勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年08月

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    習近平氏は「皇帝」になった以上、あらゆる政策の決定権を握っている。経済政策については、自分の経験から割り出した「耐乏主義」が国家を強くすると思い込んでいるのだ。これが、現在の経済的混乱を招いている最大の理由である。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月31日付)は、「中国経済再生を阻むイデオロギー」と題する記事を掲載した。 

    中国の経済政策を動かすのは今やイデオロギーとなった。約50年前に西側に門戸を開いて以降、その傾向は最も強まっており、指導部は混迷する経済に活を入れるための有効な手を打てずにいる。エコノミストや投資家らは、国内総生産(GDP)を押し上げるもっと大胆な取り組みを中国政府に求めている。特に個人消費の喚起策を、必要なら新型コロナウイルス下で米国が導入した現金給付を実施すべきだという。

     

    (1)「中国が米国に近い消費者主導型の経済への移行を加速させれば、成長が長期的に持続可能となる、とエコノミストらは指摘する。だが最高指導者である習近平国家主席は、欧米流の消費主導による経済成長に対し、哲学的で根深い反対論を抱いている。政府の意思決定をよく知る複数の関係者はそう話す。習氏はそのような成長は浪費が多く、中国を世界有数の産業・技術大国に育てるという自身の目標とは相いれないと考えているという」 

    習氏は、欧米流の消費主導の経済成長に反対している。これは、自らが成長した時期が貧しかったことを懐かしむアナクロニズム(時代錯誤)である。こうした習氏の「迷妄」が、若者の高い失業率を生んでいる理由だ。 

    (2)「習氏は、中国の財政規律を守るべきだとの信念を持つ。同国が抱える重い債務を考えればなおさらだ。そのため米国や欧州のような景気刺激策や福祉政策を導入することは考えにくい、と先の関係者は言う。市場志向を強め、数年かけて中央集権化を進めた経済を逆回転させることも、同様に考えにくい。中国は消費者向けインターネット企業などの民間企業への締め付け――この締め付けが民間投資の弱体化につながった――を最近緩和しているが、これらの企業を無秩序に拡大させることには依然として懐疑的だ」 

    習氏は、財政規律を守るべきという信念を持っている。これは正しいことだが、不動産税(固定資産税)も相続税も存在しないことで財政規律を保てるのか。だから、地方政府は不動産バブルに依存した土地売却収入で財源をつくってきたのだ。きれいごとばかり並べないで、政策の一貫性が重要である。

     

    3)「習氏は共産党中央委員会機関紙「求是」に掲載された8月16日付の演説で、欧米流の景気刺激策を避ける政府の意向を明らかにした。「忍耐」を促し、欧米の成長モデルに追随することは避けるべきだと強調した。党中央党校の機関紙『学習時報』も消費者に現金を配ることに明確に反対する記事を掲載した。「このような措置は消費をある程度刺激する効果があるものの、その代償はあまりにも大きく、中国の場合は絶対に実行不可能だ」と述べられている。学習時報の8月16日付記事には「投資は目先の需要を生むだけでなく、成長の真の原動力となる」と書かれ、長期的な投資主導モデルの利点を強調している。」 

    このパラグラフは、衰退する中国を予告する経済政策の基本方針を示している。個人消費でなく、インフラ投資主導の経済成長が正しいと信じ込んでいるからだ。国連の人口推計によれば、2100年の中国人口は8億人を割っている。中国全土に張り巡らした高速鉄道は利用者が減って、ぺんぺん草が生えるだろう。過剰なインフラ投資には、莫大な維持費がかかる。中国は、これだけでひっくりかえるのだ。

     

    4「習氏は演説や著作の中で、中国は外国への依存を減らすことに注力すべきだと説き、消費促進のために政府が家計を過剰に支えることはリスクが高いと警告してきた。22年に『求是』に掲載された記事では、地方政府が「行き過ぎた保証」をすれば、中国は「福祉主義」に陥りかねないと警告した。UBSによると、中国の家計は昨年、可処分所得の33.5%を貯蓄に回しており、19年の29.9%から上昇した。中国の家計貯蓄率は一貫して世界有数の水準にある。シンガポール国立大学東アジア研究所のバート・ホフマン所長によると、中国の家計が社会保障制度から受け取る給付金はGDPの7%に過ぎず、米国や欧州連合(EU)の約3分の1にとどまる」 

    下線部は、経済活動の本質が何かという原点についての認識を問う問題である。習氏は、個人よりも国防重視という視点である。台湾侵攻のためには、個人消費など吹き飛ぶ問題であろう。福祉主義を排撃している。恐ろしい人物が、国家主席になったものだ。

     

    5)「香港大学の陳志武教授(金融論)によると、中国の政策立案者たちは長年、国有企業に資源を振り向ける方が、国民への現金配布よりも迅速かつ確実に成長を生み出せると考えてきた。消費者は国有企業よりも気まぐれで制御が難しく、たとえ現金を受け取っても支出を増やすかどうか定かでない、というのが彼らの見方だという。また中国当局者は国際機関の担当者に対し、文化大革命の時代に習氏自身が乗り越えた数々の苦難――当時は洞窟で暮らしていた――が、緊縮から繁栄が生まれるという思想の形成に役立ったと話していた。「中国人からのメッセージは、欧米流の社会的支援は怠惰を助長するだけ、ということだ」。国際機関の会合でのやり取りを知る関係者はこう語った」 

    習氏が、中国共産主義青年団(共青団)出身幹部を一掃したのは、彼らが欧米経済学に共鳴していたからだ。ここでも、習氏は民族主義を貫いて「富国強兵」を目指している。習氏がいる限り、中国の不幸は続く。

     

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    偽りの繁栄に重い代償

    問題の根源は習近平氏

    国民が最大の被害者へ

    データの示す異常国家

     

    習近平国家主席は、例外である3期目の就任を実現した。中国経済に大きな混乱を生む原因のすべてはここから始まっている。現在、「無理が通れば道理が引っ込む」の喩え通りのことが起っているのだ。 

    習氏は、2012年に国家主席に就任以来、一貫して3期目を目指していたことは明らかである。それには、GDPを意図的引き上げて習氏の業績とすることである。その結果、不動産バブルを引き起こして収拾がつかない事態を招いている。この不動産バブルは、最終的に家計へしわ寄せしており、可処分所得の100%以上が消費者ローン負担という想像もできない事態へ突入している。この点が、日本の平成バブル崩壊と大きく異なる点だ。 

    前記データは後で示すが、胡錦濤政権時では可処分所得の消費者ローン負担を50%未満に抑えて家計にゆとりを残す配慮をしていた。習氏は、GDPを押し上げる目的で消費者ローンを、不動産値上がりのテコへ100%使ったのだ。それが、習氏の終身国家主席への近道と判断したのであろう。習氏の唱えた「中華の夢」は、家計を犠牲にした「あだ花」であったのである。

     

    この独りよがりの「中華の夢」は、花咲くどころかしぼむリスクが大きくなっている。不動産バブル崩壊が招いた景気失速によるものだ。不動産バブルという「不条理な種」は、中国経済を混乱の坩堝に陥れ、再起不能なまでの打撃を与えるであろう。それが、世界のバブル崩壊の歴史が示す史実でもある。ただ、例外が一つある。1929年の世界恐慌を引き起こした米国が再起したことだ。これは、果敢にイノベーションへ取組んだ成果である。現在の中国は、「閉鎖経済」を志向している。米中対立で真逆の道を進んでいるのだ。 

    偽りの繁栄に重い代償

    中国が、GDP世界2位になった2010年は、生産年齢人口(中国の場合15~59歳)比率がピークになった年である。中国は、この年を境にして生産年齢人口比率が右肩下がりの状態になった。これは、「人口オーナス期」と呼ばれる状態である。潜在成長率が、低下するというのは世界共通の認識である。習氏は、これに逆らって不動産バブルをたきつけ、家計の可処分所得のすべてをローンで吸い上げるという「暴挙」を行った。 

    この禍根がどれだけ大きいか。後に尾を引くかは、説明するまでもないであろう。家計の可処分所得が、ローン支払い後ゼロの状態ではモノを買う余力がないのは当然である。現在の消費不振は、すべてこれで説明がつくであろう。 

    習氏が21年、国家主席3期目を目指すにあたり解決すべきテーマは次の3点であった。

    1)2020年の合計特殊出生率が、「1.30」と予想外に低い事実が判明した。

    2)不動産価格の暴騰が国民生活を圧迫しているので是正する。

    3)台湾統一を国民に約束する。武力統一もありうるという強硬姿勢をみせる。

     

    以上の3点は、習氏が国民に向けた国家主席3期目への「公約」であった。現時点からみれば、これらがすべて「逆噴射」する形で中国を襲っている。簡単に説明しておきたい。 

    1)合計特殊出生率は、人口横ばいを維持するには「2.1」が必要である。20年の「1.30」はこれに比べて極端に低く、米国と共に世界の「G2」を張るには「格落ち」する事態になった。そこで習氏が取った政策は、国民生活のゆとりを奪っているのがITゲームと学習塾であると即断。この両者の取り潰しを命じる突飛な行動に出た。これが、経済発展にブレーキになるという発想がなかったのだ。こうして、若者の職場が奪われ高い失業率を招いている。 

    2)習氏は、不動産開発企業の際限ない発展が、住宅価格高騰を招いていると判断。2020年から不動産開発企業に財務上の「3つのルール」を課した。この政策は間違いでないが、あまりにも「性急」過ぎた。5年程度の期間を設けて、財務内容の改善をさせるべきであった。それが、2021年の夏に「即時実行」を迫った。これで、例の中国恒大集団のデフォルトリスクが始まった。不動産バブルのソフトランディングでなく、ハードランディングという最悪の事態となった。

     

    3)台湾統一は、最も民族感情に訴えるテーマである。習氏は、国家主席3期目を確実にすべく、武力統一を強調しすぎた。これが、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻とも重なり、欧米から台湾侵攻を極度に警戒され始めた。米中対立をより厳しくさせたのである。中国経済の発展には、不可欠な先端半導体の輸入禁止措置を受けるという事態を招いている。米国がこういう措置に出たのは、中国が軍事転用して台湾侵攻を助けることを忌避しているからだ。 

    問題の根源は習近平氏

    以上の3点を振り返ると、中国経済が陥っている問題のすべては習氏の国家主席3期目に発していることが分る。習氏は、通俗的な言い方をすれば中国の「貧乏神」という位置づけになろう。中国憲法の定めるとおり、国家主席の任期を2期10年にしておけば、今の中国の混乱は避けられたであろう。改めて、トウ小平の慧眼に最敬礼するほかない。(つづく) 

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

    テイカカズラ
       

    不動産開発大手の中国恒大集団は、21年から経営危機の縁にある。同じ大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)が今、にわかに経営危機に襲われている。16月期連結決算は、最終損益が450億〜550億元(約9000億〜1兆1000億円)の赤字となる見通しという。碧桂園は、学校とマンションを同時に建設し、マンション価格を引き上げるという独特の経営モデルをつくり挙げた。

     

    この経営モデルは、中国社会の教育熱を巧みに利用したものであ。有名大学進学への可能性を取り込んだことから、碧桂園のマンションは高い人気を得てきたが、不動産バブル崩壊という大波には抗しがたく、8月に債券の利息支払いができず9月まで延期した。これでも不可能となればデフォルトが確定する。今や、瀬戸際に立たされている。

     

    「日本経済新聞 電子版」(8月30日付)は、「碧桂園、赤字1兆円見通し 住宅・学校の一体開発綻ぶ」と題する記事を掲載した。

     

    中国南部の広東省仏山市。碧桂園が1992年に開発した住宅プロジェクト「順徳碧桂園」のエリア内に、広東碧桂園学校がある。同校は北京市の名門校との提携を売りにし、内外の有名大学への進学実績で知られる。これが子どもを通わせたい親らが敷地内の住宅を買う理由となってきた。

     

    (1)「碧桂園と恒大はかつて、中国の不動産販売で1位、2位を争ってきた。恒大が主に中所得層をメインターゲットにする一方、碧桂園は教育熱心な高所得層向けの物件を収益の源泉としてきた。最大の武器が学校・幼稚園運営の博実楽教育集団(ブライト・スカラー・エデュケーション・ホールディングス、旧碧桂園教育集団)だ。17年には米株式市場に上場させた。本体が開発したマンション群付近に、全寮制のインターナショナルスクールやバイリンガルスクールなどを次々と開校。優先的な入学権の付与や学費割引で優遇し、住宅販売につなげた。だが、過熱する不動産市場の抑制に動いた習指導部によって経営は暗転した」

     

    かつて、不動産開発企業で1位、2位を競ってきた企業が相次いで経営危機に陥っているのは、極めて象徴的である。拡大路線が破綻したからだ。碧桂園は、住宅と教育をワンセットにするという斬新なアイデアが大当たりした。子供を良い学校に入れる目的で引っ越してきたケースが報じられていたほどだ。こういうアイデアは、日本人には不可能だろう。

     

    (2)「独自モデルを築いた同社も資金構造は同業他社と変わらない。土地使用権の購入や建設・資材会社への支払いに多額の資金を必要とする。将来の住宅引き渡し不能を恐れた消費者の買い控えも少なくない。恒大と同様に深刻な資金繰り難に陥っており、中国メディアは私募債の償還延長案を債権者に提案していると報じた。同社は30日に新株発行で2億7000万香港ドル(約50億円)の調達を発表した。ただそのまま未返済融資がある企業への返済に充当され、資金繰り改善にはほど遠い」

     

    外債の利息未払いが8月初めに起っている。9月頭に支払わなければデフォルトになる。この対応が注目される。

     

    (3)「同社が保有する開発用不動産(開発用地)は22年末で9122億元に上る。将来の住宅開発に向け、中国各地で仕入れた土地(使用権)や建設途中のマンションなどで、恒大(1兆859億元)に迫る水準だ。住宅価格が本格的に下落すれば評価減は避けられず、さらなる業績悪化につながりかねない。

     

    開発用地として、22年末で9122億元(約18兆2440億円)も保有している。恒大の開発用地(1兆859億元=約21兆7180億円)に匹敵する。消費者に未完成マンションを売却して得た資金で、こういう膨大な土地を仕入れ、地方政府の歳入を助けていたことになる。

     

    (4)「住宅と両輪だった教育事業も同様だ。中国政府は21年に「教育を資本の道具としない」(教育省幹部)として、私立学校に関する規制を強化。規制対応が求められ、博実楽教育の22年8月期は約7億元の最終赤字となった。28日には全国人民代表大会(全人代)常務委員会で学前教育法の草案の審議が始まった。教育関連企業による過度な利益追求を抑制し、企業の資産として幼稚園の株式上場は禁止する内容になる見通しだ。博実楽教育は中国内の幼稚園部門で既に68校の運営権を失い、残すは8行のみになったという。新法が成立すれば、更なる影響を免れない。強みだった住宅・学校の一体モデルは限界に達しており、生き残りの正念場を迎えている」

     

    碧桂園は、住宅と教育をワンセットにして成功したが、今やこの道が封じられることになった。こうなると、碧桂園は片方の羽をもぎ取られたも同然である。ただの不動産開発企業に戻るわけで再建は厳しくなろう。

     

     

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    中国は、国内の不満を逸らす口実に福島処理水問題を取り上げ非難している。だが、闇雲に反日論を拡大すると、若者の高失業率で不満を抱く層が、いつ政府批判に転じるか分らない危険性を秘めている。「手綱」をしっかりと握って、日本批判をするという複雑な一面をのぞかせている。 

    『毎日新聞』(8月29日付)は、「ネットに渦巻く中国『反日感情』、習近平指導部の思惑は 処理水放出」と題する記事を掲載した。 

    東京電力福島第1原発からの処理水の海洋放出について、中国国内で激しい反発が巻き起こっている。中国政府も強硬姿勢を続け、改善基調にあった両国関係にも悪影響を及ぼしている。なぜここまで事態が悪化しているのか。

     

    (1)「中国のネット交流サービス(SNS)では「日本鬼子(日本人の蔑称)を打ち倒せ!」といった書き込みが続く。日本に電話をかけて中国語で抗議する様子を撮影した動画も拡散している。「日本旅行をすべきではない」との否定的な投稿も少なくない。中国政府は「核汚染水の海洋放出を直ちにやめるべきだ」(外務省報道官)などと主張する」 

    SNSでは、過激な日本批判が飛び交っている。IAEA(国際原子力機関)の存在を全く無視した言動が、どれだけ中国の「知性の低さ」を証明しているか。それが分らないほどの騒ぎである。こういう國との交流が、いかに難しいかを実感させる。韓国左派と同類である。 

    (2)「中国国民の反発が激化する背景には、当局が情報をコントロールし、正しい情報が十分に伝わっていないことがある。国営メディアは「海と人類へのリスクは制御できない」などと繰り返し報道。SNSを通じて不安が増幅している。「心配する必要はない」などと冷静な対応を求めるネット上の書き込みは削除されており、当局が言論統制をしている模様だ。北京市石景山区の男性会社員(35)は取材に「海洋放出は全人類への脅威であり、あり得ない対応だ」と憤った」 

    中国当局は、自ら旗を振って反日騒動を引き起こしている。こういう相手を、いかに「屈服」させるかである。理屈の分らない相手にどう接するかだ。日本が魚類を加工して、輸出するという手段もある。中国では、この手の企業が多いというから、日本が先手をとることだ。

     

    (3)「現状では組織だった抗議活動にはつながっていないとみられる。SNS上では日本製品のボイコットが呼びかけられているが、ある日本の大手家電メーカー幹部は「大きな影響は出ていない」と明かした。北京市内の日本式ラーメン店の責任者によると、客足が少し鈍くなった程度だという」 

    いきりたっている相手だけに、日本も力んで立ち上がると騒ぎを大きくするだけで、中国の思う壺にはまる。静かに、相手の「急所」をつく戦略を考えることだ。 

    (4)「韓国など各国政府が海洋放出を容認する中で、なぜ中国政府は強く反対し続けるのか。中国でも「食の安全」への関心は高く、福島第1原発での事故後、日本産食品の輸入を厳しく規制してきた。習近平指導部には、国民の安全を守る姿勢をアピールし、求心力を高める意図があるとみられる。習指導部はこれまでも汚職取り締まりや環境対策など世論の関心が高い課題で「成果」を示すポピュリズム的な手法で政治基盤を固めてきた」 

    中国政府は、反日で得点を挙げようとしているのかも知れない。となると、いずれは鎮まることになるが、放出はこれから30年もつづく。その間ずっとこういう事態が起るとすれば、面倒な話になる。日本企業の対中投資を止めて、圧力をかけるのも一つの方法だ。これは、中国が音を挙げるはずだ。

     

    (5)「対米連携を強める日本への不信感も透ける。岸田文雄政権は半導体を巡る対中輸出規制で米国に同調。台湾への関与も強めている。中国は韓国など政治的に対立した国に事実上の経済制裁を課した前例がある」 

    もはや、日中友好など絵空事になった。「性の悪い」隣国という扱いになろう。 

    (6)「国内世論の過熱はもろ刃の剣だ。不動産不況や若者の高い失業率などへの不満は蓄積しており、デモが体制批判に飛び火する懸念もあるためだ。デモが激化して破壊行為などにつながれば国際的なイメージが悪化し、外国資本の撤退がさらに進んで景気低迷に追い打ちをかける恐れもある。沖縄県・尖閣諸島の国有化(2012年)の際は中国各地で反日デモが起き、一部が暴徒化して日系スーパーなどが破壊や略奪の被害に遭った」 

    中国は、建国以来の経済危機に直面している。その重大時期に、こういう振舞をやっている。中国指導部は賢明でない。国内の不満の刃が、指導部に向けられる危険性を秘めているのだ。

     

    (7)「中国紙『環球時報』は8月29日の社説で「我々が反対するのは東京電力や日本政府(の対応)だ。日本国民への『敵意』はない」と指摘。自国民に理性的な対応を促して事態をコントロールしようとする当局の意図が社説にも反映されたとみられる。過去の反日デモは歴史問題と絡むことで過熱した。9月は3日が抗日戦争勝利記念日、18日は満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた日と、国民の反日感情が高まりやすい節目が続く。習指導部がどのようなシグナルを打ち出すのか。中国国内の日本人社会は注視している」 

    中国は、ロシアに親近感をもって支援している國である。西側諸国と感覚が異なっている。これから、確実に衰退する國である。最後のあがきに見えるのだ。

     

     

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    中国市場は、完全に政府への信頼感を喪失している。政府が、景気対策の一環で住宅ローン引き下げを検討しているとの報道で、銀行株は8月30日の中国・香港両市場で下落した。住宅ローン金利引き下げで、銀行の収益性がさらに低下するとの懸念からだ。中国当局が債務危機で打撃を受けた不動産部門を再生させる目的で行うのだが、その効果を疑問視している結果だ。こうして、投資家は中国株への関心が極度に低下している。

     

    『ロイター』(8月30日付)は、「中国投資家が海外ファンドに殺到、枠不足のリスクも」と題する記事を掲載した。

     

    中国の個人投資家が海外資産の金融商品への投資を拡大している。国内株式市場の低迷、地政学的リスク、通貨人民元の下落などが背景で、投資先の分散にもつながる。

     

    (1)「数少ない海外投資ルートの一つである適格国内機関投資家(QDII)プログラムに基づいて発行された上場投資信託(ETF)や投資信託に資金が殺到しており、ファンドマネジャーはより多くの枠を求めて奔走している。アナリストによると、QDII商品に投資している人々は、もはや香港株で満足せず、米国や日本、さらにはベトナムやインドなどの新興市場に投資するファンドを求めている。モーニングスターのデータによれば、今年設定されたQDIIファンドは17日までに38本と、2022年の31本を上回り過去最高となった」

     

    中国人投資家は、海外投資のルートとして上場投資信託(ETF)や投資信託を購入している。その増加ぶりが目立っている。米国や日本、さらにはベトナムやインドなどの新興市場の投資ファンドが人気を集めている。

     

    (2)「ファンドコンサルタント会社Z-Benアドバイザーズの調査部門責任者アイバン・シー氏は「昨年末から米国株への需要が見られ、リターンが大きいことから今年は需要がさらに高まっている」と話した。ナスダック関連のETFが特に人気という。約1655億ドルのQDII枠はほぼいっぱいだが、投資家が国内株式や不動産に代わる投資先を求めているため、需要はまだあるとファンドマネジャーは指摘している。資産運用会社からは国家外為管理局(SAFE)がQDII枠の追加が遅いとの声が聞かれる」

     

    中国投資家は、国内株式や不動産に代わる投資先を求めている。本来なら、中国国内に止まる投資資金が自国経済への不安で海外投資へ向っている。

     

    (3)「アント・フィナンシャル傘下の天弘基金は今年上半期に、米ナスダック100指数、海外主要製造業株、海外電気(EV)自動車株に投資する3本のQDII商品を設定した。新商品を計画しており、7月に1億2000万ドルのQDII枠を新たに獲得したが、希望したより少なかった。同社の国際事業責任者リュウ・ドンは、「多くの資産運用会社はオフショア投資枠が足りないと感じており、もっと増やしたいと考えている」と語った。

     

    当局が、許可する投資枠は、1本で1億2000万ドル(約174億円)程度である。これでは、すぐに販売枠は埋まるであろう。

     

    (4)「スタンダード・チャータード銀行の中国マクロ戦略責任者ベッキー・リュー氏はQDII枠の認可ペースが遅くなっていると指摘し、人民元を安定させるために規制当局が海外投資を抑制するかもしれないと述べた。資本流出が歴史的な高水準に達する可能性があるとした上で、15年の人民元安に伴い主にグレーな取引で大規模に資金が流出した状況とは異なると指摘。「今回の資金流出は合法的なルートが中心だ。外国資本が中国株を売却しているのではなく、中国人投資家による対外投資だ」と語った」

     

    中国当局は、国内経済の動きを見なければならないので、需要があるからと行って海外新規ファンドを早々に認可もできないであろう。

     

    (5)「中国証券投資基金業協会(AMAC)のデータによると、QDII投資信託の規模は7月末までに初めて4000億元(548億5000万ドル)を超えた。7月時点で255本の投資信託が設定されていた。最大級のQDII・ETFである「Guangfa NASDAQ100 ETF」の運用資産は上半期に48%急増し170億元となった。一部のファンドは規模を管理するために募集を停止せざるを得なかったという」

     

    最大級のファンドでは、米国ナスダックが1本で3400億円にもなった。中国投資家が、ナスダックをこれだけ評価していることが分る。中国とは、雲泥の差を感じ取っているに違いない。

     

    (6)「JPモルガン・アセット・マネジメントは海外ファンドへの関心が高まっていると指摘。日本に特化した株式ファンドが今年上半期に3倍以上になったことを受け、9月に新しいナスダック100QDIIファンドを立ち上げると明かした。JPモルガン・アセット・マネジメント・チャイナのデジリー・ワン最高経営責任者(CEO)は「国内投資家の分散投資需要により海外ファンドへの関心は今後も続くだろう」と述べた」

     

    日本に特化した株式ファンドが、今年上半期に好成績をあげている。これが、海外投資への刺激剤になっている。

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