勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年07月

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    韓国は、メモリー半導体で世界1のシェアを持つが、設備や素材はゼロ同然。半導体では「浮き草稼業」も同然である。片や日本は、かつての「老舗」である。世界シェアは素材で55%、設備で35%である。この実力を背景に、国策会社半導体企業「ラピダス」を立ち上げて、台湾TSMCと韓国サムスンの牙城へ切り込む。

     

    韓国半導体は、日本からの技術窃取という後ろめたさを抱えて、日本の「復讐戦」に心が落ち着かない様子を見せている。日本が着々と米国と手を握って世界市場への復帰を目指しているからだ。

     

    『朝鮮日報』(7月29日付)は、「専門家『人材と生産に弱い日本、素材・部品・設備の優位を半導体復活のテコに活用』」と題する記事を掲載した。

     

    日本の半導体専門家は「日本の半導体産業が復活するためには、世界市場で強みを示した半導体素材・部品・設備分野に焦点を合わせるべきだ」と口をそろえる。日本の官民主導ファンドが半導体素材であるフォトレジスト世界最大手のJSRを買収した背景にも、素材・部品・設備産業の優位をテコに活用しようという計算がある。

     

    (1)「『2030半導体の地政学』の著者で日本経済新聞論説委員である太田泰彦氏は「日本の半導体産業の黄金時代を経験したエンジニアたちがラピダスの原動力になっているが、既に70代になったリーダーにいつまでも頼ることはできない」とし、「日本の半導体メーカーは1990年代から衰退しているため、下の世代の人材の空白が最も大きな障害だ」と話した。ラピダスの会長である東哲郎氏が1949年生まれ、社長の小池敦義氏が1952年生まれで、2人とも70代だ。太田氏は「大学や高等専門学校で人材を育成するとしても、今後相当な歳月が必要となるため、日本が技術競争力を持つ半導体の素材・部品・設備に焦点を合わせ、政策を立てて投資を行うべきだ」と述べた」

     

    日本半導体の根である素材・部品・設備は、世界シェアを左右する大きな存在である。後は技術(人間)の育成である。これも大学との関係強化で道はできている。国家事業としての位置づけになっているから、従来のような失敗はあり得ない。

     

    (2)「市場調査会社オムディアのシニアコンサルティング ディレクター、南川明氏は日本が半導体設備で35%、素材で55%のシェアを持っているため、世界の半導体サプライチェーンで一定の地位を享受できる。米国もそういう理由で日本を最も重要なパートナーと考えている」と話した。南川氏は「日本は半導体部品だけでなく、電子製品の基板、自動車部品でも高いシェアを持っている点を忘れてはならない」とし、「日本の半導体産業は自動車、電子業界と手を握ることで成長できる」と指摘した」

     

    半導体設備で35%、素材で55%の世界シェアは、日本の強みである。素材では、日本の官民出資による投資ファンド、産業革新投資機構(JIC)が半導体素材メーカーのJSRを1兆円で買収する。JSRは、最先端の半導体生産に使われるフォトレジストの分野でシェアが28%の世界最大手だ。日本政府は、国際的な競争力を備えた半導体素材産業をさらに育成し、戦略物資として活用する。日本は、半導体素材から製造に連なるサプライチェーンを強化して、世界半導体の総合トップ君臨を目指しているはずだ。夢よ、もう一度だ。

     

    (3)「専門家は、日本がまだ(次世代)半導体生産能力を備えていないため、素材・部品・設備分野の強みを生かし、他国と同盟を結ぶ方策も検討すべきだと話す。 成均館大化学工学科のクォン・ソクチュン教授は「政府が主導するラピダスのような『プロジェクト企業』は明確なリーダーシップがなく成功しにくいが、例外的な可能性は米台と協業だ。日本が半導体産業の胴体、台湾が手足、米国が頭の役割を果たす」と話した」

     

    仮に、日米台が半導体で協業体制を組めば、韓国半導体は足下に及ばないことになる。これは、韓国にとって最悪ケースになる。日本は、なんと言っても素材・設備で世界半導体を動かせる実力がある國だ。韓国は、日本への対応で慎重になるほかあるまい。

     

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    世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は7月27日、7月の世界の平均気温が観測史上で最高となる見通しだと発表した。国連のグテレス事務総長は、これを受け「地球温暖化の時代は終わり、地球が沸騰する時代がきた」と強調した。熱波や洪水、山火事などにつながる「異常気象がニューノーマル(新常態)になってしまっている」と警告したもの。 

    この記事は、先に本欄で取り上げた次の記事と関連している。

    2023-07-28

    世界、「異常に暑い!」一過性と思ってませんか、大西洋水温5度も上昇 異常気象定着「前

     

    この異常気象事態を分析した研究論文が、科学誌『ネイチャー』で発表される。北大西洋からの海流が、早ければ2025年以降に止まるという衝撃的内容である。人類の生存に関わる重大な問題が起ることになった。
     

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月26日付)は、「北大西洋の海流『想定より早く停止』 研究者が論文」と題する記事を掲載した。 

    気候変動の結果、北大西洋における海水の循環が従来予想より早く崩壊し、地球全体の気象パターンが乱れる可能性が高まっている。査読済みの新たな科学論文で明らかになった。この研究によると、熱帯から暖かい海水を北方へと運ぶ「ベルトコンベヤー」のような役割をしている海流「大西洋子午面循環(AMOC)」が、2025年から95年のどこかのタイミングで止まる見通しで、最も確率が高いのは50年代という。気候変動の結果、北大西洋における海水の循環が従来予想より早く崩壊し、地球全体の気象パターンが乱れる可能性が高まっている。査読済みの科学論文で明らかになった。 

    (1)「デンマークのコペンハーゲン大学のピーター・ディトレフセン教授とスサンネ・ディトレフセン教授は最も高い確率で起る予測としており、英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。一方、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、AMOCが今世紀中に停止する公算は小さいとの見方を表明している。IPCCの予測から逸脱することに引き続き慎重な科学者もいる。米南部フロリダ州沖から欧州北西部沖に向かうメキシコ湾流を含むAMOCが失われれば、北半球の気温が著しく低下する。これに伴い、欧州は冬の嵐に見舞われやすくなり、夏の降雨量が減る。逆に南方では、大気の熱が温帯や寒帯へと運ばれないために気温がさらに上昇し、熱帯降雨やモンスーン(雨期)に大きな変化をもたらす

     

    ヨーロッパが、あれだけ北に位置するにもかかわらず、暖かい海流によって漁業などが盛んなのは、AMOCと呼ばれる海流循環の結果である。その流れが、止まるというショッキングな内容だ。AMOCは、大西洋循環システムの一つである。大西洋循環システムは、世界で最も強力な海流のひとつである。南極海からグリーンランドまで往復し、アフリカの南西海岸、米国南東部、欧州西部の間を行き来して、何万キロもの距離を流れている。その大西洋循環システムの一部が、今世紀中に停止するとなれが人類の生存に関わる。想像もできない事態になる。 

    (2)「こうした事態は、温暖化の脅威にさらされている地球にとって「決定的な転換点」の一つとなり、ひとたび起これば取り返しがつかないと懸念されている。ピーター・ディトレフセン氏は「決定的な転換点がこれほど早く訪れると見込まれ、そのタイミングが来ないように抑制していけるのが向こう70年間であるということに驚いた」と述べた。同氏はIPCCのモデルについて「保守的すぎる」との認識を示し、足元で不安定な状況が増えているという早期警告サインを看過していると指摘した」 

    科学者は、AMOCがいずれ起りかねないことを認めている。その発生する時期が、いつかという問題だけである。となれば、二酸化炭素削除は緊急不可避の課題となる。 

    (3)「欧州の主要な気候科学者の一人である独ポツダム大学のシュテファン・ラームシュトルフ教授(海洋物理学)は、海流パターンの顕著な変化を示す研究が世界各地で相次いでいると話す。「今回の分析結果は、AMOCの決定的な転換点が従来の想定よりずっと早く訪れる可能性を示す近年のいくつかの研究とも一致する。証拠が積み上がりつつあり、警鐘を発しているように思われる」と指摘する。この問題を世界の第一線で研究する一人である英エクセター大学のティム・レントン教授(気候科学)は、ディトレフセン氏らの研究が「データに直接基づいて気候の決定的な転換点を早期に警告する方法に重要な改善をもたらした」とみる。「転換点を越えた時点で、AMOCを取り戻すことはできなくなる」とレントン氏は語り、「(AMOCの)崩壊とその影響の広がりには時間がかかるが、どれだけ長くかかるかは不透明だ」と続けた」 

    AMOCをいかに防ぐか。世界は、緊急会議を開くべきテーマである。

     

    (4)「地質学的には、最終氷期(最盛期は約2万年前)に大西洋の海流が10〜20年間で劇的に変化した証拠が示されている。しかし一部の気候モデルでは、21世紀の環境においてAMOCが完全に停止するまでに1世紀ほどかかるだろうと予測されている。ただし、AMOCが部分的に機能しなくなるだけでも、地球温暖化による打撃は深刻化する公算が大きい。他にも海洋に見られる地球温暖化の兆候として、北半球の温帯における海面水温の異常な高さが挙げられる。カナダ東海岸沖では平均水温が最大でセ氏5度上回った。同時に、南極では冬季の海氷面積が観測史上最も小さくなっている。これらの現象はAMOCの変化と直接の関連はない」 

    下線部は、AMOCの変化と直接の関連はないという。米南部フロリダ州沖から、欧州北西部沖に向かうメキシコ湾流へ集中的に現れる現象と理解すべきなのだろう。

     

    あじさいのたまご
       


    大方は、中国経済に対して悲観的な見方である。だが、これに立ち向かった楽観論が登場した。その根拠は、不確かなものばかりである。この「早期回復説」は、年初の中国でゼロコロナを廃止に伴い期待する見方が多かったのと同じ、漠然としてものであろう。

     

    『日本経済新聞』(7月29日付)は、「アジア経済、これから本格復活」と題する記事を掲載した。筆者は、モルガン・スタンレー香港 チーフ・アジア・エコノミストのチェタン・アーヤ氏である。

     

    アジアの経済成長がほかの地域を上回る状況はまだ始まったばかりだ。新型コロナウイルス禍を経た本格的な回復は2023年下半期になりそうだ。23年末になれば、アジアの成長率が米国を4%程度上回ると予想している。

     

    (1)「このような強気な予想を支える要因は3つある。まずアジアは欧米と異なり、金利ショックを経験していない。アジアではすでに物価上昇がやわらいでいる。商品価格が22年の高値から下落に転じたことで食品・エネルギー価格が下落した。今後は商品価格と輸入物価の下落が他の財にも転嫁され、アジア圏の消費者物価指数(CPI)は各国の中銀が安心できる水準に戻っていくだろう。CPIが目標水準に近づいたことで、引き締めを小休止した中銀も多い。インフレ率が低下するにつれ、アジアの中銀には利下げに踏み切る余地も生まれるだろう。インドネシア中央銀行などは、早ければ今年10~12月にも利下げを開始する可能性がある」

     

    アジアの物価は、すでに落着きを取り戻しつつある。インドネシアなどは、早ければ今年10~12月にも利下げを開始する可能性がある。

     

    (2)「第二の要因は中国だ。中国は今後半年ほどで、アジア経済の原動力として浮上する公算が大きい。確かにここ数カ月、投資家は中国の回復に弱気になっている。構造的な課題を深刻に捉える向きが多く、彼らは中国の回復が難しいと考えている。筆者はそう考えない。中国の最近の減速は投資の循環的な弱さによるもので、消費はおおむね順調に回復している。政策当局がインフラや住宅への投資を促進する追加の緩和措置に踏み切れば、足元の低迷から脱却できるだろう。追加緩和に懐疑的な投資家もいるが、中国のマクロ経済見通しは労働市場と社会の安定次第だ。追加緩和がなければ賃金と雇用の伸びが抑えられ、社会の安定が損なわれる。当局は成長の弱さを反転させるため、近く追加緩和を発表すると予想している」

     

    下線部の中国経済への楽観論は、不動産バブル崩壊という構造要因を全く無視しているところに成り立つ不思議な立論である。これまで聞いたこともないアプローチだ。企業の設備投資も住宅販売も復活するというのだ。国家統計局が7月27日発表した6月の工業利益は前年同月比8.3%減少。5月は、12.6%減であった。1~6月では前年同期比16.8%減益である。この状態で、設備投資できるはずがない。住宅ローン残高は、4~6月期末で.7%減である。貸出金利引下げに伴い繰上げ返済しているほどだ。もはや、住宅信仰は消えている。これが、繰り上げ返済をさせた要因である。企業も家計も、過剰債務に圧迫されているのだ。この事実を軽視してはいけない。

     

    (3)「アジアの回復に強気な第三の理由は、域内主要国の内需が今後数カ月でさらに拡大すると予想するからだ。インド、インドネシア、日本は23年上半期、アジアの高い成長率の原動力になった。これら3カ国はマクロ的にもミクロ的にも回復を支える強力な追い風を受けており、国内総生産(GDP)のさまざまな構成要素が拡大するはずである。その代表が消費だ。実際、好調なサービス関連支出が製品支出にも波及する兆しがみられる。消費が強くなれば投資も回復する。ただし先進国の成長見通しが弱含みであるため、輸出の回復は限定的なものにとどまるだろう」

     

    インド、インドネシア、日本は23年上半期、アジアの高い成長率の原動力になった。これが、引き続き牽引するという。

     

    (4)「強気な見通しに対して、重要なリスクを2つ挙げておく。まずは米連邦準備理事会(FRB)がタカ派的な政策で市場の意表を突くケースだ。そうなると米国の成長が下振れし、外需が弱まることでアジアの成長見通しにも下押し圧力がかかる可能性がある。第二に中国の金融緩和が遅れた場合、景気の減速が他のアジア地域にも重くのしかかる可能性がある。それでも全体としては、アジアの回復力は24年上半期まで欧米を上回ると予想する。この成長格差は世界中の投資家や企業に影響を与えるだろう」

     

    リスクを2つ上げている。米国のさらなる厳しい利上げと中国の金融緩和遅れである。米国はその懸念はない。ソフトランディングの可能性が強くなっている。中国については、金融緩和しないだろう。すでに。「流動性の罠」に落ち込んでいるからだ。金利を下げても新規貸出は増えない事態になっている。要するに、中国経済に関する楽観論の根拠はほぼゼロと言ってよい。

     

    テイカカズラ
       


    韓国左派の「機関紙」的な役割を担っているメディアが、福島原発処理水猛反対論から一歩下がる科学者の寄稿を掲載した。IAEA(国際原子力機関)は、日本の影響下にあると大真面目に報道したこのメディアが、東京電力による現場説明会から招待されず孤立感を感じ始めたかも知れない。 

    『ハンギョレ新聞』(7月29日付)は、「過度な主張が科学不信を助長する」と題する記事を掲載した。筆者は、チェ・ギヨン元科学技術情報通信部長官・ソウル大学電気情報工学部名誉教授である。 

    現在、日本の福島原発汚染水の放出問題で、太平洋の沿岸国と島嶼国が騒然としている。韓国もこれに関連する議論が激しくなっている。だが、真実は何かを探求して分析し、相手側の意見を尊重して傾聴し、説得と妥協の過程を経て国民の安全と国益のための結論を導きだす肯定的な方向ではなく、二つの陣営に分かれ自分の陣営の主張を強化することばかりに没頭する政治的な争いの様相に発展していることは、非常に残念だ。 

    (1)「一般国民の立場としては、放出問題にどのように対処することが正しいのかを判断するのは難しい。やむをえずメディアやSNS、YouTubeなどに依存することになり、多くの誤った情報や虚偽の情報にも接することになる。そこに確証バイアスが加わり、ますます極端に誤った思考に陥ったりもする。このような論争の場に、科学者が恣意的または他意的に加勢するのは、やはり肯定的な面と否定的な面がある。国民が偏向したり誤った思考に陥ることなく、正しい科学的思考ができるよう、科学者が積極的に乗りだすことは非常に望ましい」 

    韓国は、「噂の浸透力」ナンバー・ワンの國である。科学的真実を知ろうとする意識が極めて低い。 

    (2)「科学者ですらも偏見に陥って客観性を失ったり、自らの狭い専攻分野ばかりを眺めたり、あるいは私的な利益を追求して公共の利益を害することもありうる。これが深刻な問題である理由は、科学者または専門家という名前を掲げているため、その影響力がはるかに広い範囲にわたり強く作用するという点にある。さらに、科学者の誤った偏見が政界によって悪用される場合、国家を危険に陥れる場合があり、さらには科学や科学者に対する国民的な不信を助長することも起こりうる。実際すでにそうした兆候がみえており、強く懸念される」 

    科学者が、良心を失えば最悪である。韓国では、今回の騒動でそういうケースが出てきた。ソウル大学教授が、数年前までは「無害論」を唱えていたが最近、「有害論」を発表する人物まで現れた。韓国社会の縮図であった。

     

    (3)「福島原発汚染水を大量に数十年かけて海洋放出することは、類例のない試みだ。現時点では、その影響を適切に予測できる科学的モデルはない。当然、100%安全だとは言えない。多核種除去設備(ALPS)ひとつをとっても、数多くの核種をどれほど完全に除去できるのか、長期間の安定した運用が可能なのかなどについて、はっきりとは明らかになっていない。そうした状況のもと、一部の科学者はALPSが処理した汚染水を飲めると言い、あたかも汚染水放出の安全性が科学的に保障されたかのように話している。強く懸念せざるをえない 

    下線部は、理解しやすいように言ったたとえ話である。コップ1杯の処理水は、バナナ8本分に相当するというのはその最適例だ。こういう表現は許されるはずだ。 

    (4)「懸念する1つ目の理由は、ALPSが危険な核種を十分に除去可能であることが公開の場で検証されていないことだ。適切な検証を受けようとするのであれば、必要なデータを公開し、他の機関や研究者が同じ方法を適用して同じ結果を得ることができるのか、その再現性を確認できるようにしなければならない。また2つ目の理由は、汚染水内の核種が許容値以下になるよう除去して薄めるといっても、それを数十年にわたり放出することがどのような結果を招くのかについては、誰も分からないという点にある。初めから数十年間にわたり継続して放出するという条件があったとすれば、おそらく許容数値という基準自体が変わっただろう」 

    IAEAは、処理水の無害性を検証している。これが、「公開の検証」に値しないのか。IAEAは、国際機関として各国から一級の研究者が参加しているはずだ。これ以外に、どこで誰が検証するのか。黄海には、中国の原発から処理水が長年にわたり放出されている。それが、現状で問題を起こしていない以上、福島原発処理水でも同じ結論が出ないのか。中国を認めて福島はダメ、という論理は通用しない。

     

    (5)「科学者としては、少しでも恐れがあれば「100%安全」だと言うのをやめよう。安全だという言葉をどうしても言いたいのであれば、「すべての条件を満たすのであれば安全だが、そうした条件をすべて満たすのかどうかは確実ではない」と言おう。「汚染水に含まれる核種が基準値以下であれば、放出できるという任意の規定がある」とは言えても、確実な根拠もなしに、「そのような汚染水を数十年以上放出しても、海洋生態系には影響を与えず、その海で採取した水産物は食べても安全だ」とあえて言うのをやめよう」 

    ここでの主張は、韓国の原発についても言えることだ。韓国の原発処理水は無害だが、福島は「100%安全」でないと言うのは詭弁であろう。科学者の発する言葉ではない。

    (6)「もちろん、反対の論理も適用される。確実でなければ、「無条件で有害だ」と言うのもやめよう。「よく分からないが、危険だったり害になる場合があるので、安全性がある程度確保されるまで、気を付けて警戒しなければならない」と言おう。そうすればこそ国民がこれまで示してきた科学に対する信頼を守れるはずだ」 

    このパラグラフは、妥協の産物である。「安全性がある程度確保されるまで、気を付けて警戒しなければならない」と後退している。要するに、頭から「有害」と叫ぶ左派に向って、「撃ち方止め」という号砲だ。

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    中国が7月17日に発表した4~6月期のGDPは、年率3.2%にとどまった。1~3月期の同9.1%から大幅に鈍化したのだ。中国経済「失速論」が出てきた背景である。その後、どのような景気対策を打ち出すか注目された。だが、「精神論」にとどまって、「実弾」(財政支出)はなかった。 

    一方、米国が7月27日に発表した46月期GDP(速報値)は、前期比の年率換算で2.%増である。利上げ開始から1年が経過しても景気の失速は回避されている。13月期は、速報値の年率1.%増から確報値で2.%増へと上方修正されている。米経済には勢いがついている。 

    米中の4~6月期のGDPの差は、中国がわずか0.8%ポイント上回っているだけという「僅差」である。これまでは、想像もできないような「接戦」を演じている。中国が、GDPで米国を上回って当然という過去の話は、完全に消えざるを得ない状況になっている。 

    4~6月期で目立つのは、米企業の設備投資が7.%増えたことだ。1~3月期の0.%増から勢いがついている。これは、22年8月に成立した半導体補助金法など財政支援を受けたプロジェクトが押し上げ要因になったものだ。「製造業の建設投資は幅広く好調」な状況である。米企業の設備投資は長らく、中国などへ流出してきた。それが、米国の財政支援を受けて国内回帰している。海外企業も、この補助金に釣られて米国での投資を増やす状況になった。

     

    『ブルームバーグ』(7月28日付)は、「補助金戦争が世界的に激化ーインフレ抑制法で米同盟国も参戦迫られる」と題する記事を掲載した。 

    バイデン米政権は、新たに広範囲な産業政策を打ち出した。これは世界各国・地域の政府や企業の計画も一変させることになった。この政策の展開次第では、バイデン大統領が目指す再選だけでなく、世界の政治指導者らの命運も決定付けるかもしれない。 

    (1)「世界での優位性を巡り中国と競い合うバイデン政権は、昨年8月に成立したインフレ抑制法や国内半導体業界支援法など重要施策を通じ、国内製造業に補助金を投じている。クリーンエネルギーや半導体など有望な産業で米国のリーダーシップを確立させ、国内で高賃金の雇用を創出することが狙いだ。その結果として、世界的な企業誘致合戦が始まった。米国の同盟にはひずみが生じ、財政は脅かされ、前例のない規模の補助金が民間企業に振り向けられている」 

    バイデン政権は、グローバル政策から一転して保護政策によって、国内の雇用確保政策に転じている。

     

    (2)「ドイツ政府は高性能半導体工場向けに計200億ユーロ(約3兆1100億円)相当の補助金を用意していると、ブルームバーグ・ニュースは24日報道。また、英政府はこれまで補助金競争とは一線を画す姿勢を示していたが、インドのタタ・グループは新たなEV電池工場を巡り、推定5億ポンド(約910億円)超に上る資金支援の約束を取り付け、建設地に英国を選んだ」 

    ドイツも台湾半導体企業のTSMCを誘致すべく、約3兆円の補助金を支出する。 

    (3)「投資を呼び込むために、どの程度の資金が投じられているのか正確に計算することは難しい。こうした支援は税控除や低利ローン、補助金などさまざまな形態を取っているためだ。モルガン・スタンレーのアナリストらの推計によると、世界で各国政府は低炭素機器の製造向けに5000億ドル(約70兆円)超の直接的な補助金を投じている 

    世界の各国政府は、約70兆円の補助金を低炭素機器製造に支出する。

     

    (4)「米国は、新たな政策の方向性を擁護する姿勢が鮮明だ。補助金戦争が進行しているなら、それは中国が始めたものであり、米同盟国は中国への対抗で利益を共有すべきだとの認識だ。バイデン政権は「世界のパートナーとクリーンエネルギーに関するインセンティブの調和」に向けて取り組んでいると、ホワイトハウスは今月の報告書で説明した」 

    米国が、中国へ対抗すべき始めた「補助金戦争」は、海外企業も含めて米国への投資を増やしている。これが、米国消費者の先行き見通しを明るくしている。消費堅調の裏には、こういう事情もある。 

    (5)「中国の(補助金)支出が、他国を圧倒しているのは確かだ。米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の調査によると、新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻で世界経済が一変する前の2019年には、中国による産業政策への支出は約2500億ドルに達していた。対国内総生産(GDP)比で見ると、米国のほぼ4倍に上る。当時、米国は韓国やドイツなど同盟国にも後れを取っていたが、恐らく今はそうではないだろう」 

    中国の産業政策支出は、2019年で約2500億ドル(約33兆6000億円)に達していた。米国の4倍だ。中国では、これが汚職の温床になっている。

     

    (6)「政府が、ビジネスの勝者を選ぶことは得意でないという数十年にわたる(米国での)コンセンサスに反し、同じ国家主導のアプローチを採用するという考えに多くのエコノミストは懐疑的だ。エール大学のシニアフェロー、スティーブン・ローチ氏は「これは皮肉であり、偽善に近いものがある」とし、米国について「中国に相当批判的だが、今では同じ水域に入りつつある」と話す。モルガン・スタンレーのチーフエコノミストを務めた同氏にとって、これは「市場主導のグローバル化の開かれた構造を再考する」に等しいという」 

    米国は、もともと「産業政策」という言葉自体が存在しないお国柄である。それが、中国への対抗で「同じ毒を食らう」という決意を見せている。戦時経済意識に変わっているのだ。

     

     

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