勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年07月

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    米国が今、大きく変わろうとしている。国内が「分断」されたと指摘されるが、具体的には「中間層」と呼ばれる人々の怒りや失望が危険な現実となっていることを意味している。この中間層に焦点を絞った政策が、バイデン政権の下で始まっていることだ。40年も前のレーガノミクスからの転換である。レーガノミクスは、富裕層や企業への減税が需要と供給を増やす政策として定着した。バイデン氏は、ここからの脱却を意図している。 

    バイデン氏が6月28日の演説で、「米中間層を何十年も見捨ててきた(大企業から中小企業、家計に恩恵が伝わるとする)トリクルダウン経済学(つまりレーガノミクス)からの根本的な脱却」を宣言した。これは、バイデン政権の政策転換に止まらず、今後の米国の政策に長く反映されると見られる。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月30日付)は、「『バイデノミクス』は時代の潮流」と題する記事を掲載した。 

    バイデン氏が6月28日の演説で、注目すべき発言を行った。具体的には、「トップから先に恩恵を受けるのではなく、中間層と低所得層の底上げにより成長を生み出す経済」を築くため、産業政策や市場に対する政府の監督を新たに重視する「米国へのスマートな投資」を打ち出した。一部の投資家はこうした言い方に顔をしかめるはずだ。金融エリートはバイデン氏が否定しようとしているレーガン時代の制度の恩恵を受けてきたからだ。「中間層からの」経済成長などというフレーズはいらだつほど漠然としているか、ただの政治的な口上に聞こえがちだ。バイデン氏の28日の演説には、投資家が理解しておくべき5つのポイントがある」

     

    (1)「第1に、バイデン氏の政策は大統領選が実施される24年までの短期の景気浮揚が主な狙いではなく、長期的な経済構造の転換を目指している。米大統領経済諮問委員会(CEA)のメンバーであるヘザー・バウシー氏が今週筆者に語ったように「多くの雇用をいま生み出すのではなく、将来に向けた道をつくる」のが狙いなのだ」 

    バイデン演説は、短期的な雇用増でなく長期的な米国の発展を目指している。 

    (2)「第2に、このレーガノミクスの否定は、いわば現実的な政策の寄せ集めだ。脱炭素技術の開発支援、インフラ投資、企業独占の抑制、労働者の再訓練、「米国第一」主義に基づく通商政策による重要なサプライチェーン(供給網)の強化などが盛り込まれている」 

    バイデン氏は現在、バラバラに行われている政策に整合性を与えようとしている。 

    (3)「第3に、バイデノミクスは西側諸国における時代の潮流の変化の原因であるとともに、結果の一つでもある。構想の多くは過去10年のESG(環境・社会・企業統治)の推進で主張されてきた内容だ。そもそも、「米国第一」主義に基づく通商政策と、国家安全保障を理由にした政府のサプライチェーンへの介入に乗り出したのはトランプ前米政権だ。レーガノミクスを共和党が支持し続けてきたことを考えると、これは奇妙に思えるかもしれない。だが歴史をひもとくと、共和党出身のアイゼンハワー元米大統領も第2次世界大戦後、産業政策を採用していたのだ。実際、元通貨監察官のジーン・ルドウィッグ氏はバイデノミクスについて「企業や市場と政府との間に絆があった」アイゼンハワー時代を反映した「バック・トゥー・ザ・フューチャー(未来への回帰)」だとみている」 

    政策を一つ一つ取り上げると、党派を超えていることが分る。民主党が、共和党の政策を支持しているからだ。これは、過去にもあったことで「超党派」での米国経済回復策である。

     

    (4)「第4に、バイデノミクスは世界に広がりつつある。特に英最大野党・労働党の幹部らはこの政策を研究し、自らのマニフェスト(政策公約)の青写真になり得ると考えている。第5に、バイデノミクスの明確な輪郭はまだ定まっていないが、この政策転換は既に経済で予想外の展開を生み出している。こうした展開は今後さらに増えるだろう。22年の歳出・歳入法(インフレ抑制法)が予想外に施行にこぎ着け、製造業への投資が(同じほど予想外なことに)この2年でほぼ倍増したことを考えてほしい」 

    下線部は、重要な変化である。バイデン氏の半導体やEV(電気自動車)・電池への補助金政策が、米国での設備投資を増やしている。これが、雇用増をもたらし「中間層」の生活を安定させる大きな要因になる。大都市のサービス業だけでなく、地方の製造業で働く人々にも安定した雇用を確保する必要がある。 

    (5)「もちろん、振り子が振れたこの状態が続く保証はない。例えば、米有権者の3分の2はバイデン氏のこれまでの経済手腕を支持していない(これはバイデノミクスの未来とは必ずしも関係ない理由だが)。民主党が24年の選挙で勝利したとしても、特に公的債務が増えているのにさらなる歳出を伴う場合、バイデン氏の構想がさらに拡大すれば、債券市場はおびえるかもしれない。工業の再活性化と保護主義はインフレを招きやすいという(もっともな)懸念もある」 

    下線部のような懸念はあるが、40年間も吹き荒れたレーガノミクスで所得格差は拡大し、中間層が没落した。米国には、新たな「癒やしの時期」が求められているのかも知れない。これが、世界最大の経済力を維持する上に必要であるのだ。

     

    (6)「ヘーゲルも指摘したように、歴史において振り子がいったん振れると、すぐに戻ることはめったにない。「バイデノミクス」というフレーズは時代の潮流になり、バイデン氏の政治生命よりも長く続く可能性がある。古くて新しい、米国の産業政策の世界が到来したのだ。これを無視する投資家は、墓穴を掘ることになる」 

    米国に産業政策時代が到来する。産業政策は、日本の戦後経済が生み出した独特の政策である。本家の日本も、これを復活させ半導体で経済再興を期す。時代の巡り合わせだ。

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    中国は、7月1日から「改正反スパイ法」を施行する。取締り基準が曖昧であるため恣意的に捜査・逮捕される危険性が高まっている。米国企業の情報窃取が目的と見られるが、こういう国でのビジネスは命がけだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月30日付)は、「中国の改正反スパイ法、 米企業のリスク高まるー米防諜当局」と題する記事を掲載した。

     

    米国の防諜当局は、中国の改正反スパイ法の施行に伴い同国での事業活動に新たな危険が生じるとして、米企業経営者に対する警告を強めている。

     

    (1)「米国家防諜安全保障センター(NCSC)が30日に発表し、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した公報は、同法では何がスパイ行為に当たるのかが曖昧で、企業データの利用・管理で政府により大きな権限が与えられるため、通常の事業活動と考えられるものが犯罪行為に変わる可能性があると警告している。71日に施行される改正反スパイ法は、中国国内の外国企業を不安に陥れている。同法が公表されたのは今年の春で、当時は米中の緊張関係が一段と悪化する中、中国当局による外国企業(主に米企業)への家宅捜索や取り調べなどの行為が相次いでいた」

     

    日本人ビジネスマンは、これまでの法律でも数名が獄窓へつながれている。最近、刑期満了で釈放された人の話を聞いていると、最初から陥れる目的で「録音機」を用意している悪質ぶりだ。日中友好で何年もボランティアをしてきた「親中派」が、こういう酷い目にあっている。人情などは通じない国である。取締官は、自らの手柄にすべくこういう振る舞いをしている。「ニーハオ」と近づいてく人間には要注意だ。

     

    (2)「NCSCを率いるミリアムグレース・マッキンタイアー氏は、同法は「民間企業にとって深刻な問題となる」方法で用語を定義することなく、スパイの定義を拡大していると述べた。 また、NCSCのチームは4月以降、米国の実業界指導者らへのブリーフィング(状況説明)を強化しているとした。マッキンタイアー氏は、助言を受けている企業の名称は明かさなかった。中国は最近、国内の経済・ビジネス環境に関する情報を収集しているデュー・デリジェンス(資産査定)会社やコンサルティング会社を標的にしているようだ

     

     

    下線部のように中国は、実情を知られることが怖いのだ。それだけ、実態がガタガタである証明であろう。

     

    (3)「中国政府は、外国企業の権利は中国の法律で保護されているとの見解を示している。中国外務省の報道官は今週、改正反スパイ法が外国人ジャーナリスト・研究者に影響を及ぼすかという質問に対し、「法律や規則を守っている限り、心配は無用だ」と答えた。マッキンタイアー氏によると、同氏とそのチームはブリーフィングの際に、米国のデュー・デリジェンス会社ミンツ・グループと専門家ネットワーク・コンサルティング会社キャップビジョンの事務所が家宅捜索を受けたことをについて、複数の米企業から質問を受けた。また、中国への渡航はまだ安全だと当局は考えているのか、という質問も受けたという」

     

    危ない国は、近寄らない。これが、リスク管理の鉄則としても、現地でビジネスをしている人には、針のムシロであろう。心から同情するほかない。できるだけ、中国人の友人を作らないことが身を守ることになる。不幸な事態だ。

     

    (4)「マッキンタイアー氏は「企業経営者による渡航判断は、その人個人が下すものだ」が、同氏のチームとしては、リスクをしっかり理解してほしいと述べた。米国務省は今年3月、中国政府が法律を恣意的に運用し、出国禁止措置によって一部の米国人の出国を妨げていることを理由に、中国への渡航再考を促す渡航勧告を出した。この点に留意するよう当局は企業に呼び掛けている」

     

    中国出張計画を取り止める例も出ている。身を守るためにはやむを得ない。

     

    (5)「NCSCの関係者によると、改正反スパイ法では、スパイ行為の対象を「国家機密や諜報活動」から「国家安全保障に関連するその他の文書・データ・資料・物品」へと拡大している。同法はまた、国家安全保障上の脅威とみなされる人物に新たな出入国制限を課し、米国の企業・ジャーナリスト・学者・研究者の法的リスクを高めているという。NCSCの公報によると、改正反スパイ法は、国家・サイバーセキュリティー・データプライバシーに関する一連の法規の一つであり、中国で活動する外国企業に対する中国政府の監視を総合的に拡大するものだ」

     

    下線のような職業が、危険性が高いという。ジャーナリストも取材は命がけになる。仮に逮捕されたら、報復措置として中国人記者にも同じ扱いをする。それぐらいの強硬策をとらないと、中国を鎮めることはできないだろう。言葉で抗議して聞き入れる相手でないからだ。

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    韓国左派は、福島原発処理水放出反対を国連常任理事会へ持ち出すと騒ぎ立てている。科学データをすべて無視し、反日感情を煽っているのだ。IAEA(国際原子力機関)は7月4日、福島原発処理水放出についての最終報告書を日本側へ提出する。これまでの報告では「無害」としてきたので、最終報告書もこれが踏襲されると見られる。

     

    IAEA事務局長はその後、韓国・ニュージーランド・クック諸島(太平洋島嶼国)の三カ国を訪問すると伝えられている。福島原発処理水放出に疑念を持っているからだ。データを説明して理解を求める模様だ。これに対して、韓国左派はどう対応するのか興味深い。あくまでも「反対路線」を貫き、世界で孤立する道を選ぶのか分岐点に立たされよう。

     

    EU(欧州連合)は、6月30日までに日本産食品の輸入規制を完全撤廃する方針を決めた。規制をかける国・地域はロシアや中国、韓国などを残すだけだ。東京電力福島第1原子力発電所の事故から10年あまりを経て国際社会の理解が広がる。福島第1原発の処理水の海洋放出に向けても追い風になる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月30日付)は、「日本食品輸入、大半が規制撤廃 原発処理水放出に追い風」と題する記事を掲載した。

     

    2011年3月に起きた原発事故を受けて計55カ国・地域が輸入停止や条件付きの規制をかけていた。オーストラリアが14年1月、米国が21年9月に規制をなくし現時点でなんらかの規制をしていたのはEUを含む12カ国・地域になっていた。

     

    (1)「EUは27カ国で構成し、ひとつの地域として加盟国に統一の規制をかける。福島県の魚やキノコ類、宮城県のタケノコなど計10県でそれぞれ規制品目を定め、その他の都道府県の産品でも規制地域外で生産したことを示す証明書がいる。12年以上続いてきた措置が今夏をめどに廃止する。7月13日には岸田文雄首相がベルギーを訪れてEUのミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長と会談する。首脳間で意思疎通するタイミングで日EUの信頼関係を内外に発信する効果も狙ったとみられる。EUに追随してアイスランド、スイス、ノルウェーといった欧州域内の国なども規制を解除すると見込まれている。欧州は経済、安全保障の分野で日本と関係強化を進めており、食品規制の撤廃もその一環といえる」

     

    EU27カ国とアイスランド、スイス、ノルウェーが、福島県の魚やキノコ類、宮城県のタケノコなど計10県の農水産物輸入規制を撤廃することになった。

     

    (2)「農林水産省によると、11年に246億円だった欧州への農林水産物や食品の輸出額は事故を受けて12年に222億円まで落ち込んだ。その後、日本の食品は見直され、22年には680億円にのぼっていた。牛肉などの畜産物や貝の需要があり、輸出拡大へ一定の効果が見込まれる。EUの対応を踏まえ、輸入規制を課す国・地域は12から7前後に減る見通しだ。中国、ロシア、韓国、台湾、香港などを残すのみとなった」

     

    最初から輸入を禁止したのは韓国、中国、台湾、香港、マカオの5カ国・地域で、主に日本の周辺国だ。このうち台湾は昨年2月、福島および近隣の群馬や茨城など5県で生産された食品と農水産物に対する輸入禁止措置を解除した。キノコ類をはじめとする一部品目に対する制限措置だけを維持している。輸入禁止など厳しい規制は4カ国・地域だけだ。

     

    (3)「中国は福島県、宮城県、長野県、東京都などのすべての食品の輸入を停止している。野菜、果物は全国で事実上輸入を認めていない。日本側から規制解除を申し入れているが前向きな回答が得られていない。韓国は広い分野で日本との関係改善が進んでいるが、福島など8県の水産物に課している輸入規制については「安全性が立証できないと解除できない」と主張している。中韓のように輸入規制する国・地域は原発処理水の海洋放出に難色を示しているところと重なる。一部の国では根拠がない「偽情報」も拡散し、情報戦が起きている

     

    中国は、政府が「偽情報」を積極的に流す悪意をみせている。IAEA事務局長は、こういう中国へ科学データで説明しても無理と見たのか訪問を見送っている。将来、中国が原発事故を起こした場合、どのような弁解をするのか。興味がそそられる。

     

    (4)「林芳正外相は、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が747日に来日すると発表した。グロッシ氏は福島第1原発を視察し、海洋放出の包括的な報告書を公表する予定だ。日本政府はその後、放出時期を最終決定する。日本が科学的データをもとに放出の安全性を訴える過程で今回のEUの規制撤廃が国際世論にもたらす効果は大きい。首相は6月30日、処理水の海洋放出を巡り首相官邸に関係閣僚を呼んだ。安全性の確保や風評対策の徹底に加え、国内外へ丁寧な説明と情報発信をするよう指示した」

     

    科学データを信ずるか信じないかは、その国民に存在する科学的知識のストックに関係する。中韓が揃って処理水放出に反対したのは、科学知識の薄さを証明している。歴史的に、科挙試験(公務員試験)では、職人などに受験資格を与えない徹底的な「科学無視」を行った。その風習が、今も残っているとしか考えられない。科学知識に関心がないのであろう。

     

     

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    米国は今、貿易取引で中国への依存度をいかに引下げて、経済安全保障の効果を上げるかに腐心している。米国は、TPP(環太平洋経済連携協定)という器を作り上げながら、トランプ政権によって脱退するという「逆走」でせっかくの努力が水疱に帰した。米国が、TPPに止まっていたならば、米国の中国依存度は抑制できたはずだ。なんとも、理屈に合わないことをしたものである。

     

    現在の米国内経済は、製造業の設備投資も復活して国内失業問題が経済の足を引っ張る状況ではない。この際、初心に返ってTPPへ復帰して、中国依存度を引下げる努力をすべき時期にきたのだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月30日付)は、「中国依存の習慣を断て バイデン氏の通商課題」と題する記事を掲載した。

     

    中国には、軍隊から巨大な市場に至るまで、地政学的な影響力の源がたくさんある。おそらく最も強力だが最も評価されていないのは、世界のサプライチェーン(供給網)の中で中国が築いてきた要所としての立場だろう。

     

    (1)「ジョー・バイデン米大統領は、この状況がもたらす(米国の)脆弱(ぜいじゃく)性に対処するため、外交政策で多くの措置を取ってきた。その中には、中国に代わる製造拠点になることを目指すインドとの関係緊密化や、欧州との重要鉱物を巡る協定締結に向けた交渉が含まれる。奇妙なことに、バイデン氏は貿易協定というもっと明白な手段を使っていない。環太平洋地域の12カ国が参加する環太平洋連携協定(TPP)などに米国が加盟することや、米市場へのアクセスを外交手段として利用することを求める声が上がっているが、同氏はこうした要望を退けている」

     

    米国の経済安全保障は、TPP復帰で解決のめどがつく。米国という大市場がTPP加盟12カ国へ優先的に開放されれば、対米生産を増やすに決まっている。米国は、そういう道造り(貿易協定)を怠っている。

     

    (2)「中国は自国が加盟していない自由貿易協定(FTA)から、いかに利益を得られるのか。それは「原産地規則」を通じてだ。原産地規則は、特定の製品の価値のうちFTAのエリア外から来ている割合がどの程度までなら、関税撤廃の資格を得られるかを決める。トランプ政権が北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉をした理由の一つには、原産地規則が緩過ぎたため、北米外、とりわけ中国を起点とする自動車部品の比率が高まっていたことがあった。TPPに対しても、同様の議論が展開された。TPPはバラク・オバマ元大統領が交渉し、ドナルド・トランプ前大統領によって離脱が決まった。大統領候補だったトランプ氏を含むTPP反対派は2015年当時、原産地規則が緩いため、中国が加盟国でないにもかかわらず、中国製の材料や部品をかなり含む製品が米国に非関税で入ってくる可能性があると主張していた」

     

    トランプ氏は、この面で大きな間違いをした。国内の製造業の労働者を守るという名分でTPPを離脱したが、中国の利益を増やしているのだ。中国が最も恐れたのは、TPPによって中国が米国市場から閉め出されることだったのだ。トランプ氏は、中国へ「塩を送った」に等しい行為をしたのだ。

     

    (3)「サプライチェーンにおいて、(中国)ほど中心的な役割を果たしている国は他にない。中国は、世界の製品輸出のほぼ5分の1を占めており、5%未満だった2000年からシェアを拡大している。欧州連合(EU)によると、電気自動車(EV)のバッテリーに使われるリチウムイオン電池の66%、風力発電部材の半分、全レアアース鉱物の86%、ドローンの77%が中国から供給されている。国際エネルギー機関(IEA)によれば、太陽光パネル製造の80%以上を中国が占めている。中国は、医薬品有効成分や半導体製造用ネオンガス、CT検査などで使われる造影剤の主要供給国でもある」

     

    中国が、主要部材で軒並み50%以上のシェアを握っている。この状態は、中国のサプライチェーンが世界を支配していることを意味する。台湾有事が起れば、西側諸国は大打撃を受ける。当然、中国も輸出ストップで「返り血」を浴びる。

     

    (4)「欧米企業は、数え切れないほど多くの製造用原料を中国から調達している。米シンクタンク、アトランティック・カウンシルと調査会社ロジウム・グループの報告書によると、先進7カ国(G7)が2018年に中国から輸入した航空機部品(外国航空機に投入された部品を含む)の金額は12億ドル(約1700億円)だった。大半がローテク部品であるものの、急に代替することは困難だとこの報告書では指摘されている。その一例として、2022年の中国ロックダウン(都市封鎖)の時期と重なるワイヤーコネクター不足を挙げた。これは米ボーイング737の生産遅延の原因となった」

     

    グローバル経済が、中国経済を育てた形である。中国が、この事実をどこまで理解しているかだ。中国は、台湾侵攻を当然の権利として振り回している。だが、国際法は戦争を禁じている。それ故、開戦国は理由のいかんを問わず経済制裁を受ける羽目になるのだ。現に、ロシアがそういう局面にある。中国が、真の大国になりたいならば、台湾侵攻が関門になる。 

     

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