勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年07月

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    日本が、国策会社半導体企業「ラピダス」を創業し、27年に2ナノ(10億分の1メートル)以下の最先端半導体生産計画に着手した。この計画に対して、韓国では冷ややかな見方もある。「日本が、コスト・収率・工程の問題で20年前にあきらめた半導体の量産を今になって政府が支援したからといって、果たして可能なのか」と言うもの。

     

    だが、これは皮相的な見方である。韓国でも専門家は、日本が半導体の設備や素材で世界的存在であることを勘案すれば、総合力で日本が韓国をはるかに上回っているので、「日本復活」の可能性大と見ている。

     

    『韓国経済新聞』(7月30日付)は、「韓国専門家『素材・部品・装備競争力前面に出した日本の半導体 反騰の可能性十分』」と題する漢陽大学融合電子工学部の朴在勤(パク・ジェグン)碩学教授へのインタビュー記事を掲載した。

     

    約2兆円。日本政府がこの2年間に用意した半導体産業支援補助金の金額だ。米国と中国の半導体覇権競争激化を機会として「失われた30年」を取り戻そうとする日本の覚悟を端的に見せる。

     

    (1)「日本の半導体装備世界シェアは約35%で米国の50%に次ぐ。ただ米国は前工程装備だけで強いのに対し日本は前工程と後工程の両方とも強い。(日本)市場規模では米国に劣るが米国と同等水準の競争力があるとみなければならない。半導体素材では日本が最も強い。世界の半導体素材売り上げの50%以上を日本が占める。その次が米国とドイツなどだ。日本が半導体産業復活を夢見る背景もこうした素材・部品・装備競争力からくる自信だ。素材・部品・装備の裏付けがない場合、日本は2ナノメートルファウンドリーをすることも現実的に難しいはずだが、素材・部品・装備で強みがあるので可能とみて試みるものだ」。

     

    日本の半導体競争力は、総合的に見て米国並みという。日本は、素材・部品・装備の裏付けを持っている。この総合力で「2ナノ」という世界最先端半導体で勝負をかけているのだ。かつての半導体世界王者である。自信がなければ、取組むはずもないのだ。支援する日本政府も「無駄金」になる。

     

    (2)「半導体チップは性能が改善され続けなければならない。これは使われる製品の電力消費減少、速度向上、費用削減と直結する。そうするならばスケールダウンを持続しなければならず、それでこそ半導体産業が生き残ることができるが、いまは物理的限界に至った。特にシリコン技術を活用したスケーリングが難関に直面した。その解決策を提示するのが半導体素材と装備だ。サムスン電子やSKハイニックスも競争で遅れをとらないようにするなら日本からより良い素材・装備を輸入して使わなければならない」。

    下線部は、韓国半導体の弱みを示している。サムスンなどは、日本企業の開発した素材や設備を使わなければならない。日本の「ラピダス」は、大学・素材メーカー・設備メーカーが別途、組織する研究所からの成果で支援される仕組みである。この「オール日本」体制がラピダスを支えるのだ。韓国にはないバックアップ体制である。

     

    (3)「日本がうまくいくほど韓国が厳しくなるとだけみるのは難しい。米国のチップ4同盟構想と素材・部品・装備などを考慮すれば日本とは相互補完的に進むほかない関係だ。したがってあくまでも韓国の半導体産業の状況そのものだけを見ようとするなら危機でもあり機会でもある。危機という理由はスケールダウンが難しくなったため競合国の企業が急速に追い上げているためだ。しかもファウンドリーでは台湾TSMCを追撃しなければならない立場で技術開発に投資する余力が十分でない。選択と集中をしなければ打撃が大きくなるかもしれない状況だ」

    韓国半導体は、日本などの追い上げを受ける反面、米国のチップ4同盟構想と素材・部品・装備などを考慮すれば、日本とは相互補完的に進むという期待だ。日本が、研究成果を韓国にも分けてくれるだろうというのである。韓国は、「前門の虎(TSMC)・後門の狼(ラピダス」に取り囲まれる構図が想像できる。

     

    (4)「いずれにしてもと全世界が先端デジタル時代に移動しているからだ。データ使用量が増え続け半導体消費も多くなるほかない。マッキンゼーによると世界の半導体市場規模は2030年に1兆650億ドルで2021年より1.8倍増加する見通しだ。自動運転車とメタバースなど新産業分野での半導体需要急増も予想される。米国と中国だけでなく日本と欧州、台湾まで半導体投資に死活をかける理由だ」。

    世界の半導体市場は、2030年に21年比で1.8倍に拡大するという。この成長市場で日本が利益を享受できれば、経済にも大きく貢献する。

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    中国は、非常識な「景気対策」を始めた。ホワイトカラーの賃下げをして景気回復させるというのだ。火に水をかけて料理をするような荒唐無稽な話が報じられている。要するに、逼迫する収入に合わせて支出を減らすという「緊急事態」へ突入しているのだ。

     

    『ロイター』(7月30日付)は、「中国ホワイトカラーで広がる賃下げ デフレリスクも」と題する記事を掲載した。

     

    中国の国有銀行でクレジットカードの営業に携わるコーラ・ヤオさんは、昨年より収入が40%も減り、洋服や化粧品の購入を減らして子供の夏期水泳教室をキャンセルした。「減給はあらゆる面で私の生活に深刻な影響を与えている」とヤオさんは言う。

     

    (1)「ヤオさんが予想外の倹約を強いられる背景には、中国経済の減速がある。中国共産党指導者らは今週、主要な政策目標である家計消費の回復に向け、労働者の所得を増やすと公約したばかりだが、景気減速がその努力を難しくしている。汚職撲滅にあたる中国当局が今年、金融セクターにおける「欧米流の享楽主義」を排除すると宣言したのを受け、金融企業とその規制当局は給与とボーナスを削減し始めた」

     

    金融機関も給与とボーナスの削減が始まっている。

     

    (2)「負債を抱える地方政府の中にも公務員の給与をカットしたところがある。一部の病院や学校、売上減少に直面している一部民間企業も同様だ。今年に入って給与が下がった国民の数は不明。ただエコノミストらは、顕著な賃下げの事例が、ただでさえ脆弱(ぜいじゃく)な消費者心理をさらに圧迫し、デフレスパイラルが発生するリスクを高めていると警告している。「賃下げはデフレリスクを強め、消費意欲を減退させるだろう」とANZのシニア・チャイナ・ストラテジスト、ザオペン・シン氏は言う」

     

    地方政府は、公務員・教員の給与カットを始めている。病院の医師や職員も対象だ。賃下げが、消費を削減することは決まり切ったこと。当局は、ない袖は振れぬという状況だろう。

     

    (3)「中国国民の今年上半期の平均所得は、前年同期より6.8%多い月1万1300元(約22万円)だったが、このペースを維持できるという楽観的な見方はほとんどない。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットのシュー・ティアンチェン氏によると、この所得増加は新型コロナウイルスに伴うロックダウンが解除され、農村部の出稼ぎ労働者が工場に戻ったことが主因とみられる。この要因がホワイトカラー職の賃金の低い伸びを補っているという」

     

    今年上半期の平均所得は、前年同期より6.8%増だが一時的。農民工が、都会の職場へ復帰したことによるもの。

     

    (4)「人材紹介会社、智聯招聘の調査によると、主要38都市の新規求人で提示された平均賃金は、第1・四半期は前年同期比0.9%の伸びにとどまり、第2・四半期には同0.7%減に転じた。家計の総可処分所得は16月に5.8%増と、経済成長率の5.5%を辛うじて上回る伸びでしかない。個人消費の国内総生産(GDP)寄与度が他国よりはるかに低いという、中国の主な構造的弱点を解決するには、可処分所得が経済成長率をはるかに上回るスピードで増加する必要がある、とアナリストは言う。過去40年間の大半はその逆だった。

     

    主要38都市の新規求人平均賃金は、第1・四半期は前年同期比0.9%増も、第2・四半期には同0.7%減に転じた。中国中が、不景気のまっただ中にある。

     

    (5)「中国では一方的な賃金カットは違法だが、給与体系が複雑なため、抜け穴がある。ヤオさんの月収が6000元に下がったのは、勤務先の銀行が、彼女が販売するクレジットカードの使用量に連動した業績目標を引き上げたからだ。一方、東部の蘇州市で化粧品を販売していたシャオさんは、会社を辞めるか、50%の賃金カットを受け入れるかの選択を迫られた。彼女は前者を選んだが、同僚たちは賃下げを受け入れ、給料の遅配にも直面している」

     

    企業は、巧妙な形で違法である賃下げを行っている。従業員へ、50%の賃下げか雇用継続かと迫っている。

     

    (6)「公務員によると、国家機関は基本給を据え置いて各種手当を減額する方法を採るのが普通だ。上海の公立病院に務めるある医師は、この病院が四半期ごとのボーナスを中止し、職員に残業を増やすよう求めたと語った。医師はこの2年間で給与が20%下がった。「病院側からはお金がないと言われた」そうだ」

     

    公務員は、基本給を維持して各種手立てを削減している。公立病院の医師は、2年間で20%も給与を減らされている。

     

    (7)「倹約はまん延しつつある。中国の小売売上高はまだコロナ禍前の基調に戻っておらず、家計は貯蓄を好んでいる。6月の家計の新規銀行預金は15%増の12兆元で、この期間の小売売上高の50%以上に相当したアナリストはこれを、消費者の間で金銭的な不安が広がっている兆候だと言う。シティの中国チーフエコノミスト、シャンロン・ユー氏は、「弱い信頼感が定着すれば、自己実現的に景気回復を遅らせる可能性がある」と警告した」

     

    上半期の貯蓄増は、小売売上高の50%に相当する。生活費を減らして貯蓄に励んでいるのだ。これでは、自律的な景気回復と逆行している。

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    上海市の高級住宅地と言えば、旧租界の一帯であろう。落ち着いた家並みが、なんとも言えない静寂さと高級感を漂わせている。この旧租界に陣取っていたのは、海外企業の人たちであったが今や、中国撤退でがら空きになっているという。家賃が高くて中国人では住めないという。空き家であれば、家賃の引き下げは当然。不動産神話崩壊の話題を集めた。

     

    『時事ドットコム』(7月29日付)は、「中国の『不動産神話』が崩壊? 気になる中古マンション事情」と題する記事を掲載した。筆者は、王 青氏である。

     

    最近、巨大経済都市上海をはじめ、中国の各都市で中古マンションの売却登録数が急増している。値下げをしても売れない。このことが大きく話題となり、注目を集めている。多くの中国人にとって、不動産は常に生活の中心で、最も重要な財産であるからだ。

     

    (1)「20余年の間、急速な経済成長に伴い、都市部への人口流入が活発化。投資商品がそれほど多くないことも都市部の不動産価格を押し上げた。その高騰ぶりは半端でない。例えば、大都市で20年前に1000万円で買ったマンションが15~20倍に値上がりした。不動産価格の下落を知らず、とにかく「買ったらもうかる」と信じ込んでいる。まさに「不動産神話」を作り上げた

     

    「買えば上がる」、これこそバブル現象そのものだ。いつまでも続くはずがない。

     

    (2)「そのため、人々は不動産の話が大好きだ。日本だと、自宅の不動産の形態や価格などを友人と話すことはあまりないが、中国は違う。筆者もたびたび体験したことだが、人が集まると、不動産が話の「ネタ」になる。そして、人が成功しているかどうかも、その人が不動産を持っているか、どのくらい持っているかが、一つの物差しとなる。若者の結婚も不動産に大きく左右される。中国では、結婚の際は男性が持ち家を用意するという習慣があるため、お見合いの場で女性側から「マンションを持っているか?」と真っ先に聞かれる。不動産価格の高騰は結婚への厚い壁になり、少子化にも間接的につながっていると指摘されている」

     

    中国社会では、相手の財産保有いかんでその人間の「価値」が定まる。不動産バブルに熱中する社会的な背景があるのだ。

     

    (3)「最近、この「不動産神話」が崩れ始めている。コロナ禍の3年間、中国でロックダウンという厳しい政策が実施された影響などにより、経済が低迷した。一昨年前からまず、地方都市の不動産価格が下落し始めた。それでも、一線都市(中国の最も経済が発展している中核都市で、北京や上海、深圳などが該当)は経済の最先端であり、不動産の実需があるので、それほど下がらないだろうとみられていた。特に、国際都市である上海は、これまで多くの外国人が魅力を感じ、街が活気にあふれ、上海が維持できれば大丈夫だろうと、皆がそう思っていた」

     

    上海は、国際都市ゆえに住宅が下がらないであろうと思い込んできた。その前提が崩れているところに、尋常でないことが現れている。

     

    (4)「先日、ある不動産仲介会社が投稿した動画がSNSで大きな話題となった。動画では、上海にいる外国人に最も人気がある旧租界の街が閑散とし、担当者が「外国人がみんな上海から出ていって帰国した。彼らが借りていた物件が空き家となり急増している。賃貸料金を下げても借り手が出てこない」と話していた。理由の一つは、外資系企業が撤退したり、事業を縮小したりしたことにより、多くの駐在員が帰国したからだという」

     

    外資系企業の中国撤退が目立ち始めている。これによって、企業トップ層の借家となってきた旧租界の一等地が、がら空きになっているという。賃料を下げても借り手が現れない事態に陥っている。100%、状況が変わったのだ。

     

    (5)「実際、上海出身の筆者の友人らもその渦中にいる。友人(女性)の配偶者は英国人で、その夫が勤務している外資系企業が中国市場から撤退した。彼女は夫に付いて英国に移住。これまで借りていた、月3万元(約60万円)のマンションを退居したという。別の友人は、投資で買っていた数件の物件の借り手が最近、見つからないという。家賃収入で住宅ローンを返済していたが、今は途方に暮れ、「売るに売れない、泣きたい」と嘆いていた」

     

    中国では、マンションをめぐる話題が大きくなっている。これが、不動産バブル崩壊へ圧力をかけるのだ。

     

    (6)「一方で、早めに物件を売って、その資金で日本の不動産を買った知り合いも数人いて、明暗が分かれている。不動産の投資にはリスクがあるという当たり前の事実。熱気から覚めるにしても、大きな痛手を負うこととなるだろう。日本のバブル崩壊のようになるのか、目が離せない状況」

     

     

    相場動向に敏感な人は、マンションを高値で売って日本の不動産へ乗り換えた人もいるという。

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    サムスン独峰の「悲劇」

    歴史的に技術軽視の咎め

    「10年一日のごとく」

    公営企業は既得権益の巣

     

    韓国経済は、サムスン依存の「一本足打法」である。一本足打法の元祖は、王貞治氏が現役時代に成し遂げた「最多ホームラン数」の偉業によって有名だ。経済では、一企業の業績に依存することがどれだけ危険であるかを示している。それは、サムスンの業績低下が韓国GDPのランクを押下げに影響するからだ。

     

    韓国の名目GDPは2022年、それまでの世界ランキング10位から13位へ後退した。主因は、半導体輸出の不振であった。これが、ウォン安を招きランキングを落とすことになったのだ。韓国は、2020~21年と連続で世界10位だった。それが、22年には3段階も後退して13位へ。代わって、天然資源大国であるロシア、ブラジル、豪州が上位へ進出した。韓国内外の経済環境から見て、再び「トップ10」入りできるかどうか、予測は困難である。

     

    半導体とスマホは、サムスンの力で世界シェア1位である。だが、いずれも汎用品という悩みを抱えている。独自技術を持たない限界を露呈しているのだ。この結果、半導体では台湾のTSMC、スマホでは米国のアップルがいずれも高収益を上げて、サムスンを引離している。この状況は、改善されるどころかさらに引離されようとしている。サムスンにも韓国にも頭の痛い問題になった。

     

    韓国社会の欠陥は、度を外れた自己過信にある。自分が、あるいは韓国が絶対正しいとする信念を曲げないことだ。これが、国内の政治的対立を先鋭化させ、対日関係ではのっぴきならぬ不信感を表面化させてきた。この傾向は特に、左派に強烈である。左派が政権の座につけば、経済も外交も後退する。韓国GDPが、世界10位圏から脱落したことはこれと無縁でない。

     

    韓国メディアは、前記のような事情を理解せずに「韓国GDP10位」を自画自賛してきた。先進国入りしたという感覚で、次は「G8入り」と夢を膨らませ、返す刀で「日本を追い抜く」とまで豪語するほどだった。GDP10位への復帰には、韓国全体が危機感を持ち無益な左右両派の対立を止め、国内改革に全力を挙げることが前提であろう。現状を見ている限り、その可能性はゼロである。

     

    サムスン独峰の「悲劇」

    韓国は、サムスンを除けば「心棒」を抜いたような状態になる。韓国の全経連(全国経済人連合会)が7月に発表した「研究開発投資上位2500社のグローバル企業」(2021年末時点)によると、研究開発投資企業トップはサムスン電子の185億ドル。韓国企業の研究開発投資全体の49.1%にも達している。サムスン1社の研究開発投資が、企業全体の半分近いとは驚きだ。ここで、参考までに先進各国のトップ企業の研究開発投資が、全企業に占める比率を上げたい。

     

    1)韓国(49.1% サムスン)

    2)英国(21.7% アストラゼネカ)

    3)フランス(19.8% サノフィ)

    4)ドイツ(17.1% フォルクスワーゲン)

    5)中国(10% 華為=ファーウェイ)

    6)日本(7.6% トヨタ)

    7)米国(6.3% アルファベット)

    出所:全経連 『朝鮮日報』(7月26日付)掲載

     

    この序列は、何を意味するかである。それは、企業の研究開発の「厚み」を示している。サムスンが、韓国企業全体の約半分も占めていることは、他企業の研究開発が手薄であることの証明である。これに比べて、トヨタは日本の7.6%。米国のアルファベット(グーグルの親会社)は6.3%にすぎない。それだけ、他企業の研究開発投資が盛んであること物語る。独創的な研究成果が、各社から生まれる可能性を示唆しているのだ。

     

    韓国は、冒頭で「一本足打法」と指摘したが、この研究開発投資比率を見れば、ますますその感を強めざるをえまい。このサムスンの生い立ちを見れば分るように、半導体技術は日本からの窃取である。日本の半導体技術者を毎週、週末にアルバイトでソウルまで出張させ、「アルバイト料金」で手にした技術である。この窃取技術が、「メモリー半導体」である。より高級技術の「非メモリー半導体」は教えなかったので、サムスンはTSMCに大きく水を開けられた。

     

    こういう経緯を見ると、韓国生まれの技術はゼロである。自動車は、三菱がエンジン技術を教えているほどだ。韓国が、日本技術に支えられたことは紛うことなき事実である。この域から大きく出ていない現実が、韓国経済の未来に疑問符を抱かせる理由である。

     

    この現実を痛いほど知り抜いているのは、当事者の韓国企業である。7月28日、日本の経済同友会と韓国の全経連がソウルで合同会議を開催した。韓国にとって、この機会を生かして日本企業との関係強化を進めた。韓国側の発言では、日本の技術開発と韓国の製造技術の一体化を強調している。日本の技術開発力に注目している結果だ。(つづく)

     

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    韓国は、輸出不振から今年のGDP成長率を予測のたびごとに引下げられる状況だ。IMF(国際通貨基金)は、当初の2%→1.7%(1月)→1.5%(4月)→1.4%(7月)と下方修正の連続である。この状況打破で浮上しているのが日本だ。文政権時代は「積弊精算」対象とされた日本が、政権交代し経済状況悪化の中で再浮上している。

     

    韓国の全国経済人連合会(全経連)は7月28日、ソウルで日本の経済同友会と懇談会を開催した。今年に入ってから5月に日韓経済人会議、6月に日韓商工会議所会長団会議、7月初めに全経連と経団連のフォーラムも開催している。そして、今回の経済同友会である。韓国が、日本接近する状況が手に取るように分るのだ。

     

    『中央日報』(7月29日付)は、「韓日関係に順風、両国経済界『この機会を逃してはいけない』」と題する記事を掲載した。

     

    韓日両国経済界の交流・協力が正常軌道に乗った。日本経済団体連合会(経団連)・日本商工会議所と共に日本3大経済団体の一つ、経済同友会までが韓国を訪問して交流し、両国間の対話の窓口が完全に復元された。

    (1)「韓国の全国経済人連合会(全経連)は28日、ソウル小公洞(ソゴンドン)ロッテホテルで「全経連-日本経済同友会晩餐懇談会」を開催した。金秉準会長職務代行は歓迎のあいさつで「最近、韓国ではサントリーウイスキーが、日本では韓国の化粧品が人気で、両国の民間交流も活性化している」とし「協力を強化すれば大きなシナジーが生まれる」と述べた。続いて「韓日企業が『得時無怠』(良い時期が訪れた時に機会を逃してはいけない)という考えで相互協力の底辺を広げるのがよい」と話した。

    韓国は、文政権時代の冷え切った日韓関係で両国のビジネスが停滞したことで、その回復に躍起となっている。失われた5年間を取り戻す勢いである。

     

    (2)「両国企業は、核心資源の共同開発、第3国共同進出、脱炭素などを韓日間の協力課題として議論した。ロッテケミカルは伊藤忠商事と「水素・アンモニア事業のための包括的協力MOU」を締結し、東アジア地域の水素・アンモニア供給安定性確保および市場拡大に向けて協力することにした」

    韓国は、水素事業で日本の協力を求めている。日本は、水素事業で世界の先頭に立っているので日韓協力を目指している。韓国が、このように日本へ協力を求めている裏には、冒頭に上げた経済の行き詰まり問題がある。

     

    『中央日報』(7月30日付)は、「低成長の沼に落ちた韓国、革新だけが生きる道」と題する社説を掲載した。

     

    韓国経済の体力低下は、国の経済規模順位でも確認できる。昨年、韓国の名目国内総生産(GDP)規模は13位、前年比で3段階下落した。韓国経済はこのまま落ち込むだろうか。

     

    (3)「新たな跳躍が切実な時期だ。折しも半導体に隠れていた自動車産業の善戦が注目される。低成長の沼に落ちた韓国経済に小さな希望になっている。いまは一部産業の躍進に満足する時ではない。何より韓国経済は現在成長の限界に直面した状態だ。これまで大企業を中心に展開してきたファーストフォロワー(速い追撃者)戦略が成功を収めてきたが、いまはまた中国やインドなど別のフォロワーに追われる身になった。これまでなかった新しい市場を開き世界の先頭国と肩を並べるファーストムーバー(先導者)への変身にエネルギーを注がなければならない」

     

    韓国の名目GDPが、世界トップ10圏外へ落ちた最大の理由は、サムスンの半導体輸出が低調であったことだ。サムスン1社が、韓国経済を左右するのは異常である。

     

    (4)「韓国の宿題である「新樹種」を育てる道は、すでに提示されている。科学技術振興とこれを土台にした技術事業化だ。環境は悪くない。韓国の研究開発投資はGDP比世界1~2位水準であり、絶対金額も世界5位に達する。大学や研究所の研究論文が「ネイチャー」「サイエンス」など世界最高水準の学術誌に相次いで掲載されている。これに対し進む道はまだ遠い」

     

    韓国企業2500社の研究開発投資の49%(2021年)は、サムスン1社のシェアである。これでは、どうにもならないのだ。第二、第三のサムスンが出ない限り、韓国経済は牽引できないであろう。このほか、内需振興が不可欠である。サービス産業を近代化しなければ経済の底上げは不可能である。


    (5)「最も大きな問題は、革新技術を基に新たな成長エンジンが出てきていない点だ。キーワードは韓国の産業生態系の構造的革新だ。実際にソウル大学のキム・ピッネリ教授のような世界的碩学は国内トップクラスの研究を新産業に連結するインフラが備わっていないと訴える。革新スタートアップがあちこちで誕生しているが、グローバルスタンダードに満たない規制が立ちふさがる状態だ。

     

    下線部分は、基礎研究の重要性である。この部分の強化には、政府が大学の研究開発を支援するほかない。さらに、規制緩和の実行である。既得権益が二重三重に取り巻いている現状の打破が不可欠だ。韓国は、障害が多すぎる。特に医学関係は、絶対不可侵の「聖域」扱いである。ここを、崩さなければならない。

     

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