。米政府高官はとりわけ、中国が台湾を巡り軍事行動に出る可能性を危惧する。中国当局は、ロシアがウクライナで苦戦していることについて、台湾を支配下に置くという決意には影響しないとしている。中国は長年、平和的統一が第一の選択肢だと主張してきた」 

    習氏は、ロシアの国力を完全に見誤っている。現在のロシアは、中堅国の一つに過ぎないのだ。原油だけで工業技術を持たない国で、「脱炭素」が軌道に乗れば、最初に消える国である。さらに、ウクライナ侵攻で膨大な損害を与えている。この賠償金額だけでも、ロシアは大変な負担を負う。

     

    (5)「中国はロシアへの揺るぎない支持を示しているものの、今回のロシアの混乱が習氏や指導部に大きな懸念をもたらしたことはほぼ間違いない。中国はウクライナ戦争で中立に努め、ロシアが侵略者とみなされない形での和平を呼びかけてきた。蜂起に失敗したワグネルが主力から退くことで、ウクライナの反抗に伴う今後の戦局はますます見通しにくくなっている。中国のシンクタンク、全球化智庫(CCG)の副主任、高志凱(ビクター・ガオ)氏は「今回のワグネルの動きは、中国を含む多くの国にとって全く予想外だった」と語る。高氏は、ロシア国内が不安定化することでウクライナ戦争がエスカレートする可能性が高まり、ロシアが本気で核兵器の配備を検討しかねないとみている。ロシアで内紛が起きたことで、すぐにも和平交渉を始める必要があると指摘した 

    下線部は重要な指摘であるが、ロシアの撤退が前提になる話だ。それには、ロシアに「革命」が起らなければなるまい。和平交渉は、それほど難しい問題だ。

    テイカカズラ

    中国は、「上に政策あれば、下に対策あり」で必ず、抜け穴探しが行われる国である。政府は2年前、学習塾が家庭の教育費負担を増やして家計を圧迫することを理由に廃止した。だが、家庭教師という形で「闇の学習塾」は大繁盛である。需要があれば供給あり、だ。地方政府は、取り締る姿勢を見せているが形だけ。家庭教師から、情報をもらい自分の子弟を通わせているという。なんとも締まりのない話になっている。 

    この例からも分るように、中国は表向きと実際が異なる「ダブルスタンダード」の国である。台湾侵攻を言い募っていても最後は回避する。そういう「曲芸」もあり得ることを頭の片隅に入れておく必要があろう。ただ、そのために中国は国際的な逆風を浴びて国益を損ねている。台湾侵攻問題は、習近平氏の出世手段に利用されている。合理的な損得計算が苦手な民族特性のようだ。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月23日付)は「中国、家庭教師が闇市場で引く手あまた 塾規制から2年」と題する記事を掲載した。 

    家庭教師を親に紹介しているエレインさんのアドレス帳は、自分の子どもに最高の機会を与えようと必死になる親と教師の名前で埋め尽くされている。何度も会場の閉鎖を余儀なくされ、罰金も払わされた。政府の取り締まりも頻繁だが、それでも目が回るほど忙しい。

     

    (1)「中国政府が、最初に営利目的の教育企業を取り締まってから2年たった今、エレインさん(中国名は伏せてほしいと言われた)は仕事が「急激に増えている」と話す。「これまで何回か当局に通報されたけど、処罰はとても軽かった」。南部の深圳市で家庭教師の仲介業を営むエレインさんによると「放課後学習や個別指導はまだなくなっていないので、利用しなければ自分の子どもが後れてしまうと気づく親がどんどん増えている」という」 

    子どもの家庭教師が、中国社会では必要不可欠になっている。儒教社会ゆえに学歴が物を言う社会だ。上級学校進学は、生きる術になっている。 

    (2)「中国では報酬の高い仕事に就くには一流大学の学位が欠かせないことが多い。習近平国家主席の下、中国政府は競争が過熱している教育現場で、富裕層に有利な状況を改めようとした。2021年に打ち出された「双減(2つの軽減)」と呼ばれる政策は、宿題と放課後の塾通いを減らすことを目指し、学校以外で中国語や英語、数学といった主要科目を営利目的で教えることを違法とした。しかし上海や深圳、北京といった大都市では、親たちは抜け道を見つけている」 

    現状では、一流大学卒が人生のパスポートになっていない。余りの就職難で、高学歴ほど職がないという受難期である。これが、一時的で済むかどうかは分らないのだ。永続化する危険性も高い。

     

    (3)「国内の学習塾産業は、かつて米国市場に上場する中国企業が支えていた。そうした企業は社員が数十万人いて、株式時価総額は数百億ドル規模を誇った。今やこの産業は表舞台から姿を消し、業者と家庭教師が闇市場で個別に親と連絡を取っている。「中産階級は解決策を見つけた。外部の人には見えない非常にローカルな解決策だ」。北京の市場調査コンサルティング会社ベンチャーエデュケーションの共同創業者ジュリアン・フィッシャー氏はこう語る。「もう誰も話題にしないため、どれほど普及しているかは知りようがないが」と指摘する」 

    学習塾が禁じられても、実際には生きている。市民が、不便を強いられているだけコスト高だ。米国の「禁酒法」(1920~33年)と同様に無駄なことを行っている。 

    (4)「個別指導サービスは最近よく、対話アプリ「微信(ウィーチャット)」上のグループを通じて調整される。家庭教師は生徒の自宅か教室のような場所で教えることが多い。後者の場合、検査が入れば、ばれないように取り繕ったりする。上海のある英語教師は「需要がとにかくものすごい」と驚く。家庭教師で時給約400元(約8000円)稼ぐが、集合住宅にある生徒の家に行くたびに仕事が「大抵広がっていく気がする」。エレベーターで誰かに会うと『ここで何をしているんですか』と聞かれる。『家庭教師です』と答えると、いきなり『来週は何をしていますか』というような話になる」 

    親心は、世界共通である。自分の子どもには人並みの教育を受けさせたい。だから、他人より遅れてはならないのだ。取締る側も子どもがいれば、同じ親心になる。家庭教師繁栄の理由は、この親心にある。

     

    (5)「この教師は別の場所でも教えている。「自分たちのビザ(査証)がすべて壁に張り出されている」ため、どんな検査官でも「ここが教室だと一目でわかる」という。「これはいつも少し変だと思っていることだ。(教室は)違法だが、(関係者は)間違いなく合法的に営業しようとしている。私はあえて疑問を掘り下げないようにしている」。教師はこう述べた。オンライン授業も人気だ。個別指導は徹底して秘密裏に行われるので北京市のある親は毎回、子どもを違う場所へ送り届けているとフィッシャー氏は明かした。子どもはそこから、自分も親も事前に知らされていない場所へ連れて行かれるのだという」 

    堂々とビザを示して英語を教えている。当局はそれを見ても問題視しない。こういう「あうんの呼吸」で、中国社会は成り立っている。 

    (6)「習氏が率いる中国政府は規制を一見、国民に支持されるように作ったが、いざ施行の段階になると、政府が何を考えているのか見えにくいことがある。深圳のエレインさんはたまに入る当局の検査について特に心配していない。「彼らにも子どもがいるから」とエレインさんは言う。「検査のために我々のところに来た後、家庭教師を見つけるために戻ってくることがあるの」と言う」 

    習氏にも孫がいるだろう。孫の教育はどうしているのか。聞いてみたいものだ。

    あじさいのたまご
       


    中国の民間有志は、AI(人工知能)開発に躍起となっている。米国は、「チャットGDP」で先行している。中国は、AI分野で3年の遅れが指摘されているのだ。それだけに、中国はキャッチ・アップに躍起である。ただ、中国では高性能半導体を製造できる能力がなく、米国からの輸入に依存している。米国は、対中輸出禁止をする意向であり、中国には多くの障害がある。 

    『ブルームバーグ』(6月29日付)は、「AI競争で米国に挑む中国ー資産家から元企業幹部まで結集し総力戦」と題する記事を掲載した。 

    世界的に人工知能(AI)を巡る熾烈な競争が始まる中、中国のテクノロジーセクターはグーグルやマイクロソフトなど米国の巨大企業と渡り合おうと新たに執念を燃やしている。 

    1)「中国で起業し、財を成した資産家や中堅エンジニア、外資系企業の中国人元幹部は一様に驚くほど一貫した野心を抱いている。それは世界での力関係を決定づける可能性もあるAI分野で、中国の地政学的ライバルを追い抜くというものだ。そのうちの一人が、インターネット検索大手の捜狗を創業した王小川氏だ。米オープンAIが昨年11月に公開した「チャットGPT」がソーシャルメディアで旋風を巻き起こした後、王氏はこの分野に足を踏み入れた」 

    中国では、「チャットGPT」の登場に刺激されて、AI分野へ参加する人たちが増えている。

     

    2)「中国の今年のAI市場支出規模は150億ドル(約2兆1600億円)近くに上ると見込まれている。これを後押しする科学者やプログラマー、資本家には王氏のほかにも、バイトダンス(字節跳動)や電子商取引のJDドットコム(京東)、グーグルの元従業員らが名を連ねる。王氏にとって機会は早く訪れた。王氏は、「中国はまだ米国に3年遅れているが、追いつくまで3年もかからないかもしれない」と語る」 

    中国のAI開発は、米国に3年遅れているという。 

    3)「アナリストや企業経営者は、AIが将来のテクノロジーリーダーを決めるとみている。かつて、インターネットやスマートフォンが世界的な大企業を生み出したのと同じ構図だ。さらに、スーパーコンピューティングから軍事力まで応用されれば、潜在的に地政学的バランスも崩れかねない。中国を取り巻く状況はこれまでとは大きく異なっている。米国によるテクノロジー関連規制や国内当局のデータ・検閲要求、本土大手企業の海外進出を制限する米欧の不信感が足かせだ。このため、米国を追い上げるのはより難しくなるだろう」 

    中国では、AIが将来のテクノロジーリーダーを決めるという認識を深めている。ただ、中国には多くのAI開発上の障害がある。米国が半導体を輸出しない。中国国内でのデータ検閲要求などである。米国を追い上げるのは難しい面もある。

     

    4)「コンサルティング会社プレキンが照合したこれまでの未公表データによると、今年のAI投資は、米国が6月半ばまでで266億ドルと、40億ドルにとどまった中国を圧倒している。しかし、少なくとも取引案件数に関してはこうした差が徐々に縮小しつつある。中国のAIベンチャー取引件数は6月中旬までで米国(約447件)の3分の2超の水準に迫った。それまでの2年は約50%だった。習近平指導部も、中国の台頭を維持する上でAIが半導体と同じく極めて重要だと認識しており、国内の資源を総動員する公算が大きい。中国当局がテクノロジー大手を締め付け、「資本の無秩序な拡大」を防ぐ方針を示した局面ではスタートアップ投資が低迷したが、共産党はAIの追求を促しているように見受けられる」 

    米国のAI投資は、6月半ばまでで266億ドルである。中国は、40億ドルにとどまっており大きな格差だ。中国当局は、AIが半導体と同じく重要という認識から国内資源を総動員する可能性もある。

     

    5)「中国勢の発表から現時点で明らかになっているのは、まだまだ先は長いという点だ。真のイノベーションは自由な探求と実験が必要であり、米国はこれに着手しようとしているが、中国では逆に制約が設けられていると懐疑派は指摘する。つまり、広範な検閲によって、熱意を持つ中国企業が使うデータセットには本質的に欠点があり、人為的な制限を受けているとする見方だ」 

    AIには、利用するデータに制限を加えると発展しない。中国は、その面でデータ利用を規制しようとしている。 

    6)「中国には生成AIに関する規制もあり、インターネット規制当局はアルゴリズムのトレーニングや検閲を実施する責任は、プラットフォーム提供者にあると示唆している。さらに、エヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などの高性能チップセットも、大規模AIモデルのトレーニングにとって極めて重要だが、米政府は最先端品の対中輸出を制限している」 

    中国は、生成AIに規制を加えようとしている。最先端半導体は、米国が輸出禁止措置をかけようと検討中だ。中国の生成AIには、こういう面の障害が控えている。

     

    7)「こうした障害があってもAIで米国に追いつき、追い越すという中国側の野望が断念されることはない。性能が劣る分をより多くのチップセットで補えると主張する向きもある。百川の王氏はエヌビディアの「A800」で何とかやりくりしたとし、6月には「H800」を調達する予定だと明らかにした」 

    中国は、こうした障害を乗り越えて米国へ追いつきたいとしている。かつての日本が、コンピューター国産化に賭けた情熱と同じである。中国の場合、日本のコンピューター国産化以上の構造的な障害を抱えている。

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