勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年07月

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    IMF(国際通貨基金)が、韓国の今年経済成長見通しを再び引き下げた。今年に入ってから3回目だ。IMFは7月25日、韓国の今年の経済成長率を1.4%と予想した。4月に出した成長見通しの1.5%より0.1ポイント下がっている。IMFは、今年に入って1月、4月、7月と3回成長見通しを出したが、発表のたびに下方修正している。輸出不振を理由に挙げてきたのだ。

     

    輸出不振は、韓国が製造業依存度の高いことを示している。これをカバーするには、サービス業のテコ入れである。だが、2012年7月に国会へ提案された「サービス産業発展基本法案」は、左派の反対で未だに棚上げされたまま。不思議な国である。

     

    「東亜日報」(7月26日付)は、「不況型成長の沼に陥った韓国、内需を活性化させて輸出空白を埋めるべきだ」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「第2四半期の韓国の国内総生産(GDP)が、第1四半期より0.6%伸びた。成長したのは事実だが、輸出より輸入が大幅に減ったことによって現れた典型的な「不況型成長」だ。消費と投資が同時に減少し、下半期の景気持ち直しの可能性を暗くした。最近、アジア開発銀行(ADB)が韓国の今年の成長率予測を1.3%に下げたのに続き、昨日、国際通貨基金(IMF)は1.4%と昨年1月以降5回連続で予測値を下げた」

     

    4~6月期は、消費・投資・輸出がすべて減少する不況型だったが、輸入が大幅に落ち込んだことで純輸出(輸出-輸入)が大幅プラスに。これで前期比0.6%成長を実現した。まさに、不況が生んだ「プラス成長」という奇跡だ。

     

    (2)「韓国の実質GDPは、第1四半期の0.3%に続き、2期連続で逆成長を免れた。しかし、前期の成長を牽引した消費は0.1%減少に転じ、設備・建設投資もマイナスだった。前期はプラスだった輸出も、1.8%減少した。それでも成長したのは、国際原油価格の下落で輸入が4.2%減ったためだ。輸出萎縮を招いた半導体不況、中国経済の低迷も回復時期が遅れている。結局、凍りついた消費や投資を蘇らせることができるかに、今年の経済の成績表がかかっている」

     

    このパラグラフは、4~6月期成長率の中身の説明である。輸出回復が困難であれば、内需をいかに増やすかが問われている。輸出=製造業である。製造業不振をカバーするには、サービス業の育成強化が課題になる。

     

    (3)「最近の消費・企業投資の萎縮は、民間にお金がないからではない。韓国銀行は、コロナ禍の3年間、韓国の家計に100兆ウォンを超える超過貯蓄が積もったと試算する。GDPの5%もある膨大な金額だ。パンデミックで消費する機会が減ったが、賃金所得などが着実に上昇した影響だ。コロナ禍が終わったにもかかわらず、このお金が消費拡大や負債返済に使われず、住宅市場の不安を増大させる引き金としてのみ働いている」

     

    コロナ3年間で、約10兆円の超過貯蓄が貯まっている。この一部は、日本観光への出費になっている。今年上半期(1~6月)に海外に行ってきた旅行客10人中8人は、下半期(7~12月)も出国の計画があることが分かった。最も人気のある旅行先は日本。上半期に海外旅行に行ってきた回答者の53%は、日本を訪問したと答えた。その次は、ベトナム(25%)とタイ(11%)などの順だった。下半期に行きたい旅行先としても、回答者の46%が日本を挙げた。

     

    (4)「輸出が萎縮した今は、韓国のサービス産業の水準を引き上げるのに良い機会だ。医療や観光、公演のような高付加価値サービス業に投資が行われるよう、政府が先頭に立って道を開かなければならない。12年間国会の敷居を越えられずにいる「サービス産業発展基本法案」の処理を急ぎ、生産性向上の足を引っ張ってきた規制緩和に拍車をかける必要がある。

     

    「サービス産業発展基本法案」とは、どんな内容か。2012年7月、サービス産業発展基本法案は、国会に提出された。法案の趣旨は、雇用創出と内需産業への波及効果が大きいサービス業を集中育成しようという法案だ。だが、この法案は医療民営化の土台として利用されるだろうという市民団体の主張と、これと呼応した左派政党の反対を受け、法案廃棄と再立法推進という漂流を繰り返してきた。この間に、韓国のサービス産業の発展は足踏み状態に陥ってきた。

    この法案は、保健医療を潜在成長力の大きい分野と位置づけている。左派系は、医療を営利行為にするなという「理念闘争」を挑んで反対している。法案では、医療の子会社にサービス業的な営業を認めるとしているが、「聖域侵犯」と見なされて反対が起っているのだ。この裏には、医師会という圧力団体が控えている。韓国医師会は、韓国最高の「英知」という誤解と錯覚をしている集団だ。事実、大学入試の成績はほぼ「満点組」である。

     

    テイカカズラ
       


    韓国の4~6月期GDPは本来、マイナス成長になるところ輸入が大幅に減った結果、プラス成長になるというまさに「僥倖」に恵まれた。つまり、消費・投資・輸出の主要項目はすべて減少したが、輸入が内需不振で大幅に減ったことで、「輸出-輸入」がプラスになって「前期比0.6%成長」になった。拾いものであったのだ。

     

    『中央日報』(7月25日付)は、「韓国、4~6月期の経済成長率0.6% 輸入減少でマイナス成長免れる」と題する記事を掲載した。

     

    純輸出が、1~3月期よりも増え4~6月期は0.6%成長となった。


    (1)「韓国銀行は25日、4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が速報値で前四半期比0.6%と発表した。最近の四半期別の経済成長率は次のような推移だ。

    2020年   1-3月期-1.3%

       4-6月期-3.0%

      7-9月期 2.3%

     10-12月期 1.3%

    2021年  1-3月期 1.8%

      4-6月期 0.9%

        7-9月期 0.1%

       10-12月期 1.4%

    2022年  1-3月期 0.7%

        4-6月期 0.8%

        7-9月期 0.2%

      10- 12月期-0.3%

    2023年1―3月期 0.3%

      4-6月期 0.6%」

     

    この成長率推移を見て気づくのは、22年に入って鈍化している。この裏には半導体輸出が不振を極めていることだ。韓国政府は、半導体の市況回復について楽観論を振りまいている。次に指摘するように、半導体の市況見通しは、世界的に慎重論が多い。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月5日付)は、「AIだけでは半導体不況を救えない」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「米半導体産業協会(SIA)のデータによると、2023年15月の世界半導体売上高は前年同期比21%減だった。近々好転する兆しもなさそうだ。TSMC(台湾積体電路製造)は23年通期売上高について、現時点ではドルベースで前年比約10%減少の見通しだと述べた。3カ月前に予想した1桁前半から半ばの減収率から拡大した」

     

    下線部のように、半導体の売上が近々好転する見込みはないという。韓国の楽観論は、何を根拠にしているか不明である。

     

    (3)「TSMCは現在、世界最大の年間売上高を誇る半導体企業だ。また同社は巨大ハイテク企業(アップルやアマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、アルファベット子会社のグーグルなど)のほか、製造施設を持たないエヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)など他の半導体大手が、社内で設計した半導体を受託生産する企業でもある。従ってTSMCの決算は半導体セクター全体の健全性を示す有力な指標となるが、同社の4~6月期決算は大きな影を落とした。フィラデルフィア半導体株指数は20日に3.6%下落し、構成銘柄の全てが前日から下落して取引を終えた」

     

    TSMCは、巨大ハイテク企業や製造施設を持たない半導体大手など、あらゆる半導体メーカーとつながりを持っている。それだけに、TSMCの見通しには偏りがない。

     

    (4)「半導体株は今年これまで好調が続いている。相場上昇の一因は、好不況の波が循環する半導体業界の回復をトレーダーが先取りしようとしていることにあるが、その大部分は、生成AI(人工知能)を巡る過剰な宣伝に起因している。生成AIは「チャットGPT」などのチャットボット(自動会話プログラム)を動かす技術であり、強力なコンピューティング能力と画像処理半導体(GPU)を必要とする」

     

    半導体株価は、業績よりも人気先行である。この点を割引しなければならない。

     

    (4)「TSMCは7月20日、現在の売上高に占めるAIの割合は6%だが、スマートフォンは33%だと説明した。後者を巡る状況は依然として厳しいようだ。ビジブル・アルファがまとめたアナリスト予想によると、アップルのiPhone(アイフォーン)販売台数は23年9月期に4%減少する見通し。そのような落ち込みは、通期の販売台数としては4年ぶりとなる。TSMCはAI事業の急成長(今後5年間の年平均成長率50%)を見込んでいるが、同事業も深刻な生産上の制約を乗り切る必要がある。こうした問題は主に、半導体を他の部品と一緒にパッケージングする生産工程の最終段階で生じる」

     

    TSMCは、現在の売上高に占めるAIの割合が6%。スマートフォンは33%である。この売り上げ構成から見てもスマホが3割を占める。今年の業績予想は、ドルベースで前年比約10%減少の見通しだ。3カ月前に予想した減収率よりも拡大している。韓国もこの現実を見るべきだろう。

     

     

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    中国外相(当時)の秦剛氏が突然、表舞台から姿を消してから1カ月経った。何ら説明もなく多くの憶測が登場したが25日夜、後任として前任者の王毅氏の復帰が発表された。一体、秦氏の身の上に何が起きたのか。民主主義国ではあり得ない「人事交代劇」である。 

    『日本経済新聞 電子版』(7月26日付)は、「中国外相に王毅再登板 『習近平は独裁者』絡む米中政治劇」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。 

    中国共産党内で重要人物が消え去る時、様々な理由がつく。今回は当初、強調されたのが秦剛の「体調」「身体上の問題」だった。だが、こうした説明は問題の本質とさほど関係ない例も多い。案の定、25日の外相交代発表でも健康問題との指摘は一切なかった。しかも、共産党総書記で国家主席の習近平が人事の主席令に署名したと公表した。人事の最終決着の責任が習にあることを明確にしているのは、注目に値する。つまり、秦剛にバツを付けたのは、習その人なのだ。

     

    (1)「共産党内で要人更迭に至る事件の大半は、中国共産党内の「政治問題」である。最近の特殊な政治状況下では、その大部分が、習の考え方ひとつで最終的な扱いが決まる。秦剛は2022年秋の共産党大会の後の年末、実力ある先輩らを抑え、当時56歳という若さで外相に抜てきされた。しかも、今年3月には副首相級の国務委員にも昇格していた。共産党の人事システムでは、昇格の際、厳格な事前の「身体検査」がある。国家安全系統が実施する調査は、日本の組閣で僚候補者らが通過しなければならない「身体検査」とは比べものにならないほど念入りだ。秦剛の場合、赴任国の現場にも裏の調査が入っているはずだ。もし秦剛に腐敗、汚職、女性問題があれば、とっくの昔に上層部へ報告されている。つまり、22年の段階では上層部が問題にするような案件がなかったということになる」 

    秦剛氏については、外相就任の際に入念な身元調査がされているはずだという。スキャンダル否定説である。 

    (2)「最近の米中関係をよく知る関係者は、「(外相交代に至った)今回の問題の焦点は、対米関係のコントロールと、(秦剛)自身の実力だろう」と鋭い分析を下す。秦剛が米国との困難な関係のコントロールができず、今回の謎の失踪と絡んでいるという見立てをするのは興味深い。確かに秦剛が姿を消す直前には、大きな出来事が起きていた。悪化する米中関係と、それが中国の内政に及ぼす影響は多大だった。それは、米大統領バイデンが、自らの演説で、習近平を「独裁者」と表現したことだ。6月20日、西部カリフォルニア州での選挙イベントでの出来事である。問題はバイデン発言のタイミングだ。「(共産党と習にとって)本当に最悪だった。(内政上、トップの)体面を大きく傷付けてしまった」。別の識者も、似た見方を披露する」 

    秦剛氏が突然、身を隠した本当の理由は、米大統領バイデン氏が習氏を「独裁者」と呼んだことにあるという。

     

    (3)「秦剛が姿を消す1週間ほど前だった6月19日、習は北京の人民大会堂で米国務長官のブリンケンと会談していた。だが、その際の席の配置が異例だった。習はコの字に並ぶ机の議長席の位置にひとり着席。ブリンケンら米国側と、王毅、秦剛ら中国側がそれぞれ向かい合って習の講話を聞く形になった。これは中国では2部門の部下らが上司に報告するスタイルだ。ブリンケンは習の部下の位置に座る屈辱を味わった」 

    習氏は、米国務長官ブリンケン氏と会見した際、ブリンケン氏を「部下扱い」する席順にした。これが、バイデン氏の発言に繋がったというのだ。 

    (4)「当然だが、米側も黙ってはいなかった。「太平洋の向こうからバイデン自らがすぐに『(習は)独裁者』と叫ぶことで反撃したのだろう」。事実関係がどうであれ、中国側では、バイデン発言は意図的だったという受け止め方が多い。習と、その側近集団は、ブリンケンを事実上、習にひざまずかせることで、世界に響きわたる習の絶大な権威を一般国民に示したかった。これにより、期待される習の次期訪米は、中国から頭を下げに行くのではなく、米側からのたっての要請だという雰囲気を醸し出したかった。この中国側シナリオは、中国内の報道からも透けて見える」 

    習氏は、すでに「皇帝」の地位にある。その皇帝へ、バイデン氏は「独裁者」とからかってきた。中国には、メンツを潰されたとして一大事である。

     

    (5)「中国上層部には、「トップの権威があれほど傷付けられたのに、担当部門(中国外務省)は有効な反撃をできなかった」という不満がたまっていったという。これは、半ば「八つ当たり」だ。しかし、現在の中国政治ではよくある構図だ。習の絶対的な権威は、たとえ米大統領であろうと侵してはならない聖域になりつつある。それが昨今の「習近平新時代」の雰囲気だ」 

    中国上層部は、習氏が「独裁者」呼ばわりされたのは、中国外交部が弱腰の結果という認識になっているという。 

    (6)「このタイミングでバイデンに「習は独裁者」と言わせてしまったことに代表される「不始末」は、いったい誰の責任なのか。そして、対米関係をコントロールできないのは誰のせいなのか。本来、誰のせいでもない。だが、中国のヒエラルキーの中では誰かが責めを負うことになりかねない。「その代表が、彼(秦剛)だったという可能性は十分ある」。そんな指摘が内部から間接的に漏れ伝わってくる」 

    結局、バイデン氏の「習近平独裁者発言」が、秦剛氏を失脚に追込んだ理由とされている。これが真実とすれば、中国共産党は「短命」で終わるであろう。合理性の一片もないからだ。

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    中国からイタリアまで、各地で過去最高気温となっている。専門家は、記録破りの猛暑の時代に入った可能性があると警告する。その影響は、夏の観光業にとどまらない。気候変動の影響で高温の日が増えることから、建設、製造、農業、運輸、保険など、様々な業界が事業運営の修正を迫られつつあるという。 

    科学者は、0.1度単位の温暖化の進行とともに、熱波を含む異常気象は頻度と強度を増していくと明言している。7月、世界の平均気温がすでに産業革命前より少なくとも1.1度上がった状況の中で、米国や欧州アジア一帯が「ヒートドーム」に覆われて猛暑となっている。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(7月22日付)は、「猛暑の時代、熱波は実体経済を変える」と題する記事を掲載した。 

    猛暑が経済への重大な脅威となる大きな理由の一つは、人が働くことが難しくなることだ。気温の上昇は生産性の低下をもたらす。英国機械技術者協会のローラ・ケント氏は、暑くなると人間は通常、「作業が遅くなり、リスク許容度が高まり、認知機能が低下する」と説明する。同協会は最近、産業界が猛暑にいかに適応すべきかについて報告書をまとめた。 

    (1)「国際労働機関(ILO)の報告書は、暑すぎて働けなくなったり、能率が下がったりすることにより、2030年までに世界の年間総労働時間の2%強が失われていると試算している。気候行動の推進に取り組む市長の国際ネットワーク「C40」で気候レジリエンス(強じん性)ディレクターを務めるサチン・ボワト氏によると、現在、世界の都市部で約2億人が猛暑のリスクに直面しており、その数は50年までに8倍に増える見通しだ。だが、酷暑時に就業を停止すべき上限気温を定めている国はほとんどない。例えば、これまでの歴史において猛暑があまり問題にならなかった英国では、寒冷時に就業の停止が推奨される下限気温は定められているが、上限はない」 

    下線のように、酷暑で労働時間の2%強が失われるという。「炎熱コスト」である。

     

    (2)「猛暑で最大の打撃を受けるのは、最貧困層の人たちだ。暑さへの対応能力が低いためだ。賃金が平均水準を下回る傾向にある職種に生産性のロスが集中することが多い。ILOによると、屋外で働く労働者、特に農業や建設業の働き手は暑さにさらされることで死亡・けが・病気のリスクが高く、生産性が低下することも多い。学術調査によると、米国では1992〜2016年の間に、暑さに関連した原因で死亡した建設労働者は285人に上る。暑さによる全米の労災死亡者の約3分の1を占める。だが、猛烈な熱波が頻発する中で、屋内労働者のリスクも高まっている。その中には、空調設備のない工場や作業場で働くことも少なくない世界6600万人の繊維産業の労働者が含まれる。その多くは、最高気温の水準がより極端で危険になっているグローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)の労働者だ」 

    労働環境の悪いところで働く人たちへしわ寄せが行くリスクが高いという。クーラーなどの設備が不足しているからだ。 

    (3)「調査によると、21年にカナダ西部ブリティッシュコロンビア州が異常な熱波に見舞われた後、補償を必要とする暑熱絡みの労災は前3年間の平均と比べて180%増加した。その3分の1強を屋内労働者が占めた。それまでの割合は平均20%だった。労働者に対する猛暑の影響は今や「人権問題」だと、イタリアを拠点に活動する環境経済学者のショウロ・ダスグプタ氏は指摘する。労働者保護政策を強化する必要があるという。「安全で健全に働ける労働環境は人権の一つであり、それが侵害されている」と同氏は付け加えた。「政府が介入する必要がある」と強調する」 

    暑熱絡みの労災の3分の1強は、屋内労働者が占めているという。劣悪労働環境が災いの原因をつくっている。

     

    (4)「各業界は、猛暑で労働者の生産性に影響を受けるだけでなく、事業拠点の配置や操業方法など、事業のあり方に関わる部分で再検討を迫られている。建設業は最も抜本的な変革が必要な分野の一つかもしれないと語るのは、英国の業界団体、公認建築生産監理協会(CIOB)で政策を専門とするデイジー・リースエバンス氏だ。「異常気象になると、建設現場では作業に影響が出るだけでなく、資材も実体的な影響を受ける」。例えば、高温になると鋼材にひずみが生じることがある。また、コンクリートは固まるのが大幅に早くなり扱いにくくなる。ひび割れが発生しやすくなり、強度と耐久性にも響く。流し込む前にコンクリートが変質するリスクも高くなる」 

    炎天下で働く建設現場では、鋼材やコンクリートの強度と耐久性に問題が起るという。 

    (5)「これらの要因が相まって建設業のコストが膨らむとリースエバンス氏は説明する。建設会社は、鋼材のひずみなどで資材の再発注を強いられる場合もある。再調達が必要になった企業同士が競い合うと材料価格がつり上がる。同氏によると、契約書に記載された引き渡し日を守れないことで発生する違約金も含めて、工事の遅れもコストアップの要因になる。製造業も大きな変革を目前にする業界の一つだ。工場や倉庫は「今のような気温や今後予想される気温を前提にして設計されていない」と機械技術者協会のケント氏は言う。そのため、想定外の高温になると、機器が正常に作動しなくなったり、寿命が早まったりして、操業コストが上昇する可能性がある。「この業界では、ほとんどの企業が何らかのかたちで加温や冷却の手段をとっている」とケント氏は話す。「ある温度まで調整する場合、今までよりも気温が上がれば、その分難しくなる」という」 

    想定外の高温になると、機器が正常に作動しなくなったり、その寿命が早まったりして、操業コストが上昇する可能性があるという。炎熱地獄は、あちこちへ問題を波及させる。

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    歴史は繰り返すとされるが、日英同盟(1902~23年)解消から100年、再び日英は「準同盟」の関係を結ぶ。日英同盟は、旧ロシアの軍事的進出に対抗するものであった。今回の「準同盟」は、中ロの膨張政策を抑止すべく日英伊の三カ国が次世代戦闘機の共同開発で合意したことだ。戦闘機では約40年間、日英が共同歩調を取ることになるので、「準同盟」とされる理由だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月25日付)は、「日英安保で接近、40年先へ準同盟 次期戦闘機で『結婚』」と題する記事を掲載した。

    「短い恋愛ではなく結婚する。40年のプログラムで後戻りはできない」。ウォレス英国防相は3月の来日時にこう語った。

     

    (1)「2022年12月にイタリアを含む3カ国で次期戦闘機を共同開発すると合意した。日本は同盟国の米国以外と初めて戦闘機をつくる。英国とは次期戦闘機の共同開発で、40年先まで続く結束を打ち出す。日英首相は23年1月に自衛隊と英軍が共同訓練しやすくする円滑化協定にも署名した。日本と欧州の安全保障での協調が目立つ。岸田文雄首相は7月、日本の首相として初参加だった22年に引き続いて北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した。「日NATO協力を新時代の挑戦に対応し、新たな高みに引き上げる」。首相は12日にNATO首脳会議やストルテンベルグNATO事務総長との会談を終え、こう強調した」

     

    従来、アジアと欧州は遠い関係にあった。それが、ロシアのウクライナ侵攻と中国のロシア支持が、アジアと欧州の距離を縮めている。英国はEUを離脱して、TPP(環太平洋経済連携協定)へ正式加盟するという環境変化もあり、日英が「準同盟」へ進む条件が熟した。英国は、中国から香港に関する「一国二制度」の協定を破棄されたこともあり、中国へは格別の警戒心を向けている。その点でも、日英が共同歩調とる理由になった。

     

    (2)「日欧接近の象徴が日英伊による次期戦闘機となる。24年までに基本設計を固めて35年の配備を目指す。そこから30年ほどは主力戦闘機として使う。あわせて40年先を見据える。各国の投資額も今後10年で計250億ポンド(およそ4兆5000億円)規模に達する見込みだ。途中で物別れするわけにはいかない。地理的に離れた日欧が安保で連携するのは武力による一方的な現状変更をウクライナ侵攻で眼前にしたためだ。首相は「欧州とインド太平洋の安保は不可分だ」と唱え、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化へ日欧協力を急いだ」

     

    次世代戦闘機の共同開発は、戦闘機の補修や部品の供給もあるので長期の協力関係が前提になる。100年前の日英同盟は、米国が執拗に英国へ終了を迫った背景がある。米国が、日本の軍事的プレゼンスを警戒した結果だ。そのときすでに米国は、日本との開戦を前提に準備をしていた。

     

    (3)「防衛省幹部は、「日英には一時代をともにする覚悟が双方にある」と語る。第1次世界大戦の開戦から第2次世界大戦の終結までが30年程度、第2次世界大戦終結から冷戦終結までが40年超だった。最重要装備を通じた40年先を見据えた協力は切っても切れない「準同盟」を意味する。岸田首相は21年10月の就任後、最初の外国訪問先に英国を選んだ。戦後最長の連続在任期間だった外相時代に最も気が合ったというジョンソン氏が当時英首相だった。個人的な信頼関係をテコに日英を経済だけでなく安保でも欠かせない関係に育てた」

     

    日英は、ともに皇室(王室)制度を擁していることや、日本の政治制度は英国を模範としたこともあり親近感が強い。

     

    (4)「英国にとっても欧州連合(EU)離脱後に「グローバル・ブリテン」を掲げてインド太平洋地域への関与を強める流れに沿っていた。5月に広島市で会談した岸田首相とスナク英首相は広島アコードを出し「我々は傑出して緊密なパートナーだ」とうたった。ロシアと対峙する米欧の軍事同盟のNATOとの間ではサイバー分野などでの新たな協力計画を策定した。この後にEUとの定期首脳協議も開き、安保に関する外相級戦略対話の創設を決めた。軍事力を増強する中国の抑止のために日本は欧州各国とも距離を詰める」

     

    日本は、中国への抑止力を強めるためにも英国を初めNATOとの関係強化が必要になっている。共同防衛構想は、防衛が経済的に「安上がり」で済む手段である。NATOは結成以来、一度も戦闘行為に巻き込まれていないことが、それを証明している。

     

     

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