勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年07月

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    これまで、中國GDPの約3割も寄与してきた住宅部門が失速している。政府は、これをテコ入れして経済を軌道に戻そうとしているが、住宅飽和状態の中で難しい問題である。ただ、景気対策としてはこれ以外にめぼしいものもない状態で行き詰まり状態だ。

     

    中国人民銀行(中央銀行)は7月28日、第2・四半期末時点の不動産ローン残高は53兆3700億元(約7兆4600億ドル)となり、前年同期比0.5%増加したと発表した。

    個人の住宅ローン残高は、0.7%減の38兆6000億元だ。不動産部門全体の貸出は増えたが、個人の住宅ローンは0.7%減である。開発企業は借り入れを増やしたが、個人のローンは減っている。住宅需要減を示している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月28日付)は、「中国、住宅買い替え促進 ローン金利や頭金比率下げ」と題する記事を掲載した。

     

    住み替えを促す。規制を緩和して住み替え物件を購入する際の住宅ローン金利や物件購入額に占める頭金の比率を引き下げる。税負担も軽減する。消費者の買い替え需要を喚起し、低迷する不動産市場の立て直しを図る。

     

    (1)「不動産政策を担う倪虹・住宅都市農村建設相が、不動産会社や建設会社と座談会を開き、市場活性化策を明らかにした。住み替え促進は共産党が24日に開いた中央政治局会議で打ち出した「不動産政策の合理化」の具体策となる。中国では2軒目以降の購入時に適用するローン金利や頭金比率は1軒目より高く設定されていた。不動産への投機で市場が過熱するのを防ぐために規制を設けた。北京や上海など大都市では所有物件数に加え、過去の住宅ローンの利用歴も影響する。住み替えでも借り入れ記録があれば2軒目の購入とみなされ、金利や頭金比率が高くなる」

     

    2軒目以降の購入時に適用するローン金利や頭金比率は、1軒目よりも高く設定されている。これを引下げるというもの。「住み替え」名目であるが、2軒目も買ってくれということだ。中古住宅が値下がりしている中で、あえて新築でなくても中古での「住み替え」も可能である。苦し紛れという印象が強い。ここまできても、住宅以外に景気てこ入れ手段がないことを告白しているようなものだ。

     

    (2)「規制緩和では、借り入れ記録の有無を金利などの設定条件から外す。住み替えの場合は1軒目購入時の金利などを適用する。詳細は都市ごとに今後打ち出すとみられる。不動産シンクタンクの易居不動産研究院によると、北京で住宅を買い替える場合、金利は年5.25%から年4.75%まで下がる可能性がある。最高80%だった頭金比率も35%まで下がりうる。倪氏は1軒目についても金利や頭金比率の引き下げを進める考えを示した。住み替え時の税負担の軽減にも言及した」

     

    住宅を必要としている人は、あらかた購入済みと見られる。経済環境が、これほど悪化しているなかで、住み替えで新築住宅を購入する層がどれだけいるのか疑問だ。こういう目先のことを行わず、抜本的な経済対策の必要性が指摘されている。

     

    中国社会科学院金融研究所は、7月に発表した報告書「中国マクロ金融分析」において、次のような政策提言を行った。23年の財政赤字を1.3兆元(約26兆円)以上拡大し、家計や中小企業への補助金給付のほか、一部の地方政府の債務を国債発行に置き換えることを提言している。この提言は、無視されている。理由は不明であるが、26兆円をつぎ込んでも、景気テコ入れ策として不十分という判断であろう。そんな資金があれば、人民解放軍へつぎ込んで「台湾侵攻」準備をしたいという見解かも知れない。

     

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    2023-07-27

    メルマガ484号 習近平の選択「景気対策ゼロ」、軍事費優先で米国と長期戦の構え「自

     

     

     

    あじさいのたまご
       


    経済予測専門家は、これまで米国経済のリセッション(景気後退)が近いと予想してきた。FRB(米連邦準備制度理事会)が昨年以降、政策金利を5.25ポイント引き上げてきたからだ(26日は0.25ポイント利上げ)。しかし、景気が引き続き堅調な中で、専門家たちは景気後退が起らないという見方が半数を超えている。米商務省の27日の発表によると、米経済は4~6月期に年率換算で2.4%拡大と、予想上回る成長を達成した。 

    中国経済は、不動産バブル崩壊の後遺症で苦悩の度を深めており、米国との差を縮める機会を失う公算が強くなろう。今後、米国経済の堅調ぶりが明らかになれば、習近平氏は自ら掲げる「中国再興」目標が色あせることになる。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月28日付)は、「米景気後退は数年先? 成長いつまで続くか」と題する記事を掲載した。 

    FRBのジェローム・パウエル議長は26日、軟着陸は以前からの自身の基本的見通しであり、それに対する自信が強まったと述べた。連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、「われわれはこれまで、雇用市場に実質的な負担をかけずにディスインフレが始まったのを目にしてきた。それはとても良いことだ」と述べた。パウエル議長はまた、今年に入って景気後退を予想していたFRBのスタッフがもはや、そのような予想をしていないことを明らかにした。

     

    (1)「4~6月期の国内総生産(GDP)に関する報告も、軟着陸の見通しを後押しした。2.4%という成長率は長期的なトレンドを上回るものだ。主に企業の設備投資が寄与し、個人消費は1.6%増と低めの伸びとなった。FRBが重視する物価指数は、同四半期の食品とエネルギーを除くコアインフレ率がエコノミストの予想を下回り、年率3.8%となった。これはFRBの目標である2%を依然はるかに上回るものの、それでも約2年ぶりの低水準だ」 

    物価の落着きは、予想を上回るものである。この原因については、後で触れる。 

    (2)「景気後退を回避できるかどうかは、今回の景気サイクルがどんな類いのものかによって決まる。景気サイクルを追跡する学術組織、全米経済研究所(NBER)によると、1945年以降に景気拡大期は12回、景気後退期は13回あった。1981年までは景気拡大期は平均で3.7年続き、景気の過熱およびインフレに対応するFRBの利上げによって終わることが多かった。しかし、1981年に当時のポール・ボルカーFRB議長が深刻な景気後退を引き起こしたことで、インフレ率は長期的な低下傾向に入り、最終的に2%前後で安定した。FRBは84年と94年に、インフレ率が上昇する前に金利を引き上げた。その結果、米経済はさらに6年間成長を続けた」 

    1981年以降、インフレ率は長期的に低下傾向に入り2%前後で安定している。これに伴い景気拡大期はそれまでの平均3.7年が、1981年以降に6年以上の成長へと拡大した。予防的引き締めが効果を上げている。

     

    (3)「景気拡大の継続期間を長くした要因は幾つかある。グローバル化、労働力の堅調な伸び、技術の進歩がコスト低下圧力となった。米国民は以前より低いインフレ率を予想するようになり、賃金と物価もそれに沿った動きになった。原油価格の急騰も、より広範な賃金・物価上昇の悪循環を招かずに収束した。低いインフレ率の自律的な傾向は、インフレ抑制のために景気後退を起こす必要性が低下したことを意味した」 

    低いインフレ率の自律的な傾向は、インフレ抑制のために景気後退を起こす必要性が減って、景気拡大期を広げている。 

    (4)「1981年以降の4回の景気拡大期は6年から11年近くに及んだ。これらの景気拡大期を終わらせたのはインフレではなく、ほとんどの場合、金融市場で起きた衝撃だった。2001年にはITバブルの崩壊、07年には住宅市場と住宅ローンのバブル崩壊が起きた。2020年2月に終わった景気拡大期は史上最長の11年近く続いたが、その終わり方は異例だった。インフレでも金融危機でもなく、新型コロナウイルスの大流行とそれに伴うロックダウン(都市封鎖)が原因だった。それがなければ、景気拡大はまだ続いていたかもしれない」 

    1881年以降、景気拡大期は6~11年と長期化している。インフレが、原因でなく金融市場での「ショック」が景気拡大を妨げた。米国経済が、「安全運転」できる基盤が整ったことを意味する。個人消費のウエイト増大が、景気拡大期を広げているのであろう。

     

    (5)「現在の景気サイクルは、1981年以前の短めのサイクルと、同年以後の長めのサイクルのどちらに似ているのだろうか。後者なら、朗報がある。今は過去に見られたような、金融崩壊につながる脆弱(ぜいじゃく)性やバランスの悪さが見当たらない。金融システムは、コロナ禍に伴う2020年当初の経済活動の停止を乗り越えた」 

    現在の景気サイクルは、1981年以前か以後か、いずれかのパターンになるのか。 

    (6)「今回は、違うということを示す説得力のある根拠もある。今回はむしろ、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻の影響によるモノや輸送、コモディティー(商品)、労働力などの供給途絶の方がより大きな原因となっている。供給は回復しつつある。これまで半導体不足により抑えられていた自動車生産は、4~6月期に年率換算で20%急増した。供給の回復により、企業は設備投資を大幅に拡大することができた。旺盛な労働者需要は、供給の急増によって満たされている。労働市場の逼迫にもかかわらず、賃金・物価スパイラルはまだ見られていない。1981年以前とは異なり、国民の長期インフレ期待は2~3%前後で安定している」 

    現在のインフレ期待率は、2~3%で落ち着いている。このことから言えば、1981年以降の長期拡大型になっている。未だ数年は、景気拡大期が続くという結論になるようだ。
    次の記事もご参考に。

    2023-07-24メルマガ483号 さすが!米国経済 消費者の高い裕福度が支え「中国寄せ付けず」




     

     

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    サムスンの4~6月期の決算が正式発表になった。売上の30%を占める半導体の赤字は、スマホ(売上の37%)の停滞と重なって、14年ぶりの低収益に終わった。スマホは、高機能化しているので買い換え時期が長くなっている。アップルが、高級スマホでがっちりとシェアを固めているので、サムスンは苦しい状況に置かれている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月28日付)は、「サムスン、スマホも力不足 半導体不振で14年ぶり低収益」と題する記事を掲載した。

     

    韓国サムスン電子が14年ぶりの低収益に苦しんでいる。27日発表の2023年4〜6月期業績は営業利益が前年同期比95%減の6700億ウォン(約730億円)だった。半導体部門の巨額赤字を他部門の収益で穴埋めして辛うじて黒字を確保したものの、これまで補完役を担ってきたスマートフォン事業の収益力低下が鮮明になっている。

     

    (1)「サムスンは、折り畳みスマホの最新機種を公開した。最新機種「ギャラクシーZフォールド5」と「ギャラクシーZフリップ5」を8月に発売する。最大の特徴は、既存製品と比べて折り畳んだ時の厚さが2ミリメートル薄く、よりコンパクトにポケットに収まる点だ。Zフリップ5では背面ディスプレーの表示面積を3.8倍に広げた改良点もある。ただ、価格帯やカメラ性能、メモリー容量などは現行モデルと変わらず、消費者の購買意欲を高められるかは見通しにくい」

     

    折り畳みスマホの最新機種を公開したが、価格帯やカメラ性能、メモリー容量などは現行モデルと変わらない。技術的に開発の限界点に近づいている証拠であろう。

     

    (2)「スマホの買い替え頻度の低下はサムスンに限った問題ではない。スマホの技術革新の余地が年々狭まり、消費者の需要を喚起できなくなっている。消費者側が現状のスマホに満足し、機能拡充を求めなくなったという面もある。この汎用品(コモディティー)化の進展とともに安価な中国製スマホが台頭したことで、首位サムスンのシェアはじりじりと低下した。世界シェアは13年時点の31%から22年に21%まで下がった。スマホ部門の営業利益は13年の25兆ウォンから、22年に11兆6700億ウォンへと半減した

     

    サムスンは、スマホのシェアで世界1だが、地盤はしだいに低下している。かつての31%が、現在は22%へ低下。営業利益も25兆ウォンから半減以下の11兆6700億ウォンになった。落勢は明らかである。

     

    (3)「かつてサムスンは半導体とスマホ(携帯電話)の「二本柱」で稼ぐ収益構造だった。振れ幅の大きい半導体事業が不振の時はスマホ部門が補い、安定成長を続けた。さらにディスプレーと家電・テレビ部門を持ち、巨額の半導体投資の原資を生み出してきた。10年代に入るとディスプレーと家電・テレビが中国勢との激しい競争にさらされて収益力が低下。スマホでも中国勢の追い上げが続き、気がつけば半導体事業に依存する「一本足」の収益構造が鮮明になった」

     

    サムスンの収益構造は現在、半導体へ大きく依存する体制になった。世界市況の波にもまれるという難点も抱える。

     

    (4)「そこに直撃したのが、14年ぶりの半導体不況だ。23年4〜6月期の部門業績は、半導体が4兆3600億ウォンの営業赤字だったのに対し、スマホは3兆400億ウォンの黒字。ディスプレーが8400億ウォンの黒字、家電・テレビは7400億ウォンの黒字にとどまった。全体では何とか黒字を確保したものの、半導体以外の力不足が露呈した」

     

    サムスンの半導体は、非メモリーの汎用品であるから市況変動が極めて大きい。受注品のメモリー半導体が十分に育っていないことが悩みである。

     

    (5)「サムスンは新たな収益源を生み出そうと、汎用品化の波にあらがってきた。今回発表した折り畳みスマホもその一つだ。半導体やディスプレーを自ら手掛ける「垂直統合型」のサムスンが自社と協力会社の技術を持ち寄って19年に新市場を切り開いた。その後、競合他社も追従して市場自体は大きくなった。しかし技術革新の余地は早くも狭まり、サムスンにとって5代目となる23年モデルの機能拡充は小幅にとどまった。このまま機能の優位性を打ち出せなければ、収益がしぼむリスクがある」

     

    スマホは、新機能を打ち出せなければ、他社製品との差別化ができず、収益力がしぼむ危険性がある。アップルという強敵が控えているのだ。

     

    (6)「サムスンの主要事業は中国企業との競争にさらされ、長期的に収益力が低下傾向にある。それが今回の半導体不況で改めて浮き彫りになった。6月末時点で10兆円超の現金性資産も活用し、新たな収益事業の確立を急ぐ必要性が高まっている」

     

    中国の半導体事業は、米中対立の余波を受け拡張は困難である。このため、韓国国内で一大工場群を建設する動きに着手している。受注品のメモリー半導体が成長しなければ、サムスンは苦しい局面に立たされる。

     

     

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    化石燃料による温室効果ガス排出の引き起こした気候変動が、北半球全域で夏の熱波の激しさと期間を増幅させている。地球のかなりの部分は、もうすぐ人の住めない場所になりかねないとの懸念が警告されている。

     

    異常高温が、ギリシャのほか、スペイン、ポルトガル、イタリア、ブルガリア、ルーマニアなど欧州の南部や南東部の国々を襲っている。気温上昇と降雨減少で山火事が増え、砂漠化しやすくなっている。今後、温室効果ガス排出で地球温暖化が進む限り、こうした傾向は続くと予測される事態になった。

     

    英『BBC』(7月18日付)は、「なぜ今年の夏はこんなに暑いのか、世界各地で最高気温を更新」と題する解説記事を掲載した。

     

    英国では、6月の気温が観測史上最高を記録しただけでなく、文字通り破られた。今年6月の気温は、1940年の最高記録からさらに0.9度高かった。この差は非常に大きい。北アフリカや中東、アジアも同様に、これまでにない暑さに襲われている。ヨーロッパ中期予報センターが、今年の6月は史上最高に暑い月だったと見方を発表したのも、当然のように思える。

     

    (1)「英国気象庁と英エクセター大学の気象科学者、リチャード・ベッツ教授は、これらの記録は気候モデルの予測に則したものだと話す。「世界の気温が高いのは意外でもなんでもない」と、ベッツ教授は話した。「ずっと前から分かっていたことを、あらためて確認しているだけだ。大気中の温室効果ガスを増やすのを止めない限り、極端な現象は増え続けるだろう」。暑さについて考える時、私たちは日常で経験している大気の温度を考えがちだ。しかし、地表面の熱の大半は大気ではなく、海に蓄積されている。今年の春から夏にかけて、海水温も記録を更新している。たとえば北大西洋では現在、水面の温度が観測史上最も高くなっている。この海の熱波は特に英国周辺で顕著になっており、例年の水温から5度近くも上昇している場所もあるという

     

    なぜ、水温が5度も高くなっているのか。これは、大西洋の広範囲にわたって循環する海流に異変が起っている結果である。こういう研究成果が出てきたのだ。大西洋循環システムは、事実上、世界で最も強力な海流のひとつである。南極海からグリーンランドまで往復し、アフリカの南西海岸、米国南東部、欧州西部の間を行き来して、何万キロもの距離を流れている。

     

    この大西洋循環システムが弱まり、運び届ける水量と熱量が減少していることが、異常気象の原因として問題になっている。最近、頻繁に映像に捉えられている高緯度の海上で溶けた氷床は、淡水となって海中に落ち込んでいる。これが、問題の出発点だ。

     

    海水は、真水と違い(温度が低いほど、また塩分が高いほど密度が高くなるため)、水温が低く塩分濃度が高い地点(北大西洋と南極海)において深層への沈み込みが起こる。ところが現在、温かく溶けた氷床は真水に近いので、密度が低いため海底に沈む力が弱まっているのだ。これらが、大西洋循環システムの流れを損ねている可能性があると指摘されている。異常気象の原因と見られる。


    (2)「英ブリストル大学のダニエラ・シュミット教授(地球学)は、「北大西洋でのこうした異常な気温は前例がない」と話した。一方、太平洋の熱帯地域では、エルニーニョ現象が発達してきている。エルニーニョ現象とは、南米沖で暖かい海水が海面まで上昇し、海全体に広がることで引き起こされる繰り返し起こる気象パターンを指す。大西洋と太平洋で共に熱波が起きているなら、今年4月と5月の海面水温が、英気象庁での1850年の観測開始以来最も高くなったことも、意外ではないのかもしれない」

     

    不幸なことに現在、太平洋の熱帯地域ではエルニーニョ現象が発達している。こうして、大西洋と太平洋で同時に熱波が起きている。世界の海面水温が、4~5月に1850年以来の最高温度になった。

     

    (3)「海が通常より暖かくなると、大気も暖かくなると、英エクセター大学のティム・レントン教授(気候変動専門)は話す。レントン教授によると、温室効果ガスによって閉じ込められた余分な熱は海面を温める。この熱は深海に向かって下向きに混合される傾向があるが、ちょうどエルニーニョ現象のように、海流によって再び水面に戻されることもある。「このようなことが起きると、熱の多くが大気中に放出され、気温が上昇していく」とレントン教授は説明した。この例外的な暑さを異常だと思うのは簡単だが、絶望的なことに、気候変動の結果、記録を更新するような高気温が普通になっているのが真実だ」

     

    温室効果ガスによって閉じ込められた熱は、海面を温めているのでこれが、大気中に放出されて気温が上昇する。大西洋循環システムが弱まっていることは、海水をかき混ぜる力が弱くなって海面を冷やす力が衰えるのだ。こういう流れができてしまった以上、簡単に「炎熱」から逃れられなくなっている現実を知って、温室効果ガスを早急に減らすことが前提になった。

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    中国は、企業と家計が債務返済を優先させていることが判明した。消費者や企業の借り入れ意欲が低調であることだ。「流動性の罠」に落ち込んでいる。利下げを行い流動性を供給しても借入が増えない状況になっているのだ。中国の対GDP比の債務残高は、4~6月期に過去最大となったが、消費者や企業の借り入れ意欲は低調。経済への信頼感低下を示している。

     

    『ブルームバーグ』(7月27日付)は、「中国の債務総額、対GDP比で過去最大-家計・企業の借り入れは鈍化」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)と国家統計局のデータに基にしたブルームバーグの算出によれば、家計と企業、政府部門を合わせた4~6月の債務総額は対GDP比281.5%に上昇。1~3月(第1四半期)は279.7%だった」

     

    この債務残高には、地方政府の「融資平台」にからむ隠れ債務はカウントされていない。これを含めれば、350%を超えている。絶望的な水準である。

     

    (2)「債務残高の対GDP比上昇は、企業や家計のレバレッジ(借り入れ)縮小が引き起こすとされる「バランスシート不況」に中国が陥っていないことを示唆しているが、エコノミストらは借り入れの伸び鈍化がGDPの成長率を圧迫するとみている」

     

    このパラグラフは、意味不明のことを言っている。俗に言う「バランスシート不況」とは、資産と負債がアンバランスになっているので、これを正常化させるべく負債を減らすことだ。企業と家計の対GDP比で負債残高比率が増えていないことは、債務返済に向って第一歩を歩み始めたと解釈すべきである。中国は、「バランスシート不況」の一歩が始まっているのだ。それ故、経済成長率にマイナスとなる。

     

    (3)「北京にある政府系シンクタンク、国家金融・発展実験室(NIFD)は25日公表したリポートで、4~6月のマクロレバレッジ比率(総債務の対GDP比)が283.9%に上昇したと推計。ただ、家計債務の伸び率は過去20年平均の半分で、経済成長の将来見通しが立たないため企業は「様子見モード」に入ったと指摘した」

     

    下線部の記述は重要である。4~6月期の家計債務の伸び率が、「過去20年平均の半分」としている。これぞ、「バランスシート不況」の典型例である。

     

    『日本経済新聞』(7月15日付)は、「中国、貯蓄過剰が成長阻む」と題する寄稿を掲載した、筆者は、英エノド・エコノミクス チーフエコノミストのダイアナ・チョイレバ氏である。

     

    習氏が、2022年12月に新型コロナウイルスの厳しい規制を解除して以来、投資家は中国経済の回復の弱さに驚いている。米国の半導体輸出規制などが原因だと指摘する向きもある。実際の「主犯」はもっと身近なところにいて、中国政府もそれを知っているものと思われる。

     

    (4)「中国の家庭は貯蓄に熱心だ。公共サービスや社会保障が未発達のため、学費から定年後の生活費まであらゆる出費に備えてお金をため込む傾向がある。さらに最近では所得面の制約も加わった。GDPに対する賃金の割合を示す労働分配率は11~16年にかけて急上昇したが、その後は横ばいに転じた。家計が支出を増やすための財源として、賃上げに頼れなくなっていることを意味する。資産から得られるリターンにも期待できない。家計が投資から得る収入は米国がGDPの18%以上に達するのに対し、中国はわずか4%だ」

     

    中国の家計が、投資から得られるリターンは対GDP比で4%。米国の18%の4分の1以下である。

     

    (5)「中国の中間層の主な資産は不動産だ。一般家庭は値上がり益を狙いアパートを購入し、賃貸に出さず空き家のまま放置することが多い。家賃収入が家計の助けになるまでは時間がかかるだろう。そのうえ苦境の不動産セクターは供給過剰に陥り、値上がり益が保証されているとは言い難い。金融資産はどうだろうか。現在、株式と投資ファンドは中国家計の金融資産の58%を占める。最近の市況の乱高下により、投資家が安定したリターンを得るのは難しくなった」

    中国の家計金融資産の58%が株式関連である。現在の沈滞相場では、リターンは得られにくくなっている。

     

    (6)「習氏が「共同富裕」を追求する中、貧しい家庭への政府の資金移転が所得と支出を増やす手段として拡大される可能性が高い。そのような移転は資源の再分配にはなっても、政策立案者が望む家計所得と消費の持続的な成長にはつながりそうにない。中国が持続的成長を望むなら、習氏の共産党第一主義の影響を受けずに、経済の構造的欠陥を修正する必要がある。抜本的な軌道修正をできないかぎり、投資家は中国の家計が経済を救済すると期待すべきではない

     

    中国は、家計が豊かになる政策を行っていない。これは、個人消費を伸ばす力にならず、結局、中国の家計が中国経済をリードすることにはならないのだ。米国とは、全く異なっている。ここに、中国経済成長の大きな限界がある。家計を豊かにする。これが成長の原点である。

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