中国経済の孤立が目立ってきた。海外から中国への対内直接投資が急減しているからだ。4~6月期が67億ドル(約1兆50億円)で、四半期として2000年以降で最低となり、1~3月期の210億ドル(約3兆1500億円)から大幅な減少である。
こうした事態の悪化を受けて、中国はテック企業のIPO(上場)条件を厳しくしており、テック企業の育成目的である「科創板」の意義が問われる事態になっている。
『フィナンシャル・タイム』(10月30日付)は、「中国でテック企業のIPO急減、基準厳格化でハードル高く」と題する記事を掲載した。
中国で上海証券取引所のハイテク新興企業向け市場「科創板」への上場を断念した企業の数が過去最多に達した。技術の自国開発を進める中国政府の取り組みに貢献できる国内優良企業を選別するため、規制当局が新規株式公開(IPO)のハードルを引き上げたためだ。
公的機関の情報によると、2023年に入ってからこれまでに126社が科創板へのIPO申請を撤回または中断した。それまでの4年間の合計を上回る数だ。
(1)「企業は今、IPOが承認される前に利益を出すだけでなく、自社の技術が業界トップを超えないまでも同等で、そのビジネスモデルが持続可能であることを数百ページの文書で説明しなければならない。科創板はもともとリスクの高い企業が資本市場を利用できるようにする目的で創設されたにもかかわらず、基準の厳格化で同市場への上場は多くの新興企業にとって不可能になった。当局は厳しく精査することで優良企業へ資源を回せるようになると期待しているが、アナリストは高い可能性を秘めた新興企業から資金調達の機会を奪うことでイノベーションを弱める結果になりかねないと指摘する」
テック企業は、科創板へのIPO条件が厳しくなったことで、資金調達の道が塞がれるという事態を招いている。
(2)「調査会社オリエント・キャピタル・リサーチの香港拠点マネジング・ディレクター、アンドリュー・コリアー氏は「中国政府は基本的に『成功が保証されていない企業には国の力を貸さない』と言っている」と語る。「成功するには政治色が強すぎる政策だ」と同氏は言う。
香港大学の陳志武教授(金融学)は「どのハイテク企業を上場させるべきかを規制当局に決めさせることは、最も優れた月面着陸技術を8歳の子どもに決めてもらうようなものだ」とし、「絶対に成功しない」と断言する。科創板が19年に立ち上げられた時点では、企業は売上高や利益がなくてもIPOを申請でき、少なくとも40億元(約820億円)の市場価値と「市場での大きな潜在力と技術的な強さ」を持つ商品があればよかった。しかし、公的な情報によると、利益がゼロで売上高が1000万元未満の企業は今年1社しか科創板に上場しておらず、22年の8社から減った」
中国政府は、基本的に「成功が保証されていない企業には国の力を貸さない」している。だが、政府がテック企業の将来性を決めることは不可能である。市場の判断に任せるほかないのだ。中国経済には、その余力がなくなったのだ。
(3)「公式な記録によると、IPO申請企業のほぼ3分の2が今年1〜9月期に承認を得ることができず、22年の4分の1未満から増加している。今年は申請撤回が相次いで科創板のIPOのペースが大幅に鈍った。市場の開設以来、科創板はおおむね中国本土の年間上場件数の3分の1以上を占めてきた。調査会社ディールロジックによると、このシェアが過去10カ月間で29%に低下し、昨年は通年で上場件数がほぼ120件に上ったのに対し、この期間のIPOは60件にとどまった」
科創板へのIPOは、大幅に減っている。IPO申請しても、当局の厳重審査で3分の2がふるい落とされているからだ。
(4)「市場のさえない状況も新興企業の上場に対する統制強化の一因になっている。科創板の50銘柄で構成する「上証科創板50成分指数」が4月の高値から25%以上下落したため、証監会は8月、新規銘柄の供給と需要が「ダイナミックな均衡」を達成できるよう「一時的に」IPOの承認を厳格化する計画を発表した。政策を全面的に見直すより重要な引き金になったのは、多くの新興企業がIPO後に業績不振に陥り、テクノロジー株の比重が高い科創板が新たな勝ち組企業の創出に貢献できるかどうか懸念されるようになったことだ」
多くの新興企業が、科創板IPO後に業績不振に陥っていることもIPO審査を厳しくしている背景である。研究成果が、業績に結びつかないのだ。