勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    2023年10月

    サンシュコ
       

    中国経済の孤立が目立ってきた。海外から中国への対内直接投資が急減しているからだ。46月期が67億ドル(約1兆50億円)で、四半期として2000年以降で最低となり、1~3月期の210億ドル(約3兆1500億円)から大幅な減少である。

     

    こうした事態の悪化を受けて、中国はテック企業のIPO(上場)条件を厳しくしており、テック企業の育成目的である「科創板」の意義が問われる事態になっている。

     

    『フィナンシャル・タイム』(10月30日付)は、「中国でテック企業のIPO急減、基準厳格化でハードル高く」と題する記事を掲載した。

     

    中国で上海証券取引所のハイテク新興企業向け市場「科創板」への上場を断念した企業の数が過去最多に達した。技術の自国開発を進める中国政府の取り組みに貢献できる国内優良企業を選別するため、規制当局が新規株式公開(IPO)のハードルを引き上げたためだ。

    公的機関の情報によると、2023年に入ってからこれまでに126社が科創板へのIPO申請を撤回または中断した。それまでの4年間の合計を上回る数だ。

     

    (1)「企業は今、IPOが承認される前に利益を出すだけでなく、自社の技術が業界トップを超えないまでも同等で、そのビジネスモデルが持続可能であることを数百ページの文書で説明しなければならない。科創板はもともとリスクの高い企業が資本市場を利用できるようにする目的で創設されたにもかかわらず、基準の厳格化で同市場への上場は多くの新興企業にとって不可能になった。当局は厳しく精査することで優良企業へ資源を回せるようになると期待しているが、アナリストは高い可能性を秘めた新興企業から資金調達の機会を奪うことでイノベーションを弱める結果になりかねないと指摘する」

     

    テック企業は、科創板へのIPO条件が厳しくなったことで、資金調達の道が塞がれるという事態を招いている。

     

    (2)「調査会社オリエント・キャピタル・リサーチの香港拠点マネジング・ディレクター、アンドリュー・コリアー氏は「中国政府は基本的に『成功が保証されていない企業には国の力を貸さない』と言っている」と語る。「成功するには政治色が強すぎる政策だ」と同氏は言う。

    香港大学の陳志武教授(金融学)は「どのハイテク企業を上場させるべきかを規制当局に決めさせることは、最も優れた月面着陸技術を8歳の子どもに決めてもらうようなものだ」とし、「絶対に成功しない」と断言する。科創板が19年に立ち上げられた時点では、企業は売上高や利益がなくてもIPOを申請でき、少なくとも40億元(約820億円)の市場価値と「市場での大きな潜在力と技術的な強さ」を持つ商品があればよかった。しかし、公的な情報によると、利益がゼロで売上高が1000万元未満の企業は今年1社しか科創板に上場しておらず、22年の8社から減った」

     

    中国政府は、基本的に「成功が保証されていない企業には国の力を貸さない」している。だが、政府がテック企業の将来性を決めることは不可能である。市場の判断に任せるほかないのだ。中国経済には、その余力がなくなったのだ。

     

    (3)「公式な記録によると、IPO申請企業のほぼ3分の2が今年19月期に承認を得ることができず、22年の4分の1未満から増加している。今年は申請撤回が相次いで科創板のIPOのペースが大幅に鈍った。市場の開設以来、科創板はおおむね中国本土の年間上場件数の3分の1以上を占めてきた。調査会社ディールロジックによると、このシェアが過去10カ月間で29%に低下し、昨年は通年で上場件数がほぼ120件に上ったのに対し、この期間のIPOは60件にとどまった」

     

    科創板へのIPOは、大幅に減っている。IPO申請しても、当局の厳重審査で3分の2がふるい落とされているからだ。

     

    (4)「市場のさえない状況も新興企業の上場に対する統制強化の一因になっている。科創板の50銘柄で構成する「上証科創板50成分指数」が4月の高値から25%以上下落したため、証監会は8月、新規銘柄の供給と需要が「ダイナミックな均衡」を達成できるよう「一時的に」IPOの承認を厳格化する計画を発表した。政策を全面的に見直すより重要な引き金になったのは、多くの新興企業がIPO後に業績不振に陥り、テクノロジー株の比重が高い科創板が新たな勝ち組企業の創出に貢献できるかどうか懸念されるようになったことだ

     

    多くの新興企業が、科創板IPO後に業績不振に陥っていることもIPO審査を厳しくしている背景である。研究成果が、業績に結びつかないのだ。

     

     

    a1180_012903_m
       

    中国は、過去の野放図な地方政府によるインフラ投資によって、財政は軒並み大赤字に落ち込んでいる。中央政府直轄都市(北京・上海・重慶・天津)のうち、重慶市と天津市は大赤いに陥り「禁治産者」扱いという深刻な事態になっている。このことからも分るように、「二線級都市」以下の経済は青息吐息の状態である。不動産の差し押さえが急増している。

     

    『ブルームバーグ』(10月30日付)は、「中国の不動産差し押さえ件数19月は前年比32%増―民間調査」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の民間不動産調査大手、中国指数研究院によると、国内の不動産差し押さえは19月に58万4000件と、前年同期比32.3%増加した。不動産市場が低迷し、景気回復が不安定な中、住宅所有者は負債に苦しんでいる。調査結果は28日に発表された。住宅の差し押さえは2022年19月の20万6000件から28万4000件に増加した。差し押さえ件数の多い都市は四川省に集中しており、前年同期比2万7585件増の7万件以上となった」

     

    住宅の差し押さえは、住宅ローンが支払えなくなったケースである。1~9月は、前年比で32.3%もの増加だ。中でも、四川省での差し押さえが多いのは、四川省の不動産開発が不振を極めており、過去のバブルで購入した住宅を持ちこたえられなくなった結果であろう。不動産バブル崩壊の影響が、四川省で顕著に出ているのだ。これでは、住宅ローン金利の引き下げがあっても簡単に住宅を購入できる環境にないことが分る。

     

    『Forbes Japan』(10月30日付)は、「中国の不動産問題 住宅にとどまらず オフィス空室率が上昇」と題する記事を掲載した。

     

    中国の商業用不動産は、住宅用と同じく危険な方向に進んでいるようだ。不動産開発大手の中国恒大集団(エバーグランデ)と碧桂園(カントリーガーデン)の経営危機が大きく取り上げられている中、商業スペース、特にオフィスビルの不振が明るみに出ている。空室率は上昇し、賃料は下落。この問題はさらに悪化する可能性が高く、経済を成長路線に戻そうとする中国政府の取り組みを妨げる新たな要素となっている。

     

    (2)「中国政府は、住宅開発のようにオフィスビルの建設を大々的に促進していない。商業用不動産の問題は、住宅用に見られるような建設のし過ぎから生じているわけではない。だが、それでも問題はある。過剰な建設と債務の代わりに、商業用不動産は新型コロナウイルス流行によるロックダウン(都市封鎖)と隔離措置の影響に悩まされ続けている。中国経済の全体的な減速に対応するための人員削減がオフィス需要を著しく減少させた」

     

    IT関連企業は、政府の規制によって業務を縮小しているので従業員の解雇を進めている。こうして、オフィス需要が減っている

     

    (3)「英不動産サービスのサヴィルズの定期レポートだ。同社は、中国の主要都市(北京、上海、広州、深セン)におけるグレードAのオフィスの評価を提供している。同社の直近のデータによると、46月期にはオフィスの空室率が軒並み上昇。深センの空室率は4.1ポイント上昇し27%となった。広州では5.9ポイント増の20.8%で、北京と上海はこの中間だった。また、米不動産サービスCBREが発表した18都市をカバーするデータでは、平均空室率は24%となっている。空室率の上昇に伴い、賃料は下落している。サヴィルズによると、北京のグレードAのオフィスの46月期の賃料は前年同期を7.4%下回っている。上海、広州、深センの賃料も同様に下落した」

     

    北京、上海、広州、深センは、中国を代表する「一線都市」である。これら都市で空室率が高まり20%台に上昇していることは、需要の落込みの大きいことを示している。

     

    (4)「オフィスの空室率の上昇は、すでに不安定な中国の金融システムをさらに弱体化させ、すでに問題が山積しているところにさらに経済問題を加えることは間違いない。少なくともこれらの問題は、政府が懸命に活性化させようとしている民間投資支出の流れを抑制することになるだろう。商業用不動産の問題は最後の決定的な一撃とはならないかもしれないが、最近の動向は全く良いものではない」

     

    商業用不動産で空室率が高まることは、新規の建設需要を抑制することになる。ただ、中国はこれまで多くの高層ビルを建設してきたから、過去のペースからみれば大幅なトーンダウンは当然であろう。建設不況が起こっても不思議はない。

    a0001_001078_m
       


    韓国は、政府による家計債務免除という「徳政令」がある。家計が、支払い能力以上に借入れして破綻をまねく有力な背景である。徳政令は、自己責任を曖昧にさせ、債務への警戒心を緩めさせる。支払い不能という最悪事態に陥っても、政府が尻拭いをしてくれるからだ。韓国政治が、いかにオポチュニズム(大衆迎合主義)であるかを示す好例である。韓国が、宗族社会の殻から抜け出さない証拠でもあろう。未だ、金銭面で自己責任という近代社会意識になっていないのだ。この延長で、ウォンの通貨危機時に日本支援を当然視する「甘え」を生んでいる。 

    『東亜日報』(10月30日付)は、「パンデミック中に支給したコロナ支援金8000億ウォン 政府与党が『返還免除』へ」 

    政府与党は、コロナウィルス感染症のパンデミック期間に小規模自営業者に支給していた災害支援金8000億(約880億円)ウォン余りを返してもらえないことにした。

    (1)「与党「国民の力」と内閣、大統領室は29日、ソウル鍾路区三清洞(チョンノグ・サムチョンドン)の首相公館で政府与党間協議会を開き、このような内容に同意した。与党の朴正河(パク・ジョンハ)首席報道担当は同日の記者ブリーフィングで、「約57万の小規模自営業者に支給された8000億ウォン余りに上る返還金の負担が免除されるものと期待される」とし、「当時、売上情報がなかった状況下で緊急支援が行われ、政府省庁や小規模自営業者の帰責理由がなかった点などを考慮した」と明らかにした。対象は2020年9月から2021年12月にかけて優先的に支援した第1次、第2次小規模自営業者向け災害支援金(1人当たり最大200万ウォン)だ」
     

    小規模自営業者約57万人へ約880億円の貸付を返済免除する。一人当たり平均では、15万4000円である。韓国の自営業者比率は、全雇用者で23%(2022年)も占めている。工業国では最大の比率である。韓国産業構造の脆弱性と当時に、労働市場の硬直性を表す「韓国病」だ。 

    自営業者にもなれない大卒者以上の人たちは、アルバイトで暮らしを立てている。今年8月までの大卒以上学歴の短時間就労者は、1年前より7万9000人増えて115万6000人である。関連の統計を取り始めた2003年以降、最も多い人数に膨れ上がっている。正規の勤務が不可能という韓国の経済構造は、このように歪みきっている。政治の貧困を垣間見せているのでもある。

    (2)「与党は返還免除のための「小規模自営業者支援法」の改正案を、27日に発議した。朴氏は、「野党は小規模自営業者者のための民生に協力する意思があるならば、早急に処理して法的問題を解決しよう」と話した。最大野党「共に民主党」は、「予算審査または法案改正が必要なら、政府与党は具体的な案を迅速に提示してほしい。民主党は積極的に協力する準備ができている」と明らかにした」 

    ポピュリズムの話になると、最大野党「共に民主党」は普段の争いを棚上げして、与党案に賛成する。膨大な自営業者と高学歴者アルバイトを生んでいる背景に、労組の固執する「終身雇用制と年功賃金制」がある。これが、労働市場の流動化を阻害している。この原因を取り除かないかぎり、零細な自営業者やアルバイトは減らない。 

    (3)「政府与党は、金利高の長期化に対応するため、「金融会社の独自の債務調整の活性化」「延滞利息制限」「取り立て負担軽減」などの内容を盛り込んだ個人債務者保護法を立法化することにした。また、特例ポグムジャリローンの支援余力を庶民・低価格住宅などに集中し、当初の支援目標である39兆6000億ウォン(約4兆4000億円)を越えても支援する案を積極的に推進することにした」
    政府与党は、さらに踏み込んで幅広く「金融弱者」の救済に乗り出すという。総額は、約4兆4000億円にも上がるから大規模だ。韓国経済のアキレス腱は、家計債務にある。韓国社会には、返済を考えないで借入れる金融的なルーズさが瀰漫している。

     

    『中央日報』(10月30日付)は、「『通貨危機の数十倍』大統領秘書室長の遅れた家計負債警告」と題する社説を掲載した。 

    金大棋(キム・デギ)大統領秘書室長がきのう「家計負債危機が発生すれば1997年に経験した通貨危機の数十倍の威力になるだろう」という警告を出した。「過去の政権で流行したなりふり構わない借入や投資のスタイルは本当に危険だ」ともした。

    (4)「韓国の家計負債は爆発直前だ。国際通貨基金(IMF)によると、昨年末の韓国の家計負債は国内総生産(GDP)比108.1%でスイスの130.6%に次いで世界2位だ。絶対水準も高いが、増加速度が恐ろしい。IMFがデータを集計する26カ国のうち韓国の最近5年間の家計負債増加速度が最も速かった。若い層のなりふり構わない借入と、その借入で投資する熱気は尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権でも冷めずにいる。4-6月期の30代以下の1人当たり家計貸付しは約7900万ウォンで、2019年4-6月期より27%増えた。高金利の下で青年たちの悲鳴も高まっている。20~30代の多重債務者、低信用者、低所得者の負債延滞率は8.41%に達する」 

    30代以下の1人当たり家計債務は、4~6月期で約7900万ウォン(約869万円)になり、4年前の同期比で27%もの急増である。この間に、貸付金利は大幅に上昇していることから、返済負担は一層重くなっているはずだ。これは、潜在的なデフォルトを生み出す危険な兆候である。韓国では、30代以下でもこういうルーズな「金銭感覚」である。改めて、これに驚かされるのだ。

    テイカカズラ
       


    香港の高等法院(高裁)は10月30日、経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団に対する清算申し立てについての審理を開いた。陳静芬裁判官は、12月4日までに具体的なリストラ案を提出できなければ、法的整理手続きの開始を決めると表明した。

     

    『ブルームバーグ』(10月30日付)は、「中国恒大の清算申し立て『審理』12月4日に変更、『最後』の延期」と題する記事を掲載した。

     

    不動産開発会社として世界最大の債務を抱える中国恒大集団に対する清算申し立てを巡る審理が12月4日に延期された。同社は、中国最大の再編計画を軌道に戻す最後のチャンスを得た。

     

    (1)「審理は香港高等法院で30日に行われる予定だったが、リンダ・チャン判事が延期を決めた。昨年始まった関連手続きは遅延が続き、同判事は「これが本当に最後の延期だ」と述べ、恒大は次の審理までに具体的な再編案をまとめる必要があり、そうでなければ裁判所が清算命令を出す「可能性が非常に高い」と説明した。恒大は9月下旬、土壇場で債権者集会を中止し、自社の再編計画を見直す必要があると発表。清算リスクが高まっていた。同社は約2兆3900億元(約49兆円)の負債を抱えている」

     

    中国恒大は、事実上の「倒産」状態へ追込まれている、経営トップは、当局の監視下に置かれている。住宅販売状況は相変わらずの低迷状態であり、「現金回収」は不可能な事態になっている。香港高等法院の判事が、清算申し立て審査をめぐる遅延は「12月4日を最後にする」と宣言したことで、決着がつけられる。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月30日付)は、「中国恒大、法的整理へ1カ月猶予 香港高裁」と題する記事を掲載した。

     

    香港の高等法院(高裁)は30日、経営再建中の中国不動産大手、中国恒大集団に対する清算申し立てについての審理を開いた。陳静芬裁判官は124日までに具体的なリストラ案を提出できなければ、法的整理手続きの開始を決めると表明した。約1カ月の猶予を与えた格好だが、債務再編が進展するか不透明感もある。

     

    (2)「2022年に債権者が清算を申し立てていた。香港の清算手続きは実質的には法的整理にあたる。まずは裁判所が選任する管財人のもとで債権者と協議しながら債務を整理することになる。難航すれば解散につながる可能性もある。陳氏は30日の審理で、結論を引き延ばすのは「これが最後だ」と明言した。恒大側に対して12月4日の次回期日までに具体的なリストラ案を提出するよう求め、できなければ同日に手続きの開始を決めると述べた。もっとも同社の本社や資産の大部分は中国本土にあり、資産処分などで香港の裁判所側の権限がどこまで及ぶかは不透明だ。債務再編が進展するかは中国政府の意向次第となりそうだ」

     

    香港高裁で清算手続きが決定すれば、実質的には法的整理になる。その最後の法的手続が遅れているというものだ。もはや、倒産に向けての動きは止まらないイメージになってきた。

     

    (3)「恒大は21年に資金繰りが行き詰まり、猶予期限内に米ドル債の利息を支払えず債務不履行(デフォルト)に陥った。政府が経営への全面的な関与を打ち出したことで金融危機など深刻な事態は回避したが、中国の不動産不況が深まるなかで債務再編は難航していた。恒大は6月末時点で6442億元(約13兆円)の債務超過で、負債総額は2兆3882億元にのぼる。有利子負債は6247億元で、そのうち26%を米ドルや香港ドルなど外貨建てが占める。再建に向け債務再編が不可欠となっていた」

     

    恒大は、6月末時点で約13兆円の債務超過である。企業倒産としては、想像を超えた規模になっている。それだけに、関係する先は多方面に及び、中国経済へ大きな影響が出るのは不可避である。中国政府も、それを覚悟しての対応であろう。銀行への影響は必至であり、金融システムへの動揺が懸念される。

    115
       


    韓国のEV(電気自動車)販売が減少し、代わってHV(ハイブリッド車)が人気を集めており、「納車待ち」状態になっている。この傾向は、欧米でも定着している。世界的に、EVの小休止とHV見直しブームが始まっている。EVは、リチウムイオン電池を動力とするが、火災発生・長い給電時間・短い走行距離という難点を抱えている。この問題の解決には、全固体電池の実用化を待つほかない。 

    こうした一連の動きは、トヨタが予測したとおりとなった。トヨタは、リチウムイオン電池の限界と全固体電池の優秀性を主張し、商品戦略もこれに従ってきた。HVを初めて世界へ送りだしたトヨタが、全固体電池でも27年から先陣を切って、本格的なEV時代を切り開く。日本にとっては、心強い動きとなろう。

     

    『中央日報』(10月30日付)は、「売れ行き振るわない電気自動車、納車まで1年待ちのハイブリッドカー」と題する記事を掲載した。 

    (1)「韓国の電気自動車市場がマイナス成長に転じた。1~9月に韓国で販売された電気自動車は11万5007台で前年同期の11万7235台と比較して2228台減った。電気自動車発売が続いた2021年以降で韓国の電気自動車販売台数がマイナスに転じたのは今年7-9月期が初めてだ。韓国の電気自動車販売台数は5月の1万1648台から昨年の販売台数を超えることができず鈍化し始めた」 

    韓国のEV販売は、1~9月で初めて前年同期比1.9%減になった。すでに、5月から前年比で減少が始まっていた。
    (2)「電気自動車の穴はハイブリッドが埋めた。1-9月に韓国で売れたハイブリッドカーは26万1309台で前年同期の19万356台と比較すると37.3%増加した。ハイブリッド人気は出庫待ち期間にも現れる。ヒョンデの10月の納期表によると、「アバンテ・ハイブリッド」は12カ月以上待たなくては納車されない。「サンタフェ・ハイブリッド」は納車待ちが10カ月、「ソナタ・ハイブリッド」は7カ月以上必要という。これに対し電気自動車の大部分は納車待ちが1カ月前後と短い。「アイオニック5」は新車出庫まで4週間、と「アイオニック6」は3週間待てば良い。ジェネシスの電動化モデル「G80」は出庫待ち期間が1カ月にすぎない」 

    HVの1~9月販売台数は、前年同期比で37.3%増と勢いがついている。ヒョンデの10月の納期表によると、「アバンテ・ハイブリッド」は12カ月以上待たなくては納車されないほどの人気が出ている。

     

    (3)「ハイブリッドの好調は世界市場でも明確だ。エコカー政策が強力な欧州市場が代表的だ。欧州では電気自動車成長は急だが絶対的な販売台数ではハイブリッドが電気自動車を大きく上回る。欧州自動車工業協会(ACEA)によると、1-9月の欧州のハイブリッドカー販売台数は199万8921台だ。ここにプラグインハイブリッドカーの販売台数59万7376台を加えると欧州だけで259万6297台のハイブリッドカーが売れた」 

    欧州でもHV人気が定着して、EVを上回っている。 

    (4)「れに対し、1-9月の欧州の電気自動車販売台数は111万2192台でハイブリッド モデルの半分に満たなかった。勢いに乗るハイブリッドカーはガソリン車にまで追いつきそうだ。1-9月に欧州で売れたガソリン車は287万8365台だったが欧州のハイブリッドカーの年間成長率が28%水準であることを考慮すれば今後1~2年間でガソリン車の販売台数を超えるものとみられる。サムスン証券のイム・ウニョン氏は「電気自動車需要が振るわないという認識が拡散しハイブリッドカーに対する関心が急増している。ハイブリッドに対する消費者の関心は米国と韓国市場で高いとみられる」と話した」 

    欧州のEV販売は、1~9月でHVの半分にも満たない状態である。HVが、ガソリン車を上回る勢いである。かつて、欧州でのHV販売は苦境に陥っていたが、見事に勢いを取り戻している。

     

    (5)「ハイブリッドカーが善戦し市場を先導する日本の自動車メーカーの株価は上がっている。2月に1800円水準にとどまっていたトヨタの株価は9月には2800円を超えた。トヨタ自動車の豊田章男会長は25日にジャパンモビリティショーで記者らと会い、人々がようやく電気自動車の現実を見ているとして最近の電気自動車沈滞に対する意見を表明した。彼は普段から「電気自動車が炭素排出量を減らす唯一の方法ではない。ハイブリッドカーを大量に販売すれば短期的な効果を出すことができ、こうした選択肢を制約してはならない」と話した」 

    トヨタの豊田会長が社長を辞任した理由は、EV出遅れが問題化されたことである。豊田氏は、リチウムイオン電池の欠陥を指摘し、全固体電池こそ本命であり、それまでの繋ぎはHVの役割という信念を持って経営に当たってきた。これが、世界の環境運動家から敵視され、「豊田辞任」運動まで起こされていた。それだけに、豊田氏はHV復活と全固体電池実用化へメドをつけて一矢報いた気持ちであろう。世の中の動きは、ここ半年でガラリと変わったのだ。

    このページのトップヘ